説明

固形石けん組成物の製造方法及び固形石けん組成物

【課題】成形後も割れたり崩れたりしにくく、固形石けん組成物の製品の包装を解いて使用しても、潮解による石けん全体の軟質化も起こりにくく、使用量に応じて相応に長く使用することができる固形石けん組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】所要の含水率まで乾燥させた粉状の石けんと、所要の含水率まで乾燥させた粉状の塩を所要の配合比率で混合して塩が全体に均一に分散した混合物を得、前記混合物(10)を成形型(41,44,46)に入れ、成形型(41,44,46)内部を真空にした後に混合物(10)を所要の圧力で加圧して固形石けん組成物を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形石けん組成物の製造方法及び固形石けん組成物に係り、更に詳しくは、粉状の石けん(以下、単に「石けん」という場合がある。)に、粉状物、例えば粉状の塩(以下、単に「塩」という場合がある。)を混入して混合し、この混合物を加圧成形することにより、粉状の石けん自身がバインダーとなって混入物と一体化する固形石けん組成物の製造方法及び固形石けん組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩を皮膚に擦り付けることにより、皮膚を殺菌したり強くして新陳代謝を高める健康法や痩身法は、従来より広く知られている。これら健康法や痩身法を手軽に行うための手段として、例えば特許文献1に記載された「塩入り石ケン」がある。
この「塩入り石ケン」は、超小粒の塩と石ケンを混ぜ合わせ、塩を石ケンの中に均一に混入させたことを特徴とし、よごれを落とすと共に、塩マッサージ、殺菌あるいは肌をきれいにするという目的で使用できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7−43868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された「塩入り石ケン」には、次のような課題があった。まず、特許文献1には、塩入り石ケンの製造方法については記載されていない。
例えば一般的な石けんの製造工程において、油脂と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を混合する際に所要量の塩を入れるとすると、鹸化するときに固まらなくなる。つまり、塩を配合し、塩を石ケンの中に均一に混入させた固形状の石けんは、一般的な方法では製造することが困難であった。
【0005】
本発明者は、塩を石ケンの中に均一に混入させた固形状の石けんを製造するために研究を重ね、油脂と水酸化ナトリウムを混合して一旦鹸化させた後、できた固形状の石けんを粉砕して粉状にし、粉状の塩と混合する方法に着目し、試行や実験を繰り返した。
しかし、単に混合して形を整えただけでは、石けんと塩とが固結せず、少しの力で崩壊し形状を維持できないことがわかった。
【0006】
本発明者は、更に研究を重ね、粉状の石けん自身をバインダーとすることに着目し、粉状の石けんと粉状の塩とを加圧成形して一体化させれば前記課題が解決し、しかも塩の配合比率を高めることも可能であることに着目し、固形状の石けんの製造を試みたところ、成形型に石けんが付着し、成形型から取り出す際に、石けんが割れたり、双方の成形型に付着した状態で分離したりして、製品の歩留まりに課題があることが分かった。
【0007】
その原因を究明したところ、成形型内に、具体的には粉状の石けんと粉状の塩との間の空間に満たされている空気が、粉状の石けんと粉状の塩との一体化を妨げる原因であることが判明し、成形型内を通常の大気圧より低い圧力の気体で満たす真空状態にすれば前記課題が解決できることを知見した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
(本発明の目的)
そこで、本発明の目的は、粉状の石けんに、粉状物、例えば粉状の塩を混入して混合し、この混合物を加圧成形して粉状の石けんと粉状の混入物とを一体化させる、固形石けん組成物の製造方法及び固形石けん組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、
粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物を成形型内で加圧成形する際に、成形型内の空気を抜いて真空にした後に前記混合物を加圧成形する、
固形石けん組成物の製造方法である。
【0010】
本発明は、
所要の含水率まで乾燥させた粉状の石けんと、所要の含水率まで乾燥させた粉状の塩を所要の配合比率で混合し、前記石けんに前記塩が均一に分散した混合物を成形型の中に入れ、成形型内の空気を抜いて真空にした後に当該混合物を所要の圧力で加圧して成形する、
固形石けん組成物の製造方法である。
【0011】
本発明は、
塩の粒径が、0.25mm以下である、
前記固形石けん組成物の製造方法である。
【0012】
本発明は、
塩の含水率が4%以下である、
前記固形石けん組成物の製造方法である。
【0013】
本発明は、
石けんの含水率が4〜8%である、
前記固形石けん組成物の製造方法である。
【0014】
本発明は、
加圧の圧力が2〜3t/cm2である、
前記固形石けん組成物の製造方法である。
【0015】
本発明は、
前記何れかの製造方法によって製造された固形石けん組成物であって、塩の配合比率が5〜40重量%である、
固形石けん組成物である。
【0016】
石けんの原料としては、例えばオリーブオイルやパームオイル等の植物性または牛脂等の動物性の天然油脂が使用される。
使用する塩は、海塩、岩塩または精製した食塩あるいはこれらを焼いた焼き塩等であるが、これらに限定はされない。
なお、粉状の石けんと粉状の塩の配合比率は、特に限定するものではなく、使用目的に応じて適宜設定することができる。
【0017】
粉状の石けんの粒径は、特に限定せず、やや大粒であっても良いが、2mm以下が推奨される。
また、原料となる石けんの含水率は、4〜8%が推奨される。含水率が4%に満たないと、水分が足りないため加圧しても固まりにくくなり、含水率が8%を超えると、塩が水分を取り込むことによる潮解が起こりやすくなる傾向がある。
【0018】
粉状の塩の粒径は、0.25mm以下が推奨される。塩の粒径が0.25mmより大きいと、塩の粒子の一部が固形石けんの表面から突き出た状態で露出するので水分を吸収し易くなり、潮解が起こりやすくなる傾向がある。
また、原料となる塩の含水率は、4%以下が推奨される。含水率が4%を超えると、潮解が起こりやすくなる傾向がある。
【0019】
成形型内の空気を抜いて真空にする圧力は、例えば−740〜−760ヘクトパスカル(hPa)が推奨されるが、これに限定されるものではない。
また、混合物を加圧する圧力は、2〜3t/cm2が推奨される。圧力が2t/cm2に満たないと、粉状の石けんと粉状の混入物である塩とが一体化しにくく、硬さが不足し、できあがった固形石けんが手で析れる程度の硬さにしかならない。また、圧力が3t/cm2を超えると、石けんが硬くなりすぎて、使用感が悪くなり、泡立ちも悪くなる傾向がある。
【0020】
(作用)
本発明に係る製造方法によれば、粉状の石けん自身がバインダーとなって粉状の石けんと粉状の混入物である塩とを加圧成形して一体化した固形石けん組成物が得られる。
また、例えば、粉状の塩の代わりに、又は粉状の塩と共に粉状の温泉泥を加圧成形して
一体化した固形石けん組成物が得られる。
【0021】
本発明に係る製造方法によれば、粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物を成形型内の空気を抜いた後に加圧して成形するので、混合物の一体化を妨げる空気が除かれ、成形された固形石けん組成物は硬く締まっており、表面も固められており、型抜きをする際に成形型に多少くっついたとしても、固形石けん組成物自体は容易には割れたり分離することはなく、型抜きを支障なく行うことができる。
【0022】
また、粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物を成形型内で加圧成形するので、固形石けんとしての機能を失わない範囲で石けんと塩の配合比率を自由に設定することができる。
つまり製造方法を変えることなく、単に石けんと塩の配合比率を変えるだけでいろいろな配合の固形石けん組成物を得ることができる。これにより、塩の配合比率をより細かく設定した固形石けん組成物を製造することができ、例えばアトピー性皮膚炎症や敏感肌など、肌の弱い人、あるいは乳幼児や高齢者も使用できる、それぞれに適した固形石けん組成物を提供することができる。
【0023】
固形石けん組成物は、粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物を成形型に入れ、成形型内の空気を抜いて真空にした後に加圧して成形されており、固形石けんの内部の空気が除かれているので、硬く締まっている。これにより、石けんの表面に付着した水分や空気中に含まれる水分は、石けん表面から内部へは容易には浸透しないので、石けんの表面は潮解が起こっても、石けん全体の潮解は起こりにくい。したがって、固形石けん組成物を湿度が高い浴室で使用しても、使用途中でふやけたり溶けたりそれが原因で石けんの形状が崩れることなく、使用量や使用回数に相応した使用が可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る製造方法によれば、粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物を加圧成形して一体化した固形石けん組成物が得られる。
【0025】
また、粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物は、成形型内の空気を抜いた後に加圧して成形するので、成形された固形石けん組成物は硬く締まっており、表面も固められている。
これにより、石けんの表面に付着した水分や空気中に含まれる水分は、石けん表面から内部へは容易には浸透せず、仮に石けんの表面で潮解が起こっても、石けん全体の潮解は起こりにくい。
したがって、固形石けん組成物を湿度が高い浴室で使用しても、使用途中でふやけたり溶けたり、形崩れせず、使用量や使用回数に相応した使用が可能となる。
【0026】
更に、粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物を成形型内で加圧成形するので、固形石けんとしての機能を失わない範囲で石けんと塩の配合比率を自由に設定することができ、各種の用途に適した固形石けん組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る固形石けん組成物の一実施の形態を示す一部切欠斜視説明図。
【図2】本発明に係る固形石けん組成物の製造方法で使用する成型装置の構造を示す断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を図面に示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
図2を参照して、本発明に係る固形石けん組成物の製造方法を詳細に説明する。なお、使用する成型装置(真空加圧装置)4は、材料である石けんと塩の含水率を維持するために、十分に乾燥させた状態で使用することが重要である。
【0030】
(1)まず、チップ状の石けんの素地を、例えば網の上に載せて空気を送る方法で常温下で4日間程度乾燥させ、含水率が4%になるようにする。
(2)前記乾燥させたチップ状の石けんの素地を粉砕機で粉砕し、篩い器にかけて、2mm以下の粒径を有する粉状にして、原料となる粉状の石けんをつくる。
【0031】
(3)塩を乾燥機に入れ、例えば150℃で約24時間程度乾燥させ、含水率を2%程度に調節し、篩い器にかけて、粒径が0.25mm以下の原料となる塩をつくる。
(4)前記乾燥している粉状の石けんと粉状の塩を所要の配合比率(本実施の形態では、石けん:80重量%、塩:20重量%)で混合して、石けんの中に塩をほぼ均一に分散させる。本実施例では、添加物は使用しないが、使用することもできる。例えば、固形石けん組成物に各種機能性を付与するために、もろみ、おから、さけかす、こめぬか、蜂蜜、わさび、海苔、蜜柑、柚子、梅干し、メロン、茶、温泉の泥等から適宜選択して添加物として混合する場合は、液体または粉体にしたものを塩と一緒に石けんと混合すればよい。
【0032】
(5)前記粉状の石けんと塩の混合物10を、図2に示した成型装置4の下型40と上型43の型部(キャビティ部)41、44に適量を入れ、プレス型45を型部44内に嵌め入れて降ろし、プレス型45の型部(キャビティ部)46が混合物の上に接触するようにする。そして、吸気孔42に接続されている吸気管49にストレーナ48を介在させて真空ポンプ47によって−760ヘクトパスカル(hPa)で成形型内の空気を抜く。これにより、混合物10を入れている型内部を真空にする。成形型内の空気を抜く際は、空気をゆっくり抜くのが好ましく、空気を抜くのが速すぎると、石けんや塩の粉を引いてしまうため好ましくない。
【0033】
(6)そしてその後、混合物10をプレス型45で加圧し、型部41、44、46によって成形して、図1に示すように、上下面が部分球面状で側面は円柱面状(切欠部は無視)の固形石けん組成物1を得る。なお、加圧の際の圧力は、本実施の形態では2.5t/cm2である。
(7)成形された固形石けん組成物1は、石けん2の中に20重量%の比率で塩3が均等に分散した構造である。そして、固形石けん組成物1は、型抜きされ、気密性の包装材で包装されて製品となる。なお、成形された固形石けん組成物1は、内部まで硬く締まっているため、型抜きの際に割れることはなく、歩留まりがよい。
【0034】
前記製造方法で得られた石けんの湯に対する耐久性の実験を行った。対照として通常販売されている市販の石けん(商品名「ゲルアンドゲル」 製造元 株式会社サティス以下、「対照石けん」という)を用いた。
前記配合比率と製造方法で得られた固形状の石けん(厚さ約21mm)と対照石けん(厚さ約30mm)を約35℃の湯に約60分間浸漬した後、これらに爪楊枝を突き刺して、表面の軟らかさを測定した。
【0035】
本実施の形態で得られた石けんは、爪楊枝の先端が表面から5mm入ったところで、硬い部分にぶつかり、それ以上は入らなかった。これに対して、対照石けんは、約30mmの厚さを貫通してしまった。
従って、前記製造方法で得られた固形石けんは、湯に浸漬しても対照石けんのようには軟らかくならず、浴室内のように、湯がかかったり、高い湿度の室内で使用しても、通常の市販の石けんのように、使用途中でふやけたり溶けたりして形崩れを起こさず、使用量や使用回数に相応した使用が可能となる。
【0036】
なお、塩の配合比率が大きくなると、製造された固形石けん組成物1はより硬くなり、泡立ちが悪くなるので、泡立ちをよくする観点からは、塩の配合比率の上限が20%、下限が10%程度とするのが好ましい。また、塩の配合比率を大きくすると、体臭を消臭することができるとされており、加齢臭の消臭にも対応できる。このためには、塩の配合比率を30%程度に設定するのが好ましい。皮膚の弱い人には、塩の配合比率をl0%程度に設定するのが好ましい。
【0037】
サウナ等で塩もみの塩の代わりに使用する場合は、塩の配合比率を50%以上に設定することが好ましい。乳幼児には、肌を傷めることがないように塩の配合比率を5%程度としたものを使用するのが好ましく、おむつによるかぶれが防止できる。さらには、塩の配合比率が10%未満であれば、ぬめりが出て、例えばかかとの角質を取り除いて皮膚を軟らかくすることができる。
【0038】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
1 固形石けん組成物
2 石けん
3 塩
4 成型装置
40 下型
41 型部
42 吸気孔
43 上型
44 型部
45 プレス型
46 型部
47 真空ポンプ
48 ストレーナ
49 吸気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の石けんと粉状の塩を含む混合物を成形型内で加圧成形する際に、成形型内の空気を抜いて真空にした後に前記混合物を加圧成形する、
固形石けん組成物の製造方法。
【請求項2】
所要の含水率まで乾燥させた粉状の石けんと、所要の含水率まで乾燥させた粉状の塩を所要の配合比率で混合し、前記石けんに前記塩が均一に分散した混合物を成形型の中に入れ、成形型内の空気を抜いて真空にした後に混合物を所要の圧力で加圧して成形する、
固形石けん組成物の製造方法。
【請求項3】
塩の粒径が、0.25mm以下である、
請求項1または2記載の固形石けん組成物の製造方法。
【請求項4】
塩の含水率が4%以下である、
請求項1ないし3の何れか1項に記載の固形石けん組成物の製造方法。
【請求項5】
石けんの含水率が4〜8%である、
請求項1ないし4の何れか1項に記載の固形石けん組成物の製造方法。
【請求項6】
加圧の圧力が2〜3t/cm2である、
請求項1ないし5の何れか1項に記載の固形石けん組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか1項に記載の固形石けん組成物の製造方法によって製造された固形石けん組成物であって、塩の配合比率が5〜40重量%である、
固形石けん組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−105917(P2011−105917A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265470(P2009−265470)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(509322557)
【Fターム(参考)】