説明

固形石鹸及びその製造方法

【課題】特殊な薬効成分を配合しなくても硬水に対して泡立ちが良好で肌にやさしい特性をもつ固形石鹸を提供する。
【解決手段】油脂、苛性ソーダを主原料として製造する際に、ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水、特に、陰イオンとして塩素イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)を、それぞれ30ミリバル%以上含む温泉水を使用して石鹸を製造することにより、硬水に対して泡立ちが良好で、肌にやさしく、美容効果の期待できる固形石鹸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形石鹸及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、肌にやさしくかつ美容効果も有する新規な固形石鹸及びその固形石鹸を効率的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高級脂肪酸のナトリウム塩を主成分とする固形の化粧石鹸(以下、「固形石鹸」という)として、美容効果その他の機能性を高める目的で、各種の添加成分を配合した固形石鹸が知られている。
【0003】
例えば、特開平9−194893号公報(特許文献1)には、ある種の高級脂肪酸塩とコラーゲン化合物とを主な有効成分として含む透明固形石鹸は、使用後の肌のすべすべ感、しっとり感に優れ、泡質が良好なものとなることが記載されている。また、特開2000−248299号公報(特許文献2)には、薬用炭を配合することで炭のマイナスイオンによる肌の老化防止効果、漂白作用による美白効果、炭の表面の小孔への油分や毒素の吸収効果等による肌の酸化を抑制するようにした固形石鹸が提案されている。
一方、特開2003−119499号公報(特許文献3)及び特開2007−217479号公報(特許文献4)には、それぞれ、柿の葉の粉末を混合したり、大麦若葉を混合することによって、肌に有効に作用し美容効果も発揮する石鹸が提案されている。さらに、特開2009−256535号公報(特許文献5)には、トレハロースとモウソウチク抽出物を配合することにより、泡立ち、泡質(細かい泡)が良好で、かつすすぎ時にヌルつくことがなく、さっぱりとした使用感で、洗浄後はしっとりとした肌感触を有する固形石鹸を得ることが開示されている。
しかしながら、これらの先行技術は、いずれも、石鹸への特定の添加剤を配合することによって美容効果等を付与しようとするもので、石鹸の製造において必須となる水については、あくまでも純水を使用することを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−194893号公報
【特許文献2】特開2000−248299号公報
【特許文献3】特開2003−119499号公報
【特許文献4】特開2007−217479号公報
【特許文献5】特開2009−256535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特別な添加剤を含まなくとも、硬水に対して泡立ちが良好で肌にやさしく美容効果のある石鹸を提供しようとするものであり、従来あまり注目されなかった石鹸の製造時に使用する水について鋭意研究を重ねた結果、特定の温泉水を使用することによって、その目的を達成し得ることを見出し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして、本発明によれば、以下のような固形石鹸とその製造法が提供される。
1.ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水を使用して製造したことを特徴とする固形石鹸。
2.上記1の石鹸において、使用するナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水が、陰イオンとして塩素イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)を、それぞれ30ミリバル%以上含む温泉水であることを特徴とする固形石鹸。
3.上記1,2の石鹸において、ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水、油脂、アルカリ化合物を主原料として製造したことを特徴とする固形石鹸。
4.上記1〜3の石鹸において、使用する油脂として、オリーブ油を主体としこれに他の植物油を配合した植物油を使用したことを特徴とする固形石鹸。
5.上記1〜4の石鹸において、上記各成分に加え、さらに、蜂蜜を含有することを特徴とする固形石鹸。
6.上記1〜5の石鹸において、上記各成分に加え、さらにエッセンシャルオイル(精油)を含有することを特徴とする固形石鹸。
7.油脂及び必要に応じて添加する各成分を、ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水に混合して溶解し、これに苛性ソーダを添加してニートソープを作り、これを成形して固形石鹸とすることを特徴とする固形石鹸の製造法。
8.上記の方法において、陰イオンとして塩素イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)を、それぞれ30ミリバル%以上含むナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水を使用することを特徴とする請求項7記載の固形石鹸の製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固形石鹸は、泡立ち、硬水に対しても泡立ちが良好であり、固形石鹸としての適度な固さを有し、経時的な匂いの劣化の問題がない。しかも、特殊な薬効成分等を含まなくても、肌にやさしく、肌荒れ抑制効果を有するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
通常の石鹸は、油脂又は脂肪酸類に苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)等のアルカリ化合物を純水とともに過熱下で混合することにより製造されるが、本発明では、純水の代わりに、ナトリウム−塩化物及び炭酸水素を含む温泉水を使用することを最大の特徴とする。
【0009】
この温泉水には、陽イオンとして、主として含有するナトリウムイオン(Na)のほか、カルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg2+)等のいわゆるミネラル分を合計で3ミリバル%以上含み、かつ、陰イオンとして塩素イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)を、それぞれ30ミリバル%以上含み、硫黄成分等は実質的に含まない、ほぼ中性(pH値=7〜8)の温泉水である。温泉水に含まれるガスとしては、遊離二酸化炭素(CO)を含み、遊離硫化水素(HS)は実質的に含まないことが好ましい。上記温泉水の使用量は、石鹸重量に対して10〜40重量%程度が適当である。なお、この温泉水は、製造直後の固形石鹸製品中にもほぼ同じ割合で含有される。
【0010】
ここで、温泉水に含む各含有成分の濃度を表示する「ミリバル(mval)」とは、温泉水1kg中に溶存している各イオンの濃度を表す単位であり、1バル(val)は、1mg当量/kgであり、ミリバルの数値は具体的に次のような式で求めることができる。
ミリバル=[温泉水1kg中に含まれる分量(mg)/原子量又は式量]×原子価
【0011】
また、「ミリバル%」は、各イオンのミリバル値の比率を全イオンの合計を100とする百分率で表示したものであり、それぞれの陽イオンや陰イオンのミリバル値の全ミリバルの値に対する割合がミリバル%となる。
【0012】
本発明の石鹸を製造する際に用いる原料の油脂としては、例えば、オリーブ油、ココナッツ油、コーン油、トウモロコシ油、綿実油、パーム油、パーム核油、ピーナッツ油、菜種油、サフラワー油(紅花油)、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油等の植物油が好ましいが、場合によっては、牛脂、豚脂を使用しても差しつかえない。これらの油脂は、2種以上併用することもでき、多くの場合、2種以上を適宜組み合わせて使用するのが好ましい。例えば、人の肌になじみやすいオレイン酸を多く含みかつ天念の保湿成分であるスクワレンを含むオリーブ油を主体とし、これに、泡立ちを良くするココナッツ油と、石鹸を固く崩れにくくするパーム油等を適宜配合して使用することが好ましい。また、レッドパーム油は天然のカロチンとビタミンEが豊富に含まれるため、これを適量配合することで皮膚の傷や肌荒れを修復する効果が期待される。
【0013】
また、油脂に代えて、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノレン酸等の炭素数12以上の高級脂肪酸を使用することもでき、これらも2種以上併用することができる。
【0014】
これら脂肪酸のうち、ラウリン酸を使用すると固い石鹸となり、冷水にもよく溶け、耐硬水性も良好となる。さらに、起泡力に富み、良好な泡を大量に生成する。ただし、洗浄力は、もっと炭素数の多い脂肪酸を使用したものよりも劣る。また、ミリスチン酸、ラウリン酸を用いた場合より水溶性が劣るが、泡のきめが細かく持続性がよい。パルチミン酸を使用した石鹸は50℃以上で水に溶け、洗浄力を発揮する。ステアリン酸を使用した場合は、60℃以上で水に溶け、高温で高い洗浄力を発揮する。ただし、耐硬水性は悪く、起泡力は乏しい固い石鹸となる。パルミチン酸、ステアリン酸からの石鹸は、70℃程度の高い温度でないと水に溶けず洗浄力も発揮しない。
【0015】
これに対し、オリーブ油の主成分であるオレイン酸は、不飽和結合を含むため水溶性が良く、冷水にも良く溶け、洗浄力を発揮する。また、耐硬水性が良く、泡立ちもよい柔らかい石鹸となる。リノール酸、リノレン酸を使用した石鹸は、オレイン酸石鹸よりもいっそう軟質で水溶性もよいが、洗浄力は悪くなる。ヒマシ油中に存在するリシノレン酸は、固くて水に溶けやすい透明な石鹸となる。
【0016】
本発明において、上記の油脂や脂肪酸類と混合するアルカリ(塩基性)化合物としては、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)が使用されるが、特には苛性ソーダが好ましい。ここで、本発明では肌に良いオイルを使用しているため、オイルを全て中和することなく、季節や肌質に合わせて例えば5〜15%を残留することが好ましい。このため、アルカリ化合物の使用量は、脂肪酸(油脂中の脂肪酸を含む)が85〜95%中和される量が適当である。
【0017】
本発明では、必要に応じて、上記以外の成分として、蜂蜜等の糖分を加えること好ましい。特に、蜂蜜は、保温効果を高めるだけでなく、ブドウ糖、果糖のほかにイソマルトオリゴ糖、グルコノラクトン、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸等を含み、高い栄養価をもつため、これを石鹸に配合することで美容効果を増強することが期待できる。その他の糖類としては、常温で固形のものが好ましく、マンニトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール等が好ましい。
【0018】
糖類は、また、石鹸中での結晶化の抑制効果があり、固形石鹸の透明化に寄与するだけでなく、泡立ち性向上効果もあるので好ましい。その他これらの糖類は、固形石鹸の製造途中の中和工程において、カラメル反応による着色が生じにくいという効果も有する。これらの糖類は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明の石鹸は、好みの芳香を持たせる目的で、各種のエッセンシャルオイル(精油)を配合することもできる。エッセンシャルオイルとしては、例えば、ハーブ系(ラベンダー、ニホンハッカ、ペパーミント、レモングラス、ローズマリー等)、樹木系(ジュニパー、パイン等)、花精油系(ローズ、ジャスミン、ネロリ、カモミール等)、柑橘系(レモン、スィートオレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、ベルガモット等)、あるいは、オリエンタル系(サンダルウッド、イランイラン等)の特有の芳香を持つもの特に、アロマテラピー効果を有するものが好ましく使用される。なかでも、レッドパーム油は天然のカロチンとビタミンEが豊富に含まれるため、皮膚の傷や肌荒れを修復する効果が期待される。これらも、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0020】
例えば手作りの石鹸のように簡素で自然なことを重視する場合等は、上述した成分のみとし、他の成分を含めないことが好ましい。一方、用途や目的に応じて上述の各成分の他の成分を含めるようにしてもよい。例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレン(20)オクチルドデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート等の非イオン性界面活性剤、ベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、イミダゾリン型界面活性剤、アミンオキサイド型界面活性剤等の両性界面活性剤、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、エトキシジグリコール(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、1,3−ブチレングリコール等の常温で液状の多価アルコール類を配合してもよい。これらの成分は、冷却・固化により固形石鹸を製造する際に、結晶化を抑制する機能を有し、固形石鹸の透明性向上に寄与する。
【0021】
常温で液状の多価アルコール類の配合は、得られる固形石鹸の泡立ち、透明性の向上とともに、糖類の結晶化の抑制及び製造時の石鹸組成物の粘度低下による生産性の向上の点でも有利である。また、得られる固形石鹸の硬度の維持や泡立ちの向上の点でも有利である。
【0022】
本発明の固形石鹸では、さらに、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等の無機塩類を少量(1〜3重量%)添加することで、耐硬水性が上がり、例えば硬度4度の硬水に対しても十分な泡立ちを与える一方で、透明性を得ることができる。
【0023】
また、本発明の固形石鹸は、低温での泡立ち性やスカムの分散性を向上させるために、非石鹸系のアニオン性界面活性剤を含有することができる。このようなアニオン性界面活性剤としては、アルカノイルイセチオン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N−アシルメチルタウリン塩、N−アシルサルコシネート塩、N−アシル化アミノ酸塩、(ジ)アルキルスルフォサクシネート塩、モノアルキルリン酸塩等を挙げることができる。
【0024】
さらに、本発明の固形石鹸は、香りの安定化のために、脂肪酸以外の有機酸類を含有することができる。このような有機酸としては、乳酸、グルコン酸等を挙げることができる。
【0025】
本発明の固形石鹸には、トリクロサンやトリクロロカルバニリド等の抗菌剤を添加することもでき、また、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、白糖等の保湿剤やラノリン、パラフィン、ワセリン、ミリスチン酸イソプロピル等油剤等を配合してもよい。
【0026】
また、本発明の固形石鹸は、上述の成分の他に、従来の枠練り石鹸において使用されているような成分、例えば、香料、顔料、染料等を含有することもできる。さらに、アロエ粉末を湿疹や荒れ肌のスキンケア効果を有する生薬成分を配合してもよい。
【0027】
次に、本発明の固形石鹸の製造法について説明する。
本発明の固形石鹸の製造に当っては、まず、以下に述べる(1)ホットプロセス、(2)コールドプロセス、あるいは(3)中和法により、ニートソープ(石鹸素地)を作り、その後、ニートソープから固形石鹸を作る。
【0028】
<ニートソープの製造>
(1)ホットプロセス(釜炊き鹸化法)
ホットプロセスは釜炊き鹸化法とも称される方法である。釜に入れた原料油脂と苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)等のアルカリを撹拌しながら加熱し、鹸化(けんか)反応を起こさせて石鹸を製造する方法である。具体的には、以下の鹸化塩析法、焚き込み法、のいずれかの工程を経ることが多い。
【0029】
A.鹸化塩析法
鹸化反応の終わった後に塩析することで、不純物を除去し、純度の高い石鹸が得られる。油脂に苛性ソーダ(NaOH)を加えてよく混ぜる油脂と苛性ソーダの混合物を加熱して鹸化反応を起こす鹸化反応によって得られた膠状のどろどろした石鹸のもと(石鹸膠)を塩析し、ニートソープ(石鹸素地)とグリセリンと不純物とに分ける。純粋な石鹸分は、塩水のような電解質には溶けない性質があるため、石鹸膠を何度も塩水で洗って不純物を取り除くことで、純度の高い石鹸とすることができる。
【0030】
B.焚き込み法
鹸化反応の後、塩析しないで石鹸とする方法も採用できる。この方法では、まず、油脂に苛性ソーダ(NaOH)又は苛性カリ(KOH)を加えてよく混ぜ、次いで、上記混合物を加熱して鹸化し、鹸化反応によって得られた石鹸膠を塩析せずに仕上げる。この方法は、塩析をしないので、製品の石鹸中にグリセリンのほか未反応の油脂や油脂中の不純物もそのまま残存するが、残った不純物が保湿剤等の機能を発揮して肌に優しい石鹸になることが多い。
【0031】
(2)コールドプロセス(冷製法)
コールドプロセス(冷製法)は、油脂に苛性ソーダ(NaOH)を加えて撹拌し、積極的に加熱せず、原則として反応熱だけで鹸化する方法である。すなわち、油脂に苛性ソーダ(NaOH)を加えて撹拌するだけで自然に発生する反応熱を利用して鹸化を行う方法である。得られた石鹸膠は塩析せずに仕上げる。この方法では、焚き込み法と同様に、グリセリンのほか、未反応の油脂や油脂中の脂肪酸以外の成分もそのまま残るため、石鹸の純度はあまり高くないが、あえて未反応の油脂やその他の成分が残るように条件設定し、洗浄力がマイルドな過脂を得る場合もある。
【0032】
(3)中和法
中和法は、事前に油脂を分解して得られた脂肪酸だけをアルカリ化合物と反応させてニートソープ(石鹸素地)とする方法である。この方法では、高圧分解釜で油脂を脂肪酸とグリセリンに分解し、得られた脂肪酸だけを苛性ソーダ(NaOH)で中和してニートソープとする。この場合は、当初から脂肪酸だけを使用するため、不純物を取り除く塩析は必要としない。中和法は、石鹸の製造に当り、特定の脂肪酸を選べるので、刺激性のある低級脂肪酸が含まない製品とすることが可能である。
【0033】
<固形石鹸の製造>
枠練りと機械練り鹸化塩析法又は中和法で得られたニートソープ(石鹸素地)は、乾燥・配合・成形という工程を経て、固形石鹸とされる。本発明では、その手段は限定されないが、例えば、以下に述べる枠練り法又は機械練り法を採用してもよい。
【0034】
(1)枠練り法
枠練り法では、必要に応じ、ニートソープに保湿剤、香料、色素、助剤等を加え(ただし、無添加石鹸の場合は無添加)、攪拌して均一にした後、高温のニートソープを大きな枠の中に流し込み、長時間かけて冷却固化させ、十分に冷えて固まった後、固まった石鹸を枠から取り出して一定の大きさに切断し、乾燥させて水分の調整をした後、型打機でスタンピング(型打ち)するか、所定の大きさに切断して製品とする。この枠練り石鹸は、長時間かけて徐々に冷却するため、石鹸分子が大きな結晶になり、そのためふやけにくく溶け崩れしにくい石鹸とすることができる。このように枠練り石鹸は、機械練り石鹸と比べて、泡立ちがやや劣るが、溶け崩れしにくい性質を有する。
【0035】
(2)機械練り法
機械練り法では、ニートソープを機械でチップ状又はペレット状に細断し、乾燥する。十分に乾燥させた後、必要に応じ、保湿成分、香料、色素、助剤等を加える(無添加石鹸の場合は何も加えない)。その後、ロールでよく練り混ぜ、機械で棒状に押し出し、それを切断・型打ち型に入れて加圧成形等により石鹸の製品とする、この機械練りでは、作業を効率化するために急速冷却・急速乾燥を行うことが多く、十分な乾燥が行えるため水分含有率が少なく、機械の強い力で練り合わせる間に石鹸の粒子が揃って外観がきれいな石鹸とすることができる。しかし、枠練り法とは逆に、水によってふやけたり溶け崩れたりしやすい傾向がある。すなわち、機械練り石鹸は、水によく溶け泡立ちがよい石鹸となるが、やや溶け崩れしやすい性質がある。
【0036】
なお、冷却・固化時間については、使用する油脂又は脂肪酸の種類及び配合量、その他の添加剤の配合量等により適宜決定される。また、成形型の材質や温度、型のサイズと充填量、外気温、冷却水の有無等によって変化する。
【0037】
以上のようにして得られた本発明の固形石鹸は、略半透明であり、エッセンシャルオイル(精油)等を配合した場合は、その芳香を有し、使用時にリラックス効果を与えることができる。
なお、本発明の固形石鹸は、製造直後より1〜3ヶ月程度経過してから使用するのが好適である。使用に際し、泡立ちが不十分のときは、石鹸を泡立てネットに入れて使用することが推奨される。また、通常の固形石鹸に比べて若干溶けやすいので、保存にあたっては、固形石鹸の底面も空気に接するようにして置くのがよく、例えば、通気性のある石鹸置きやスポンジ等の上に置くのがよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、これらの実施例によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
温泉水として、福岡県小倉市大手町で採取したナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水(pH値=7.2)を使用した。この温泉水に含まれる成分は表1〜4に示す通りであった。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
上記の温泉水を使用して、コールドプロセス(冷製法)で石鹸を製造した。まず、この温泉水240〜250mlに苛性ソーダ(NaOH)75〜85gを溶解してアルカリ水を調製し、このアルカリ水と表5に示す油脂成分を38〜40℃で良く混合し、蜂蜜および精油(エッセンシャルオイル)を加えて石鹸組成物を調製した。その直後に石鹸組成物を所定の型に入れて冷却し、固まらせることにより、固形石鹸を製造した。
【0045】
【表5】

※レッドパーム油は、天然のカロチンとビタミンEを豊富に含むため、皮膚の傷や荒れ肌の修復を助ける作用を有し、蜂蜜は保温効果を高める作用を有する。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、温泉水を使用して調製したアルカリ水に混合する成分を以下の組成に変更する以外は、実施例1と同様にして固形石鹸を製造した。
【0047】
【表6】

※アロエ粉末は、湿疹や荒れ肌のスキンケア効果を有する。
【0048】
これらの石鹸を、製造後2〜3ヶ月室温で保管したのち、泡立てネットに入れて使用することで、評価を行った。
なお、比較のため、実施例1において通常の温泉水に代えて通常の水道水を使用した場合の結果を比較例1として示す。また、市販の石鹸(花王ホワイト、花王株式会社製)を使用した場合の結果を比較例2として示す。
その結果、実施例1は泡立ち性が特に高く、同時に肌荒れ防止効果も認められた。また、実施例2は肌荒れ防止効果が特に高く、同時に泡立ち性も認められた。
【0049】
【表7】

但し、◎:非常に高い、○:高い、△:中程度、×:低い を示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、泡立ち、特に硬水に対しての泡立ちが良好であり、固形石鹸としての適度な固さを有する固形石鹸が提供される。しかも、この固形石鹸は、特別な薬効成分を含まなくとも、肌にやさしく、優れた美容効果を有するので化粧石鹸として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水を使用して製造したことを特徴とする固形石鹸。
【請求項2】
使用するナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水として、陰イオンとして塩素イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)を、それぞれ30ミリバル%以上含む温泉水を使用したことを特徴とする請求項1記載の固形石鹸。
【請求項3】
ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水、油脂、苛性ソーダを主原料として製造したことを特徴とする請求項1又は2記載の固形石鹸。
【請求項4】
油脂として、オリーブ油を主体とし、これに他の植物油を配合した植物油を使用したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固形石鹸。
【請求項5】
さらに、蜂蜜を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の固形石鹸。
【請求項6】
さらにエッセンシャルオイルを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の固形石鹸。
【請求項7】
油脂及び必要に応じて添加する各成分を、ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水に溶解し、これに苛性ソーダ(NaOH)を添加してニートソープを作り、これを型にいれて成形し冷却することにより固形石鹸を得ることを特徴とする固形石鹸の製造法。
【請求項8】
ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉の温泉水が、陰イオンとして塩素イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)を、それぞれ30ミリバル%以上含む温泉水を使用することを特徴とする請求項7記載の固形石鹸の製造法。

【公開番号】特開2013−18940(P2013−18940A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155707(P2011−155707)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(592246613)旭興産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】