説明

固有値分解を利用しない信号到来方向推定手法および受信ビーム形成装置

アレーアンテナを構成する複数個のアレーアンテナ素子により到来電波を受信し、いくつかのアレーアンテナ素子の受信データの相関を計算し、各アレーアンテナ素子に存在する付加雑音の影響を受けない相関行列を作る。次には、アレー応答行列の分割に基づいて簡単な線形演算で作られた相関行列から雑音部分空間を得て、アレーアンテナに入射する信号を推定する。すべてのアレーアンテナ素子受信データ間の相関を計算し、固有値分解する処理が必要ないので、演算量が低減され、耐雑音性が向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アレーアンテナを用いて電波到来方向を精度良く推定する基地局の電波到来方向推定装置、および、その到来方向の推定結果に基づくアンテナのビーム指向性を可変する基地局の指向性可変受信および送信装置に関するものである。本発明は、計算上有効な手段で複数個の入射信号(相互に無相関でない信号、または、完全な相関を持つ多重波(マルチパス))の到来方向を推定する方法であり、特に、受信データの長さが短かったり、低いSNRの場合でも、入射方向の似通った入射波の到来方向を精度良く推定することができるようにした手法である。
【背景技術】
近年、移動通信に適応アレーアンテナ(Adaptive array antenna)を用いた研究開発が注目されている。適応アレーアンテナでは、複数個のアンテナ素子をある形状で異なる空間位置に配置している。アンテナに入射する電波(以下、信号処理の立場から信号という場合がある)の到来方向を推定する問題は適応アレーアンテナの重要な要素技術のひとつと考えられる。信号の到来方向推定問題に関して、推定精度と計算演算量などの立場から信号部分空間と雑音部分空間の直交性を利用した部分空間手法(Subspace−based method)は良く知られている。従来の部分空間手法には、信号(あるいは雑音)部分空間を得るため、アレー共分散行列の固有値分解(Eigenvalue decomposition:EVD)、あるいは、アレーデータ行列の特異値分解(Singular value decomposition:SVD)などの処理が必要となる。しかし、実際のアレーアンテナの実装の場合には、特に、アレー素子の数が多い時、固有値分解(あるいは特異値分解)処理は計算が複雑化し、計算時間がかなりかかる。
従来、アレーアンテナを用いて無相関入射波の到来方向を推定する方法として、計算の複雑さや推定精度などの立場から、信号と雑音部分空間の直交性を用いた部分空間手法は良く知られている。その代表例として、MUSIC(Multiple signal classification)がある(この手法の詳細について、文献R.O.Schmidt,”Multiple emitter location and signal parameter estimation,”IEEE Trans.Antennas and Propagation,vol.34,no.3,pp.276−280(1986)を参照)。また、完全な相関性を持つ多重波の到来方向推定問題への対応策として、空間スムージングを用いた部分空間手法(Subspace−based method with spatial smoothing)は良く知られている。その代表例として、空間スムージングMUSIC(Spatial smoothing based MUSIC)がある(この手法の詳細については、文献 T.J.Shan,M.Wax and T.Kailath,”On spatial smoothing for direction−of−arrival estimation of coherent signals,”IEEE Trans.Acoust.,Speech,Signal Processing,vol.33,no.4,pp.806−811(1985)およびS.U.Pillai and B.H.Kwon,”Forward/backward spatial smoothing techniques for coherent signals identification,”IEEE Trans.Acoust.,Speech,Signal Processing,vol.37,no.1,pp.8−15(1989)を参照)。
無相関信号の到来方向を推定する部分空間手法は、アレーアンテナに入射する信号からのアレー共分散行列を求めて、この共分散行列の固有値分解により信号部分空間と雑音部分空間を求める。そして、信号部分空間と雑音部分空間の直交性を利用して、信号の到来方向を推定する。しかし、相関を持つ信号(完全な相関性を持つ多重波を含む)の到来方向では、入射信号の相関を抑圧するために、線形等間隔アレー(Uniform linear array:ULA)をサブアレー化し、各サブアレーの共分散行列の平均操作を行うことにより、空間的に平均された共分散行列の信号部分空間の次元を多重波の個数に回復する。したがって、従来の部分空間手法のように信号部分空間と雑音部分空間の直交関係を利用して、相関信号の到来方向を推定することが可能となる。
従来の信号到来方向推定に関する部分空間手法の欠点を説明するため、その代表例として、文献 T.J.Shan,M.Wax and T.Kailath,”On spatial smoothing for direction−of−arrival estimation of coherent signals,”IEEE Trans.Acoust.,Speech,Signal Processing,vol.33,no.4,pp.806−811(1985)に記載された多重波の到来方向を推定する空間スムージングMUSICを簡単に述べる。
ここで、M個のアレー素子数を持つ線形等間隔アレーにp個の多重波狭帯域信号{s(n)}が角度{θ}からアレーアンテナに入射しているとする(ここで、k=1〜p)。各素子のアレー受信信号は以下のように表せる。


、s(n)=[s(n),s(n),…,s(n)]、w(n)=[w(n),w(n),…,w(n)]、ω=2πf、τ(θ)=(d/c)sinθであり、f、cとdは搬送波の周波数、伝搬速度と素子間隔(半波長)である。また、(・)は転置を表し、a(θ)とAはアレー応答ベクトルと応答行列である。w(n)は素子ごとに独立な平均0かつ電力σの白色ガウス雑音とする。ここで、アレーの共分散行列は次式となる。

ここで、E{・}と(・)は、期待値演算と複素共役転置を表し、R=E{s(n)s(n)}は、入射する多重波の共分散行列であり、Iは、M×M単位行列である。さらに、観測データy(n)とy(n)の相関rikをrik=E{y(n)y(n)}で定義すると、上記式にあるアレーの共分散行列Rは次式で明確に表現できる。

ここで、rik=rik、(・)は複素共役をあらわす。
図1は、線形等間隔アレーのサブアレー化を説明する図である。
空間スムージングMUSICは完全な相関性を持つ多重波の到来方向{θ}を推定するため、図1のように、全体の線形等間隔アレーをL個のm個(1≦m≦M)の素子を持つオーバラップしたサブアレー(Overlapped subarray)に分割する。ここで、mとLはサブアレーのサイズとサブアレーの個数と呼ばれ、L=M−m+1である。数1より、1番目のサブアレーの受信ベクトルx(n)は、数4で表現できる。

ここで、A=[a(θ)、a(θ)、・・・、a(θ)]

行列であり、1=1、2、・・・、Lである。また、a(θ)とAはサブアレーの応答ベクトルと応答行列である。したがって、1番目のサブアレーの共分散行列は数5で与えられる。

さらに、L個のサブアレーの共分散行列{R}を空間的に平均すると、数6のような共分散行列が得られる。


ことができる。


とする行列、Aは、{λ}を要素とする対角行列である。また、信号ベクトル{e、e、・・・、e}と雑音ベクトル{ep+1、ep+2、・・・、e}が張る空間をそれぞれ信号部分空間と雑音部分空間と呼ぶ。なお、信号部分空間はアレーの応答ベクトルを用いてあらわすことができる。信号部分空間と雑音部分空間の直交関係に基づく到来方向推定方法は部分空間手法と呼ばれる。

}と信号部分空間に存在するサブアレーの応答ベクトルa(θ)には、次の直交関係が成立する。

ここで、i=p+1、・・・、mである。この直交関係から、次のようなスペク



数7で与えられたスペクトルのp個の最大ピークの位置から、入射する多重波の到来方向を推定する。
数7で明らかなように、(空間スムージング)MUSICなど到来方向を推定する部分空間手法には、信号または雑音部分空間を得るため、アレー共分散行列の固有値分解を行う必要性がある。しかし、実際のアレーアンテナの実装の場合には、特にアレー素子の数が多いとき、または、実時間処理で変化する到来方向を推定する際に、固有値分解(あるいは特異値分解)処理は計算が複雑で、計算時間がかなりかかる。したがって、従来の固有値分解に基づく部分空間到来方向推定手法の実際への応用における性能は、計算の負担となる固有値分解処理の処理時間に制限されてしまう。さらに、高速かつ高精度でアレーに入射する信号の到来方向を推定できないと、正確な基地局の受信/送信ビーム形成ができなくなるし、基地局の受信および送信システムの性能が劣化することが生じる。
【発明の開示】
本発明の課題は、アレーアンテナ受信データの長さが短いまたは信号対雑音比が低い場合でも、固有値分解を利用しない少ない演算量で空間的に角度が近い信号(相互に無相関でない信号または完全な相関を持つ多重波)の到来方向を正確に推定できる手法を与えることである。
本発明の信号の到来方向推定方法は、複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナ素子からの受信信号から、いくつかの素子データ間の相関を求め、前記の相関から一つの相関行列を作るステップと、前記の相関行列から線形演算で雑音部分空間を推定するステップと、前記の雑音部分空間を用いた空間スペクトルのピーク位置、または、これに等価な一つの多項式のゼロ点を計算し、信号の到来方向を計算する推定ステップとを備えることを特徴とする。
本発明によれば、相関行列が一部のアンテナ素子間の相関のみを使うので、全部のアンテナ素子間の相関を扱うより扱うデータが少なくてすむ。また、固有値分解を行わないので、演算量が減少し、実時間で変化する信号の到来方向の推定を基地局に実装するのに現実的な方法を与える。
【図面の簡単な説明】
図1は、線形等間隔アレーのサブアレー化を説明する図である。
図2〜図5は、本発明の実施形態の各態様を説明する図である。
図6は、送信源と基地局受信アンテナ20との配置を示す図である。
図7は、本発明の実施の形態を基地局アンテナ20に導入した多重波到来方向推定システムを示すブロック図である。
図8は、到来方向推定部50の行う処理を説明する図である。

を示す図である。

る。
図11は、本発明の実施形態の到来方向推定手法を使った到来方向推定装置を用いて、希望の到来方向にピークが向くビームを形成する基地局の受信ビーム形成装置を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、時空間的に無相関白色雑音または空間的に相関する雑音環境において、アレーアンテナ受信データの長さが短い、または、信号対雑音比(Signal−to−noise ratio:SNR)が低い場合でも、固有値分解を利用しない少ない演算量で空間的に角度が近い信号の到来方向を正確に推定できる手法を提案する。
図2〜図5は、本発明の実施形態の各態様を説明する図である。
以上の目的を達成するために、本発明の実施形態の一態様では、図2に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データからM番目素子データと第1、2、・・・、M−1番目素子データ間の相関{r1M、r2M、・・・、rM−1,M}の計算を行い、前記相関から一つ相関行列Φを作り、前記相関行列から線形演算で雑音部分空間の計算をし、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算で得られる多項式のゼロ点に基づいて多重波の到来方向の計算を行う。
また、本発明の実施形態の別の態様では、図2に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから、第一番目素子データと第2、3、・・・、M番目素子データ間の相関{r21、r31、・・・、rM1

空間スペクトルのピーク位置、または、演算で得られる多項式のゼロ点に基づいて多重波の到来方向の計算を行う。
また、本発明の実施形態の更に別の態様では、図3に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから第一番目素子データと第2、3、・・・、M番目素子データ間の相関{r12、r13、・・・、r1M}を計算し、前記相関から一つ相関行列Φを作り、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて多重波の到来方向の計算する。
また、本発明の実施形態の更に別の態様では、図3に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データからM番目素子データと第2、3、・・・、M番目素子データ間の相関{rM1、rM2、・・・、rM,M−1

で雑音部分空間を計算し、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて多重波の到来方向を計算する。
また、本発明の実施形態の更に別の態様では、図2と図3に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから第一番目素子データと第2、3、・・・、M番目素子データ間の相関、および、M番目素子データと第1、2、・・・、M−1番目素子データ間の相関計算を行い、得ら

前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて多重波の到来方向を計算する。
また、本発明の実施形態の更に別の態様では、図2と図3に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから第一番目素子データと第2、3、・・・、M番目素子データ間の相関、および、M番目素子データと第1、2、・・・、M−1番目素子データ間の相関計算を行い、得ら

音部分空間の計算を行い、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて多重波の到来方向の計算を行う。
また、本発明の実施形態の更に別の態様では、図2と図3に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから第一番目素子データと第2、3、・・・、M番目素子データ間の相関、および、M番目素子データと第1、2、・・・、M−1番目素子データ間の相関計算を行い、得ら

部分空間の計算を行い、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点の基づいて多重波の到来方向を計算する。
また、上記の実施形態の態様における到来方向推定手法を用いて、時空間的に無相関白色雑音環境における無相関信号の到来方向の計算を行う。
また、上記の実施形態の態様における到来方向推定手法を用いて、時空間的に無相関白色雑音環境における部分相関信号の到来方向の計算を行う。
また、本発明の実施形態の更に別の態様においては、図4と図5に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから第一

意の一つの行列から一つの相関行列Φ(たとえば、Φ=Φ)を作り、前記相関行列から線形演算で雑音部分空間の計算を行い、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて空間的に相関する雑音環境における無相関または部分相関の多重波信号の到来方向の計算を行う。
また、本発明の実施形態の更に別の実施形態においては、図4と図5に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから

前記相関行列から線形演算で雑音部分空間を計算し、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて空間的に相関する雑音環境における無相関または部分相関の多重波信号の到来方向の計算を行う。
また、本発明の実施形態の更に別の態様においては、図4と図5に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから第一

作り、前記相関行列から線形演算で雑音部分空間を計算し、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて空間的に相関する雑音環境における無相関または部分相関の多重波信号の到来方向の計算を行う。
また、本発明の実施形態の更に別の態様においては、図4と図5に示すように、線形等間隔アレーのアンテナ素子からの複素デジタル受信データから第一

から線形演算で雑音部分空間の計算を行い、前記雑音部分空間を使って空間スペクトルのピーク位置、または、演算によって得られる多項式のゼロ点に基づいて空間的に相関する雑音環境における無相関または部分相関の多重波信号の到来方向の計算を行う。
また、上記実施形態の態様による到来方向推定手法は、基地局の到来方向推定装置に適用される。
また、上記実施形態の態様による到来方向推定手法を基地局に適用し、得られた信号の到来方向にピークが向くビームを生成する送信ビームを形成する装置を基地局に備える。
本発明はアレーアンテナを用いて電波到来方向を精度良く推定する基地局の電波到来方向推定装置およびその到来方向の推定結果に基づくアンテナのビーム指向性を可変する基地局の指向性可変受信および送信装置に関するものである。
以下、図を用いて、本発明の実施の形態として、基地局の電波到来方向推定装置を説明する。これらの図において、概略同じものあるいは同じ機能を有するものについては同じ符号を付する。また、簡単のため、前述した複数の実施の形態の内の一つについて述べる。
図6は、送信源と基地局受信アンテナ20との配置を示す図である。また、図7は、本発明の実施の形態を基地局アンテナ20に導入した多重波到来方向推定システムを示すブロック図である。
基地局受信アンテナ20には、図7に示した、到来方向推定部50を含む多重波到来方向推定システムが配置される。ここでは、送信源10から基地局受信アンテナ20に直接入射する信号は直接波11とする。また、建物などによって反射されてから基地局受信アンテナ20に入射する信号は反射波12とする。図6においては一例として、二つの反射波を示すが、以下では送信源12からの直接波と反射波の合計の個数はpとする。また、pを既知と仮定する。さらに、直接波と反射波の関係は、次式で表せる。

ここで、βは、直接波s(n)に関しての反射波s(n)の複素減衰をあらわすマルチパス係数である。ただし、β≠0とβ=1である。
この到来方向推定システムは、アレーアンテナ30、ベースバンドおよびデジタル処理部40、および、到来方向推定部50から構成されている。また、アレーアンテナ30は、M個(ただし、M>2p)のアンテナ素子31から構成されるとする。
図8は、到来方向推定部50の行う処理を説明する図である。
この到来方向推定部50は、アレーで間の相関の計算手段51、相関行列の形成手段52、線形演算子の計算手段53、直交射影作用素の計算手段54およびスペクトルのピーク位置または多項式のゼロ点位相の決定手段55で構成されている。
以下に、到来方向推定部50における多重波の到来方向推定手順について、図8を用いて説明する。まず、アレーデータ間の相関の計算手段51は、ベースバンドおよびデジタル処理部40から得られた複素デジタル信号y(n)、y(n)、・・・、y(n)で、数1のように受信ベクトルy(n)を作る。

いて、数11で信号y(n)とy(n)およびy(n)とy(n)の相関


次に、相関行列の形成手段52は、数11で得られた相関値を使って、図2

を形成する。

ここで、L=M−p+1である。数2より、データの長さNが十分大きい場合

ここで、Jは、m×m反転行列である。さらに、数12より、(L−1)×4

つの部分に分割する。

ここで、p×4pの相関行列Φと(L−p−1)×4pの相関行列Φは、

演算子Pを求める。


める。

最後に、スペクトルのピーク位置、または、多項式のゼロ点位相の決定手段

のp個ピークの内の一番高いピークの位置、あるいは、数17に示した多項式p(z)のp個のゼロ点の内、単位円に一番近いゼロ点から多重波の到来方向



このように、到来方向推定部50で多重波の到来方向を推定できる。以下、計算機シミュレーションの具体例を通じて、さらに、詳細を説明する。ここで、アンテナ素子数Mを10とする。また、同じパワーを持つ2つの多重波(p=2)は、到来方向θ=5°とθ=12°でアレーアンテナに入射する。
まず、信号対雑音比(SNR)に対する本発明の実施形態に基づく多重波到来方向の推定性能を考察する。ここで、受信データの長さNを128とし、SNRを−10から25dBまでの範囲に変化させる。各SNRに対して1000回の計算を行う。

を示す図である。
比較するため、本発明に基づく多重波到来方向の推定の理論的な誤差、到来方向推定の理想的な最小誤差を示すCRB(Cram▲e▼r−Rao lower bound)と従来の空間スムージングMUSIC(m=7)を用いた結果をプロットしている。
図9で明らかなように、本発明に基づく到来方向推定手法では、相関行列Φ

観測雑音の影響が除去されるので、本発明の手法の推定性能は固有値分解を用いた空間スムージングMUSICよりはるかによくなっている。また、本発明の手法の理論誤差とCRBの差はかなり小さい。さらに、本発明の手法の演算量はかなり低減されて、空間スムージングMUSICの演算量の1/7.147となっている。
次に、受信データの長さに対する本発明に基づく多重波到来方向の推定性能を示す。ここで、SNRを10dBとし、受信データの長さN(スナップショット数)を10〜1000の範囲に変化させる。

る。
図10に示すように、データの長さが大きくなる場合には、本発明の方法の推定誤差RMSEは、かなり理想的な最小誤差CRBに近づくが、受信データが少ない場合にも、本発明の方法は従来の空間スムージングMUSICより正確な到来方向の推定を与えられる。

多重波または部分相関信号または無相関信号の到来方向推定方法を簡単に実施できる。




数14〜数17の考え方を利用して、空間相関雑音環境における多重波または部分相関信号または無相関信号の到来方向推定方法を実施できる。ここで、共分散行列Rの対各要素に近い要素を除いて相関行列を作るのは、対角要素に近い部分に雑音成分が乗るからである。したがって、共分散行列Rの対各要素に近い要素を除いて相関行列を作ることにより、雑音成分が含まれていても正しく信号の到来方向を推定できる手法を提供することができる。
また、以上に説明した到来方向推定手法を使った到来方向推定装置を用いて、希望の到来方向に強度ピークが向くビームを形成する基地局の受信ビーム形成装置を実施できる。
図11は、本発明の実施形態の到来方向推定手法を使った到来方向推定装置を用いて、希望の到来方向にピークが向くビームを形成する基地局の受信ビーム形成装置を説明する図である。
ここで、基地局20における受信ビーム形成装置構成では、アレーアンテナ20で信号を受信し、ベースバンドおよびデジタル処理部30から複素デジタル受信データを得て、到来方向推定部40から得られた到来方向の推定値を用いたビーム形成器60で希望するビーム形成できる。干渉や雑音などを抑圧しながら希望信号を抽出するデータはビーム形成器60からチャネル受信部70に送られ、チャネル受信部70において、従来の周知の方法で受信処理が行われ、受信データが得られる。なお、ビーム形成器70として、本発明の手法により得られた到来方向の情報を利用して種々の構成が可能であるが、たとえば、O.L.Frost,”An algorithm for linearly constrained adaptive array processing,”Proc.IEEE,vol.60,no.8,pp.926−935(1975)およびJ.Xin,H Tsuji,Y Hase,and A.Sano,”Array beamforming based on cyclic signal detection,”Proc.IEEE 48th Vehicular Technology Conference,pp.890−894,Ottawa,Canada(1998)などに記載されたビーム形成手法を活用して、希望の信号到来方向にビームを形成することが可能である。
これは、基地局における受信感度のピークを推定された到来方向に向ける受信ビームのピークを制御することに使用してもよいし、基地局が信号を送信する際に、送信信号の強度のピークが推定された到来方向に向くように、送信ビームのピークを制御するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
以上説明したように、本発明は固有値分解を利用しない、少ない演算量で空間的に角度が近い信号の到来方向の推定を行う。計算機シミュレーションの具体例で明らかにしたように、受信データの長さが短い、または、信号対雑音比が低い場合でも、本発明の手法より、基地局におけるアレーアンテナに入射する信号の到来方向を正確に推定できる。また、本発明の手法は従来の空間スムージングMUSIC手法に比較して少ない演算量で非常に優れた推定性能が得られる。したがって、多重波の到来方向推定時の精度向上を図ることが可能となる。さらに、本発明の到来方向推定手法から得られた信号の到来方向に関する情報を利用して、ある希望方向に指向性をもつビームを形成できる基地局の指向性可変受信および送信装置を実施することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナ素子からの受信信号から、いくつかの素子データ間の相関を求め、前記の相関から一つの相関行列を作るステップと、
前記の相関行列から線形演算で雑音部分空間を推定するステップと、
前記の雑音部分空間を用いた空間スペクトルのピーク位置、または、これに等価な一つの多項式のゼロ点を計算し、信号の到来方向を計算する推定ステップと、
を備えることを特徴とする信号の到来方向推定方法。
【請求項2】
前記相関行列は、Mをアンテナ素子数としたとき、第M番目素子データと第1、2、・・・、M−1番目の素子データ間の相関から求められることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項3】
前記相関行列は、Mをアンテナ素子数としたとき、第1番目の素子データと第2、3、・・・、M番目の素子データ間の相関から求められることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項4】

とし、Mをアンテナ素子数、p、Lを任意の自然数とすると、

で与えられることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項5】

とし、Mをアンテナ素子数、p、Lを任意の自然数とすると、

で与えられることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項6】

とし、Mをアンテナ素子数、p、Lを任意の自然数とすると、

で与えられることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項7】

とし、Mをアンテナ素子数、p、Lを任意の自然数とすると、

で与えられることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項8】

とし、Mをアンテナ素子数、p、Lを任意の自然数とすると、

で与えられる行列の任意の2つから生成されることを特徴とする請求項1に載の到来方向推定方法。
【請求項9】

とし、Mをアンテナ素子数、p、Lを任意の自然数とすると、

で与えられる行列の内の任意の3つから生成されることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項10】

関とし、Mをアンテナ素子数、p、Lを任意の自然数とすると、

で与えられる行列を4つ組み合わせて得られることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項11】

から求められることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項12】


関から求められることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項13】


で与えられる行列の内、任意の一つ、任意の二つ、任意の三つ、あるいは、四つすべてを用いて与えられることを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定方法。
【請求項14】
前記到来方向推定方法は、基地局において実施されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一つに記載の到来方向推定方法。
【請求項15】
前記到来方向推定方法は、基地局において実施され、該基地局は、推定された到来方向に、アンテナが受信信号を受信する場合の感度のピークである受信ビームのピークを向けることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一つに記載の到来方向推定方法。
【請求項16】
前記到来方向推定方法は、基地局において実施され、該基地局は、推定された到来方向に、アンテナが信号を送信する場合の送信強度のピークである送信ビームのピークを向けることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一つに記載の到来方向推定方法。
【請求項17】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナ素子からの受信信号から、いくつかの素子データ間の相関を求め、前記の相関から一つの相関行列を作るステップと、
前記の相関行列から線形演算で雑音部分空間を推定するステップと、
前記の雑音部分空間を用いた空間スペクトルまたは一つの多項式のゼロ点を計算し、信号の到来方向を計算する推定ステップと、
を備えることを特徴とする信号の到来方向推定方法を情報処理装置に実現させるプログラム。
【請求項18】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナ素子からの受信信号から、いくつかの素子データ間の相関を求め、前記の相関から一つの相関行列を作るステップと、
前記の相関行列から線形演算で雑音部分空間を推定するステップと、
前記の雑音部分空間を用いた空間スペクトルまたは一つの多項式のゼロ点を計算し、信号の到来方向を計算する推定ステップと、
を備えることを特徴とする信号の到来方向推定方法を情報処理装置に実現させるプログラムを格納した、情報処理装置読み取り可能な記録媒体。
【請求項19】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナ素子からの受信信号から、いくつかの素子データ間の相関を求め、前記の相関から一つの相関行列を作る相関行列生成手段と、
前記の相関行列から線形演算で雑音部分空間を推定する雑音部分空間推定手段と、
前記の雑音部分空間を用いた空間スペクトルまたは一つの多項式のゼロ点を計算し、信号の到来方向を計算する到来方向推定手段と、
を備えることを特徴とする信号の到来方向推定装置。

【国際公開番号】WO2004/104620
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−572110(P2004−572110)
【国際出願番号】PCT/JP2003/006411
【国際出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】