説明

固液分離装置、固液分離方法および無灰炭の製造方法

【課題】フィルタの長寿命化を達成する重力沈降−濾過併用式の固液分離装置および固液分離方法を提供すること。灰分が十分に除去された無灰炭を高効率、かつ安価に製造できる無灰炭の製造方法を提供すること。
【解決手段】スラリーを収容して固形分を沈降させる沈降槽1;該沈降槽内の上澄み液を流入させる開口部20を有し、流入した上澄み液を沈降槽外に排出させる上澄み液排出管2;該上澄み液排出管の開口部に設置され、上澄み液中の固形分を捕捉するフィルタ10であって、固形分捕捉面がスラリー液面に対向し、かつ水平面に対して傾斜するように配置されたフィルタ10;および該フィルタの下端に配置される固形分受け部材3;を備えた固液分離装置50。上記固液分離装置を用いる固液分離方法。上記固液分離装置を用いる無灰炭の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力沈降法と濾過法とを組み合わせて採用した重力沈降−濾過併用式固液分離装置および固液分離方法、ならびに石炭から灰分を除去した無灰炭を得るための無灰炭の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭は、火力発電やボイラーの燃料、または、化学品の原料として幅広く利用されており、環境対策の一つとして石炭中の灰分を効率的に除去する技術の開発が強く望まれている。例えば、ガスタービン燃焼による高効率複合発電システムでは、LNG等の液体燃料に替わる燃料として、灰分が除去された無灰炭を使用する試みがなされている。また高炉用コークス等の製鉄用コークスの原料炭として、無灰炭を使用する試みがなされている。
【0003】
無灰炭の製造方法として以下の方法が提案されている(例えば、特許文献1)。図5を用いて簡単に説明する。
例えば、スラリー調製槽101で石炭原料と溶剤とを混合してスラリーを調製し、該スラリーを予熱器103によって加熱して、抽出槽104で溶剤に可溶な石炭成分を抽出する。得られたスラリーから、重力沈降槽(固液分離装置)105で、溶剤に可溶な石炭成分を含む上澄み液と、溶剤に不溶な石炭成分を含む固形分濃縮液とを分離する。次いで、無灰炭中の灰分含有量を十分に低減するために、上澄み液をフィルタユニット106に通した後、溶剤分離器107で溶剤を分離して無灰炭(HPC)を得る。一方、分離された固形分濃縮液を溶剤分離器108で溶剤分離すると副生炭(RC)が得られる。特に重力沈降槽105内の上澄み液は、図6に概略的に示すように、排出管110の開口部からそのまま排出され、フィルタ111が鉛直方向に直立して設置されたフィルタユニット106で濾過される。
【0004】
しかしながら,上記方法では,運転が高温高圧条件となるため,フィルタ交換時に温度や圧力の昇降操作が必要であり,また,装置構造面での制約も多いため,交換作業が煩雑であった。
【特許文献1】特開2007−735号公報
【特許文献2】特開2005−120185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、重力沈降法を採用した固液分離装置において、上澄み液排出管の開口部にフィルタを設置して、濾過法による固液分離も併せて行うことが考えられるが、フィルタの目詰まりがやはり早期に起こった。これは溶質の一部が抽出槽との温度差によって粘着性の物質となって析出し(以下,粘着性物質),フィルタに付着,閉塞させたものと推定される。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、重力沈降法と濾過法とを組み合わせて採用した重力沈降−濾過併用式固液分離装置において、フィルタの長寿命化を達成することを目的とする。すなわち本発明は、フィルタの長寿命化を達成する重力沈降−濾過併用式の固液分離装置および固液分離方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明また、灰分が十分に除去された無灰炭を高効率、かつ安価に製造できる無灰炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スラリー中の固形分を沈降させて上澄み液と固形分濃縮液とを分離する固液分離装置であって、
スラリーを収容して固形分を沈降させる沈降槽;
該沈降槽内の上澄み液を流入させる開口部を有し、流入した上澄み液を沈降槽外に排出させる上澄み液排出管;
該上澄み液排出管の開口部に設置され、上澄み液中の固形分を捕捉するフィルタであって、固形分捕捉面がスラリー液面に対向し、かつ水平面に対して傾斜するように配置されたフィルタ;および
該フィルタの下端に配置された固形分受け部材;
を備えたことを特徴とする固液分離装置に関する。
【0009】
本発明はまた、上記固液分離装置を用いて、スラリー中の固形分を沈降させて上澄み液と固形分濃縮液とを分離する固液分離方法であって、
水平面に対して傾斜させて設置されたフィルタ上に、固形分受け部材による支持によって、固形分堆積層を形成し、該固形分堆積層およびフィルタに上澄み液を通過させて排出することを特徴とする固液分離方法に関する。
【0010】
本発明はまた、
石炭原料と溶剤とを混合してスラリーを調製するスラリー調製工程;
前記スラリー調製工程で得られたスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出する抽出工程;
前記抽出工程で得られたスラリーから、上記固液分離装置により、上澄み液と固形分濃縮液とを分離する分離工程;および
前記分離工程で分離された上澄み液から溶剤を分離して無灰炭を得る無灰炭取得工程;
を含むことを特徴とする無灰炭の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る重力沈降−濾過併用式の固液分離装置および固液分離方法によれば、フィルタの長寿命化を達成しながらも、固形分が十分に除去された上澄み液を得ることができる。
本発明に係る無灰炭の製造方法によれば、分離工程においてフィルタの長寿命化を達成しながらも、固形分(溶剤不溶成分)が十分に除去された上澄み液を得ることができる。その結果、灰分が十分に除去された無灰炭を高効率、かつ安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[固液分離装置および固液分離方法]
本発明に係る固液分離装置は、重力沈降法と濾過法とを併用してスラリーから上澄み液と固形分濃縮液とを分離する重力沈降−濾過併用式の装置である。本発明に係る固液分離装置を、図1を用いて詳細に説明する。図1(A)は、本発明に係る固液分離装置の一例の断面構成を示す概略構成図であり、図1(B)は図1(A)の装置を上方から見たときの概略透視図であって、各構成部材の位置関係を示すためのものである。
【0013】
本発明に係る固液分離装置50は、沈降槽1;上澄み液排出管2;フィルタ10;および固形分受け部材3を有するものであり、通常はさらに、蓋部4、スラリー供給管5、固液分濃縮液排出口6を有する。
【0014】
沈降槽1は重力沈降槽であって、スラリーを収容して固形分を沈降させ、上澄み液と固形分濃縮液とを分離するところである。沈降槽1は通常、図1に示すように、胴部が全体として略筒状を有し、底部が逆円錐形状を有するものである。
【0015】
上澄み液排出管2は沈降槽1内の上澄み液を流入させる開口部20を有し、流入した上澄み液を沈降槽外に排出させるものであり、フィルタ10は開口部20を閉塞するように設置され、上澄み液中の固形分を捕捉する。特にフィルタ10は、図1に示すように、固形分捕捉面(濾過面)がスラリー液面(上方向)に対向し、かつ水平面に対して傾斜するように配置される。すなわち、フィルタ10は、固形分捕捉面(濾過面)が図面上、上方向を向きながらも水平面に対して傾斜するように、配置される。そのようなフィルタ10の下端には固形分受け部材3が設置され、フィルタ10の固形分捕捉面上に捕捉された固形分を当該固形分受け部材3が支持する。そのため、上澄み液の濾過・排出の過程で、フィルタ10の固形分捕捉面上には固形分堆積層22が有効に形成され、上澄み液に当該固形分堆積層22およびフィルタ10を通過させることができる。その結果、固形分が十分に除去された上澄み液を排出できるとともに、フィルタの目詰まりを比較的長期間にわたって防止できる。そのような現象のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。フィルタを上記のように傾斜させ、かつ固形分受け部材を用いると、堆積する固形分(未溶解の副生炭)が一定量以上になった後、固形分は流れ落ちるので、適度な厚みで堆積層が形成される。またそのような堆積層には比較的大粒径の固形分も含まれ、粒子間の間隙が適度に確保されるので、当該堆積層はフィルタ効果を発揮する。副生炭は無灰炭が抽出されたことによってさらに多孔質化しているため,粘着性物質を吸収し,フィルタ表面の閉塞を防止する。よって、フィルタの長寿命化を達成しながらも、固形分が十分に除去された上澄み液が得られるものと考えられる。例えば、フィルタを垂直に立てて用いると、粘着性物質が選択的にフィルタの目詰まりを起こすので、フィルタの寿命が短くなる。また例えば、フィルタを水平面に対して平行に用いると、固形分の除去は達成できるものの、堆積層が厚くなりすぎるので、処理量が比較的早期に低下し、結果としてフィルタの寿命が短くなる。また例えば、フィルタの固形分捕捉面がスラリー液面(上方向)を向かずに、沈降槽底部(下方向)を向くように、フィルタを設置すると、粘着性物質が選択的にフィルタの目詰まりを起こすので、フィルタの寿命が短くなる。
【0016】
上澄み液排出管2は、図1において、蓋部5に貫設され、沈降槽1内に収容されたスラリーの上部まで延設されているが、図2に示すように、沈降槽の側壁に貫設されてもよい。
【0017】
開口部20の開口方向は、フィルタ10を上記したように配置できる限り特に制限されない。例えば、開口部は、図1に示すようにスラリー液面方向(上方向)に開口するように形成されてもよいし、または水平方向に開口するように形成されてもよい。図示しないが、開口部がたとえ水平方向に開口するように形成された場合であっても、フィルタの固形分捕捉面(濾過面)がスラリー液面(上方向)に対向し、かつ水平面に対して傾斜するように、フィルタを配置させることはできる。
【0018】
フィルタ10の傾斜角は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、フィルタと水平面とで形成される小さい方の角度で10〜60°が好ましい。特に、本装置を無灰炭の製造方法に使用する場合、上記角度は20〜45°が好ましい。
【0019】
フィルタ10の種類は、スラリーの種類および温度、圧力、目的とする固形分除去率等に応じて適宜選択されてよい。例えば、フィルタの材質については、金属フィルタ、セラミックフィルタ等が使用可能である。また例えば、フィルタの孔径は特に制限されず、例えば、0.1μm〜20mmであってよい。特に、本装置を無灰炭の製造方法に使用する場合、目開き0.5μmの金属フィルタを使用することが好ましい。
【0020】
固形分受け部材3の形態、寸法および材質は、フィルタ10の固形分捕捉面に所望厚みの堆積層が形成されれば特に制限されない。例えば、固形分受け部材の形態は、厚みが比較的薄いシート状のものから、比較的厚いボード状のものまで使用可能で、また網状のものであってもよい。また例えば、固形分受け部材の幅は、図1に示すように、傾斜させて配置されたフィルタ10の下半分の周長またはそれ以上の長さであってもよいし、または図2および図3に示すように、フィルタ10の下半分の周長未満の長さであってもよい。また例えば、固形分受け部材がフィルタから突出する長さは、所望厚みの堆積層が形成されればよく、例えば、10〜50mmであってよい。また例えば、固形分受け部材の材質は、炭素鋼,ステンレス鋼等であってよい。
【0021】
固形分受け部材3によって固形分がせき止められて形成される堆積層の厚みは、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、フィルタ10の固形分捕捉面を基準にした堆積層厚みで5〜100mmであってよい。特に、本装置を無灰炭の製造方法に使用する場合、上記堆積層厚みは10〜50mmが好ましい。
【0022】
蓋部4は沈降槽1の上端部を密閉するものであり、所望により設置され、スラリーを加熱または加圧する必要がある場合に有用である。
【0023】
スラリー供給管5は通常、設置されるものであり、沈降槽1内にスラリーを供給する。スラリー供給管5は、図1において、蓋部4に貫設され、沈降槽1内に収容されたスラリーの下部または中央部まで延設されているが、上澄み液排出管2と同様に、沈降槽1の側壁に貫設されてもよい。
【0024】
固形分濃縮液排出口6は、沈降槽内で分離された固形分濃縮液を排出するためのものであり、通常、設置される。
【0025】
本発明に係る固液分離装置の別の一例を図2および図3に概略的に示す。図2および図3において付された図1と同一の符号は共通するものであり、同じ機能を有する部材を示すものであるので、それらの説明を省略する。
【0026】
図2(A)および(B)の固液分離装置は、上澄み液排出管2を沈降槽1の側壁に貫設したこと以外、図1(A)および(B)の装置と同様である。図2(A)は、本発明に係る固液分離装置の一例の断面構成を示す概略構成図であり、図2(B)は図2(A)の装置を上方から見たときの概略透視図であって、各構成部材の位置関係を示すためのものである。
【0027】
図3(A)および(B)の固液分離装置は、沈降槽1に上澄み液排出管2の開口部20を増設して、沈降槽1と開口部20とを一体化させたこと、上澄み液排出管2を結果として沈降槽1の側壁に貫設したこと、および固形分受け部材3の幅を小さくしたこと以外、図1(A)および(B)の装置と同様である。図3(A)は、本発明に係る固液分離装置の一例の断面構成を示す概略構成図であり、図3(B)は図3(A)の装置を上方から見たときの概略透視図であって、各構成部材の位置関係を示すためのものである。
【0028】
本発明に係る固液分離装置50は、スラリー供給管5によってスラリーを沈降槽1内に連続的に供給しながら、上澄み液を上澄み液排出管2から、固形分濃縮液を固液分濃縮液排出口6から連続的に排出することにより、連続的な分離処理が可能である。
【0029】
本発明に係る固液分離方法においては、上記した固液分離装置50を用いて、スラリー中の固形分を沈降させて上澄み液と固形分濃縮液とを分離する。詳しくは、前記したように、上澄み液の濾過・排出の過程において、水平面に対して傾斜させて設置されたフィルタ10上に、固形分受け部材3による支持によって、固形分堆積層22が形成される。そのため、フィルタの長寿命化を達成しながらも、当該固形分堆積層22およびフィルタ10に上澄み液を通過させて排出することができ、固形分が十分に除去された上澄み液を得ることができる。
【0030】
固液分離装置50内でスラリーを維持する時間は、スラリーを上澄み液と固形分濃縮液とに分離するのに必要な時間であり、特に制限されるものではないが、本発明では30〜300分間程度の時間で十分な分離を達成できる。特に、本装置を無灰炭の製造方法に使用する場合、上記維持時間は60〜180分間が好ましい。
【0031】
固液分離装置50内は、所望により加熱または/および加圧しておくことができる。特に、本装置を無灰炭の製造方法に使用する場合、加熱温度は300〜420℃の範囲とすることが好ましく、圧力は1〜2MPaの圧力範囲とすることが好ましい。
【0032】
そのような方法で固液分離処理された上澄み液は、固形分濃度を全量に対して0.1重量%以下まで低減できる。
【0033】
[無灰炭の製造方法]
本発明に係る無灰炭の製造方法は、石炭に比較的微量で不可避に含まれる灰分等の溶剤不溶成分を、当該石炭から十分に除去して、無灰炭を製造するための方法である。本発明に係る無灰炭の製造方法を、図4を用いて詳細に説明する。図4は、本発明の無灰炭の製造方法を実施する無灰炭の製造装置の一例を示す模式図である。
【0034】
本発明に係る無灰炭の製造方法は、スラリー調製工程、抽出工程、分離工程、および無灰炭取得工程を含み、所望により副生炭取得工程をさらに含むものである。以下、各工程について説明する。
【0035】
<スラリー調製工程>
スラリー調製工程は、石炭原料と溶剤とを混合してスラリーを調製する工程であり、図4中、スラリー調製槽51で実施される。
【0036】
石炭原料は特に制限されず、例えば、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭等が使用される。
【0037】
石炭の分類方法はさまざまなものがあるが,JIS M 1002−1978では発熱量と燃料比によって分類されている。褐炭は無水無灰ベースの発熱量が5800kcal/kg以上7300kcal/kg未満,亜瀝青炭は7300kcal/kg以上8100kcal/kg未満,瀝青炭は8100kg/cal以上で,燃料比が4未満の石炭である。
【0038】
石炭分類法(JIS M 1002−1978)で規定される発熱量は以下の式に基づいて算出される値である。
発熱量(補正無水無灰ベース)=発熱量/(100−1.08×灰分−水分)×100
石炭分類法(JIS M 1002−1978)で規定される燃料比は以下の式に基づいて算出される値である。
燃料比=固定酸素/揮発分
【0039】
溶剤は石炭を溶解可能なものであれば、特に制限されず、例えば、石炭由来の油分が好ましく使用される。石炭由来の油分とは石炭から生まれた油分のことであり、そのような石炭由来の油分として、例えば、2環式芳香族化合物を主とする非水素供与性溶剤が好ましく使用される。
【0040】
非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、2環式芳香族化合物を主とする溶剤である石炭誘導体である。この非水素供与性溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される石炭成分の割合(以下、「抽出率」ともいう)が高く、また、蒸留等の方法で容易に回収可能な溶剤である。そして、この回収した溶剤は、経済性の向上を図るため、循環使用することもできる。
【0041】
非水素供与性溶剤の主たる成分としては、2環式芳香族化合物であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等が挙げられ、その他脂肪族側鎖をもつナフタレン類、また、これにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖をもつアルキルベンゼンが含まれる。
【0042】
溶剤の沸点は特に制限されるものではなく、例えば、抽出工程から分離工程までの圧力低減、抽出工程での抽出率および無灰炭取得工程での溶剤回収率の観点から、180〜300℃、特に230〜280℃のものが好ましく使用される。
【0043】
溶剤に対する石炭原料の濃度は、特に制限されず、通常、乾燥炭基準で10〜50重量%の範囲が好ましく、15〜35重量%の範囲がより好ましい。
【0044】
本工程は抽出された溶質の析出を防ぐため,抽出温度と同程度の温度が望ましく,無灰炭製造方法に用いる場合,300〜420℃の範囲で実施される。
【0045】
<抽出工程>
抽出工程は、前記スラリー調製工程で得られたスラリーを加熱して、溶剤に可溶な石炭成分(溶剤可溶成分)を抽出する工程であり、図4中、予熱器53および抽出槽54で実施される。詳しくは、スラリー調製槽51で調製されたスラリーは、ポンプ52によって、一旦、予熱器53に供給されて所定温度まで加熱された後、抽出槽54に供給され、攪拌機60で攪拌されながら所定温度で保持されて抽出が行われる。
【0046】
抽出工程でのスラリーの加熱温度は、溶剤可溶成分が溶解され得る限り特に制限されず、例えば、溶剤可溶成分の十分な抽出の観点から、好ましくは300〜420℃であり、特に350〜400℃の範囲とする。
加熱時間(抽出時間)もまた特に制限されるものではないが、十分な溶解と抽出率の観点から好ましくは5〜60分間であり、特に20〜40分間の範囲とする。加熱時間は図1中、予熱器53および抽出槽54での加熱時間を合計したものである。
【0047】
抽出工程は不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。抽出工程で酸素に接触すると、発火する恐れがあるため危険であり、また、水素を用いた場合には、コストが高くなるためである。抽出工程で用いる不活性ガスとしては、安価な窒素を用いることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0048】
抽出工程での圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaが好ましい。圧力が溶剤の蒸気圧より低い場合には、溶剤が揮発して液相に閉じ込められず、抽出できない。溶剤を液相に閉じ込めるには、溶剤の蒸気圧より高い圧力が必要となる。一方、圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コストが高くなり、経済的ではない。
【0049】
<分離工程>
分離工程は、前記抽出工程で得られたスラリーから、前記した固液分離装置50を用いて、上澄み液と固形分濃縮液とを分離する工程である。本法において上澄み液は溶剤可溶成分が溶解された溶液部分であり、固形分濃縮液は溶剤不溶成分を含むスラリー部分である。本分離工程において、固形分としての溶剤不溶成分が十分に除去された上澄み液が得られ、しかもフィルタの目詰まりが比較的長期間にわたって防止される。そのメカニズムは前記したメカニズムに基づくものと考えられる。
【0050】
溶剤不溶成分は前記した固形分に相当するものであって、溶剤により石炭の溶解・抽出を行っても、溶剤に溶解されずに残る灰分や該灰分を含む石炭(すなわち副生炭)などの石炭成分である。一方、溶剤可溶成分は、溶剤に溶解され得る石炭成分であり、主として石炭に含まれていた有機成分に由来するものである。
【0051】
固液分離装置50から排出された上澄み液は溶剤分離器57へ排出されるとともに、固形分濃縮液は溶剤分離器58へ排出される。
【0052】
<無灰炭取得工程>
無灰炭取得工程は、前記分離工程で分離された上澄み液から溶剤を分離して無灰炭である無灰炭を得る工程であり、図4中、溶剤分離器57で実施される。
【0053】
上澄み液から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を用いることができ、分離して回収された溶剤はスラリー調製槽へ循環して繰り返し使用することができる。溶剤の分離・回収により、上澄み液からは、実質的に灰分を含まない無灰炭(HPC)を得ることができる。無灰炭は、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、また原料石炭、例えば一般炭よりも高い発熱量を示す。さらに、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、原料石炭、例えば一般炭よりも遥かに優れた性能(流動性)を示す。従って、無灰炭は、コークス原料の配合炭として使用することができる。また、後述する副生炭と混合することによって、配合炭として使用することもできる。
【0054】
<副生炭取得工程>
副生炭取得工程は、必要により実施され、前記分離工程で分離された固形分濃縮液から溶剤を分離して副生炭を得る工程であり、図4中、溶剤分離器58で実施される。
【0055】
固形分濃縮液から溶剤を分離する方法は、前記した無灰炭取得工程と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法を用いることができ、分離して回収された溶剤は、スラリー調製槽へ循環して繰り返し使用することができる。溶剤の分離・回収により、固形分濃縮液からは灰分等を含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭(RC)を得ることができる。副生炭は、灰分が含まれるものの水分が皆無であり、発熱量も十分に有している。副生炭は軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されているため、配合炭として用いた場合に、この配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害するようなものではない。従って、この副生炭は、通常の非微粘結炭と同様に、コークス原料の配合炭の一部として使用することができ、また、コークス原料炭とせずに、各種の燃料用として利用することも可能である。なお、副生炭は、回収せずに廃棄しても良い。
【0056】
本発明に係る無灰炭の製造方法は、以上説明したとおりであるが、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、石炭原料を粉砕する石炭粉砕工程や、ごみ等の不要物を除去する除去工程や、得られた無灰炭を乾燥させる乾燥工程等、他の工程を含めてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る固液分離装置および固液分離方法は、固形分が油性または水性の溶媒中に分散されたスラリーから、上澄み液と固形分濃縮液とを分離する際に有用である。本発明に係る固液分離装置および固液分離方法は、特に、無灰炭製造用スラリーの分離に適している。無灰炭製造用スラリーとは、無灰炭を製造するために石炭を溶剤中で加熱抽出処理したスラリーである。
【0058】
本発明に係る無灰炭の製造方法により製造された無灰炭は、火力発電やボイラーの燃料および高効率複合発電システムや製鉄用コークスの原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(A)は、本発明に係る固液分離装置の一例の断面構成を示す概略構成図であり、(B)は(A)の装置を上方から見たときの概略透視図であって、各構成部材の位置関係を示すためのものである。
【図2】(A)は、本発明に係る固液分離装置の一例の断面構成を示す概略構成図であり、(B)は(A)の装置を上方から見たときの概略透視図であって、各構成部材の位置関係を示すためのものである。
【図3】(A)は、本発明に係る固液分離装置の一例の断面構成を示す概略構成図であり、(B)は(A)の装置を上方から見たときの概略透視図であって、各構成部材の位置関係を示すためのものである。
【図4】本発明に係る無灰炭の製造方法における各工程を説明するための製造装置の模式図である。
【図5】従来の無灰炭の製造方法における各工程を説明するための製造装置の模式図である。
【図6】図5における重力沈降槽およびフィルタユニットを詳しく説明するための概略構成図である。
【符号の説明】
【0060】
1:沈降槽、2:上澄み液排出管、3:固形分受け部材、4:蓋部、5:スラリー供給管、6:固形分濃縮液排出口、10:フィルタ、20:開口部、22:固形分堆積層、50:本発明の固液分離装置、51:スラリー調製槽、52:ポンプ、53:予熱器、54:抽出槽、57:58:溶剤分離器、60:撹拌機、101:スラリー調製槽、103:予熱器、104:抽出槽、105:重力沈降槽、106:フィルタユニット、107:108:溶剤分離器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー中の固形分を沈降させて上澄み液と固形分濃縮液とを分離する固液分離装置であって、
スラリーを収容して固形分を沈降させる沈降槽;
該沈降槽内の上澄み液を流入させる開口部を有し、流入した上澄み液を沈降槽外に排出させる上澄み液排出管;
該上澄み液排出管の開口部に設置され、上澄み液中の固形分を捕捉するフィルタであって、固形分捕捉面がスラリー液面に対向し、かつ水平面に対して傾斜するように配置されたフィルタ;および
該フィルタの下端に配置された固形分受け部材;
を備えたことを特徴とする固液分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の固液分離装置を用いて、スラリー中の固形分を沈降させて上澄み液と固形分濃縮液とを分離する固液分離方法であって、
水平面に対して傾斜させて設置されたフィルタ上に、固形分受け部材による支持によって、固形分堆積層を形成し、該固形分堆積層およびフィルタに上澄み液を通過させて排出することを特徴とする固液分離方法。
【請求項3】
石炭原料と溶剤とを混合してスラリーを調製するスラリー調製工程;
前記スラリー調製工程で得られたスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出する抽出工程;
前記抽出工程で得られたスラリーから、請求項1に記載の固液分離装置により、上澄み液と固形分濃縮液とを分離する分離工程;および
前記分離工程で分離された上澄み液から溶剤を分離して無灰炭を得る無灰炭取得工程;
を含むことを特徴とする無灰炭の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−214000(P2009−214000A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59584(P2008−59584)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「石炭利用技術振興事業石炭利用次世代技術開発調査ハイパーコール利用高効率燃焼技術の開発」に係わる委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】