説明

土または建造物躯体の処理方法

【課題】長時間多価金属との反応を継続させ、効率よく不溶性塩を析出させることができ、地盤中に浸透しやすく、固結しても地盤中の透水性が失われにくく、周囲の環境に影響を与えにくい土または建造物躯体の処理方法を提供する。
【解決手段】多価金属化合物と、微生物栄養源および/または微生物を有効成分とする組成物を土中に注入する等して不溶性塩を形成させる。低圧炭酸ガス容器8−1から電磁弁10−1、減圧弁11−1、炭酸ガス吹出ノズル15を経て多価金属化合物水溶液(A液)貯槽1−1、その他の組成物水溶液(B液)貯槽1−2に炭酸ガスを噴射し、または気液混合装置2で多価金属化合物水溶液と炭酸ガスを混合し、炭酸ガスを吸収した多価金属化合物水溶液を送液管路5介して注入管7に送液する。また、高圧炭酸ガス容器8−2から電磁弁10−2、減圧弁11−2、炭酸ガス吹出ノズル13を経て注入管7中あるいは地盤6に炭酸ガスを噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良あるいは排出土や産業廃棄物や有害物を含む土等の固結といった土の処理、あるいはコンクリート構造物等の建造物の劣化部や亀裂部等を補修する建造物躯体の処理において、微生物の代謝活動を利用する土または建造物躯体の処理方法に関するものである。ここで、構造物躯体とはコンクリート構造物のみならず、石積やブロック積構造物等も含む。
【背景技術】
【0002】
土を固結し地盤を改良するに際して、従来、主成分が水ガラス或いはセメント系の注入材が多く用いられている。これら注入材はいずれも、強アルカリ或いは強酸を使用する場合が多く、このため、取り扱いに注意が要求され、また、地盤中の地下水がアルカリや酸によって汚染される危険があり、環境上からも好ましいものではない。さらに、セメント系注入材の場合、地盤への浸透性に限界があった。
【0003】
さらに、コンクリート構造物等の構造物躯体の劣化部や亀裂部の補修に際して、従来、有機系或いは無機系の塗料をこれら劣化部や亀裂部に塗布することにより、耐酸性、水密性、耐海水性を改良している。特に、コンクリートは酸と接触すると、中性化される。例えば、空気中の炭酸ガスによっても比較的短期間に中性化される。また、コンクリート躯体に鉄筋が内蔵されている場合には、鉄筋のさびによる膨脹のためにコンクリート構造物が破壊されてしまう。
【0004】
以上の問題を解決するために、本出願人によって特許文献1(特開2004−067819号公報)記載の発明が出願されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−067819号公報
【特許文献2】特公平07−057870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の水ガラス系注入材は地盤中でシリカの含水ゲルを生成して止水性を向上させるものであるが、そのために水ガラスのシリカ分を高濃度にするとゲル化時間が短くなり広範囲を固結することが出来ず、またゲル化時間を長くするために反応材を少なくすると未反応水ガラスのアルカリによりシリカゲルが再溶出して耐久性が得られないという問題がある。
【0007】
また、水ガラスと塩化カルシウムを用いる注入材の場合には、これらの水溶液を混合すると、瞬時に、ほぼ全部がゲル化してしまうため、注入管の周辺しか固結できなかった。さらに、懸濁型注入材の場合には、高強度に固結するが、注入材の浸透距離に限界があり、地盤の改良範囲を広くすることができない。
【0008】
また、水ガラス系注入材で改良された地盤ではアルカリが強いため、地上の樹木等に影響を与える等の水質上の問題がある。
【0009】
本発明者らによる先願である特許文献1(特開2004−067819号公報)記載の発明は、注入材として、アルカリ土金属化合物と炭酸や炭酸塩を用い、この注入液を土中に浸透または注入し、または土と混合し、或いはこの注入液をコンクリート躯体に吹きつけ、浸透、塗布または注入して炭酸カルシウム等の不溶性塩を形成し、アルカリ汚染を生じることなく、水質汚染を生じることのない発明にかかわるものである。
【0010】
さらにまた、前記先願発明の目的は高強度に土を固結することはもちろん、広範囲に、かつ高強度に地盤をも改良し、さらに、均一地盤を改良しても、その透水性の程度を調整することができて地下水の流れを大きく変更させることがなく、しかも、コンクリートの比較的表面で緻密な層を形成し、さらにまた、コンクリート構造物の劣化部や亀裂部を補修して中性化を防止し、前述の公知技術に存する欠点を改良した土の固結方法およびコンクリート躯体の処理方法を提供することにあった。
【0011】
しかし、多価金属化合物として水溶性のCaCl2と難溶性のCa(OH)2を例とした場合、炭酸塩として重炭酸ソーダや炭酸ソーダのような炭酸塩のように水溶性の場合、容易に地下水と共に溶脱しやすいため、固結性が低い。また、炭酸カルシウムのように難溶性の場合は溶解度が低くやはり反応性が低いため、固結性が低い。また、炭酸塩の代わりに炭酸ガス(炭酸水も含む)を地盤中に吹き込む場合、炭酸ガスは地下水と分離して反応しにくいという問題がある。
【0012】
このように前記先願発明は地下水の存在下で多価金属化合物と炭酸塩との接触時間は短く、反応性が低いことから固結性が低いことに問題があった。
【0013】
本発明は上記問題を解決することを目的とし、微生物代謝によって生ずる炭酸ガスを利用することで、長時間多価金属との反応を継続させ、経済的に、効率よく不溶性塩を析出させることができ、地盤中に浸透しやすく、固結しても地盤中の透水性が失われにくく、周囲の環境に影響を与えにくい土または建造物躯体の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明は多価金属化合物と、微生物栄養源および/または微生物を有効成分とする組成物を、土、廃棄物または建造物躯体中に浸透させまたは注入し、または土または廃棄物と混合し、または建造物躯体表面に吹き付けまたは塗布し(被膜による被覆など)、微生物の代謝を利用して不溶性塩を形成させることで、する多価金属化合物と、微生物栄養源および/または微生物を有効成分とし、土中に浸透または注入し、または土と混合して、または建造物躯体に浸透または吹き付けてまたは被覆して不溶性塩を形成させ、土または建造物躯体を処理する。
【0015】
本発明における微生物とは、細菌、藻類、かび、放線菌、原生動物などである。
【0016】
本発明は微生物が地盤中において、或いは廃棄物中においてその栄養源がある限り長期間増殖しつづけて、その間、代謝作用として炭酸ガスを生産し続けその炭酸ガスは水に溶けて、炭酸水となって多価金属化合物と反応し、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム、或いは水酸化マグネシウム当の不溶性の多価金属化合物となって、長期にわったて土の間隙や岩壁の亀裂やコンクリートの割れ目に沈殿し、土や岩壁やコンクリートの構造物を固結強化し続けることに着目したものである。
【0017】
このため単なる炭酸ガスや炭酸水のような一時的な反応と異なり、長時間経済的に炭酸ガスが生成し、土中水に溶解して多価金属と反応し続け、不溶性塩が析出し続けることになる。
【0018】
本発明の原理を以下に説明する。
【0019】
微生物は好気性条件下、嫌気性条件下において以下のような代謝反応を行う。
好気性条件: CnH2nOn(栄養源)+ nO2nCO2 + nH2
嫌気性条件: 3CnH2nOn(栄養源) → nCO2 + nC25OH
【0020】
微生物は栄養源の代謝により好気性条件下においては二酸化炭素と水を、嫌気性条件下においては二酸化炭素とアルコールを生成する。
【0021】
この微生物の代謝を利用し、発生した二酸化炭素がカルシウムイオンと反応し地盤中の間隙や岩の割れ目に炭酸カルシウムを析出・沈殿させることができる。
【0022】
Ca2+ + CO2 + H2O → CaCO3 +2H
【0023】
さらに、上述の目的を達成するため、本発明の建造物躯体の処理方法によれば、アルカリ土金属化合物と、微生物栄養源および/または微生物を有効成分とし、または、多価金属化合物を有効成分と組成物と、微生物栄養源および/または微生物を有効成分と組成物を、その他の組成物の混合物、或いはこれらのいずれかをA液、B液に分けて土に浸透または混合せしめ、或いは建造物躯体に吹き付け、浸透、塗布または注入して不溶性塩を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
上述の本発明によれば、多価金属化合物と微生物栄養源および/または微生物を有効成分として土中またはコンクリート躯体中に浸透(注入も含む)混合、または被膜(吹き付けまたは塗布)によって不溶性塩を形成することにより、微生物の代謝活動により有害物を発生せず、環境への悪影響を与えることなく土などを固化させることができ、或いは排出土等を固結させたり、コンクリート構造物の劣化部や亀裂部等を補修することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体的に詳述する。
【0026】
本発明にかかる土の固結方法および建造物躯体の処理方法はいずれも、注入材として、多価金属化合物と、微生物栄養源および/または微生物を有効成分と混合液またはいずれかの有効成分をA液とし、他をB液として用いても良い。
【0027】
従来の水ガラスグラウト等による注入では、注入中、注入材がゲル化時間に達すれば、流動性が失われて急激に圧力が上昇する。さらに、それ以上注入すれば、地盤が破壊して地盤の弱体化或いは地盤変位を来す。
【0028】
また、水ガラスは硬化剤の塩化カルシウムと接触すると、瞬時に両液のカルシウム分とシリカ分の全量が反応して流動性のないゲルを生じる。このため、水ガラス系では注入範囲がせまく、また、繰り返して注入しても破壊や地盤隆起を起こしてしまう。
【0029】
これに対して、本発明では土中またはコンクリート躯体中に微生物栄養源および/または微生物を混合すると、微生物の代謝により二酸化炭素が放出され多価金属イオンと反応し土粒子間、またはコンクリート躯体間に析出し空隙を埋めるもので、極めてゆるやかに反応し、液全体がゲル化しないので流動性がそこなわれることはない。
【0030】
このため、液をそのまま注入しても全量が直ちに反応せず、地盤中の粒子表面に白濁分が付着する程度であって、そのまま地盤中に浸透する。しかし、そのまま注入し続けると、どこまでも流出してしまうので、ある程度注入した時点で注入を中断し、加圧をやめれば、その領域の土粒子間隙に注入液が保持されたまま反応が進行する。
【0031】
したがって、この工程を繰り返せば、土粒子表面に付着する反応生成物が徐々に厚くなり、最終的には土粒子間隙が反応生成物で填充され、しかも必要以上の範囲まで注入液が逸脱しないですむ。
【0032】
また、微生物は地盤中に自然のまま、或いは人工的に加えた栄養源が存在すれば増殖しつづけるので、その間炭酸ガスを発生し長期にわたって地盤を強化し続ける。
【0033】
本発明者らは微生物の代謝により生成された二酸化炭素と多価金属化合物との反応の挙動が従来の水ガラス系グラウトのゲル化と極めて異なる点に着目し、この特性を利用して地盤中で不溶性多価金属化合物を形成し、本発明を完成した。
【0034】
上述多価金属化合物と微生物栄養源および/または微生物を土中、地盤中ないしはコンクリート躯体中で反応させれば、反応生成物である炭酸ガスによって多価金属の炭酸塩、鉱物、方解石、しょう乳石等に類似した沈殿物を人工的に生ぜしめることが可能である。
【0035】
例えば多価金属がCa、Mgの場合、CaCO3、MgCO3等を、Alの場合Al(OH)3等を形成して沈殿する。例えば、アルミン酸ナトリウム水溶液にCOを反応させると、Al(OH)3が生成し結晶性のものが沈殿する。
【0036】
NaAlO3+2H2O+CO2→Al(OH)3+NaHCO3
【0037】
また、多価金属化合物がCaCl2のように水溶性でなくて、CaCO3、CaSO4、Mg(OH)2、Ca(OH)2等のように難溶性塩であっても、その水溶液中にはCa、Mgがイオンとなって溶解しているため、これらが炭酸ガスと反応して難溶性塩の固形分が浸透できない細かい土粒子間や亀裂中に侵入して沈殿物を形成して透水性を閉塞して止水硬化を生ずる。
【0038】
このようにして得られた炭酸カルシウムを主成分とする硬化物はアルカリ分や酸類を溶出せず、全く公害性のない硬化物である。これはほぼ中性でありながら、長期的にしょう乳洞にみられる結晶構造を人工的に形成している。したがって、配合や施工法を工夫することによって、強度や、結晶構造の形成速度を促進させることができる。
【0039】
この現象は他の硫酸や燐酸の化合物と、多価金属化合物との反応においても同様である。なお、本発明では上述配合液、或いはA液およびB液の両方またはいずれか一方を加温することにより、結晶構造の形成が一層促進され、強度増加が早くなる。
【0040】
多価金属化合物は例えばアルカリ土金属化合物であって、具体的には、カルシウムやマグネシウムの酸化物、水酸化物、塩化物等が挙げられ、この中で特に、消石灰、塩化カルシウムや塩化マグネシウム等のアルカリ土金属塩化物が好ましい。さらに、カルシウム塩、マグネシウム塩やカルシウム、マグネシウムやアルミニウムの水酸化物や炭酸塩、これらを含む微粒子石灰、微粒子セメント等も挙げられる。
【0041】
これら微粒子石灰や微粒子セメントとしては、平均粒径が10μm以下、比表面積が5000cm2/g以上のものが好ましい。これらのアルカリ土金属化合物は単独で、または複数種を組み合わせて用いられる。
【0042】
これらの難溶性多価金属化合物を含む注入液は溶解度に相当する多価金属イオンを含むため、これらの混合物を地盤中に注入すると固形分が大きな割れ目や土粒子間に充填され、上澄み液に相当する部分が細い亀裂や土粒子間に浸透し、長期に渡って微生物の代謝によって生じた炭酸ガス、或いはそれが溶解した炭酸水によって炭酸カルシウムを沈殿させて止水性を付与する。
【0043】
また、この際大きな粒径の炭酸カルシウムとカルシウムイオンと炭酸水による炭酸カルシウムが一体となった固結体が形成される。上記においてA液としてアルカリ土金属を含有させた場合、A液中のアルカリ土金属化合物の濃度は特に限定されないが、1〜30重量%が好ましい。
【0044】
さらに、B液を構成する化合物は微生物栄養源および/または微生物を有効成分としても良い。勿論これらの一部をA液側に混合しても良い。また、上記本発明全組成物の混合液とA液またはB液を同時或いは時間差をおいて地盤中に注入して地盤中の反応を促進してもよい。
【0045】
本発明に用いられる微生物は人体や環境に影響を与えにくいものならば、使用可能である。特に、乳酸菌やイースト菌、納豆菌、その他の酵母類等、従来食品に利用されているものや、一般の地盤中に多く存在するものも利用できる。例えば圃場の泥土を採取してその混合液或いはその上澄液を用いても良い。また、アンモニアからの硝化により硝酸カルシウムを析出させることもでき、施工地盤によって微生物の使い分けが可能である。
【0046】
また、本発明により析出するカルシウム塩とは炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、二酸化アルミニウム、燐酸カルシウム、マグネシウム塩等で、注入する微生物や地盤に生息する微生物に影響される。
【0047】
微生物栄養源とは微生物の栄養源となるものであり、好ましくは土壌中の微生物によって代謝分解される糖類である。例えば、グルコースやフラクトースなどの単糖類、スクロース、マルトース或いはガラクトースなどの2糖類、その他のオリゴ糖、でんぷんやマルトデキストリンなどの多糖類、その他糖類を例示することができる。微生物によって、或いは有機栄養源によって代謝速度が変化するため、施工時地盤によって選択する必要がある。
【0048】
B液中の化合物の濃度はA液の多価金属化合物との反応が十分に行われる濃度であって、A液の濃度およびA、B液の使用割合にも関係するが、好ましくは0.1〜30重量%である。
【0049】
また、コンクリート躯体の表面処理の際は全液組成分の混合液か、A液とB液を混合したものを使用するか、先にA液で処理した後、B液で処理するのが好ましい。特に、コンクリート躯体の表面処理の際に、出来るだけコンクリート内部まで処理する場合には、低濃度液を用い、繰り返して吹き付け、浸透、塗布または注入を行う。また、透水性の悪い地盤を固結する際に、出来るだけ地盤内部まで固結する場合には、やはり低濃度液を用い、繰り返して土中に浸透または注入し、または土と混合する。
【0050】
本発明にかかる上述の全組成物の混合液はA液およびB液は地盤注入等、土の固結の場合には、これらを土中に浸透または注入し、または土と混合して不溶性塩を形成させ、土を固結する。さらに、コンクリート等建造物躯体の処理の場合には、これらをコンクリート躯体に吹き付け、浸透、塗布または注入して不溶性塩を形成する。これらの浸透、注入または混合、或いは吹き付け、浸透、塗布、または注入は繰り返して行う。
【0051】
これらのA液およびB液は土の固結の場合、次の(1)〜(5)のいずれかの方式で土中に浸透または注入され、または土と混合され、さらに、コンクリート躯体の処理の場合もまた、以下の(1)〜(5)のいずれかの方式でコンクリート躯体に吹き付け、浸透、塗布または注入され、いずれも不溶性塩を形成する。
【0052】
(1) A液およびB液を別々に、または交互に土中に浸透または注入し、または土と混合し、或いはコンクリート躯体に吹き付け、浸透、塗布または注入する。
(2) 全組成分の混合液または、A液およびB液を別々に土中に浸透または注入し、或いはこれらを併用して注入し、または土と混合し、或いはコンクリート躯体に吹き付け、浸透、塗布または注入する。
(3) A液およびB液を別々に注入管を通して土中に浸透または注入し、または土と混合し、或いはコンクリート躯体に吹き付け、浸透、塗布または注入する。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかを繰り返す。
(5) 前記(1)〜(3)のうちの二つ以上を併用し、または併用を繰り返す。
【0053】
さらに、上述のA液およびB液は地盤注入による土の固結の場合、またはコンクリート躯体の処理の場合、地盤中に注入管を埋設し、またはコンクリート躯体に注入管を挿入し、これら注入管を通じて所定の圧力範囲になるまで、または注入圧が上昇して注入困難になるまで、または所定の注入量に達するまで、繰り返して土中に浸透または注入され、或いはコンクリート躯体に注入される。
【0054】
なお、本発明にかかるコンクリート躯体としては、トンネルの内壁面、コンクリート建造物の内外壁面、橋脚、高速道路側面、コンクリート擁壁、岩盤や斜面のモルタルやコンクリート吹付層等が挙げられる。
【0055】
本発明に用いられる炭酸ガスは炭酸ガスまたは炭酸ガスを圧力下で水に溶解させた炭酸水であり、炭酸ガスを多価金属化合物と微生物および/または栄養源に吹き込んで注入しても良いし、また、炭酸ガスをあとから地盤中に注入して初期における炭酸カルシウムの析出による固結を加速して、長期的には微生物代謝による炭酸ガスの反応により炭酸カルシウムを形成しても良い。
【0056】
地盤中に炭酸ガス或いは炭酸ガスと水ガラスの混合液を吹き込む方法や装置は本出願人によって(例えば、特許文献2:特公平07−057870号公報等)、既に開発されている。
【0057】
以下、本発明を実施例により具体的に詳述する。
【実施例1】
【0058】
炭酸カルシウムの析出実験
微生物によるアルカリ土金属化合物の硬化実験を行った。
アルカリ土類金属化合物としては、石灰0.59gを25mlの蒸留水に溶解したもの(石灰水)と、貝殻を多く含む地盤300gを採取し、500mlの蒸留水でよく撹拌後、ろ過した液(ろ過液)25mlの2種類を用意した。
【0059】
微生物としてはイースト菌(日清フーズ株式会社製、商品名:日清スーパーカメリヤ)0.5g、栄養源としてグルコースC6H12O6を0.7gそれぞれ添加した。
25℃に静置し24時間後に観察を行った。
【0060】
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
1)カルシウムを含む液において微生物を添加した場合、白色の炭酸カルシウムの析出が見られた。また有機栄養源を加えることで析出量が多くなった(実施例2、4)。
2)カルシウムは含むが微生物が存在しない液では炭酸カルシウムの析出がみられなかった(比較1,2)。
3)また、カルシウムを含まない液に微生物や有機栄養源を添加しても炭酸カルシウムの析出は見られなかった(比較3、4)。
【実施例2】
【0063】
アルカリ土類金属化合物と栄養源、微生物を配合した薬液を用い透水試験を行った。
【0064】
(1) 使用材料
アルカリ土類金属化合物:
消石灰 比表面積:10,000cm2/g
塩化カルシウム2水塩 試薬1級
塩化マグネシウム6水塩 試薬1級
栄養源:グルコース
微生物:イースト菌(日清フーズ株式会社製、商品名:日清スーパーカメリヤ)
【0065】
(2) 配合
塩化カルシウム(2水塩)を水に溶解して20(重量)%の溶液を調製した。同様に他のアルカリ土類金属化合物についても調製してそれぞれA液とし、これらを表2に示した。
【0066】
【表2】

【0067】
B液としてグルコースと微生物をそれぞれ50gずつとり、水を加え全量を500mlとし攪拌した。液表面に細かい泡が見えるまで1時間ほど放置した。
【0068】
(3) 土中への浸透試験
直径5cm、長さ1mのプラスチック製モールドに豊浦砂を90cm充填した。(相対密度60%、透水係数=1.5×10-2cm/s)。次いで、1000mlの水を自然流下させた。つぎに、A液500mlとB液500mlを混合し自然流下させた。
【0069】
A液およびB液の混合液の自然流下は1サイクルとした。このサイクルは5サイクルと10サイクルの2種類で行った。終了後モールドの上下をラップフィルムで密封し、室内養生した。一軸圧縮強度は養生7日後に測定した。
【0070】
(4) 透水試験
固結物をモールドから脱型し、測定法(地盤工学会基準)に準じた加圧透水試験を行った。水圧は0.1MPaとした。
【0071】
(5) 透水試験、一軸圧縮強度の結果
水のみの場合と、本発明を比較した結果を表3に示す。
【0072】
水のみの場合に比べ、本発明の実施例ではどれも透水係数が約1〜2桁低下しており、また0.14〜0.20MN/m2の一軸圧縮強度が得られており、地盤の止水効果と固結効果が得られることがわかった。
【0073】
表3に5サイクル繰り返した場合の結果と10サイクル繰り返した場合の透水係数と一軸圧縮強度を示す。10サイクル繰り返した場合は透水係数が5サイクルよりもさらに一桁減少した。
【0074】
この結果より本発明は一般の水ガラスのように1回の注入で不透水性になるわけではないが、注入を繰り返すことにより透水性が低下することがわかった。これは生成した炭酸カルシウムが土粒子の間隙に沈積を繰り返すためと思われる。
【0075】
したがって注入の繰り返しの程度によって透水性の低下を任意にコントロールすることが出来ることが判った。また、透水性を低下させる一方、完全に止水性にしないように透水性を保持しながら固結効果を得るという特徴は地盤中の本来ある地下水脈は保持しながら地盤改良を行うというきわめて特異な効果が得られるという特徴を持つことが判った。
【0076】
また、このような特徴は道路下の地盤の支持力は増加しながら排水機能は持たすという画期的な利用効果を持つ。また、地盤を強化しながら排水機能は保持するために斜面の補強に使用すれば地すべり防止に画期的な地盤改良を可能にする。
【0077】
【表3】

【実施例3】
【0078】
本発明、アルカリ土金属化合物に、栄養源、微生物を加えたものにさらに組成物を加えたものを対象に透水係数を測定した。
【0079】
(1) 使用材料
アルカリ土金属化合物:
水酸化カルシウム:消石灰 比表面積:10,000cm2/g
塩化カルシウム2水塩 試薬1級
栄養源:グルコース
微生物:イースト菌(日清フーズ株式会社製、商品名:日清スーパーカメリヤ)
添加組成物:
水溶性ウレタン樹脂
炭酸カルシウム(難溶性カルシウム)
【0080】
(2) 浸透試験
実施例2の浸透試験と同様に行った。サイクル数は1回とした。
【0081】
(3) 一軸圧縮強度の測定
上記の実験(浸透試験)で得られた固結体(サンドゲル)の下部5cmを切断し、その後、各10cm間隔で切断した。固結体をモールドから脱型し、28日間ラッピング材に包み養生した後、一軸圧縮強度を測定した。
【0082】
(4) 結果
アルカリ土金属化合物、微生物栄養源、微生物の配合液にさらに併用組成物として水溶性ウレタン、難溶性カルシウム化合物を有効成分とする組成物を併用した。
【0083】
なお、難溶性カルシウム化合物の懸濁液の調製は、所定量の水を攪拌しながら、所定量の難溶性カルシウム化合物を徐々に添加して、難溶性カルシウム化合物の5(重量)%懸濁液とした。結果を表4に示す。
【0084】
水溶性ウレタン、難溶解性カルシウムを添加したものはそれぞれ一軸圧縮強度の値が上がった。
【0085】
【表4】

【実施例4】
【0086】
(1) 配合
実施例2の配合を用いた水酸化カルシウムと微生物栄養源、および微生物を用いた。
液は20℃のものと、加熱して35℃に設定したものを用いた。
【0087】
(2) 実験方法
1)コンクリート浸漬試験
モルタル供試体(5Φ×10cm)を本発明の混合液150mlに所定時間浸漬後、モルタル供試体を液から取り出し、軽く拭いた後、放置し1サイクルとした。浸漬後、液から取り出し、供試体をラップで包み、室内養生した。
【0088】
2)コンクリート塗布試験
モルタル供試体(5Φ×10cm)の全面に本発明の混合液を幅4cmのハケで塗布した。塗布量は、塗布後のモルタル供試体の重量変化で確認した。塗布後、室温に30分以上放置し、これを1サイクルとした。
【0089】
3)コンクリート吹付け試験
モルタル板(5×10cm、厚さ1cm)の片面に塗装機により、本発明の混合液を吹付け、30分以上放置した。これを1サイクルとし数回吹き付けた。
【0090】
(3) 結果
結果を表5に示す。浸透、塗布、吹付のいずれでも、透水係数が低下し改善が見られた。
液温を加熱し、35℃に上げたものはコンクリートへの浸透性が良く、液温20℃と比べ透水係数が下がった。
【0091】
【表5】

【0092】
さらに、本発明の地盤注入剤に炭酸ガス、炭酸水を加え、不溶性塩を形成する場合、
1)アルカリ土金属を有効成分とするA液に炭酸ガスを吹き込む、または炭酸ガスを吹き込んだ水(炭酸水)を配合する方法。
2)微生物栄養源および/または微生物を有効成分、その他の化合物を有効成分とするB液に炭酸ガスを吹き込む、または炭酸ガスを吹き込んだ水(炭酸水)を配合する方法。
3)上記A液B液を混合した液に炭酸ガスを吹き込む、または炭酸ガスを吹き込んだ水(炭酸水)を配合する方法。
4)上記A液、B液を土中またはコンクリート躯体中に浸透(注入も含む)混合、または皮膜(吹き付けまたは塗布)後、或いは同時に炭酸ガスを浸透混合または皮膜、または炭酸ガスを吹き込んだ水(炭酸水)を浸透混合または皮膜する方法。
を用いることも出来る。
【実施例5】
【0093】
本発明、アルカリ土金属化合物に、栄養源、微生物を加えたものにさらに炭酸ガスを併用したものを対象に透水係数を測定した。
【0094】
(1) 使用材料
アルカリ土金属化合物:
水酸化カルシウム:消石灰 比表面積:10,000cm2/g
塩化カルシウム2水塩 試薬1級
栄養源:グルコース
微生物:イースト菌(日清フーズ株式会社製、商品名:日清スーパーカメリヤ)
添加組成物:炭酸ガス
【0095】
(2) 配合
実施例2の配合と同様のものを用いた。
【0096】
(3) 土中への浸透試験
直径5cm、長さ100cmのプラスチック製モールドに標準砂を90cm充填した。(相対密度60%、透水係数=1.5×10-2cm/s)。
【0097】
次いで、1000mlの水を自然流下させた。つぎに、A液500mlとB液500mlを混合し自然流下させた。
【0098】
A液およびB液の混合液に炭酸ガスをガスボンベからノズル(吹出量20g/min)で送り混合したものを自然流下した。これを1サイクルとし、このサイクルを5サイクル行った。
【0099】
本実施例の結果を表6に示す。炭酸ガスを吹き込むことにより透水係数が低くなったことがわかった。
【0100】
【表6】

【0101】
図1は本発明において実際の地盤において炭酸ガスを混合する方法を説明したフローシートであって、主にA、B液送液管路5、複数系統(図1では2系統)の炭酸ガス圧送管路、すなわち、高圧炭酸ガス圧送管路12および低圧炭酸ガス圧送管路14、および地盤6中に挿入された注入管7を含んで構成される。
【0102】
A、B液送液管路5は多価金属化合物水溶液1-1組成物水溶液貯槽1-2から地盤6中に挿入された注入管7に配管され、図1に示されるように上流側からそれぞれ、気液混合装置2、注入ポンプ3および流量計4が送液管路5に配置される。
【0103】
高圧炭酸ガス圧送管路12は高圧炭酸ガス容器8−2と連結管9−2を介して連結され、注入管7まで配管される。管路12内には電磁弁10−2、減圧弁11−2および炭酸ガス吹き出しノズル13がそれぞれ配置される。この炭酸ガス吹き出しノズル13は図示しないが注入管7に備えることもできる。
【0104】
低圧炭酸ガス圧送管路14は上述高圧炭酸ガス圧送管路12と同様、圧力の低下された高圧炭酸ガス容器8−1と連結管9−1を介して連結され、水溶液貯槽1-1,1-2、または水ガラス水溶液送液管路5の気液混合装置2よりも上流側まで配管される。管路14内には上述と同様、電磁弁10−1、減圧弁11−1および上記と同様な炭酸ガス吹き出しノズル15がそれぞれ配置される。
【0105】
上述構成からなる本発明装置によれば、溶液送液管路5の上流側、または多価金属化合物水溶液貯槽1中に、低圧炭酸ガス圧送管路14を介し、低圧炭酸ガス容器8−1から電磁弁10−1、減圧弁11−1および炭酸ガス吹き出しノズル15を経て水溶液に炭酸ガスを噴射し、次いで、気液混合装置2で水溶液と炭酸ガスを充分混合して炭酸ガスの水溶液への吸収率を高め、かつ注入ポンプ3により炭酸ガスの吸収された多価金属化合物水溶液を液送液管路5介して注入管7に送液する。
【0106】
さらに、高圧炭酸ガス圧送管路12を介し、高圧炭酸ガス容器8−2から電磁弁10−2、減圧弁11−1および炭酸ガス吹き出しノズル13を経て注入管7中に炭酸ガスを噴射する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明にかかる注入材の注入装置の一具体例の説明図である。
【符号の説明】
【0108】
1 水溶液貯槽
2 混合槽
3 注入ポンプ
4 流量計
5 水溶液送液管路
6 地盤
7 注入管
8 炭酸ガス容器
9 連結管
10 電磁弁
11 減圧弁
12 高圧炭酸ガス圧送管路
13 炭酸ガス吹出ノズル
14 低圧炭酸ガス圧送管路
15 炭酸ガス吹出ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価金属化合物と、微生物栄養源および/または微生物を有効成分とする組成物を、土、廃棄物または建造物躯体中に浸透させまたは注入し、または土または廃棄物と混合し、または建造物躯体表面に吹き付けまたは塗布し、微生物の代謝による不溶性塩を形成することを特徴とする土または建造物躯体の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の土または建造物躯体の処理方法において、前記組成物とともに、さらに炭酸、炭酸ガス、炭酸水、重炭酸、硫酸、燐酸、硝酸、およびこれらのアルカリ金属化合物または多価金属化合物、樹脂の群から選択される一種または複数種を有効成分とする組成物を併用し、不溶性塩を形成することを特徴とする土または建造物躯体の処理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の土または建造物躯体の処理方法において、前記多価金属化合物組成物は、多価金属の塩化物、炭酸塩、水酸化物、硫酸塩、およびセメントまたはスラグの群から選択される一種または複数種である土または建造物躯体の処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の土または建造物躯体の処理方法において、前記組成物とともに、さらに反応調整剤を併用する土または建造物躯体の処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4記載の土または建造物躯体の処理方法において、前記組成物を構成するいずれかまたは複数の材料を有効成分とする液をA液、前記組成物の残りの一部または全部を有効成分とする液をB液とし、A液およびB液、または前記組成物の1液としての混合液を以下の(1)〜(5)のいずれかの方式で、土、廃棄物または建造物躯体中に浸透させまたは注入し、または土または廃棄物と混合し、または建造物躯体表面に吹き付けまたは塗布する土または建造物躯体の処理方法。
(1) A液およびB液を別々に、または交互に、土、廃棄物または建造物躯体中に浸透させまたは注入し、または土または廃棄物と混合し、または建造物躯体表面に吹き付けまたは塗布する。
(2) A液およびB液の混合液を、土、廃棄物または建造物躯体中に浸透させまたは注入し、または土または廃棄物と混合し、または建造物躯体表面に吹き付けまたは塗布する。
(3) 前記組成物の1液としての混合液を、土、廃棄物または建造物躯体中に浸透させまたは注入し、または土または廃棄物と混合し、または建造物躯体表面に吹き付けまたは塗布する。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかを繰り返す。
(5) 前記(1)〜(3)のうちの二つ以上を併用し、または併用を繰り返す。
【請求項6】
請求項1または5記載の土または建造物躯体の処理方法において、前記組成物、または前記A液およびB液は、注入管を通じて所定の圧力範囲になるまで、または注入圧が上昇して注入困難になるまで、または所定の注入量に達するまで、繰り返して土中または構造物躯体に浸透または注入される土または建造物躯体の処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載の土または建造物躯体の処理方法において、前記組成物、またはA液および/またはB液を加温する土または建造物躯体の処理方法。
【請求項8】
請求項1〜6記載の土または建造物躯体の処理方法において、炭酸ガスまたは炭酸水を併用して、初期の改良度を促進する土または建造物躯体の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−63495(P2008−63495A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244593(P2006−244593)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】