説明

土壌・地下水の浄化処理用浄化剤及びその製造法、その運搬方法並びに土壌・地下水の浄化処理方法

【課題】 本発明は、土壌又は地下水中に含まれる脂肪族有機ハロゲン化合物、芳香族有機ハロゲン化合物、重金属等を効率よく、持続的に、しかも経済的に分解・不溶化できる浄化剤を提供するものである。
【解決手段】 土壌・地下水の浄化処理に用いる浄化剤であって、該浄化剤はα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子を含有する水懸濁液を凍結させた固形物であって、前記鉄複合粒子は平均粒子径が0.05〜0.50μmであってS含有量が3500〜10000ppmであってAl含有量が0.10〜1.50重量%である土壌・地下水浄化処理用浄化剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌又は地下水中に含まれるジクロロメタン、四塩化炭素、1、2−ジクロロエタン、1、1−ジクロロエチレン、シス−1、2−ジクロロエチレン、1、1、1−トリクロロエタン、1、1、2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン及び1、3−ジクロロプロペン等の脂肪族有機ハロゲン化合物、ダイオキシン類、PCB等の芳香族有機ハロゲン化合物、カドミウム、鉛、クロム、砒素、セレン、シアン等の重金属等を効率よく、持続的に、しかも経済的に分解・不溶化できる浄化剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の脂肪族有機ハロゲン化合物は、半導体工場での洗浄用や金属加工金属の脱脂用として幅広く用いられている。
【0003】
また、都市ごみや産業廃棄物を焼却するごみ焼却炉から発生する排ガスや飛灰、主灰中には、微量ではあるが人体に対して極めて強い毒性を持つ芳香族有機ハロゲン化合物であるダイオキシン類が含まれている。ダイオキシン類は、ジベンゾ−p−ジオキシン、ジベンゾフラン等の水素が塩素で置換された化合物の総称である。排ガスや飛灰はごみ焼却炉周辺に滞留し周辺地域の土壌中にダイオキシン類が残存することとなる。
【0004】
更に、PCB(ポリ塩化ビフェニル)は化学的、熱的に安定であり、電気絶縁性にも優れており、トランス、コンデンサーの絶縁油、可塑剤、熱媒体として多用されていたが、有害であることから製造及び使用が禁止されている。しかしながら、過去において使用されていたPCBの有効な処理方法は確立されておらず、大部分が処理されずにそのまま保存されている。
【0005】
脂肪族有機ハロゲン化合物及び芳香族有機ハロゲン化合物等の有機ハロゲン化合物類は難分解性である上に発癌性物質又は強い毒性を有する物質であるため、土壌・地下水の有機ハロゲン化合物類による汚染が深刻な環境問題になっている。
【0006】
即ち、前記有機ハロゲン化合物類が排出された場合、有機ハロゲン化合物類は難分解性であるため、排出された土壌中に蓄積され有機ハロゲン化合物類で汚染された状態となり、また、地下水も有機ハロゲン化合物類によって汚染されることとなる。更に、地下水は汚染土壌以外の周辺地域についても広がるため、広範な領域で有機ハロゲン化合物類による汚染が問題となる。
【0007】
有機ハロゲン化合物類によって汚染された土壌では土地の再利用・再開発を行うことができないため、有機ハロゲン化合物類によって汚染された土壌・地下水の浄化処理方法として様々な技術手段の提案がなされているが、有機ハロゲン化合物類は難分解性であり、しかも、多量の土壌・地下水が処理対象となるため、効率的、且つ、経済的な浄化技術は未だ十分に確立されていない。
【0008】
有機ハロゲン化合物類によって汚染された土壌の浄化方法として、各種触媒を用いて浄化処理する方法、有機ハロゲン化合物類の揮発性を利用して吸引除去する方法、土壌を掘削して加熱処理によって無害化する熱分解法、微生物を利用する方法等が知られている。また、有機ハロゲン化合物類によって汚染された地下水の浄化方法として、汚染地下水を土壌外に抽出して無害化する方法、地下水を揚水することによって有機ハロゲン化合物類を除去する方法等が知られている。
【0009】
有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌・地下水の浄化方法として提案されている技術手段のうち、有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌・地下水と鉄系粒子を用いた浄化剤とを混合接触させて無害化する技術手段が提案されている(特許文献1〜10)。
【0010】
一方、近年の環境意識の向上から、重金属による土壌・地下水の汚染が注目されている。特に、カドミウム、鉛、クロム、砒素、セレン、シアン等の重金属等からなる有害物質による汚染は人体又は生態系に対して有害であるため、前記有害物質の浄化・除去処理が急務とされている。
【0011】
周知のとおり、重金属等の有害物質で汚染された土壌又は地下水の対策技術は「浄化技術」と「封じ込め」に分類され、浄化技術は「原位置浄化」と対象地から汚染土壌を掘削する「掘削除去」とに分類される。「原位置浄化」は更に、汚染土壌・地下水に含まれる重金属等を地下(原位置)で分解する「原位置分解」と汚染土壌・地下水を抽出または掘削した中の重金属等を取り除く「原位置抽出」に分けられる。
【0012】
「原位置抽出」は、重金属等に分類される対象物質のうち、シアン、農薬などの化合物を熱化学的に分解する「分解」と物理的な分離によって濃縮された重金属等を土壌・地下水から分離する「分離」とがある。
【0013】
一方、「封じ込め」は「原位置封じ込め」と「掘削除去後封じ込め」に分類される。原位置封じ込めは、汚染土壌に固化剤を混合して固型化し、その後現場の土壌を移動させずに原位置で汚染土壌を封じ込める技術である。また、掘削除去後封じ込めは、一度掘削してから汚染土壌に不溶化剤を混合し、難溶化させた後、その土壌を封じ込める技術である。
【0014】
「浄化技術」に係る施工法としては、土壌洗浄法、熱脱着法などが挙げられ、例えば、薬品を添加し、重金属等を溶解して分離する化学溶解法、水で土壌を洗浄・分級し、重金属等を多く含んだ微粒子を分離する水洗浄法、土壌粒子の表面に付着した汚染物質を洗浄剤で洗浄し、更に粒子の大きさと比重によって清浄な大粒子と汚染物の微粒子に分級する土壌湿式洗浄法などが挙げられる。
【0015】
また、「封じ込め」に係る施工法は、「原位置封じ込め」では汚染土壌にセメント等の固化剤を混合して不透水層と鋼矢板等によって封じ込める方法があり、「掘削除去後封じ込め」では、汚染土壌に対して薬剤によって不溶化処理して汚染土壌を溶出しにくい形態に変化させた後に遮断工、遮水工で封じ込める方法がある。
【0016】
しかしながら、前記各処理技術は、処理コストが高く、長期間を要するものであり、重金属等の有害物質を効率よく、かつ、持続的に、低減する技術とは言い難いものである。
【0017】
最近では、主に鉄粉の還元作用を利用し重金属類の価数を低減し無害化、安定化する低コストの処理技術が開発されている。例えば、クロムに対して鉄粉の還元作用(金属の価数低減)を利用した技術が記載されている(特許文献5)。また、特許文献11には、重金属イオンを含む溶液をpH5〜6程度に調整し、鉄粉を加えて攪拌すると、鉄粉の一部が溶解して、水酸化第2鉄が沈殿し、pHの上昇とともにゲーサイト、レピッドクロサイトが生成し、この際重金属の一部は共沈して大部分は鉄粉へ吸着することが記載されており、また、低いpHでは鉄粉の溶出が増大し、吸着除去効果は劣化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平11−235577号公報
【特許文献2】特開2000−5740号公報
【特許文献3】特開2000−334063号公報
【特許文献4】特開2001−38341号公報
【特許文献5】特開2001−198567号公報
【特許文献6】特開2002−161263号公報
【特許文献7】特開2002−210452号公報
【特許文献8】特開2002−317202号公報
【特許文献9】特開2005−21882号公報
【特許文献10】特開2006−102675号公報
【特許文献11】特公昭52−45665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前出特許文献1には0.1重量%以上の炭素を含有する鉄粉を土壌に添加・混合して土壌中の有機ハロゲン化合物を無害化する技術が開示されているが、鉄粉の比表面積及び粒度は記載されているものの粒子サイズが大きいため、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0020】
また、前出特許文献2には銅を含有した鉄粉を用いて土壌中の有機ハロゲン化合物を無害化する技術が開示されているが、有機ハロゲン化合物の分解に長時間を必要とするため効率よく有機ハロゲン化合物を無害化できるとは言い難いものである。
【0021】
また、前出特許文献3にはダイオキシン類と製鉄所における熱間圧延鋼板の製造工程から生じるミルスケールを含む塩酸酸性水溶液とを100℃より低温で接触させてダイオキシン類を無害化する技術が開示されているが、無害化を促進させる塩酸酸性水溶液が必須であり、ミルスケール自体の分解反応が十分とは言い難いものである。
【0022】
また、前出特許文献4には平均粒子径1〜500μmの鉄粒子を含む水懸濁液からなる土壌浄化剤が開示されているが、粒子サイズが大きく、有機ハロゲン化合物を十分に分解することが困難となる。
【0023】
また、前出特許文献5には平均粒子径が10μm未満の球状鉄粒子を含有する水懸濁液を用いる技術が開示されているが、該球状鉄粒子を含有する水懸濁液は製鋼用の酸素吹転炉から精錬中に発生する排ガスを集塵し、ガスを除去して得られる水懸濁液であり、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0024】
また、前出特許文献6には、ニッケル、銅、コバルト及びモリブデンから選ばれる金属が表面に付着し、付着金属以外の表面が鉄酸化被膜で覆われている有機ハロゲン化合物分解用鉄粉が記載されているが、ミルスケールで得られた鉄粉や溶鋼を水アトマイズした鉄粉を用いており、記載されている鉄粉の比表面積から、鉄粉の粒子サイズが大きいと思われ、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0025】
また、前出特許文献7には、Sを含有する鉄粉を有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水の浄化処理に用いることが記載されているが、粒子サイズが大きく、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難い。
【0026】
また、前出特許文献8には、マグネタイトを含有する鉄複合粒子粉末を有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水の浄化処理に用いることが記載されているが、Sを含有しておらず、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難い。
【0027】
また、前出特許文献9には、アルミニウムと硫黄を含有するα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子粉末、及びそれを有効成分として含有する水懸濁液からなる浄化剤を有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された土壌・地下水の浄化処理に用いることが記載されている。該鉄複合粒子粉末は非常に微粒子であるため、空気中で酸化されて浄化性能が劣化しやすく、発火する危険性もあることから、保管及び輸送がし難いという欠点がある。
さらに、該浄化剤については、調製直後の有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類の浄化性能は高いが、調製後の保存経過時間による性能劣化が著しく、安定的かつ十分な浄化性能を発揮できるとは言い難い。
【0028】
また、前出特許文献10には、アルミニウムと硫黄を含有するα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子粉末及び添加剤を含有する浄化剤を有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌・地下水の浄化処理に用いることが記載されているが、該浄化剤は調製直後の有機ハロゲン化合物の分解活性は高いものの、水との反応性が高いために、保存経過時間に伴う活性の劣化が著しいという欠点があり、安定的かつ十分な浄化性能を発揮できるとは言い難い。
【0029】
また、前出特許文献5には、鉄粉の還元作用(価数低減)を利用した無害化、安定化処理方法が記載されているが、年数が経つと鉄粉の還元作用の持続性に問題を生じ、重金属が無害で安定な価数になっていても再度価数が上がり有害な金属に変わる可能性がり、恒久的な対策とは言い難いものである。
【0030】
また、前出特許文献11記載の技術は、鉄粉の作用は還元もしくは吸着が主である。一部溶解による作用もあるが、全て酸性領域での鉄粉の溶出を経由して、ゲーサイト、レピッドクロサイト、マグネタイトが生成し取り込まれるメカニズムであり、鉄粉を利用した処理技術においてFe2+もしくはFe3+の溶解により重金属を取り込みながらスピネルフェライト化する現象を積極的に利用した技術ではない。
【0031】
そこで、本発明は、土壌・地下水中に含まれる有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類を効率よく持続的に、且つ経済的に処理できる浄化剤を用いた浄化方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
前記技術的課題は以下の通りの本発明により達成できる。
【0033】
即ち、本発明は、土壌・地下水の浄化処理に用いる浄化剤であって、該浄化剤はα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子を含有する水懸濁液を凍結させた固形物であって、前記鉄複合粒子は平均粒子径が0.05〜0.50μmであってS含有量が3500〜10000ppmであってAl含有量が0.10〜1.50重量%であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明1)。
【0034】
また、本発明は、土壌・地下水の浄化処理に用いる浄化剤であって、該浄化剤はα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子及び添加剤を含有する水懸濁液を凍結させた固形物であって、前記鉄複合粒子は平均粒子径が0.05〜0.50μmであってS含有量が3500〜10000ppmであってAl含有量が0.10〜1.50重量%であり、前記添加剤がポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアスパラギン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明2)。
【0035】
また、本発明は、本発明1又は2に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤において、前記浄化剤中の鉄複合粒子粉末のα−Feの(110)面の回折強度D110とマグネタイトの(311)面の回折強度D311との強度比(D110/(D311+D110))が0.30〜0.95であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明3)。
【0036】
また、本発明は、本発明3記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤において、前記浄化剤中の鉄複合粒子粉末は、飽和磁化値が85〜190Am/kgであり、α−Feの(110)面の結晶子サイズが200〜400Åであることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明4)。
【0037】
また、本発明は、本発明1乃至4のいずれかに記載の浄化剤中の鉄複合粒子粉末の濃度が10〜30重量%であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明5)。
【0038】
また、本発明は、本発明2記載の浄化剤中の鉄複合粒子粉末の濃度が10〜30重量%であって、且つ、添加剤の濃度が前記鉄複合粒子粉末に対して5〜50重量%であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明6)。
【0039】
また、本発明は、平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.06〜1.00重量%であり、S含有量が2200〜4500ppmであるゲータイト粒子粉末又は平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.07〜1.13重量%であり、S含有量が2400〜5000ppmのヘマタイト粒子粉末を、350〜600℃の温度範囲で加熱還元して鉄粒子粉末とした後、該鉄粒子粉末を気相中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成して水中に取り出す又は該鉄粒子粉末を水中に取り出して水中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成してα−Fe及びマグネタイトからなる鉄複合粒子粉末を含有する水懸濁液とした後、凍結させて固形物を得ることを特徴とする本発明1記載の土壌・地下水の浄化剤の製造法である(本発明7)。
【0040】
また、本発明は、平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.06〜1.00重量%であり、S含有量が2200〜4500ppmであるゲータイト粒子粉末又は平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.07〜1.13重量%であり、S含有量が2400〜5000ppmのヘマタイト粒子粉末を、350〜600℃の温度範囲で加熱還元して鉄粒子粉末とした後、該鉄粒子粉末を気相中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成して水中に取り出す又は該鉄粒子粉末を水中に取り出して水中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成した後、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアスパラギン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上を前記鉄複合粒子粉末に対して5〜50重量%となるように調整した水溶液を添加し混合攪拌することでα−Fe及びマグネタイトからなる鉄複合粒子粉末を含有する水懸濁液とし、さらに凍結させて固形物を得ることを特徴とする本発明2記載の土壌・地下水の浄化剤の製造法である(本発明8)。
【0041】
また、本発明は、有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された地下水に対して、原位置で、本発明1乃至6のいずれかに記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤を融解した水懸濁液を用いて浄化処理を行うことを特徴とする土壌・地下水の浄化処理方法である(本発明9)。
【0042】
また、本発明は、有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された地下水に対して、原位置で、本発明1乃至6のいずれかに記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤を融解した水懸濁液を直接、注入することを特徴とする土壌・地下水の浄化処理方法である(本発明10)。
【0043】
また、本発明は、有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された地下水の現場に、本発明1乃至6のいずれかに記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤を運搬することを特徴とする土壌・地下水の浄化剤の運搬方法である(本発明12)。
【発明の効果】
【0044】
本発明に係る土壌・地下水浄化処理用浄化剤は、有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類を効率よく分解・不溶化できるので、有機ハロゲン化合物及び/又は重金属類によって汚染された土壌・地下水の浄化剤として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の構成を詳しく説明すれば、次の通りである。
【0046】
まず、本発明に係る土壌・地下水の浄化処理用浄化剤(以下、「浄化剤」という)について述べる。
【0047】
本発明は、α−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子を含有する水懸濁液を凍結させた固形物、又はα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子及び添加剤を含有する水懸濁液を凍結させた固形物である。
【0048】
本発明に係る浄化剤は、保存・輸送時には凍結した固形物の状態で取り扱うのが好ましいが、浄化処理に使用する際は、融解して用いるのが好ましい。
【0049】
浄化処理用鉄複合粒子粉末の構成相はα−Fe相とともに、Fe相を含有する。Feの含有量は該鉄複合粒子粉末のX線回折スペクトルにおいて、α−Feの(110)面の回折強度D110とFeの(311)面の回折強度D311との強度比(D110/(D311+D110))が0.30〜0.95である。製造直後の強度比が0.30未満の場合、α−Fe相の存在比率が低いため有機ハロゲン化合物類の浄化性能が十分ではなく、本発明の目的とする効果を容易に得ることが困難となる。強度比が0.95を超える場合には、α−Fe相の存在比率は十分であるが本発明で生成されたFe相の存在比率が低くなり、触媒活性の早期劣化、持続性の低下を招く為、本発明の目的とする効果が得られない。好ましくは0.32〜0.95である。また、Feは浄化処理用鉄複合粒子粉末の粒子表面に存在することが好ましい。
【0050】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末のS含有量は3500〜10000ppmである。S含有量が3500ppm未満の場合には、有機ハロゲン化合物類の浄化性能が十分ではなく本発明の目的とする効果が得られない。10000ppmを越える場合には、有機ハロゲン化合物類の浄化性能はあるが、多量に含有しても効果が飽和し経済的ではない。好ましくは3800〜10000ppmであり、より好ましくは3800〜9500ppmである。
【0051】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末のAl含有量は0.10〜1.50重量%である。Al含有量が0.10重量%未満の場合には、造粒物の体積収縮により硬い造粒物になり易い為、湿式粉砕を行う場合に労力を要する。1.50重量%を越える場合には、還元反応の進行が遅く、還元反応に長時間を要する。また結晶成長を十分に行うことができず、α−Fe相が不安定となり粒子表面に酸化皮膜が厚く形成されたり、また加熱還元時におけるFe相からα−Fe相への相変化が不十分のため、α−Fe相の存在比率を高くすることが困難となり、本発明の目的とする効果を得ることができない。好ましくは0.20〜1.20重量%である。
【0052】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末の粒子形状は粒状が好ましい。本発明では紡錘状又は針状のゲータイト粒子粉末又はヘマタイト粒子をそのまま加熱還元処理するので、α−Fe相へ結晶変態する際、粒子形状が崩れ、等方的に成長する過程を経るので粒状形状となる。一方、球状では粒子サイズが同じであれば、BET比表面積が小さくなり触媒活性が低くなるため、球状粒子が存在しないことが好ましい。
【0053】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末の平均粒子径は0.05〜0.50μmが好ましい。平均粒子径が0.05μm未満の場合にはα−Fe相が不安定であるため表面に厚い酸化被膜が形成され、α−Fe相の存在比率を高くすることが困難となり、本発明の目的とする効果が得られない。製造直後に0.50μmを越える場合にはα−Fe相の存在比率は高くできるが、相対的にFe相の存在比率が低くなり、触媒活性の早期劣化、維持性の低下を招く為、本発明の目的とする課題を容易に解決することができない。より好ましくは0.05〜0.30μmである。
【0054】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末の結晶子サイズ(α−Feの(110)面)は200〜400Åが好ましい。200Å未満の場合にはα−Fe相の存在比率を高くすることが困難となり、本発明の目的とする効果を得ることが困難となる。400Åを越える場合には、α−Fe相の存在比率は高くできるが、本発明で生成したFe相の存在比率を本発明の目的とする効果が得られる程度に保持することが困難となる。より好ましくは200〜350Åである。
【0055】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末のBET比表面積値は5〜60m/gが好ましい。5m/g未満の場合には、接触面積が小さくなり触媒活性が発現しにくい。60m/gを越える場合には、α−Fe相の存在比率を高くすることが困難となり、本発明の目的とする効果を得ることが困難となる。より好ましくは7〜55m/gである。
【0056】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末の飽和磁化値は85〜190Am/kg(85〜190emu/g)が好ましい。製造直後の浄化処理用鉄複合粒子粉末の飽和磁化値が85Am/kg未満の場合には、α−Fe相の存在比率が低いものであり、本発明の目的とする課題を容易に解決することができない。190Am/kgを越える場合にはα−Fe相の存在比率は高くできるが、本発明で得られるFe相の存在比率を本発明の目的とする効果が得られる程度に保持することが困難となる。結果相対的にFe相の存在比率が低くなり、触媒活性の早期劣化、維持性の低下を招く為、本発明の目的とする課題を容易に解決することができない。より好ましくは90〜155Am/kg(90〜155emu/g)である。
【0057】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末のFeの含有量は全複合粒子粉末に対して75重量%以上が好ましい。製造直後のFeの含有量が75重量%未満の場合には触媒活性が低下するため、本発明の目的とする効果を容易に得ることが困難となる。より好ましくは75〜98重量%であり、更により好ましくは75〜90重量%である。
【0058】
本発明における浄化処理用鉄複合粒子粉末は、Pb、Cd、As、Hg、Sn、Sb、Ba、Zn、Cr、Nb、Co、Bi等のFe以外の金属元素は毒性のある金属であるため極力含有しないことが好ましい。殊に、高純度化及び触媒性能を考慮した場合、浄化処理用鉄複合粒子粉末について、後述する方法で各金属の溶出量を測定した場合、カドミウムの溶出量が0.01mg/l以下、全シアンは溶出が検出されず、鉛の溶出量が0.01mg/l以下、クロム溶出量が0.05mg/l以下、砒素の溶出量が0.01mg/l以下、総水銀の溶出量が0.0005mg/l以下、セレンの溶出量が0.01mg/l以下、フッ素の溶出量が0.8mg/l以下、ホウ素の溶出量が1mg/l以下であることが好ましい。
【0059】
また、浄化処理用鉄複合粒子粉末について、後述する方法で各金属の含有量を測定した場合、カドミウム及びその化合物の含有量が150mg/kg以下、シアン化合物の含有量が50mg/kg以下、鉛及びその化合物の含有量がの含有量が150mg/kg以下、六価クロム化合物含有量が250mg/kg以下、砒素及びその化合物の含有量が150mg/kg以下、水銀及びその化合物の含有量が15mg/kg以下、セレン及びその化合物の含有量が150mg/kg以下、フッ素及びその化合物の含有量が4000mg/kg以下、ホウ素及びその化合物の含有量が4000mg/kg以下であることが好ましい。
【0060】
本発明に係る浄化剤において、鉄複合粒子の濃度は、特に限定されるものではないが、工業的生産性を考慮すると、10〜30重量%が好ましい。30重量%を越える場合、浄化剤が増粘するため、撹拌時の機械的負荷が伝わりにくく、均一に混合することが難しいため、濃度の調整が困難となる。
【0061】
本発明に係る浄化剤において、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアスパラギン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上の添加剤を含有させることによって、従来に比べて格段に土壌への浸透性を向上させることができる。
【0062】
本発明に係る浄化剤において、添加剤の含有量は、浄化剤中の鉄複合粒子に対して5〜50重量%が好ましい。5重量%未満の場合には、浄化剤中の添加剤の含有率が低いため、土壌への浸透性の寄与が十分でなく、50重量%を越える場合には、浄化剤の粘度が高くなるため、工業生産性が低下し、且つ、注入時にも土壌への浸透性の低下に繋がるため、本発明の目的とする効果が得られない。より好ましくは5〜30重量%である
【0063】
本発明におけるポリアクリル酸又はその塩としては、分子量2000〜10000が好ましく、より好ましくは2500〜8000である。また、本発明におけるポリアクリル酸又はその塩としては、アルカリ性であることが好ましい。
【0064】
本発明におけるポリマレイン酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸の重合体又は無水マレイン酸、マレイン酸と他のモノマーとの共重合体(例えば、オレフィン・マレイン酸共重合体など)であり、前記重合体又は共重合体のナトリウム塩などのポリマレイン酸塩も用いることができる。
【0065】
本発明におけるポリマレイン酸又はその塩は、分子量が2000〜30000であることが好ましい。また、本発明におけるポリマレイン酸又はその塩としては、アルカリ性であることが好ましい。
【0066】
本発明のポリアスパラギン酸又はその塩の分子量は、通常2000〜200000、好ましくは3000〜150000である。また、ポリアスパラギン酸またはその塩としては、アルカリ性であることが好ましい。
【0067】
なお、ポリマレイン酸、ポリアスパラギン酸又はそれらの塩は、生分解性を有し、土壌・地下水への注入後、微生物によって生分解を起こすため、環境に蓄積されることがほとんど認められず、原位置浄化処理用の浄化剤としてもより好適である。
【0068】
本発明に係る浄化剤を構成する鉄複合粒子について、レーザー回折装置を用いて粒度分布を測定した場合、鉄複合粒子の二次粒子の粒度分布は単一ピークであることが好ましい。複数のピークを有する場合、汚染土壌中への浸透速度が均一でなく浄化に長時間を要し本発明の目的とする効果を得ることが困難となる。
【0069】
本発明に係る浄化剤を構成する鉄複合粒子の二次粒子のメジアン径(D50:鉄複合粒子の全体積を100%として粒子径に対する累積割合を求めたときの累積割合が50%となる粒子径)は0.5〜5.0μmが好ましい。二次粒子のメジアン径(D50)はより微細であることが好適であるが、一次粒子が微粒子でありα−Feを含有するため、磁気凝集を起こし易く、また、0.5μm未満とすることは工業的には困難である。5.0μmを超える場合は、汚染土壌への浸透が遅くなり短時間で浄化し難く、本発明の目的とする効果を得ることが困難となる。より好ましくは0.5〜3.5μmである。
【0070】
本発明に係る浄化剤中の鉄複合粒子の二次粒子のD90(鉄複合粒子の全体積を100%として粒子径に対する累積割合を求めたときの累積割合が90%となる粒子径)とD10(鉄複合粒子の全体積を100%として粒子径に対する累積割合を求めたときの累積割合が10%となる粒子径)との比D90/D10は1.5〜5.0が好ましい。分布幅はより小さいほど汚染土壌への浸透速度が均一化され浄化速度も均一化されるため好ましいが、工業的には1.0が限界である。5.0を超える場合は汚染土壌への浸透速度が不均一となり浄化に遅れが生じ、浄化に長時間かかるため、本発明の目的とする効果を得ることが困難となる。より好ましくは1.0〜3.5である。
【0071】
本発明に係る浄化剤の比重は1.2〜1.4が好ましい。1.2未満では浄化剤の輸送、土壌等への添加量を考えると固形分が少なく経済的でなく、1.4を超える場合は、本発明の浄化剤を解凍して水懸濁化した際に、一次粒子径、二次粒子径を考慮すると水懸濁液が増粘し、工業的に製造するのは困難である。
【0072】
次に、本発明に係る浄化剤の製造法について述べる。
【0073】
ゲータイト粒子粉末は、常法に従って、例えば、第一鉄塩を含有する水溶液と、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ又はアンモニアから選ばれる1種又は2種以上とを反応させて得られる鉄の水酸化物や炭酸鉄等の第一鉄含有沈殿物を含む懸濁液中に空気等の酸素含有ガスを通気することにより得ることができる。
【0074】
なお、不純物含有量の少ない浄化処理用鉄複合粒子粉末を得るためには、前記第一鉄塩を含有する水溶液として、重金属等の不純物を低減し、純度の高いものを使用することが好ましい。
【0075】
第一鉄塩を含有する水溶液の不純物量を低減するためには、例えば、鋼板を硫酸で酸洗し、鋼板の表層に析出している不純物、防錆の油分等を溶解除去した後の不純物の少ない鋼板を溶解して得られた第一鉄塩水溶液を用いる方法がある。鉄以外の金属不純物の多い屑鉄やスクラップ鉄、耐蝕性を向上させる為に行なわれるめっき処理、リン酸塩処理及びクロム酸処理等を行った鋼板並びに防錆の油分を塗布した鋼板等の酸洗液を用いた場合には、鉄複合粒子粉末中に不純物が残存し、浄化する土壌・地下水に溶出する恐れがあり好ましくない。また、酸化チタン製造工程等から副生する硫酸第一鉄溶液に水酸化アルカリ等のアルカリを添加し、pH調整によりチタン、その他の不純物を水酸化物として不溶化して沈殿除去、限外ろ過除去等を行い使用する方法がある。不純物の少ない鋼板を硫酸溶解して使用するのが好ましく、引き続きpH調整による不純物除去を行うのが更に好ましい。何れの方法も工業的に問題が無く、経済的にも有利である。
【0076】
ゲータイト粒子粉末の平均長軸径は0.05〜0.50μmであり、S含有量が2200〜4500ppmである。粒子形状は紡錘状又は針状のどちらでも良い。軸比は4〜30が好ましく、より好ましくは5〜25であり、BET比表面積は20〜200m/gが好ましく、より好ましくは25〜180m/gである。
【0077】
本発明においては、前記ゲータイト粒子中にAlを含有させるか、又は、ゲータイト粒子にAl被覆することが重要である。Alを含有または被覆することによって造粒物の体積収縮を抑制することより造粒物の硬さを制御することができる。したがって湿式粉砕を行う場合の労力も小さくすることができる。また相対的に一次粒子の大きさを小さくすることができ、比表面積も相対的に大きくなり、性能が向上する。
【0078】
ゲータイト粒子粉末のAl含有量又はAl被覆量は0.06〜1.00重量%が好ましい。
【0079】
なお、ゲータイト粒子粉末は、常法に従って、造粒しておくことが好ましい。造粒することによって、固定層方式の還元炉を使用できるほか、鉄複合粒子とした場合でも還元条件によってはそのまま造粒物の形態を保つことが可能となり、カラム等に充填して使用する場合には好ましい。
【0080】
得られたゲータイト粒子粉末は250〜350℃の温度範囲で加熱脱水したヘマタイト粒子粉末にすることが好ましい。
【0081】
本発明におけるヘマタイト粒子粉末は、あらかじめS含有量が高いゲータイト粒子を用いるか、又は、S含有量が低いゲータイト粒子の場合には、ヘマタイト粒子粉末の水懸濁液に硫酸を添加することで、ヘマタイト粒子粉末のS含有量を制御する。
【0082】
ヘマタイト粒子粉末の平均長軸径は0.05〜0.50μmであり、S含有量が2400〜5000ppmである。ヘマタイト粒子粉末のAl含有量又はAl被覆量は0.07〜1.13重量%が好ましい。
【0083】
前記ゲータイト粒子粉末又は前記ヘマタイト粒子粉末を350〜600℃の温度範囲で加熱還元することによって鉄粒子(α−Fe)粉末とする。
【0084】
加熱還元温度が350℃未満である場合には、還元反応の進行が遅く、還元反応に長時間を要する。また、BET比表面積を大きくすることができるが、結晶成長を十分に行うことができず、α−Fe相が不安定となり粒子表面に酸化被膜が厚く形成されたり、またFe相からα−Fe相への相変化が不十分のため、α−Fe相の存在比率を高くすることができない。600℃を超える場合には、還元反応が急激に進行して粒子及び粒子相互間の焼結が過度に促進され粒子径が大きくなり、BET比表面積も小さくなるため好ましくない。
【0085】
なお、還元反応の昇温時の雰囲気は水素ガス、窒素ガス等が利用できるが、工業的には水素ガスが好ましい。
【0086】
加熱還元後の鉄粒子粉末は、そのまま気相中で表面酸化処理を行って冷却・乾燥した後、水中に取り出す方法、又は、該鉄粒子粉末を気相中で表面酸化被膜を形成することなく冷却・乾燥後、水中に取り出し、水中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成する方法のいずれかの方法を用いて水中に取り出すことができる。
【0087】
気相中での表面酸化被膜を形成する方法は、低温で窒素ガスと少量の空気を混合したガスを導入し、鉄粒子(α−Fe)粒子の粒子表面を酸化して、鉄複合粒子粉末の表層にFeの酸化被膜層を形成することが好ましい。酸化処理温度は、150℃以下が好ましい。本発明においてはAlを含有するので、鉄複合粒子粉末を容易に微細化でき、鉄複合粒子粉末の表面積を大きくすることが可能となるため、鉄複合粒子粉末表層に気相酸化による表面酸化被膜を形成しても十分な分解特性を維持することができる。
【0088】
冷却時の雰囲気は窒素又は水素のいずれでもよいが、最終的には窒素に切り替えることが好ましい。また、水中に取り出す時には100℃ 以下まで冷却されていることが好ましい。
【0089】
乾燥雰囲気は、窒素、空気中、真空中等適宜選択できるが、温度は100℃以下が好ましい。
【0090】
加熱還元処理によって、粒子全体はα−Fe相からなる鉄粒子となり、水中に取り出した場合、α−Feの触媒活性により水を分解し、発生した酸素によりα−Feが酸化され、粒子表面にFeからなる酸化被膜が形成されるものと推定している。
【0091】
前記いずれの処理によっても、粒子全体はα−Fe相からなる鉄粒子となり、粒子表面にFeからなる酸化被膜が形成されるものと推定している。
【0092】
本発明の浄化剤においては鉄複合粒子粉末の二次凝集体を粉砕して分散させておくことが好ましい。
【0093】
鉄複合粒子の凝集状態、性質(高活性)、大きさ、粉砕装置の能力(製品の粒度、粉砕量)及び最終形態を考慮すると、粉砕は湿式粉砕することが好ましい。
【0094】
本発明に用いる粉砕装置としては、メディアを用いる場合、転動ミル(ポットミル、チューブミル、コニカルミル)や振動ミル(ファイン・バイブレーションミル)等の容器駆動式、塔型(タワーミル)、攪拌槽型(アトライター)、流通管型(サンドグラインドミル)及びアニュラー型(アニュラーミル)等の媒体攪拌式を用いることができる。メディアを用いない場合、容器回転型(オングミル)、湿式高速回転型(コロイドミル、ホモミキサー、ラインミキサー)等のせん断・摩擦式を用いることができる。
【0095】
湿式粉砕時の懸濁液の濃度は鉄複合粒子が20〜40重量%が好ましい。20重量%未満の場合は、粉砕時にせん断等の応力が掛かり難く所定の粉砕粒度が得られないか長時間を要し、また粉砕に必要なメディアが著しく摩耗する為好ましくない。40重量%を超える場合には、水懸濁液が増粘し、機械的な負荷が大きく工業的に製造するのは困難である。
【0096】
本発明に係る浄化剤は、湿式粉砕後の水懸濁液を凍結処理して固形化させることによって得られる。凍結処理は、空気凍結法、接触凍結法、液化ガス凍結法等の公知の方法を用いることができる。凍結温度及び時間の条件については、特に制限はなく、確実に全体が凍結して固形化すればよい。
【0097】
本発明に係る浄化剤は、必要により、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアスパラギン酸又はそれらの塩から選ばれる1種以上の分散剤を含有させても良く、前記各分散剤は水溶性であるので、α−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子を含有する水懸濁液中に、粉末或いは水溶液で添加し、攪拌混合した後、凍結処理すればよい。
【0098】
次に、本発明に係る浄化剤を用いた土壌・地下水の浄化処理方法ついて述べる。
【0099】
本発明に係る浄化剤は、α−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子を含有する水懸濁液を凍結した固形物であるため、融解処理して水懸濁液に戻してから使用する。融解方法については、自然融解、浄化剤容器の外部加熱や投げ込みヒーター等による強制融解、水或いは温水添加による希釈融解などの一般的な方法を用いることができる。好ましくは、自然融解である。
【0100】
融解後の水懸濁液は、そのまま土壌・地下水の浄化処理に用いてもよいが、一部、粗大二次凝集粒子が発生するため、再度、現場にて粉砕処理するのが好ましい。
【0101】
粉砕装置としては、メディアを用いる場合、転動ミル(ポットミル、チューブミル、コニカルミル)や振動ミル(ファイン・バイブレーションミル)等の容器駆動式、塔型(タワーミル)、攪拌槽型(アトライター)、流通管型(サンドグラインドミル)及びアニュラー型(アニュラーミル)等の媒体攪拌式を用いることができる。メディアを用いない場合、容器回転型(オングミル)、湿式高速回転型(コロイドミル、ホモミキサー、ラインミキサー)等のせん断・摩擦式を用いることができる。特に好ましいのは、現場で比較的小型な装置となるメディア式粉砕装置である。
【0102】
有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌・地下水の浄化処理は、一般的に、含有される汚染物質を直接地下で分解する原位置分解法と掘削又は抽出した土壌・地下水中の汚染物質を分解する原位置抽出法とがあり、本発明においてはいずれの方法でも行うことができる。
【0103】
原位置分解法においては、浄化剤を融解した水懸濁液を高圧の空気、窒素等のガスあるいは水を媒体にしてそのまま浸透もしくはボーリング孔から地下に導入する原位置注入法、或いはオーガー等を用いて土壌と水懸濁液を攪拌混合する原位置攪拌混合法が取られる。融解した水懸濁液をそのまま使用するか必要に応じて希釈すれば良い。
【0104】
原位置抽出法においては、掘削した土壌と浄化剤を融解処理した水懸濁液を、サンドミル、ヘンシェルミキサー、コンクリートミキサー、ナウターミキサー、一軸又は二軸式のニーダー型混合器等を用いて混合攪拌すれば良い。また、揚水した地下水においては浄化処理用鉄複合粒子粉末が充填されたカラム等に通水することができる。
【0105】
浄化剤を融解した水懸濁液(固形分換算)の添加量は、土壌・地下水の有機ハロゲン化合物類の汚染の程度に応じて適宜選択することができるが、汚染土壌を対象とする場合には、通常、土壌100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜10重量部である。0.01重量部未満の場合には、本発明の目的とする効果が充分得られない。20重量部を超える場合には、浄化効果は向上するが経済的ではない。また、汚染地下水を対象とする場合には、地下水100重量部に対して0.01〜20重量部添加することが好ましく、より好ましくは0.05〜10重量部である。
【0106】
本発明に係る浄化剤を用いて有機ハロゲン化合物類を浄化した場合には、後述する評価法において、見掛けの反応速度定数を0.010h−1以上にすることができる。
【0107】
次に、本発明に係る重金属類の有害物質で汚染された土壌・地下水の浄化処理方法は、「封じ込め」による方法であり、「原位置封じ込め」又は「掘削後封じ込め」のいずれにも適用できる。
【0108】
「原位置封じ込め」においては、浄化剤を融解処理した水懸濁液を高圧の空気、窒素等のガスを媒体にしてそのまま浸透もしくはボーリング孔から地下に導入する原位置注入法、或いはオーガー等を用いて土壌と水懸濁液を攪拌混合する原位置攪拌混合法が取られる。浄化剤を用いる場合には、融解した水懸濁液をそのまま使用するか必要に応じて希釈すれば良い。
【0109】
「掘削後封じ込め」においては、掘削した土壌と浄化剤を融解処理した水懸濁液を、サンドミル、ヘンシェルミキサー、コンクリートミキサー、ナウターミキサー、一軸又は二軸式のニーダー型混合器等を用いて汚染土壌と混合攪拌して、土壌中の重金属等をフェライト化した後、封じ込める方法である。なお、必要に応じて、重金属等を取り込んだフェライトを磁気分離することもできる。
【0110】
浄化剤を融解した水懸濁液(固形分換算)の添加量は、土壌・地下水中における重金属等の有害物質の汚染の程度に応じて適宜選択することができるが、汚染土壌を対象とする場合には、通常土壌100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜10重量部である。0.01重量部未満の場合には、本発明の目的とする効果が充分得られない。20重量部を超える場合には、浄化効果は向上するが経済的ではない。また、汚染地下水を対象とする場合には、地下水100重量部に対して0.01〜20重量部添加することが好ましく、より好ましくは0.05〜10重量部である。
【0111】
本発明に係る浄化剤を用いて重金属類を浄化・不溶化した場合には、後述する評価法において見掛けの反応速度定数を、砒素の場合0.01h−1以上、クロムの場合0.01h−1以上、鉛の場合0.05h−1以上にすることができる。
【0112】
<作用>
本発明において重要な点は、本発明に係る浄化剤を用いることによって、土壌・地下水の有機ハロゲン化合物類を効率よく、経済的に分解処理できるという点である。
【0113】
本発明者は、土壌・地下水中の有機ハロゲン化合物類を効果的に分解できる理由は未だ明らかではないが、下記のように推定している。
【0114】
即ち、本発明に係る鉄複合粒子は、α−Fe相(0価)とFe相とが特定の割合で存在するとともに、一部の硫黄が加熱還元工程を経て0価の状態で存在することによって、鉄複合粒子として高い還元作用を有することができ、有機ハロゲン化合物類の分解反応に寄与するものと推定している。
【0115】
本発明においては、鉄複合粒子にAl化合物を特定量添加することによって、有機ハロゲン化合物類の分解性能を向上させることができた。この理由は未だ明らかではないが、Alを含有することによって、一次粒子をより微細化することができ、しかも、鉄複合粒子の凝集体の強度を従来に比較して小さくなるので、湿式粉砕に労力を要さず、同様に粉砕した場合より微細に粉砕することが可能となる。その結果、土壌中又は地下水中で容易に浸透・分散することができるので、鉄複合粒子が本来有する有機ハロゲン化合物類に対する分解活性を十分に発揮できたことによるものと本発明者は推定している。
【0116】
また、本発明に係る浄化剤は、調製直後の鉄複合粒子、又は鉄複合粒子及び添加剤を含有する水懸濁液を凍結させた固形物とすることにより、長期保存および輸送を経た場合においても、調製直後の高い浄化性能を保持できるという画期的な特徴を有しているため、結果的に、土壌・地下水への添加量も少なくでき、迅速かつ経済的に浄化が可能となる。
【0117】
即ち、従来の鉄系微粒子の浄化剤は、粉末タイプの場合(例えば前出特許文献9)、非常に微粒子であるため、空気中で酸化されて浄化性能が劣化しやすく、保管及び輸送がし難いという欠点があった。
【0118】
さらに、水懸濁液タイプの場合(例えば前出特許文献9、10)、調製直後の鉄系微粒子の浄化性能は高いが、α−Feと水が反応して徐々に表面からFeに酸化されてしまうので、調製後の保存経過時間による性能が著しく劣化してしまう傾向があった。
【0119】
それに対して、本発明に係る浄化剤は、調製直後の鉄複合粒子の水との反応性は高いものの、凍結させることにより、水との反応を休止させた状態となっているため、融解時に調製直後の高い浄化性能が維持できるものと考えている。
【0120】
以上のように、触媒活性効果が高いため、効率的に短期間で浄化処理を行うことが可能となり、特に高濃度の有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌・地下水の浄化に好適である。
【0121】
また、本発明に係る鉄複合粒子は、粒子サイズが微細であり高い活性を保持しているため、加熱することなく常温でα−Feが溶解しやすく、更に、土壌中に含有されている水又は地下水を効率よく分解して水素又は水酸基を生じさせ局所的に常にアルカリ性領域となるため、α−Feの溶解反応が徐々に進行する。次いで、溶解したα−Feと重金属等の有害物質とが鉄複合粒子の界面で、水の分解による水酸基、酸素又は溶存酸素等を取り込みスピネルフェライト化が持続的に進行し重金属等の有害物質を不溶化するものと本発明者は推定している。また、鉄複合粒子中に含有するSも局所的にα−Feの溶解に寄与しているものと推定される。
【0122】
また、溶解したα−Feと重金属等の有害物質とのフェライト化反応が、スピネル構造である表層マグネタイトをシードとし、エピタキシャルに粒子が成長するため、効率よく重金属等の有害物質を不溶化できるものと本発明者は推定している。
【0123】
本発明においては、酸又はアルカリを添加してpHを調整する処理、加熱処理及び空気吹き込みなどによる強制的な酸化処理も不要であることからも、効率よく重金属等の有害物質を不溶化できるものである。
【実施例】
【0124】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0125】
ゲータイト粒子粉末の平均長軸径及び軸比は透過型電子顕微鏡写真で測定した。ヘマタイト粒子粉末及び鉄複合粒子粉末の平均粒子径は走査型電子顕微鏡写真を用いて測定した。
【0126】
鉄複合粒子粉末のFe量及びAl量は、「誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS4000」(セイコー電子工業(株)製)を使用して測定した。
【0127】
各粒子粉末のS含有量は、「カーボン・サルファーアナライザー:EMIA−2200」(HORIBA製)を使用して測定した。
【0128】
各粒子粉末の結晶相はX線回折によって10〜90°の範囲で測定して同定した。
【0129】
鉄複合粒子粉末のピーク強度比は、前記の通りX線回折の結果から、α−Feの(110)面の回折強度D110及びマグネタイトの(311)面の回折強度D311を測定し、D110/(D311+D110)として強度比を求めた。
【0130】
鉄複合粒子粉末の結晶子サイズ(α−Feの(110)面)は、X線回折法で測定される結晶粒子の大きさを、各粒子の結晶面のそれぞれに垂直な方向における結晶粒子の厚さを表したものであり、各結晶面についての回折ピーク曲線から、下記シェラーの式を用いて計算した値で示したものである。
【0131】
結晶子サイズ=Kλ/βcosθ
但し、β=装置に起因する機械幅を補正した真の回折ピークの半値幅(ラジアン単位)。
K=シェラー定数(=0.9)。
λ=X線の波長(Cu Kα線 0.1542nm)。
θ=回折角(各結晶面の回折ピークに対応)。
【0132】
各粒子粉末の比表面積は、「モノソーブMS−11」(カンタクロム(株)製)を使用し、BET法により測定した値で示した。
【0133】
鉄複合粒子粉末の飽和磁化値は、「振動試料磁力計VSM−3S−15」(東英工業(株)製)を使用し、外部磁場795.8kA/m(10kOe)で測定した。
【0134】
スラリー中の鉄複合粒子の粒度分布は、レーザー散乱・回折方式「マイクロトラック MT330 EXII」(日機装社製)を用いて測定した。なお、分散溶媒をイオン交換水とし、分散を超音波分散機で1分間とした。
【0135】
鉄複合粒子粉末中に存在する鉄以外のカドミウム、鉛、クロム、砒素、総水銀、セレン、全シアン、フッ素及びホウ素の各溶出量は、平成3年 環境庁告示第46号 「土壌の汚染に係る環境基準について」に基づき測定した。
【0136】
<検量線の作製:有機ハロゲン化合物の定量>
有機ハロゲン化合物の濃度は下記手順に従ってあらかじめ検量線を作成し、得られた検量線に基づいて濃度を算出した。
トリクロロエチレン(TCE:CHCl):分子量131.39
試薬特級(99.5%)、密度(20℃)1.461〜1.469g/ml
【0137】
トリクロロエチレンを0.05μl、0.1μl及び1.0μlの3水準とし、褐色バイアル瓶50ml(実容積68ml)にイオン交換水30mlを添加し、次いで、トリクロロエチレンを各水準量注入し、直ちにフッ素樹脂ライナー付きゴム栓で蓋をし、その上からアルミシールで強固に締め付ける。バイアル瓶を20℃、20分静置した後、ヘッドスペースのガスをシリンジで50μl分取し、「GC−MS−QP5050」(島津製製作所製)を用いてトリクロロエチレンを測定する。トリクロロエチレンは全く分解されないものとして、添加量とピーク面積との関係を求める。このときのカラムはキャピラリーカラム(DB−1:J&W Scientific社製、液相:ジメチルポリシロキサン)とし、キャリアガスにはHeガス(143l/min)を使用し、40℃、2分間保持した後、10℃/minの速度で250℃まで昇温してガスを分析する。
【0138】
<有機ハロゲン化合物測定用試料調整>
褐色バイアル瓶50ml(実容積68ml)に鉄複合粒子0.1gを含有するスラリーとイオン交換水30mlを注入し、次いで、トリクロロエチレン1μlを注入し、直ぐにフッ素樹脂ライナー付きゴム栓で蓋をし、その上からアルミシールで強固に締め付ける。
【0139】
<有機ハロゲン化合物の分解反応における評価方法(見掛けの反応速度定数の測定)>
前記バイアル瓶を24℃で静置する。トリクロロエチレン残存量を、前記バイアル瓶を20℃、20分静置した後、ヘッドスペースからシリンジで50μlのガスを分取した。尚、ガスの分取は最大500時間まで、回分法によって所定時間におけるトリクロロエチレンの残存濃度を、前記「GC−MS−QP5050」(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0140】
得られた残存濃度から、下記式に基づいて見掛けの反応速度定数kobsを算出した。
ln(C/Co)=−k・t
Co:トリクロロエチレンの初期濃度
C:トリクロロエチレンの残存濃度
k:見掛けの反応速度定数(h−1
t:時間(h)
【0141】
<重金属不溶化反応における評価方法>
褐色バイアル瓶50ml(実容積68ml)に、環境庁告示第46号に基づいた溶出試験によって6価クロムイオンを2.0mg/lを含む飽和土壌試料30gを入れ、その上から鉄複合粒子0.06gを含有するスラリーを滴下し、直ちにゴム栓で蓋をし、24℃で7日間静置反応させる。7日後に、その土壌試料を全量取り出し、環境庁告示第46号に基づいた溶出試験を行い、その溶出液中の6価クロムイオン濃度を測定する。反応前濃度(2.0mg/l)に対する反応後濃度から、低減率(不溶化率)を算出する。
【0142】
<鉄複合粒子粉末1の製造>
毎秒3.4cmの割合でNガスを流すことによって非酸化性雰囲気に保持された反応容器中に、1.16mol/lのNaCO水溶液704lを添加した後、Fe2+1.35mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液296lを添加、混合(NaCO量は、Feに対し2.0倍当量に該当する。)し、温度47℃においてFeCOを生成させた。
【0143】
ここに得たFeCOを含む水溶液中に、引き続き、Nガスを毎秒3.4cmの割合で吹き込みながら、温度47℃で70分間保持した後、当該FeCOを含む水溶液中に、温度47℃において毎秒2.8cmの空気を5.0時間通気してゲータイト粒子を生成させた。なお、空気通気中におけるpHは8.5〜9.5であった。
【0144】
ここに得たゲータイト粒子を含有する懸濁液に、Al3+0.3mol/lを含む硫酸Al水溶液20lを添加、十分撹拌した後フィルタープレスで水洗し、得られたプレスケーキを圧縮成型機を用いて孔径4mmの成型板で押し出し成型して120℃で乾燥してゲータイト粒子粉末1の造粒物とした。
【0145】
ここに得た造粒物を構成する含有するゲータイト粒子粉末1は、平均長軸径0.30μm、軸比(長軸径/短軸径)12.5の紡錘状を呈した粒子であった。BET比表面積は85m/g、Al含有量は0.13重量%、S含有量は400ppmであった。
【0146】
前記造粒物を330℃で加熱しヘマタイト粒子1とし乾式粉砕する。その後水に邂逅し70%硫酸を10ml/kgの割合で添加し攪拌する。その後、脱水しプレスケーキとし、圧縮成型機を用いて孔径3mmの成型板で押し出し成型して120℃で乾燥してヘマタイト粒子粉末1の造粒物とした。
【0147】
ここに得た造粒物を構成するヘマタイト粒子粉末1は、平均長軸径0.24μm、軸比(長軸径/短軸径)10.7の紡錘形を呈した粒子であった。S含有量は3300ppmであった。
【0148】
前記ヘマタイト粒子粉末1の造粒物1kgを固定層還元装置に導入し、Hガスを通気させながら、450℃で180分間、完全にα−Feとなるまで還元した。次に、Nガスに切替え室温まで冷却させた後、窒素ガスに切り替えて90℃まで冷却し、次いで、酸素分圧を徐々に増加させて空気と同じ比率として粒子表面に安定な酸化被膜を形成し、鉄複合粒子1を得た。
【0149】
ここに得た鉄複合粒子1は、α−Feを主体としており、飽和磁化値135Am/kg(135emu/g)、BET比表面積26m/g、結晶子サイズ295Å、Fe含有量は83.0重量%、Al含有量は0.22重量%、S含有量は4000ppmであった。X線回折の結果、α−FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α−Fe)とD311(Fe)との強度比D110/(D110+D311)は0.84であった。
【0150】
<鉄複合粒子粉末2の製造>
Fe2+1.50mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液12.8lと0.44NのNaOH水溶液30.2l(硫酸第一鉄水溶液中のFe2+に対し0.35当量に該当する。)とを混合し、pH6.7、温度38℃においてFe(OH)を含む硫酸第一鉄水溶液の生成を行なった。次いで、Fe(OH)を含む硫酸第一鉄水溶液に温度40℃において毎分130lの空気を3.0時間通気してゲータイト核粒子を生成させた。
【0151】
前記ゲータイト核粒子を含む硫酸第一鉄水溶液(ゲータイト核粒子の存在量は生成ゲータイト粒子に対し35mol%に該当する。)に、5.4NのNaCO水溶液7.0l(残存硫酸第一鉄水溶液中のFe2+に対し1.5当量に該当する。)を加え、pH9.4、温度42℃において毎分130lの空気を4時間通気してゲータイト粒子粉末を生成させた。ここに得たゲータイト粒子を含有する懸濁液にAl3+0.3mol/lを含む硫酸Al水溶液を0.96lを添加、十分撹拌した後をフィルタープレスで水洗し、得られたプレスケーキを圧縮成型機を用いて孔径4mmの成型板で押し出し成型して120℃で乾燥してゲータイト粒子粉末2の造粒物とした。
【0152】
ここに得た造粒物を構成する含有するゲータイト粒子粉末2は、平均長軸径0.33μm、軸比(長軸径/短軸径)25.0の針状を呈した粒子であった。BET比表面積は70m/g、Al含有量は0.42重量%、S含有量は4000ppmであった。
【0153】
前記造粒物を330℃で加熱しヘマタイト粒子粉末2の造粒物とした。ここに得た造粒物を構成するヘマタイト粒子粉末1は、平均長軸径0.25μm、軸比(長軸径/短軸径)21.4の針状を呈した粒子であった。S含有量は4500ppmであった。
【0154】
前記ヘマタイト粒子粉末2の造粒物1kgを固定層還元装置に導入し、Hガスを通気させながら、450℃で180分間、完全にα−Feとなるまで還元した。次に、Nガスに切替え室温まで冷却させた後、窒素ガスに切り替えて90℃まで冷却し、次いで、酸素分圧を徐々に増加させて空気と同じ比率として粒子表面に安定な酸化被膜を形成し、鉄複合粒子2を得た。
【0155】
ここに得た鉄複合粒子粉末は、α−Feを主体としており、飽和磁化値155Am/kg(155emu/g)、BET比表面積20m/g、結晶子サイズ298Å、Fe含有量は85.9重量%、Al含有量は0.68重量%、S含有量は5500ppmであった。X線回折の結果、α−FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α−Fe)とD311(Fe)との強度比D110/(D110+D311)は0.88であった。
【0156】
実施例1
<浄化剤1の製造>
前記鉄複合粒子1 1.0kgと水3.07kgを連続式せん断式分散機 泡レスミキサー((株)美粒製)に入れ、周速21m/sで46分間分散処理し、鉄複合粒子含有水懸濁液1とした。
【0157】
得られた水懸濁液1の比重は1.25、鉄複合粒子濃度(固形分濃度)は24.6重量%であり、レーザー回折・散乱法による浄化剤(水懸濁液)の粒度分布は単一ピークであり、メジアン径(D50)が2.12μmであった。
【0158】
得られた水懸濁液1中に含有する鉄複合粒子は、走査型電子顕微鏡(30000倍)で観察した結果、一次粒子の粒子形状は米粒状であって平均長軸径が0.09μmであって軸比が1.4であった。
この水懸濁液を、冷凍庫(−20℃)に入れて凍結させ、浄化剤1とした。
【0159】
2ヶ月冷凍保存した浄化剤1を自然融解した後、メディア式分散機SC−MILL(日本コークス(株)製)に入れ、周速12m/s(メディアφ0.5ジルコニアビーズ)で5分間分散処理し、水懸濁液Aとした。得られた水懸濁液Aの比重は1.25、鉄複合粒子濃度(固形分濃度)は24.6重量%であり、レーザー回折・散乱法による浄化剤(水懸濁液)の粒度分布は単一ピークであり、メジアン径(D50)が1.65μmであった。この水懸濁液Aに含まれる鉄複合粒子粉末は、α−Feを主体としており、飽和磁化値134Am/kg(134emu/g)、BET比表面積27m/g、結晶子サイズ295Å、Fe含有量は82.9重量%、Al含有量は0.22重量%、S含有量は4000ppmであった。X線回折の結果、α−FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α−Fe)とD311(Fe)との強度比D110/(D110+D311)は0.84であった。
【0160】
<有機ハロゲン化合物の浄化処理結果(見掛けの反応速度定数)>
前記評価方法による該水懸濁液Aのトリクロロエチレン浄化における見掛けの反応速度定数は0.040h−1であった。
【0161】
実施例2
<浄化剤2の製造>
前記鉄複合粒子2 1.0kgと水3.07kgをメディア式分散機SC−MILL(日本コークス(株)製)に入れ、周速12m/s(メディアφ0.5ジルコニアビーズ)で5分間分散処理し、鉄複合粒子含有水懸濁液2とした。
【0162】
得られた水懸濁液2の比重は1.25、鉄複合粒子濃度(固形分濃度)は24.6重量%であり、レーザー回折・散乱法による浄化剤(水懸濁液)の粒度分布は単一ピークであり、メジアン径(D50)が1.87μmであった。
【0163】
得られた水懸濁液2中に含有する鉄複合粒子は、走査型電子顕微鏡(30000倍)で観察した結果、一次粒子の粒子形状は米粒状であって平均長軸径が0.11μmであって軸比が1.4であった。
この水懸濁液を、冷凍庫(−20℃)に入れて凍結させ、浄化剤2とした。
【0164】
12ヶ月冷凍保存した浄化剤2を自然融解した後、メディア式分散機SC−MILL(日本コークス(株)製)に入れ、周速12m/s(メディアφ0.5ジルコニアビーズ)で5分間分散処理し、水懸濁液Bとした。得られた水懸濁液Bの比重は1.25、鉄複合粒子濃度(固形分濃度)は24.6重量%であり、レーザー回折・散乱法による浄化剤(水懸濁液)の粒度分布は単一ピークであり、メジアン径(D50)が1.96μmであった。この水懸濁液Bに含まれる鉄複合粒子粉末は、α−Feを主体としており、飽和磁化値153Am/kg(153emu/g)、BET比表面積19m/g、結晶子サイズ298Å、Fe含有量は85.7重量%、Al含有量は0.68重量%、S含有量は5500ppmであった。X線回折の結果、α−FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α−Fe)とD311(Fe)との強度比D110/(D110+D311)は0.87であった。
【0165】
実施例3
<浄化剤3の製造>
実施例2で得られた鉄複合粒子含有水懸濁液2に対して、25%ポリマレイン酸水溶液(日本油脂(株)製ポリスターOM)を添加し、プロペラ型攪拌機で10分間攪拌混合した後、水懸濁液を冷凍庫(−20℃)に入れて凍結させ、浄化剤3とした。
【0166】
実施例4、5
鉄複合粒子の種類、分散剤の有無、分散剤と水の配合を変化させて、前記実施例1と同様にして浄化剤4、5及び水懸濁液D、Eを製造した。なお、分散剤の添加時期は、連続式せん断式分散機での分散処理後に、プロペラ型攪拌下にて行った。
【0167】
【表1】

【0168】
【表2】

【0169】
<有機ハロゲン化合物の浄化処理結果(見掛けの反応速度定数)>
前記評価方法により、該水懸濁液B〜Eを用いた場合のトリクロロエチレン浄化における見掛けの反応速度定数を求めた。その結果を表3に示す。
【0170】
【表3】

【0171】
比較例1
<水懸濁液Fの製造>
実施例1で得られた鉄複合粒子含有水懸濁液1を凍結させず、2ヶ月常温にて保管し、水懸濁液Fとした。水懸濁液Fに含まれる鉄複合粒子粉末は、α−Feを主体としており、飽和磁化値93.0Am/kg(93.0emu/g)、BET比表面積31m/g、結晶子サイズ293Å、Fe含有量は72.0重量%、Al含有量は0.19重量%、S含有量は3400ppmであった。X線回折の結果、α−FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α−Fe)とD311(Fe)との強度比D110/(D110+D311)は0.30であった。
【0172】
<有機ハロゲン化合物の浄化処理結果(見掛けの反応速度定数)>
前記評価方法による該水懸濁液Fのトリクロロエチレン浄化における見掛けの反応速度定数は0.005h−1であった。
【0173】
比較例2
実施例1で得られた鉄複合粒子含有水懸濁液1に対して、25%ポリマレイン酸水溶液(日本油脂(株)製ポリスターOM)を170g添加し、プロペラ型攪拌機で10分間攪拌混合した後、2ヶ月常温にて保管し、水懸濁液Gとした。水懸濁液Gに含まれる鉄複合粒子粉末は、α−Feを主体としており、飽和磁化値103.5Am/kg(103.5emu/g)、BET比表面積32m/g、結晶子サイズ294Å、Fe含有量は73.4重量%、Al含有量は0.19重量%、S含有量は3500ppmであった。X線回折の結果、α−FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α−Fe)とD311(Fe)との強度比D110/(D110+D311)は0.35であった。
【0174】
<有機ハロゲン化合物の浄化処理結果(見掛けの反応速度定数)>
前記評価方法による該水懸濁液Gのトリクロロエチレン浄化における見掛けの反応速度定数は0.006h−1であった。
【0175】
比較例3〜4
<有機ハロゲン化合物の浄化処理結果(見掛けの反応速度定数)>
前記評価方法において、鉄複合粒子の代わりに、市販の還元鉄粉(BET比表面積:0.05m/g)又は電解鉄粉(BET比表面積:0.03m/g)を用いた場合のトリクロロエチレン浄化における見掛けの反応速度定数はそれぞれ0.002、0.001−1であった。
【0176】
実施例6、7、比較例5
<重金属不溶化反応における評価結果>
前記鉄複合粒子含有水懸濁液A、C、Fを用いて、前記評価方法による評価を行った。その結果を表4に示す。
【0177】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明に係る浄化処理用浄化剤は、有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類を効率よく分解・不溶化できるので、有機ハロゲン化合物及び/又は重金属類によって汚染された土壌・地下水の浄化剤として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌・地下水の浄化処理に用いる浄化剤であって、該浄化剤はα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子を含有する水懸濁液を凍結させた固形物であって、前記鉄複合粒子は平均粒子径が0.05〜0.50μmであってS含有量が3500〜10000ppmであってAl含有量が0.10〜1.50重量%であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項2】
土壌・地下水の浄化処理に用いる浄化剤であって、該浄化剤はα−Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子及び添加剤を含有する水懸濁液を凍結させた固形物であって、前記鉄複合粒子は平均粒子径が0.05〜0.50μmであってS含有量が3500〜10000ppmであってAl含有量が0.10〜1.50重量%であり、前記添加剤がポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアスパラギン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤において、前記浄化剤中の鉄複合粒子粉末のα−Feの(110)面の回折強度D110とマグネタイトの(311)面の回折強度D311との強度比(D110/(D311+D110))が0.30〜0.95であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項4】
請求項3記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤において、前記浄化剤中の鉄複合粒子粉末は、飽和磁化値が85〜190Am/kgであり、α−Feの(110)面の結晶子サイズが200〜400Åであることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の浄化剤中の鉄複合粒子粉末の濃度が10〜30重量%であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項6】
請求項2記載の浄化剤中の鉄複合粒子粉末の濃度が10〜30重量%であって、且つ、添加剤の濃度が前記鉄複合粒子粉末に対して5〜50重量%であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項7】
平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.06〜1.00重量%であり、S含有量が2200〜4500ppmであるゲータイト粒子粉末又は平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.07〜1.13重量%であり、S含有量が2400〜5000ppmのヘマタイト粒子粉末を、350〜600℃の温度範囲で加熱還元して鉄粒子粉末とした後、該鉄粒子粉末を気相中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成して水中に取り出す又は該鉄粒子粉末を水中に取り出して水中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成してα−Fe及びマグネタイトからなる鉄複合粒子粉末を含有する水懸濁液とした後、凍結させて固形物を得ることを特徴とする請求項1記載の土壌・地下水の浄化剤の製造法。
【請求項8】
平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.06〜1.00重量%であり、S含有量が2200〜4500ppmであるゲータイト粒子粉末又は平均長軸径が0.05〜0.50μmであってAl含有量が0.07〜1.13重量%であり、S含有量が2400〜5000ppmのヘマタイト粒子粉末を、350〜600℃の温度範囲で加熱還元して鉄粒子粉末とした後、該鉄粒子粉末を気相中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成して水中に取り出す又は該鉄粒子粉末を水中に取り出して水中で当該鉄粒子粉末の粒子表面に表面酸化被膜を形成した後、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアスパラギン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上を前記鉄複合粒子粉末に対して5〜50重量%となるように調整した水溶液を添加し混合攪拌することでα−Fe及びマグネタイトからなる鉄複合粒子粉末を含有する水懸濁液とし、さらに凍結させて固形物を得ることを特徴とする請求項2記載の土壌・地下水の浄化剤の製造法。
【請求項9】
有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された地下水に対して、請求項1乃至6のいずれかに記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤を融解した水懸濁液を用いて浄化処理を行うことを特徴とする土壌・地下水の浄化処理方法。
【請求項10】
有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された地下水に対して、原位置で、請求項1乃至6のいずれかに記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤を融解した水懸濁液を、直接、注入することを特徴とする土壌・地下水の浄化処理方法。
【請求項11】
有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類及び/又は重金属類で汚染された地下水の現場に、請求項1乃至6のいずれかに記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤を運搬することを特徴とする土壌・地下水の浄化剤の運搬方法。


【公開番号】特開2012−210559(P2012−210559A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76615(P2011−76615)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(391051393)富士化水工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】