説明

土木建築材料用吸水防止材

【課題】土木建築材料に塗布した場合に、土木建築材料の表層部にアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の深い浸透層を形成し、高い撥水性を付与するとともに長期にわたって水、塩分等の劣化因子の侵入を阻止することができる吸水防止材を提供する。
【解決手段】(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、(B)モンモリロナイトに第4級アンモニウムイオンを反応させて得られ、1000℃での強熱減量が33〜50%である有機ベントナイト、(C)極性溶媒、および(D)疎水性シリカ粉末からなる土木建築材料用吸水防止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築材料用吸水防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物が、土木建築材料に吸水防止材として有用であることは広く知られており、一般的には、これらアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物を種々の有機溶剤で希釈した有機溶剤型の吸水防止材や、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物を水中乳化させたエマルション型の吸水防止材が用いられている。しかしながら、このような有機溶剤型もしくはエマルション型の吸水防止材は、大半のものが、有効成分が50重量%以下で残りを有機溶剤または水が占めるため、溶液粘度が100mPa・s以下と低く、1回で塗布できる有効成分の量が40〜80g/mと少ないので、規定量(200〜300g/m)塗布するためには2〜5回重ね塗りすることが必要である。また、粘度が低いために、基材に塗布した場合、垂直面では垂れ流れによるロスが生じ易く、天井面などへの塗布は不可能であり、作業性の面で制約が多く課題となっている。さらに、これらの有機溶剤型もしくはエマルション型の吸水防止材を基材に塗布した場合、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の一部が、基材の外へ揮発するので、塗布したアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の全量を基材中に浸透させることができず、基材中にアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の深い浸透層を形成できないといった問題もある。このような問題を解決するため、塗布量を増やすことが試みられているが、塗布回数が増え、作業コストの上昇を招き経済的でない。
【0003】
一方、上記問題を解決するために、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物に、無機鉱物、水溶性高分子および吸水性樹脂の少なくとも1種と極性溶媒とを加えた吸水防止材が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この吸水防止材は、基材塗布後の撥水性がやや弱い傾向があり、長期間曝露した際の塩分浸透抑制効果も弱い傾向がある。
【特許文献1】特開2003−221576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、土木建築材料に塗布した場合に、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の揮発が抑えられ、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物のほぼ全量が土木建築材料内部へ深く浸透し、土木建築材料の表層部にアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の深い浸透層を形成し、高い撥水性を付与するとともに長期にわたって水、塩分等の劣化因子の侵入を阻止することができる吸水防止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物と、(B)モンモリロナイトに第4級アンモニウムイオンを反応させた有機ベントナイトで、1000℃での強熱減量が33〜50%であるものと、(C)極性溶媒と、(D)疎水性シリカ粉末とからなる吸水防止材を用いると、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の揮発が抑えられ、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物のほぼ全量が土木建築材料内部へ深く浸透し、土木建築材料の表層部にアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の深い浸透層を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりの土木建築材料用吸水防止材を提供するものである。
項1. (A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、(B)モンモリロナイトに第4級アンモニウムイオンを反応させて得られ、1000℃での強熱減量が33〜50%である有機ベントナイト、(C)極性溶媒、および(D)疎水性シリカ粉末からなる土木建築材料用吸水防止材。
項2. (A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物85〜95重量%、(B)モンモリロナイトに第4級アンモニウムイオンを反応させて得られ、1000℃での強熱減量が33〜50%である有機ベントナイト1〜13重量%、(C)極性溶媒1〜13重量%、および(D)疎水性シリカ粉末0.1〜2重量%からなる項1に記載の土木建築材料用吸水防止材。
項3. アルキルアルコキシシランが、一般式(1);
Si(OR)4−n (1)
(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは1または2である。)で表される化合物である項1または2に記載の土木建築材料用吸水防止材。
項4. 極性溶媒がアルコールである項1〜3のいずれか1項に記載の土木建築材料用吸水防止材。
項5. 20℃における粘度が1,000〜10,000mPa・sである項1〜4のいずれか1項に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物
本発明で用いられるアルキルアルコキシシランとしては、特に限定されないが、下記一般式(1)で表される化合物が好適に用いられる。
Si(OR)4−n (1)
式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは1または2である。
【0009】
上記炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。これらの中でも、置換基の疎水性が高く、得られる土木建築材料用吸水防止材の撥水性を高くする観点から、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が好ましい。
【0010】
上記炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、アルキルアルコキシシランの反応性が高く、容易に縮合でき、得られる土木建築材料用吸水防止材の撥水性を高くする観点から、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0011】
このようなアルキルアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、トリデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0012】
これらの中でも、入手が容易であり、得られる土木建築材料用吸水防止材の撥水性を高くする観点から、一般式(1)中のRで示されるアルキル基の炭素数が6以上でしかもRで示されるアルキル基の炭素数が1〜3のヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランが好適に用いられる。これらのアルキルアルコキシシランは、部分縮合物または混合物として用いることもできる。
【0013】
アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の割合は、吸水防止材の全重量の85〜95重量%であるのが好ましく、土木建築材料に塗布した際に深くまで浸透し易い観点から、88〜94重量%であるのがより好ましい。割合が85重量%未満だと、吸水防止材を求める粘度範囲に調整するために極性溶媒の添加量を増やす必要がある場合があり、環境面で好ましくないおそれがある。また、割合が95重量%を超えると、粘度が低くなり、作業性に悪影響を与えるおそれがある。
【0014】
(B)有機ベントナイト
本発明で用いられる有機ベントナイトは、1000℃での強熱減量が33〜50%であるものであれば特に限定されないが、得られる土木建築材料用吸水防止材の疎水性を高めて、撥水性を高くする観点から、強熱減量が34〜49%であるものが好ましい。
【0015】
1000℃での強熱減量が33〜50%である有機ベントナイトとしては、例えば、天然の親水性層状粘土鉱物であるモンモリロナイトを主成分とし、これに、トリメチルステアリルアンモニウム、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム等の第4級アンモニウムイオンを反応させて疎水化したもの等が挙げられる。
【0016】
このような有機ベントナイトは、一般に市販されており、例えば、エスベンWX(強熱減量39.0%)、エスベンN−400(強熱減量39.3%)、エスベンNX(強熱減量41.8%)、エスベンNZ(強熱減量37.9%)(いずれも株式会社ホージュンの製品)等が挙げられる。
【0017】
本発明の吸水防止材を土木建築材料に塗布した場合、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物は基材内部へ浸透し、一方、有機ベントナイトが基材表面に残る。その結果、有機ベントナイトが、いわゆる「ふた」のような役割をして土木建築材料の内部へ浸透しつつあるアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物の揮発を抑え、ほぼ全量を土木建築材料の内部へ浸透させることができると考えられる。この時、有機ベントナイトの1000℃まで加熱したときの強熱減量が33〜50%である、言い換えると、有機成分の含有量が33〜50%と高いので、ベントナイト層状間にアルキルアルコキシシランが配位し易く、吸水防止材が高粘度となる。その結果、塗布作業時の温度の影響を受けにくく、30℃以上の高温時でも良好に塗布でき、0℃でも凍結することなく塗布可能である。さらに、表面撥水性が極めて良好になるので、長期にわたって水の浸透抑制はもちろんのこと、塩化物イオンの浸透抑制効果も向上させることができる。
【0018】
1000℃での強熱減量が33%未満だと、得られる吸水防止材の粘度が低く、1回で塗布できる塗布量が少なく、さらに30℃以上の高温条件下で塗布した場合、垂れ流れによるロスが多く、塗布作業性に悪影響を与える。また、塗布後の表面撥水性が弱く、持続性もない。さらに、塩化物イオンの浸透抑制効果が劣るといった現象もみられる。一方、1000℃での強熱減量が50%を超えると、層状粘度鉱物であるモンモリロナイトの含有割合が減るために増粘効果が低下し、この場合も、得られる吸水防止材の粘度が低くなる。特に、30℃以上の高温条件下で塗布した場合、垂れ流れによるロスが多く、塗布作業性に悪影響を与える。また、塗布後の表面撥水性が弱く、持続性もない。さらに、塩化物イオンの浸透抑制効果が劣るといった現象もみられる。
【0019】
この有機ベントナイトの割合は、吸水防止材の全重量の1〜13重量%であるのが好ましく、得られる土木建築材料用吸水防止材に適度な粘度を与えて作業性を向上させる観点から、2〜10重量%であるのがより好ましく、経済的な観点から3〜9重量%であるのが特に好ましい。割合が1重量%未満だと、得られる吸水防止材を基材に塗布しても、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物が、揮発して、基材内部に深く浸透することができないため、吸水防止性能を長期間維持することができないおそれがある。また、割合が13重量%を超えると、得られる吸水防止材の粘度が高くなりすぎて、基材への施工が困難となるおそれがある。
【0020】
(C)極性溶媒
本発明で用いられる極性溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの中でも、工業的に入手が容易で、経済的な観点から、エタノール、イソプロピルアルコールが好適に用いられる。
【0021】
本発明においては、これらの極性溶媒を、1種単独で使用することもでき、または2種以上を併用することもできる。
【0022】
この極性溶媒の割合は、吸水防止材の全重量の1〜13重量%であるのが好ましく、得られる土木建築材料用吸水防止材に適度な粘度を与えて作業性を向上させる観点から、2〜10重量%であるのがより好ましく、土木建築材料に塗布した際に深くまで浸透し易い観点から、2〜8重量%であるのが特に好ましい。割合が1重量%未満だと、得られる吸水防止材の粘度が低く、1回で塗布できる塗布量が少なく、さらに30℃以上の高温条件下で塗装した場合、垂れ流れによるロスが多く、塗布作業性に悪影響を与えるおそれがある。また、割合が13重量%を超える場合も、得られる吸水防止材の粘度が低く、1回で塗布できる塗布量が少なく、さらに30℃以上の高温条件下で塗布した場合、垂れ流れによるロスが多く、塗布作業性に悪影響を与えるおそれがある。
【0023】
(D)疎水性シリカ粉末
本発明で用いられる疎水性シリカ粉末としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料の四塩化ケイ素を1000℃以上の火焔法の乾式法で製造し、親水性のシリカ(SiO)を得た後、これに、シラン類やジメチルジクロロシラン、ジメチルポリシロキサン、メタクリロキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシロキサン類等で表面処理したもの等が挙げられる。
【0024】
このような疎水性シリカ粉末は、一般に市販されており、例えば、アエロジルR805、アエロジルR972、アエロジルR711、アエロジルR202、アエロジルRY50、アエロジルRY300、アエロジルRX300(いずれも日本アエロジル株式会社の製品)等が挙げられる。
【0025】
これらの疎水性シリカ粉末は、1種単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
さらに、本発明で用いられる疎水性シリカ粉末は、特に、粒子径が7〜40μmで、比表面積が50〜300m/gであることが好ましい。粒子径と比表面積は逆比例の傾向を示し、粒子径が小さいことは、比表面積が大きいことを意味する。この粒子径が7μm未満(比表面積が300m/gを超える)であれば、得られる土木建築材料用吸水防止材を施工した土木建築材料表面での凹凸形成が不足したり、紫外線保護の役割機能が低下するおそれがある。一方、粒子径が40μmを超える(比表面積が50m/g未満)と、土木建築材料表面での凹凸形成が過剰となり、意匠性が悪くなるおそれがある。粒子径が7〜40μmで、比表面積が50〜300m/gである疎水性シリカ粉末としては、前記一般に市販されている商品の中では、アエロジルR805、アエロジルR972、アエロジルR711、アエロジルR202(いずれも日本アエロジル株式会社の製品)等が該当する。
【0027】
この疎水性シリカ粉末の割合は、吸水防止材の全重量の0.1〜2重量%であるのが好ましく、土木建築材料用吸水防止材を調製する際の分散性、得られる土木建築材料用吸水防止材を施工した土木建築材料表面保護の観点から、0.2〜1.8重量%であるのがより好ましく、経済的な観点から0.3〜1.5重量%であるのが特に好ましい。割合が0.1重量%未満だと、有機ベントナイトの分散性が悪く、吸水防止材の調製に時間を要するとともに、施工後の撥水性が低くなるおそれがある。また、割合が2重量%を超えると、吸水防止材を調製する際の粉立ちが激しく、作業環境を悪化させるおそれがある。
【0028】
本発明の土木建築材料用吸水防止材は、例えば、(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、(B)有機ベントナイト、(C)極性溶媒、および(D)疎水性シリカ粉末を、室温下で、ホモミキサー、ウルトラディスパーザー、高圧ホモジナイザー等のせん断力の強い撹拌機を用いて混合分散させることにより製造することができる。
【0029】
本発明の土木建築材料用吸水防止材の粘度は、20℃で1,000〜10,000mPa・sであるのが好ましく、1,100〜7,000mPa・sであるのがより好ましい。20℃における粘度が1,000mPa・s未満だと、塗布作業時の気温が30℃以上になった場合に500mPa・s以上の粘度を確保できず、1回の塗布で1mあたり200g以上塗布することが困難となり、作業性に悪影響を与えるおそれがある。また、20℃における粘度が10,000mPa・sを超えると、流動性が無くなり、塗布作業が困難になるおそれがある。
【0030】
なお、本発明における粘度とは、B型粘度計(東京計器製)を使用し、測定温度20℃、ローターNo.4、30rpmの条件で測定した値をいう。
【0031】
本発明の土木建築材料用吸水防止材を調製する際には、防腐剤、防カビ剤、防藻剤、防蟻剤、紫外線吸収剤等を副次的に添加してもよい。
【0032】
本発明の吸水防止材を土木建築材料に塗布するには、ローラー、刷毛、スプレー等のいずれも用いることができるが、マスチックローラーによる塗布が好ましい。また、塗布後の乾燥方法としては、室温下に放置して乾燥させてもよいし、天日乾燥、加熱乾燥によってもよい。
【0033】
本発明の土木建築材料用吸水防止材は、通常、1mあたり300〜500gを1回で塗布可能である。また、一度塗布が完了した面へ再塗布しても、組成中に水を含有していないためにハジキ現象を起こすこともなく、2回以上の重ね塗りが可能である。この時の浸透深さは、塗り重ね回数を増やすごとに増していく。この特長により、本発明の土木建築材料用吸水防止材は、新設の土木建築材料に塗布するだけでなく、新設時に本発明の吸水防止材を塗布した土木建築材料に、数年後に再塗布することも可能である。
【0034】
本発明の吸水防止材を塗布する土木建築材料としては、例えば、打放しコンクリート、軽量コンクリート、プレキャストコンクリート、軽量発泡コンクリート(ALC)、モルタル、目地モルタル、石綿セメント板、パルプセメント板、木毛セメント板、セメント系押出成形板、ガラス繊維入りセメント板(GRC)、カーボン繊維入りセメント板、珪酸カルシウム板、石膏ボード、ハードボード、漆喰、石膏プラスター、ドロマイトプラスター、ブロック、レンガ、タイル、瓦、天然石、人工石、ガラスウール、ロックウール、セラミックファイバー等が挙げられる。また、本発明の吸水防止材は、木材、合板、パーティクルボード等の有機質材料を主成分とする材料に使用しても問題ない。
【0035】
本発明の土木建築材料用吸水防止材は、塗布作業時の温度の影響を受けにくく、気温が0℃〜40℃の範囲において塗布可能である。また、本発明の土木建築材料用吸水防止材を塗布すると、良好な撥水性および基材内部への浸透性により、激しい風雨による雨水の漏水、酸性雨による材料の劣化、汚れのしみ込み、海水および凍結防止剤による塩害、寒冷地における凍害、材料中の塩の溶出による白華等の水に起因する種々の問題を長期にわたって解決することができる。
【0036】
本発明の土木建築材料用吸水防止材が、深い浸透層を形成し、高い撥水性を付与する理由は明らかではないが、以下に基づくものと推測される。すなわち、高濃度のアルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物を土木建築材料の表面に施工することで、より深い浸透性の吸水防止層を形成し、さらに特定の有機ベントナイトと疎水性シリカ粉末が当該材料表面で凸凹層を形成するため、高い撥水性を付与するだけでなく、紫外線、温度、塩等にも強い保護層が形成できるものと考えられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の吸水防止材は、土木建築材料への浸透性に非常に優れ、土木建築材料の表層部に深い浸透層を形成することにより、高い撥水性を付与するとともに、非常に長期間にわたって水、塩分等の侵入を防止し、材料の素地、風合いを変えることなく、土木建築材料を長期間保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、実施例および比較例により更に詳しく本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
デシルトリメトキシシラン90重量部、有機ベントナイト((株)ホージュン製「エスベンN−400」、1000℃における強熱減量39.3%)6重量部、イソプロピルアルコール3.5重量部、および疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製「アエロジルR972」)0.5重量部を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して本発明の吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の20℃における溶液粘度は1,600mPa・sで、30℃における溶液粘度は1,100mPa・sであった。
【0040】
実施例2
オクチルトリエトキシシラン88重量部、有機ベントナイト((株)ホージュン製「エスベンNX」、1000℃における強熱減量41.8%)7重量部、イソプロピルアルコール4重量部、および疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製「アエロジルR805」)1重量部を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して本発明の吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の20℃における溶液粘度は2,000mPa・sで、30℃における溶液粘度は1,500mPa・sであった。
【0041】
実施例3
ヘキシルトリメトキシシラン90重量部、有機ベントナイト((株)ホージュン製「エスベンNX」、1000℃における強熱減量41.8%)7重量部、イソプロピルアルコール2重量部、および疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製「アエロジルR805」)1重量部を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して本発明の吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の20℃における溶液粘度は2,000mPa・sで、30℃における溶液粘度は1,500mPa・sであった。
【0042】
比較例1
ヘキシルトリメトキシシラン90重量部、イソプロピルアルコール9重量部、および疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製「アエロジルR805」)1重量部の混合液を調製し、吸水防止材を得た。この吸水防止材の20℃における溶液粘度は30mPa・sで、30℃における溶液粘度は20mPa・sであった。
【0043】
比較例2
ヘキシルトリメトキシシラン85重量部、有機ベントナイト((株)ホージュン製「オルガナイト」、1000℃における強熱減量28.9%)10重量部、エタノール4重量部、および疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製「アエロジルR805」)1重量部を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の20℃における溶液粘度は680mPa・sで、30℃における溶液粘度は300mPa・sであった。
【0044】
比較例3
オクチルトリメトキシシラン85重量部、有機ベントナイト((株)ホージュン製「エスベン」、1000℃における強熱減量29.9%)11重量部、イソプロピルアルコール3.9重量部、および疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製「アエロジルR805」)0.1重量部を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の20℃における溶液粘度は830mPa・sで、30℃における溶液粘度は450mPa・sであった。
【0045】
比較例4
ヘキシルトリメトキシシラン88重量部、有機ベントナイト((株)ホージュン製「エスベンNZ70」、1000℃における強熱減量51.4%)10重量部、イソプロピルアルコール3重量部、および疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製「アエロジルR805」)1重量部を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の20℃における溶液粘度は500mPa・sで、30℃における溶液粘度は100mPa・sであった。
【0046】
比較例5
ヘキシルトリメトキシシラン90重量部、有機ベントナイト((株)ホージュン製「エスベンNX」、1000℃における強熱減量41.8%)7重量部、およびイソプロピルアルコール3重量部を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の20℃における溶液粘度は1,800mPa・sで、30℃における溶液粘度は1,200mPa・sであった。
【0047】
[試験例]
JIS R 5201に準じたモルタル板(70×70×20mm)を60℃で48時間乾燥したものを供試体として使用し、これに実施例および比較例で得られた吸水防止材をモルタル板の70×70mmの面に1回塗布した(1面のみ塗布)。この時の塗布量が400g/mに達していない場合は再度重ね塗りを行い、最終塗布量が400g/mに達するまで重ね塗りを行った。得られた試験体を温度20℃、相対湿度65%RHの恒温恒湿機内で7日間養生した後、撥水性、浸透深さ、吸水比、アルカリ性水中での吸水比、および塩化物イオン浸透深さを測定した。この時、何も塗布していないものを対照とした。また、各測定を行う前に、塗布面を上面とした場合に側面となる4面(70×20mmの面)をエポキシ樹脂で封止した。各項目の測定方法は以下の通りで、撥水性と吸水比については促進耐候性試験の前後で測定を行った。
【0048】
(1)撥水性
供試体に直径2mmの水滴をのせ、接触角測定装置(協和界面科学(株)、接触角計S−150)により接触角を測定した。評価基準は以下のようにした。
◎:水滴の接触角が135゜以上
○:水滴の接触角が120〜135゜未満
△:水滴の接触角が80〜120゜未満
×:水滴を作らず直ちに吸水
なお、撥水性試験で接触角が135°以上の場合、撥水性が非常に優れていると判断できる。結果を表1に示す。
【0049】
さらに、供試体を、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)の商品名:デューサイクルサンシャインスーパーロングライフウェザーメーターWEL−SUN−DCH型)を用いて、ブラックパネル温度:63℃、湿度:50%、降雨条件:60分中12分降雨の試験条件で、促進耐候性試験を5,000時間実施した。促進耐候性試験後の供試体の撥水性を、上記と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0050】
(2)浸透深さ
70×70×20mmの供試体を70×35×20mmの大きさのものが2枚得られるように2分割し、その分割面に水を噴霧し、吸水防止材が浸透している部分(水が浸透しない部分)の厚さを測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(3)吸水比
供試体および無塗布供試体を、塗布面を下にして水中に浸漬(浸漬深さ5mm)し、1日後に水中から取り出し、余剰水を乾いた布で拭き取った後、重量(g)を測定し、下式により吸水比を算出した。
吸水比=[塗布供試体の水浸漬後の重量(g)−塗布供試体の水浸漬前の重量(g)]/[無塗布供試体の水浸漬後の重量(g)−無塗布供試体の水浸漬前の重量(g)]
なお、吸水比が0.1以下の場合、吸水防止性に優れていると判断できる。結果を表1に示す。
【0052】
さらに、上記と同様にして促進耐候性試験を5,000時間実施した後の供試体の吸水比を、上記と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0053】
(4)アルカリ性水中での吸水比
供試体および無塗布供試体を、塗布面を下にして飽和Ca(OH)水溶液中に浸漬(浸漬深さ5mm)し、1日後に溶液中から取り出し、余剰液を乾いた布で拭き取った後、重量(g)を測定し、下式により吸水比を算出した。
吸水比=[塗布供試体の浸漬後の重量(g)−塗布供試体の浸漬前の重量(g)]/[無塗布供試体の浸漬後の重量(g)−無塗布供試体の浸漬前の重量(g)]
なお、吸水比が0.1以下の場合、吸水防止性に優れていると判断できる。結果を表1に示す。
【0054】
(5)塩化物イオン浸透深さ
供試体を、塗布面を下にして3%NaCl水溶液中に30日間浸漬した後、供試体を2分割し、その分割面に0.1N−AgNO溶液および0.1%フルオレセインナトリウム溶液を噴霧し、発色した部分(塩化物イオンが浸透した部分)の厚さを測定した。なお、塩化物イオンの浸透深さが2mm以下の場合、遮塩性が非常に優れていると判断する。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1より、実施例1〜3の吸水防止材は、撥水性が良好でかつ浸透深さが深いために、アルカリ性水中での吸水比の低下および塩化物イオンの浸透抑制に効果的であり、さらに、長期間にわたって吸水防止性能を維持することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、(B)モンモリロナイトに第4級アンモニウムイオンを反応させて得られ、1000℃での強熱減量が33〜50%である有機ベントナイト、(C)極性溶媒、および(D)疎水性シリカ粉末からなる土木建築材料用吸水防止材。
【請求項2】
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物85〜95重量%、(B)モンモリロナイトに第4級アンモニウムイオンを反応させて得られ、1000℃での強熱減量が33〜50%である有機ベントナイト1〜13重量%、(C)極性溶媒1〜13重量%、および(D)疎水性シリカ粉末0.1〜2重量%からなる請求項1に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【請求項3】
アルキルアルコキシシランが、一般式(1);
Si(OR)4−n (1)
(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは1または2である。)で表される化合物である請求項1または2に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【請求項4】
極性溶媒がアルコールである請求項1〜3のいずれか1項に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【請求項5】
20℃における粘度が1,000〜10,000mPa・sである請求項1〜4のいずれか1項に記載の土木建築材料用吸水防止材。

【公開番号】特開2008−291225(P2008−291225A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103371(P2008−103371)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】