説明

圧力容器

【課題】安定した品質が確保された圧力容器を提供する。
【解決手段】圧力容器は、ライナ10の外周表面に、ライナ10を被覆する繊維強化樹脂層を備える。繊維強化樹脂層は、連続する複数の繊維と、該繊維間を埋めるように含浸された樹脂とからなり、断面が平行四辺形状のテーププリプレグ30の端部を重ね合わせながらライナ10に巻きつけ、次いで、樹脂を硬化させることにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素や窒素など、常温常圧状態における容積の大きな気体を高密度、小容量にて貯蔵するための容器として、所定の圧力により圧縮させて液体または気体として貯蔵する、圧力容器が使用されている。従来、耐圧性を有する鋼鉄製その他の金属製圧力容器が使用されてきたが、近年、天然ガスや水素ガスなどを貯蔵した圧力容器を車両などの移動体に搭載し、燃料として使用する技術に適用するため、圧力容器に対して要求される性能として、高密度化可能な耐圧性、耐久性はもちろんのこと、容器の軽量化も重要な課題となっていた。
【0003】
一方、例えば炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの繊維強化樹脂(FRP)を用いた圧力容器が知られている。FRP製の圧力容器は一般に、金属製圧力容器よりも軽量であるため、車両などの移動体への搭載には有利であり、また、水素用圧力容器として使用する場合における、従来の鋼鉄製容器の課題であった水素脆化その他の懸念も少ないため、特に注目されている。
【0004】
図10は、一般的なFRP製の圧力容器の構成の概略を説明するための図である。図10に示す圧力容器100は例えば、6−ナイロン(ナイロン6とも称する)、6,6−ナイロン(ナイロン66とも称する)などのナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂で形成された、流体を収容するための中空部を有するライナ10と、ライナ10の外周部分を被覆する繊維強化樹脂層(FRP層)12とを備え、構成されている。圧力容器100にはまた、少なくとも一つの口金18を有する。口金18には、図示しないバルブが接続可能に構成されており、このバルブ操作により圧力容器100の内外への高圧流体の流通を調節することができる。
【0005】
繊維強化樹脂層12は一般に、糸状の繊維(フィラメント)に熱硬化性樹脂などの樹脂液を含浸させ、必要に応じて乾燥および/または半硬化させたいわゆるプリプレグをライナの外周表面に巻きつけて、その後該樹脂液を硬化させることにより形成される。圧力容器100の設計圧力は、ライナ10の材質および/または厚みの他、例えば、繊維強化樹脂層12を構成する繊維の太さやプリプレグの巻き数を調整し、繊維強化樹脂層12の厚みを調整することにより、制御することができる。
【0006】
FRPの作製に用いられるプリプレグとして、例えば、長く連続した糸状の繊維(フィラメント)を複数本束ねた繊維束に樹脂液を含浸させトウプリプレグや、ほぼ一定の所望の厚みを有するシートプリプレグ、さらには該シートプリプレグを所望する幅に切断し、帯状にしたいわゆるテーププリプレグなどが知られている(例えば、特許文献1−3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−40119号公報
【特許文献2】特開2007−210102号公報
【特許文献3】特開2009−168111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図7は、一般的なトウプリプレグの構成の概略を説明するための断面拡大図である。図6に例示するように、トウプリプレグは一般に、その断面が円または楕円に近似した形状を有しており、中央部と端部との間でその厚みに差異が生じる。この不均一な厚みに伴い、ライナへの巻き付け(フィラメントワインディング(FW))工程時には、トウプリプレグの重なり部分に不可避的に隙間が生じることでボイドが発生しやすく、圧力容器の性能を精度よく作製することが困難な場合があり得た。特に、ライナに対して押圧しながらのFW工程や、場合によってはFW工程に先立って実施される開繊の程度に応じて、トウプリプレグの断面形状は断面積を保持しながらも変形しうる(図7(a),(b)参照)。このため、硬化させたFRP層やフィラメントが受ける応力や張力にばらつきが生じ、圧力容器の経時的な強度低下が懸念される場合もあり得た。
【0009】
一方、図8は、従来の一般的なテーププリプレグの構成の概略の一例を説明するための図である。図8(a)はテーププリプレグを上面視した図であり、図8(b)は図8(a)のA−A断面図である。図8(a)に示すテーププリプレグ130は、連続する複数の繊維14と、繊維14の間を埋めるように含浸された樹脂16とからなり、図8(b)に示すその断面形状は、ほぼ一定の幅および厚みをそれぞれ有する長方形状である。
【0010】
図9に例示するように、テーププリプレグ130では、ライナ10に対する厚みが、中央部と端部との間に差異がなくほぼ均一で、かつ寸法精度が良好である。このため、ライナ10の表面に図7に示すようなトウプリプレグを適用する場合よりも、積層方向へのテーププリプレグ130の重なり部分におけるボイドの発生は低減されうる。しかしながら、テーププリプレグ130の厚みによっては、隣接するトウプリプレグ間に空隙132が形成され、その端部に段差が生じる場合があり得た。そして、この空隙132の段差に伴い、ボイドが発生する余地が依然として残存しており、作製された圧力容器における安定した品質の確保が懸念される場合があり得た。
【0011】
本発明は、安定した品質が確保された圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、中空部を有するライナの外周表面に、前記ライナを被覆する繊維強化樹脂層を備える圧力容器であって、前記繊維強化樹脂層が、連続する複数の繊維と、該繊維間を埋めるように含浸された樹脂とからなる、所定の幅を有するテーププリプレグであって、断面が平行四辺形状のテーププリプレグの端部を重ね合わせながら前記ライナに巻きつけ、次いで、前記樹脂を硬化させてなる、圧力容器である。
【発明の効果】
【0013】
安定した品質が確保された圧力容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態における圧力容器の作製に好適なテーププリプレグの構成の概略を説明するための図である。
【図2】図1に示すテーププリプレグをライナに巻きつけた様子を概念的に示した図である。
【図3】図1に示すテーププリプレグの作製に用いられるシートプリプレグの一例を説明するための図である。
【図4】図3に示すシートプリプレグを切断するカッタ刃の一例を説明するための図である。
【図5】図3に示すシートプリプレグを切断する様子を説明するための上面図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるテーププリプレグの寸法例を説明するための断面拡大図である。
【図7】従来のトウプリプレグの断面形状を例示するための拡大図である。
【図8】従来のテーププリプレグの構成の概略を例示する図である。
【図9】図8に示すテーププリプレグをライナに巻きつけた様子を概念的に示した図である。
【図10】圧力容器の構成の概略を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態における圧力容器に好適に用いうるテーププリプレグの構成の概略の一例を説明するための図である。図1(a)はテーププリプレグを上面視した図であり、図1(b)は図1(a)のB−B断面図である。図1に示すテーププリプレグ30は、その断面形状が、並行四辺形状であることを除き、図7に示すテーププリプレグ130とほぼ同様の構成を有している。
【0017】
図2は、図1に示すテーププリプレグ30をライナ10に巻きつけた様子を概念的に示したものである。テーププリプレグ30の端部が直角ではない所定の鋭角を有することにより、隣り合うテーププリプレグ30の端部が互いに重なり合うように巻きつけられる。このため、ライナ10へのテーププリプレグ30の巻きつけに伴う表面段差が、図8に示すテーププリプレグ130と比較して小さくなり、ボイドの発生も抑制することができる。
【0018】
図3(a)は、図1に示すテーププリプレグ30の作製に好適なシートプリプレグを上面視した図である。図3(a)に示すシートプリプレグ20は、ほぼ同一方向となるように整然と並べられた、連続する複数の繊維14と、繊維14の間を埋めるように含浸された樹脂16とからなる。一方、図3(b)は図3(a)のD−D断面図である。繊維14方向にほぼ垂直に切断したシートプリプレグ20の断面形状は、全体にわたりほぼ一定の幅および厚みをそれぞれ有する長方形状である。本実施の形態において、シートプリグレグ20を作製する方法として、例えばラミネート法、ホットメルト法のほか、公知のあらゆる手法を適用することができる。
【0019】
図4(a)は、図3に示すシートプリプレグ20を加工してテーププリプレグ30を作製するのに好適なカッタ刃の一例について説明するための側面図である。カッタ刃40は、図1(b)に示すテーププリプレグ30の断面形状に対応するよう、ほぼ平行四辺形状の複数のスリットまたは格子を一列に並べるように形成されている。図4(b)に示すように、1つのテーププリプレグ30に対応するカッタ刃40の幅Wおよび角度θは、テーププリプレグ30の幅wおよび角度θ(図6参照)にほぼ対応している。一方、カッタ刃40の高さHは、テーププリプレグ30の厚みh(図6参照)よりもやや高いことが好ましい。
【0020】
図5(a)は、図4(b)に示すように配置したカッタ刃40による、シートプリプレグ20の切断の様子を説明するための上面図であり、図5(b)は、図5(a)のE−E断面図である。図4に示すカッタ刃40は、繊維14方向にほぼ並行なライン41を切断部として、複数のテーププリプレグ30を作製することができる。本実施の形態においては、テーププリプレグ30を作製するにあたり、シートプリプレグ20を無駄なく利用することができるため、好適である。
【0021】
本発明の実施の形態において、図6に示す繊維14としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ケブラ繊維などを用いることが可能であり、特に比強度、比剛性の観点から炭素繊維が好適に用いられる。より具体的には、T800繊維(東レ社製)、テナックスIM600(商品名)(東邦テナックス社製)などを挙げることができるが、これらに限定されない。また、繊維束の機械的強度として、引張り強度が100〜300GPa程度のものが好ましいが、これに限定されない。
【0022】
一方、図6に示す樹脂16の材料である樹脂液として、例えば液状の熱硬化性樹脂を用いることができ、要求される性能に応じて適宜選択することが可能である。かかる熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などを使用することができるが、これに限定されない。
【0023】
また、テーププリプレグ30の厚みhは、例えば、100〜1000μmに設定することができる。テーププリプレグ30の厚みhが100μm未満だと、FW工程での生産性が低下する場合があり得る一方、1000μmを超えると、ライナに円筒状に巻く場合において、同一束内の内側と外側とで繊維歪が変わるため、作製されたFRPの強度が低下する場合があり得る。
【0024】
また、テーププリプレグ30の幅wは、例えば、4〜100mm程度に設定することができる。テーププリプレグ30の幅wが4mm未満だと、FW工程での生産性が低下する場合があり得る一方、100mmを超えると、容器の特にドーム部でのFWが困難となる場合があり得る。
【0025】
さらに、テーププリプレグ30の底面と側面とのなす角θは、例えば、15〜60°に設定することができ、より好ましくは30〜45°である。テーププリプレグ30の底面と側面とのなす角θが15°よりも小さいと、テーププリプレグの平らな部分を確保しづらくなる場合があり得る一方、60°を超えると、ボイドを抑えるために必要な繊維束間の間隔が狭くなり、制御が困難となる場合があり得る。
【0026】
本発明の実施の形態によれば、テーププリプレグの断面を平行四辺形状にすることにより、テーププリプレグの端部における、厚み方向の幅を小さくすることができる。このため、隣り合うテーププリプレグの重なり部分における高さを、テーププリプレグの厚みとは大差ないように抑制することができる。したがって、テーププリプレグの積層方向にも、ライナ表面にほぼ平行な方向にもボイドの発生を抑えることができ、長期にわたり安定した品質が確保された圧力容器を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、テーププリプレグを巻き付けて作製されるFRP製の圧力容器に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 ライナ、12 繊維強化樹脂層、14 繊維、16 樹脂、18 口金、20 シートプリプレグ、30,130 テーププリプレグ、40 カッタ刃、100 圧力容器、132 空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有するライナの外周表面に、前記ライナを被覆する繊維強化樹脂層を備える圧力容器であって、
前記繊維強化樹脂層が、
連続する複数の繊維と、該繊維間を埋めるように含浸された樹脂とからなる、所定の幅を有するテーププリプレグであって、断面が平行四辺形状のテーププリプレグの端部を重ね合わせながら前記ライナに巻きつけ、次いで、前記樹脂を硬化させてなることを特徴とする圧力容器。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−144840(P2011−144840A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4408(P2010−4408)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】