説明

圧力差によって作動するバルブ及び当該バルブを用いた燃料電池システム

【課題】内外圧力差によって開閉作動でき、構造が簡単で、自動的に復帰できるバルブを提供する。
【解決手段】入口部材20と出口部材30との間に設けられ、流入口21と流出口31との間の流路を取り囲むように筒状に形成され、半径方向に変形可能な弾性体よりなるバルブ本体10を備える。バルブ本体10の中心部には、流入口又は流出口の一方を開閉可能な弁体14が配置され、バルブ本体10の内周面と弁体14の外周面との間を角度変化可能な複数の接続部15が連結している。接続部15は軸線に対して傾斜している。バルブ本体10の内側の圧力と外側の圧力との差圧によってバルブ本体10が半径方向に変形すると、接続部の軸線に対する傾斜角が変化し、弁体14が軸方向に変位して流入口21又は流出口31の一方を開放又は閉鎖する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力差によって開閉作動するバルブ及び当該バルブを用いた燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料カートリッジから制御バルブ、ポンプを介して燃料を発電セルに供給する燃料電池システムを用いた携帯機器などが知られている。このような燃料電池システムにおいて、環境温度が高くなったとき、燃料カートリッジの内圧が急上昇し、高圧の燃料が制御バルブ、ポンプ、発電セルに作用して、これら機器に悪影響を及ぼす可能性がある。このようなカートリッジの内圧が高圧になった時に、流路を遮断し、制御バルブ、ポンプ、発電セルを保護する耐圧バルブが必要になる。
【0003】
特許文献1には、流路内を流れる流体が異常圧力になったときに自動的に流路を閉状態とする緊急遮断弁が開示されている。この緊急遮断弁は、弁本体に設けられたダイヤフラムに取り付けられたスピンドルと、スプリングによって閉方向に付勢された筒状弁体とを備え、スピンドルの外周に周溝を設け、弁体の内周にノッチを設け、スピンドルと弁体との間に周溝とノッチとに係合するボールを配置してある。弁本体内に異常高圧が発生したとき、ダイヤフラムがスプリングに抗してスピンドルを押し上げるため、ボールが周溝側に移動し、ノッチから外れる。そのため、スプリングの付勢力によって弁体が流路を遮断できるようになっている。
【0004】
しかしながら、前記緊急遮断弁は多数の部品で構成されており、構造が非常に複雑であるため、小型化が困難であるという問題がある。しかも、一旦作動した場合には、自動で復帰できないという欠点がある。そのため、燃料電池システムの耐圧バルブや制御バルブとしては適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭62−2377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、内外圧力差によって開閉作動でき、構造が簡単で、自動的に復帰できるバルブを提供することにある。
他の目的は、当該バルブを用いた燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、流入口を有する入口部材と、流出口を有する出口部材と、前記入口部材と出口部材との間に設けられ、前記流入口と前記流出口との間の流路を取り囲むように筒状に形成され、半径方向に変形可能な弾性体よりなるバルブ本体と、前記バルブ本体の中心部に配置され、前記流入口又は流出口の一方を開閉可能な弁体と、前記バルブ本体の内周面と前記弁体の外周面との間を連結し、軸線に対して傾斜するように設けられた、角度変化可能な複数の接続部とを備え、前記バルブ本体の内側の圧力と外側の圧力との差圧によって前記バルブ本体が半径方向に変形し、前記バルブ本体の変形に伴って前記接続部の軸線に対する傾斜角が変化することで、前記弁体が軸方向に変位して前記流入口又は流出口の一方を開放又は閉鎖することを特徴とするバルブを提供する。
【0008】
図1は本発明に係るバルブ(常開タイプの例)の一例の作動原理を示す。流入口1aを有する入口部材1と、流出口2aを有する出口部材2との間に、バルブ本体3が設けられている。バルブ本体3は筒状弾性体よりなり、半径方向に変形可能である。バルブ本体3の中心部には流入口1a又は流出口2aの一方(ここでは流出口2a)を開閉可能な弁体4が配置されている。バルブ本体3の中央部内周面と弁体4の外周面との間には、軸線に対して傾斜するように角度変化可能な複数の接続部5が設けられている。これら接続部5は、弁体4をバルブ本体3の中心位置でかつ軸方向と平行になるように支持し、かつバルブ本体3の半径方向変形を弁体4の軸方向変位に変換する役割を持つ。ここでは、バルブ本体3に対して弁体4と接続部5とが一体形成されたものを示している。各接続部5は周方向に間隔をあけて設けられているので、流入口1aと流出口2aとは互いに連通している。
【0009】
バルブ本体3の内側と外側との差圧が小さい場合には、図1の(a)のように弁体4は流出口2aを開いているので、流入口1aより流入した流体はバルブ本体3の内部を通過して流出口2aより排出される。いまバルブ本体3の内側の圧力が外側の圧力より高くなると、その差圧によってバルブ本体3の中央部が半径方向に膨出する。バルブ本体3の膨出に伴って接続部5の外側端部が半径方向へ引っ張られるので、接続部5の軸線に対する傾斜角が大きくなる。つまり、接続部5の傾きが軸線と垂直方向に変化する。そのため、弁体4が軸方向に変位して流出口2aを閉じ、流体の流れを遮断する(図1の(b)参照)。その後、バルブ本体3の内側と外側との差圧が小さくなると、バルブ本体3は自身のばね弾性によって元の状態に戻り、接続部5の傾斜角も元の状態に戻る。そのため、弁体4が軸方向に引き戻され、流出口2aを開く(図1の(c)参照)。この場合は、流入口1aから流入する流体の圧力が過大になるのを防止する遮断弁として用いることができる。
【0010】
バルブ本体と弁体と接続部とをゴム状弾性体により一体形成するのが望ましい。すなわち、バルブ本体と弁体とを別部材で形成し、それらを接続部を介して連結してもよいが、部品点数が増え、小型化が困難になる。これに対し、3部品を一体形成すれば、1部品で構成できるので、構造が簡素化され、かつ小型化が容易になる。特に、携帯機器用の燃料電池システムの場合、小型のバルブが求められるので、このような要求にも対応することができる。
【0011】
接続部は、バルブ本体の内周面と接合される外側端部と、弁体の外周面と接合される内側端部とが軸線と垂直方向に延び、両端部の間を結ぶ中間部が軸線に対して傾斜している形状としてもよい。接続部はその全長にわたって軸線に対して傾斜した形状であってもよいが、バルブ本体の内周面及び弁体の外周面と接続される両端部の耐久性が繰り返し使用に対して問題になる。接続部の両端部にR部を形成すれば耐久性が改善されるが、接続部が角度変化しにくくなるので、弁体の軸方向変位量も小さくなる。これに対し、接続部の両端部を軸線と垂直方向とし、その中間部を傾斜させた場合には、接続部の角度変化と耐久性とを両立させることができる。
【0012】
バルブ本体は、円弧状壁部と平板状壁部とを持つ断面長円形状に形成され、平板状壁部と弁体との間に接続部を設けた構造としてもよい。例えばバルブ本体を円筒形状としてもよいが、バルブ本体全体が膨出するためには大きな差圧が必要であり、バルブ本体の半径方向の変位量が小さい。そのため、差圧に対する弁体の軸方向変位量も小さくなる。バルブ本体の肉厚を全体的に薄くすることで差圧に対するバルブ本体の変形量を大きくすることも可能であるが、これではバルブ本体自体の強度が低下する。バルブ本体を円弧状壁部と平板状壁部とを持つ断面長円形状とした場合、平板状壁部の方が円弧状壁部よりも差圧に対する変形量が大きくなるので、比較的小さな差圧でも平板状壁部を大きく変形させることができる。平板状壁部と弁体との間に接続部が設けられているので、平板状壁部の半径方向の変形を弁体の軸方向変位に変換することで、弁体の軸方向変位量を増大させることができる。バルブ本体を断面長円形状とした場合、平板状壁部を円弧状壁部に比べて薄肉とすることで、さらなる変位量の拡大を図ることができると共に、バルブ本体の強度は円弧状壁部で確保することができる。
【0013】
バルブ本体の外周を覆う筒状の外部筐体をさらに備え、この外部筐体の軸方向両端部はそれぞれ入口部材と出口部材とに連結され、外部筐体の内周面とバルブ本体の外周面との間に外部空間が形成され、外部筐体の周壁に前記外部空間と外部とを接続するための外部接続口が設けられた構造としてもよい。この場合には、外部筐体がバルブ本体の外周を保護する保護カバーとしての役割と、バルブ本体の膨出量を規制するための規制部材としての役割とを持つと共に、バルブ本体の外側に外部空間を形成するための空間形成部材としての役割を持つことができる。外部空間を大気と連通させてもよいし、大気圧とは異なる圧を導いてもよい。
【0014】
バルブ本体の軸方向両端部にはそれぞれ第1フランジ部と第2フランジ部とが形成され、第1フランジ部は外部筐体の一端部と入口部材との間で圧着され、第2フランジ部は外部筐体の他端部と出口部材との間で圧着された構造としてもよい。この場合には、バルブ本体の両端部に設けたフランジ部がシール材を兼ねるので、外部空間とバルブ本体の内部との間が確実にシールされ、バルブ本体が膨出した時の流体漏れを防止できる。
【0015】
本発明にかかるバルブは、燃料電池システムに適用することができる。燃料電池システムは、燃料が貯留された燃料カートリッジと、当該燃料カートリッジから燃料を送り出すポンプと、当該ポンプによって送り出された燃料により発電する発電セルとを備えている。本発明に係るバルブの流入口を燃料カートリッジに接続し、流出口をポンプの吸込口に接続し、弁体が通常時において流出口を開くようにしてもよい。この場合、燃料カートリッジの内圧が所定値以上になった時に弁体が流出口を閉じるようにすれば、耐圧バルブとして用いることができる。
【0016】
また、本発明にかかるバルブを、燃料電池システムのポンプと発電セルとの間に設け、流入口をポンプの吐出口と接続し、流出口を発電セルと接続し、外部接続口を燃料カートリッジと接続してもよい。この場合、弁体は通常時において流出口を閉じており、外部空間に供給された燃料カートリッジの内圧に対し、ポンプの吐出圧が所定値以上高くなった時に弁体が流出口を開くようにすればよい。つまり、ポンプ動作中は燃料はポンプからバルブを通過して発電セルへ送られ、ポンプ停止中はポンプから発電セルへの燃料の流れを遮断する、制御バルブとして用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明のバルブによれば、バルブ本体の半径方向の変形を接続部を介して弁体の軸方向変位へ変換するので、バルブ本体の内外の差圧によって作動する、極めて簡素な構造のバルブを実現できる。バルブ本体と弁体とその間を繋ぐ接続部とで構成されているので、小型化が容易であり、しかも差圧がなくなると、弁体は自動的に元の状態に復帰できるので、取り扱いが非常に簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るバルブの作動原理を示す図である。
【図2】本発明に係るバルブの第1実施形態の縦断面図である。
【図3】図2に示すバルブの斜視図である。
【図4】図2のIV−IV断面図である。
【図5】図2に示すバルブに使用されるバルブ本体の縦断面図、V−V断面図、斜視図である。
【図6】断面円形のバルブ本体と断面長円形のバルブ本体の変形比較図である。
【図7】バルブ本体の他の例の断面図である。
【図8】バルブ本体の内部圧力と弁体の変位量との関係を示す図である。
【図9】接続部の傾斜角度と弁体の変位量との関係を示す図である。
【図10】図2に示すバルブの動作説明図である。
【図11】本発明に係るバルブを燃料電池システムに適用した一例の構成図である。
【図12】本発明に係る第2実施形態のバルブを燃料電池システムに適用した例の構成図である。
【図13】本発明に係るバルブの第3実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
図2〜図5は本発明にかかるバルブの第1実施形態を示す。このバルブAは、ゴム状弾性体(例えばシリコンゴム)よりなるバルブ本体10と、流入口21を有する入口部材20と、流出口31を有する出口部材30と、外部筐体40とで構成されている。入口部材20,出口部材30、外部筐体40は硬質材料(例えば樹脂、金属など)で形成されている。
【0020】
バルブ本体10は、図5に示すように、筒状の胴部11と、胴部11の両端部に一体に形成された円板状のフランジ部12,13とを有する。この例のバルブ本体10の胴部11は、円弧状壁部11aと平板状壁部11bとを持つ断面長円形状に形成されており、平板状壁部11bは円弧状壁部11aより薄肉に形成されている。胴部11の中心部には丸軸状の弁体14が配置されており、この弁体14と平板状壁部11bとの間が一対の帯状の接続部15によって連結されている。この例では、バルブ本体10に対して弁体14と接続部15とが一体形成されている。接続部15は、軸線に対して角度θ(0<θ<90°)をもって傾斜するように設けられている。接続部15は、弁体14をバルブ本体10の中心位置でかつ軸方向と平行になるように支持する支持部材としての役割と、バルブ本体10の膨出変形を弁体14の軸方向変位に変換する変換部材としての役割とを持つ。
【0021】
入口部材20の一端部には、バルブ本体10の胴部11の一端側に嵌合される凸部22が設けられ、流入口21は凸部22の中心部に開口している。出口部材30の一端部にも、バルブ本体10の胴部11の他端側に嵌合される凸部32が設けられ、流出口31は凸部32の中心部に開口している。接続部15は、外周端から内周端にかけて流入口21側に傾斜しており、通常状態において、弁体14の一端部は流出口31と対向した位置でかつ凸部32に対して近接した位置にある。そのため、通常時は流出口31が開かれ、常開バルブを構成している。なお、弁体14は流入口21とは大きく離れている。
【0022】
外部筐体40はバルブ本体10の外周を覆う円筒形状に形成されており、外部筐体40の軸方向両端部はそれぞれ入口部材20と出口部材30とに連結固定されている。そのため、外部筐体40の内周面とバルブ本体10の外周面との間に外部空間41が形成されている。特に、この実施形態では、バルブ本体10の胴部11が断面長円形であるため、2個の外部空間41が対称位置に設けられている(図4参照)。外部筐体40の周壁には、外部空間41へ外部圧を供給するための2個の外部接続口42が形成されている。バルブ本体10の一方のフランジ部12は外部筐体40の一端部と入口部材20との間で圧着され、他方のフランジ部13は外部筐体40の他端部と出口部材30との間で圧着されている。そのため、外部空間41とバルブ本体10の内部空間との間が確実にシールされている。
【0023】
上述のように本実施形態のバルブ本体10の胴部11は断面長円形状とされているが、その理由を図6を参照して以下に説明する。図6の(a)のように、バルブ本体10Aを一定厚みの円形断面で形成した場合には、内圧Pが高くなっても、半径方向の変形量が小さい。例えば、内径φ2mm、外径φ3mm、軸長3mmのシリコンゴム製(ヤング率10MPa)の円筒形バルブ本体では、内側に100kPaの圧力Pをかけた時の半径方向の変形量は30μm程度である。これに対し、断面長円形状にした場合(円弧状壁部11aの内径φ2mm、外径φ3mm、平板状壁部11bの内寸S1=1.7mm、外寸S2=2.2mm)には、平板状壁部11bの変形量は130μm程度になり、約4倍に拡大できる。なお、バルブ本体10の厚みを薄くできる場合や、バルブ本体10として柔らかい材料を使用できる場合には、断面長円形状に限らず円筒形状であってもよいことは勿論である。
【0024】
この実施形態の接続部15は、図5に示すように、胴部11の内周面と接合される外側端部15aと、弁体14の外周面と接合される内側端部15bとが軸線と垂直方向に延び、両端部の間を結ぶ中間部15cが軸線に対して傾斜している形状となっている。その理由を、接続部15がその全長にわたって軸線に対して傾斜した形状である場合(図7参照)と比較して説明する。図7のような直線形状の接続部を持つバルブ本体10Bの場合、バルブ本体10の内周面及び弁体14の外周面と接続される接続部の耐久性が繰り返し使用に対して問題になるので、接続部15の両端部にR部15d,15eを形成する方がよい。その場合、接続部15が角度変化しにくくなるので、胴部11が膨出した時の弁体14の軸方向変位量が小さくなる。これに対し、接続部15の両端部15a,15bを軸線と垂直方向とし、その中間部15cを傾斜させた場合には、胴部11が膨出した時の接続部15の角度変化が容易になり、弁体14の軸方向変位量を大きくできる。また、胴部11が膨出した時の接続部15の両端部15a,15bにかかる負荷を軽減できるので、耐久性を向上させることができる。なお、耐久性と変位量を確保できるのであれば、接続部15の形状は図7のようなものでもよいことは勿論である。また、接続部15は必ずしも帯状に限定されるものではなく、バルブ本体10の内側の圧力と外側の圧力との差圧によってバルブ本体10が半径方向に変形し、バルブ本体10の変形に伴って接続部15の軸線に対する傾斜角が変化するような形状であれば、いかなる形状でもよい。
【0025】
図8は、バルブ本体10の内部圧力と弁体14の軸方向変位量との関係を示す。図8から明らかなように、内部圧力の上昇に伴い弁体14の変位量は比例的に増加するが、100kPa以上になると、弁体の変位量の増加率が徐々に低下し、150kPa付近を超えると、弁体の変位量はほぼ一定(約175μm)となる。したがって、弁体と流出口(又は流入口)との距離を、弁体の変位量が比例的に変化する領域内に設定することにより、確実な閉弁力を得ることができる。
【0026】
図9は、接続部15の傾斜角度と弁体14の軸方向変位量との関係を示す。図9から明らかなように、接続部15の傾斜角度に伴って弁体14の軸方向変位量が変化し、傾斜角度が55°付近で弁体の変位量が最大となることがわかる。なお、傾斜角が50°〜65°の範囲であれば、110μm以上の変位量が得られるので、好ましい。
【0027】
ここで、前記構成のバルブAの作動を図10にしたがって説明する。(a)は初期状態であり、流入側の圧力が小さく、外部空間41の圧力(ここでは大気圧)との差圧が小さいので、バルブ本体10は変形していない。そのため、弁体14は流出口31を開いており、流入口21から流出口31へと流体が流れることができる。(b)は流入側の圧力が上昇し、バルブ本体10が少し膨らんだ状態を示す。この状態では、弁体14は流出口31に向かって少し変位するが、依然として流出口31を開いているので、流入口21から流入した流体は流出口31へと排出される。(c)は流入側の圧力が所定の閾値を超え、バルブ本体10が外部筐体40の内壁に接触するまで膨らんだ状態を示す。この状態では、弁体14が流出口31を閉じるので、流入口21から流出口31への流体の流れが遮断される。(d)は流入側の圧力が閾値を下回り、バルブ本体10の膨らみが減少した状態を示す。この状態では、弁体14が流出口31を開くので、流入口21から流入した流体は流出口31へと排出される。
【0028】
このように、バルブ本体10の内圧と外圧との差圧によって膨出し、弁体14が軸方向に変位して流出口を開閉するので、緊急遮断用バルブとして用いることができる。また、大気とバルブ本体10の内圧との圧力差を利用しているので、バルブ本体10の内圧が元に戻ると、弁体14も自動的に復帰することができる。
【0029】
図11は、携帯機器などの燃料電池システムの一例を示す。このシステムは、燃料(例えばメタノール)を貯留した燃料カートリッジ50と、耐圧バルブ51と、燃料を送り出すポンプ52と、ポンプ52の作動中のみ流路を開く制御バルブ53と、燃料によって発電する発電セル54とを備えている。本発明に係るバルブAを耐圧バルブ51として使用する場合には、流入口21を燃料カートリッジ50に接続し、流出口31をポンプ52に接続すればよい。この場合には、燃料カートリッジ50の内圧が異常高圧になった時に流路を遮断し、下流側のポンプ52、制御バルブ53、発電セル54を保護することができる。
【0030】
〔第2実施形態〕
図12は、本発明の第2実施形態に係るバルブBを制御バルブとして使用した燃料電池システムの他の例を示す。このバルブBは、接続部15が逆向きに傾斜し、かつ弁体14が流出口31を常時閉じている点を除き、第1実施形態のバルブAの構造と同様である。すなわち、接続部15は外周端から内周端にかけて流出口31側へ傾斜している。流入口21はポンプ52の吐出口と接続され、流出口31は発電セル54と接続されている。さらに、外部接続口42に燃料カートリッジ50が接続されている。
【0031】
ポンプ52が停止している時には、図12の(a)のようにバルブBのバルブ本体10の内側の圧力は低く、外部空間41の圧力は燃料カートリッジ50の内圧に等しい。何らかの原因により燃料カートリッジ50の内圧が高くなった時、その圧力は外部空間41へ導かれているので、外部空間41の圧力上昇によりバルブ本体10は内径側へ圧縮される方向に変形する。そのため、弁体14は流出口31へ強く押しつけられ、確実に閉弁状態を維持できる。したがって、燃料カートリッジ50の内圧が異常高圧になっても、発電セル54に誤って燃料が供給されることがない。一方、ポンプ52を作動させると、バルブ本体10の内側の圧力が高くなり、その圧力が外部空間41の圧力より高くなると、図12の(b)のようにバルブ本体10が膨らむ。そのため、接続部15を介してバルブ本体10と連結された弁体14は流入口側へ変位し、流出口31を開く。その結果、ポンプ52により吐出された燃料が流出口31を介して発電セル54へ送られ、発電することができる。
【0032】
〔第3実施形態〕
弁体の先端部形状は、第1,第2実施形態のように平坦状である必要はなく、弁座面も平面形状である必要はない。図13に示すバルブCのように、弁体14の先端部14aを球面状とし、対向する流出口31の開口部(弁座)31aをテーパ形状としてもよい。この場合には、接続部15の撓みなどにより弁体14が多少傾いても、弁体14の先端部14aが球形で、流出口31の開口部31aがテーパ状であるため、弁体14が流出口31を確実に閉じることができる。
【0033】
本発明は前記実施形態に限定されるものではない。第1〜第3実施形態では、バルブ本体の外側を外部筐体で覆い、バルブ本体の外周と外部筐体の内周との間に外部空間を形成する例を示したが、図1に示すように外部筐体を省略することもできる。つまり、入口部材及び出口部材をバルブ本体で直接連結してもよい。また、入口部材、出口部材、及び外部筐体をバルブ専用部品とする必要はなく、例えば燃料カートリッジの筐体やポンプの筐体で兼用することもできる。
【0034】
前記実施形態では、弁体が流出口を開閉する例について説明したが、流入口を開閉するように構成してもよい。その場合、弁体が通常時において流入口を閉鎖する常閉タイプでもよいし、常開タイプでもよい。
【符号の説明】
【0035】
A〜C バルブ
10 バルブ本体
14 弁体
15 接続部
20 入口部材
21 流入口
30 出口部材
31 流出口
40 外部筐体
41 外部空間
42 外部接続口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口を有する入口部材と、
流出口を有する出口部材と、
前記入口部材と前記出口部材との間に設けられ、前記流入口と前記流出口との間の流路を取り囲むように筒状に形成され、半径方向に変形可能な弾性体よりなるバルブ本体と、
前記バルブ本体の中心部に配置され、前記流入口又は前記流出口の一方を開閉可能な弁体と、
前記バルブ本体の内周面と前記弁体の外周面との間を連結し、軸線に対して傾斜するように設けられた、角度変化可能な複数の接続部とを備え、
前記バルブ本体の内側の圧力と外側の圧力との差圧によって前記バルブ本体が半径方向に変形し、前記バルブ本体の変形に伴って前記接続部の軸線に対する傾斜角が変化することで、前記弁体が軸方向に変位して前記流入口又は前記流出口の一方を開放又は閉鎖することを特徴とするバルブ。
【請求項2】
前記バルブ本体と前記弁体と前記接続部とはゴム状弾性体により一体形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
前記接続部は、前記バルブ本体の内周面と接続される外側端部と、前記弁体の外周面と接続される内側端部とが軸線と垂直方向に延び、前記両端部の間を結ぶ中間部が軸線に対して傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載のバルブ。
【請求項4】
前記バルブ本体は、円弧状壁部と平板状壁部とを持つ断面長円形状に形成され、
前記平板状壁部と前記弁体との間に前記接続部が設けられていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のバルブ。
【請求項5】
前記バルブ本体の外周を覆う筒状の外部筐体をさらに備え、
前記外部筐体の軸方向両端部はそれぞれ前記入口部材と前記出口部材とに連結され、
前記外部筐体の内周面と前記バルブ本体の外周面との間に外部空間が形成され、
前記外部筐体の周壁に前記外部空間と外部とを接続するための外部接続口が設けられていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のバルブ。
【請求項6】
前記バルブ本体の軸方向両端部にはそれぞれ第1フランジ部と第2フランジ部とが形成され、
前記第1フランジ部は前記外部筐体の一端部と前記入口部材との間で圧着され、
前記第2フランジ部は前記外部筐体の他端部と前記出口部材との間で圧着されていることを特徴とする、請求項5に記載のバルブ。
【請求項7】
燃料が貯留された燃料カートリッジと、当該燃料カートリッジから燃料を送り出すポンプと、当該ポンプによって送り出された燃料により発電する発電セルとを備えた燃料電池システムにおいて、
前記燃料カートリッジと前記ポンプとの間に、前記流入口が前記燃料カートリッジに接続され、前記流出口が前記ポンプの吸込口に接続された請求項1ないし6のいずれかに記載のバルブが設けられ、
前記弁体は通常時において前記流入口及び前記流出口を開いており、前記燃料カートリッジの内圧が所定値以上になった時に、前記弁体は前記流出口を閉じることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項8】
燃料が貯留された燃料カートリッジと、当該燃料カートリッジから燃料を送り出すポンプと、当該ポンプによって送り出された燃料により発電する発電セルとを備えた燃料電池システムにおいて、
前記ポンプと前記発電セルとの間に、前記流入口が前記ポンプの吐出口と接続され、前記流出口が前記発電セルと接続され、かつ前記外部接続口が前記燃料カートリッジと接続された請求項5又は6に記載のバルブが設けられ、
前記弁体は通常時において前記流出口を閉じており、前記外部空間に供給された前記燃料カートリッジの内圧に対し前記ポンプの吐出圧が所定値以上高くなった時に、前記弁体は前記流出口を開くことを特徴とする、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−208792(P2011−208792A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79998(P2010−79998)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】