説明

圧力洩れ測定方法

【課題】圧力洩れ測定において、マスタデータの所要記憶量を減らし、かつ実際の被検査物の洩れレートを算出する際の演算量を減らして処理速度を高める。
【解決手段】洩れが無い被検査空間9aと基準空間8aとの間の差圧の経時変化を、各々の時間帯τ1,τ2,τ3…内は一次関数になると擬制したときの、各一次関数の勾配aM1,aM2,aM3…をマスタデータとして作成する(作成工程)。次に、被検査空間9aと基準空間8aとの間の実測差圧の経時変化の時間帯τ1,τ2,τ3…ごとの勾配aT1,aT2,aT3…を実測データとして求める(実測工程)。実測データから同じ時間帯のマスタデータを差し引く(演算工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、密封された被検査空間内に加圧気体源から加圧気体を導入して、被検査空間からの圧力洩れを測定する圧力洩れ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉された内部空間(被検査空間)を有する被測定物の密閉性を検査するために、エアコンプレッサ等の加圧気体源から圧縮空気等の加圧気体を上記被測定物の内部空間に導入して、上記内部空間からの圧力洩れを測定することが知られている。圧力洩れの測定方式は、被検査空間の圧力それ自体の変化を圧力検出器にて検出する圧力方式と、被検査空間と基準空間との間の差圧の変化を差圧検出器にて検出する差圧方式とに大別される。前者の圧力方式は、圧力検出器の測定精度の制約がある。圧力洩れを高精度に測定するには後者の差圧方式が適している。
【0003】
差圧方式では、被検査空間とは独立した密閉空間(基準空間)を有する基準容器を用意して、被検査空間と基準空間とを差圧検出器を介して接続する。そして、被検査空間と基準空間とを互いに連通させた状態でこれら空間に加圧気体を導入する。圧力が平衡した後、被検査空間と基準空間とを遮断して各々閉鎖系とする。被測定物にピンホール等の欠陥部があったときはそこから加圧気体が洩れて被検査空間と基準空間との間に差圧が生じる。この差圧の変化を差圧検出器にて検出することによって、被検査空間からの圧力洩れを測定することができる。ひいては、被測定物の良否を判定できる。
【0004】
一方、被検査空間の圧力は、加圧気体の導入に伴う断熱圧縮による温度変化によっても変動する。この温度変化に起因する圧力変動は時間の経過とともに収束する。この収束を待って圧力洩れ測定を行なうのが一般的であるが、それでは測定に長時間を要する。
【0005】
そこで、特許文献1では、被検査空間に洩れがない場合の差圧の経時変化をマスタデータとして記憶しておく。そして、差圧の実測データをマスタデータと比較することによって洩れレートを算出している。具体的には、マスタデータは、洩れがない被検査空間と基準空間とが遮断された時点以降の経時変化する差圧値の集合であり、断熱圧縮による温度変化に起因する圧力変動の経時データに相当する。そして、実測時の被検査空間と基準空間とが遮断された時点以降のある測定時刻の実測差圧値からそれと対応する測定時刻におけるマスタデータの差圧値を差し引く。これによって、実測差圧値から洩れに起因する差圧(洩れ差圧)が抽出される。さらに二以上の測定時刻における洩れ差圧を求め、一回微分値(二つの洩れ差圧どうしの差)を算出することで、洩れ差圧の変化量すなわち洩れレートを求めている。
【0006】
特許文献2では、温度変化と洩れを加味した差圧の経時変化を表す方程式を近似的に設定しておき、実測データを上記方程式にフィッティングさせることで上記方程式の洩れに関わる係数を求め、洩れ判定を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3181199号公報
【特許文献2】特開2004−061201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上掲特許文献1,2に記載の方法によれば、断熱圧縮による温度変化に起因する圧力変動が収束するのを待たなくても洩れ判定できる。しかし、特許文献1では、差圧値をマスタデータとしているから、リーク差圧の変化量を求めるために記憶させるべきデータ数が多くなり、リーク差圧の変化量を求める際の演算量も多くなる。
特許文献2では、差圧方程式を設定し、フィッティングするための演算ソフトウエアが煩雑になる。
本発明は、上記事情に鑑み、マスタデータの所要記憶量を減らし、更には実際の被検査物の洩れレートを算出する際の演算量を減らして処理速度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の通り、被検査空間に加圧気体を導入すると、被検査空間の温度が、断熱圧縮によって上昇し、その後、放熱によって次第に下降する。この温度変化に起因して被検査空間の圧力が変動する。したがって、上記加圧気体の導入後に被検査空間と基準空間とを遮断すると、これら空間どうし間の差圧が変化する。
【0010】
図2において細い実曲線に示すように、上記の温度変化に起因する差圧成分の経時変化PM(t)は、一次遅れ要素のインディシャル応答(式(1))で近似的に表されることが知られている。以下、説明を簡略化するため、式(1)が成り立つものとして説明する。
PM(t)=b{1-exp(-ct)} (1)
ここで、b, cは、上記温度変化に起因する差圧変化に係る定数である。具体的には、bは、温度変化が収まったときの差圧の収束点を示す。cは、温度変化が収まる早さを示す。tは時間である。
【0011】
また、図2において二点鎖線に示すように、洩れに起因する差圧成分PLの経時変化は、時間に比例する一次関数となる(式(2))。
PL(t)=at (2)
ここで、aは、洩れに起因する差圧変化に係る定数であり、被検査空間からの単位時間当たりの漏れ量(洩れレート)に相当する。
【0012】
図2において細い破曲線に示すように、実際の差圧の経時変化PT (t)は、上記温度変化に起因する差圧成分PMと洩れに起因する差圧成分PLの和になる(式(3))。
PT(t)=PM(t)+PL(t)=at+ b{1-exp(-ct)} (3)
【0013】
上記温度変化に起因する差圧変化式PM(t)(式(1))の導関数PM’(t)は、次式(4)になる。
PM’(t)=bc・exp(-ct) (4)
図3において細い実曲線に示すように、導関数PM’(t)は時間tの経過と共に漸次減少する。
【0014】
実際の差圧変化式PT(t)(式(3))の導関数PT’(t)は次式(5)になる。
PT’(t)=a+ bc・exp(-ct) (5)
図3において細い破曲線に示すように、導関数PT’(t)は時間tの経過と共に漸次減少する。
【0015】
実際の差圧変化の導関数PT’(t)(式(5))と、温度変化に起因する差圧変化の導関数PM’(t)(式(4))との差は、次式(6)の通り、洩れレートaと等しい。
PT’(t) - PM’(t)=a (6)
そこで、温度変化に起因する差圧変化の導関数PM’ (t)(式(4))をマスタデータとして記憶しておき、実測差圧から実際の差圧変化の導関数PT’ (t)(式(5))を算出し、その差を算出することで(式(6))、洩れ量を求める方法が考えられる。しかし、非線形の連続関数(式(1),(3))を立ててその導関数(式(4),(5))を求めるには、数多くの計算が必要になる。
【0016】
そこで、本発明は、被検査空間と基準空間とを互いに連通させた状態で前記被検査空間及び前記基準空間に加圧気体を導入した後、前記被検査空間と前記基準空間とを遮断して各々閉鎖系とし、前記被検査空間と前記基準空間との間の差圧によって前記被検査空間からの圧力洩れを測定する圧力洩れ測定方法において、
洩れが無い被検査空間と前記基準空間との間の差圧の経時変化を、各々の時間帯内は一次関数になると擬制したときの、前記各一次関数の勾配をマスタデータとして作成する作成工程と、
前記被検査空間と前記基準空間との間の実測差圧の経時変化の前記時間帯ごとの勾配を実測データとして求める実測工程と、
前記実測データから同じ時間帯の前記マスタデータを差し引く演算工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
すなわち、図2において折れ線状の実太線にて示すように、本発明は、差圧の経時変化を、時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…ごとに区切り、1つの時間帯τn内では差圧が直線的に変化するものと擬制したものである。ここで、時間帯τnは、時刻tn-1から時刻tnまでの時間領域を言う。したがって、洩れがない被検査空間と基準空間との差圧の経時変化は、時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…ごとの線分sM1,sM2,sM3…,sMn…を連ねた折れ線状の不連続関数PMn(t)で近似される。線分sMnは、時刻tn-1における差圧値PMn-1と時刻tnにおける差圧値PMnとを結ぶ直線線分である。
【0018】
不連続関数PMn (t)は、次式(11)で表される。
【数1】


上記不連続関数PMn(t)の導関数PMn’ (t)は、不連続点を除いて次式(12)となる。
【数2】

【0019】
式(12)から明らかな通り、時刻tn-1から時刻tnまでの間の1つの時間帯τn内の導関数PMn’ (t)の値は、tによらず一定値になる。また、より後の時間帯τほど(nが大きくなるほど)、導関数PMn’ の値が小さくなる。すなわち、
PM1’> PM2’> PM3’… (13)
となる。この様子を図3の階段状の実太線にて示す。本発明では、この導関数の値PM1’, PM2’, PM3’…をマスタデータとする。したがって、本発明によれば、従来の、各時間t0, t1, t2, t3…の差圧値PM0, PM1, PM2, PM3…をマスタデータとする方法(特許文献1)よりもマスタデータの所要記憶数を減らすことができる。
【0020】
同様に、図2において折れ線状の破太線にて示すように、実際の被検査空間と基準空間との差圧の経時変化についても、時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…ごとの線分sT1,sT2,sT3…,sTn…を連ねた折れ線状の不連続関数PTn(t)で近似する。線分sTnは、時刻tn-1における実際の差圧値PTn-1と時刻tnにおける実際の差圧値PTnとを結ぶ直線線分である。
【0021】
不連続関数PTn(t)は、次式(14)で表される。
【数3】


上記不連続関数PTn(t)の導関数PTn’(t)は、不連続点を除いて次式(15)となる。
【数4】

【0022】
式(15)から明らかな通り、時刻tn-1から時刻tnまでの間の1つの時間帯τn内の導関数PTn’ (t)の値は、tによらず一定値になる。また、より後の時間帯τほど(nが大きくなるほど)、導関数PTn’ の値が小さくなる。すなわち、
PT1’> PT2’> PT3’… (16)
となる。この様子を図3の階段状の破太線にて示す。本発明では、この導関数の値PT1’,PT2’ ,PT3’…を実測データとして求める。そして、互いに同じ時間帯τの実測データとマスタデータの差を求める。
【0023】
ここで、実測の導関数PTn’(t)(式(15))からマスタの導関数PMn’(t)(式(12))を差し引くと、下式(17)の通り、洩れレートを示す定数aになる。
PTn’ (t) - PMn’ (t) = a (17)
この結果は、連続関数について求めた洩れレート(式(6))と同じである。すなわち、同じ時間帯τnにおける不連続関数PMn(t),PTn(t)の導関数PMn’(t),PTn’(t)どうしの差(式(17))は、連続関数PM(t),PT(t)の導関数PM’(t),PT’(t)どうしの差(式(6))と同じになる。
【0024】
要するに、本発明によれば、図3に示すように、互いに同じ時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…の実測データPT1’,PT2’ ,PT3’…,PTn’…からマスタデータPM1’,PM2’ ,PM3’… ,PMn’…を差し引くことで、洩れレートa1,a2,a3…,an…を直接的に求めることができる(式(18))。
【数5】


したがって、従来の、差圧からなるマスタデータと実測差圧との差を取って更に一回微分するやり方(特許文献1)よりも、実際の被検査物に対する洩れ検査時の演算量を減らすことができる。よって、判定処理の速度を高めることができる。
【0025】
上記式(18)の演算結果a1,a2,a3…,an…は互いに同程度の大きさになる。
a1≒a2≒a3…≒an… (19)
これらの値a1,a2,a3…,an…を平均することで、測定のばらつきを修正でき、洩れレートaを精度良く求めることができる。
【0026】
図2に示すように、本発明のマスタデータすなわち導関数PMn’ (t) の値は、温度変化に起因する差圧変化式PM(t)を表す折れ線(図2の実太線)の各線分sM1,sM2,sM3…,sMn…の勾配aM1,aM2,aM3…,aMn…に相当する。勾配aM1,aM2,aM3…,aMn…は、下式(21)のようにして算出できる。
【数6】

【0027】
また、本発明の実測データすなわち導関数PTn’ (t) の値は、実測差圧変化式PT(t)を表す折れ線(図2の破太線)の各線分sT1,sT2,sT3…,sTn…の勾配aT1,aT2,aT3…,aTn…に相当する。勾配aT1,aT2,aT3…,aTn…は、下式(22)のようにして算出できる。
【数7】

【0028】
したがって、上記作成工程では、勾配aM1,aM2,aM3…,aMn…をマスタデータとして求め、上記実測工程では勾配aT1,aT2,aT3…,aTn…を実測データとして求め、上記演算工程では、式(23)に示すように、互いに同じ時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…の実測勾配aT1,aT2,aT3…,aTn…からマスタ勾配aM1,aM2,aM3…,aMn…を差し引くことで、洩れレートa1,a2,a3…,an…を算出することが好ましい。
【数8】

【0029】
時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…の長さは、互いに等しいことが好ましい。すなわち、下式(24)が成り立つことが好ましい。
(t1-t0)= (t2-t1)= (t3-t2)=…=(tn-tn-1)=… (24)
そうすることで、すべての式(21)及び式(22)の右辺の分母を1に置き換えることができ(式(21a)及び式(22a))、マスタデータの作成及び実測データの算出を簡単化できる。
【数9】


【数10】

【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、マスタデータの所要記憶量を減らすことができる、更には、洩れレートを演算する際の演算量を減らすことができ、処理速度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る圧力洩れ測定装置の概略構成を示す回路図である。
【図2】本発明のマスタデータ及び実測データを説明するために差圧の経時変化を例示したグラフである。
【図3】本発明のマスタデータ及び実測データを説明するために差圧の経時変化の導関数(勾配)を例示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、被検査物9からの圧力洩れを測定する圧力洩れ測定装置1を示したものである。被検査物9は、特に限定がなく、例えばエンジンのシリンダブロック、燃料タンク等である。被検査物9は内部空間を有している。この内部空間が被検査空間9aになっている。検査物9の内周面によって被被検査空間9aが画成されている。詳細な図示は省略するが、被検査空間9aの開口部は冶具等によって閉塞されている。これによって、被検査空間9aが密封されている。被検査物9がカプセル内に収容されていてもよく、このカプセルの内周と被検査物9の外周との間の空間が被検査空間9aを構成していてもよい。
【0033】
圧力洩れ測定装置1は、測定部2と、コントローラ3(制御手段)を備えている。測定部2は、供給路10と、検査路11と、基準路12を有している。これら通路10〜12は、ブロック内に形成されていてもよく、配管によって構成されていてもよい。
【0034】
供給路10の上流端の接続端子10aに、図示しないエア圧力源が接続される。供給路10には、上流側(接続端子10aの側)から順に、レギュレータ13(減圧弁)と、圧力計14と、二位置三方型の電磁方向制御弁15とが設けられている。供給路10の下流端から検査路11と基準路12が分岐されている。検査路11の下流端が被検査物9の被検査空間9aに連なっている。
【0035】
基準路12の下流端が、冶具(図示省略)を介して基準容器8の内部空間8a(基準空間)に連なっている。基準空間8aは、密閉されている。被検査空間9aと基準空間8aの形状及び容積は、ほぼ同一であってもよく異なっていてもよい。
【0036】
検査路11には電磁開閉弁16が設けられ、基準路12には電磁開閉弁17が設けられている。開閉弁16,17より下流の通路11,12どうしの間に差圧検出器20が設けられている。差圧検出器20の内部がダイヤフラム21によって被検室23と基準室24に仕切られている。被検室23のポートが検査圧導入路25を介して検査路11に連なっている。基準室24のポートが基準圧導入路26を介して基準路12に連なっている。被検査空間9aと基準空間8aとの間に差圧が生じると、被検室23と基準室24との間に差圧が生じ、その差圧の大きさに応じてダイヤフラム21が変形する。差圧検出器20は、この変形を電圧に変換してコントローラ3へ出力する。これによって、被検査空間9aと基準空間8aとの間の差圧を検出できる。
【0037】
測定部2の動作はコントローラ3にて制御される。コントローラ3には、上記弁15〜17の駆動回路(図示省略)や、マイクロコンピュータ31が設けられている。マイクロコンピュータ31には、CPUからなる演算処理部32、RAMやROMからなる記憶部33等が設けられている。記憶部33には、制御動作のためのプログラムやマスタデータが格納されている。図2に示すように、マスタデータは、洩れがない被検査空間9aと基準空間8aとの差圧の経時変化PM(t)を、各々の時間帯τ1(= t0〜t1),τ2(= t1〜t2),τ3(= t2〜t3)…τn(= tn-1〜tn)…内は一次関数になると擬制したときの、上記各一次関数すなわち各直線線分sM1,sM2,sM3…sMn…の勾配aM1,aM2,aM3…aMn…である。マスタデータの作成方法については追って詳述する。演算処理部32は、差圧検出器20の実測差圧データと上記マスタデータとによって所定の演算処理を行なうことで被検査空間9aからの洩れ検査を行なう。
【0038】
洩れ検査の際は、方向制御弁15をオンして供給路10を連通させ、かつ開閉弁16,17を開くことで、加圧気体源の気体圧力を供給路10から検査路11及び基準路12に導入し、更には被検査空間9a及び基準空間8aに導入する。この圧力導入時の断熱圧縮によって空間9a,8aの温度が上昇し、その後、放熱によって上記温度が低下する。被検査物9と基準容器8とでは、種々の条件の違いから断熱圧縮に伴なう温度変化の程度が異なる。
【0039】
しばらくの時間が経過した後、開閉弁16,17を閉じて検査路11と基準路12を遮断し、ひいては被検査空間9aと基準空間8aを遮断して各々閉鎖系とする。これによって、上記断熱圧縮に伴なう温度変化の違いが、被検査空間9aと基準空間8aとの間の圧力差として現れる。この差圧が差圧検出器20によって検出される。図2の実細線PM(t)は、上記の断熱圧縮による温度変化に起因する差圧変化の様子を示したものである。この差圧変化は、ほぼ一次遅れ要素のインディシャル応答になる。
【0040】
さらに、被検査空間9aに洩れがあれば、この洩れに起因する被検査空間9aの圧力低下分が上記空間9a,8aどうし間の差圧に加わる。図2の二点鎖線PL(t)に示すように、上記洩れに起因する差圧変化は直線状になる。図2の破細線PT(t)に示すように、実際の差圧変化は、断熱圧縮による温度変化に起因する差圧変化と洩れに起因する差圧変化を加算したものになる。
【0041】
図2において、時刻t0は、開閉弁16,17によって被検査空間9aと基準空間8aを遮断した時点、又はそれ以後の当該遮断操作に伴なう圧力の乱れが収まった時点(遮断時点から1〜数秒後)である。この時点t0の差圧検出器20の読みを0にリセットすることが好ましい。
【0042】
装置1による圧力洩れ測定方法を、更に詳述する。
圧力洩れ検査は、上記マスタデータの作成工程、実際の被検査物9を対象とする実測工程、圧力洩れの判定のための演算工程の順に実施する。
【0043】
[マスタデータの作成工程]
マスタデータ作成工程では、まず、測定部2を上述した手順で操作し、洩れがない被検査空間9aと基準空間8aとの間の差圧の時刻t0以降の経時変化を差圧検出器20にて測定する。具体的には、図2の実細線PM(t)上の差圧変化データPM0,PM1,PM2,PM3…PMn…を一定の時間間隔τn(=τ123…)をおいて時刻t1,t2,t3…,tn…ごとに取得する。ここでの被検査物9は、実際に洩れが無いことが判明しているものを用いてもよく、洩れの有無が不明なものを用いてもよい。前者の場合、被検査空間9aと基準空間8aとの間の測定差圧は、そのまま上記断熱圧縮による温度変化に起因する差圧データとして使用できる。後者の場合、差圧がリニアに変化する線形領域まで差圧測定を長時間行ない、リニアになる前の非線形領域の測定差圧から線形領域の差圧変化分を差し引くことで、洩れが無い差圧データすなわち断熱圧縮による温度変化に起因する差圧変化データを得ることができる。上記線形領域では、温度変化が充分に収束しているから、その差圧変化は、洩れに起因する変化分に相当する。
【0044】
そして、差圧の非線形な経時変化PM(t)を、各々の時間帯τ1(=t0〜t1),τ2(=t1〜t2),τ3(=t2〜t3)…τn(=tn-1〜tn)…内は一次関数になると擬制したときの上記各一次関数の勾配aM1,aM2,aM3…aMn…を求める。要するに、図2の連続曲線状の実細線PM(t)を、同図の実太線PMn(t)に示すように、時間t1,t2,t3…,tn…ごとに不連続的に折曲した折れ線で擬制し、該折れ線の各直線線分sM1,sM2,sM3…sMn…の勾配aM1,aM2,aM3…aMn…を求める。具体的には、式(21)の演算を行う。
【数11】

【0045】
各時間帯τ1(=t0〜t1),τ2(=t1〜t2),τ3(=t2〜t3)…τn(=tn-1〜tn)…の長さを互いに等しくすることで、上記勾配aM1,aM2,aM3…,aMn…の演算式を下式(21a)のように簡略化できる。
【数12】


このようにして求めた勾配aM1,aM2,aM3…,aMn…の値をマスタデータとして記憶部33に記憶しておく。本発明方法によれば、上記差圧変化データPM0,PM1,PM2,PM3…PMn…そのものをマスタデータとする従来方法(特許文献1)よりもマスタデータの所要記憶数を減らすことができる。例えば、t0からt3までのマスタデータ数を比較すると、上記従来方法では4つのデータPM0,PM1,PM2,PM3が必要であるが、本発明方法では3つのデータaM1,aM2,aM3で済む。
【0046】
[実測工程]
マスタデータを取得後、実際の被検査物9に対し実測工程を行う。実測工程では、上記実際の被検査物9を検査路11に接続したうえで、測定部2を上述した手順で操作し、被検査空間9aと基準空間8aとの間の差圧の時刻t0以降の経時変化を差圧検出器20にて測定する。図2の破細線PT(t)にて示すように、被検査空間9aからの圧力洩れがある場合、測定差圧は、断熱圧縮による温度変化に起因する差圧変化PM(t)と、洩れに起因する差圧変化PL(t)とを加算した挙動を示す。この破細線PT(t)上の差圧変化データPT0,PT1,PT2,PT3…PTn…を一定の時間間隔τn(=τ123…)をおいて時刻t1,t2,t3…,tn…ごとに取得する。次に、連続曲線状の差圧変化PT(t)を、図2の破太線PTn(t)に示すように、時間t1,t2,t3…,tn…ごとに不連続的に折曲した折れ線で擬制したときの各時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…の直線線分sT1,sT2,sT3…,sTn…の勾配aT1,aT2,aT3…,aTn…を求める。具体的には、式(22)の演算を行う。
【数13】

【0047】
各時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…の長さを互いに等しくすることで、上記勾配aT1,aT2,aT3…,aTn…の演算式を下式(22a)のように簡略化できる。
【数14】


このようにして求めた勾配aT1,aT2,aT3…,aTn…の値を実測データとする。
【0048】
[演算工程]
続いて、マスタデータと実測データを比較する。具体的には、同じ時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…ごとに実測データaT1,aT2,aT3…,aTn…からマスタデータaM1,aM2,aM3…,aMn…を差し引く(式(23))。これによって、各時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…における洩れレートa1,a2,a3…,an…が得られる。
【数15】

【0049】
すなわち、本発明方法によれば、式(23)の差し引き演算を行なうことで、洩れレートa1,a2,a3…,an…を直接的に求めることができる。また、演算に際して記憶部33から読み出すマスタデータの数は少なくて済み、差し引きの演算数も少なくて済む。したがって、従来の、差圧からなるマスタデータと実測差圧との差を取って更に一回微分するやり方(特許文献1)よりも、演算工程における演算量を減らすことができる。よって、演算処理の速度を高めることができる。
【0050】
図3に示すように、上記式(23)の演算結果すなわち洩れレートa1,a2,a3…,an…は、時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…に依らず互いに同程度の大きさになる。
a1≒a2≒a3…≒an… (25)
これら洩れレートa1,a2,a3…,an…の平均値aavを算出することで、測定のばらつきを修正できる。
【0051】
[判定工程]
この平均洩れレートaavに基づいて圧力洩れ判定を行なう。すなわち、洩れレートaavが閾値以下であれば、被検査物9を良品と判定する。洩れレートaavが閾値を上回っていれば、被検査物9を不良と判定する。
【0052】
本発明は、上記実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない限りにおいて種々の改変をなすことができる。
たとえば、上記の説明では、マスタデータ及び実測データは互いに連続する時間帯τ1,τ2,τ3,τ4,τ5…ごとに取得するとしていたが、例えばτ1,τ3,τ5,τ7,τ9…やτ1,τ4,τ7,τ10,τ13…などのように飛び飛びの時間帯ごとに取得してもよい。むしろ、飛び飛びにしたほうが、少ない演算数で広い時間領域の差圧変化を圧力洩れ判定に反映させることができ、かつプログラミングを容易化でき実用的である。
時間帯τ1,τ2,τ3…,τn…のうち2つの時間帯の長さが互いに異なっていてもよい。
判定工程では、平均値aavを算出せずに、1つの洩れレートanに基づいて洩れ判定を行なってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、密封容器状の被測定物の密封状態の良否判定に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 圧力洩れ測定装置
2 測定部
8 基準容器
8a 基準空間
9 被検査物
9a 被検査空間
10 共通路
10a 接続端子
11 検査路
12 基準路
13 レギュレータ
14 圧力計
15 方向制御弁
16 開閉弁
17 開閉弁
20 差圧検出器
21 ダイヤフラム
23 被検室
24 基準室
25 検査圧導入路
26 基準圧導入路
3 コントローラ(制御手段)
31 マイクロコンピュータ
32 演算処理部
33 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査空間と基準空間とを互いに連通させた状態で前記被検査空間及び前記基準空間に加圧気体を導入した後、前記被検査空間と前記基準空間とを遮断して各々閉鎖系とし、前記被検査空間と前記基準空間との間の差圧によって前記被検査空間からの圧力洩れを測定する圧力洩れ測定方法において、
洩れが無い被検査空間と前記基準空間との間の差圧の経時変化を、各々の時間帯内は一次関数になると擬制したときの、前記各一次関数の勾配をマスタデータとして作成する作成工程と、
前記被検査空間と前記基準空間との間の実測差圧の経時変化の前記時間帯ごとの勾配を実測データとして求める実測工程と、
前記実測データから同じ時間帯の前記マスタデータを差し引く演算工程と、
を備えたことを特徴とする圧力洩れ測定方法。
【請求項2】
前記演算工程において、前記時間帯毎の前記実測データと前記マスタデータとの差の平均値を算出することを特徴とする請求項1に記載の圧力洩れ測定方法。
【請求項3】
前記各時間帯の長さが互いに等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧力洩れ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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