説明

圧延機の振動抑制方法

【課題】仕上圧延機などの圧延機に生じる振動を確実に抑制することのできる圧延機の振動抑制方法を提供する。
【解決手段】ワークロール1a,1b、バックアップロール2a,2b、圧下用アクチュエータ3、荷重計4及びアクチュエータ制御装置5を備えた圧延機の振動を圧延機に付設された制振装置6により抑制するに際して、荷重計4から圧延時に出力された荷重信号を処理して圧延機の固有振動成分を抽出し、抽出された固有振動成分に基づいて制振装置6を制御する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板の製造プロセスなどで用いられる圧延機の振動抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚鋼板はスラブと称される鋼片を加熱炉で加熱処理した後、粗圧延機で粗圧延し、さらに仕上圧延機で所定の厚さになるまで熱間圧延して製造されるのが一般的であり、粗圧延機や仕上圧延機としては、被圧延材を挟圧する一対のワークロールと、該ワークロールをバックアップする一対のバックアップロールと、該バックアップロールを介してワークロールに圧下力を付与する圧下用アクチュエータと、該圧下用アクチュエータからワークロールに付与された圧下力を圧延荷重として計測する荷重計と、該荷重計により計測された圧延荷重に基づいて圧下用アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置とを備えたものが用いられている。
【0003】
このような圧延機を用いて厚鋼板を製造する場合、圧延機の圧延速度を速くすると圧延機にチャタリングと称される異常振動が発生し、被圧延材に板厚不良が生じることがあり、このような圧延機の異常振動を防止する技術として、バックアップロールの2つのチョックの間または2つの圧力台の間に架設された弾性梁と、この弾性梁に搭載された制振用重りと、この制振用重りの動きを抑制するダンパとを備えた制振装置を用いて圧延機の異常振動を防止する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、圧延機の振動としては、図5に示すように、前後方向に動く振動、左右方向に動く振動、左右方向に捩れる振動などがあり、振動方向によって圧延機の固有振動数が異なる。また、仕上圧延機などの圧延機は被圧延材の噛み込みと噛み放しを繰り返し、被圧延材の圧延時と非圧延時とでは圧延機の固有振動数が異なるため、一定の固有振動数で圧縮機の振動を抑制する先行技術では、制振装置による圧延機の振動抑制効果が低いという問題がある。そこで、圧延機の固有振動数を検出するセンサとして振動計を用い、この振動計で得られた振動情報を基に制振装置を制御して圧延機の振動を抑制することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−267110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、振動計から出力される信号は図6に示すような波形となり、圧延機以外の振動成分がノイズとして含まれている。このため、圧延機自体の固有振動成分を振動計の出力信号から抽出することが難しく、仕上圧延機などの圧延機に生じる振動を確実に抑制することができないおそれがある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、仕上圧延機などの圧延機に生じる振動を確実に抑制することのできる圧延機の振動抑制方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、被圧延材を挟圧する一対のワークロールと、該ワークロールをバックアップする一対のバックアップロールと、該バックアップロールを介して前記ワークロールに圧下力を付与する圧下用アクチュエータと、前記ワークロールから前記被圧延材に付与される圧延荷重を計測する荷重計と、該荷重計により計測された圧延荷重に基づいて前記圧下用アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置とを備えた圧延機の振動を前記圧延機に付設された制振装置により抑制する圧延機の振動抑制方法であって、前記荷重計から圧延時に出力された荷重信号を処理して前記圧延機の固有振動成分を抽出し、抽出された固有振動成分に基づいて前記制振装置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、圧延機の振動を振動計で計測し、振動計の出力信号から圧延機の固有振動成分を抽出する必要がない。従って、仕上圧延機などの圧延機に生じる振動を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る圧延機の振動抑制方法に用いられる圧延機の一例を示す図である。
【図2】図1に示す荷重計から出力される荷重信号の波形図である。
【図3】図1に示す制振装置の一例を示す図である。
【図4】図1に示す荷重信号解析装置の解析方法の一例を示す図である。
【図5】圧延機の振動パターンを示す図である。
【図6】圧延機の振動を計測する振動計の出力信号波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明に係る圧延機の振動抑制方法について説明する。
図1は、本発明に係る圧延機の振動抑制方法に用いられる圧延機の一例を示す図である。また、図2は図1に示す荷重計から出力される荷重信号の波形図、図3は図1に示す制振装置の一例を示す図、図4は図1に示す荷重信号解析装置により解析された荷重信号の一例を示す図であり、図1に示される圧延機はワークロール1a,1b、バックアップロール2a,2b、圧下用アクチュエータ3、荷重計4、アクチュエータ制御装置5、制振装置6、振動計11、荷重信号解析装置12および制振装置制御装置13を備えている。
【0011】
ワークロール1a,1bは被圧延材を挟圧するものであって、被圧延材が挿入される空間部の上側と下側に配置されている。
バックアップロール2a,2bはワークロール1a,1bをバックアップするものであって、ワークロール1a,1bの上側と下側に配置されている。
圧下用アクチュエータ3はバックアップロール2a,2bを介してワークロール1a,1bに圧下力を付与するものであって、例えば油圧シリンダ等から構成されている。
【0012】
荷重計4はワークロール1a,1bから被圧延材に付与される圧延荷重を計測するものであって、被圧延材を圧延機にて圧延するときには、図2に示すような荷重信号が荷重計4から出力されるようになっている。
アクチュエータ制御装置5は荷重計4から出力された荷重信号に基づいて圧下用アクチュエータ3を制御するものであって、このアクチュエータ制御装置5から圧下用アクチュエータ3に送出される制御信号によって被圧延材が所定の厚さに圧延されるようになっている。
【0013】
制振装置6は圧延機の振動を抑制するものであって、例えば図3に示すように、バックアップロール2a,2bの圧力台7aと圧力台7bとの間に横架された弾性梁8と、この弾性梁8に搭載された制振用重り9と、この制振用重り9の動きを抑制する制振ダンパ(図示せず)とで構成されている。
振動計11は圧延機の振動を計測するものであって、圧延機に振動が発生したときには、図6に示すような信号が振動計11から出力されるようになっている。また、振動計11から出力された信号は後述する制振装置制御装置13に供給されている。
【0014】
荷重信号解析装置12は荷重計4から圧延時に出力された荷重信号を解析するものであって、荷重信号から圧延機の固有振動成分を抽出し、抽出された固有振動成分を解析して図4に示すワークサイド(WS)荷重成分とドライブサイド(DS)荷重成分とを荷重信号から抽出するように構成されている。
制振装置制御装置13は荷重信号解析装置12で解析された荷重信号に基づいて制振装置6を制御するものであって、この制振装置制御装置13は、荷重信号解析装置12での解析結果が図5に示す3つの振動パターンのうちどの振動パターンに属するかを判断して制振装置6を制御するように構成されている。また、制振装置制御装置13は非圧延時には振動計11から出力された信号に基づいて制振装置6を制御するように構成されている。
【0015】
このような圧延機により被圧延材を圧延する場合は、図示しないロール駆動モータによりワークロール1a,1bを所定方向に回転させ、この状態でワークロール1aとワークロール1bとの間に被圧延材を挿入する。そして、バックアップロール2a,2bを介してワークロール1a,1bに圧下力を付与し、ワークロール1a,1bに付与された圧下力で被圧延材を圧延する。
このとき、荷重計4から出力された荷重信号はアクチュエータ制御装置5と荷重信号解析装置12に供給され、アクチュエータ制御装置5では、荷重計4で計測された圧延荷重に基づいて圧下用アクチュエータ3を制御する。
【0016】
一方、荷重信号解析装置12では、圧延機の固有振動成分を荷重信号から抽出し、抽出された固有振動成分を解析してワークサイド(WS)荷重成分とドライブサイド(DS)荷重成分とを荷重信号から抽出する。そして、荷重信号のワークサイド(WS)荷重成分とドライブサイド(DS)荷重成分とを圧延機の振動情報として制振装置制御装置13に出力し、制振装置制御装置13では、荷重信号解析装置12から出力された圧延機の振動情報に基づいて制振装置6を制御する。
【0017】
ここで、圧延機の振動が図5(b)に示す振動(左右方向に動く振動)である場合には、圧延荷重の荷重変動は図4(a)に示す荷重変動となる。また、圧延機の振動が図5(a)に示す振動(前後方向に動く振動)または図5(c)に示す振動(左右方向に捩れる振動)である場合には、圧延荷重の荷重変動は図4(b)に示す荷重変動となるので、荷重計4から圧延時に出力された荷重信号を荷重信号解析装置12で解析することにより、圧延機の振動方向に応じた固有振動数を検出して制振装置6を制御することができる。
【0018】
上述のように、被圧延材を挟圧するワークロール1a,1bと、ワークロール1a,1bをバックアップするバックアップロール2a,2bと、バックアップロール2a,2bを介してワークロール1a,1bに圧下力を付与する圧下用アクチュエータ3と、ワークロール1a,1bから被圧延材に付与される圧延荷重を計測する荷重計4と、荷重計4により計測された圧延荷重に基づいて圧下用アクチュエータ3を制御するアクチュエータ制御装置5とを備えた圧延機の振動を圧延機に付設された制振装置6により抑制するに際して、荷重計4から圧延時に出力された荷重信号を処理して圧延機の固有振動成分を抽出し、抽出された固有振動成分に基づいて制振装置6を制御することで、前述した先行技術のように、圧延機の振動を振動計で計測し、振動計の出力信号から圧延機の固有振動成分を抽出する必要がない。従って、仕上圧延機などの圧延機に生じる振動を確実に抑制することができる。
【0019】
上述した本実施形態では、圧延機の振動を抑制する制振装置として、バックアップロール2a,2bの圧力台7aと圧力台7bとの間に横架された弾性梁8と、この弾性梁8に搭載された制振用重り9と、この制振用重り9の動きを抑制する制振ダンパとからなるものを例示したが、圧延機の振動を能動的に抑制できるものであれば制振装置の構成は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0020】
1a,1b…ワークロール
2a,2b…バックアップロール
3…圧下用アクチュエータ
4…荷重計
5…アクチュエータ制御装置
6…制振装置
7a,7b…圧力台
8…弾性梁
9…制振用重り
11…振動計
12…荷重信号解析装置
13…制振装置制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材を挟圧する一対のワークロールと、該ワークロールをバックアップする一対のバックアップロールと、該バックアップロールを介して前記ワークロールに圧下力を付与する圧下用アクチュエータと、前記ワークロールから前記被圧延材に付与される圧延荷重を計測する荷重計と、該荷重計により計測された圧延荷重に基づいて前記圧下用アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置とを備えた圧延機の振動を前記圧延機に付設された制振装置により抑制する圧延機の振動抑制方法であって、
前記荷重計から圧延時に出力された荷重信号から圧延機の固有振動成分を抽出し、抽出された固有振動成分に基づいて前記制振装置を制御することを特徴とする圧延機の振動抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−99753(P2013−99753A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243471(P2011−243471)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】