説明

圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置

【課題】浸珪処理時に二次粒子が生成されることを防ぎ、圧粉磁心用粉末の品質と生産性を向上させることができる圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置を提供すること。
【解決手段】軟磁性金属粉末21と、二酸化珪素粉末23によってコーティングされた二酸化珪素保持部材22とを加熱しながら接触させることにより、軟磁性金属粉末21と二酸化珪素粉末23の酸化還元反応を発生させ、二酸化珪素粉末23から離脱した珪素元素を軟磁性金属粉末21の表面に拡散浸透させて珪素浸透層を軟磁性金属粉末21の表面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心用粉末を製造するための圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、軟磁性金属粉末からなる圧粉磁心用粉末をプレス成形したものである。圧粉磁心は、電磁鋼板を積層してなるコア材と比べて、周波数に応じて生じる高周波損失(以下「鉄損」という。)が少ない磁気特性を有していること、形状バリエーションに臨機且つ安価に対応できること、材料費が廉価であること等、多くの利点を有する。このような圧粉磁心は、例えば車両の駆動用モータのステータコアやロータコア、電力変換回路を構成するリアクトルコアなどに適用されている。
【0003】
例えば、圧粉磁心用粉末101は、図14に示すように、二酸化珪素粉末103を鉄粉102の表面から浸透拡散させ、珪素元素が濃化した珪素浸透層104を鉄粉102の表層に形成する浸珪処理が施されている。浸珪処理は、鉄粉102と二酸化珪素粉末103を攪拌混合して鉄粉102の表面に二酸化珪素粉末103を付着させ、鉄粉102と二酸化珪素粉末103の混合粉を炉に入れる。そして、混合粉を1000℃に加熱する。すると、二酸化珪素粉末103から珪素元素が脱離して鉄粉102の表層に浸透拡散し、珪素浸透層104が形成される。
【0004】
鉄粉102の中心部まで珪素元素を浸透させると、圧粉磁心用粉末101の硬度が高くなる。この場合、圧粉磁心用粉末101を加圧して圧粉成形したときに、圧粉磁心用粉末101が変形せず、圧粉磁心用粉末101の間に形成される隙間が大きくなるため、磁心密度が低くなる。磁心密度が低いと、磁束密度が低くなる問題がある。そのため、珪素浸透層104は、鉄粉102の表面から鉄粉102の中心部側への距離X2を、鉄粉102の直径Dの0.15倍未満とすることが、好ましいとされている。但し、珪素浸透層104が薄かったり、珪素浸透層104における珪素元素濃度が低いと、鉄粉102の接触部分を十分絶縁することができず、鉄損(主にヒステリシス損失と渦電流損失)が高くなる。よって、圧粉磁心用粉末101に形成する珪素浸透層104の距離X2や濃度は、圧粉磁心の比抵抗を管理する上で、とても重要である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−256750号公報
【特許文献2】特開2009−123774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の圧粉磁心用粉末の製造方法は、図15に示すように、製造された圧粉磁心用粉末101をランダムに10個取り出して、珪素浸透層104が鉄粉102の表面から鉄粉102の中心部へ向かって形成される距離(表面からの距離)X2と珪素浸透層における珪素元素の濃度(Si濃度)を測定したところ、表面からの距離X2とSi濃度が、粉末間でおおきくばらついていた。具体的には、取り出された粉末の中には、浸珪反応が乏しい粉末(浸珪反応量が低い粉末)が含まれていた(図15中の細い実線で記載するグラフ参照)。また、浸珪反応が豊富な粉末(浸珪反応量が高い粉末)であっても(図15中の太い実線で記載するグラフ参照)、鉄粉102の表面におけるSi濃度が、約2.0%〜約5.0%と幅広くばらついている上に、珪素浸透層104の鉄粉102の表面からの距離(厚さ)X2が約4μm〜約20μmにばらついている。更に、浸珪反応が豊富な粉末は、珪素浸透層104の鉄粉102の表面から鉄粉102の中心部へ向かってSi濃度が低下する割合がおおきくばらついている。よって、従来の圧粉磁心用粉末の製造方法では、各鉄粉102に均一な浸珪反応をさせることができず、各圧粉磁心用粉末101に形成される珪素浸透層104の均一化を図ることができなかった。そのため、圧粉成形時に、圧粉磁心用粉末101に形成される珪素浸透層104の厚さ(表面からの距離)X2の薄い部分やSi濃度の低い部分同士が接触すると、当該接触部分の絶縁性が低いため、圧粉磁心に発生する渦電流が大きくなり、ひいては、比抵抗が低くなる問題がある。また、珪素浸透層104の厚さ(表面からの距離)X2が大きい圧粉磁心用粉末101は、硬く、磁心密度や磁束密度を低下させる原因となる。
【0007】
従来の圧粉磁心用粉末の製造方法によって、珪素浸透層104の厚さ(表面からの距離)X2やSi濃度が圧粉磁心用粉末101間でばらつく理由は、鉄粉102と二酸化珪素粉末103の混合粉を投入した炉を回転させずに混合粉を加熱していたため、浸珪処理を行う間、鉄粉102と二酸化珪素粉末103の配置が変わらず、周囲に二酸化珪素粉末103がたくさんある鉄粉102では、珪素元素が表層にたくさん浸透拡散して、珪素浸透層104の厚さやSi濃度が大きくなるのに対して、周囲に二酸化珪素粉末103が少ない鉄粉102では、珪素元素が表層に浸透拡散する量が少なく、珪素浸透層104の厚さやSi濃度が小さくなるからと考えられる。
【0008】
そこで、発明者らは、図16及び図18に示すように、平均粒径200μmの鉄粉102と平均粒径50nmの二酸化珪素粉末103を攪拌混合した混合粉を炉105に投入した後、炉105を加熱し、その後、炉105の内部温度を1000℃に温度調整しながら、炉105を回転させて混合粉を1時間連続して攪拌することにより、圧粉磁心用粉末を製造することを試みた。これにより、発明者らは、浸珪処理時に二酸化珪素粉末103が配置を変えながら鉄粉102の周りに均一に付着し、各鉄粉102に均一な浸珪反応を発生させることができると考えた。
【0009】
ところが、上記圧粉磁心用粉末の製造方法を実施して炉105から生成物を取り出したところ、図17に示すように、鉄粉102と二酸化珪素粉末103が団子状に固まって二次粒子110になってしまっていた。二次粒子110は、二酸化珪素粉末103(ドット部分参照)が焼結して複数の鉄粉102を結合させており、直径が600μm〜700μmにも及んでいた。二次粒子110ができる理由は、次のように考えられる。
【0010】
焼結は、融点の3分の2程度の温度で始まることが知られている。二酸化珪素の融点は、1600℃±75℃である。一方、浸珪処理時の混合粉の加熱温度は約1000℃である。よって、混合粉の加熱温度1000℃は、二酸化珪素の融点のちょうど3分の2程度の温度に相当する。混合粉を1000℃に加熱することにより、鉄粉102の表面に付着した二酸化珪素粉末103から珪素元素が脱離して鉄粉102に拡散浸透するが、加熱時間が長くなると、二酸化珪素粉末103間で物質が移動し、焼結が発生する。焼結は、鉄粉102の表面に拡散接合した二酸化珪素粉末103にも発生するため、焼結した二酸化珪素粉末103を介して鉄粉102同士が結合される。特に、上記圧粉磁心用粉末の製造方法は、図16及び図18に示すように、混合粉を1000℃に加熱した状態で、炉105を1時間連続回転させ、鉄粉102と二酸化珪素粉末103の混合粉を高所から低所に繰り返し落下させて攪拌を行う。この場合、低所にある二酸化珪素粉末103は、上方から落ちてきた混合粉の重みで圧縮され、焼結が促進される。このように、単に、浸珪処理時に混合粉を1000℃に加熱しながら攪拌しただけでは、二酸化珪素粉末103が加圧焼結されて二次粒子110を生成してしまっていた。この結果、圧粉磁心用粉末の品質及び生産性が悪くなってしまった。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、浸珪処理時に二次粒子が生成されることを防ぎ、圧粉磁心用粉末の品質と生産性を向上させることができる圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る圧粉磁心用粉末の製造方法は、圧粉磁心用粉末の製造方法において、前記軟磁性金属粉末と、二酸化珪素粉末によってコーティングされた二酸化珪素保持部材とを加熱しながら接触させることにより、前記軟磁性金属粉末と前記二酸化珪素粉末の酸化還元反応を発生させ、前記二酸化珪素粉末から離脱した珪素元素を前記軟磁性金属粉末の表面に拡散浸透させて珪素浸透層を前記軟磁性金属粉末の表面に形成する。
【0013】
上記態様の圧粉磁心用粉末の製造方法は、前記二酸化珪素保持部材が、焼結を防止するものであって、表面が二酸化珪素粉末にコーティングされた焼結防止材であり、前記軟磁性金属粉末と前記焼結防止材を混合して加熱攪拌することが好ましい。
【0014】
上記態様の圧粉磁心用粉末の製造方法は、前記二酸化珪素保持部材が、二酸化珪素粉末がコーティングされた回転炉の内壁であり、前記軟磁性金属粉末と、焼結を防止するための焼結防止材とを、前記回転炉に投入して加熱攪拌することが好ましい。
【0015】
上記態様の圧粉磁心用粉末の製造方法は、前記焼結防止材が、前記軟磁性金属粉末より平均粒径が小さく、かつ、前記軟磁性金属粉末及び前記二酸化珪素粉末と反応しないものであることが好ましい。
例えば、焼結防止材は、アルミナ(Al23)やジルコニア(ZrO2)などが好ましい。
【0016】
上記態様の圧粉磁心用粉末の製造方法は、前記焼結防止材の平均粒径が、7μm〜30μmであることが好ましい。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る圧粉磁心用粉末製造装置は、圧粉磁心用粉末を製造するための圧粉磁心用粉末製造装置において、回転可能に保持され、熱伝導性を有する材質からなる回転炉と、前記回転炉に回転力を付与する駆動手段と、前記回転炉を加熱する加熱手段と、を有し、前記回転炉が、軟磁性金属粉末と、表面が二酸化珪素粉末でコーティングされた焼結防止材との混合粉を投入される。
【0018】
上記態様の圧粉磁心用粉末製造装置は、前記焼結防止材の平均粒径が、7μm〜30μmであることが好ましい。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る圧粉磁心用粉末製造装置は、圧粉磁心用粉末を製造するための圧粉磁心用粉末製造装置において、回転可能に保持され、熱伝導性を有する材質からなる回転炉と、前記回転炉に回転力を付与する駆動手段と、前記回転炉を加熱する加熱手段と、を有し、前記回転炉が、二酸化珪素粉末で内壁をコーティングされ、軟磁性金属粉末と焼結防止材との混合粉を投入される。
【発明の効果】
【0020】
上記態様の圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置は、例えば、軟磁性金属粉末と、表面が二酸化珪素粉末でコーティングされた焼結防止材との混合粉を回転炉に投入し、回転炉を加熱手段で加熱しながら回転させ、軟磁性金属粉末と焼結防止材とを攪拌混合する。この場合、軟磁性金属粉末が、焼結防止材の表面にコーティングされた酸化珪素粉末と接触し、酸化還元反応を発生する。この酸化還元反応により、二酸化珪素粉末から珪素元素が脱離して軟磁性金属粉末の表面に拡散浸透し、軟磁性金属粉末の表面に珪素浸透層が形成される。二酸化珪素粉末は、焼結防止材により焼結を防止される。そのため、回転炉を加熱させた状態で回転させ、混合粉を攪拌混合しても、軟磁性金属粉末が二酸化珪素粉末を介して結合したり、二酸化珪素粉末同士が焼結するなどして、二次粒子が生成されることがない。また、軟磁性粉末の表面には、混合粉の攪拌混合により、焼結防止材の二酸化珪素粉末が次々と供給され、各軟磁性金属粉末の表面に珪素浸透層が均一に形成される。よって、上記圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置によれば、浸珪処理時に二次粒子が生成されることを防ぎ、圧粉磁心用粉末の品質と生産性を向上させることができる。
【0021】
上記態様の圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置は、例えば、軟磁性金属粉末と焼結防止材との混合粉を回転炉に投入し、回転炉を加熱手段で加熱しながら回転させ、軟磁性金属粉末と焼結防止材とを攪拌混合する。この場合、軟磁性金属粉末が、回転炉の内壁にコーティングされた二酸化珪素粉末と接触し、酸化還元反応を発生する。この酸化還元反応により、二酸化珪素粉末から珪素元素が脱離して軟磁性金属粉末の表面に拡散浸透し、軟磁性金属粉末の表面に珪素浸透層が形成される。二酸化珪素粉末は、焼結防止材により焼結を防止される。そのため、軟磁性金属粉末が二酸化珪素粉末を介して結合したり、二酸化珪素粉末同士が焼結するなどして、二次粒子が生成されることがない。また、軟磁性粉末は、混合粉の攪拌混合時に、回転炉の内壁にコーティングされた二酸化珪素粉末に接触する位置を変え、各軟磁性金属粉末の表面に珪素浸透層が均一に形成される。よって、上記圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末製造装置によれば、浸珪処理時に二次粒子が生成されることを防ぎ、圧粉磁心用粉末の品質と生産性を向上させることができる。
【0022】
上記態様の圧粉磁心用粉末は、軟磁性金属粉末より平均粒径が小さく、かつ、軟磁性金属粉末及び二酸化珪素粉末と反応しないものを焼結防止材に使用するので、混合粉を加熱して攪拌混合しても、焼結防止材が軟磁性金属粉末の間に行き渡り、二酸化珪素粉末の焼結を防ぐことができる。
【0023】
また、焼結防止材の平均粒径を、7μm〜30μmとすることにより、軟磁性金属粉末と焼結防止材との偏析や二酸化珪素粉末の焼結を確実に防止して、圧粉磁心用粉末の品質と生産性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係り、圧粉磁心用粉末製造装置の概略構成図である。
【図2】回転炉の縦断面図である。
【図3】焼結防止材の断面を示すイメージ図である。
【図4】炭素−鉄金属粉末と焼結防止材の位置関係を示すイメージ図である。
【図5】浸珪処理のイメージ図である。
【図6】圧粉磁心用粉末の断面を示すイメージ図である。
【図7】比較例と実施例1における浸珪処理の条件を示す図である。
【図8】比較例と実施例1の歩留まり率を示す図である。
【図9】実施例1の圧粉磁心用粉末について、鉄粉の表面から鉄粉の中心部へ向かって形成される珪素浸透層の距離を、圧粉磁心用粉末別に調べた結果を示すグラフである。
【図10】平均粒径の測定態様を示すグラフである。
【図11】実施例2における焼結防止材の平均粒径と歩留まりとの関係を示すグラフである。
【図12】本発明の第2実施形態に係り、圧粉磁心用粉末製造装置で使用される回転炉の縦断面図である。
【図13】図12のA部拡大図である。
【図14】浸珪処理のイメージ図である。
【図15】鉄粉の表面から鉄粉の中心部へ向かって形成される珪素浸透層の距離を、圧粉磁心用粉末別に調べた結果を示すグラフである。
【図16】混合粉を攪拌しながら加熱する処理のイメージ図である。
【図17】混合粉を攪拌しながら加熱した場合に得られる圧粉磁心用粉末の顕微鏡写真を図面化したものである。
【図18】混合粉を攪拌しながら加熱する装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明に係る圧粉磁心用粉末製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
(第1実施形態)
<圧粉磁心用粉末の概略構成>
図6は、圧粉磁心用粉末28の断面を示すイメージ図である。
圧粉磁心用粉末28は、鉄粉24(軟磁性金属粉末の一例)の絶縁を確保するために、鉄粉24の表層に珪素浸透層25が形成され、更に、鉄粉24の表面を覆うようにシリコーン被膜層27が形成されている。
【0027】
<圧粉磁心用粉末製造装置の概略構成>
図1は、本発明の実施形態に係り、圧粉磁心用粉末製造装置1の概略構成図である。
圧粉磁心用粉末製造装置1は、圧粉磁心用粉末28を製造する工程のうち、鉄粉24の表層に珪素浸透層25を形成する浸珪処理工程に用いられる。
【0028】
圧粉磁心用粉末製造装置1は、中空円筒形状の回転炉2を備える。回転炉2は、熱伝導率が高く、化学反応しにくい材質(例えば、SUS310S)により、構成されている。回転炉2は、両端面に回転軸3,4が固定され、その回転軸3,4を介して図示しない支柱に回転自在に保持されている。回転軸3には、図示しないモータが連結され、回転軸3を介して回転炉2に回転力を付与するようになっている。
【0029】
回転炉2には、炭素−鉄金属粉末21(軟磁性金属粉末の一例)と、焼結を防止するための焼結防止材22(二酸化珪素保持部材の一例)を攪拌混合した混合粉20を投入するための投入口5と、浸珪処理を施された粉体26を取り出すための取出口6が設けられている。回転炉2の外周面には、ヒータ7が巻き付けられ、回転炉2を介して混合粉20が加熱されるようになっている。
【0030】
回転軸3,4の内部には、流路が設けられている。回転軸3の流路は、図示しない雰囲気ガス供給源に接続され、雰囲気ガスを回転炉2の内部へ供給する。回転軸4の流路は、図示しない排気ポンプに接続され、回転炉2内のガスを排気する。
【0031】
図2は、回転炉2の縦断面図である。
回転炉2の内壁には、複数(ここでは3枚)の攪拌板10が固設されている。攪拌板10は、熱伝導率が高く、化学反応しにくい材質(例えば、SUS310S)からなる直線状の板材である。攪拌板10は、回転炉2の全長とほぼ同じ長さを有する。攪拌板10は、回転炉2の軸線に対して平行であって、回転炉2の縦断面周方向に均等配置され、回転炉2の中心部へ向かって立設されている。これにより、回転炉2は、図示しないモータによって回転された場合に、内部に供給された材料を攪拌板10によって次々とすくい上げては落下させ、攪拌することができる。回転炉2の内部には、回転炉2内の温度を測定
するための温度センサ8が取り付けられている。
【0032】
<焼結防止材の構成>
図3は、焼結防止材22の断面を示すイメージ図である。
焼結防止材22は、二酸化珪素粉末23により外周面をコーティングされている。二酸化珪素粉末23は、接着剤で焼結防止材22の外周面全体に固定されている。焼結防止材22は、平均粒径が炭素−鉄金属粉末21の平均粒径より小さいことが好ましい。これは、一般に、粉体の運動エネルギーは粒径の影響を受け、焼結防止材22の平均粒径を炭素−鉄金属粉末21の平均粒径より小さくすることにより、焼結防止材22が炭素−鉄金属粉末21の間に入り込みやすくなり、鉄粉同士の接触を防止できるからである。また、焼結防止材22は、炭素−鉄金属粉末21(鉄粉24)及び二酸化珪素粉末23と反応しないものであることが好ましい。これは、炭素−鉄金属粉末21と二酸化珪素粉末23の量を管理し、鉄粉24に珪素浸透層25を適正に形成できるようにするためである。本実施形態では、アルミ粉末(Al23粉末)を焼結防止材22に使用している。
【0033】
一方、二酸化珪素粉末23は、平均粒径が焼結防止材22の平均粒径より小さく、焼結防止材22の表面全体に殆ど隙間無く接着されている。二酸化珪素粉末23は、平均粒径が1μm以下であることが好ましい。二酸化珪素粉末23の平均粒径が1μmを超えると、炭素−鉄金属粉末21との接触面積が小さくなり、炭素−鉄金属粉末21の表面に拡散浸透する反応速度が遅くなるからである。特に、二酸化珪素粉末23は、炭素−鉄金属粉末21へ拡散浸透しやすくするために、平均粒径が50nmとすることが好ましい。
【0034】
<圧粉磁心用粉末の製造方法>
次に、圧粉磁心用粉末製造方法について説明する。
先ず、炭素−鉄金属粉末21と焼結防止材22を攪拌混合した混合粉20を、投入口5から回転炉2に投入する。そして、雰囲気ガス(例えば、アルゴン(Ar)とAr供給量に対して30%の水素(H2)の混合ガス)を回転炉2に供給すると共に、排気を開始する。そして、ヒータ7により回転炉2を加熱する。
【0035】
加熱を開始すると同時に、図示しないモータを駆動して回転炉2を回転させる。回転炉2の回転により、図2に示すように、混合粉20が攪拌板10によって底部から所定の高さまですくい上げられては底部へ滑り落とされ、炭素−鉄金属粉末21と焼結防止材22とが混ぜ合わされて攪拌され、浸珪処理が行われる。この浸珪処理中、回転炉2内の温度は、温度センサ8が検出する温度測定データに基づいてフィードバック制御され、1000℃に維持される。
【0036】
回転炉2内で加熱された混合粉20は、図5に示すように、焼結防止材22の表面にコーティングされた二酸化珪素粉末23と炭素−鉄金属粉末21が酸化還元反応を発生し、二酸化珪素粉末23から珪素元素が脱離すると共に、一酸化炭素(CO)ガスが生成される。脱離した珪素元素は、炭素−鉄金属粉末21の表面から浸透して炭素−鉄金属粉末21の内部に拡散し、炭素−鉄金属粉末21の表層に珪素浸透層25を形成する。加熱時間が経過するにつれて、珪素元素が炭素−鉄金属粉末21の表層に濃化していく。一方、生成されたCOガスは、回転軸4内の流路を介して回転炉2の外部へ排気され、処理ガスと置換される。そのため、回転炉2内の圧力と雰囲気は一定に維持される。このような浸珪処理は、珪素元素が二酸化珪素粉末23から脱離する反応生成速度が、炭素−鉄金属粉末21の表層に浸透拡散する拡散速度よりも速い脱離拡散雰囲気下で行われる。尚、炭素−鉄金属粉末21は、酸化還元反応が進んで炭素元素が抜けるにつれて純度の高い鉄粉24に近づき、浸珪処理を施された粉体26が生成される。
【0037】
ここで、混合粉20の攪拌混合時における炭素−鉄金属粉末21と焼結防止材22との位置関係について説明する。図4は、炭素−鉄金属粉末21と焼結防止材22の位置関係を示すイメージ図である。
攪拌によって、炭素−鉄金属粉末21は、焼結防止材22が他の炭素−鉄金属粉末21との間に入り込み、他の炭素−鉄金属粉末21と接触するのが防止される。より具体的には、焼結防止材22は、炭素−鉄金属粉末21より平均粒径が小さいため、炭素−鉄金属粉末21の間に入り込み、炭素−鉄金属粉末21同士が接触することを防ぐ。焼結防止材22の表面全体には、二酸化珪素粉末23がコーティングされている。そのため、焼結防止材22で外周面を覆われた炭素−鉄金属粉末21は、表面全体に二酸化珪素粉末23が接触する。しかも、回転炉2の回転に伴う攪拌により、炭素−鉄金属粉末21の表面に接触する焼結防止材22が絶えず入れ替わり、炭素−鉄金属粉末21の表面に二酸化珪素粉末23が供給され続ける。よって、各炭素−鉄金属粉末21(鉄粉24)の表面では浸珪反応が均一に進行する。
【0038】
混合粉20をヒータ7で加熱して攪拌混合する場合、二酸化珪素粉末23は、まず、炭素−鉄金属粉末21の表面に拡散接合し、徐々に炭素−鉄金属粉末21の表面に拡散浸透していく。焼結防止材22にコーティングされた二酸化珪素粉末23は、回転炉2の外周面に装着されたヒータ7によって加熱されているが、焼結防止材22が、二酸化珪素粉末23の焼結を防いでいる。そのため、炭素−鉄金属粉末21が、表面に拡散接合した二酸化珪素粉末23を介して他の炭素−鉄金属粉末21と結合されない。また、焼結防止材22が二酸化珪素粉末23を介して結合されることもない。つまり、混合粉20を加熱しながら攪拌混合しても、二次粒子が発生しない。
【0039】
所定の加熱時間(例えば1時間)だけ、回転炉2を加熱しながら回転させたら、雰囲気ガスの供給及び排気、ヒータ7による加熱、回転炉2の回転を停止させる。加熱時間は、珪素浸透層25の鉄粉24の表面からの距離X1が、鉄粉24の直径Dの0.15倍未満となるように(図6参照)、設定することが好ましい。これは、圧粉磁心用粉末28を圧粉成形した圧粉磁心の磁心密度や磁束密度を低下させないように、圧粉磁心用粉末28の硬さを調整することができるからである。
【0040】
作業者は、回転炉2の内部温度が常温に低下したことを確認してから、浸珪処理を施された粉体26(図5参照)を回転炉2の取出口6から取り出す。
【0041】
上記のように浸珪処理を施された粉体26は、被膜処理が施される。被膜処理では、例えば、エタノールにシリコーン樹脂を溶解させた液に浸珪処理を施された粉体26を投入し、攪拌する。所定時間攪拌したら、更にエタノールを蒸発させながら攪拌し、シリコーン樹脂を浸珪処理を施された粉体26の表面に固着させる。これにより、珪素浸透層25がシリコーン被膜層27で覆われた圧粉磁心用粉末28(図6参照)が生成される。
【0042】
<圧粉磁心の製造方法>
次に、上記のように製造された圧粉磁心用粉末28を圧粉成形して圧粉磁心を製造する方法について説明する。
圧粉磁心用粉末28を、モータのコアなどの所定形状のキャビティを具備するパンチダイスに充填し、圧粉磁心用粉末28に所定圧と所定熱を加えて加圧成形する。加圧成形体は、キャビティから取り出され、内部に生じた加工歪みを除去するために、高温焼鈍処理が施される。これにより、所定形状の圧粉磁心が製造される。このように製造された圧粉磁心は、鉄粉24の直径Dに対して0.15倍以下の範囲で鉄粉24の表層に珪素浸透層25を形成する圧粉磁心用粉末28を用いているので、加圧成形時に圧粉磁心用粉末28を適度に変形させ、磁心密度や磁束密度が高い。
【実施例】
【0043】
[実施例1]
図7は、比較例と実施例1における浸珪処理の条件を示す図である。
実施例1では、次の条件で浸珪処理を行った。平均粒径が150〜212μmで比重が7.8の炭素−鉄金属粉末(鉄粉)と、平均粒径が1μmで比重が2.2であり、表面に、平均粒径が50nmで比重が2.2g/cm3の二酸化珪素粉末がコーティングされ
た平均粒径1μmのAl23粉末(焼結防止材)を、鉄粉が97〜95重量%、二酸化珪素粉末が3〜5重量%となるように攪拌混合し、その混合粉を回転炉に投入した後、アルゴン(Ar)とAr供給量に対して30%の水素(H2)の混合ガスを回転炉に供給すると共に回転炉から排気を行う。そして、回転炉を1000℃まで加熱する。そして、回転炉は、1000℃に維持した状態で、回転速度25rpmで処理時間の1時間だけ連続回転される。その後、回転炉の加熱と回転を停止させ、浸珪処理を終了する。
【0044】
一方、比較例では、次の条件で浸珪処理を行った。平均粒径が150〜212μmで比重が7.8の鉄粉を95〜97重量%、平均粒径が50nmで比重が2.2の二酸化珪素粉末を3〜5重量%の割合で攪拌混合した混合粉を回転炉に投入した後、アルゴン(Ar)とAr供給量に対して30%の水素(H2)の混合ガスを回転炉に供給し、回転炉を
加熱すると同時に、回転炉を回転させる。回転炉は、内部温度を1000℃に維持した状態で、処理時間の1時間連続回転される。その後、回転炉の加熱と回転を停止させ、浸珪処理を終了する。
【0045】
<実施例1と比較例の歩留まりについて>
発明者は、実施例1と比較例の歩留まりについて調べた。図8にその実験結果を示す。ここで、歩留まりは、0%に近い程、二酸化珪素粉末が焼結することにより生成される二次粒子の発生割合が高く、100%に近いほど二次粒子の発生割合が低い(粉末状である)ものとする。
比較例の歩留まりは約5%であった。つまり、比較例は、鉄粉と二酸化珪素粉末との混合粉が、浸珪処理が施されると、殆ど二次粒子化してしまった。
一方、実施例1の歩留まりは、ほぼ100%に近かった。つまり、実施例1は、鉄粉と表面に二酸化珪素粉末でコーティングされた焼結防止材との混合粉が、比較例と同様の浸珪処理を施されても、殆ど二次粒子化せず、各鉄粉の表面に珪素浸透層を形成して細かい粉状の圧粉磁心用粉末を製造することができた。
【0046】
上記実験結果より、浸珪処理時においては、二酸化珪素粉末で表面をコーティングされた焼結防止材と、炭素−鉄金属粉末の混合粉を回転炉に投入した後、回転炉を処理温度に加熱した状態で回転させれば、二次粒子を発生させることなく鉄粉に珪素浸透層を形成することができ、圧粉磁心用粉末の生産性が向上することが実証された。
【0047】
<珪素浸透層の均一化について>
発明者らは、実施例1からランダムに10個の粉末を取り出して切断し、電子顕微鏡で切断面を観察した。そして、鉄粉の表面から鉄粉の中心部へ向かって形成される珪素浸透層の距離を、圧粉磁心用粉末別に測定した。その測定結果を、図9に示す。
【0048】
図9に示すように、ランダムに取り出した粉末の全てが、鉄粉と二酸化珪素粉末が酸化還元反応を発生している。各粉末は、鉄粉の表面におけるSi濃度が4.0%以上6.0%以下の範囲で収束していた。そして、各粉末は、鉄粉の表面から鉄粉の中心部へ向かってSi濃度が減少する割合がほぼ同じであった。更に、各粉末は、珪素浸透層の鉄粉の表面からの距離(珪素浸透層の厚さ)が約20μmであり、粉末間で珪素浸透層の鉄粉の表面からの距離が均一化されていた。
【0049】
よって、浸珪処理時に、二酸化珪素粉末で表面をコーティングされた焼結防止材と、炭素−鉄金属粉末の混合粉を回転炉に投入した後、回転炉を処理温度に加熱した状態で回転させることにより、各鉄粉の表層に形成される珪素浸透層が均一な圧粉磁心用粉末を製造でき、圧粉磁心用粉末の品質が向上することが実証された。
【0050】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2では、実施例1の実験条件のうち、焼結防止材の平均粒径のみを変化させながら、実施例1と同様の手順で浸珪処理を行った。したがって、実施例2においても、炭素−鉄金属粉末(鉄粉)の平均粒径は、150〜212μmであり、二酸化珪素粉末の平均粒径は、50nmである。
【0051】
<平均粒径の測定について>
まず、発明者らが実施した平均粒径の測定態様について、図10を参照しながら説明する。本明細書における「平均粒径」の数値は、この測定態様により決定したものである。
発明者らは、目開きの異なるいくつかの篩(ふるい)を用意した。そして、測定対象の粒子を、それぞれの篩にかけた。このとき、図10に示すように、各篩ごとに、目開きを通過した粒子の重量百分率(重量%)を測定した。そして、目開きを通過した粒子の重量百分率が、全体の50%であった時の目開きの径(図中の1点鎖線参照)を、その粒子の平均粒径とした。
【0052】
<平均粒径と歩留まりとの関係について>
実施例2により得られた焼結防止材の平均粒径と歩留まりとの関係について、図11を参照しながら説明する。
図11に示すように、焼結防止材の平均粒径が30μm以上になると、歩留まりが顕著に低下することが分かった。これは、鉄粉の平均粒径150〜212μmに対して、焼結防止材の平均粒径が大きすぎると、鉄粉と焼結防止材とが均一に混合されずに、偏析が生じてしまうためと考えられる。このように鉄粉と焼結防止材とが偏析した状態では、焼結防止材の表面にコーティングされた二酸化珪素粉末が、鉄粉と酸化還元反応を生じ難くなり、浸珪反応率や歩留まりが低下する問題が生じてしまう。したがって、焼結防止材の平均粒径は、30μm以下(比率にすると鉄粉の平均粒径の約1/5以下)であることが好ましい。
【0053】
一方、焼結防止材の平均粒径が、7μm以下の場合にも(特に1μm以下の場合には顕著に)、歩留まりが低下することが分かった。これは、二酸化珪素粉末の平均粒径50nmに対して、焼結防止材の平均粒径が小さすぎると、焼結防止材の表面が二酸化珪素粉末で緊密にコーティングされず、二酸化珪素粉末の焼結が生じ易くなるためと考えられる。このように焼結が生じ易くなると、二次粒子の発生割合が増加して、歩留まりが低下する問題が生じてしまう。したがって、焼結防止材の平均粒径は、7μm以上(比率にすると二酸化珪素粉末の平均粒径の約140倍以上)であることが好ましい。
【0054】
上記実験結果から、実施例2の条件、すなわち鉄粉の平均粒径が150〜212μmであり、二酸化珪素粉末の平均粒径が50nmである場合には、焼結防止材の平均粒径を7〜30μmとすることにより、鉄粉と焼結防止材との偏析や二酸化珪素粉末の焼結を確実に防止して、圧粉磁心用粉末の品質と生産性を向上させることができることが確認できた。
なお、実施例2と異なる条件、すなわち鉄粉や酸化珪素粉末の平均粒径を変更した場合には、その変更比率に応じて、焼結防止材の平均粒径の選定範囲を変更すればよい。具体的には、鉄粉や酸化珪素粉末の変更後の平均粒径に対して、焼結防止材の平均粒径を、鉄粉の平均粒径の約1/5以下、かつ、二酸化珪素粉末の平均粒径の約140倍以上となるように選定すればよい。これにより、鉄粉と焼結防止材との偏析や二酸化珪素粉末の焼結を確実に防止して、圧粉磁心用粉末の品質と生産性を向上させることができる。
【0055】
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。図12は、本発明の第2実施形態に係り、圧粉磁心用粉末製造装置30で使用される回転炉34の縦断面図である。図13は、図12のA部拡大図である。尚、図12に示す二酸化珪素膜33は、図面上見やすくするために、実際より厚く記載している。
本実施形態では、二酸化珪素粉末23をコーティングされた回転炉34の内壁により、「二酸化珪素保持部材」が構成されている点が、第1実施形態と相違し、その他は、第1実施形態と構成が共通している。ここでは、第1実施形態と相違する点を中心に説明し、第1実施形態と共通する点は図面に同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0056】
図12に示すように、回転炉34の内壁と攪拌板10及び温度センサ8の表面は、二酸化珪素膜33で覆われている。図13に示すように、二酸化珪素膜33は、回転炉34の内壁と攪拌板10及び温度センサ8の表面に二酸化珪素粉末23を焼き付けや接着剤等により剥がれないように固定したものである。
【0057】
このような圧粉磁心用粉末製造装置30は、炭素−鉄金属粉末21と焼結防止材31との混合粉32が投入される。焼結防止材31は、外周面が二酸化珪素粉末23でコーティングされていない点を除き、第1実施形態の焼結防止材22と同じ構成である。圧粉磁心用粉末製造装置30は、処理ガスの供給と排気が開始された後、回転炉34が回転されない状態で、ヒータ7による加熱が開始される。温度センサ8が所定の処理温度を検出すると、回転炉34が回転され、混合粉32が攪拌板10により攪拌混合される。
【0058】
炭素−鉄金属粉末21は、攪拌混合時に、二酸化珪素膜33上を転がり、二酸化珪素膜33の二酸化珪素粉末23と接触する。炭素−鉄金属粉末21と二酸化珪素粉末23は、ヒータ7の熱により、所定の処理温度(例えば1000℃)に加熱されている。そのため、炭素−鉄金属粉末21と二酸化珪素粉末23が酸化還元反応を発生し、二酸化珪素粉末23から脱離した珪素元素が炭素−鉄金属粉末21の表面に拡散浸透すると共に、COガスが発生する。炭素−鉄金属粉末21は、焼結防止材31と一緒に回転炉34に投入されている。そのため、炭素−鉄金属粉末21の表面に拡散接合した二酸化珪素粉末23は、所定の処理温度に加熱されていても、焼結防止材31により、他の二酸化珪素粉末23と焼結することを防がれる。つまり、炭素−鉄金属粉末21を核として、二酸化珪素粉末23が焼結し、雪だるまのように二次粒子が成長することが防がれる。
【0059】
よって、本実施形態の圧粉磁心用粉末製造装置30は、浸珪処理時に二次粒子が生成されることを防ぎ、圧粉磁心用粉末の品質と生産性を向上させることができる。
【0060】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
(1)例えば、上記実施形態では、焼結防止材22,31にAl23粉末を使用したが、炭素−鉄金属粉末21(鉄粉24)より平均粒径が小さく、炭素−鉄金属粉末21(鉄粉24)や二酸化珪素粉末23と反応しないものであれば、焼結防止材22,31はこれに限定されない。例えば、焼結防止材22,31は、ジルコニア(ZrO2)等であっても良い。
(2)例えば、上記実施形態では、回転炉2内を、Arと、Arの供給量に対して30%の水素を混合した混合ガスを充填した雰囲気としたが、回転炉2内を真空状態にした雰囲気としても良い。また、減圧雰囲気下、あるいは生成したガス分圧が低い、具体的には低一酸化炭素(CO)雰囲気下、或いは、低窒素(N2)雰囲気下で浸珪処理を行っても良い。また、処理ガスは、軟磁性金属粉末と浸珪用粉末との酸化還元反応を促進するものであれば、炭素ガス等の別のガスであっても良い。
(3)例えば、上記実施形態では、回転炉2の内壁に固設される攪拌板10を回転炉2の軸心と平行な直線状に設けたが、回転炉2の内壁に固定される攪拌板を螺旋状に設けても良い。この場合、回転炉2に供給した混合粉が螺旋状の攪拌板に載せられて、回転炉2の回転に従って少しずつ落下するため、回転炉2の底部にある混合粉が上方から落ちてきた混合粉の重みで圧縮されにくくなる。この結果、より確実に混合粉の二次粒子化を防ぎ、圧粉磁心用粉末の歩留まりを向上させることができる。
(4)例えば、上記実施形態では、軟磁性金属粉末の一例として炭素−鉄金属粉末21を上げたが、Fe−Si合金、Fe−Al合金、Fe−Si−Al合金、チタン、アルミニウムなどを軟磁性金属粉末としても良い。
【符号の説明】
【0061】
1,30 圧粉磁心用粉末製造装置
2 回転炉
7 ヒータ
8 温度センサ
10 攪拌板
20 混合粉
21 炭素−鉄金属粉末(軟磁性金属粉末の一例)
22 焼結防止材
23 二酸化珪素粉末(浸珪用粉末の一例)
24 鉄粉(軟磁性金属粉末の一例)
25 珪素浸透層
28 圧粉磁心用粉末
31 焼結防止材
33 二酸化珪素膜
34 回転炉(二酸化珪素保持部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧粉磁心用粉末の製造方法において、
軟磁性金属粉末と、二酸化珪素粉末によってコーティングされた二酸化珪素保持部材とを加熱しながら接触させることにより、前記軟磁性金属粉末と前記二酸化珪素粉末の酸化還元反応を発生させ、前記二酸化珪素粉末から離脱した珪素元素を前記軟磁性金属粉末の表面に拡散浸透させて珪素浸透層を前記軟磁性金属粉末の表面に形成する
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する圧粉磁心用粉末の製造方法において、
前記二酸化珪素保持部材は、焼結を防止するものであって、表面が二酸化珪素粉末にコーティングされた焼結防止材であり、
前記軟磁性金属粉末と前記焼結防止材を混合して加熱攪拌する
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載する圧粉磁心用粉末の製造方法において、
前記二酸化珪素保持部材は、二酸化珪素粉末がコーティングされた回転炉の内壁であり、
前記軟磁性金属粉末と、焼結を防止するための焼結防止材とを、前記回転炉に投入して加熱攪拌する
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載する圧粉磁心用粉末の製造方法において、
前記焼結防止材は、前記軟磁性金属粉末より平均粒径が小さく、かつ、前記軟磁性金属粉末及び前記二酸化珪素粉末と反応しないものである
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載する圧粉磁心用粉末の製造方法において、
前記焼結防止材の平均粒径は、7μm〜30μmである
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項6】
圧粉磁心用粉末を製造するための圧粉磁心用粉末製造装置において、
回転可能に保持され、熱伝導性を有する材質からなる回転炉と、
前記回転炉に回転力を付与する駆動手段と、
前記回転炉を加熱する加熱手段と、を有し、
前記回転炉が、軟磁性金属粉末と、表面が二酸化珪素粉末でコーティングされた焼結防止材との混合粉を投入される
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載する圧粉磁心用粉末製造装置において、
前記焼結防止材の平均粒径は、7μm〜30μmである
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末製造装置。
【請求項8】
圧粉磁心用粉末を製造するための圧粉磁心用粉末製造装置において、
回転可能に保持され、熱伝導性を有する材質からなる回転炉と、
前記回転炉に回転力を付与する駆動手段と、
前記回転炉を加熱する加熱手段と、を有し、
前記回転炉が、二酸化珪素粉末で内壁をコーティングされ、軟磁性金属粉末と焼結防止材との混合粉を投入される
ことを特徴とする圧粉磁心用粉末製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−246812(P2011−246812A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30573(P2011−30573)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】