説明

圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法

本発明は、圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法に関し、より詳細には、蒸着された薄膜を熱処理時引き起こされる圧縮応力を用いて、単結晶ナノワイヤを製造する方法に関する。このため、基板を提供するステップと、該基板の上に該基板との熱膨張係数の差が2x10−6/℃以上の物質の薄膜を設けるステップと、該薄膜の設けられた基板を熱処理して該膜に該基板との熱膨張係数の差による引張応力を引き起こすステップと、該基板を冷却させることによって該膜に圧縮応力が引き起こされ、該物質の単結晶ナノワイヤが成長するようにするステップとを含む、圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法に関し、より詳しくは、蒸着された薄膜を熱処理する時引き起こす圧縮応力を用いて、単結晶ナノワイヤを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半金属(Semimetallic)Bi(Bismuth)は、異方性フェルミ面(anisotropic Fermi surface)、長い平均自由行路(mean free path、l)、小さな有効質量(effective mass、m*)等で起因する特異なだけのいくつかの転送特性(transport properties)により、活発な研究が進行されている物質である。またBiナノワイヤにおいて、運搬者の自由行程距離がナノワイヤの大きさに制限される、有限大きさ効果(finite size effect)と量子閉じ込め効果(quantum confinement effect)である半金属−半導体相転移(semimetal−semiconductor phase transition)現象が、直径50nmで観察されることによって、Biは新たな物理現象を理解するのに重要な役割をしている。
【0003】
しかし、Biナノワイヤの特性評価のために、単結晶ナノワイヤの製造が物理的物性研究に必須になることにかかわらず、物質固有の特性上単結晶性を有しにくく、ナノワイヤの成長に制限を有している。また、Biナノワイヤの成長方法は今までに多く知られていない。
【0004】
周知のように、半金属(semimetalic)であるBiと半導体(semiconductor)Teの合金であるBiTel−xとは大質量を有し、BiとTeとの間のファンデルワールス結合(Vander Waals bonding)と、Te間の共有結合(covalent bonding)とで小さなバネ定数を有するので、熱伝導度を減少することができる。またそれによって、性能指数(figure of merit;ZT)を増加させることができ、今のところ、熱電材料として多大な関心を受けている。
【0005】
また、半導体材料であるBiTel−xをナノワイヤで製造することにより、電子エネルギー準位密度(electrical density of state)を制御することができ、該エネルギー準位密度関数の形状及びピーク位置をフェルミ準位(fermi level)にマッチさせると、熱電効果に影響を及ぶゼーベック係数(Seebeck coefficient)を調整することができる。そして、量子閉じ込め効果によって電子移動度を増加させ、電気伝導度を高い値に維持することができ、バルク相熱電材料の限界を克服し、比較的に大きい値のZTを得ることができる。
【0006】
一般に、単結晶ナノワイヤの製造は高温で行われ、溶融点(271.3℃)の低いBiナノワイヤの成長には適用することができないという不都合がある。また、BiTel−xナノワイヤの場合、単一物質でなく合金で成長させなければならないので、各物質が溶解している溶媒を用いて成長させる方法が主をなしている。このような製造方法としては、テンプレート補助方法(template−assisted method)、液相法(solution−phase method)、水熱法(hydrothermal method)、溶解熱法(solve−thermal method)などが挙げられる。しかし、該テンプレート補助方法は、テンプルレートの準備が容易ではない。また、その他の方法は出発物質(starting material)が必要等、複雑な工程が必須に伴われる。併せて、単一ナノワイヤ素子工程のために適切なテンプルレートの除去とナノワイヤ表面に残存する化学物質の除去とが必須で、また、低いアスペクト比(aspect ratio)で素子工程の際に多様なパターン形成に困難さがある。何よりも上記の各方法は、成長したBiまたはBiTel−xナノワイヤが多結晶(polycrystalline)からなされて、Bi及びBiTel−x固有の特性を得るのに限界があるという不都合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の問題点に鑑みて成されたものであって、単結晶ナノワイヤの成長のために、これまでの先行研究とは異なり、テンプルレートの製造や触媒製造を要するナノワイヤ合成過程を経てないと共に、出発物質の介入や原料物質の液相或いは気相への状態変化なし、非常に簡単な方法でナノワイヤを製造することができるような方法を提供する。
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、下記のようなステップからなされるナノワイヤ製造方法を提供する。
【特許文献1】特開2005-093454
【課題を解決するための手段】
【0009】
基板を提供するステップと、
該基板の上に該基板との熱膨張係数の差が2x10−6/℃以上の物質の薄膜を設けるステップと、
該薄膜の設けられた基板を熱処理して、該膜に該基板との熱膨張係数の差による引張応力を引き起こすステップと、
該基板を冷却させることによって該膜に圧縮応力が引き起こされ、該物質の単結晶ナノワイヤが成長するようにするステップ
とを含む、圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【0010】
本発明は、基板と該基板の上に蒸着される薄膜との間の熱膨張係数の差を用いる。薄膜の熱膨張係数が基板の熱膨張係数に比べて大きい場合、加熱を行うと、該薄膜は引張応力を受けることになる。このような状態で再び基板を冷却する場合、熱膨張係数の大きい薄膜は大きい圧縮応力を受けることになる。そして、そのような圧縮応力は、薄膜物質が単結晶ナノワイヤとして成長するような熱力学的駆動力になるようにする。もちろん、ナノワイヤの成長には、熱膨張係数の差だけでなく、他の要素も駆動力として作用することもできる。例えば格子不整合(lattice mismatch)による歪み(strain)もある程度の駆動力として作用することができると予想される。しかし、ナノワイヤの成長に供される駆動力の大きさは、熱膨張係数の差により引き起こされる応力が最大で、本発明はそれを用いたことである。
【0011】
一方、薄膜及び基板があまり厚ければ、熱膨張係数の差による応力が薄膜及び基板の厚さ方向に解消されるため、膜厚が重要な変数となる。そして、そのような点から、基板の場合は、薄膜に比べて遥かに厚いことが一般的なので、基板と薄膜との間に中間層(intermediate layer)を設けることが望ましい。このため、本発明では、下記の通りなされるナノワイヤ製造方法をさらに提供する。
【0012】
中間層がその上に設けられた基板を提供するステップと、
該中間層と熱膨張係数の差が2x10−6/℃以上の物質の薄膜を該中間層の上に設けるステップと、
該薄膜の設けられた基板を熱処理し、該膜に該基板との熱膨張係数の差による引張応力を引き起こすステップと、
該基板を冷却させることによって、該膜に圧縮応力が引き起こされ、該物質の単結晶ナノワイヤが成長するようにするステップ
とを含む圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【0013】
この場合、基板は薄膜層との熱膨張係数の差が大きい必要はなく、追加される中間層と薄膜との間の熱膨張係数の差が大きいことが要求される。基板としてはシリコン基板、中間層としては酸化物層が望ましい。酸化物はSiO、Al、BeO、MgAlSi18のうちのいずれか一が望ましい。
【0014】
薄膜として使われる物質は、ナノワイヤ成長の対象になる物質であって、圧縮応力で提供される駆動力により単結晶ナノワイヤとして成長することができる物質ならばよい。本発明では、熱電素材としての物質に関心があるため、ビスマスまたは該ビスマスを含む2元系合金が特に適している。2元系合金の場合、ビスマスと合金をなす元素としてはTe、Sb、Seなどが望ましい。この合金はBil−xの組成をなし(A=Te、Sb、Se)、この時、x値は0.33〜0.55であるものが望ましい。しかし、本発明の原理は前述の物質に限定されるのではない。また、薄膜の厚さが10nm〜4μmとしてもよい。
【0015】
薄膜を蒸着する方法は特別に限定されていないが、広く使われるスパッタリングが一般に望ましい。薄膜物質が二元系合金の場合には、合金ターゲットを用いるスパッタリング、または単一ターゲットを用いるコスパッタリングが望ましい。
【0016】
そして、スパッタリングの際、基板を冷却すると、蒸着される薄膜の結晶粒の大きさが小さくなり、結果として、後に成長するナノワイヤの直径をより小さくすることができる。
【0017】
この時、中間層は、ナノワイヤの生成されるために必要な圧縮応力を提供することができる厚さを有するべきで、3000〜5000Åが望ましい。また薄膜の厚さは、10nm〜4μmに限定することがよい。薄膜の厚さを10nm未満とする場合は、ナノワイヤが成長するために必要な物質の量が十分でない。4μmを超えれば、中間層薄膜の圧縮応力の大きさがナノワイヤの成長時に要する圧縮応力の大きさより大きくなくなり、ナノワイヤの成長が十分になされれない恐れがある。
【0018】
一方、薄膜の熱処理は100〜1000℃、0.5〜15時間でアニールすることが望ましい。熱処理温度が100℃未満ならば、ナノワイヤが成長するための熱的駆動力が提供されない。これに対して、1000℃を超えれば、基板などの材料全てに熱損傷が生じる恐れがある。熱処理時間の場合、0.5時間未満ならば、ナノワイヤの成長が十分でない。即ち、熱力学的駆動力を提供するのに不足する。熱処理時間が増加するほど、薄膜がより多く膨張して、さらに多くの引張応力が発生することになる。しかし、15時間以上とする場合には、これ以上の応力発生効果が生じない。また、ナノワイヤの直径が32〜1000nmとしてもよい。
【0019】
一方、前述の内容によれば、ナノワイヤは基板から上方へ成長する。しかし、ナノワイヤの成長方向を制御することができる。薄膜層の上にナノワイヤの成長を防ぐ一種のバリア層を蒸着する場合、ナノワイヤは上方への成長が不可能になる。このため、圧縮応力を解消するために沿面成長(lateral growth)をするようになる。バリア層の材料は特に限定されていないが、好適な実施の形態においてSiO、CrまたはWを用いる。
【0020】
以上説明の通りして成長したナノワイヤは、雰囲気中の酸素と反応するため、ナノワイヤの表面には酸化層が設けられる。このため、ナノワイヤを用いた素子製作のために、成長したナノワイヤの酸化物層を除去するステップが、さらに行われてもよい。該除去方法としては、プラズマエッチング法が望ましい。バリア層を用いた沿面成長法において、バリア層の材料をCrに用いる場合、沿面成長したナノワイヤと電極との接触が熱処理途中に可能になり、それによって、酸化物層を除去するステップを伴わなくても素子化することができる。プラズマエッチングは電力10〜100W、圧力2〜3mTorr、距離5〜10cmの条件で5〜12分間行ってもよい。
【0021】
また、前記薄膜が(00l)方向(lは整数)に配向していてもよい。さらに、形成される薄膜の結晶粒を微細化するために、前記基板が冷却された状態で薄膜を設けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明による圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法によれば、単結晶ナノワイヤの成長のために、従来技術とは異なり、テンプレート製造や触媒製造を経てない。さらに、出発物質または異種物質の介入や、原料物質の液相或いは気相への状態変化なしに、結晶性に優れた単結晶ナノワイヤを成長させることができる。
【0023】
このように、本発明によって製造された単結晶ナノワイヤは、宇宙用発電機、発熱機、航空用熱調節装置、軍事用赤外線探知機、ミサイル誘導用回路冷却機、医療機用恒温槽及び血液保管機等、熱電素子を応用する多様な分野において適用することができる。
【0024】
このような本発明のナノワイヤの成長方法は、熱電材料、特にBiまたはBiTel−xに適するが、これに限定されるのではない。従って、A1−x形態の多様な組成の結晶性に優れた単結晶ナノワイヤを成長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を添附図面を参照して好適な実施の形態でより詳細に説明する。
【0026】
図1は、単結晶ナノワイヤの製造工程を説明する概略図で、まず同図を参照してナノワイヤ製造工程を簡単に説明する。図1の(a)に示すように、単結晶ナノワイヤの製造のためには、酸化物層30がその上に形成されている基板10を用いる。基板10は(111)面の熱酸化済のSi基板、即ちSi(111)面で熱酸化が引き起こされた基板を用いた。基板10上の酸化物層30の厚さは3000〜5000Åが望ましい。本実施の形態においては、酸化物としてSiOを用いて、その厚さは3000Åに設けた。
【0027】
続いて、図1の(b)のように、酸化物層30の上にスパッタリングで薄膜を形成した。この時、薄膜50の厚さは多数の実験において10nm〜4μm範囲になるようにすることが望ましく、本実施の形態においては500Åに設けた。次に、酸化物層30の上に薄膜50の設けられた基板10を反応炉内に積置した後、熱処理した。
【0028】
以下、単結晶ナノワイヤを製造するための装置、即ち酸化物層30の上に薄膜50の設けられた基板10を熱処理するための反応炉を含む製造装置の構成及び熱処理過程を説明する。
【0029】
図2に示すように製造装置は、反応炉100と、その内部に配設される石英チューブ110と、この石英チューブ110内に位置するように構成されたアルミナボート120とを含んで構成される。反応炉100には、ヒータ(図示せず)が位置して該石英チューブ110を加熱すると共に、その内部のアルミナボート120も加熱する。この時の加熱温度は、制御器(図示せず)にて調節することができる。石英チューブ110の右端には石英チューブ110内の真空のために真空ポンプ(図示せず)が位置する。このアルミナボート120の内部には、酸化物層30の上に薄膜50の設けられた基板10が置かれる。
【0030】
以後、ヒータの熱でアルミナボート120と共に基板10が加熱される。この時、反応炉100の内部は10−2Torr〜10−8Torr程度に真空維持することが望ましい。10−2Torrより低い真空では、ナノワイヤ表面に酸化膜が設けられる可能性が高い。最も望ましくは10−7Torrに維持する。このような真空状態で、アルミナボート120の上に載置された基板を加熱することによって、図1の(c)でのように、基板10上の薄膜50に引張応力が引き起こされる。即ち、基板10と、酸化物層30と、薄膜50とは異なる熱膨張係数を有するため、熱処理時に高い熱膨張係数(13.4x10−6/℃)によって体積膨張の大きなBi薄膜50は相対的に熱膨張係数(0.5x10−6/℃)が低く、体積膨張の小さなSi酸化層30により引張応力がかかることになる。この時、薄膜50の熱処理温度は270℃にした。
【0031】
次に、上記熱処理工程が完了した後、薄膜50を常温で冷却させる。
【0032】
該冷却過程の初期に、薄膜50には冷却によって本来の位置に戻しようという圧縮応力がかかることになる。このような圧縮応力は、冷却工程でのナノワイヤの成長において熱力学的駆動力(thermodynamic driving force)として作用する。この時、図1の(d)に示すように単結晶ナノワイヤ70の大部分が成長する。
【0033】
上述したように、熱処理工程後、酸化物層の上にBiまたはBiTel−x薄膜の設けられた基板を常温で冷却する過程によって、熱処理時膨張していたBiまたはBiTel−x薄膜の収縮時圧縮応力が熱力学的駆動力として作用して、BiまたはBiTel−x単結晶ナノワイヤが容易に成長するようにする。これによって、BiまたはBiTel−x単結晶ナノワイヤを製造する。
【0034】
図6は、BiまたはBiTel−xを例えば単結晶ナノワイヤの成長模式図を示し、熱処理後冷却過程にて生じた圧縮応力によって、BiまたはBiTel−x原子の物質移動(mass transportation)が結晶粒に向けてなされて、ナノワイヤ成長の根元(seed)になり、荒い表面は BiまたはBiTel−x薄膜の上に設けられた酸化層に割れ目(crack)を引き起こして、ナノワイヤが容易にBi薄膜またはBiTel−x薄膜から突き抜け得るような原動力になることを示す。
【0035】
一方、Biの代わりにBiTel−x薄膜を用いた場合には、コスパッタリングで薄膜を形成した。そして、熱処理時加熱温度を350℃にした。この時、BiTel−x薄膜の組成は、BiとTeとの各物質蒸着時のパワーを変化させることによって調節することができた。そして、BiTel−xナノワイヤの組成は上記BiTel−x薄膜組成に依存するため、BiTel−x薄膜組成を調節することによって、特定な組成のBiTel−xナノワイヤを成長させることができた
【0036】
図3は、上記各実施の形態で製造されたBi及びBiTe(BiTel−xで、x=0.4)単結晶ナノワイヤを走査電子顕微鏡で観察した結果であって、(a)はBi、(b)はBiTeの写真である。図中から、BiまたはBiTeナノワイヤは直径が50〜1000nmであり、全体として単一相になされていることを分かる。また、単結晶BiまたはBiTeナノワイヤが均一な形態で成長し、併せて歩留まりも高いことを認められる。単結晶BiまたはBiTeナノワイヤの長さは、数百マイクロメートルであることをまた、分かる。
【0037】
図4は、製造された単結晶Bi及びBiTeナノワイヤの透過電子顕微鏡写真及び電子回折パターン写真である。図4の(a)及び(d)は、Bi及びBiTeナノワイヤの透過電子顕微鏡イメージを示す。図4の(b)及び(e)の電子回折パターンでもナノベルトがBiナノワイヤの場合[003]方向、BiTeナノワイヤの場合[110]方向に沿って菱面体晶{りょうめんたい しょう}(rhombohedral)構造に形成されていることを示す。図4の(c)及び(f)はナノワイヤの高分解能(high−resolution)透過電子顕微鏡イメージであり、ナノワイヤの成長方向がBiナノワイヤの場合は[003]方向、BiTeナノワイヤの場合は[110]方向にまず配向成長していることを確認することができる。透過電子顕微鏡観察の結果、結晶粒のような第2の相は観察されないことも確認することができる。
【0038】
図5は、製造された単結晶BiTeナノワイヤに対する元素マッピング及びラインスキャン結果を示す写真である。グラフにおいて薄い線はBi、濃い線はTeを示す。コスパッタリングによって成長した薄膜から冷却時の圧縮応力によって成長したBiTeナノワイヤの元素マッピングの結果、Bi及びTeがナノワイヤの長手方向に偏析されることなく均一に分布していることを確認することができた。また、BiTeの量的分析法であるラインスキャンでは、Bi及びTeがナノワイヤ全体に均質に分布していることを確認することができる。
【0039】
図7は、製造された単結晶Biナノワイヤにおいて直径の薄膜厚さへの依存性を示す走査電子顕微鏡写真である。走査電子顕微鏡にて、薄膜の厚さが減るほど結晶粒の大きさが小さくなり、これによってナノワイヤの直径も結晶粒の大きさが小さくなるほど、1.2μmから98nmまで減ることが認められた。具体的には、成長したBi薄膜の表面{ひょうめん}モルホロジー(surface morphology)を示す(a)、(b)、(c)及び(d)と、270℃で10時間間熱処理した後の電子走査顕微鏡写真である(e)、(f)、(g)及び(h)とから分かるように、薄膜の厚さを各々(a)3.3μm、(b)0.83μm、(c)0.083μm、(d)0.055μmに調節した。ここで、薄膜厚さ(a)3.3μm、(b)0.83μm、(c)0.083μm、(d)0.055μmは、結晶粒大きさ(a)700nm、(b)125nm、(c)107nm、(d)100nmに対応する。これから、薄膜の厚さが減るほど薄膜に形成された結晶粒の大きさも減ると共に、熱処理後の長さが数百μmに至る大きなアスペクト比を有する、直線型の真っ直ぐなナノワイヤの形成されたことを分かった。
【0040】
また、結晶粒大きさが(a)700nm、(b)125nm、(c)107nm、(d)100nmに減るほど、Biナノワイヤの直径が(e)1.2μm、(f)450nm、(g)140nm、(h)98nmに減っていることを分かった。
【0041】
図8は、製造された単結晶Biナノワイヤにおいて、直径の薄膜厚さへの依存性を示すグラフである。これから、Bi薄膜の厚さと、成長した結晶粒の大きさ及び熱処理後に形成されたBiナノワイヤ大きさとの相互関連性を定量的に分かる。Biナノワイヤの大きさは、薄膜の厚さ及び結晶粒大きさに比例する。従って、Biナノワイヤの大きさは結晶粒大きさに依存し、これは薄膜の厚さにより決定される。このような事実は、Biナノワイヤの大きさが調節することができることを意味する。
【0042】
図9は、単結晶BiTel−xナノワイヤを製造するためにBiTel−x薄膜を設ける時、蒸着パワーに応じるBiTel−xの依存性を示すグラフである。即ち、BiTel−x単結晶ナノワイヤの製造のために、BiTel−x薄膜をまず製造するが、このBiTel−x薄膜製造時の蒸着パワーに応じるBiTel−x組成の依存性を実験した。グラフに示すように、BiとTeとをコスパッタリングする時、BiとTeとの組成比が、Bi蒸着パワーとTeの蒸着パワーとに各々依存していることを分かった。これによって、BiTel−x薄膜蒸着時の蒸着パワーの調節によって、BiTel−x薄膜の組成を調節することができ、所望の組成のBiTel−xナノワイヤを成長させることができることを分かった。
【0043】
図10は、本発明の一実施の形態によって製造されたBiTe薄膜の熱処理前後に対するX線回折結果を示すグラフである。
【0044】
グラフにおいて熱処理前、即ちナノワイヤの成長前(上図)は結晶化が明確でなかったが、熱処理後、即ちナノワイヤの成長後(下図)は(00l、lは整数)方向に明確な結晶化がなされていることを分かる。
【0045】
図11は、本発明の一実施の形態によって製造されたBiTeナノワイヤの成長メカニズムを具現するための工程を示す写真である。
【0046】
まず、図11の(a)に示すようなBiTeナノワイヤを選択し、白金で保護膜を蒸着した後(図11の(b))、FIB(Focused Ion Beam)方法を用いて薄膜を垂直に切断した(図11の(c))。その結果図11の(d)のように、BiTe薄膜で成長したBiTeナノワイヤの垂直断面写真を得た。図11の(e)は、BiTe薄膜で成長されたBiTeナノワイヤの垂直断面透過電子顕微鏡写真(明視野像)であり、図11の(f)は、BiTe薄膜で成長したBiTeナノワイヤの垂直断面透過電子顕微鏡写真(暗視野像)である。図11の(g)はA、B、C及びDで示された区域における電子回折パターン写真、図11の(h)はBiTe薄膜を拡大して示す透過電子顕微鏡写真、図11の(i)は成長したBiTeナノワイヤチップ部分の透過電子顕微鏡写真である。
【0047】
図面の暗視野像及び(g)の写真によって薄膜の決定方向が[00 l]であることを確認することができるが、これはX線分析結果と一致していることを分かる。
【0048】
また図11の(d)及び(h)から、ナノワイヤが結晶粒界で成長していることを確認し、その組成は各々ナノワイヤはBiTe、薄膜はBiTeであることを確認した。
【0049】
図12は、本発明の一実施の形態によって製造されたBiTeナノワイヤの、(a)2K、300KでのI−Vデータ及び(b)温度に応じる電気伝導度測定結果を各々示すグラフである。図12の(a)では、オーム接触を形成していることが分かり、(b)のグラフからは、電気メッキ法で成長させたナノワイヤ及びBiTe以外の組成のナノワイヤ、そしてバルクでの電気伝導度より優れた特性を示していることが分かる。
【0050】
図13は、本発明の一実施の形態によって製造された単結晶Biナノワイヤをプラズマエッチング法で表面の酸化物を除去する工程の模式図(a)と、酸化物除去後の走査電子顕微鏡写真(b)である。成長したナノワイヤには、雰囲気中の酸素との結合により表面に酸化物層が設けられる。これを除去するために、rf(radio frequency)プラズマエッチング法で電力10〜100W、圧力2〜3mTorr、距離5〜10cmの条件で5〜12分間エッチングを行った。エッチング前は均一な表面の有したナノワイヤが、エッチング後の表面粗さが増加していることを分かるが、これからナノワイヤ表面がエッチングされ、存在した酸化物層が除去されたことを類推することができる。
【0051】
図14は、製造された単結晶Biナノワイヤをプラズマエッチング法で酸化物層を除去した後測定した電流−電圧グラフである。電流−電圧グラフからオーム接触を確認したが、これはナノワイヤの表面に存在する酸化物層が除去されていることを意味する。
【0052】
一方、図15は、本発明の他の実施の形態によって沿面成長したBiナノワイヤに対する成長模式図(a)、走査電子顕微鏡写真(b)及びI−V測定データ(c)である。本実施の形態においては、Bi薄膜の上にSiO薄膜をスパッタリングした。この場合、図15の(a)に示すように、熱アニール(thermal annealing)以後のBiナノワイヤはSiO薄膜のため、Bi薄膜から上方に成長して出れない。その代わりに、Biナノワイヤは圧縮応力を解消するための手段として側面に成長するようになる。図15の(b)の走査電子顕微鏡写真に、このように沿面成長したBiナノワイヤの構造が明確に示されている。沿面成長したナノワイヤは、酸化層の生成される前に対向電極との接触が形成されて、酸化層除去工程及び電極製作工程を別途に伴わなくても素子として用いられ得る。これは図15(c)のI−V測定データから確認することができる。
【0053】
図16は、本発明の他の実施の形態によるナノワイヤ製造方法において、基板を冷却するための装置の模式図(a)、該冷却装置により製造されたナノワイヤの写真(b)及び(c)である。図16の(a)において、基板後面のホルダ内部には冷媒が流れるようになり、基板を冷却させる。冷媒は特に限定されないが、本実施の形態においては液体窒素を用いて、これによって基板は約−200℃までに冷却された。このような状態で蒸着を行う場合、基板の上に設けられる薄膜の結晶粒が小さくなる。そして、このように結晶粒が小さくなれば、以後熱処理工程によって成長するナノワイヤの直径も小さくなる。即ち、図16の(b)及び(c)に示すように、直径32nm及び34.5nmのナノワイヤを得た。これから、蒸着時の基板の温度を調節することによって、以後成長するナノワイヤの形状が制御可能であることを分かる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明によるナノワイヤの製造工程を説明する概略図である。
【図2】本発明によるナノワイヤを製造するための装置を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態による方法で製造された単結晶Bi及びBiTeナノワイヤの走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施の形態によって製造された単結晶Bi及びBiTeナノワイヤの透過電子顕微鏡写真及び電子回折パターン写真である。
【図5】本発明の一実施の形態による方法で製造された単結晶BiTeナノワイヤに対する元素マッピング(elemental mapping)とラインスキャン(line scan)の結果を示す写真である。
【図6】本発明による方法で製造された単結晶BiまたはBiTel−xナノワイヤの成長模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態によって製造された単結晶Biナノワイヤにおいて直径の薄膜厚さへの依存性を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の一実施の形態によって製造された単結晶Biナノワイヤにおいて直径の薄膜厚さへの依存性を示すグラフである。
【図9】本発明による単結晶BiTel−xナノワイヤを製造するためにBiTel−x薄膜を形成時、蒸着パワーに応じるBiTel−x組成の依存性を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施の形態によって製造されたBiTe薄膜の熱処理前後に対するX線回折結果を示すグラフである。
【図11】本発明の一実施の形態によって製造されたBiTeナノワイヤの成長メカニズムを具現するための工程を示す写真である。
【図12】本発明の一実施の形態によって製造されたBiTeナノワイヤの(a)2K、300KでのI−Vデータ、及び(b)温度による電気伝導度測定結果を各々示すグラフである。
【図13】本発明の一実施の形態によって製造された単結晶Biナノワイヤをプラズマエッチング法で表面の酸化物を除去する工程の模式図(a)、酸化物を除去後の走査電子顕微鏡写真(b)である。
【図14】本発明の一実施の形態によって製造された単結晶Biナノワイヤをプラズマエッチング法で酸化物層を除去した後測定した電流−電圧グラフである。
【図15】本発明の他の実施の形態によって沿面成長したBiナノワイヤに対する成長模式図(a)、走査電子顕微鏡写真(b)及びI−V測定データ(c)である。
【図16】本発明の他の実施の形態によるナノワイヤ製造方法において、基板を冷却するための装置の模式図(a)、該冷却装置により製造されたナノワイヤの写真(b)及び(c)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層がその上に設けられた基板を提供するステップと、
前記中間層との熱膨張係数の差が2x10−6/℃以上の物質の薄膜を前記中間層の上に設けるステップと、
前記薄膜の設けられた基板を熱処理して、前記膜に基板との熱膨張係数の差による引張応力を引き起こすステップと、
前記基板を冷却させることによって前記膜に圧縮応力が引き起こされ、前記物質の単結晶ナノワイヤが成長するようにするステップとを含む、圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項2】
前記薄膜を構成する物質がBiである、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項3】
前記薄膜の蒸着がスパッタリングにより行われる、請求項1または2に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項4】
前記薄膜を構成する物質がBil−xであり、前記AがTe、Se、Sbのうちのいずれか一つである、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項5】
前記xが0.33〜0.55である、請求項4に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項6】
前記x=0.4であり、前記薄膜を構成する物質がBiTeである、請求項5に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項7】
前記薄膜の厚さが10nm〜4μmであることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮応力を用いるナノワイヤ製造方法。
【請求項8】
前記基板がSi基板である、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項9】
前記中間層が酸化物層である、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項10】
前記酸化物がSiO、Al、BeO、MgAlSi18のうちのいずれか一つである、請求項9に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項11】
前記ナノワイヤ表面に設けられる酸化物を除去するステップを、さらに含む、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項12】
前記酸化物層の除去がプラズマエッチングにより行われる、請求項11に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項13】
前記プラズマエッチングが電力10〜100W、圧力2〜3mTorr、距離5〜10cmの条件で5〜12分間行われる、請求項12に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項14】
前記熱処理が100〜1000℃で行われる、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項15】
前記熱処理が0.5〜15時間の間行われる、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項16】
前記ナノワイヤの直径が32〜1000nmである、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項17】
前記薄膜の上に、前記薄膜からナノワイヤが上方に成長することを防ぐためのバリア層を設けるステップをさらに含む、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項18】
前記バリア層の材料がSiO、CrまたはWのうちのいずれか一つである、請求項17に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項19】
前記薄膜が(00l)方向(lは整数)に配向している、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項20】
形成される薄膜の結晶粒を微細化するために、前記基板が冷却された状態で薄膜を設ける、請求項1に記載の圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。
【請求項21】
基板を提供するステップと、
前記基板の上に該基板との熱膨張係数の差が2x10−6/℃以上の物質の薄膜を設けるステップと、
前記薄膜の設けられた基板を熱処理して、前記膜に前記基板との熱膨張係数の差による引張応力を引き起こすステップと、
前記基板を冷却させることによって前記膜に圧縮応力が引き起こされ、前記物質の単結晶ナノワイヤが成長するようにするステップ
とを含む、圧縮応力を用いたナノワイヤ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−517331(P2009−517331A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552248(P2008−552248)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006944
【国際公開番号】WO2008/082186
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(309000598)インダストリー−アカデミック コオペレーション ファウンデーション ヨンセイ ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】