圧縮木製品の製造方法
【課題】薄肉でありながら強度が高く、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造可能な圧縮木製品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の圧縮木製品の製造方法は、椀状をなす木材からなるブランク材を、一対の金型により熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを含浸させる加熱圧縮工程(ステップS3)と、前記加熱圧縮工程の後、前記一対の金型による前記圧縮木材の圧縮状態を保持しながら、前記金型の温度をさらに上昇させて、前記圧縮木材に含浸した熱硬化性樹脂を重合および/または架橋させる反応工程(ステップS4)と、を含む。
【解決手段】本発明の圧縮木製品の製造方法は、椀状をなす木材からなるブランク材を、一対の金型により熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを含浸させる加熱圧縮工程(ステップS3)と、前記加熱圧縮工程の後、前記一対の金型による前記圧縮木材の圧縮状態を保持しながら、前記金型の温度をさらに上昇させて、前記圧縮木材に含浸した熱硬化性樹脂を重合および/または架橋させる反応工程(ステップS4)と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を所定の三次元形状に圧縮成形する圧縮木製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことの出来る素材として木材が注目されており、その成形技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来より、木材の改質や木材を圧縮し固定化する技術として、多塩基酸と多価アルコールを含む水溶液またはアルコール溶液を木材板状物に含浸させ、この木材板状物を加熱加圧し、熱硬化性物質を硬化させる改質木材の製造方法(例えば、特許文献1を参照)や、蒸気加熱加圧処理により固定化した木材に、合成樹脂を含浸させて加熱加圧処理する方法(例えば、特許文献2参照)、木材単板をプレスにより加熱加圧して、元厚の3/4〜1/4の厚みに圧縮後、非親水性の重合硬化樹脂液を含浸させ、重合硬化させる木質化粧板の製造方法(例えば、特許文献3を参照)、木材あるいは木質材料に環状エステル化合物とホルムアルデヒド系樹脂の初期縮合物とを主成分とする薬剤を含浸等させ、その後該薬剤を木材あるいは木質材料中で反応硬化させる改質木材の製法(例えば、特許文献4を参照)が開示されている。
【0004】
一方、木材の三次元圧縮に関する技術として、木材板を水蒸気処理で軟化した後、木材板を楽器用響板に沿う形状のキャビティを有する型内に収め、響板形状にプレス成形し、次いでこの木材板を高温水蒸気雰囲気中で保持し、形状の固定化を行う楽器用響板の製造方法が開示されている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−182002号公報
【特許文献2】特開平04−135701号公報
【特許文献3】特許第2997393号公報
【特許文献4】特許第2810918号公報
【特許文献5】特開2000−352971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の技術では、樹脂を含浸させた後、高温高圧で加熱加圧しているため、木材に亀裂や凹み、割れ等が生じるなどの場合があった。
【0007】
また、特許文献3に記載の技術では、木材単板の圧縮後、減圧下で重合硬化樹脂を含浸させて硬化しているため、減圧操作が煩雑であるとともに、工程が長く、また金型の温度制御に時間がかかるという問題を有している。
【0008】
さらに、特許文献4に記載の技術は、木材に含浸させた薬剤を加熱圧縮により硬化させて、木材の表面硬度や寸法安定性、および曲げ強度を向上させるものであるが、木材の圧縮に関する技術ではなく、木材の強度向上は、多量に含浸させた薬剤の硬化により達成されるものであり、木材の風合い等が損なわれるおそれがある。
【0009】
さらにまた、特許文献5に記載の技術では、三次元形状の圧縮木材の製造は可能であるものの、木材を圧縮し、固定化するまでの工程が長く、生産コストも高くなるという問題を有している。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薄肉でありながら強度が高く、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造可能な圧縮木製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、 木材を圧縮することによって曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、略椀状をなす木材からなるブランク材を、一対の金型により熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを含浸させる加熱圧縮工程と、前記加熱圧縮工程の後、前記一対の金型による前記圧縮木材の圧縮状態を保持しながら、前記金型の温度をさらに上昇させて、前記圧縮木材に含浸した熱硬化性樹脂を重合および/または架橋させる反応工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮木材は、前記ブランク材の肉厚の0.3〜0.5まで圧縮されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記加熱圧縮工程の前に、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布する塗布工程を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記反応工程の後、前記圧縮木材を下型を含む前記一対の金型で挟持した状態で、前記一対の金型を室温まで冷却して前記圧縮木材を放冷する冷却工程を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記加熱圧縮工程の金型温度は100〜150℃であり、前記反応工程の金型温度は160〜190℃であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記塗布工程は、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを前記下型に形成した穴部に導入し、前記冷却工程は、前記圧縮木材を放冷するとともに、前記穴部に導入し重合および/または架橋した前記熱硬化性樹脂を冷却固化して、前記圧縮木材の補強部材を形成することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記木材は、前記加熱圧縮工程前に繊維飽和点以上の含水率を有する状態にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ブランク材を熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して、ブランク材の圧縮と前記モノマーまたはオリゴマーの前記ブランク材への含浸を同時に行う加熱圧縮工程と、含浸させた前記モノマーまたはオリゴマーを重合および架橋する重合工程とを、一対の金型で連続して行うことにより、薄肉でありながら強度が高く、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の形取工程の概要を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3のA−A線断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程が完了した状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。
【図8】図8は、図7に示す外装体によって外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法で使用する凸金型を示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図11】図11は、図10のB−B線断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程が完了した状態を示す図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の処理の概要を示すフローチャートである。まず、原木から略椀状をなすブランク材を形取る(ステップS1:形取工程)。図2は、形取工程の概要を模式的に示す図である。形取工程では、無垢材などの原木1から、略椀状をなすブランク材2を切削等によって形取る。
【0022】
ブランク材2は、略長方形の表面を有する平板状の主板部2aと、主板部2aの表面で対向する二つの長辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2bと、主板部2aの表面で対向する二つの短辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2cと、を備える。ブランク材2は、後述する加熱圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた容積を有する。なお、図2では、原木1からブランク材2を年輪の接線方向に板目材を形取った場合を示しているが、形取工程で形取るブランク材は柾目材や木口材でもよい。また、ブランク材2の形状はあくまでも一例に過ぎない。すなわち、ここでいう略椀状には、椀状のほか皿状や函形状などの形状も含まれるものとする。
【0023】
次に、ブランク材2に含浸させる熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、ブランク材2の内壁面に塗布する(ステップS2:樹脂塗布工程)。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シリコン樹脂などが使用され、エポキシ樹脂が好適に使用される。前記熱硬化性樹脂のプレポリマーも粘度が低い場合は使用可能であるが、ブランク材2への含浸のしやすさの点では、モノマーまたはオリゴマーを使用することが好ましい。ブランク材2に塗布するモノマーまたはオリゴリマーは、単体で使用してもよいが、溶剤に溶解した状態で使用することもできる。モノマー単体、オリゴマー単体、またはモノマーもしくはオリゴマーを溶剤に溶解した溶液のいずれを使用するかは、使用する樹脂の重合反応性、粘度、およびブランク材2への含浸量を考慮して選択する(以下、モノマー単体、オリゴマー単体、またはモノマーもしくはオリゴマーを溶剤に溶解した溶液を、「未反応樹脂」という)。溶剤は、前記熱硬化性樹脂のモノマー単体、オリゴマー単体を溶解できるものであればよい。
【0024】
熱硬化性樹脂の未反応樹脂をブランク材2に塗布した後、ブランク材2を加熱圧縮する(ステップS3:加熱圧縮工程)。 図3は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。図4は、図3のA−A線断面図である。
【0025】
本実施の形態1の加熱圧縮工程では、略椀状をなす木材からなるブランク材2を、一対の金型により熱硬化性樹脂の未反応樹脂10とともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、ブランク材2に塗布した未反応樹脂10を、ブランク材2に含浸させる。
【0026】
加熱圧縮工程で使用する圧縮金型100は、一対の凹金型101、凸金型102と、凹金型101および凸金型102の加熱温度および圧縮力を制御する制御装置105と、を備える。凹金型101および凸金型102の内部には、熱を発生するヒータ103、104がそれぞれ設けられている。
【0027】
ブランク材2は、内壁面に塗布された未反応樹脂10とともに、凹金型101、凸金型102により加熱しながら圧縮される。ブランク材2は、この加熱圧縮により加熱圧縮工程前とは異なる略椀状に変形され、未反応樹脂10は圧縮ざれたブランク材2に含浸される。圧縮時の凹金型101、凸金型102の温度は、100〜150℃、好適には100〜120℃に制御するのが好ましい。本実施の形態1では、工程短縮のために、ブランク材2を水蒸気雰囲気下での軟化を行うことなく加熱圧縮を行う。軟化工程を行わずに高温で加熱圧縮を行うと、ブランク材2の表面に亀裂や割れ等が発生するおそれがある。したがって、加熱圧縮によるブランク材2の破損防止のために、当該温度範囲で加熱圧縮するのが好ましい。
【0028】
また、ブランク材2を形取る原木1は、繊維飽和点以上の含水率を有するものを使用するのが好ましい。本実施の形態1では、上述したように、ブランク材2を、軟化工程を行うことなく加熱圧縮を行う。原木1の含水率が繊維飽和点を下回ると、加熱圧縮の際にブランク材2の表面に亀裂や割れ等が派生するおそれがある。したがって、加熱圧縮時の破損を防止するために、繊維飽和点以上の含水率を有する原木を1使用してブランク材2を形取ることが好ましい。なお、本実施の形態1において、含水率とは、{(木材の乾燥前の重量−全乾状態の重量)/全乾状態の重量}×100(%)で定義される量のことである。ここで、全乾状態とは、木材の細胞壁に含まれて木材を構成する分子と結合する結合水がほとんどなくなった状態のことであり、この全乾状態における含水率はほぼ0%である。また、繊維飽和点とは、木材に含まれる水分のうち、細胞内腔や細胞壁の間隙にある自由水が存在せず、結合水のみが存在する状態における含水率のことである。
【0029】
加熱圧縮工程の際にブランク材2の上方から圧縮力を加える凹金型101は、ブランク材2の突出している外側面に当接する平滑面を有する凹部111を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凹金型101と対向する側の表面の曲率半径をROとし、この表面に当接する凹部111の表面の曲率半径をRAとすると、二つの曲率半径RO、RAは、RO≧RAという関係を満たす。
【0030】
一方、加熱圧縮工程の際にブランク材2の下方から圧縮力を加える凸金型102は、ブランク材2の窪んでいる内側面に当接する平滑面を有する凸部121を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって、凸金型102と未反応樹脂10を介して対向する側の表面の曲率半径をRIとし、この表面に当接する凸部121の表面の曲率半径をRB(樹脂部材10の主板部10aから側板部10bにかけて湾曲する部分の表面の曲率半径も同様)とすると、二つの曲率半径RI、RBは、RI≧RBという関係を満たす。
【0031】
図5は、凹金型101および凸金型102によって加熱圧縮工程が完了した状態を示す図である。図5に示す状態で、ブランク材2は、凹金型101および凸金型102から圧縮力を受けることにより、加熱圧縮工程前とは異なる略椀状に変形することができる。この加熱圧縮工程により、ブランク材2の肉厚は、圧縮前の30〜50%程度の肉厚まで圧縮される。換言すると、この圧縮工程におけるブランク材2の圧縮率(圧縮によるブランク材2の肉厚の減少分ΔRとそのブランク材2の圧縮前の肉厚Rの比の値ΔR/R)は、0.50〜0.70程度である。ブランク材2の圧縮率を0.50〜0.70程度とすることにより、製品の肉厚を薄くして加工を容易にするとともに、強度も高く保持することができる。
【0032】
加熱圧縮工程が終了した後、凹金型101および凸金型102によってブランク材2を挟持し、所定の三次元形状に保持したままの状態で、上述した加熱圧縮工程よりもさらに凹金型101および凸金型102の温度を上昇させて、圧縮されたブランク材2に含浸した未反応樹脂10を重合および/または架橋させる(ステップS4:反応工程)。
【0033】
ブランク材2に含浸した未反応樹脂10は、金型温度を上昇させることにより重合および/または架橋反応が促進される。凹金型101および凸金型102の温度は、使用する材料によって変更しうるものであるが、160〜190℃程度、好ましくは180〜190℃で反応させる。反応温度を高くすることにより重合および/または架橋反応を促進し、硬化時間を短縮することができるが、温度が高すぎると樹脂が酸化分解しやすくなるため、上記温度範囲とすることが好ましい。
【0034】
反応工程後、凹金型101および凸金型102によりブランク材2を挟持した状態で、凹金型101および凸金型102を室温まで冷却して、ブランク材2を冷却する(ステップS5:冷却工程)。この冷却工程でブランク材2を冷却することにより、前記反応工程で重合および/または架橋された樹脂が固化する。本実施の形態1では、圧縮されたブランク材2に未反応樹脂10を含浸させ、重合および/または架橋した後、樹脂を固化することにより、圧縮されたブランク材2の形状が樹脂により固定化されるため、水蒸気雰囲気下で加熱加圧したり、金型で挟持して放置する等の固定化工程を行うことなく、寸法安定性に優れる圧縮木製品を得ることができる。
【0035】
図6は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品3の構成を示す斜視図である。同図に示す圧縮木製品3は、ブランク材2の主板部2aおよび側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部3aおよび側板部3b、3cを有する。圧縮木製品3は、熱硬化性樹脂を含浸しているため、木製品の風合いを保持しながら、樹脂成分による艶やより高い耐久性を得ることができる。
【0036】
図7は、以上説明した圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品3の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。同図に示す外装体4は、デジタルカメラの前面側(被写体と対向する側)を外装するものであり、圧縮木製品3の主板部3aおよび側板部3b、3cにそれぞれ対応する主板部4aおよび側板部4b、4cを備える。主板部4aは、デジタルカメラの撮像部を表出する円筒形状の開口部41と、デジタルカメラのフラッシュを表出する直方体形状の開口部42とを有する。側板部4bは、シャッターボタンを表出する半円筒形状の切り欠き43を有する。
【0037】
図8は、外装体4によって前面側が外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。同図に示すデジタルカメラ301は、撮像部302と、フラッシュ303と、シャッターボタン304とを有する。撮像部302およびフラッシュ303が表出するデジタルカメラ301の前面側は、外装体4によって外装される。一方、デジタルカメラ301の背面側は、圧縮木製品3を用いて外装体4と同様に形成される外装体5によって外装される。このように、本実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品を、デジタルカメラの外装体として適用する場合には、肉厚が1.0〜1.6mm程度となるようにすればより好ましい。
【0038】
以上説明した本発明の実施の形態1の圧縮木製品の製造方法によれば、圧縮木材の肉厚を薄くして加工性を向上するとともに強度を高く保持でき、また、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造することが出来るという効果を奏する。
【0039】
なお、上記の実施の形態1では、樹脂塗布工程で未反応樹脂10をブランク材2の内壁面に塗布しているが、ブランク材2の外壁面に塗布してもよい。あるいは、ブランク材2と対向する凹金型101の凹部111または凸金型102の凸部121に塗布した後、ブランク材2を凹金型101および凸金型102により加熱圧縮することにより、ブランク材2を圧縮するとともに、未反応樹脂10をブランク材2に含浸させてもよい。
【0040】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法は、ブランク材を加熱圧縮する金型の下型である凸金型に、圧縮木製品の樹脂補強部となるボス等を形成する穴部を設けて、該穴部に未反応樹脂を流しいれ、反応により硬化することにより圧縮木製品の内部に樹脂補強部を形成する。
【0041】
図9は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法で使用する凸金型102cを示す斜視図である。図10は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。図11は、図10のB−B線断面図である。図12は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程において、ブランク材2への樹脂の含浸がほぼ完了した状態を示す図である。
【0042】
本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法では、実施の形態1と同様に、まず、原木から略椀状をなすブランク材2を形取る。その後、未反応樹脂10を凸金型102cに塗布するとともに、凸金型102cの凸部121に形成された穴部に未反応樹脂10を流し込む。
【0043】
図9に示すように、凸金型102cの凸部121の主板部121aには、樹脂補強部を形成するための穴部130、131、132、133、134が形成されている。穴部130、131、132、133、134に、未反応樹脂10をそれぞれ流し込む。
【0044】
未反応樹脂10を凸金型102cの凸部121に塗布した後、図10に示すように、ブランク材2を未反応樹脂10とともに圧縮金型100Cにより加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、凸部121に塗布した未反応樹脂10を、ブランク材2に含浸させる。加熱圧縮の条件は、実施の形態1と同様である。
【0045】
加熱圧縮が終了した後、凹金型101および凸金型102cによってブランク材2を所定の三次元形状に保持したままの状態で、凹金型101および凸金型102cの温度をさらに上昇させて、ブランク材2に含浸した未反応樹脂10および穴部130、131、132、133、134内の未反応樹脂10を重合および/または架橋させる。
【0046】
未反応樹脂10を反応させた後、凹金型101および凸金型102cによりブランク材2を挟持した状態で、凹金型101および凸金型102cを室温まで冷却することにより、ブランク材2を冷却して形状を固定化するとともに、穴部130、131、132、133、134内の熱硬化性樹脂の硬化により補強部材を形成する。
【0047】
図13は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品7の構成を示す斜視図である。圧縮木製品7は、ブランク材2の主板部2aおよび側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部7aおよび側板部7b、7cを有する。主板部7aの内側面に、補強部材の一部としてボス72、73、74、およびリブ75、76が形成されている。
【0048】
本実施の形態2の圧縮木製品の製造方法では、ブランク材を加熱圧縮する金型の凸型に、圧縮木製品の補強部材であるボス等を形成する穴部を設けることにより、余分な工程を経ることなく、補強部材を圧縮木材に対して容易にかつ確実に付着固定させることができる。また、本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、良好な加工性を有し、強度が高いだけでなく、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、電子機器用外装体として有用であり、特にデジタルカメラの外装体として好適に使用できる。また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、例えば食器、各種筐体、建材などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 原木
2 ブランク材
2a、3a、7a 主板部
2b、2c、3b、3c、7b、7c 側板部
3、7 圧縮木製品
10 樹脂部材
72、73、74 ボス
75、76 リブ
100、100C 圧縮金型
101 凹金型
102、102c 凸金型
103、104 ヒータ
105 制御装置
111 凹部
121 凸部
130、131、132、133、134 穴部
G 木目
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を所定の三次元形状に圧縮成形する圧縮木製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことの出来る素材として木材が注目されており、その成形技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来より、木材の改質や木材を圧縮し固定化する技術として、多塩基酸と多価アルコールを含む水溶液またはアルコール溶液を木材板状物に含浸させ、この木材板状物を加熱加圧し、熱硬化性物質を硬化させる改質木材の製造方法(例えば、特許文献1を参照)や、蒸気加熱加圧処理により固定化した木材に、合成樹脂を含浸させて加熱加圧処理する方法(例えば、特許文献2参照)、木材単板をプレスにより加熱加圧して、元厚の3/4〜1/4の厚みに圧縮後、非親水性の重合硬化樹脂液を含浸させ、重合硬化させる木質化粧板の製造方法(例えば、特許文献3を参照)、木材あるいは木質材料に環状エステル化合物とホルムアルデヒド系樹脂の初期縮合物とを主成分とする薬剤を含浸等させ、その後該薬剤を木材あるいは木質材料中で反応硬化させる改質木材の製法(例えば、特許文献4を参照)が開示されている。
【0004】
一方、木材の三次元圧縮に関する技術として、木材板を水蒸気処理で軟化した後、木材板を楽器用響板に沿う形状のキャビティを有する型内に収め、響板形状にプレス成形し、次いでこの木材板を高温水蒸気雰囲気中で保持し、形状の固定化を行う楽器用響板の製造方法が開示されている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−182002号公報
【特許文献2】特開平04−135701号公報
【特許文献3】特許第2997393号公報
【特許文献4】特許第2810918号公報
【特許文献5】特開2000−352971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の技術では、樹脂を含浸させた後、高温高圧で加熱加圧しているため、木材に亀裂や凹み、割れ等が生じるなどの場合があった。
【0007】
また、特許文献3に記載の技術では、木材単板の圧縮後、減圧下で重合硬化樹脂を含浸させて硬化しているため、減圧操作が煩雑であるとともに、工程が長く、また金型の温度制御に時間がかかるという問題を有している。
【0008】
さらに、特許文献4に記載の技術は、木材に含浸させた薬剤を加熱圧縮により硬化させて、木材の表面硬度や寸法安定性、および曲げ強度を向上させるものであるが、木材の圧縮に関する技術ではなく、木材の強度向上は、多量に含浸させた薬剤の硬化により達成されるものであり、木材の風合い等が損なわれるおそれがある。
【0009】
さらにまた、特許文献5に記載の技術では、三次元形状の圧縮木材の製造は可能であるものの、木材を圧縮し、固定化するまでの工程が長く、生産コストも高くなるという問題を有している。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薄肉でありながら強度が高く、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造可能な圧縮木製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、 木材を圧縮することによって曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、略椀状をなす木材からなるブランク材を、一対の金型により熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを含浸させる加熱圧縮工程と、前記加熱圧縮工程の後、前記一対の金型による前記圧縮木材の圧縮状態を保持しながら、前記金型の温度をさらに上昇させて、前記圧縮木材に含浸した熱硬化性樹脂を重合および/または架橋させる反応工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮木材は、前記ブランク材の肉厚の0.3〜0.5まで圧縮されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記加熱圧縮工程の前に、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布する塗布工程を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記反応工程の後、前記圧縮木材を下型を含む前記一対の金型で挟持した状態で、前記一対の金型を室温まで冷却して前記圧縮木材を放冷する冷却工程を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記加熱圧縮工程の金型温度は100〜150℃であり、前記反応工程の金型温度は160〜190℃であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記塗布工程は、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを前記下型に形成した穴部に導入し、前記冷却工程は、前記圧縮木材を放冷するとともに、前記穴部に導入し重合および/または架橋した前記熱硬化性樹脂を冷却固化して、前記圧縮木材の補強部材を形成することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記木材は、前記加熱圧縮工程前に繊維飽和点以上の含水率を有する状態にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ブランク材を熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して、ブランク材の圧縮と前記モノマーまたはオリゴマーの前記ブランク材への含浸を同時に行う加熱圧縮工程と、含浸させた前記モノマーまたはオリゴマーを重合および架橋する重合工程とを、一対の金型で連続して行うことにより、薄肉でありながら強度が高く、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の形取工程の概要を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3のA−A線断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程が完了した状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。
【図8】図8は、図7に示す外装体によって外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法で使用する凸金型を示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図11】図11は、図10のB−B線断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程が完了した状態を示す図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の処理の概要を示すフローチャートである。まず、原木から略椀状をなすブランク材を形取る(ステップS1:形取工程)。図2は、形取工程の概要を模式的に示す図である。形取工程では、無垢材などの原木1から、略椀状をなすブランク材2を切削等によって形取る。
【0022】
ブランク材2は、略長方形の表面を有する平板状の主板部2aと、主板部2aの表面で対向する二つの長辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2bと、主板部2aの表面で対向する二つの短辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2cと、を備える。ブランク材2は、後述する加熱圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた容積を有する。なお、図2では、原木1からブランク材2を年輪の接線方向に板目材を形取った場合を示しているが、形取工程で形取るブランク材は柾目材や木口材でもよい。また、ブランク材2の形状はあくまでも一例に過ぎない。すなわち、ここでいう略椀状には、椀状のほか皿状や函形状などの形状も含まれるものとする。
【0023】
次に、ブランク材2に含浸させる熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、ブランク材2の内壁面に塗布する(ステップS2:樹脂塗布工程)。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シリコン樹脂などが使用され、エポキシ樹脂が好適に使用される。前記熱硬化性樹脂のプレポリマーも粘度が低い場合は使用可能であるが、ブランク材2への含浸のしやすさの点では、モノマーまたはオリゴマーを使用することが好ましい。ブランク材2に塗布するモノマーまたはオリゴリマーは、単体で使用してもよいが、溶剤に溶解した状態で使用することもできる。モノマー単体、オリゴマー単体、またはモノマーもしくはオリゴマーを溶剤に溶解した溶液のいずれを使用するかは、使用する樹脂の重合反応性、粘度、およびブランク材2への含浸量を考慮して選択する(以下、モノマー単体、オリゴマー単体、またはモノマーもしくはオリゴマーを溶剤に溶解した溶液を、「未反応樹脂」という)。溶剤は、前記熱硬化性樹脂のモノマー単体、オリゴマー単体を溶解できるものであればよい。
【0024】
熱硬化性樹脂の未反応樹脂をブランク材2に塗布した後、ブランク材2を加熱圧縮する(ステップS3:加熱圧縮工程)。 図3は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。図4は、図3のA−A線断面図である。
【0025】
本実施の形態1の加熱圧縮工程では、略椀状をなす木材からなるブランク材2を、一対の金型により熱硬化性樹脂の未反応樹脂10とともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、ブランク材2に塗布した未反応樹脂10を、ブランク材2に含浸させる。
【0026】
加熱圧縮工程で使用する圧縮金型100は、一対の凹金型101、凸金型102と、凹金型101および凸金型102の加熱温度および圧縮力を制御する制御装置105と、を備える。凹金型101および凸金型102の内部には、熱を発生するヒータ103、104がそれぞれ設けられている。
【0027】
ブランク材2は、内壁面に塗布された未反応樹脂10とともに、凹金型101、凸金型102により加熱しながら圧縮される。ブランク材2は、この加熱圧縮により加熱圧縮工程前とは異なる略椀状に変形され、未反応樹脂10は圧縮ざれたブランク材2に含浸される。圧縮時の凹金型101、凸金型102の温度は、100〜150℃、好適には100〜120℃に制御するのが好ましい。本実施の形態1では、工程短縮のために、ブランク材2を水蒸気雰囲気下での軟化を行うことなく加熱圧縮を行う。軟化工程を行わずに高温で加熱圧縮を行うと、ブランク材2の表面に亀裂や割れ等が発生するおそれがある。したがって、加熱圧縮によるブランク材2の破損防止のために、当該温度範囲で加熱圧縮するのが好ましい。
【0028】
また、ブランク材2を形取る原木1は、繊維飽和点以上の含水率を有するものを使用するのが好ましい。本実施の形態1では、上述したように、ブランク材2を、軟化工程を行うことなく加熱圧縮を行う。原木1の含水率が繊維飽和点を下回ると、加熱圧縮の際にブランク材2の表面に亀裂や割れ等が派生するおそれがある。したがって、加熱圧縮時の破損を防止するために、繊維飽和点以上の含水率を有する原木を1使用してブランク材2を形取ることが好ましい。なお、本実施の形態1において、含水率とは、{(木材の乾燥前の重量−全乾状態の重量)/全乾状態の重量}×100(%)で定義される量のことである。ここで、全乾状態とは、木材の細胞壁に含まれて木材を構成する分子と結合する結合水がほとんどなくなった状態のことであり、この全乾状態における含水率はほぼ0%である。また、繊維飽和点とは、木材に含まれる水分のうち、細胞内腔や細胞壁の間隙にある自由水が存在せず、結合水のみが存在する状態における含水率のことである。
【0029】
加熱圧縮工程の際にブランク材2の上方から圧縮力を加える凹金型101は、ブランク材2の突出している外側面に当接する平滑面を有する凹部111を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凹金型101と対向する側の表面の曲率半径をROとし、この表面に当接する凹部111の表面の曲率半径をRAとすると、二つの曲率半径RO、RAは、RO≧RAという関係を満たす。
【0030】
一方、加熱圧縮工程の際にブランク材2の下方から圧縮力を加える凸金型102は、ブランク材2の窪んでいる内側面に当接する平滑面を有する凸部121を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって、凸金型102と未反応樹脂10を介して対向する側の表面の曲率半径をRIとし、この表面に当接する凸部121の表面の曲率半径をRB(樹脂部材10の主板部10aから側板部10bにかけて湾曲する部分の表面の曲率半径も同様)とすると、二つの曲率半径RI、RBは、RI≧RBという関係を満たす。
【0031】
図5は、凹金型101および凸金型102によって加熱圧縮工程が完了した状態を示す図である。図5に示す状態で、ブランク材2は、凹金型101および凸金型102から圧縮力を受けることにより、加熱圧縮工程前とは異なる略椀状に変形することができる。この加熱圧縮工程により、ブランク材2の肉厚は、圧縮前の30〜50%程度の肉厚まで圧縮される。換言すると、この圧縮工程におけるブランク材2の圧縮率(圧縮によるブランク材2の肉厚の減少分ΔRとそのブランク材2の圧縮前の肉厚Rの比の値ΔR/R)は、0.50〜0.70程度である。ブランク材2の圧縮率を0.50〜0.70程度とすることにより、製品の肉厚を薄くして加工を容易にするとともに、強度も高く保持することができる。
【0032】
加熱圧縮工程が終了した後、凹金型101および凸金型102によってブランク材2を挟持し、所定の三次元形状に保持したままの状態で、上述した加熱圧縮工程よりもさらに凹金型101および凸金型102の温度を上昇させて、圧縮されたブランク材2に含浸した未反応樹脂10を重合および/または架橋させる(ステップS4:反応工程)。
【0033】
ブランク材2に含浸した未反応樹脂10は、金型温度を上昇させることにより重合および/または架橋反応が促進される。凹金型101および凸金型102の温度は、使用する材料によって変更しうるものであるが、160〜190℃程度、好ましくは180〜190℃で反応させる。反応温度を高くすることにより重合および/または架橋反応を促進し、硬化時間を短縮することができるが、温度が高すぎると樹脂が酸化分解しやすくなるため、上記温度範囲とすることが好ましい。
【0034】
反応工程後、凹金型101および凸金型102によりブランク材2を挟持した状態で、凹金型101および凸金型102を室温まで冷却して、ブランク材2を冷却する(ステップS5:冷却工程)。この冷却工程でブランク材2を冷却することにより、前記反応工程で重合および/または架橋された樹脂が固化する。本実施の形態1では、圧縮されたブランク材2に未反応樹脂10を含浸させ、重合および/または架橋した後、樹脂を固化することにより、圧縮されたブランク材2の形状が樹脂により固定化されるため、水蒸気雰囲気下で加熱加圧したり、金型で挟持して放置する等の固定化工程を行うことなく、寸法安定性に優れる圧縮木製品を得ることができる。
【0035】
図6は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品3の構成を示す斜視図である。同図に示す圧縮木製品3は、ブランク材2の主板部2aおよび側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部3aおよび側板部3b、3cを有する。圧縮木製品3は、熱硬化性樹脂を含浸しているため、木製品の風合いを保持しながら、樹脂成分による艶やより高い耐久性を得ることができる。
【0036】
図7は、以上説明した圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品3の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。同図に示す外装体4は、デジタルカメラの前面側(被写体と対向する側)を外装するものであり、圧縮木製品3の主板部3aおよび側板部3b、3cにそれぞれ対応する主板部4aおよび側板部4b、4cを備える。主板部4aは、デジタルカメラの撮像部を表出する円筒形状の開口部41と、デジタルカメラのフラッシュを表出する直方体形状の開口部42とを有する。側板部4bは、シャッターボタンを表出する半円筒形状の切り欠き43を有する。
【0037】
図8は、外装体4によって前面側が外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。同図に示すデジタルカメラ301は、撮像部302と、フラッシュ303と、シャッターボタン304とを有する。撮像部302およびフラッシュ303が表出するデジタルカメラ301の前面側は、外装体4によって外装される。一方、デジタルカメラ301の背面側は、圧縮木製品3を用いて外装体4と同様に形成される外装体5によって外装される。このように、本実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品を、デジタルカメラの外装体として適用する場合には、肉厚が1.0〜1.6mm程度となるようにすればより好ましい。
【0038】
以上説明した本発明の実施の形態1の圧縮木製品の製造方法によれば、圧縮木材の肉厚を薄くして加工性を向上するとともに強度を高く保持でき、また、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造することが出来るという効果を奏する。
【0039】
なお、上記の実施の形態1では、樹脂塗布工程で未反応樹脂10をブランク材2の内壁面に塗布しているが、ブランク材2の外壁面に塗布してもよい。あるいは、ブランク材2と対向する凹金型101の凹部111または凸金型102の凸部121に塗布した後、ブランク材2を凹金型101および凸金型102により加熱圧縮することにより、ブランク材2を圧縮するとともに、未反応樹脂10をブランク材2に含浸させてもよい。
【0040】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法は、ブランク材を加熱圧縮する金型の下型である凸金型に、圧縮木製品の樹脂補強部となるボス等を形成する穴部を設けて、該穴部に未反応樹脂を流しいれ、反応により硬化することにより圧縮木製品の内部に樹脂補強部を形成する。
【0041】
図9は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法で使用する凸金型102cを示す斜視図である。図10は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程の概要を模式的に示す図である。図11は、図10のB−B線断面図である。図12は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱圧縮工程において、ブランク材2への樹脂の含浸がほぼ完了した状態を示す図である。
【0042】
本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法では、実施の形態1と同様に、まず、原木から略椀状をなすブランク材2を形取る。その後、未反応樹脂10を凸金型102cに塗布するとともに、凸金型102cの凸部121に形成された穴部に未反応樹脂10を流し込む。
【0043】
図9に示すように、凸金型102cの凸部121の主板部121aには、樹脂補強部を形成するための穴部130、131、132、133、134が形成されている。穴部130、131、132、133、134に、未反応樹脂10をそれぞれ流し込む。
【0044】
未反応樹脂10を凸金型102cの凸部121に塗布した後、図10に示すように、ブランク材2を未反応樹脂10とともに圧縮金型100Cにより加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、凸部121に塗布した未反応樹脂10を、ブランク材2に含浸させる。加熱圧縮の条件は、実施の形態1と同様である。
【0045】
加熱圧縮が終了した後、凹金型101および凸金型102cによってブランク材2を所定の三次元形状に保持したままの状態で、凹金型101および凸金型102cの温度をさらに上昇させて、ブランク材2に含浸した未反応樹脂10および穴部130、131、132、133、134内の未反応樹脂10を重合および/または架橋させる。
【0046】
未反応樹脂10を反応させた後、凹金型101および凸金型102cによりブランク材2を挟持した状態で、凹金型101および凸金型102cを室温まで冷却することにより、ブランク材2を冷却して形状を固定化するとともに、穴部130、131、132、133、134内の熱硬化性樹脂の硬化により補強部材を形成する。
【0047】
図13は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法により製造した圧縮木製品7の構成を示す斜視図である。圧縮木製品7は、ブランク材2の主板部2aおよび側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部7aおよび側板部7b、7cを有する。主板部7aの内側面に、補強部材の一部としてボス72、73、74、およびリブ75、76が形成されている。
【0048】
本実施の形態2の圧縮木製品の製造方法では、ブランク材を加熱圧縮する金型の凸型に、圧縮木製品の補強部材であるボス等を形成する穴部を設けることにより、余分な工程を経ることなく、補強部材を圧縮木材に対して容易にかつ確実に付着固定させることができる。また、本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、良好な加工性を有し、強度が高いだけでなく、木質材としての風合いを損なうことのない圧縮木製品を、簡易かつ短い工程で製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、電子機器用外装体として有用であり、特にデジタルカメラの外装体として好適に使用できる。また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、例えば食器、各種筐体、建材などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 原木
2 ブランク材
2a、3a、7a 主板部
2b、2c、3b、3c、7b、7c 側板部
3、7 圧縮木製品
10 樹脂部材
72、73、74 ボス
75、76 リブ
100、100C 圧縮金型
101 凹金型
102、102c 凸金型
103、104 ヒータ
105 制御装置
111 凹部
121 凸部
130、131、132、133、134 穴部
G 木目
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を圧縮することによって 曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、
略椀状をなす木材からなるブランク材を、一対の金型により熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを含浸させる加熱圧縮工程と、
前記加熱圧縮工程の後、前記一対の金型による前記圧縮木材の圧縮状態を保持しながら、前記金型の温度をさらに上昇させて、前記圧縮木材に含浸した熱硬化性樹脂を重合および/または架橋させる反応工程と、
を含むことを特徴とする圧縮木製品の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮木材は、前記ブランク材の肉厚の0.3〜0.5まで圧縮されることを特徴とする請求項1に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱圧縮工程の前に、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布する塗布工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程の後、前記圧縮木材を下型を含む前記一対の金型で挟持した状態で、前記一対の金型を室温まで冷却して前記圧縮木材を放冷する冷却工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱圧縮工程の金型温度は100〜150℃であり、
前記反応工程の金型温度は160〜190℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程は、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを前記下型に形成した穴部に導入し、
前記冷却工程は、前記圧縮木材を放冷するとともに、前記穴部に導入し重合および/または架橋した前記熱硬化性樹脂を冷却固化して、前記圧縮木材の補強部材を形成することを特徴とする請求項4または5に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項7】
前記木材は、前記加熱圧縮工程前に繊維飽和点以上の含水率を有する状態にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項1】
木材を圧縮することによって 曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、
略椀状をなす木材からなるブランク材を、一対の金型により熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーとともに加熱圧縮して圧縮木材を形成するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを含浸させる加熱圧縮工程と、
前記加熱圧縮工程の後、前記一対の金型による前記圧縮木材の圧縮状態を保持しながら、前記金型の温度をさらに上昇させて、前記圧縮木材に含浸した熱硬化性樹脂を重合および/または架橋させる反応工程と、
を含むことを特徴とする圧縮木製品の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮木材は、前記ブランク材の肉厚の0.3〜0.5まで圧縮されることを特徴とする請求項1に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱圧縮工程の前に、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布する塗布工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程の後、前記圧縮木材を下型を含む前記一対の金型で挟持した状態で、前記一対の金型を室温まで冷却して前記圧縮木材を放冷する冷却工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱圧縮工程の金型温度は100〜150℃であり、
前記反応工程の金型温度は160〜190℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程は、液状の前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを、前記金型または前記ブランク材に塗布するとともに、前記熱硬化性樹脂のモノマーまたはオリゴマーを前記下型に形成した穴部に導入し、
前記冷却工程は、前記圧縮木材を放冷するとともに、前記穴部に導入し重合および/または架橋した前記熱硬化性樹脂を冷却固化して、前記圧縮木材の補強部材を形成することを特徴とする請求項4または5に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項7】
前記木材は、前記加熱圧縮工程前に繊維飽和点以上の含水率を有する状態にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−106449(P2012−106449A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258254(P2010−258254)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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