説明

圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置

【課題】燃料とは別に車両に搭載されたセタン価向上剤を多量に消費することなく機関運転状態に係わらずに燃料の着火性の悪化を抑制することができる圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置を提供する。
【解決手段】燃料のセタン価を高めるセタン価向上剤の燃料への混合割合を制御してセタン価向上剤を燃料へ混合させるセタン価向上剤供給制御部25を具備し、推定圧縮端温度が少なくとも第一設定圧縮端温度以下のときにはセタン価向上剤供給制御部によって燃料へセタン価向上剤が混合され、推定圧縮端温度が、第一設定圧縮端温度より低い第二設定圧縮端温度より高いときには、第二設定圧縮端温度以下のときに比較して、セタン価向上剤供給制御部によって混合割合が小さくなるように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの燃料として、セタン価の低い安価な軽油を使用すると、着火性が悪化して未燃燃料の排出量が増大してしまう。それにより、内燃機関の燃料供給装置として、燃料のセタン価を高めるセタン価向上剤を燃料とは別に車両に搭載し、低負荷運転時には、セタン価向上剤を燃料に混合することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭58−137857
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の燃料供給装置により、低負荷運転時には、セタン価向上剤によって燃料のセタン価が高められ、着火性の悪化が抑制される。しかしながら、高負荷運転時にはセタン価向上剤が燃料に混合されず、着火性が悪化することがある。これを抑制するために、常にセタン価向上剤を燃料に混合したのでは、燃料より高価なセタン価向上剤を多量に消費することになってしまう。
【0005】
従って、本発明の目的は、燃料とは別に車両に搭載されたセタン価向上剤を多量に消費することなく機関運転状態に係わらずに燃料の着火性の悪化を抑制することができる圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による請求項1に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置は、燃料のセタン価を高めるセタン価向上剤の燃料への混合割合を制御して前記セタン価向上剤を燃料へ混合させるセタン価向上剤供給制御部を具備し、推定圧縮端温度が少なくとも第一設定圧縮端温度以下のときには前記セタン価向上剤供給制御部によって燃料へ前記セタン価向上剤が混合され、前記推定圧縮端温度が、前記第一設定圧縮端温度より低い第二設定圧縮端温度より高いときには、前記第二設定圧縮端温度以下のときに比較して、前記セタン価向上剤供給制御部によって前記混合割合が小さくなるように制御されることを特徴とする。
【0007】
本発明による請求項2に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置は、請求項1に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置において、前記推定圧縮端温度が前記第一設定圧縮端温度より低い第三設定圧縮端温度より低い場合に、燃料のセタン価が、設定セタン価より高いときには、前記設定セタン価以下のときに比較して、前記セタン価向上剤供給制御部によって前記混合割合が小さくなるように制御されることを特徴とする。
【0008】
本発明による請求項3に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置は、請求項1又は2に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置において、前記推定圧縮端温度が前記第一設定圧縮端温度より低い第四設定圧縮端温度より高い場合に、機関排気系の触媒装置の温度が、設定温度より高いときには、前記設定温度以下のときに比較して、前記セタン価向上剤供給制御部によって前記混合割合が小さくなるように制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明による請求項1に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置によれば、燃料のセタン価を高めるセタン価向上剤の燃料への混入割合を制御して前記セタン価向上剤を燃料へ混合させるセタン価向上剤供給制御部を具備し、推定圧縮端温度が少なくとも第一設定圧縮端温度以下のときにはセタン価向上剤供給制御部によって燃料へセタン価向上剤が混合されるために、機関運転状態に係わらずに、燃料の着火性の悪化を抑制することができる。また、推定圧縮端温度が、第一設定圧縮端温度より低い第二設定圧縮端温度より高いときには、第二設定圧縮端温度以下のときに比較して、セタン価向上剤の燃料の未燃成分低減効果が高まるために、セタン価向上剤供給制御部によって混合割合が小さくなるように制御されるために、セタン価向上剤が多量に消費されることはない。
【0010】
本発明による請求項2に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置によれば、請求項1に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置において、推定圧縮端温度が第一設定圧縮端温度より低い第三設定圧縮端温度より低い場合には、セタン価向上剤の燃料の未燃成分低減効果が低下するために、そのままでは比較的多量にセタン価向上剤が消費されることとなる。このような場合において、燃料のセタン価が、設定セタン価より高ければ、設定セタン価以下のときに比較して、セタン価向上剤供給制御部によってセタン価向上剤の燃料への混合割合が小さくなるように制御されるようになっている。それにより、着火性を悪化させることなく消費されるセタン価向上剤を減量することができる。
【0011】
本発明による請求項3に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置は、請求項1又は2に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置において、推定圧縮端温度が第一設定圧縮端温度より低い第四設定圧縮端温度より高い場合には、比較的少量のセタン価向上剤により十分に着火性の悪化を抑制することができ、このような場合には、機関排気系の触媒装置の温度が、設定温度より高く未燃燃料を十分に浄化可能なときには、設定温度以下のときに比較して、セタン価向上剤供給制御部によってセタン価向上剤の燃料への混合割合が小さくなるように制御されるようになっている。それにより、僅かに着火性が悪化して未燃燃料の排出量が増加しても、触媒装置により未燃燃料を十分に浄化させることができ、着火性の悪化に伴って着火遅れが増大するとパティキュレートの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による燃料供給装置が取り付けられた圧縮着火式内燃機関の全体図である。
【図2】推定圧縮端温度とセタン価向上剤の混合割合との関係を示すグラフである。
【図3】推定圧縮端温度とセタン価向上剤の混合割合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明による燃料供給装置が取り付けられた圧縮着火式内燃機関の概略平面図である。同図において、1は機関本体であり、2は機関本体1に接続されたインテークマニホルドであり、3は機関本体1に接続されたエキゾーストマニホルドである。4はインテークマニホルド2に接続された吸気通路であり、ターボチャージャ5のコンプレッサ5aを介して大気へ通じている。また、6はエキゾーストマニホルド3に接続された排気通路であり、ターボチャージャ5のタービン5bを介して大気へ通じている。
【0014】
7は吸気通路4のコンプレッサ5aの下流側に配置されて吸気を冷却するための吸気冷却装置であり、8は吸気通路4のコンプレッサ5aの上流側に配置されたエアクリーナである。9は吸気通路4のインテークマニホルド2の直上流側に配置されて吸気量を制御するためのスロットル弁である。10は排気通路6のタービン5bの下流側に配置された排気浄化装置である。排気浄化装置10は、例えば、排気ガス中のNOXを浄化することができるNOX吸蔵還元触媒装置とされる。NOX吸蔵還元触媒装置は、貴金属触媒を担持するために、排気ガス中の未燃燃料も酸化して浄化することができる。
【0015】
インテークマニホルド2とエキゾーストマニホルド3とは排気ガス再循環(EGR)通路11によって連結され、排気ガスの一部を気筒内へ再循環させることにより燃焼温度を低下させてNOXの発生量を抑制する。EGR通路11には、再循環させる排気ガス量を制御するためのEGR制御弁12が配置されると共に、再循環させる排気ガスを冷却するためのEGR冷却装置13が配置されている。
【0016】
20は各気筒に配置された燃料噴射弁であり、各燃料噴射弁20はコモンレール21に接続されている。コモンレール21には、電子制御装置(図示せず)によって制御されることにより燃料タンク22内の燃料が燃料ポンプ23により調量されて圧送されると共に、電子制御装置によって制御されることにより添加剤タンク24内のセタン価向上剤が添加剤ポンプ25により調量されて圧送され、コモンレール21内は所望圧力に維持される。
【0017】
圧縮着火式内燃機関、すなわち、ディーゼルエンジンの燃料として、セタン価の低い安価な軽油が使用されると、着火性が悪化して未燃燃料の排出量が増大してしまう。セタン価向上剤(例えば、2-ethyl hexyl nitrate又はDi-tert-butyl peroxide)は、燃料のセタン価を高めるものであり、本実施形態においては、燃料タンク22とは別の添加剤タンク24に収納されて車両に搭載されている。
【0018】
本実施形態の燃料供給装置は、セタン価向上剤供給制御部として機能する添加剤ポンプ25によって添加剤タンク24内のセタン価向上剤を調量して燃料に混合させ、コモンレール21を介して気筒内へ供給されるようにし、セタン価の低い軽油が燃料タンク22へ給油されても、着火性の悪化が抑制されるようにしている。
【0019】
図2は、圧縮端温度Tとセタン価向上剤の燃料への混合割合Rとの関係を示すグラフであり、本実施形態の燃料供給装置は、図2に示すグラフに基づき、セタン価向上剤の混合割合Rが制御されるようになっている。混合割合Rは、燃料噴射弁20により気筒内へ噴射されるセタン価向上剤と燃料との体積混合比である。もちろん、混合割合Rは、セタン価向上剤と燃料との重量混合比としても良い。
【0020】
図2に実線で示すように、今回サイクルの圧縮上死点の推定気筒内温度である圧縮端温度Tが少なくとも第一設定圧縮端温度T1(例えば450°C)以下のときには、添加剤ポンプ25によって添加剤タンク24内のセタン価向上剤が燃料ポンプ22によりコモンレール21へ圧送される燃料へ混合されるようになっており、機関負荷及び機関回転数により定まる機関運転状態に係わらずに、セタン価の低い軽油が燃料タンク22へ給油されていても、燃料の着火性の悪化を抑制することができる。
【0021】
吸気温度が高いほど、また、吸気圧力が高いほど、また、燃焼室壁面温度が高いほど、圧縮端温度Tは高くなり、今回サイクルの圧縮端温度Tは、今回サイクルの吸気温度、今回サイクルの吸気圧力、及び、今回サイクルの燃焼室壁面温度に基づき推定可能である。吸気温度は、測定可能であり、又は、大気温度に基づき推定可能である。吸気圧力も、測定可能であり、又は、スロットル弁開度及び大気圧に基づき推定可能である。燃焼室壁面温度は、シリンダブロックの外表面温度又は冷却水温に基づき推定可能である。
【0022】
こうして推定される今回サイクルの圧縮端温度Tが低いほど、セタン価向上剤の自己酸化反応が抑制され、燃料の着火遅れが長くなると、気筒内へ噴射された燃料の分散が進行するために、セタン価向上剤の着火性向上効果が減少する。それにより、推定圧縮端温度Tが低いときには、混合割合Rを大きくして比較的多量のセタン価向上剤を気筒内へ供給することが必要となるが、図2に実線で示すように、現在の推定圧縮端温度Tが高いほど、セタン価向上剤の混合割合Rを小さくしても、着火性の悪化を十分に抑制することができ、こうして、セタン価向上剤が多量に消費されることを抑制している。
【0023】
図2に実線で示すように、現在の推定圧縮端温度Tが、第一設定圧縮端温度T1より低い第二設定圧縮端温度T2(例えば300°C)より高いときには、第二設定圧縮端温度T2以下のときに比較して、セタン価向上剤の混合割合Rは全体的に小さくされている。
【0024】
もちろん、図2に点線で示すように、現在の推定圧縮端温度Tが、第一設定圧縮端温度T1より低い第二設定圧縮端温度T2より高いときには、第二設定圧縮端温度T2以下のときに比較して、段階的に、セタン価向上剤の混合割合Rを小さくするようにしても良い。
【0025】
また、燃料タンク22への給油後の暫くの間は、添加剤ポンプ25によるセタン価向上剤の燃料への混合を中止することにより、コモンレール21内が給油後の燃料タンク22内と同じ燃料により満たされて、給油後の燃料タンク内と同じ燃料だけが各気筒へ噴射されることとなる。このときに、特定気筒に配置された燃焼圧センサを使用して、特定機関運転状態の燃焼圧を測定すれば、測定された燃焼圧が低いほど燃料の着火性が悪化していることとなるために、測定された燃焼圧に基づき燃料タンク内の燃料のセタン価を推定することができる。
【0026】
また、セタン価の低い燃料は、一般的に、軽油にアルコール(エタノール又はブタノールなど)を混合させたものであるために、燃料タンク22にアルコール濃度センサ30を配置して給油毎に燃料タンク22内の燃料のアルコール濃度を検出すれば、アルコール濃度が高いほどセタン価が低くなるために、検出されたアルコール濃度に基づき燃料のセタン価を推定することができる。
【0027】
図2の実線は、推定された燃料のセタン価が設定セタン価である場合を示しており、現在の推定圧縮端温度Tが第一設定圧縮端温度T1より低い第三設定圧縮端温度T3(例えば、370°C)より低い場合には、セタン価向上剤の燃料の未燃成分低減効果が低下するために、そのままでは比較的多量にセタン価向上剤が消費されることとなる。このような場合において、図2に一点鎖線で示すように、推定された燃料のセタン価が、設定セタン価より高ければ、設定セタン価以下のときに比較して、セタン価向上剤の燃料への混合割合Rが小さくなるようにされる。それにより、着火性を悪化させることなく消費されるセタン価向上剤を減量することができる。推定された燃料のセタン価が高いほど、セタン価向上剤の燃料への混合割合Rを各推定圧縮端温度においてより小さくすることができる。
【0028】
ところで、機関排気系の触媒装置10の温度が、設定温度(例えば200°C)より高ければ、触媒装置10が担持する貴金属触媒によって未燃燃料を十分に浄化することができる。それにより、機関排気系の触媒装置10の温度が、設定温度より高いときには、僅かに着火性を悪化させて未燃燃料の排出量が増加しても問題はなく、着火性の悪化に伴って着火遅れが増大するとパティキュレートの発生を抑制することができる。
【0029】
それにより、本実施例では、図3に一点鎖線で示すように、機関排気系の触媒装置10の温度が、設定温度(例えば200°C)より高い場合には、図3に実線で示す設定温度以下の場合に比較して、セタン価向上剤の混合割合Rを小さくして、セタン価向上剤の消費を抑制している。特に、現在の推定圧縮端温度Tが第一設定圧縮端温度T1より低い第四設定圧縮端温度T4(例えば、330°C)より高い場合には、比較的少量のセタン価向上剤により十分に着火性の悪化を抑制することができ、このときに、機関排気系の触媒装置10の温度が、設定温度より高く未燃燃料を十分に浄化可能ならば、設定温度以下のときに比較して、セタン価向上剤の燃料への混合割合が小さくしても、極僅かに着火性が悪化するだけであり、それにより増加する未燃燃料は、触媒装置10により確実に浄化することができる。
【0030】
本実施例において、第二設定圧縮端温度T2、第三設定圧縮端温度T3、及び第四設定圧縮端温度T4は、第一設定圧縮端温度T1より低く設定されるが、各例示温度に限定されることはなく、全て同一温度であっても良い。
【符号の説明】
【0031】
20 燃料噴射弁
21 コモンレール
22 燃料タンク
23 燃料ポンプ
24 添加剤タンク
25 添加剤ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料のセタン価を高めるセタン価向上剤の燃料への混合割合を制御して前記セタン価向上剤を燃料へ混合させるセタン価向上剤供給制御部を具備し、推定圧縮端温度が少なくとも第一設定圧縮端温度以下のときには前記セタン価向上剤供給制御部によって燃料へ前記セタン価向上剤が混合され、前記推定圧縮端温度が、前記第一設定圧縮端温度より低い第二設定圧縮端温度より高いときには、前記第二設定圧縮端温度以下のときに比較して、前記セタン価向上剤供給制御部によって前記混合割合が小さくなるように制御されることを特徴とする圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置。
【請求項2】
前記推定圧縮端温度が前記第一設定圧縮端温度より低い第三設定圧縮端温度より低い場合に、燃料のセタン価が、設定セタン価より高いときには、前記設定セタン価以下のときに比較して、前記セタン価向上剤供給制御部によって前記混合割合が小さくなるように制御されることを特徴とする請求項1に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置。
【請求項3】
前記推定圧縮端温度が前記第一設定圧縮端温度より低い第四設定圧縮端温度より高い場合に、機関排気系の触媒装置の温度が、設定温度より高いときには、前記設定温度以下のときに比較して、前記セタン価向上剤供給制御部によって前記混合割合が小さくなるように制御されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧縮着火式内燃機関の燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−32742(P2013−32742A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169517(P2011−169517)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】