説明

圧電アクチュエータ駆動回路、及びそれを備えた圧電アクチュエータ装置

【課題】圧電アクチュエータを効率良く駆動することができる圧電アクチュエータ駆動回路を提供する。
【解決手段】本発明は、分極部(4a,4b)に駆動電圧が印加される圧電アクチュエータ(2)を駆動する圧電アクチュエータ駆動回路(3)であって、電圧源(14)と、分極部と電圧源との間に接続されたハイ側スイッチング素子(16)と、分極部とアース電位との間に接続されたロー側スイッチング素子(18)と、ハイ側スイッチング素子のみを導通状態とする電圧印加期間、ハイ側スイッチング素子及びロー側スイッチング素子を何れも非導通状態とするフロート期間、及びロー側スイッチング素子のみを導通状態とする接地期間を周期的に切り換えることにより、電圧パルスを分極部に印加し、圧電アクチュエータを駆動するスイッチング素子制御回路(12)と、を有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ駆動回路に関し、特に、複数の分極部を備え、複数の分極部のうちの少なくとも1つに駆動電圧が印加される圧電アクチュエータを駆動する圧電アクチュエータ駆動回路、及びそれを備えた圧電アクチュエータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定在波型超音波モータ(ピエゾモータ)等の圧電アクチュエータは、一般に、一体の圧電素子内に複数の分極部が形成されており、それらのうちの1つ又は複数の分極部に高圧電源からの電圧パルスが印加され、駆動される。複数の分極部のうちの1つに電圧パルスを印加するアクチュエータでは、アクチュエータを正転(正方向駆動)させる場合と、アクチュエータを反転(逆方向駆動)させる場合では、異なる分極部に電圧パルスが印加される。また、複数の分極部に電圧パルスが印加されるアクチュエータでは、各分極部に印加される電圧パルスの波形は互いに位相が異なっており、アクチュエータを正転(正方向駆動)させる場合と、アクチュエータを反転(逆方向駆動)させる場合で、各電圧パルス波形の位相関係が変更される。
【0003】
特許4406952号公報(特許文献1)には、振動アクチュエータが記載されている。この振動アクチュエータにおいては、振動子に2つの交流信号が入力され、これらの交流信号のうちの少なくとも一方の電圧を変え、又は位相を変えることにより、振動子の楕円運動の軌跡における軸の傾斜を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4406952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許4406952号公報に記載されている振動アクチュエータの駆動装置では、アクチュエータを効率良く駆動することが難しいという問題がある。また、この振動アクチュエータの駆動装置では、駆動速度に依存してハンチング等が発生しやすく、アクチュエータを円滑に制御することが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、圧電アクチュエータを効率良く駆動することができ、又は、圧電アクチュエータを円滑に駆動することができる圧電アクチュエータ駆動回路、及びそれを備えた圧電アクチュエータ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の分極部を備え、複数の分極部のうちの少なくとも1つに駆動電圧が印加される圧電アクチュエータを駆動する圧電アクチュエータ駆動回路であって、電圧源と、分極部と電圧源との間に接続され、制御信号により導通状態と非導通状態に切り換えられるハイ側スイッチング素子と、分極部とアース電位との間に接続され、制御信号により導通状態と非導通状態に切り換えられるロー側スイッチング素子と、これらのハイ側スイッチング素子及びロー側スイッチング素子を制御して、ハイ側スイッチング素子のみを導通状態として分極部に電圧源が接続される電圧印加期間、ハイ側スイッチング素子及びロー側スイッチング素子を何れも非導通状態として、分極部が電圧源及びアース電位から切り離されるフロート期間、及びロー側スイッチング素子のみを導通状態として分極部をアース電位に接続する接地期間を周期的に切り換えることにより、電圧パルスを分極部に印加し、圧電アクチュエータを駆動するスイッチング素子制御回路と、を有することを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明においては、電圧源がハイ側スイッチング素子を介して分極部に接続されている。一方、分極部はロー側スイッチング素子を介してアース電位に接続されている。スイッチング素子制御回路はハイ側スイッチング素子のみを導通状態として分極部に電圧源が接続される電圧印加期間、ハイ側スイッチング素子及びロー側スイッチング素子を何れも非導通状態として、分極部が電圧源及びアース電位から切り離されるフロート期間、及びロー側スイッチング素子のみを導通状態として分極部をアース電位に接続する接地期間を周期的に切り換えることにより、電圧パルスを分極部に印加する。
【0009】
このように構成された本発明によれば、電圧印加期間と接地期間の間にフロート期間が設けられているので、分極部に印加される電圧の変化が滑らかになり、圧電アクチュエータを効率良く、又は、円滑に駆動することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、圧電アクチュエータは複数の分極部に夫々電圧を印可するように構成され、スイッチング素子制御回路は、複数の分極部に、夫々位相の異なる電圧パルスを印加する。
【0011】
このように構成された本発明によれば、圧電アクチュエータの複数の分極部に夫々位相の異なる電圧パルスが印加されるので、単一の分極部のみに電圧パルスを印加する場合に比べ、圧電アクチュエータを効率良く、又は、円滑に駆動することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、スイッチング素子制御回路は、含まれるフロート期間の長さが異なる電圧パルスを各分極部に印加する。
このように構成された本発明によれば、含まれるフロート期間の長さが異なる電圧パルスを各分極部に印加するので、駆動対象の圧電アクチュエータに合わせて適切な駆動を行うことができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、スイッチング素子制御回路は、各分極部に対してフロート期間の長さが同一で、圧電アクチュエータの駆動中にフロート期間の長さが変化される電圧パルスを印加する。
このように構成された本発明によれば、圧電アクチュエータの駆動中にフロート期間の長さが変化される電圧パルスを各分極部に印加するので、駆動対象の圧電アクチュエータの状態に合わせて適切な駆動を行うことができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、スイッチング素子制御回路は、各分極部に印加する電圧パルスが同じ長さのフロート期間を含む第1制御モードと、各分極部に印加する電圧パルスが夫々異なる長さのフロート期間を含む第2制御モードと、各分極部に印加する電圧パルスが、圧電アクチュエータの駆動中に長さが変化されるフロート期間を含む第3制御モードのうちの少なくとも2つを切り換えて実行する。
【0015】
このように構成された本発明によれば、第1制御モードと第2制御モードが切り換えて実行されるので、第1制御モードが有利な駆動状況と、第2制御モードが有利な駆動状況に応じて制御を切り換えることにより、より効率良く、円滑に圧電アクチュエータを駆動することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、圧電アクチュエータは超音波モータであり、スイッチング素子制御回路は、超音波モータの起動時には第2制御モードを実行し、その後、超音波モータが所定の回転数に達すると第1制御モードに切り換える。
【0017】
このように構成された本発明によれば、起動性の良い第2制御モードにより超音波モータを起動した後、駆動効率の良い第1制御モードに切り換えることにより、起動性及び効率を向上させることができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、フロート期間は、印加する電圧パルス1周期のうちの5%以上を占めている。
このように構成された本発明によれば、フロート期間を十分に取ることができるので、十分に駆動効率を向上させることができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、さらに、分極部に高電圧を発生させるためのコイルを有し、ハイ側スイッチング素子及びロー側スイッチング素子は、コイルを介して分極部に接続されている。
このように構成された本発明によれば、コイルによる共振現象を利用して、電圧源の電圧よりも高い電圧を分極部に印可することができる。このため、バッテリー等により、圧電アクチュエータを駆動することが可能になる。
【0020】
また、本発明の圧電アクチュエータ装置は、ローターと、このローターを駆動する複数の分極部を備えたステーターと、複数の分極部のうちの少なくとも1つに駆動電圧を印可する本発明の圧電アクチュエータ駆動回路と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の圧電アクチュエータ駆動回路、及びそれを備えた圧電アクチュエータ装置によれば、圧電アクチュエータを効率良く駆動し、又は、圧電アクチュエータを円滑に駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態による圧電アクチュエータ装置全体を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態による圧電アクチュエータ駆動回路に内蔵されているA相電圧パルス生成回路の作用を説明する回路図及びタイミングチャートである。
【図3】圧電アクチュエータの正転、反転時における各電圧パルスを示す図である。
【図4】A相電圧パルス生成回路及びB相電圧パルス生成回路のフロート期間を同一にした場合の電圧パルス波形である。
【図5】B相電圧パルス生成回路のフロート期間を、A相電圧パルス生成回路のフロート期間よりも短くした場合の電圧パルス波形である。
【図6】比較例として示す、A相電圧パルス生成回路、B相電圧パルス生成回路ともフロート期間を設けていない場合の電圧パルス波形である。
【図7】本発明の実施形態による圧電アクチュエータ駆動回路により圧電アクチュエータのローターを回転させた場合における回転数と、圧電アクチュエータ駆動回路の消費電流の関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態による圧電アクチュエータ駆動回路により圧電アクチュエータのローターを回転させた場合における電圧パルス波形の周波数と回転数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
まず、図1乃至図3を参照して、本発明の実施形態による圧電アクチュエータ装置を説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態による圧電アクチュエータ装置全体を示すブロック図である。図2は、圧電アクチュエータ駆動回路に内蔵されているA相電圧パルス生成回路の作用を説明する回路図及びタイミングチャートである。図3は、圧電アクチュエータの正転、反転時における各電圧パルスを示す図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の圧電アクチュエータ装置1は、圧電アクチュエータ2と、この圧電アクチュエータ2を駆動する圧電アクチュエータ駆動回路3と、を有する。本実施形態の圧電アクチュエータ装置1は、圧電アクチュエータ2に備えられている複数の分極部を圧電アクチュエータ駆動回路3により駆動することにより、ローター6が正転、又は反転されるように構成されている。
【0026】
図1に示すように、圧電アクチュエータ2は、分極部4a、4bと、摩擦部材5と、ローター6と、を有する。また、圧電アクチュエータ駆動回路3は、A相電圧パルス生成回路8と、B相電圧パルス生成回路10と、マイクロコンピュータ32と、D/A変換器34と、電圧制御発振器36と、移相器38と、を有する。
【0027】
分極部4a、4bは単一の圧電特性部材内に形成されており、分極部4aは、A相電圧パルス生成回路8により電圧パルスを印可され、分極部4bは、B相電圧パルス生成回路10により電圧パルスを印可されるように構成されている。本実施形態においては、分極部4a、4bは、直方体状に形成された単一の圧電特性部材4cと、その一方の面に取り付けられた接地電極4dと、この接地電極4dの反対側に取り付けられた4つの電極4e、4f、4g、4hから構成されている。
【0028】
接地電極4dは、圧電特性部材4cの1つの面全体を覆うように圧電特性部材4cに取り付けられており、アース電位に接続されている。圧電特性部材4cの接地電極4dとは反対側の面には、4つの電極4e、4f、4g、4hが並べて取り付けられている。図1において左上に配置された電極4eと、右下に配置された電極4hは電気的に接続されており、また、右上に配置された電極4fと、左下に配置された電極4gは電気的に接続されている。これにより、電極4f、4gが配置された、図1における圧電特性部材4cの右上部分と左下部分は、分極部4aとして機能し、電極4e、4hが配置された左上部分と右下部分は、分極部4bとして機能する。なお、本明細書においては、本実施形態のように単一の圧電特性部材内に複数の分極部が形成された構成、及び複数の圧電特性部材に1つずつ分極部が形成された構成を「複数」の分極部と呼ぶことにする。
【0029】
図1に示すように、分極部4aはA相電圧パルス生成回路8から超音波帯域の交番電圧(電圧パルス)が印加されることにより変形され、超音波振動されるように構成されている。一方、分極部4bはB相電圧パルス生成回路10から超音波帯域の交番電圧(電圧パルス)が印加されることにより変形され、超音波振動されるように構成されている。なお、本実施形態においては、圧電アクチュエータ2は、分極部4a、4bのみを備えているが、本発明の圧電アクチュエータ駆動回路は、多数組の分極部を備えた圧電アクチュエータに適用することもできる。
【0030】
摩擦部材5はローター6に対して与圧された突起であり、圧電特性部材の振動と共に振動されるように構成されている。摩擦部材5が振動されると、これに押し付けられているローター6が所定の方向に回転するように構成されている。
【0031】
マイクロコンピュータ32は、A相電圧パルス生成回路8及びB相電圧パルス生成回路10から出力される電圧パルス波形の周波数を指示する周波数指示信号をD/A変換器34に出力するように構成されている。圧電アクチュエータ2のローター6の回転数は、この電圧パルス波形の周波数によって制御される。また、マイクロコンピュータ32は、ローター6の正転、反転を指示する正反転指示信号を移相器38に出力するように構成されている。この正反転指示信号により、移相器38から出力される2つの駆動信号の位相関係が変更され、ローター6の回転方向が切り換えられる。さらに、マイクロコンピュータ32は、A相電圧パルス生成回路8及びB相電圧パルス生成回路10から出力される電圧パルスに含まれるフロート期間の長さを指示するフロート期間指示信号を、A相電圧パルス生成回路8及びB相電圧パルス生成回路10に出力するように構成されている。電圧パルスのフロート期間については後述する。
【0032】
D/A変換器34は、マイクロコンピュータ32から入力されたデジタル信号を、アナログ信号に変換するように構成されている。上述したように、マイクロコンピュータ32から入力されるデジタル信号は電圧パルス波形の周波数を指示するための周波数指示信号であり、D/A変換器34は指示された周波数に対応したアナログ信号を出力するように構成されている。
【0033】
電圧制御発振器36は、発振周波数が印加電圧によって変化する発振器であり、D/A変換器34から入力された電圧信号に対応した周波数の矩形波(電圧パルス波形)を、移相器38に出力するように構成されている。
【0034】
移相器38は、電圧制御発振器36から入力された電圧パルス波形に対して90゜位相がずれた電圧パルス波形を生成するように構成されている。本実施形態においては、移相器38は、電圧制御発振器36から入力された電圧パルス波形を、そのまま駆動信号としてB相電圧パルス生成回路10に出力すると共に、この波形に対して90゜位相がずれた電圧パルス波形を駆動信号としてA相電圧パルス生成回路8に出力するように構成されている。また、本実施形態においては、移相器38は、マイクロコンピュータ32から入力された正反転指示信号により「正転」が指示された場合にはA相電圧パルス生成回路8に出力する電圧パルス波形の位相を90゜進ませ、「反転」が指示された場合には電圧パルス波形の位相を90゜遅らせるように構成されている。
なお、A相とB相の電圧パルスの位相差は、±90゜以外の位相差であっても良い。
【0035】
A相電圧パルス生成回路8は、スイッチング素子制御回路12と、電圧源である高圧電源14と、ハイ側スイッチング素子16と、ロー側スイッチング素子18と、コイル20と、を有する。
【0036】
スイッチング素子制御回路12は、超音波帯域の駆動信号と、フロート期間指示信号に基づいて、ハイ側スイッチング素子16、及びロー側スイッチング素子18を導通状態又は非導通状態に切り換えるように構成されている。具体的には、スイッチング素子制御回路12は、種々のロジックIC等により構成することができる。
【0037】
高圧電源14は、正の高電圧を発生する電圧源であり、ハイ側スイッチング素子16に接続されている。ハイ側スイッチング素子16が導通状態に切り換えられると、駆動素子には、コイル20を介して高電圧が印加されるように構成されている。
【0038】
ハイ側スイッチング素子16は、本実施形態においては、Nチャンネル型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)により構成されており、そのゲート端子がスイッチング素子制御回路12に接続され、ドレイン端子が高圧電源14に接続され、ソース端子がコイル20に接続されている。
【0039】
ロー側スイッチング素子18は、本実施形態においては、Nチャンネル型のMOSFETにより構成されており、そのゲート端子がスイッチング素子制御回路12に接続され、ドレイン端子がコイル20に接続され、ソース端子が接地されている。
【0040】
コイル20は、その第1の端子である駆動端子20aを介して分極部4aに接続され、第2の端子20bが、前述のように、ハイ側スイッチング素子16のソース端子、ロー側スイッチング素子18のドレイン端子に接続されている。ここで、コイル20と接続された分極部4aは、LC共振回路として作用し、圧電アクチュエータ2の共振周波数近傍において駆動端子20aに適切な高電圧が発生するように、コイル20のインダクタンス値は選択されている。
【0041】
B相電圧パルス生成回路10は、電圧源である高圧電源22と、ハイ側スイッチング素子24と、ロー側スイッチング素子26と、コイル28と、スイッチング素子制御回路30と、を有する。なお、B相電圧パルス生成回路10は、上述したA相電圧パルス生成回路8と同一であるため、説明を省略する。また、図1においては、高圧電源14と高圧電源22は別々に図示されているが、これらは、同一の高圧電源から構成することもできる。
【0042】
次に、図2を参照して、圧電アクチュエータ駆動回路3に内蔵されているA相電圧パルス生成回路8の作用を説明する。図2(a)はA相電圧パルス生成回路8を示し、(b)はA相電圧パルス生成回路8の作用を示すタイミングチャートである。図2(b)のタイミングチャートは、上段から順に、駆動信号、ハイ側スイッチング素子16の状態、ロー側スイッチング素子18の状態、コイル20の第2の端子20bの電圧を示している。
【0043】
まず、スイッチング素子制御回路12には、図2(b)上段に示す矩形波状の駆動信号が入力される。駆動信号は、圧電アクチュエータ2の共振周波数近傍の周波数になるよう選択されており、駆動端子20aに適切な高電圧が発生するようになっている。
図2(b)に示すように、スイッチング素子制御回路12は、駆動信号がLレベルにある場合には、ハイ側スイッチング素子16を非導通状態(オフ)、ロー側スイッチング素子18を導通状態(オン)にする。具体的には、スイッチング素子制御回路12は、ハイ側スイッチング素子16及びロー側スイッチング素子18の各ゲート端子に信号を送り、これらのFETのオン、オフを切り換える。ハイ側スイッチング素子16がオフ、ロー側スイッチング素子18がオンにされると、コイル20の第2の端子20bは、ロー側スイッチング素子18を介して接地されるので、0Vとなる。
【0044】
次に、駆動信号がLレベルからHレベルに立ち上がると、ロー側スイッチング素子18は直ちにオフに切り換えられ、ハイ側スイッチング素子16は、マイクロコンピュータ32からのフロート期間指示信号に対応したフロート期間T1が経過した後、オンに切り換えられる。ロー側スイッチング素子18がオフ、ハイ側スイッチング素子16がオンに切り換えられると、コイル20の第2の端子20bは、ハイ側スイッチング素子16を介して高圧電源14に接続され、第2の端子20bの端子電圧は、高圧電源14の電圧に立ち上がる。
【0045】
ここで、ロー側スイッチング素子18がオフにされた後、ハイ側スイッチング素子16がオンにされるまでのフロート期間T1の間は、ロー側スイッチング素子18、ハイ側スイッチング素子16共にオフであり、このフロート期間T1(図2(b)の斜線部分)の間は、コイル20の第2の端子20bは、電気的に高圧電源14及びアース電位から切り離され、フロートされた状態となり、第2の端子20bの電圧は、FETの寄生ダイオードの効果でアース電位から高圧電源の電圧の範囲内で、駆動端子20aの電位とコイル2の電流方向と電流値に依存した値となる。
【0046】
続いて、駆動信号がHレベルからLレベルに立ち下がると、ハイ側スイッチング素子16は直ちにオフに切り換えられ、ロー側スイッチング素子18は、所定のフロート期間T1が経過した後、オンに切り換えられる。ハイ側スイッチング素子16がオフ、ロー側スイッチング素子18がオンにされると、コイル20の第2の端子20bは、ロー側スイッチング素子18を介して接地されるので、再び0Vとなる。
【0047】
また、ハイ側スイッチング素子16がオフに切り換えられた後、ロー側スイッチング素子18がオンに切り換えられるまでのフロート期間T1も、コイル20の第2の端子20bが電気的に高圧電源14及びアース電位から切り離され、フロートされた状態となる。このフロート期間T1もフロート期間指示信号に応じた長さに設定される。
【0048】
以上の作用を繰り返すことにより、ハイ側スイッチング素子16のみを導通状態として第2の端子20bに電圧を印可する電圧印加期間、ハイ側スイッチング素子16及びロー側スイッチング素子18を何れも非導通状態として、第2の端子20bの電位をフロート電位にするフロート期間、及びロー側スイッチング素子18のみを導通状態として第2の端子20bをアース電位にする接地期間が周期的に切り換えられ、電圧パルスが分極部4aに印加される。即ち、電圧印加期間においては、分極部4aにはコイル20を介して高圧電源14が接続され、接地期間においては、分極部4aはコイル20を介してアース電位に接続され、フロート期間においては、分極部4aは高圧電源14及びアース電位から切り離され、フロート電位となる。電圧パルスがコイル20のインダクタンス及び分極部4aの容量成分と共振することにより、分極部4aにパルス状の高電圧が印加され、圧電特性部材4cが振動的に変形される。
【0049】
圧電アクチュエータ駆動回路3に内蔵されているB相電圧パルス生成回路10の構成及び作用は、A相電圧パルス生成回路8と同一であるので、説明を省略する。なお、本実施形態においては、B相電圧パルス生成回路10には、A相電圧パルス生成回路8の駆動信号とは90゜位相がずれた矩形波が、駆動信号として入力されるので、B相電圧パルス生成回路10が発生する電圧パルスは、A相電圧パルス生成回路8により発生される電圧パルスとは90゜位相がずれたものとなる。また、電圧パルス波形に含まれるフロート期間は、マイクロコンピュータ32から入力されるフロート期間指示信号によって、A相電圧パルス生成回路8及びB相電圧パルス生成回路10に対して独立して設定される。従って、2つの電圧パルス生成回路から夫々出力される電圧パルス波形に含まれるフロート期間は、夫々任意の長さに設定される。
【0050】
次に、図3を参照して、A相電圧パルス生成回路8及びB相電圧パルス生成回路10によって出力される電圧パルス波形の一例を説明する。図3(a)は圧電アクチュエータ2のローター6を正転させる場合の電圧パルス波形の一例であり、図3(b)はローター6を反転させる場合の電圧パルス波形の一例を示す。なお、A相電圧パルス生成回路8から出力される電圧パルス波形は、コイル20の第2の端子20bにおける電圧を示し、B相電圧パルス生成回路10から出力される電圧パルス波形は、コイル28の第2の端子28bにおける電圧を示している。
【0051】
図3(a)に示すように、本実施形態においては、ローター6を正転させる場合には、A相電圧パルス生成回路8から出力される電圧パルス波形が、B相電圧パルス生成回路10から出力される電圧パルス波形に対して、90゜位相が進んでいる。また、図3(a)に示す例では、A相のフロート期間が、B相のフロート期間よりも長く設定されている。
【0052】
一方、図3(b)に示すように、ローター6を反転させる場合には、A相電圧パルス生成回路8から出力される電圧パルス波形が、B相電圧パルス生成回路10から出力される電圧パルス波形に対して、90゜位相が遅れている。また、図3(b)に示す例では、図3(a)に示す正転の場合とは反対に、A相のフロート期間が、B相のフロート期間よりも短く設定されている。
【0053】
電圧パルス波形に含まれるフロート期間は、電圧パルスの立ち上がり時、立ち下がり時とも、電圧パルス波形の1周期の5〜25%、好ましくは10〜20%に設定する。或いは、電圧パルス波形に含まれるフロート期間は、電圧パルスの立ち上がり時、立ち下がり時とも、0.7〜4μsec、好ましくは、1.5〜3μsecに設定する。
【0054】
次に、図4乃至図8を参照して、本発明の実施形態による圧電アクチュエータ装置1の作用を説明する。
図4は、A相電圧パルス生成回路8及びB相電圧パルス生成回路10のフロート期間を同一にした場合の電圧パルス波形であり、上段から順に、コイル20の第2の端子20bにおける電圧、駆動端子20aにおける電圧、コイル28の第2の端子28bにおける電圧、駆動端子28aにおける電圧を示している。本明細書においては、このような電圧パルス波形を対称フロート期間波形と呼ぶ。
【0055】
図5は、B相電圧パルス生成回路10のフロート期間を、A相電圧パルス生成回路8のフロート期間よりも短くした場合の電圧パルス波形であり、図4と同様に、上段から端子20b、20a、28b、28aにおける電圧を示している。本明細書においては、このような電圧パルス波形を非対称フロート期間波形と呼ぶ。
【0056】
図6は、比較例として、A相電圧パルス生成回路8、B相電圧パルス生成回路10ともフロート期間を設けていない場合の電圧パルス波形であり、図4と同様に、上段から端子20b、20a、28b、28aにおける電圧を示している。本明細書においては、このような電圧パルス波形を従来の電圧パルス波形と呼ぶ。
【0057】
なお、一般に、電圧源とアース電位の間に2つのスイッチング素子を直列に接続し、これらのスイッチング素子を切り換えて電圧パルス波形を生成する回路においては、デットタイムが設けられている。このデットタイムは、電圧源とアース電位の間に接続された各スイッチング素子が同時にオンになり、電圧源とアース電位が短絡するのを防止するために、2つのスイッチング素子が同時にオフになる期間を設けるものである。即ち、ハイ側のスイッチング素子のみがオンの状態から、ロー側のスイッチング素子のみがオンの状態に切り換える場合には、先にハイ側のスイッチング素子をオフにして、両方のスイッチング素子がオフにされた後、ロー側のスイッチング素子をオンに切り換える。このような、両方のスイッチング素子がオフになるデットタイムは、回路を正常に動作させるために止むを得ず設けられるものであり、正確な電圧パルス波形を出力するためには0であることが理想とされている。このため、実用化されている回路では、デットタイムは必要最小限の長さに設定されており、通常、300nsec程度のきわめて短い期間に設定されている。
【0058】
図6に示す例においても、デットタイムは約300nsecに設定されている。一方、本発明の実施形態におけるフロート期間は、ハイ側スイッチング素子及びロー側スイッチング素子が同時にオフにされるという点でデットタイムと同様である。しかしながら、フロート期間は、圧電アクチュエータ2の制御特性を改善するために積極的に設けられたものであると共に、その期間も、通常のデットタイムの数倍以上に設定されるものであるため、本明細書においては、これをフロート期間と呼んで区別している。
【0059】
まず、図4に示すように、コイル20の第2の端子20bにおける電圧パルス波形は、ロー側スイッチング素子18のみがオンにされている接地期間T3aにおいてはアース電位にされ、一方、ハイ側スイッチング素子16のみがオンにされている電圧印加期間T2aにおいては、高圧電源14の電圧と等しくなっている。これに対して、接地期間T3aと電圧印加期間T2aの間に位置するフロート期間T1aにおいては第2の端子20bがフロートされた状態にあるため、第2の端子20bは、FETの寄生ダイオードの効果でアース電位から高圧電源の電圧の範囲内で、コイル20の駆動端子20aの電位と、コイル20の電流方向と、電流値に依存した電位をとり、振動的に変化している。
【0060】
一方、コイル20の駆動端子20aの電圧波形は、概ね、電圧印加期間T2aの間においては電圧が高く、接地期間T3aにおいては電圧が低い傾向を持った波形となるが、コイル20及び分極部4aの共振等により、複雑な波形になっている。これは、第2の端子28bの電位がFETの寄生ダイオードの効果でアース電位から高圧電源の電圧の範囲内で、コイル28の駆動端子28aの電位と、コイル28の電流方向と、電流値に依存した電位をとるためである。
【0061】
さらに、コイル28の第2の端子28bにおける電圧パルス波形も、第2の端子20bの電圧波形と同一の傾向を持つが、設定されているフロート期間T1bの長さがフロート期間T1aと同一であるにも関わらず、フロート期間T1b中における波形が第2の端子20bとは異なっている。これは、第2の端子28bの電位が、コイル28の駆動端子28aの電位に依存した電位をとるためである。また、コイル28の駆動端子28aの電圧波形も駆動端子20aの電圧波形と同様の傾向を持つが、駆動端子20aの電圧波形とは異なっている。
【0062】
なお、図4に示す対称フロート期間波形において、フロート期間T1a、T1bは、1.52μsec、電圧印加期間T2a、T2b及び接地期間T3a、T3bは、5.76μsecである。
【0063】
次に、図5に示す電圧パルス波形では、B相電圧パルス生成回路10によるフロート期間T1bが、A相電圧パルス生成回路8によるフロート期間T1aよりも短くされている。また、駆動端子20aの波形及び駆動端子28aの波形は、より滑らかになり、正弦波に近づいている。
なお、図5に示す非対称フロート期間波形において、フロート期間T1aは、2.92μsec、電圧印加期間T2aは、及び接地期間T3aは、4.36μsecであり、フロート期間T1bは、1.24μsec、電圧印加期間T2b及び接地期間3bは、6.04μsecである。
【0064】
次に、比較例として図6に示す従来の電圧パルス波形では、第2の端子20b、28bの電圧パルス波形は、電圧印加期間T2と接地期間T3が交互に現れる正確な矩形波になっている。なお、図6に示す電圧パルス波形においても、ハイ側及びロー側のスイッチング素子が同時にオフにされるデットタイムが設けられているが、フロート期間に比べてきわめて短いため、その影響が電圧パルス波形には表れていない。
【0065】
一方、図6において、駆動端子20aの波形及び駆動端子28aの波形は、図4、図5に示した電圧波形に比べ、乱れの大きいものとなっている。特に、第2の端子20b、28bの電位がアース電位から高電圧源の電位に立ち上がる瞬間には、単調増加していた駆動端子の電位が一旦減少した後、再び増加している。これは、フロート期間を設けていない比較例においては、第2の端子20b、28bの電位が、常にアース電位又は高電圧源の電位に拘束されているため、駆動端子20a、28aの電位がその影響を受けて乱れているものと考えられる。
【0066】
これに対して、図4及び図5に示す例では、アース電位と高電圧源の電位の切り換えの間には、所定の長さを持ったフロート期間が設けられているため、第2の端子20b、28bは、アース電位から高圧電源の電圧の範囲内で自由な電位をとることができる。このため、各コイルの駆動端子の電位が、第2の端子の電位の影響を受けて乱されることにより複雑な波形になることがないと考えられる。
【0067】
次に、図7及び図8を参照して、本発明の実施形態の圧電アクチュエータ駆動回路3による圧電アクチュエータ2の制御結果を説明する。
図7は、本実施形態の圧電アクチュエータ駆動回路3により超音波モータである圧電アクチュエータ2のローター6を回転させた場合における回転数と、圧電アクチュエータ駆動回路3の消費電流の関係を示すグラフである。図7のグラフにおいて、図4に示した対称フロート期間波形により圧電アクチュエータ2を駆動した結果を太い実線で示し、図5に示した非対称フロート期間波形による結果を破線で示し、比較例として、図6に示した従来の電圧パルス波形による結果を細い実線で示す。
【0068】
図7から明らかなように、本実施形態の圧電アクチュエータ駆動回路3において、対称フロート期間波形及び非対称フロート期間波形により圧電アクチュエータ2を駆動した場合には、回転数が増加するに従ってほぼ単調に消費電流も増加していることがわかる。これに対して、図6に示す従来の電圧パルス波形による駆動では、全般的に、本実施形態の圧電アクチュエータ駆動回路3よりも消費電流が多く、圧電アクチュエータ2の駆動効率が悪いことがわかる。また、従来の電圧パルス波形による駆動では、低回転数において、駆動電流が非常に大きくなる領域があることがわかる。これは、図6に示したように、従来の電圧パルス波形においては、駆動端子に表れる電圧波形のあばれが大きく、特定の周波数帯域において、著しく効率を低下させているものと考えられる。
【0069】
さらに、太い実線で示す対称フロート期間波形と、破線で示す非対称フロート期間波形による消費電流を比較すると、両者の消費電流は同程度であるが、高回転数領域において、破線で示す非対称フロート期間波形の方が僅かに消費電流が多くなっている。即ち、所定の高回転数領域においては、A相の電圧パルス波形と、B相の電圧パルス波形に含まれるフロート期間が同一である対称フロート期間波形の方が、駆動効率が良いことがわかる。
【0070】
図8は、本実施形態の圧電アクチュエータ駆動回路3により圧電アクチュエータ2のローター6を回転させた場合における電圧パルス波形の周波数と回転数の関係を示すグラフである。図8のグラフにおいて、図4に示した対称フロート期間波形により圧電アクチュエータ2を駆動した結果を太い実線で示し、図5に示した非対称フロート期間波形による結果を破線で示し、比較例として、図6に示した従来の電圧パルス波形による結果を細い実線で示す。
【0071】
図8に示すように、圧電アクチュエータ2は、電圧パルス波形の周波数が低下するほど回転数が高くなる傾向をもつ。従って、圧電アクチュエータ2が停止した状態から起動する場合には、電圧パルス波形の周波数を高周波から次第に低下させていく。図8から明らかなように、電圧パルス波形の周波数が最も高い値からローター6が回転し始めるのは、破線で示した、A相の電圧パルス波形と、B相の電圧パルス波形に含まれるフロート期間が異なる非対称フロート期間波形である。破線のグラフは、ローター6が回転し始めた後、低速域での電圧パルス波形の周波数の低下と共にほぼ単調に回転数が上昇しているので、ローター6の回転数の制御も容易に実行することができ、特に停止位置制御を行う際に有利である。
【0072】
次に高い周波数からローター6が回転し始めるのは、細い実線で示した従来の電圧パルス波形である。しかしながら、細い実線のグラフは、周波数が低下する途中で回転数がほぼ0まで低下する領域がある。即ち、従来の電圧パルス波形では、或る周波数で圧電アクチュエータ2を駆動しようとするとローター6が停止してしまう場合があり、ローター6の回転数を自由に制御することは困難である。
【0073】
また、図8に太い実線で示した対称フロート期間波形は、最も低い周波数までローター6が回転し始めず、また回転し始めた時の回転数が他の波形に比べて高いため、低速域での制御性は非対称フロート期間波形よりも劣るが、回転し始めた後は周波数の低下と共に単調に回転数が増加し、良好な制御性を示している。
【0074】
図7に示したように、圧電アクチュエータ2の駆動効率については図4に示した対称フロート期間波形を使用した制御が最も優れている。また、図8に示したように、圧電アクチュエータ2の起動性については図5に示した非対称フロート期間波形を使用した制御が最も優れている。従って、対称フロート期間波形を使用した第1制御モードと、非対称フロート期間波形を使用した第2制御モードを切り換えて実行することにより、さらに優れた圧電アクチュエータ駆動回路3を構成することができる。
【0075】
特に、図5に示した非対称フロート期間波形を使用した第2制御モードにより圧電アクチュエータ2を起動し、電圧パルス波形を所定の周波数まで低下させて回転数を上昇させた後、図4に示した対称フロート期間波形を使用した第1制御モードに切り換えて制御することにより、良好な制御性と、高い駆動効率を実現することができる。
【0076】
本発明の実施形態の圧電アクチュエータ装置1によれば、電圧印加期間T2と接地期間T3の間にフロート期間T1が設けられている(図4、図5)ので、分極部4a、4bに印加される電圧の変化が滑らかになり、圧電アクチュエータ2を効率良く、又は、円滑に駆動することができる。
【0077】
本発明の実施形態の圧電アクチュエータ装置1によれば、圧電アクチュエータ2の分極部4a、分極部4bに夫々位相が異なる電圧パルスが印加されるので、単一の分極部のみに電圧パルスを印加する場合に比べ、圧電アクチュエータ2を効率良く、又は、円滑に駆動することができる。
【0078】
本発明の実施形態の圧電アクチュエータ装置1によれば、分極部4a、分極部4bに、フロート期間の長さが互いに異なる電圧パルスを印加することができるので、駆動対象の圧電アクチュエータ2に合わせて適切な駆動を行うことができる。
【0079】
本発明の実施形態の圧電アクチュエータ装置1によれば、対称フロート期間波形を使用した第1制御モードと、非対称フロート期間波形を使用した第2制御モードを切り換えて実行することができるので、第1制御モードが有利な駆動状況と、第2制御モードが有利な駆動状況に応じて制御を切り換えることにより、より効率良く、円滑に圧電アクチュエータを駆動することができる。
【0080】
本発明の実施形態の圧電アクチュエータ装置1によれば、起動性の良い第2制御モードにより超音波モータを起動した後、駆動効率の良い第1制御モードに切り換えることにより、起動性及び効率を向上させることができる。
【0081】
本発明の実施形態の圧電アクチュエータ装置1によれば、通常の駆動回路による電圧パルスに含まれているデットタイムよりも非常に長い、電圧パルス1周期のうちの約10%を占めるフロート期間を設けることにより圧電アクチュエータ駆動回路の駆動効率を十分に向上させることができる。
【0082】
本発明の実施形態の圧電アクチュエータ装置1によれば、ハイ側スイッチング素子16、24及びロー側スイッチング素子18、26は、コイル20、28を介して分極部4a、4bに接続されているので、コイル20、28による共振現象を利用して、電圧源14、22の電圧よりも高い電圧を分極部4a、4bに印可することができる。このように、スイッチング素子と分極部の間にコイルが接続されている形式の圧電アクチュエータ駆動回路においては、コイルの介在により駆動回路の出力インピーダンスが高くなる傾向があるが、本実施形態の圧電アクチュエータ駆動回路によれば、電圧パルス波形にフロート期間を設けることにより、コイルによる起電力等の悪影響を抑制して、或いはコイルによる起電力を利用して、効率良く圧電アクチュエータを駆動することができる。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、圧電アクチュエータ駆動回路は、ローターを駆動する圧電アクチュエータの駆動に使用されていたが、本発明の圧電アクチュエータ駆動回路は、リニア型のアクチュエータ等、任意の圧電アクチュエータの駆動に適用することができる。
【0084】
また、上述した実施形態においては、圧電アクチュエータ駆動回路は、正転及び反転駆動が可能に構成されていたが、本発明を、一方向の駆動のみ可能な圧電アクチュエータ駆動回路に適用することもできる。
【0085】
さらに、上述した実施形態においては、圧電アクチュエータ駆動回路は、2つの分極部に位相の異なる電圧パルス波形を印加していたが、本発明を、単一の分極部のみに電圧パルス波形を印加する圧電アクチュエータ駆動回路に適用しても良い。
【0086】
また、上述した実施形態においては、スイッチング素子と分極部の間にコイルが接続されていたが、本発明を、コイルを設けない形式の圧電アクチュエータ駆動回路に適用することもできる。
【0087】
さらに、上述した実施形態においては、正の高圧電源を使用して駆動素子を駆動していたが、高圧電源として、負の高圧電源を使用することもできる。また、上述した実施形態においては、Nチャンネル型のMOSFETをスイッチング素子として使用していたが、高圧電源の極性等を考慮して、Pチャンネル型のMOSFETをスイッチング素子として使用することもできる。
【0088】
また、上述した実施形態においては、単一の圧電特性部材内に複数の分極部を形成した圧電アクチュエータを制御しているが、分極部を多層に分割し、接地電極、駆動電極を交互に積層したタイプの圧電アクチュエータ等、種々のアクチュエータに本発明を適用することができる。
【0089】
さらに、上述した実施形態においては、対称フロート期間波形、及び非対称フロート期間波形は、常に一定のフロート期間を有していたが、変形例として、圧電アクチュエータの駆動中にフロート期間を変化させることもできる。例えば、対称フロート期間波形において、A相及びB相のフロート期間を同一に維持しながら、駆動中にフロート期間を延長、又は短縮するように制御することもできる。
また、駆動中にフロート期間を変化させる第3制御モードと、上述した、対称フロート期間波形を使用した第1制御モード、及び非対称フロート期間波形を使用した第2制御モードを、適宜切り換えて実行することもできる。
【符号の説明】
【0090】
1 圧電アクチュエータ装置
2 圧電アクチュエータ
3 圧電アクチュエータ駆動回路
4a、4b 分極部
5 摩擦部材
6 ローター
8 A相電圧パルス生成回路8
10 B相電圧パルス生成回路10
12 スイッチング素子制御回路
14 高圧電源(電圧源)
16 ハイ側スイッチング素子
18 ロー側スイッチング素子
20 コイル
20a 駆動端子
20b 第2の端子(第1の端子)
22 高圧電源(電圧源)
24 ハイ側スイッチング素子
26 ロー側スイッチング素子
28 コイル
28a 駆動端子(第1の端子)
28b 第2の端子
30 スイッチング素子制御回路
32 マイクロコンピュータ
34 D/A変換器
36 電圧制御発振器
38 移相器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分極部を備え、上記複数の分極部のうちの少なくとも1つに駆動電圧が印加される圧電アクチュエータを駆動する圧電アクチュエータ駆動回路であって、
電圧源と、
上記分極部と上記電圧源との間に接続され、制御信号により導通状態と非導通状態に切り換えられるハイ側スイッチング素子と、
上記分極部とアース電位との間に接続され、制御信号により導通状態と非導通状態に切り換えられるロー側スイッチング素子と、
これらのハイ側スイッチング素子及びロー側スイッチング素子を制御して、上記ハイ側スイッチング素子のみを導通状態として上記分極部に上記電圧源が接続される電圧印加期間、上記ハイ側スイッチング素子及び上記ロー側スイッチング素子を何れも非導通状態として、上記分極部が上記電圧源及び上記アース電位から切り離されるフロート期間、及び上記ロー側スイッチング素子のみを導通状態として上記分極部をアース電位に接続する接地期間を周期的に切り換えることにより、電圧パルスを上記分極部に印加し、上記圧電アクチュエータを駆動するスイッチング素子制御回路と、
を有することを特徴とする圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項2】
上記圧電アクチュエータは複数の分極部に夫々電圧を印可するように構成され、上記スイッチング素子制御回路は、上記複数の分極部に、夫々位相の異なる電圧パルスを印加する請求項1記載の圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項3】
上記スイッチング素子制御回路は、含まれるフロート期間の長さが異なる電圧パルスを上記各分極部に印加する請求項2記載の圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項4】
上記スイッチング素子制御回路は、上記各分極部に対してフロート期間の長さが同一で、圧電アクチュエータの駆動中にフロート期間の長さが変化される電圧パルスを印加する請求項2記載の圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項5】
上記スイッチング素子制御回路は、上記各分極部に印加する電圧パルスが同じ長さのフロート期間を含む第1制御モードと、上記各分極部に印加する電圧パルスが夫々異なる長さのフロート期間を含む第2制御モードと、上記各分極部に印加する電圧パルスが、圧電アクチュエータの駆動中に長さが変化されるフロート期間を含む第3制御モードのうちの少なくとも2つを切り換えて実行する請求項2記載の圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項6】
上記圧電アクチュエータは超音波モータであり、上記スイッチング素子制御回路は、上記超音波モータの起動時には上記第2制御モードを実行し、その後、上記超音波モータが所定の回転数に達すると上記第1制御モードに切り換える請求項5記載の圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項7】
上記フロート期間は、印加する電圧パルス1周期のうちの5%以上を占めている請求項1乃至6の何れか1項に記載の圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項8】
さらに、上記分極部に高電圧を発生させるためのコイルを有し、上記ハイ側スイッチング素子及び上記ロー側スイッチング素子は、上記コイルを介して上記分極部に接続されている請求項1乃至7の何れか1項に記載の圧電アクチュエータ駆動回路。
【請求項9】
ローターと、
このローターを駆動する複数の分極部を備えたステーターと、
上記複数の分極部のうちの少なくとも1つに駆動電圧を印可する請求項1乃至8の何れか1項に記載の圧電アクチュエータ駆動回路と、
を有することを特徴とする圧電アクチュエータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−55102(P2012−55102A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196434(P2010−196434)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】