説明

圧電インピーダンス測定法を用いた構造物健全度評価システムおよび構造物健全度評価方法

【課題】 周波数に関わりなく比較的精度のよい評価指数を追加して構造物の健全度または損傷度の評価を行うシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】構造物の各要部に圧電素子を貼り付け、各圧電素子に電圧を印加することによって構造物に高周波弾性波を発生させながら、各圧電素子に発生する圧電インピーダンスの変化を連続的に観察することで、構造物の健全度または損傷度の評価を行う構造物の健全度評価方法であって、各圧電素子に対し周波数対インピーダンス波形を生成するステップと、前記周波数対インピーダンス波形から得られる波形シフト量ΔS、波形振幅変化量ε、波形重心変化量ΔHおよび周波数重心変化量ΔGの各評価指数から求めた前記健全度または損傷度の何れか1つ又は任意の組み合わせを用いるステップとを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して橋、高架橋、送電線鉄塔などの構造物の損傷の早期検知や健全性評価を圧電インピーダンス測定法により定量的に行う構造物健全度評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
我々は既に、圧電インピーダンス測定法を用いた「構造物健全度評価装置およびその装置を用いた構造物の健全度評価方法」を提案した(特許文献1、段落0027、図2参照)。同文献をここに引用することにより、同文献の記載内容は総て本明細書に包含されることとする。この装置および方法においては、評価指数として、観測された周波数対インピーダンス波形のビーク点から算出されるピーク周波数シフト量ΔFおよびピーク振幅比変化率δ、ならびに周波数対インピーダンス波形のピーク周辺から算出されるQ値比変化率γを用いて健全度の評価を行った。
しかし、上述の評価指数ΔF、δおよびγは、周波数対インピーダンス波形に現れるピークA−Dを中心とする各周波数領域(これらもA−D)の総てにおいて十分に満足または信頼できる値が得られるとは言えなかった。即ち、評価指数ごとに、周波数領域によって誤差が大きさにばらつきがあるため、これらの評価指数を用いて表される損傷の推定値も十分に満足できるものとは言えなかった。
【特許文献1】特開2004−28907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、周波数依存度が低く信頼性の高い値が得られる評価指数を用いて評価できれば好都合である。
本発明は、周波数に関わりなく比較的精度のよい評価指数を追加して構造物の健全度評価を行うシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一面において、構造物の各要部に圧電素子を貼り付け、各圧電素子に電圧を印加することによって構造物に高周波弾性波を発生させながら、各圧電素子に発生する圧電インピーダンスの変化を連続的に観察することで、構造物の健全度または損傷度の評価を行う構造物の健全度評価方法を与える。本発明の構造物健全度評価方法は、
各圧電素子に対し周波数対インピーダンス波形を生成するステップと、前記周波数対インピーダンス波形から得られる波形シフト量ΔS、波形振幅変化量ε、波形重心変化量ΔHおよび周波数重心変化量ΔGの各評価指数から求めた前記健全度または損傷度の何れか1つ又は任意の組み合わせを用いるステップとを含むことを特徴とする。これにより、周波数に関わりなく比較的精度のよい評価が可能となる。
前記圧電素子は、構造物を構成する梁の片面又は両面に貼り付けてもよい。
好ましい実施形態においては、前記組み合わせは、各評価指数に対応する前記健全度または損傷度の加重平均である。
本発明は、別の面において、構造物健全度評価システムを与える。本発明の構造物健全度評価システムは、構造物の要所に貼り付けられた少なくとも1つの圧電素子と、前記構造物に各圧電素子の近傍に取り付け、当該圧電素子に掃引周波数電圧を印加するとともに、当該圧電素子から得た電流を電圧に変換して出力する圧電インピーダンスデータ収集ユニットと、圧電インピーダンスデータ収集ユニットからの電圧から周波数対インピーダンス波形を生成する周波数対インピーダンス波形生成手段と、前記周波数対インピーダンス波形から得られる波形シフト量ΔS、波形振幅変化量ε、波形重心変化量ΔHおよび周波数重心変化量ΔGの各評価指数から求めた前記健全度または損傷度の何れか1つ又は任意の組み合わせを用いて前記構造物の健全度または損傷度を評価するコンピュータとを具備してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、従来の評価指数ΔF、δおよびγのみならず、周波数対圧電インピーダンス波形において評価対象となる各ピークの周辺領域に関する評価指標(例えば、波形シフト量ΔSおよび波形重心変化量ΔH)および各ピークのピーク波形全体に関する評価指標(例えば、波形振幅変化量εおよび周波数重心変化量ΔG)も用いて健全度または損傷度を評価するので、周波数に関わりなく比較的精度のよい評価が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態例と添付図面により本発明を詳細に説明する。
なお、複数の図面に同じ要素を示す場合には同一の参照符号を付ける。
図1は、評価対象となる構造物の一例を示す部分斜視図であり、図2は、本実施の一実施形態による構造物健全度評価システムの主要部を示す図である。図1および2において、本発明の構造物健全度評価システムは、構造物の要部10に取り付けた少なくとも1つの圧電素子(PZT)20と、圧電素子に掃引周波数電圧を印可するとともに、圧電素子に流れる電流を電圧に変換する圧電インピーダンスデータ収集ユニット22と、圧電インピーダンスデータ収集ユニット22からのインピーダンス応答を解析するインピーダンスアナライザー12と、インピーダンスアナライザー12に計測周波数範囲と掃引周波数ステップを入力するコンピュータ13とを有する。圧電素子20に交流電圧をかけると、構造物10中に縦弾性波が発生するので、この縦弾性波を圧電素子20の電気的インピーダンス応答としてインピーダンスアナライザー12で計測し、コンピュータ13に送信する。
【0007】
図3は、図1の圧電インピーダンスデータ収集ユニット22の構成例を示す略ブロック図である。圧電インピーダンスデータ収集ユニット22は、外部からの制御信号に応じた正弦波を圧電素子20に供給するシンセサイザ24、圧電素子20に流れる電流から電圧を取り出す抵抗Z、シンセサイザ24の出力電圧と抵抗Zで取り出した電圧をデジタルデータに変換するアナログ/デジタル変換器(ADC)26およびシンセサイザ24とADC26を制御する制御部28からなる。圧電インピーダンスデータ収集ユニット22で収集したデータは、図示しないシリアルインターフェースを介してインピーダンスアナライザ12に送信される。
【0008】
本発明の構造物健全度評価システムが、上述の特開2004−28907号公報と異なるのは、周波数対圧電インピーダンス波形から求める評価指数としてピーク周波数シフト量ΔF、ピーク振幅比変化率δおよびQ値比変化率γを用いるだけでなく、周波数対インピーダンス波形から新たな評価指数も求めて、これらを用いて健全度や損傷度を評価することである。
【0009】
次に、新たな評価指数として、波形シフト量ΔS、波形振幅変化量ε、波形重心変化量ΔHおよび周波数重心変化量ΔGを導入する。このうち、波形シフト量ΔSおよび波形重心変化量ΔHは、Q値比変化率γと同様にピーク周辺領域に関する指標であり、波形振幅変化量εおよび周波数重心変化量ΔGは、ピーク波形全体に関する評価指標である。経験上、ピーク波形全体に関する評価指標は、これを用いて求めた健全度および損傷度の誤差は周波数依存性が少なく比較的小さいことが分かっている。
【0010】
<波形シフト量ΔS>
波形シフト量ΔSは健全状態のインピーダンスピーク周辺波形をテンプレートとして損傷状態の波形とパターンマッチングを行い、最もマッチングした周波数とテンプレート周波数との差をパラメータとする評価方法である。図4は、健全な状態で得られる基準波形と実測された(損傷状態で得られた)波形から波形シフト量ΔSを算出する方法を説明する図である。図4(a)のように、ApHの2-1/2の高さに対応する周波数fsL,feLを求め、ΔSの算出ではこの周波数域[fsL,feL]のインピーダンス波形L(i)(i=1,2,...,M)をテンプレート波形と定義する。このピークの最大振幅の2-1/2の値は本来、最大振幅が3dB低下したところの振幅であり、この値は共振の鋭さの算出によく用いられるものである.ここでは半幅値を指す周波数fsL,feLの範囲をインピーダンス形状を代表しているものと捉えテンプレートとしている。このテンプレートとマッチング対象波形となる損傷状態の波形D(j)(j=1,2,...,N)の間で図4(b)のように差分パターンマッチングを行う。パターンの差分は次式で与えられる。
【0011】
【数1】

ここで、P(k)はテンプレートとのずれの大きさを表すパラメータであり、次式のように集合{P(k)}で最小値をとるときのkをkfitとする。
P(kfit)=min{P(k)}
fitに対応する周波数ffitは測定時の周波数分解能fTと開始周波数fsから
fit=fs+fT・kfit
と算出できる。これとテンプレート波形L(i)の開始周波数fsLを用いて、波形シフト量DSを次式のように定義する。
ΔS=|fsL−ffit| ・・・・・・(1)
この評価指数の特徴はインピーダンスピーク周辺の全体的な周波数変化をみたものであり、ピーク周辺複数のインピーダンスピークが重なり合った場合でも、その重なり合った波形をテンプレートとできるため、ΔFのときに問題とるような周波数領域でも波形の変化を評価することが可能となる。
【0012】
<波形振幅変化量ε>
波形振幅変化量εは健全状態の波形をテンプレートとし、損傷状態の波形と差分パターンマッチングを行うという点では波形シフト量ΔSと同じである。ただ、ΔSは周波数シフト量を推定パラメータとしたのに対し、εはマッチング度を推定パラメータに用いる点で異なる。
【0013】
図5は、健全状態と損傷状態のインピーダンス波形をH(i),D(i)(i= 1,2,...,N)としたときの波形振幅変化量εを算出する様子を示す図である。波形振幅変化量εは、次のように定義する。
【数2】

このεは、評価対象であるピークのピーク波形全体にわたって変化量を数値化したものであり、波形の周波数、振幅の両方に変化が起こっている場合は勿論のこと、そのいずれか一方のみが変化している場合でも評価が可能となる。
【0014】
<波形重心変化量ΔH>
波形重心変化量ΔHは、波形の重心変化に着目したものである。また、ピーク周辺を参照するという点を踏まえ、重心変化を計算する対象周波数域をピーク振幅の半幅値をとる間に限定する。図6は、健全時のインピーダンス波形と損傷時のインピーダンス波形から波形重心変化量ΔHを算出する方法を説明する図である。図6において、ピーク振幅の2-1/2倍の振幅(半幅値)となる周波数域でのインピーダンス測定結果をL(i)(i=1,2,...,M),L(j)(j=1,2,...,M)とする。これから、それぞれの波形の周波数重心fhH,fhDは、次式で与えられる。
【数3】

【数4】

これの周波数変化によって損傷量を評価することを考え、ΔHを次のように定義する。
【数5】

【0015】
<周波数重心変化量ΔG>
周波数重心変化量ΔGは、図5の波形振幅変化量εの場合と同様にピーク波形全体を参照して得る評価指数であり、波形の重心変化に着目したものである。健全時と損傷発生後のインピーダンス波形をH(i)およびD(i)(i=1,2,...,N),測定時の周波数分解能をfTとしたとき、健全時と損傷発生後の周波数重心fgH,fgDは、それぞれ次式で与えられる。
【数6】

【数7】

これにより、周波数重心変化量ΔGは、次式で与えられる。
ΔG=|fgH−fgD| ・・・・・(4)
なお、以上の説明において、「ピーク波形全体」
とは、図5に示すように、ピークを形成する山形の波形の両裾のレベルが変動しなくなりほぼ一定となる周波数で挟まれた範囲を指すものとする。
【0016】
以上述べた評価指数、即ちピーク周波数シフト量ΔF、ピーク振幅比変化率δ、Q値比変化率γ、波形シフト量ΔS、波形重心変化量ΔH、波形振幅変化量εおよび周波数重心変化量ΔGを周波数対インピーダンス波形に現れるピーク領域ごとに算出する。
次に、このようにして求めた複数の評価指数を個別に用いて評価(健全度または損傷度の推定)する方法を先ず説明し、続いて、複数の評価指数による評価方法を説明する。
なお、以下の説明において、上述の6種類の評価指数ΔF、δ、γ、ΔS、ΔHおよびεは、評価の過程では区別なく全く同様に扱われるので、評価対象となるピーク波形(仮に、5つのピーク波形を評価するものとして、ピークA〜Eとする)の各々に関するこれらの評価指数の値を、ここではPid,Rと表記することにする。添え字idは評価指数ΔF、δ、γ、ΔS、ΔHおよびεの何れかを表し、添え字Rは、ピークA〜Eの何れかを表す。例えば、Pδ、Cは、ピーク領域Cにおけるピーク振幅比変化率δの値である。
また、本明細書においては、微小な損傷の変化の一例として、仮に構造物を固定している一点のボルトの締めつけトルクが緩んだ場合を損傷として考え、締め付けトルクの損傷度を評価することにする。この場合、ボルトの締付トルクが所定の値(Tthとする)以下になったときを異常状態と判定する。異常状態と判定する締め付けトルク閾値Tthは、実験または理論上の計算から決定する。
【0017】
<単一の評価指数による評価>
*健全度による評価
先ず、損傷と判断される締め付けトルク閾値Tthと、全く健全であると判断される締め付けトルク値(即ち、データを採取した最大の締め付けトルクTmax)と、Tth〜Tmax間の所定のステップ間隔の締め付けトルク値とに対して、周波数対インピーダンス波形データをトレーニングデータとして、実験により複数求める。各ピーク波形ごとに、求めた複数のトレーニングデータに対して各評価値Pid,Rを求める。そして、締め付けトルク値Tに対する評価値Pid,Rの関係をプロットする。プロットした点から、次式に最小二乗法により直線近似を行って、係数aid,Rおよびbid,Rを求める。
id,R=aid,R・T+bid,R ・・・・・・(5)
この場合、全く健全であると判断される締め付けトルク(即ち、データを採取した最大の締め付けトルクTmax)に対するインピーダンス波形の平均波形を健全状態波形として各種評価指数Pid,Rの算出を行う。
実際の評価に使用するために、各ピークに対する健全状態波形と、締め付けトルク閾値Tthと、以上のように求めた各ピーク領域ごとの各評価値に対する係数aid,Rおよびbid,Rとを、不揮発性の記憶装置に記憶しておく。
実際に評価は、次のように定義される健全度Hid,Rにより行う。
id,R=(Pid,R−bid,R)/aid,R−Tth ・・・・・・(5)
即ち、各ピークに対する健全状態波形と観測されたピーク波形から各評価指数Pid,Rを算出し、これを式(5)に代入して健全度Hid,Rを求める。
【0018】
*損傷度による評価
健全度の代わりに損傷度によって評価することも可能である。この場合は、ボルトの締め付けトルクの減少量を損傷量とみなし、これを推定する。トレーニングデータの求め方は、健全度の場合と同じであるが、締め付けトルクがTth以下になると異常と診断される対象となるので、インピーダンス測定を行うボルトの締め付けトルクは健全状態(Tmax)から所定のステップで締め付けトルク閾値Tthまで変化させた状態とする。この場合、締め付けトルク値Tに対する評価値Pid,Rの関係をプロットするかわりに、トルクの減少量τ(即ち、τ=Tmax−Tth)に対する評価値Pid,Rの関係をプロットすればよい。以降は、健全度の評価の場合と同じである。即ち、プロットした点から、次式に最小二乗法により直線近似を行って、係数aid,Rおよびbid,Rを求める。
id,R=aid,R・τ+bid,R ・・・・・・(6)
この場合、全く健全であると判断される締め付けトルク(即ち、データを採取した最大の締め付けトルクTmax)に対するインピーダンス波形の平均波形を健全状態波形として各種評価指数Pid,Rの算出を行う。
実際の評価に使用するために、各ピークに対する健全状態波形と、以上のように求めた各ピーク領域ごとの各評価値に対する係数aid,Rおよびbid,Rとを、不揮発性の記憶装置に記憶しておく。
実際に評価は、次のように定義される損傷度Did,Rにより行う。
id,R=(Pid,R−bid,R)/aid,R ・・・・・・(7)
即ち、各ピークに対する健全状態波形と観測されたピーク波形から各評価指数Pid,Rを算出し、これを式(7)に代入して損傷度Did,Rを求める。
損傷度による評価を行う場合は、式(7)から分かるように、閾値Tthは不要である。
【0019】
<複数の評価指数による総合的評価>
評価指数をそれぞれ個別に用いて損傷量の推定を行った場合、評価指数によって推定結果は大きく異なる値を示していたため、推定結果としては不十分なものとなる。そこでここでは、インピーダンス波形の変化に適した評価指数の推定結果に重みを大きく付けることにより、複数の評価指数から総合的に損傷量の推定を行う手法について述べる。
以上の説明からも明らかなように、評価指数の中には、損傷によるインピーダンス波形の変化に対してほとんど変化しないものや、ばらつきが大きく損傷量の推定に向かないものも含まれている。この点に鑑み、それぞれの評価指数Pid,Rに対して重み付け係数wid,Rを導入する。この重み係数は損傷量の推定に適している評価指数に対して大きくなるように設定し、その大きさに応じて推定結果を重く用いることとする。この重み係数を計算する準備として、トレーニングデータから得た評価指数Pid,Rを式(7)に代入して損傷度Did,Rを求める。このようにして得られる損傷度Did,Rが実際に与えられた損傷量τに近いものほどよい評価指数であるといえる。損傷度Did,Rを定量化して他の評価指数による結果と比較するために、算出した損傷度Did,Rの実際の損傷度τに対する誤差の割合(誤差率)Eid,Rを次式により求める。
id,R=|(Did,R−τ)/τ| ・・・・・・(8)
ただし、τは損傷時のものとし、τ=0は除く。
【0020】
この誤差率Eid,Rは、損傷度の推定値Did,Rの絶対誤差率を示していることから、Eid,Rを小さく抑えられている評価指数を重く用いることにより、損傷量の推定精度を向上できるものと期待できる。そこで、Eid,Rの逆数を用いて重み係数wid,Rを次式のように定義する。
id,R=(1/Eid,R)/(Σfor all id1/Eid,R) ・・・・・・(9)
ただし、Σfor all idは、総ての評価指数についての総和を表す。
したがって、複数の評価指数による総合的評価を行う場合は、各ピークに対する健全状態波形、各ピーク領域ごとに各評価指数に対して求めた損傷度評価用の係数aid,Rおよびbid,R、および重み付け係数wid,Rを不揮発性メモリに格納しておく必要がある。
各ピーク領域Rに対する複数の評価指数による損傷度/Dは、次式で定義される。
/D=Σfor all id(wid,R・Did,R
【0021】
以上述べたように、本発明によれば、従来の評価指数ΔF、δおよびγのみならず、周波数対圧電インピーダンス波形において評価対象となる各ピークの周辺領域に関する評価指標(例えば、波形シフト量ΔSおよび波形重心変化量ΔH)および各ピークのピーク波形全体に関する評価指標(例えば、波形振幅変化量εおよび周波数重心変化量ΔG)も用いて健全度または損傷度を評価するので、周波数に関わりなく比較的精度のよい評価が可能となる。
さらに、各評価指標ごとの損傷度を損傷度誤差率の逆数で加重平均するすることにより、一層精度の高い損傷度の評価を行うことが可能となる。
【0022】
以上は、本発明の説明のために実施の形態の例を掲げたに過ぎない。したがって、本発明の技術思想または原理に沿って上述の実施の形態に種々の変更、修正または追加を行うことは、当業者には容易である。
例えば、上述の実施例では、各評価指標ごとの損傷度を損傷度誤差率の逆数で加重平均することにより、複数の評価指数による損傷度評価を行った。同様の要領で、各評価指標ごとの健全度を健全度誤差率の逆数で加重平均することにより、複数の評価指数による健全度評価を行ってもよい。
また、上述の実施例における複数の評価指数による評価には、総ての評価指数を用いたが、損傷度誤差率、健全度誤差率または重み係数の何れかを参考にして、評価指数を自由に組み合わせて使用すればよい。
【0023】
上述の実施例では、各データ収集ユニットからの電圧からそれぞれの周波数対インピーダンス波形を生成するのに、インピーダンスアナライザ(請求項の「周波数対インピーダンス波形生成手段」に相当)を用いた。しかし、実際の評価に必要な各ピークに対する健全状態波形、各ピーク領域ごとに各評価指数に対して求めた損傷度評価用の係数aid,Rおよびbid,R、および重み付け係数wid,Rを一度求めたあとは、周波数対インピーダンス波形の生成は、インピーダンスアナライザを用いる代わりに、圧電インピーダンスデータ収集ユニット自体が行う方が効率的で好ましい(この場合、請求項の「周波数対インピーダンス波形生成手段」は、圧電インピーダンスデータ収集ユニットに含まれることになる)。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の圧電インピーダンス測定法を用いた構造物の健全度評価方法又は構造物健全度評価システムは、従来の評価指数ΔF、δおよびγのみならず、周波数対圧電インピーダンス波形において評価対象となる各ピークの周辺領域に関する評価指標(例えば、波形シフト量ΔSおよび波形重心変化量ΔH)および各ピークのピーク波形全体に関する評価指標(例えば、波形振幅変化量εおよび周波数重心変化量ΔG)も用いて健全度または損傷度を評価するので、周波数に関わりなく比較的精度のよい評価が可能であり、産業上の利用価値がある。
さらに、各評価指標ごとの損傷度を損傷度誤差率の逆数で加重平均するすることにより、一層精度の高い損傷度の評価を行うことが可能であり産業上の利用価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】評価対象となる構造物の一例を示す部分斜視図である。
【図2】本実施の一実施形態による構造物健全度評価システムの主要部を示す図である。
【図3】図1の圧電インピーダンスデータ収集ユニット22の構成例を示す略ブロック図である。
【図4】健全な状態で得られる基準波形と実測された(損傷状態で得られた)波形から波形シフト量ΔSを算出する方法を説明する図である。
【図5】健全状態と損傷状態のインピーダンス波形をH(i),D(i)(i= 1,2,...,N)としたときの波形振幅変化量εを算出する様子を示す図である。
【図6】健全時のインピーダンス波形と損傷時のインピーダンス波形から波形重心変化量ΔHを算出する方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0026】
10 構造物の要部
12 インピーダンスアナライザ
13 コンピュータ
20 圧電素子
22 圧電インピーダンスデータ収集ユニット
24 シンセサイザ
26 アナログ/デジタル変換器
28 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の各要部に圧電素子を貼り付け、各圧電素子に電圧を印加することによって構造物に高周波弾性波を発生させながら、各圧電素子に発生する圧電インピーダンスの変化を連続的に観察することで、構造物の健全度または損傷度の評価を行う構造物の健全度評価方法であって、
各圧電素子に対し周波数対インピーダンス波形を生成するステップと、
前記周波数対インピーダンス波形から得られる波形シフト量ΔS、波形振幅変化量ε、波形重心変化量ΔHおよび周波数重心変化量ΔGの各評価指数から求めた前記健全度または損傷度の何れか1つ又は任意の組み合わせを用いるステップとを含むことを特徴とする、圧電インピーダンス測定法を用いた構造物の健全度評価方法。
【請求項2】
前記圧電素子が構造物を構成する梁の片面又は両面に貼り付けられたものである、請求項1記載の圧電インピーダンス測定法を用いた構造物の健全度評価方法。
【請求項3】
前記組み合わせは、各評価指数に対応する前記健全度または損傷度の加重平均であることを特徴とする、請求項1または2記載の圧電インピーダンス測定法を用いた構造物の健全度評価方法。
【請求項4】
構造物の要所に貼り付けられた少なくとも1つの圧電素子と、
前記構造物に各圧電素子の近傍に取り付け、当該圧電素子に掃引周波数電圧を印加するとともに、当該圧電素子から得た電流を電圧に変換して出力する圧電インピーダンスデータ収集ユニットと、
圧電インピーダンスデータ収集ユニットからの電圧から周波数対インピーダンス波形を生成する周波数対インピーダンス波形生成手段と、
前記周波数対インピーダンス波形から得られる波形シフト量ΔS、波形振幅変化量ε、波形重心変化量ΔHおよび周波数重心変化量ΔGの各評価指数から求めた前記健全度または損傷度の何れか1つ又は任意の組み合わせを用いて前記構造物の健全度または損傷度を評価するコンピュータとを具備してなることを特徴とする、圧電インピーダンス測定法を用いた構造物健全度評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−85733(P2007−85733A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271201(P2005−271201)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(593036888)日進工業株式会社 (9)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】