説明

圧電材料

【課題】KNa(1−x)Nb0を母材として、環境に優しく、圧電特性に優れる圧電材料をより安価に提供する。
【解決手段】一般式KNa(1−x)Nb0で表される化合物を主成分として含んだ圧電材料であって、0.1≦x≦0.7であるとともに、Cu酸化物が10mol%以下、BaTiOが、1.0mol%以上、20mol%以下添加されている圧電材料とした。また。さらに、ガラスが0.1wt%以上10wt%以下添加されている圧電材料とすればより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料に関し、具体的には、鉛を含まない圧電材料の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料としては、PZT(PbTiO−PbZrO)組成系セラミックスがよく知られている。PZTは、電気機械結合係数や圧電定数などの圧電特性に優れ、このPZTは、センサー、超音波モーター、フィルターなどの圧電素子に広く使用されている。
【0003】
ところで、近年では、環境に対する要請から工業製品の「鉛フリー」化が急務となっている。当然、PZTも最終的に工業製品に使用されるため、圧電材料も、鉛(Pb)が含まれているPZTから、鉛を含まない他の圧電材料に置換していく必要がある。
【0004】
そして、鉛を含まない圧電材料(非鉛圧電材料)としては、一般式KNa(1−x)NbOで表される化合物(KNN)や、チタン酸バリウム(BaTiO)がある。なお、KNNを主成分として含む圧電材料(以下、KNN系圧電材料)については、例えば、以下の特許文献1に記載されている。また、圧電材料に関する一般的な技術については、以下の非特許文献1や2に詳しく記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭56−12031号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】FDK株式会社、”圧電セラミックス(技術資料)”、[online]、[平成22年2月9日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/cyber-j/pdf/BZ-TEJ001.pdf>
【非特許文献2】NECトーキン株式会社、”圧電セラミックス Vol.04”、[online]、[平成23年1月18日検索]、インターネット<URL:http://www.nec-tokin.com/product/piezodevice1/pdf/piezodevice_j.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
環境に優しい非鉛系圧電材料は、誘電率が低い、という問題がある。また、BaTiOは、キューリー温度が低く、生産性が低下する可能性がある。具体的には、圧電材料は、高温で焼結させてなる磁器(セラミック)であり、キューリー温度が低いと、その焼結温度を低くせざるを得ない。そうなれば、自ずと相対密度が低下し、緻密な構造にならず、機械的な強度が不足する。そのため、所定の形状に加工する際に破損するなどして生産性が低下する。したがって、本発明は、環境に優しく、かつ生産性や圧電特性にも優れた圧電材料を提供することを目的としている。なお、その他の目的については以下の記載で明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、上記目的を達成するための本発明は、一般式KNa(1−x)Nb0で表される化合物を主成分として含んだ圧電材料であって、0.1≦x≦0.7であるとともに、Cu酸化物が10mol%以下、BaTiOが、1.0mol%以上、20mol%以下添加されていることを特徴とする。より好ましくは、ガラスが0.1wt%以上10wt%以下添加されている圧電材料とすることである。
【0009】
本発明は、圧電材料の製造方法にも及んでおり、当該製造方法に係る発明は、溶媒にKNa(1−x)Nb0で表わされる化合物の原料と、CuOの原料と、BaTiOの原料とを混合し、当該化合物の原料混合物を粉砕する混合粉砕ステップと、
前記粉砕された前記原料混合物を仮焼成して前記化合物の粉体を生成する仮焼成ステップと、
前記仮焼成ステップにより得た前記粉末にバインダーを添加するとともに、当該バインダーが添加された粉末を成形した上で焼成させる焼成ステップと、
を含み、
前記混合粉砕ステップでは、前記KNa(1−x)Nb0で表わされる化合物の原料を0.1≦x≦0.7となるように混合するとともに、前記CuOが10mol%以下、前記BaTiOが、1.0mol%以上、20mol%以下となるように混合することを特徴とする。また、前記混合粉砕ステップにて、ガラスを0.1wt%以上10wt%以下となるように添加する圧電材料の製造方法としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境に優しく、圧電特性に優れた圧電材料をより安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】圧電材料の製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
===本発明の技術思想===
本発明者は、以前、KNNの耐湿性能についての検討を行い、その検討過程で、KNNにおけるxを適切な値に設定するとともに、当該KNNにガラスを添加することで、実用に耐える圧電特性を維持しつつ、耐湿性を向上させた圧電材料を発明し、これを特許出願した(特願2010−57734:先発明1)。また、当該先発明1に関連し、KNNと同じ非鉛圧電材料として知られる一般式LiNa(1−x−y)NbTaSb(1−a−b)で表される化合物(以下、LF4)にガラスと銅(Cu)化合物を添加することで、より優れた特性を備えた圧電材料の開発にも成功し、この圧電材料についても特許出願した(特願2010−57735:先発明2,特願2010−161856:先発明3)。
【0013】
しかし、先発明1では、実用性に耐えうる圧電性能を得たが、比誘電率については、さらに特性向上の余地があった。また、先発明2および先発明3の圧電材料では、圧電材料中に高価なTaが含まれていた。そのため、圧電ブザーなどの簡素で安価な圧電応用機器への適用を考えると、圧電特性を飛躍的に向上させることは別に、確実に圧電特性を向上させつつ、低価格化を達成する、という開発目標も生じた。
【0014】
そこで、KNNを主要な圧電物質として用いた圧電材料について、低価格化とさらなる圧電特性の向上とを試みた。そして、まず、先発明2,および先発明3で添加したCuをKNNに添加することを考えた。これは、Cu酸化物は、LF4に添加することで、機械的品質係数と比誘電率の双方をバランスよく向上させることが、当該先発明2、および先発明3の想到過程で確認されているからである。また、非鉛圧電材料であるBaTiOを添加剤として用いることも考えた。これは、BaTiOを圧電性の起源となる主要物質(母材)として使用すると、上述したようにキューリー温度が低い、という問題があるが、添加剤として使用することで、キューリー温度に関する問題を解決しながら、圧電特性をさらに向上させることができるのではないか、と考えたからである。そして、本発明は、先発明1〜3の想到過程において得た知見と、その後の研究によって得た知見とに基づいてなされたものである。
【0015】
===圧電材料の作製手順===
本発明の実施例における圧電材料は、圧電性の発現起源となるKNNを母材として含み、このKNNに添加物を加えて焼結することで得られる。そして、本発明の実施例に係る圧電材料の特性を評価するために、KNNにおけるKとNaの組成比、添加物の種類、添加物の重量比などの作製条件が異なる複数の圧電材料をサンプルとして作製した。図1に、サンプルとなる圧電材料の作製手順を示した。まず、圧電材料の母材となるKNN、および圧電特性などの各種特性を向上させるために、サンプルの種類に応じて適宜に添加される物質(助剤)の原料を所定量秤量して配合する(s1)。助剤には、サンプルの種類応じ、BaTiO、Cu酸化物、ガラスのうちの一部あるいは全部を採用した。なお、KNNは、KCO、NaCO、およびNbを原料とし、BaTiOは、BaCOとTiOを原料としている。また、Cu酸化物にはCuOを採用した。ガラスについては先発明1〜3とほぼ同様であるが、詳細については後述する。
【0016】
圧電材料の原料を配合したら、ボールミル中に、KNNや助剤の原料と、溶媒となるアルコール(エタノールなど)を入れて湿式混合する(s2)。それによって、KNNの原料と、サンプルの種類に応じた助剤の原料とが混合されるとともに、その混合物が粉体状に粉砕される。そして、この粉体状の混合物を大気中にて800℃〜1000℃の温度で1時間(h)〜3h仮焼成する(s3)。
【0017】
つぎに、先に仮焼成後の粉末にバインダーとしてPVA水溶液を加えて混合することで、適宜な大きさの粒子径の粉末に造粒し(s4)、その造粒された粉末を目的とする形状に成形する(s5)。そして、上記成形物を所定温度下(例えば、300℃〜500℃程度)に置いて、バインダーを除去したのち(s6)、大気中で900℃〜1200℃の温度で1h焼成し(s7)圧電セラミックスを得る。
【0018】
最後に、その圧電セラミックスを、直径Φ≧15mm以上で、厚さt=1.0mmとなる円板状に加工するとともに、その円板の両面にAg電極を焼き付けたのち(s8,s9)、120℃のシリコンオイル中において、4Kv/mmの電界で分極処理を施し、圧電材料とした(s10)。
【0019】
===Cu酸化物とBaTiOの添加===
まず、圧電特性を向上させるために、KNNにCu酸化物とBaTiOを助剤として添加した圧電材料を作製し、その助剤による特性向上効果の有無や、最適添加量などを検討した。なお、Cu酸化物にはCuOを採用した。また、Cu酸化物とBaTiOの双方、あるいはそれぞれの効果を確認するために、KNNのみ、あるいは一方の助剤を添加した圧電材料もサンプルとして作製した。そして、全部で18種類のサンプル(No.1〜No.18)を作製し、各サンプルについて各種特性を評価した。
【0020】
表1にNo.1〜No.18のサンプルについての特性評価結果を示した。
【表1】

【0021】
表1に示したように、各サンプルにおける初期特性として、圧電特性の指標となる電気機械結合係数Kr(%)、機械的品質係数Qm(%)、比誘電率εr、および緻密性の指標となる相対密度ρ(%)を測定した。そして、Qm≧200%,εr≧200%,ρ≧95%を合格として合否判定を行った。表1には、その合否判定の結果として、合格が「○」、不合格が「×」で示されている。
【0022】
ここで、18種類のサンプル(No.1〜No.18)の中で、合格判定となったサンプルの組成を見ると、KNNの一般式におけるxが0.1≦x≦0.7、Cu酸化物の添加量が10.00mol%以下、BaTiOの添加量が1.00mol%以上、20mol%以下となっていることが分かる。Cu酸化物の添加量の下限値については、実際に添加した最低値が0.05mol%であるが、この値は、実際の生産現場で精度良く添加できる添加量の最低値であり、実際は、僅かでも添加されていればよく、Cu酸化物の最適添加量は、0mol%よりも多く10.00mol%以下である、と言える。
【0023】
表1に示した評価結果から、xの値は、先発明1にて定義した値と一致しており、KNNを主要な圧電物質として用いた圧電材料では、0.1≦x≦0.7、となることが再確認された。また、表1中のNo.14やNO.18のサンプルから、Cu酸化物は、その量が多いと比誘電率εrが低下することが確認された。
【0024】
BaTiOについてはは、No.3のサンプルなどから、その量が少ないとCu酸化物による比誘電率の低下を十分に抑止できないことが確認され、NO.10のサンプルからは、その添加量が多すぎると相対密度が低下し、従来からの問題であるキューリー温度が低い、という問題が顕著になる、ということが分かった。
【0025】
===ガラスの添加===
先発明1〜3では、KNNやLF4にガラスを添加することで、耐湿性能を向上させていた。そこで、上記表1にて合格判定となった圧電材料に対し、さらにガラスを添加した圧電材料を作製し、耐湿性能を向上させることも検討した。当該検討に際し、KNNにおけるxの値、Cu酸化物とBaTiOの添加量は、表1におけるサンプル5の条件を採用しつつ、図1における混合粉砕工程s2において、さらにガラスを添加した圧電材料をサンプルとして作製した。すなわち、KNNにおけるxを0.5、Cu酸化物の添加量を0.05mol%、BaTiOの添加量を4.00mol%とするとともに、ガラスの種類と添加量とを変えた13種類の圧電材料をサンプル(No.19〜No.31)として作製した。
【0026】
そして、各サンプルについて、Kr、Qm、εr、ρを測定し、次いで、恒温槽にて85℃、85%RHの環境下に100h放置する耐湿放置試験を行った。さらに、恒温槽から取り出して4h後に、上記Kr、Qm、εrを測定し、これらKr、Qm、εrのそれぞれについて、初期値との比(変動値)を求め、各種圧電特性(Kr、Qm、εr)のそれぞれの変動値と相対密度ρとに基づいて耐湿性能を評価した。変動値は、以下の式
変動値=(耐湿放置試験後測定値−耐湿試験前測定値)/耐湿試験前測定値
よって求めた。
【0027】
なお、サンプルに用いたガラスは、工業用途として一般に市販されているものであり、ここでは、組成中で最も多い物質を主成分として、ZnOを主成分として含むガラス(以下、Zn系ガラス)、Biを主成分としたガラス(以下、Bi系ガラス)、SiOを主成分としたガラス(以下、Si系ガラス)のいずれかを添加した。参考までに、以下に、各ガラスの組成を示した。
・Zn系ガラス
ZnO:45mol%、MgO:27mol%、B:25mol%、SiO:3mol%
・Bi系ガラス
Bi:60mol%、B:30mol%、CuO:7mol%、SiO:3mol%
・Si系ガラス
SiO:80mol%、B:18mol%、Al:2mol%
【0028】
表2にサンプル(No.19〜No.31)の耐湿性能評価結果を示した。
【表2】

【0029】
表2では、添加されているZn系、Bi系、Si系の各ガラスを、それぞれ、Zn,Bi、Siで示し、耐湿放置試験前のρと、耐湿放置試験前後のKr、Qm、εrの変動値とを示した。なお、変動値において、数値の前に付記されているマイナス「−」符号は、耐湿放置試験前後で測定値が減少したことを示している。そして、Kr、Qm、およびεrの変動値が、それぞれ3%未満、20%未満、および10%未満で、かつρが95%以上であれば合格とし、各サンプルについての合否判定結果も示した。
【0030】
表2に示したように、ガラスを添加していないNo.19のサンプル、すなわち、表1に示したNo.5と同等のサンプルでは、耐湿放置試験によりQmとεrが劣化し、不合格となった。また、ガラスの種別に依らず、ガラスの添加量が0.1wt%未満のサンプル(サンプル、22,26,30)では、Qmが僅かながら合格基準に届かず、不合格となった。ガラスの添加量が10.0wt%より多いサンプル(NO.23,27,31)では、ρが劣化して不合格となった。以上のことから、ガラスを添加すると、圧電特性については、確実に耐湿性能が向上するが、少なすぎるとQmの劣化抑止に若干の問題があり、添加量が多過ぎると、ρが低下する、ということが分かった。なお、ρは、その値が低いと、主に圧電材料の製造過程において問題となることから、製造済みの圧電材料については、極めて大きく劣化しない限り、大きな問題は発生しないものと思われる。いずれにしても、より高い信頼性を得るためには、ガラスの添加量が1.0wt%以上10wt%以下とすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明は、圧電ブザーや超音波モーターなどの圧電性を利用した機器や素子に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
s1 原料配合工程、s2 混合粉砕工程、s3 仮焼成工程、s7 焼成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式KNa(1−x)Nb0で表される化合物を主成分として含んだ圧電材料であって、0.1≦x≦0.7であるとともに、Cu酸化物が10mol%以下、BaTiOが、1.0mol%以上、20mol%以下添加されていることを特徴とする圧電材料。
【請求項2】
請求項1において、ガラスが0.1wt%以上10wt%以下添加されていることを特徴とする圧電材料。
【請求項3】
圧電材料の製造方法であって、
溶媒にKNa(1−x)Nb0で表わされる化合物の原料と、CuOの原料と、BaTiOの原料とを混合し、当該化合物の原料混合物を粉砕する混合粉砕ステップと、
前記粉砕された前記原料混合物を仮焼成して前記化合物の粉体を生成する仮焼成ステップと、
前記仮焼成ステップにより得た前記粉末にバインダーを添加するとともに、当該バインダーが添加された粉末を成形した上で焼成させる焼成ステップと、
を含み、
前記混合粉砕ステップでは、前記KNa(1−x)Nb0で表わされる化合物の原料を0.1≦x≦0.7となるように混合するとともに、前記CuOが10mol%以下、前記BaTiOが、1.0mol%以上、20mol%以下となるように混合することを特徴とする
圧電材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記混合粉砕ステップにて、ガラスを0.1wt%以上10wt%以下となるように添加することを特徴とする圧電材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162408(P2012−162408A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21917(P2011−21917)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】