説明

圧電発音体

【課題】本発明はスピーカとして用いられる圧電発音体に関するもので、再生帯域を広げることを目的とする。
【解決手段】そしてこの目的を達成するために本発明のスピーカは、支持体6Aと、この支持体6Aに支持されるとともに、各々大きさの異なる複数の振動体音片1〜5とを備え、各振動体音片1〜5の大きさを変えることで広帯域の音の再生ができると共に、不要振動の抑制と音響振動損失を小さくすることができるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種電子機器に使用される小型スピーカや補聴器用の超小型スピーカ等に用いられる圧電発音体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の圧電発音体としては、図9に示すものがある。図9に示す31は金属振動板35に塗布されたゴム、32は金属振動板35の裏側に接着により接合されているPZTの圧電体、33は金属振動板35の端面を保持するエッジ、34はエッジ33を覆うフレームである。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報として、例えば特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平11−164396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の圧電発音体は一つの金属振動板35に一つのPZTの圧電体32を設けた構成であり、それ自身の共振特性で再生特性が決定されるため、より広帯域な音の再生を得ることが困難であった。つまり、圧電体32と金属振動板35とによる振動の機械的共振先鋭度Qmが高く、音響再生帯域が狭くなるのであった。
【0005】
そこで本発明は広帯域な音を再生することができる圧電発音体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そしてこの目的を達成するために、本発明は大きさの異なる複数の振動体音片を支持体で支持させたものである。
【発明の効果】
【0007】
以上のように本発明の圧電発音体は、大きさの異なる複数の振動体音片を支持体で支持させたものであるので、複数の異なる帯域の振動体が形成でき、広帯域の音の再生ができると共に、下部電極上の所定部分に圧電薄膜を直接形成するため、不要振動の抑制と音響振動損失を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1、図2、図3はそれぞれ圧電発音体の構成例を示している。図1に示すものは、五つの振動体音片1〜5とそれら全てを支持した支持体6Aとからなり、支持体6Aは大きさの異なる五つの振動体音片1〜5の端部を保持した構造となっている。振動体音片1〜5はそれぞれ大きさ、具体的には長さが異なり、これによりそれぞれの振動体音片1〜5の共振周波数を異ならせている。また、同様に図2は五つの振動体音片7〜11を支持体6Bで支持した構成である。振動体音片7〜11の形状は長手方向の長さと共に巾の寸法も異ならせ、それぞれの振動体音片7〜11の共振周波数を異ならせている。図3は支持体6Cで支持した三つの振動体音片12〜14の巾と長さがそれぞれ異なっているところが特徴で、それぞれの振動体音片12〜14の共振周波数が異なっている。これら図1〜3はそれぞれ支持体6A〜6Cの中で、振動体音片1〜5、7〜11、12〜14の巾や長さを異ならせているので、共振周波数がそれぞれ異なり、これにより広帯域の範囲で音を忠実に再現させることができる。
【0009】
次に図3の実施形態を基に、さらに詳細な説明を行う。図3の15、16は振動体音片12〜14の給電用のリード線で、外部から交流信号を振動体音片12〜14に電気信号を導くためのものである。17、18はリード線15、16と圧電発音体を接続する給電端子である。次に、図3に示す破線19の部分の断面について、図4で説明する。
【0010】
図4の20、21はシリコン(Si)板である。シリコン板20は基板としての役割であり、シリコン板21は振動板としての役割を果たす。22は下部電極であり、チタン酸鉛・ジルコン酸鉛(PZT)の圧電薄膜23の下部電極を形成している。PZTの圧電薄膜23は電気信号を機械的な変位に変換する。24は絶縁性樹脂よりなる絶縁膜でPZTの圧電薄膜23に設けた電極材料がマイグレーションを生じさせることのない様に、また絶縁と保護の二役をしている。また、25は上部電極であり、PZTの圧電薄膜23の上方から電圧を印加させるためのものである。26は音孔としての空洞である。
【0011】
この図4の断面図を基に、プロセスの過程を図5で順に追って説明する。図5(a)に示すように支持体となる所定の厚み、たとえば500μm厚みのシリコン板20に水蒸気を加え温度1000℃以上の熱処理を行い、シリコン板20の表面を酸化し、SiO2の極薄厚みの膜を形成する。その上に更にシリコン板21を陽極接合にて積層し、前記SiO2の酸化膜を中心に両方からシリコン板20とシリコン板21で挟み込み、その後シリコン板21の厚みを約50μm程度に加工した構造の基板を形成する。SiO2膜層は非常に薄い(0.2μm程度)ため図5(a)中では省略している。
【0012】
そして、図5(b)に示すようにシリコン板21の上部表面に高周波スパッタリングにより、好ましくは電極材料としてPt等を用いて下部電極22を形成し、図5(c)に示すように、この下部電極22の上にPZTの圧電薄膜23を形成する。
【0013】
この構成により下部電極22と圧電薄膜23との密着性が向上すると共に圧電薄膜23のPZT結晶軸の配向を促し、安定した圧電薄膜23を形成できる。また、密着性の向上により剥離が抑制できる。また、従来、圧電薄膜23の接合に必要とされていた転写のための接着剤が、本実施形態により接着剤レスとなる。更に、この下部電極22をシリコン板21全体に形成することにより導体抵抗が低減されるため、電気−音響変換効率が向上する。
【0014】
次に図5(d)に示す様にPZTの圧電薄膜23を片方が遊端となった振動体音片12〜14にフォトリソ加工する。ここで、PZTの圧電薄膜23は長方形以外に楕円または多角形でも良くフォトリソ加工できる形状であれば特に限定されるものではない。そして、図5(e)に示す様にPZTの圧電薄膜23の周辺部及び下部電極22の上にエッチングマスクとしての感光レジストの絶縁膜24を塗布し、下部電極端子部27を露出させる。この様にすれば周辺部の絶縁膜24により電極端面の電界を安定にすると共に電極のマイグレーションを防止し圧電薄膜23の周辺部の絶縁性が確保できる。
【0015】
そして、図5(f)のごとく圧電薄膜23及び絶縁膜24の上に好ましくはAuの蒸着にて上部電極25を形成する。この上部電極25はPZTの圧電薄膜23に安定した均等電界を印加することができると共に絶縁膜24の上および圧電薄膜23の上全体に上部電極25を形成することにより導体抵抗が低減されるため、電気−音響変換効率が向上する。
【0016】
次に図5(g)に示す様にシリコン板20のもう一方の面の所定部分にフォトレジスト膜28を形成し、図5(h)に示す様にこの面からドライエッチングしてSiO2膜を露出させ、音孔26としての空洞を圧電薄膜23の下方に形成する。そしてレジスト膜28を除去することで圧電発音体が得られる。
【0017】
次に図5(i)に示す様に、下部電極端子部27部分に導電性ペーストによりリード線15を固着させ、同様に上部電極25の上部にリード線16を導電性ペーストにより固着させる。これにより圧電発音体が得られる。
【0018】
この構成により共振周波数を所定値に設定できると共に再生する音の帯域も自由に設定できるため、広帯域な音の再生が可能となる。更に音孔26としての空洞を圧電薄膜23および振動体音片12〜14の下方に形成するため、電気−音響変換効率が向上する。
【0019】
図6は図5により得られた圧電発音体が再生する周波数と広帯域な音を再生する特性を示すものである。図6に示すように、再生する音の帯域の低域Aを長い振動体音片14で、また中域Bを中長さの振動体音片12で、さらに高域Cを短い振動体音片13で再生することにより、広帯域な音の再生が可能となる。
【0020】
また、デバイスとして、実装組み立てを行った場合の一例を次の図7に示す。図7は実装組立図であり、図5(i)により得られた圧電発音体の素子を以後圧電発音体30と呼び、音響収納外ケース36に、外蓋29と圧電発音体30とを一体化させ且つ、リード線15、16は外蓋29を貫通させ外部へ引き出した後、圧電発音体30の部分をオルガノ系シラン材で厚さ5μm以下の厚さでコートする。オルガノ系シラン材はこれ以上厚いと質量の付加により音響振動の駆動インピーダンスが増加し、駆動損失を招く。また、極薄く(0.01μm)以下でコートすれば耐湿効果が得られ難い。
【0021】
この図7の構成の詳細について、側面から見た状態図を図8に示す。図8の圧電発音体30は音響収納外ケース36の底部に接着材により固着しており、圧電発音体30を通電して得られる振動板からの音響は圧電発音体30上部から発せられ、音響収納外ケース36の左開口部を通して左側に抜ける。一方、振動体音片12〜14の下部方向の音響は、音響収納外ケース36で遮られエアーダンパーとして働き、共振点付近の共振Qmが低減され周波数変化に対して緩慢な周波数特性が得られる。振動体音片12〜14からの音源は開口部で一旦絞られ、一ヶ所から放音することにより、位相の揃った均一な歪みのない音源が確保されるのである。これにより、超小型の圧電薄膜型のより周波数特性の安定な発音体を提供可能としたものである。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上のように、本発明にかかる圧電発音体は大きさの異なる複数の振動体音片を用いているので、広帯域の音再生ができ、スピーカとしてきわめて有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態を示す斜視図
【図2】本発明の他の実施形態を示す斜視図
【図3】本発明のさらに他の実施形態を示す斜視図
【図4】図3の断面図
【図5】(a)〜(i)は製造プロセスを示す断面図
【図6】周波数特性図
【図7】実装組立状態を示す分解斜視図
【図8】同実装組み立て状態を示す断面図
【図9】従来品の断面図
【符号の説明】
【0024】
1 振動体音片
2 振動体音片
3 振動体音片
4 振動体音片
5 振動体音片
6A 支持体
7 振動体音片
8 振動体音片
9 振動体音片
10 振動体音片
11 振動体音片
12 振動体音片
13 振動体音片
14 振動体音片
20 シリコン板
21 シリコン板
22 下部電極
23 PZTの圧電薄膜
24 絶縁膜
25 上部電極
26 音孔(空洞)
27 下部電極端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、この支持体に支持されるとともに、各々大きさの異なる複数の振動体音片とを備え、前記各振動体音片は、SiまたはSiO2から成る振動板と、この振動板上に設けた下部電極と、この下部電極上の所定部分に形成した圧電薄膜と、この圧電薄膜の周辺部及び前記下部電極の一部を覆うように形成した絶縁膜と、前記圧電薄膜及び絶縁膜を覆うように形成した上部電極とを有する圧電発音体。
【請求項2】
一つの空洞上に複数の振動体音片を設けた請求項1に記載の圧電発音体。
【請求項3】
振動体音片を厚み5μm以下の不透湿性樹脂で覆った請求項1、または2に記載の圧電発音体。
【請求項4】
不透湿性樹脂はオルガノ系シラン材とした請求項3に記載の圧電発音体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−329533(P2007−329533A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156950(P2006−156950)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】