説明

圧電素子とその製造方法、及び液体吐出装置

【課題】高価な装置を要することなく低コストに圧電体膜を容易にパターニングすることができ、圧電体膜のパターンの形状精度が良く、成膜時のコンタミネーションの問題がない新規なパターニング技術を提供する。
【解決手段】下部電極20が形成された基板10上に、パターニングされていないベタ圧電体膜30Pを成膜する工程(A)と、ベタ圧電体膜30P上に、ベタ圧電体膜の不要部分30Nに対応したパターンを有し、ベタ圧電体膜の不要部分30Nを除去するための除去用電極41を形成する工程(B)と、下部電極20と除去用電極41との間に電界を印加して、除去用電極41及びベタ圧電体膜の不要部分30Nにクラックを発生させる工程(C)と、除去用電極41及びベタ圧電体膜の不要部分30Nを除去する工程(D)とを順次実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のパターンを有する圧電体膜を備えた圧電素子とその製造方法、及びこれを備えた液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電体膜と、圧電体膜に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載されるアクチュエータ等として使用されている。圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト構造を有する複合酸化物が知られている。圧電体膜は、連続膜ではなく、互いに機械的に分離された複数の凸部からなるパターンで形成することで伸縮がスムーズに起こり、より大きな変位量が得られるとされている。
【0003】
圧電体膜は、所望の歪変位量を得るため、例えば1〜5μm程度の厚みで形成される。この厚みはnmオーダーの電極(例えば厚み200nm)等に比して厚いものである。特許文献1等に記載されているように、従来、圧電体膜は一般にドライエッチングによりパターニングされている。
【0004】
ドライエッチングは異方性エッチングとして知られる。しかしながら、PZT等はエッチングされにくい材料であり、しかもnmオーダーの電極等に比して厚いため、圧電体膜のドライエッチングは電極等に比して難しい。そのため、圧電体膜をドライエッチングしても完全な異方性エッチングにはならず、形成される凸部の側面はテーパ状となる傾向にある。
【0005】
インクジェット式記録ヘッドでは、より一層の高画質化のため、圧電体膜をなす複数の凸部の圧電特性の均一性がより高レベルで求められるようになってきている。しかしながら、側面形状がテーパ状となるドライエッチングでは、複数の凸部の側面の角度を高精度に合わせることが難しく、今後は、凸部の形状のばらつきによる圧電特性のばらつきが画質に与える影響が無視できなくなる可能性がある。凸部の側面形状の精度を考慮すれば、凸部の側面形状が安定的に略垂直形状となることが好ましい。
【0006】
PZT等の圧電体膜は、上記の如く、材料特性と厚みのためにドライエッチングが難しいことから、パターニングに時間を要するという問題も有している。また、ドライエッチングは、真空プロセスを要するため装置が高く、製造コストもかかる。
【0007】
誘電体膜のパターニング方法としては、
基板に所定のパターンのマスクを密着させた状態で蒸着を行うことで、所定のパターンの誘電体膜を形成するマスク法(特許文献2等)、
及び、レジストパターンを形成した基板上に誘電体膜を成膜し、その後レジストパターンを除去することで、レジストパターン上に位置する誘電体膜部分をレジストパターンと共に除去して、誘電体膜をパターニングするリフトオフ法(特許文献3,4等)が知られている。
【特許文献1】特表2003-532289号公報
【特許文献2】特開平9-125228号公報
【特許文献3】特開2000-164575号公報
【特許文献4】特開2005-3737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マスク法では、マスク遮蔽部分の周辺において蒸着粒子のエネルギーが変化しやすく、パターンエッジ部分の膜質が変化してしまう恐れがある。特に多元素系酸化物の場合はその傾向が顕著である。
【0009】
リフトオフ法ではレジストパターンを形成した基板に成膜するため、レジストの耐熱温度以上での成膜には適用できない。そのため、500〜600℃程度の成膜温度が必要なPZT等の成膜には適用できない。
【0010】
レジストパターンの代わりに、より耐熱温度の高い犠牲層を用いてリフトオフを行うことが考えられる。しかしながら、リフトオフ法をμmオーダーと厚い圧電体膜のパターニングにそのまま適用しても、圧電体膜の厚みが厚く、犠牲層の除去及びその上に位置する圧電体膜の不要部分の除去が難しい。また、互いに繋がった圧電体膜の不要部分と必要部分とを引き剥がして不要部分を除去するため、凸部の側面の平滑性が不良となりやすく、パターン欠損が生じることもあり、形状精度の良好なパターンを得ることは難しい。
【0011】
選択成長によるパターニングは上記の欠点を克服しているが、成膜チャンバ内において良好膜と脆弱膜とが同時に成長するため、脆弱膜によるコンタミネーションが生じる恐れがある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高価な装置を要することなく低コストに圧電体膜を容易にパターニングすることができ、圧電体膜のパターンの形状精度が良く、成膜時のコンタミネーションの問題がない新規な圧電体膜のパターニング技術を提供することを目的とするものである。
本発明は、上記パターニング技術を用いた圧電素子の製造方法、及び該製造方法により製造された圧電素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の圧電素子の製造方法は、基板上に下部電極と単数又は複数の凸部からなる所定のパターンを有する圧電体膜と上部電極とが順次形成され、前記下部電極と前記上部電極との間に電界が印加されて駆動される圧電素子の製造方法において、
前記下部電極が形成された前記基板上に、パターニングされていないベタ圧電体膜を成膜する工程(A)と、
前記ベタ圧電体膜上に、前記ベタ圧電体膜の不要部分に対応したパターンを有し、前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去するための除去用電極を形成する工程(B)と、
前記下部電極と前記除去用電極との間に電界を印加して、前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分にクラックを発生させる工程(C)と、
前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去する工程(D)とを有することを特徴とするものである。
【0014】
工程(B)において、前記除去用電極と同時に、前記所定のパターンを有する圧電体膜に対応したパターンを有し、前記除去用電極とは非導通の前記上部電極を形成することが好ましい。
工程(D)後に、前記所定のパターンを有する圧電体膜に対応したパターンを有する前記上部電極を形成する工程(E)をさらに有する構成としてもよい。
【0015】
工程(A)において、前記ベタ圧電体膜として、前記基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜を成膜することが好ましい。
工程(A)において、前記ベタ圧電体膜として、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜を成膜することが好ましい。
柱状構造膜からなる圧電体膜は、結晶構造を有していてもアモルファス構造を有していても構わないが、結晶構造を有することが好ましい。
【0016】
工程(A)において、表面粗さRa≧200Åの前記ベタ圧電体膜を成膜することが好ましい。
本明細書において、「表面粗さRa」はAFMによりタッピングモードにて2μm×2μmの範囲をスキャンして測定するものとする。
工程(A)において、気相法により前記ベタ圧電体膜を成膜することが好ましい。
【0017】
本発明の第1の圧電素子は、基板上に下部電極と単数又は複数の凸部からなる所定のパターンを有する圧電体膜と上部電極とが順次形成され、前記下部電極と前記上部電極との間に電界が印加されて駆動される圧電素子において、
前記下部電極が形成された前記基板上に、パターニングされていないベタ圧電体膜を成膜する工程(A)と、
前記ベタ圧電体膜上に、前記ベタ圧電体膜の不要部分に対応したパターンを有し、前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去するための除去用電極を形成する工程(B)と、
前記下部電極と前記除去用電極との間に電界を印加して、前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分にクラックを発生させる工程(C)と、
前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去する工程(D)とを有する製造方法により製造されたものであることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第1の圧電素子において、前記圧電体膜は、前記基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であることが好ましい。
本発明の第1の圧電素子において、前記圧電体膜は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜であることが好ましい。
本発明の第1の圧電素子において、前記圧電体膜は、表面粗さRa≧200Åであることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の圧電素子は、基板上に下部電極と単数又は複数の凸部からなる所定のパターンを有する圧電体膜と上部電極とが順次形成され、前記下部電極と前記上部電極との間に電界が印加されて駆動される圧電素子において、
前記圧電体膜は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜からなることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第1,第2の圧電素子において、前記圧電体膜は、下記一般式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を主成分とすることが好ましい。
一般式ABO・・・(P)
(A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Mg,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,Hf,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
本明細書において、「主成分」は80モル%以上の成分と定義する。
【0021】
本発明の液体吐出装置は、上記の本発明の第1又は第2の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する前記電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高価な装置を要することなく低コストに圧電体膜を容易にパターニングすることができ、圧電体膜のパターンの形状精度が良く、成膜時のコンタミネーションの問題がない新規な圧電体膜のパターニング技術を提供することができる。
本発明によれば、上記パターニング技術を用いた圧電素子の製造方法、及び該製造方法により製造された圧電素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
「圧電素子、インクジェット式記録ヘッド」
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の圧電素子、及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図1はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0024】
本実施形態の圧電素子1は、基板10上に、下部電極20と圧電体膜30と上部電極40とが順次積層された素子であり、本発明の圧電素子の製造方法により製造されたものである。圧電素子1は、圧電体膜30に対して下部電極20と上部電極40とにより厚み方向に電界が印加されて駆動される。
【0025】
本実施形態では、互いに機械的に分離された複数の凸部31からなる圧電体膜30が形成されている。より詳しくは、下部電極20は基板10の略全面に形成されており、この上にライン状の凸部31がストライプ状に配列したパターンの圧電体膜30が形成され、各凸部31の上に上部電極40が形成されている。圧電体膜30をなす凸部31の形状や個数、ピッチなど、圧電体膜30のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。例えば、圧電体膜30は単数の凸部31からなるものでもよい。
【0026】
基板10は特に制限なく、シリコン,ガラス,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),アルミナ,サファイヤ,SiC,及びSrTiO等の基板が挙げられる。基材10としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
【0027】
下部電極20の組成は特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。上部電極40の組成は特に制限なく、下部電極20で例示した材料,Al,Ta,Cr,Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。下部電極20と上部電極40の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
【0028】
圧電体膜30の組成は特に制限なく、下記一般式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を主成分とすることが好ましい。
一般式ABO・・・(P)
(A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Mg,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,Hf,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【0029】
上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物としては、
チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
【0030】
電気特性がより良好となることから、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物は、Mg,Ca,Sr,Ba,Bi,Nb,Ta,W,及びLn(=ランタニド元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,及びLu))等の金属イオンを、1種又は2種以上含むものであることが好ましい。
【0031】
圧電体膜30の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。この厚みは、nmオーダーの電極20、40(好ましくは厚み50〜500nm)に比して大きいものである。
【0032】
本実施形態において、圧電体膜30のパターニングが容易でパターン形状精度が良好なことから、圧電体膜30は基板10の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜からなることが好ましい(図6(a)の断面SEM写真を参照)。柱状構造膜からなる圧電体膜30においては、凸部31の側面31Sに露出した多数の柱状体は柱状体の界面できれいに切れた構造となる。圧電体膜30は、柱状構造膜からなる圧電体膜30を形成しやすいことから、結晶性を有することが好ましい。圧電体膜30は、柱状構造膜からなる圧電体膜30を形成することができれば、アモルファス構造でも構わない。
【0033】
圧電体膜30をなす多数の柱状体の平均柱径は特に制限なく、30nm〜1μmが好ましい。柱状体の平均柱径が過小では、圧電体として充分な結晶成長が起こらない、所望の圧電性能が得られないなどの恐れがある。柱状体の平均柱径が過大では、パターニング後の形状精度が低下するなどの恐れがある。
本明細書において、「柱状体の平均柱径」は断面SEM像を観察し、ランダムに選んだ計10個の柱状体の柱径の平均値により求めるものとする。
【0034】
柱状構造膜に関しては、成膜時の基板温度及び成膜圧力と生成される柱状体の形状や柱径との関係、及び柱状体の分類について、研究がなされている。かかる研究は、蒸着膜ではMovchan and Demchishin,Phys.Met.Mettallogr.,28,83(1969)に詳細に記載されており、スパッタ膜ではThonton,J.Vac.Sci.Technol.,11,666(1974)に詳細に記載されている。
【0035】
Thornton zone modelのzone Tの柱状構造膜は、グレイン成長が抑制された繊維状の緻密な膜である(図9(b)の表面SEM写真を参照)。Thornton zone modelのzone Iの柱状構造膜は、グレイン成長が促進され、グレイン間の間隙が多い膜である(図6(b)の表面SEM写真を参照)。
従来は、グレイン成長が抑制された緻密な膜が良いとされており、zone Iの柱状構造膜を積極的に用いることはなされていない。従来の常識とは異なり、本実施形態において、圧電体膜30はThornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜であることが好ましい。
【0036】
圧電体膜30の表面粗さRaは特に制限されない。グレイン成長は表面粗さRaの悪化を招く。すなわち、グレイン成長が促進されたThornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜は、zone Tの柱状構造膜に比較して、表面粗さRaが大きいものとなる。従来、圧電体膜は緻密で表面平滑性が高いことが好ましいとされている。従来の常識とは異なり、本実施形態において、圧電体膜30の表面粗さRa≧200Åであることが好ましい(表1を参照)。
【0037】
圧電体膜30の凸部31の側面31Sは、基板10の基板面に対して略垂直方向若しくはそれに近いことが好ましい。具体的には、基板10の基板面に対する圧電体膜30の凸部31の側面31Sの角度θは特に制限なく、凸部31の側面31Sのパターン形状精度を考慮すれば、90±30°の範囲内にあることが好ましく、90±10°の範囲内にあることが特に好ましい。本発明の製造方法では、凸部31の側面31Sの角度θを安定的に上記範囲内とすることができる。
【0038】
圧電アクチュエータ2は、圧電素子1の基板10の裏面に、圧電体膜30の伸縮により振動する振動板50が取り付けられたものである。圧電アクチュエータ2には、圧電素子1の駆動を制御する駆動回路等の制御手段(図示略)も備えられている。
【0039】
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、圧電アクチュエータ2の裏面に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)61及びインク室61から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)62を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)60が取り付けられたものである。インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子1に印加する電界強度を増減させて圧電素子1を伸縮させ、これによってインク室61からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
【0040】
基板10とは独立した部材の振動板50及びインクノズル60を取り付ける代わりに、基板10の一部を振動板50及びインクノズル60に加工してもよい。例えば、基板10がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板10を裏面側からエッチングしてインク室61を形成し、基板自体の加工により振動板50とインクノズル60とを形成することができる。
本実施形態の圧電素子1及びインクジェット式記録ヘッド3は、以上のように構成されている。
【0041】
「製造方法」
図2を参照して、圧電素子1及びインクジェット式記録ヘッド3の製造方法について説明する。図2は工程図であり、図1に対応した断面図である。
【0042】
(工程(A))
はじめに、図2(a)に示す如く、公知の気相法等により基板10上の略全面に下部電極20を成膜し、この基板上にパターニングされていないベタ圧電体膜30Pを成膜する。ベタ圧電体膜30Pの成膜方法は特に制限なく、スパッタ法、MOCVD法、プラズマCVD法、PLD(パルスレーザデポジッション)法、及び放電プラズマ焼結法等の気相法;ゾルゲル法及び有機金属分解法等の液相法;及びエアロゾルデポジション法等が挙げられる。圧電体膜30の厚みは、通常1μm以上、例えば1〜5μmである。
【0043】
ベタ圧電体膜30Pとして、基板10の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜を成膜することが好ましい。本実施形態では、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜からなり、表面粗さRa≧200Åであるベタ圧電体膜30Pを成膜することが特に好ましい。
【0044】
ベタ圧電体膜30Pをなす多数の柱状体の平均柱径は特に制限なく、30nm〜1μmが好ましい。柱状体の平均柱径が過小では、圧電体として充分な結晶成長が起こらない、所望の圧電性能が得られないなどの恐れがある。柱状体の平均柱径が過大では、パターニング後の形状精度が低下するなどの恐れがある。
【0045】
柱状体の成長方向は特に制限なく、基板10の基板面に対して略垂直方向若しくはそれに近いことが好ましい。具体的には、基板10の基板面に対する柱状体の成長方向は90±30°の範囲内にあることが好ましく、90±10°の範囲内にあることが特に好ましい。
結晶配向性を有するベタ圧電体膜30Pを成膜することが好ましい。例えば、(100)方向に結晶配向性を有するベタ圧電体膜30Pを成膜することができる。
【0046】
柱状構造膜を成膜しやすいことから、ベタ圧電体膜30Pの成膜方法としては、スパッタ法、MOCVD法、プラズマCVD法、PLD(パルスレーザデポジッション)法、及び放電プラズマ焼結法等の気相法が好ましい。
組成に応じて、基板温度、成膜圧力、及びプラズマ条件等の成膜条件を調整することで、所望の平均柱径の柱状体を所望の方向に成長させることができる。成膜温度は、多数の柱状体からなるベタ圧電体膜30Pを安定的に成膜できる温度に設定され、例えば、PZT、及びPZTのAサイト及び/又はBサイトの一部を他の元素で置換したPZT系では500〜600℃が好ましい。
【0047】
(工程(B))
次いで、図2(b)に示す如く、ベタ圧電体膜30P上に、所定のパターンを有する圧電体膜30に対応したパターンの上部電極40と、ベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nに対応したパターンを有し、ベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nを除去するための除去用電極41とを形成する。
【0048】
この工程においては、上部電極40と除去用電極41との間に間隙を設けて、上部電極40と除去用電極41とを非導通とする必要がある。除去用電極41と同時に上部電極40を形成するこの方法では、図3に示す後記方法よりも工程数を少なくすることができ、好ましい。
【0049】
上部電極40と除去用電極41との成膜方法は特に制限なく、公知の気相法が好ましい。除去用電極41の組成は特に制限なく、上部電極40と同様の組成が挙げられる。除去用電極41は上部電極40と同一組成でもよいし、異なる組成でもよい。上部電極40と除去用電極41とを同一組成とすることで、これらを同時に形成することができ、好ましい。
【0050】
(工程(C))
次いで、図2(c)に示す如く、下部電極20と上部電極40との間に電界を印加せず、下部電極20と除去用電極41との間に選択的に電界を印加して、除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nにクラックを発生させる(図7(b)を参照)。例えば、除去用電極41にのみプローブ42を接触させることで、下部電極20と除去用電極41との間に選択的に電界を印加することができる。
下部電極20と除去用電極41との間の電界印加によってベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nが伸縮して、ベタ圧電体膜30Pの不要部分30N及びその上に位置する除去用電極41にストレスがかかり、クラックが発生すると考えられる。
【0051】
本発明者は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜からなり、表面粗さRa≧200Åのベタ圧電体膜30Pにおいて、クラックが発生しやすいことを見出している。Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜は、グレイン成長が促進されたグレイン間の間隙が多い膜構造であるので(図6(b)の表面SEM写真を参照)、電界印加によって脆弱な間隙部分を基点として下部電極20の表面まで到達するクラックが入りやすいと考えられる。Thornton zone modelにおけるzone Tの柱状構造膜は、グレイン間の間隙がなくグレイン間の密着性が良好な緻密な膜構造であるので(図9(b)の表面SEM写真を参照)、電界を印加してもクラックが入りにくいと考えられる。
【0052】
下部電極20と除去用電極41との間に印加する電圧は、除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nにクラックを発生させることができるレベルであれば特に制限されない。例えば3〜4μm厚の圧電体膜に対して、駆動電圧は通常20〜30V程度である。本発明者は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜からなり、表面粗さRa≧200Åのベタ圧電体膜30Pでは、例えば3〜4μm厚のベタ圧電体膜に対して40〜60V程度の電圧を印加することにより、除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nにクラックが発生することを確認している(後記実施例1〜3を参照)。
【0053】
(工程(D))
次いで、図2(d)に示す如く、除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nを除去する。除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nにはクラックが形成されているので、除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nを選択的に容易に除去することができる。この工程後に、複数の凸部31からなる所定のパターンの圧電体膜30が形成される。
【0054】
除去方法としては例えば、ウエットエッチングが挙げられる。除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nのクラック内にエッチング液が容易に浸み込むので、ウエットエッチングにより除去用電極41及びベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nを選択的に容易に除去することができる。その他の除去方法としては例えば、超音波洗浄、及び粘着テープを用いた剥離等が挙げられる。ベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nの除去は、ベタ圧電体膜30Pの厚みによらず、短時間に実施できる。
【0055】
本実施形態では、柱状構造膜からなるベタ圧電体膜30Pを形成することが好ましいことを述べた。隣接する柱状体同士は互いに機械的に分離されやすいので、柱状構造膜からなるベタ圧電体膜30Pの不要部分30Nが除去される際には、柱状体の界面で良好に分離することができる。したがって、圧電体膜30の凸部の側面31Sに露出した多数の柱状体は該柱状体の界面できれいに切れたものとなり、凸部の側面31Sは平滑性が良好なものとなる。
【0056】
ベタ圧電体膜30をなす柱状体の成長方向は、基板10の基板面に対して略垂直方向若しくはそれに近いことが好ましいことを述べた。具体的には、基板10の基板面に対する柱状体の成長方向は90±30°の範囲内にあることが好ましく、90±10°の範囲内にあることが特に好ましいことを述べた。
【0057】
柱状体の成長方向がかかる範囲にあれば、圧電体膜30の凸部31の側面31Sを、基板10の基板面に対して略垂直方向若しくはそれに近くすることができる。具体的には、圧電体膜30の凸部31の側面31Sの角度θを安定的に、基板10の基板面に対して90±30°の範囲内、好ましくは90±10°の範囲内にすることができる。
【0058】
以上のようにして、圧電素子1が製造される。圧電素子1に振動板50及びインク貯留吐出部材60を取り付けることにより(図示略)、インクジェット式記録ヘッド3が製造される。
【0059】
図3(a)〜(e)に示すように、工程(B)において上部電極40を形成せずに除去用電極41のみを形成し(図3(b))、工程(C)及び工程(D)を実施した後(図3(c)及び図3(d))、上部電極40を形成する工程(E)(図3(e))を実施してもよい。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、ドライエッチングのように高価な装置を要することなく低コストに圧電体膜30を容易にパターニングすることができる。本実施形態によれば、圧電体膜30のパターンの形状精度が良く、選択成長のように成膜時のコンタミネーションの問題なく、圧電体膜30をパターニングすることができる。
【0061】
「インクジェット式記録装置」
図4及び図5を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図4は装置全体図であり、図5は部分上面図である。
【0062】
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)3K,3C,3M,3Yを有する印字部102と、各ヘッド3K,3C,3M,3Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド3K,3C,3M,3Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3である。
【0063】
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図4のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
【0064】
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
【0065】
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
【0066】
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図4上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図4の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
【0067】
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
【0068】
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図5を参照)。各印字ヘッド3K,3C,3M,3Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0069】
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド3K,3C,3M,3Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド3K,3C,3M,3Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
【0070】
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0071】
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0072】
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
【0073】
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット記記録装置100は、以上のように構成されている。
【0074】
(設計変更)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0075】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
【0076】
(実施例1)
Si基板上にスパッタ法により、基板温度350℃の条件で10nm厚のTi膜と150nm厚のIr下部電極とを順次成膜した。得られた基板上に、スパッタ法により2μm厚のベタPZT膜(ベタ圧電体膜)を成膜した。成膜条件は以下の通りとした。
スパッタ装置:Rfスパッタリング装置、
ターゲット組成:Pb1.3(Zr0.52Ti0.48)O
基板温度:550℃、
成膜圧力:1.0Pa、
成膜パワー密度:4.3W/cm
成膜ガス:Ar/O=100/1(モル比)。
【0077】
得られたベタPZT膜のXRF分析を実施したところ、組成はPb1.1(Zr0.52Ti0.48)Oであった。
得られたベタPZT膜のXRD分析を実施したところ、ペロブスカイト構造を有する(100)配向膜であった。XRDパターンを図10に示す。
【0078】
得られたベタPZT膜の断面SEM写真及び表面SEM写真を図6(a)及び図6(b)に各々示す。図6(a)に示すように、得られたベタPZT膜は、基板面に対して略垂直方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であり、その平均柱径は0.3μmであった。図6(b)に示すように、得られたベタPZT膜は多数のグレインからなり、グレイン間に間隙が見られた。個々のグレインは多数の柱状体からなっており、グレイン自身も基板面に対して略垂直方向に延びた構造体であった。得られたベタPZT膜は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜であった。AFMによりベタPZT膜の表面粗さRaを求めたところ、200Åであった。
【0079】
上記ベタPZT膜上に、クラリアント社製のレジスト「AZ9245」を用いて、後記除去用電極の反転パターンのレジストパターンを10μm厚で形成した。このレジストパターン上にPt/Ti膜(Pt:150nm厚/Ti:50nm厚)を蒸着した。その後、この基板をアセトンに浸して、リフトオフ法によりレジストパターン及びPt/Ti膜のレジストパターン上に位置する部分を除去した。以上のようにして、複数の200μmφのドットと複数の100μmφのドットからなるドットパターンのPt/Ti除去用電極を形成した。
【0080】
次いで、各除去用電極にプローブを接触させて、下部電極とすべての除去用電極との間に各々60Vの電圧を印加した。光学顕微鏡により表面観察を行ったところ、すべての除去用電極にクラックが見られた。除去用電極上に粘着テープを付着させて剥離したところ、除去用電極とベタPZT膜の除去用電極の下に位置する部分のみが選択的に剥離され、除去用電極の反転パターンのPZT圧電体膜が得られた。
下部電極と除去用電極との間に電界を印加する前、下部電極と除去用電極との間に電界を印加した後、及びテープ剥離を実施した後の光学顕微鏡写真を各々図7(a)〜図7(c)に示す。
【0081】
パターニング後のPZT膜の斜視SEM像を観察したところ、凸部の側面は基板面に対して略垂直方向であり、パターンの形状精度が良好であった。また、凸部の側面に露出した多数の柱状体は柱状体の界面できれいに切れており、凸部の側面は平滑性が良好であった。斜視SEM写真を図8に示す。
最後に、PZT膜上にPt/Ti上部電極(Pt:150nm厚/Ti:50nm厚)を蒸着して、本発明の圧電素子を得た。
【0082】
(実施例2,3)
ベタPZT膜を成膜する際の基板温度及び成膜圧力を表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして、本発明の圧電素子を得た。
実施例1と同様にXRD分析を実施したところ、得られたベタPZT膜はいずれもペロブスカイト構造を有する(100)配向膜であった。XRDパターンを図10に示す。
実施例1と同様にSEM観察を実施したところ、得られたベタPZT膜は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜であり、得られたベタPZT膜は多数のグレインからなり、グレイン間に間隙が見られた。ベタPZT膜の表面粗さRaを表1に示す。
【0083】
いずれの例においても、実施例1と同様にPZT膜のパターニングを実施できた。パターニング後のPZT膜の断面SEM像を観察したところ、いずれの例においても実施例1と同様に、凸部の側面は基板面に対して略垂直方向であり、パターンの形状精度が良好であった。また、凸部の側面に露出した多数の柱状体は柱状体の界面できれいに切れており、凸部の側面は平滑性が良好であった。
【0084】
(比較例1,2)
ベタPZT膜を成膜する際の基板温度及び成膜圧力を表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして、3.3μm厚のベタPZT膜の成膜を実施した。
実施例1と同様にXRD分析を実施したところ、得られたベタPZT膜はいずれもペロブスカイト構造を有する(100)配向膜であった。XRDパターンを図10に示す。
得られたベタPZT膜の断面SEM写真及び表面SEM写真を図9(a)及び図9(b)に各々示す。得られたベタPZT膜は、基板面に対して略垂直方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であり、その平均柱径は0.3μmであった。
【0085】
得られたベタPZT膜はグレイン成長が抑制されており、多数のグレインが見られたが、グレイン間に間隙がなくグレイン間の密着性が良い緻密な膜構造であった。得られたベタPZT膜は、Thornton zone modelでのzone Tの柱状構造膜であった。ベタPZT膜の表面粗さRaを表1に示す。比較例1,2ではグレイン成長が抑えられているので、実施例1〜3に比較して表面粗さRaが小さくなっている。
【0086】
実施例1と同様に除去用電極を形成し、下部電極と除去用電極との間に80Vの電圧を印加したところ、除去用電極の外周近傍にのみクラックが見られた。実施例1と同様にテープ剥離を実施したところ、除去用電極とベタPZT膜の除去用電極の下に位置する部分を全く剥離することはできず、PZT膜のパターニングができなかった。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の圧電体素子及びその製造方法は、インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ,超音波探触子,及び超音波モータ等に搭載される圧電アクチュエータ、及び強誘電体メモリ等の強誘電体素子に好ましく適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明に係る実施形態の圧電素子及びインクジェット式記録ヘッドの構造を示す断面図
【図2】(a)〜(d)は、本発明に係る実施形態の圧電素子の製造方法を示す工程図
【図3】(a)〜(e)は、本発明に係る実施形態の圧電素子のその他の製造方法を示す工程図
【図4】図1のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図
【図5】図4のインクジェット式記録装置の部分上面図
【図6】(a)は実施例1のベタPZT膜の断面SEM写真、(b)は実施例1のベタPZT膜の表面SEM写真
【図7】(a)は実施例1において下部電極と除去用電極との間に電界を印加する前の光学顕微鏡写真、(b)は実施例1において下部電極と除去用電極との間に電界を印加した後の光学顕微鏡写真、(c)は実施例1においてテープ剥離を実施した後の光学顕微鏡写真
【図8】実施例1のパターニング後の斜視SEM写真
【図9】(a)は比較例1のベタPZT膜の断面SEM写真、(b)は比較例1のベタPZT膜の表面SEM写真
【図10】実施例1,2及び比較例1〜3のXRDパターン
【符号の説明】
【0090】
1 圧電素子
3,3K,3C,3M,3Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
10 基板
20 下部電極
30 圧電体膜
30P ベタ圧電体膜
30N ベタ圧電体膜の不要部分
31 凸部
31S 凸部の側面
40 上部電極
41 除去用電極
60 インクノズル(液体貯留吐出部材)
61 インク室(液体貯留室)
62 インク吐出口(液体吐出口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下部電極と単数又は複数の凸部からなる所定のパターンを有する圧電体膜と上部電極とが順次形成され、前記下部電極と前記上部電極との間に電界が印加されて駆動される圧電素子の製造方法において、
前記下部電極が形成された前記基板上に、パターニングされていないベタ圧電体膜を成膜する工程(A)と、
前記ベタ圧電体膜上に、前記ベタ圧電体膜の不要部分に対応したパターンを有し、前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去するための除去用電極を形成する工程(B)と、
前記下部電極と前記除去用電極との間に電界を印加して、前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分にクラックを発生させる工程(C)と、
前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去する工程(D)とを有することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
工程(B)において、前記除去用電極と同時に、前記所定のパターンを有する圧電体膜に対応したパターンを有し、前記除去用電極とは非導通の前記上部電極を形成することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
工程(D)後に、前記所定のパターンを有する圧電体膜に対応したパターンを有する前記上部電極を形成する工程(E)をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項4】
工程(A)において、前記ベタ圧電体膜として、前記基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜を成膜することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
工程(A)において、前記ベタ圧電体膜として、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜を成膜することを特徴とする請求項4に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項6】
工程(A)において、表面粗さRa≧200Åの前記ベタ圧電体膜を成膜することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項7】
工程(A)において、気相法により前記ベタ圧電体膜を成膜することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項8】
基板上に下部電極と単数又は複数の凸部からなる所定のパターンを有する圧電体膜と上部電極とが順次形成され、前記下部電極と前記上部電極との間に電界が印加されて駆動される圧電素子において、
前記下部電極が形成された前記基板上に、パターニングされていないベタ圧電体膜を成膜する工程(A)と、
前記ベタ圧電体膜上に、前記ベタ圧電体膜の不要部分に対応したパターンを有し、前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去するための除去用電極を形成する工程(B)と、
前記下部電極と前記除去用電極との間に電界を印加して、前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分にクラックを発生させる工程(C)と、
前記除去用電極及び前記ベタ圧電体膜の不要部分を除去する工程(D)とを有する製造方法により製造されたものであることを特徴とする圧電素子。
【請求項9】
前記圧電体膜は、前記基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であることを特徴とする請求項8に記載の圧電素子。
【請求項10】
前記圧電体膜は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜であることを特徴とする請求項9に記載の圧電素子。
【請求項11】
前記圧電体膜は、表面粗さRa≧200Åであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項12】
基板上に下部電極と単数又は複数の凸部からなる所定のパターンを有する圧電体膜と上部電極とが順次形成され、前記下部電極と前記上部電極との間に電界が印加されて駆動される圧電素子において、
前記圧電体膜は、Thornton zone modelにおけるzone Iの柱状構造膜からなることを特徴とする圧電素子。
【請求項13】
前記圧電体膜は、下記一般式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の圧電素子。
一般式ABO・・・(P)
(A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Mg,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,Hf,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する前記電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図10】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−73837(P2010−73837A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238794(P2008−238794)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】