説明

圧電素子の製造方法

【課題】製造工程において受けたダメージを回復して変位量の均一性や信頼性の良好な圧電素子を提供する。
【解決手段】
本発明にかかる圧電素子の製造方法は、基体側の上方に第1電極を形成する工程と、前記第1電極の上方に圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、前記第2電極および前記圧電体層の少なくとも一部をパターニングして、前記第1電極、前記圧電体層、および前記第2電極を有するキャパシタ構造部を形成する工程と、前記キャパシタ構造部の少なくとも一部を被覆する保護膜を形成する工程と、第1のアニールを行う工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造方法、インクジェット式記録ヘッド、およびインクジェットプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
高画質、高速印刷を可能にするプリンターとして、インクジェットプリンターが知られている。インクジェットプリンターは、内容積が変化するキャビティーを備えたインクジェット式記録ヘッドを備え、このヘッドを走査させつつそのノズルからインク滴を吐出することにより、印刷を行うものである。このようなインクジェットプリンター用のインクジェット式記録ヘッドにおけるヘッドアクチュエーターとしては、従来、PZT(Pb(Zr,Ti)O3)に代表される圧電体層を用いた圧電素子が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。また、圧電素子は、インクジェットプリンターの他に、圧電ポンプ、表面弾性波素子、薄膜圧電共振子、周波数フィルタ、発振器、電子回路、および電子機器等のデバイスにおいても用いられる。このような圧電素子は結晶構造を有するため、製造工程において様々なダメージを受けて変位量の均一性や信頼性が失われてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、製造工程において受けたダメージを回復して変位量の均一性や信頼性の良好な圧電素子、ならびに当該圧電素子を含むインクジェット式記録ヘッド、およびインクジェットプリンターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる圧電素子の製造方法は、
(a)基体側の上方に第1電極を形成する工程と、
(b)前記第1電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
(c)前記圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、
(d)前記第2電極および前記圧電体層の少なくとも一部をパターニングして、前記第1電極、前記圧電体層、および前記第2電極を有するキャパシタ構造部を形成する工程と、
(e)前記キャパシタ構造部の少なくとも一部を被覆する保護膜を形成する工程と、
(f)第1のアニールを行う工程と、
(g)前記上部電極と電気的に接続する配線膜を形成する工程と、
を含む。
【0006】
本発明において、特定のA部材(以下、「A部材」という。)の上方に設けられた特定のB部材(以下、「B部材」という。)というとき、A部材の上に直接B部材が設けられた場合と、A部材の上に他の部材を介してB部材が設けられた場合とを含む意味である。
【0007】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(e)は、
(e1)保護膜を成膜する工程と、
(e2)前記保護膜をパターニングする工程と、
を有することができる。
【0008】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記工程(f)における第1のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低いことができる。
【0009】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(e1)と(e2)との間に、
第2のアニールを行う工程をさらに含むことができる。
【0010】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記第2のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低いことができる。
【0011】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(c)と(d)との間に、
第3のアニールを行う工程をさらに含むことができる。
【0012】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記第3のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低いことができる。
【0013】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記工程(b)と(c)との間に、
第4のアニールを行う工程をさらに含むことができる。
【0014】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記第4のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低いことができる。
【0015】
本発明にかかる圧電素子の製造方法において、
前記第1のアニールは、酸素雰囲気で行われることができる。
【0016】
本発明にかかるインクジェット式記録ヘッドは、上述した製造方法により製造された圧電素子を含む。
【0017】
本発明にかかるインクジェットプリンターは、上述したインクジェット式記録ヘッドを含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図3】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図4】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図5】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図6】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図7】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図8】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図9】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図10】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図11】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図12】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図13】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図14】本実施の形態にかかる圧電素子の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図15】第1の変形例にかかる圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図16】第2の変形例にかかる圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図17】第3の変形例にかかる圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図18】実験例にかかる圧電素子の変位量分布を示す図である。
【図19】実験例にかかる圧電素子の変位量低下率を示す図である。
【図20】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図21】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図22】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図23】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図24】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図25】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図26】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図27】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図28】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図29】実験例にかかる圧電素子のヒステリシス特性を示す図である。
【図30】本実施の形態にかかるインクジェット式記録ヘッドの概略構成図である。
【図31】本実施の形態にかかるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図32】本実施の形態にかかるインクジェットプリンターの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
1.圧電素子の製造方法
本実施の形態にかかる圧電素子100の製造方法について説明する。本実施の形態にかかる圧電素子100は、インクジェット式記録ヘッド1000に適用される。図1は、圧電素子100の製造方法を示すフローチャートである。図2〜図14は、本発明の実施形態にかかる圧電素子100およびインクジェット式記録ヘッド1000の製造方法を模式的に示す断面図である。図示した構造は、インクジェット式記録ヘッド1000の要部で
ある圧電動作によって変形する部分、すなわち、圧電素子100(図13、図14参照)を中心として描いてある。ここでは説明の便宜のために、単純な例を示すのであり、本実施形態の構造は、ここで示す構造に限定されるものではない。
【0021】
(1)まず、図2に示すように、基体の一部としての基板10を準備する(ステップS100)。基板10は、たとえばシリコン層12および酸化物層14を有する。酸化物層14は、シリコン層12の上部に酸化処理を施すことによって設けられた酸化シリコンであってもよいし、シリコン層12の上面に公知の方法によって新たに設けられた酸化シリコンその他の酸化物であってもよい。酸化物層14は、熱酸化処理などによって設けることができる。あるいは、基板10の上部に酸化物層14を別途設ける場合は、蒸着、スパッタ等の公知の方法によることができる。
【0022】
(2)次に、図3に示すように、基板10上に弾性体層20を形成する(ステップS100)。弾性体層20は、スパッタ法、真空蒸着、Chemical Vapor Deposition法(CVD法)などの公知の方法で形成することができる。弾性体層20の材質としては、たとえば、酸化ジルコニウム、窒化シリコン、酸化シリコンまたは、酸化アルミニウムなどが好適である。基板10の上面に酸化物層14を設けている場合、弾性体層20の材質は、酸化物層14の材質と同じ材質でも、異なる材質でもよい。たとえば、弾性体層20は、材質を酸化ジルコニウムとし、スパッタ法により、たとえば500nmの厚みに形成することができる。
【0023】
(3)次に、図4に示すように、弾性体層20上に、下部電極層30(第1電極)を形成する(ステップS102)。下部電極層30の形成は、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの公知の方法でおこなうことができる。下部電極層30の材質は、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(たとえば酸化イリジウムなど)、SrRuO3やLaNiO3といった複合酸化物など、を用いることができる。また、下部電極層30は、前記例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。たとえば、下部電極層30は、材質を白金とし、スパッタ法により、たとえば100nmの厚みに形成することができる。
【0024】
(4)次に、図5に示すように、下部電極層30上に、圧電体層40を形成する(ステップS104)。圧電体層40は、ゾル−ゲル法、有機金属熱塗布分解法(MOD法)等の液相法やCVD法を用いて形成される。圧電体層40の材質は、鉛、ジルコニウム、チタンを構成元素として含む酸化物とすることができる。すなわち、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTという)は、圧電性能が良好なため、圧電体層40の材質として好適である。たとえば、ゾル−ゲル法を用いる場合には、Pb、Zr、およびTiをそれぞれ含有する有機金属化合物を溶媒に溶解させた溶液を下部電極層30上に塗布し、その後、乾燥工程および脱脂工程、および結晶化アニール工程を経ることにより、圧電体層40を形成することができる。乾燥工程は、たとえば100℃〜200℃程度で行うことができる。脱脂工程は、たとえば300℃〜400℃程度で行うことができる。結晶化アニールは、たとえば600℃〜800℃程度で行うことができる。以上の一連の工程を繰り返すことにより、所望の膜厚の圧電体層40を得ることができる。圧電体層40の膜厚は、たとえば50nm〜1500nmであることができる。
【0025】
(5)次に、図6に示すように、圧電体層40上に、上部電極層50(第2電極)を形成する(ステップS106)。上部電極層50の形成は、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの公知の方法でおこなうことができる。上部電極層50の材質は、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(たとえば酸化イリジウムなど)、SrRuO3やLaNiO3といった複合酸化物など、を用いることができる。また、上部電極層50は、前記例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であっ
てもよい。たとえば、上部電極層50は、材質を白金とし、スパッタ法により、たとえば100nmの厚みに形成することができる。このようにして、下部電極層30、圧電体層40、および上部電極層50からなるキャパシタ構造部60を形成することができる。
【0026】
(6)次に、図7に示すように、強誘電体層40および上部電極層50をパターニングすることにより、所定の形状の強誘電体層42および上部電極層52と下部電極層30とを含むキャパシタ構造部62を形成する(ステップS108)。パターニングは、公知のフォトリソグラフィ技術およびドライエッチングまたはイオンミリング等によっておこなうことができる。
【0027】
(7)次に、図8に示すように、キャパシタ構造部62の上面および側面に保護膜70を形成する(ステップS110)。保護膜70の成膜方法としては、公知のスパッタ法、CVD法などを用いることができる。保護膜70の材質としては、たとえば酸化アルミニウムや酸化シリコンを用いることができる。
【0028】
(8)次に、図9に示すように、保護膜70をパターニングする(ステップS112)。パターニングは、たとえば、上部電極層52の上面を露出するために行われる。保護膜70をパターニングすることによって、保護膜70の上方に形成される配線膜80と、上部電極層52とを電気的に接続させることができる。パターニングは、公知のフォトリソグラフィ技術およびドライエッチングまたはイオンミリング等によっておこなうことができる。
【0029】
(9)次に、アニール(第1のアニール)を行う(ステップS114)。アニールは、たとえば拡散炉またはRTA装置を用いて行うことができる。拡散炉を用いることにより、基体10表面を均一に加熱することができる。アニールの温度は、たとえば450℃〜600℃であることができ、上述した圧電体層40を形成する際の結晶化アニールの温度より低いことが好ましい。また、アニールは、酸素雰囲気において行われる。酸素雰囲気において加熱することにより、圧電体層42の酸素欠損が補われ、結晶性を良好に回復することができる。また、アニールは、窒素雰囲気等の不活性なガス雰囲気で行われてもよい。アニールは、拡散炉を用いた場合、たとえば30分〜60分程度行われる。
【0030】
(10)次に、図10に示すように、配線膜80を形成する(ステップS116)。配線膜80の形成は、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの公知の方法でおこなうことができる。配線膜80の材質は、ニッケル、クロム、金などの各種の金属またはこれらの化合物を用いることができる。また、配線膜80は、前記例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。たとえば、配線膜80は、ニッケルクロムと、その上に金が積層されたものであることができる。
【0031】
(11)次に、図11に示すように、配線膜80をパターニングして(ステップS116)、配線膜82を形成する。パターニングは、公知のフォトリソグラフィ技術およびドライエッチングまたはイオンミリング等によっておこなうことができる。配線膜80をパターニングすることにより、複数のキャパシタ構造部62を互いに断線させることができ、キャパシタ構造部62毎に異なる動作を可能とすることができる。
【0032】
(12)次に、図12に示すように、封止板90を基体10の上方に固定する(ステップS118)。封止板90は、キャパシタ構造部62を封止し、かつ基板10、弾性体層20、キャパシタ構造部62を支持することができる。封止板90は、たとえばシリコン等の材質からなることができる。封止板90は、キャパシタ構造部62と接触するように固定されてもよいし、接触しないように固定されていてもよい。
【0033】
(13)次に、図13に示すように、基板10に圧力発生室16を形成する(ステップS120)。圧力発生室16は、基板10の下面から、公知の異方性エッチング技術を用いて凹状の孔を形成することにより得られる。
【0034】
その後、図14に示すように、基板10の下にノズルプレート18を接合する。ノズルプレート18は、開口部を有するステンレス板などを用いることができる。圧力発生室16は、基板10にキャパシタ構造部62に対応して、その下方に形成される。圧力発生室16は、インクジェット式記録ヘッド1000が駆動する際、液体が満たされる。圧力発生室16に満たされた液体は、圧電素子100の動作により加圧される。圧力発生室16は、前記圧力により、ノズルプレート18の開口部を通じて、前記液体を吐出させる機能を有する。
【0035】
以上の工程により、圧電素子100を有するインクジェット式記録ヘッド1000を製造することができる。本実施の形態にかかるインクジェット式記録ヘッド1000の製造方法によれば、保護膜72の形成後にアニールを行っている(ステップS114)ため、上部電極層50および圧電体層40のエッチングの際、ならびに保護膜70の成膜およびエッチングの際にキャパシタ構造部62が受けたダメージを回復することができる。さらに、本実施の形態では、保護膜70のパターニング後にアニールを行っていることから、熱が保護膜72の内側のキャパシタ構造部62に伝わりやすく、効率的にダメージを回復させることができる。
【0036】
2.変形例
次に変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。
【0037】
2.1.第1の変形例
図15は、第1の変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。第1の変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、保護膜70のパターニング前にアニールを行う工程をさらに含む点で、上述したインクジェット式記録ヘッドの製造方法と異なる。具体的な製造工程は、以下のとおりである。
【0038】
まず、上述した1.の工程(1)〜(7)を行う(ステップS200〜S210)。次に、アニール(第2のアニール)を行う(ステップS211)。アニールは、たとえば拡散炉またはRTA装置を用いて行うことができる。アニールは、拡散炉を用いた場合、たとえば30分〜60分程度行われる。拡散炉を用いることにより、基体10表面を均一に加熱することができる。アニールの温度は、たとえば450℃〜600℃であることができ、上述した圧電体層40を形成する際の結晶化アニールの温度より低いことが好ましい。また、アニールは、酸素雰囲気において行われる。酸素雰囲気において加熱することにより、圧電体層42の酸素欠損が補われ、結晶性を良好に回復することができる。また、アニールは、窒素雰囲気等の不活性なガス雰囲気で行われてもよい。
【0039】
次に、上述した1.の工程(8)〜(13)を行う(ステップS212〜S220)ことにより、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0040】
ステップS211のアニールを行うことにより、上部電極層50および圧電体層40のエッチングの際、ならびに保護膜70の成膜の際にキャパシタ構造部62が受けたダメージを回復することができる。
【0041】
2.2.第2の変形例
図16は、第2の変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。第2の変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、保護
膜70のパターニング前にアニールを行う工程と、上部電極層50の成膜後にアニールを行う工程と、をさらに含む点で、上述したインクジェット式記録ヘッドの製造方法と異なる。具体的な製造工程は、以下のとおりである。
【0042】
まず、上述した1.の工程(1)〜(5)を行う(ステップS300〜S306)。
【0043】
次に、アニール(第3のアニール)を行う(ステップS307)。アニールは、たとえば拡散炉またはRTA装置を用いて行うことができる。アニールは、拡散炉を用いた場合、たとえば60分〜180分程度行われる。拡散炉を用いることにより、基体10表面を均一に加熱することができる。アニールの温度は、たとえば300℃〜800℃であることができ、上述した圧電体層40を形成する際の結晶化アニールの温度より低いことが好ましい。このような温度でアニールを行うことにより、より確実に圧電体層40の結晶性を良好な状態に回復することができる。また、アニールは、酸素雰囲気において行われてもよいし、窒素雰囲気等の不活性なガス雰囲気で行われてもよい。
【0044】
次に、上述した1.の工程(6)、(7)を行う(ステップS308〜S310)。次に、アニール(第2のアニール)を行う(ステップS311)。アニールは、たとえば拡散炉またはRTA装置を用いて行うことができる。アニールは、拡散炉を用いた場合、たとえば30分〜60分程度行われる。拡散炉を用いることにより、基体10表面を均一に加熱することができる。アニールの温度は、たとえば450℃〜600℃であることができ、上述した圧電体層40を形成する際の結晶化アニールの温度より低いことが好ましい。また、アニールは、酸素雰囲気において行われる。酸素雰囲気において加熱することにより、圧電体層42の酸素欠損が補われ、結晶性を良好な状態に回復することができる。また、アニールは、窒素雰囲気等の不活性なガス雰囲気で行われてもよい。
【0045】
次に、上述した1.の工程(8)〜(13)を行う(ステップS312〜S320)ことにより、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0046】
ステップS311のアニールを行うことにより、上部電極層50および圧電体層40のエッチングの際、ならびに保護膜70の成膜の際にキャパシタ構造部62が受けたダメージを回復することができる。またステップS307のアニールを行うことにより、圧電体層40の酸素欠損を補うことができる。
【0047】
2.3.第3の変形例
図17は、第3の変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。第3の変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、保護膜70のパターニング前にアニールを行う工程と、上部電極層50の成膜後にアニールを行う工程と、圧電体層40の成膜後にアニールを行う工程と、をさらに含む点で、上述したインクジェット式記録ヘッドの製造方法と異なる。具体的な製造工程は、以下のとおりである。
【0048】
まず、上述した1.の工程(1)〜(4)を行う(ステップS400〜S404)。
【0049】
次に、アニール(第4のアニール)を行う(ステップS405)。アニールは、たとえば拡散炉またはRTA装置を用いて行うことができる。アニールは、拡散炉を用いた場合、たとえば60分〜180分程度行われる。拡散炉を用いることにより、基体10表面を均一に加熱することができる。アニールの温度は、たとえば300℃〜800℃であることができ、上述した圧電体層40を形成する際の結晶化アニールの温度より低いことが好ましい。このような温度でアニールを行うことにより、より確実に圧電体層40の結晶性を良好な状態に回復することができる。また、アニールは、酸素雰囲気において行われて
もよいし、窒素雰囲気等の不活性なガス雰囲気で行われてもよい。
【0050】
次に、上述した1.の工程(5)を行う(ステップS406)。次に、アニール(第3のアニール)を行う(ステップS407)。アニールは、たとえば拡散炉またはRTA装置を用いて行うことができる。アニールは、拡散炉を用いた場合、たとえば60分〜180分程度行われる。拡散炉を用いることにより、基体10表面を均一に加熱することができる。アニールの温度は、たとえば300℃〜800℃であることができ、上述した圧電体層40を形成する際の結晶化アニールの温度より低いことが好ましい。このような温度でアニールを行うことにより、より確実に圧電体層40の結晶性を良好な状態に回復することができる。また、アニールは、酸素雰囲気において行われてもよいし、窒素雰囲気等の不活性なガス雰囲気で行われてもよい。
【0051】
次に、上述した1.の工程(6)、(7)を行う(ステップS308〜S310)。次に、アニール(第2のアニール)を行う(ステップS411)。アニールは、たとえば拡散炉またはRTA装置を用いて行うことができる。アニールは、拡散炉を用いた場合、たとえば30分〜60分程度行われる。拡散炉を用いることにより、基体10表面を均一に加熱することができる。アニールの温度は、たとえば450℃〜600℃であることができ、上述した圧電体層40を形成する際の結晶化アニールの温度より低いことが好ましい。また、アニールは、酸素雰囲気において行われる。酸素雰囲気において加熱することにより、圧電体層42の酸素欠損が補われ、結晶性を良好な状態に回復することができる。また、アニールは、窒素雰囲気等の不活性なガス雰囲気で行われてもよい。
【0052】
次に、上述した1.の工程(8)〜(13)を行う(ステップS412〜S420)ことにより、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0053】
ステップS411のアニールを行うことにより、上部電極層50および圧電体層40のエッチングの際、ならびに保護膜70の成膜の際にキャパシタ構造部62が受けたダメージを回復することができる。またステップS407のアニールおよびステップS405のアニールを行うことにより、圧電体層40の酸素欠損を補うことができる。
【0054】
3.実験例
3.1.圧電素子の変位量分布および変位量の低下率
圧電素子の変位量分布および変位量の低下率を調べた。変位量を測定するためのサンプルは以下のように作製した。
【0055】
3.1.1.サンプル1の作製
まず、シリコン基板を準備し、弾性体層として酸化ジルコニウムをスパッタ法によりシリコン基板上に成膜した。次いで、白金からなる下部電極層を弾性体層上にスパッタ法により成膜した。次に、PZTからなる圧電体層を下部電極層上にゾルゲル法により成膜した。ここで結晶化アニールは、700℃程度で行った。
【0056】
次に、白金からなる上部電極層を圧電体層上にスパッタ法により成膜した。次いで上部電極層上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行い、上部電極層および圧電体層のパターニングを行った。次いで、酸化アルミニウムからなる保護膜を成膜して、その上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行った。
【0057】
次にシリコン基板を拡散炉に入れてアニール(第1のアニール)を行った。アニールは、550℃で1時間行った。次いで、配線膜をスパッタ法により成膜して、パターニングを行い、サンプル1を作製した。
【0058】
3.1.2.サンプル2の作製
まず、シリコン基板を準備し、弾性体層として酸化ジルコニウムをスパッタ法によりシリコン基板上に成膜した。次いで、白金からなる下部電極層を弾性体層上にスパッタ法により成膜した。次に、PZTからなる圧電体層を下部電極層上にゾルゲル法により成膜した。ここで結晶化アニールは、700℃程度で行った。
【0059】
次に、白金からなる上部電極層を圧電体層上にスパッタ法により成膜した。次いで上部電極層上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行い、上部電極層および圧電体層のパターニングを行った。次いで、酸化アルミニウムからなる保護膜を成膜した。次にシリコン基板を拡散炉に入れてアニール(第2のアニール)を行った。アニールは、550℃で1時間行った。次に、保護膜上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行った。
【0060】
次いで、配線膜をスパッタ法により成膜して、パターニングを行い、サンプル2を作製した。
【0061】
3.1.3.サンプル3の作製
まず、シリコン基板を準備し、弾性体層として酸化ジルコニウムをスパッタ法によりシリコン基板上に成膜した。次いで、白金からなる下部電極層を弾性体層上にスパッタ法により成膜した。次に、PZTからなる圧電体層を下部電極層上にゾルゲル法により成膜した。ここで結晶化アニールは、700℃程度で行った。
【0062】
次にシリコン基板を拡散炉に入れてアニール(第4のアニール)を行った。アニールは、700℃で3時間行った。
【0063】
次に、白金からなる上部電極層を圧電体層上にスパッタ法により成膜した。次いで上部電極層上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行い、上部電極層および圧電体層のパターニングを行った。次いで、酸化アルミニウムからなる保護膜を成膜した。次に、保護膜上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行った。
【0064】
次いで、配線膜をスパッタ法により成膜して、パターニングを行い、サンプル3を作製した。
【0065】
3.1.4.サンプル4の作製
まず、シリコン基板を準備し、弾性体層として酸化ジルコニウムをスパッタ法によりシリコン基板上に成膜した。次いで、白金からなる下部電極層を弾性体層上にスパッタ法により成膜した。次に、PZTからなる圧電体層を下部電極層上にゾルゲル法により成膜した。ここで結晶化アニールは、700℃程度で行った。
【0066】
次に、白金からなる上部電極層を圧電体層上にスパッタ法により成膜した。次いで上部電極層上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行い、上部電極層および圧電体層のパターニングを行った。次いで、酸化アルミニウムからなる保護膜を成膜した。次に、保護膜上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行った。
【0067】
次いで、配線膜をスパッタ法により成膜して、パターニングを行い、サンプル4を作製した。
【0068】
3.1.5.変位量分布
以上のようにして作製したサンプル1〜サンプル4について、シリコン基板の面内方向における位置毎に変位量を測定した。その結果を図18に示す。図18において、縦軸は、各サンプルの変位量の最大値を1として規格化した値を示し、横軸は、基板上における測定位置を示す。
【0069】
図18によれば、サンプル1の変位量分布が最も面内均一性が高く、次いでサンプル2およびサンプル3の変位量分布が最も面内均一性が良好で、サンプル4の変位量分布が最も面内均一性が低いことが認められた。これによれば、保護膜のパターニング後にアニールを行うことによって、変位量の面内均一性が最も向上することが確認された。また保護膜形成後および圧電膜形成後にアニールを行うことによっても、変位量の面内均一性が向上することが確認された。
【0070】
3.1.6.変位量の低下率
サンプル1〜サンプル4について、信頼性試験(パルス耐久試験)を行うことにより変位量の低下率を測定した。信頼性試験においては、+15.5V→−2V→+33V→+8V→+15.5Vのパルスバイアスを、周波数50kHzで各サンプルに印加し、パルス回数が50億回、100億回、および190億回の時点で変位量を測定した。測定結果から、電圧を印加する前の変位量に対する低下率を算出した。その結果を図19に示す。
【0071】
図19によれば、サンプル4の変位量低下率は、約6.8%程度であったが、サンプル1〜サンプル3のいずれも変位量低下率が3%以内に抑えられていた。したがって、アニールを行うことにより、圧電素子の変位量低下率が抑制され、信頼性が向上することが確認された。
【0072】
3.2.サンプル毎のヒステリシス特性
3.1.において作製したサンプル1、サンプル2、サンプル4についてヒステリシス特性を測定した。測定結果を示すTVS曲線を図20〜図24に示す。図20は、サンプル1のTVS曲線を示す。図21は、サンプル2のTVS曲線を示す。図22〜図24は、サンプル4のTVS曲線を示し、図22は上部電極のエッチング後の測定結果であり、図23は保護膜成膜後の測定結果であり、図24は保護膜エッチング後の測定結果である。
【0073】
図22〜図24によれば、上部電極のエッチング後にその後のプロセスを経ることによって、ダブルピークが発生し、徐々に特性が劣化していることがわかる。これに対し、図20および図21によれば、アニールを行ったサンプル1およびサンプル2のTVS曲線ではダブルピークが解消し、特性が回復していることが確認された。
【0074】
3.3.ヒステリシス特性のアニール温度依存性
以下のように、サンプル5を作製して複数の温度でアニールを行い、ヒステリシス特性を調べた。
【0075】
まず、シリコン基板を準備し、弾性体層として酸化ジルコニウムをスパッタ法によりシリコン基板上に成膜した。次いで、白金からなる下部電極層を弾性体層上にスパッタ法により成膜した。次に、PZTからなる圧電体層を下部電極層上にゾルゲル法により成膜した。ここで結晶化アニールは、700℃程度で行った。
【0076】
次に、白金からなる上部電極層を圧電体層上にスパッタ法により成膜した。次いで上部電極層上に所定の形状のフォトレジストを形成し、そのフォトレジストをマスクとしてド
ライエッチングを行い、上部電極層および圧電体層のパターニングを行った。
【0077】
次にシリコン基板を拡散炉に入れてアニール(第3のアニール)を行った。アニールは、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃で5分間行ったサンプルをそれぞれサンプル5〜9とし、それぞれのアニール前およびアニール後のヒステリシス特性を図25〜図29に示す。
【0078】
図25〜図29によれば、550℃でアニールを行ったサンプル5については、アニールすることによって、ヒステリシス特性が向上したことが確認された。これに対し、650℃以上のアニール温度では、ヒステリシス特性の向上はみられなかった。したがって、特性を向上させるためには、600℃以下のアニール温度が好ましく、さらに550℃程度がより好ましいことが確認された。
【0079】
4.インクジェット式記録ヘッドの全体構造
次に、圧電素子100を用いたインクジェット式記録ヘッドの全体構成について説明する。図30は、インクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す側断面図であり、図31は、このインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。なお、図31は、通常使用される状態とは上下逆に示したものである。
【0080】
インクジェット式記録ヘッド(以下、「ヘッド」ともいう)500は、図30に示すように、ヘッド本体542と、ヘッド本体542の上に設けられた圧電部540と、を備える。なお、図30に示した圧電部540は、圧電素子100における下部電極層30、圧電体層42、および上部電極層52に相当する。本実施の形態にかかるインクジェット式記録ヘッドおいて、圧電素子100は、圧電アクチュエータとして機能することができる。圧電アクチュエータとは、ある物質を動かす機能を有する素子、即ち電圧を印加することにより機械的ひずみを発生させる素子である。
【0081】
また、圧電素子100における酸化物層14および弾性体層20は、図30において弾性膜550に相当する。また、基板10はヘッド本体542の要部を構成するものとなっている。
【0082】
すなわち、ヘッド500は、図31に示すようにノズルプレート510と、インク室基板520と、弾性膜550と、弾性膜550に接合された圧電部(振動源)540とを備え、これらが基体560に収納されて構成されている。なお、このヘッド500は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成している。
【0083】
ノズルプレート510は、例えばステンレス製の圧延プレート等で構成されたもので、インク滴を吐出するための多数のノズル511を一列に形成したものである。これらノズル511間のピッチは、印刷精度に応じて適宜に設定されている。
【0084】
ノズルプレート510には、インク室基板520が固着(固定)されている。インク室基板520は、上述のシリコン基板12によって形成されたものである。インク室基板520は、ノズルプレート510、側壁(隔壁)522、および後述する弾性膜550によって、複数のキャビティー(インクキャビティー)521と、リザーバ523と、供給口524と、を区画形成したものである。リザーバ523は、インクカートリッジ631(図23参照)から供給されるインクを一時的に貯留する。供給口524によって、リザーバ523から各キャビティー521にインクが供給される。
【0085】
キャビティー521は、図30および図31に示すように、各ノズル511に対応して配設されている。キャビティー521は、後述する弾性膜550の振動によってそれぞれ
容積可変になっている。キャビティー521は、この容積変化によってインクを吐出するよう構成されている。
【0086】
インク室基板520のノズルプレート510と反対の側には弾性膜550が配設されている。さらに弾性膜550のインク室基板520と反対の側には複数の圧電部540が設けられている。弾性膜550の所定位置には、図31に示すように、弾性膜550の厚さ方向に貫通して連通孔531が形成されている。連通孔531により、後述するインクカートリッジ631からリザーバ523へのインクの供給がなされる。
【0087】
各圧電部540は、後述する圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。すなわち、各圧電部540はそれぞれ振動源(ヘッドアクチュエーター)として機能する。弾性膜550は、圧電部540の振動(たわみ)によって振動し(たわみ)、キャビティー521の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0088】
基体560は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で形成されている。図31に示すように、この基体560にインク室基板520が固定、支持されている。
【0089】
本実施の形態にかかるインクジェット式記録ヘッド500によれば、上述したように、圧電部540にクラックが発生しにくいため信頼性が高く、良好な圧電特性を有し、効率的なインクの吐出が可能となっている。したがって、ノズル511の高密度化などが可能となり、高密度印刷や高速印刷が可能となる。さらには、ヘッド全体の小型化を図ることができる。
【0090】
5.インクジェットプリンター
次に、上述のインクジェット式記録ヘッド500を備えたインクジェットプリンターについて説明する。図32は、本発明のインクジェットプリンター600を、紙等に印刷する一般的なプリンターに適用した場合の一実施形態を示す概略構成図である。なお、以下の説明では、図32中の上側を「上部」、下側を「下部」と言う。
【0091】
インクジェットプリンター600は、装置本体620を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ621を有し、下部前方に記録用紙Pを排出する排出口622を有し、上部面に操作パネル670を有する。
【0092】
装置本体620の内部には、主に、往復動するヘッドユニット630を備えた印刷装置640と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置640に送り込む給紙装置650と、印刷装置640および給紙装置650を制御する制御部660とが設けられている。
【0093】
印刷装置640は、ヘッドユニット630と、ヘッドユニット630の駆動源となるキャリッジモータ641と、キャリッジモータ641の回転を受けて、ヘッドユニット630を往復動させる往復動機構642とを備えている。
【0094】
ヘッドユニット630は、その下部に、上述の多数のノズル511を備えるインクジェット式記録ヘッド500と、このインクジェット式記録ヘッド500にインクを供給するインクカートリッジ631と、インクジェット式記録ヘッド500およびインクカートリッジ631を搭載したキャリッジ632とを有する。
【0095】
往復動機構642は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸643と、キャリッジガイド軸643と平行に延在するタイミングベルト644とを有する。キャリッジ632は、キャリッジガイド軸643に往復動自在に支持されるととも
に、タイミングベルト644の一部に固定されている。キャリッジモータ641の作動により、プーリを介してタイミングベルト644を正逆走行させると、キャリッジガイド軸643に案内されて、ヘッドユニット630が往復動する。この往復動の際に、インクジェット式記録ヘッド500から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0096】
給紙装置650は、その駆動源となる給紙モータ651と、給紙モータ651の作動により回転する給紙ローラ652とを有する。給紙ローラ652は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ652aと、駆動ローラ652bとで構成されており、駆動ローラ652bは、給紙モータ651に連結されている。
【0097】
本実施の形態にかかるインクジェットプリンター600によれば、信頼性が高く高性能でノズルの高密度化が可能なインクジェット式記録ヘッド500を備えているので、高密度印刷や高速印刷が可能となる。
【0098】
なお、本発明のインクジェットプリンター600は、工業的に用いられる液滴吐出装置として用いることもできる。その場合に、吐出するインク(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整して使用することができる。
【0099】
6.上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【0100】
また、上述した実施形態に係る圧電素子は、アクチュエータ、インクジェット式記録ヘッド、インクジェットプリンターの他に、たとえばジャイロセンサ等のジャイロ素子、FBAR(film bulk acoustic resonator)型やSMR(solid mounted resonator)型等
のBAW(bulk acoustic wave)フィルタ、超音波モータなどに適用されることができる。本発明の実施形態に係る圧電素子は、上述したように良好な圧電特性を有し、信頼性が高いため、各種の用途に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0101】
10 基板、12 シリコン層、14 酸化物層、20 弾性体層、30 下部電極層、32 下部電極層、40 圧電体層、42 圧電体層、50 上部電極層、52 上部電極層、62 キャパシタ構造部、70 保護膜、72 保護膜、80 配線膜、82 配線膜、90 封止板、100 圧電素子、500 インクジェット式記録ヘッド、510
ノズル板、511 ノズル、520 インク室基板、521 キャビティー、522 側壁、523 リザーバ、524 供給口、531 連通孔、540 圧電アクチュエータ、542 ヘッド本体、550 弾性板、560 基体、600 インクジェットプリンター、620 装置本体、621 トレイ、622 排出口、630 ヘッドユニット、631 インクカートリッジ、632 キャリッジ、640 印刷装置、641 キャリッジモータ、642 往復動機構、643 キャリッジガイド軸、644 タイミングベルト、650 給紙装置、651 給紙モータ、652 給紙ローラ、660 制御部、670 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基体側の上方に第1電極を形成する工程と、
(b)前記第1電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
(c)前記圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、
(d)前記第2電極および前記圧電体層の少なくとも一部をパターニングして、前記第1電極、前記圧電体層、および前記第2電極を有するキャパシタ構造部を形成する工程と、
(e)前記キャパシタ構造部の少なくとも一部を被覆する保護膜を形成する工程と、
(f)第1のアニールを行う工程と、
(g)前記上部電極と電気的に接続する配線膜を形成する工程と、
を含む、圧電素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(e)は、
(e1)保護膜を成膜する工程と、
(e2)前記保護膜をパターニングする工程と、
を有する、圧電素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記工程(f)における第1のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低い、圧電素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記工程(e1)と(e2)との間に、
第2のアニールを行う工程をさらに含む、圧電素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記第2のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低い、圧電素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記工程(c)と(d)との間に、
第3のアニールを行う工程をさらに含む、圧電素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記第3のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低い、圧電素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記工程(b)と(c)との間に、
第4のアニールを行う工程をさらに含む、圧電素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記工程(b)は、
前記圧電体層の前駆体溶液を前記第1電極の上方に塗布する工程と、
前記前駆体溶液の結晶化アニールを行う工程と、
を有し、
前記第4のアニールの温度は、前記結晶化アニールの温度より低い、圧電素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記第1のアニールは、酸素雰囲気で行われる、圧電素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10に記載の製造方法により製造された圧電素子を含む、インクジェット式記録ヘッド。
【請求項12】
請求項11に記載のインクジェット式記録ヘッドを含む、インクジェットプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図18】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2013−77827(P2013−77827A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−264698(P2012−264698)
【出願日】平成24年12月3日(2012.12.3)
【分割の表示】特願2007−84619(P2007−84619)の分割
【原出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】