地上デジタル送信装置
【課題】OFDM方式の送信装置に設定される遅延時間が変化してもSFN伝送に破綻の虞が生じないようにした地上デジタル送信装置を提供すること。
【解決手段】SFN伝送のための遅延装置3A、3Bを含む1号と2号の2系統の送信設備を備え、同軸切替器7を切替制御器9により制御し、送信設備を現用側と待機側に切替える方式の地上デジタル送信装置において、OFDM変調器1A、1Bの出力からBPF6A、6Bの出力までの信号の伝送時間を算出して遅延時間を監視する遅延時間監視装置20を設け、遅延時間が予め設定してある判定値以上になったとき、遅延時間アラームが切替制御器9に供給され、送信設備の現用側と待機側の切替えが実行されるようにした。
【解決手段】SFN伝送のための遅延装置3A、3Bを含む1号と2号の2系統の送信設備を備え、同軸切替器7を切替制御器9により制御し、送信設備を現用側と待機側に切替える方式の地上デジタル送信装置において、OFDM変調器1A、1Bの出力からBPF6A、6Bの出力までの信号の伝送時間を算出して遅延時間を監視する遅延時間監視装置20を設け、遅延時間が予め設定してある判定値以上になったとき、遅延時間アラームが切替制御器9に供給され、送信設備の現用側と待機側の切替えが実行されるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OFDM方式のデジタル送信装置に係り、特に、2系統の送信設備を備え、現用側と待機側に切替えるようにした地上デジタル送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上波デジタル放送では、SFN(Single Frequency Network)方式と呼ばれる単一搬送波によるシステム構築が可能である。
そこで、通常、OFDM(直交周波数多重変調)方式により同一のプログラムを複数の送信所から一斉に送信し、必要とする放送エリアの設定が得られるようにしている。
ところで、この場合、放送局などのプログラム源から複数の送信所に同一のプログラムを伝送する必要があるが、このときTTL(Transmitter to Transmitter Link)と呼ばれる中継リンクが従来から用いられている。
【0003】
ここで、図17は、このTTLによるTS伝送を用いた従来技術による送信所の一例で、この場合、1号系と2号系の2系統の送信装置を用意し、必要に応じて現用側と待機側に切り替えて使用するようになっており、図では、上側が1号系の送信装置であり、下側が2号系の送信装置であって、放送局などのプログラム源から親送信所(図示してない)を介して送信された中継用の電波SHF1は、1号TTL受信装置1Aと2号TTL受信装置1Bにより夫々受信されるようになっている。
そして、この結果、1号TTL受信装置1Aと2号TTL受信装置1Bから夫々放送TS信号と同期信号(CLK)、それにフレーム同期信号が出力され、1号OFDM変調器2Aと2号OFDM変調器2Bに供給される。
なお、ここでTSとは、OFDM変調方式におけるトランスポート・ストリーム(Transport Stream)のことである。
【0004】
1号OFDM変調器2Aと2号OFDM変調器2Bでは、入力された各信号をIF信号(中間周波信号)に変換し、1号IF遅延装置3Aと2号IF遅延装置3Bに夫々供給する。
1号IF遅延装置3Aと2号IF遅延装置3Bでは、入力されたIF信号に固定値Δtの遅延を与え、それらを1号送信変換器4Aと2号送信変換器4Bに供給する。
そこで、1号送信変換器4Aと2号送信変換器4Bは、遅延されたIF信号を入力してUHF帯のテレビチャンネルの周波数に変換し、1号電力増幅器5Aと2号電力増幅器5Bに供給し、この結果、所望の電力に増幅されたUHF信号が、1号BPF(バンドパスフィルタ)6Aと2号BPF6Bに入力され、ここでスプリアス(不要輻射成分)が除去され、同軸切替器7により一方がアンテナ8に取り出される。
【0005】
この結果、UHF用のアンテナ8からUHF帯の放送電波UHF1が輻射され、地上デジタル対応の受像機による受信が可能にされるが、このとき同軸切替器7は、切替制御器9から与えられる制御信号に応じて1号系と2号系の切り替えを行い、一方を現用側の送信装置として選択し、他方を待機側として選択する。
このため、1号系と2号系の各送信装置を構成している機器は、各々が自己診断機能を備え、機能障害が発生したらアラームを発生するように構成してある。
【0006】
但し、1号BPF6Aと2号BPF6Bは、通常、受動素子だけで構成されるので、機能障害が発生する確率が極めて低いため、この従来技術では、自己診断機能は付与してない。
そして、切替制御器9は、いずれかのアラーム信号が入力されたら、そのとき現用側になっていた送信装置から待機側の送信装置に同軸切替器7を切り替えるように構成してある。
【0007】
ところで、この例の場合、1号TTL受信装置1Aと2号TTL受信装置1Bから出力される放送TS信号と同期信号(CLK)、それにフレーム同期信号は、上記した2系統の送信装置だけではなく、夫々1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bにも供給されている。
これにより、1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bの各々からSHF帯の送信電力がSHF切替器11を経由してSHF用のアンテナ12に供給されている。
【0008】
そこで、この結果、アンテナ12からSHF帯の中継用電波SHF2が輻射されるようになっている。
なお、このとき1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bの双方を設け、SHF切替器11により切り替えるようになっているのは、上記したUHF側と同じく、現用側と待機側をもったシステムとするためである。
【0009】
次に、1号系と2号系の各送信装置にIF遅延装置3A、3Bが設けられ、信号に遅延を与えている理由について、図18により説明する。
上記したように、地上波デジタル放送では、SFN方式によるシステム構築が可能である。そこで、複数の送信所、例えば図18に示すように、送信所A、送信所Bを設置し、これら双方から同じ搬送周波数で同じプログラムの放送電波UHF1を送信し、サービスエリアの拡大を図るようにしている。
【0010】
しかし、このとき、送信所AによるサービスエリアSAと送信所BによるサービスエリアSBが重複した領域、すなわちSFN領域が生じてしまうことがあり、この場合、SFN領域では、送信所Aからの電波と送信所Bからの電波の双方が同一の受信装置(受像機)で受信できるようになるが、しかし、この場合、送信所Aからの電波と送信所Bからの電波に、OFDM方式に特有の制約が生じてしまう。
【0011】
この特有の制約とは、送信所Aから電波がSFN領域内に到達するまでの時間と、送信所Bから電波がSFN領域内に到達するまでの時間の差が、OFDM変調方式におけるガードインターバル以内に収まっているようにしなければならないということである。
何故なら、2波の遅延時間差がガードインターバルを超えるとシンボル間干渉が生じてSFN伝送に破綻を来し、SFN領域内では放送プログラムが受信できなくなってしまうからである。
【0012】
ここで、図2から明らかなように、送信所Bは、SHF帯の中継用電波SHF2により放送プログラムを一旦、送信所Aから受信し、それを放送電波UHF1によりサービスエリアSBに送信しており、従って、その分、送信所BからSFN領域内に到達する電波は、送信所AからSFN領域内に到達する電波に比較して遅れてしまうので、これが遅延時間差Δtとなる。
そこで、図1に示したように、1号系と2号系の各送信装置にIF遅延装置3A、3Bを設け、送信所Aから送信される放送電波UHF1に遅延時間差Δtに相当する遅れを与え、SFN伝送に破綻が生じないようにしているのである。
【0013】
なお、本発明の先行技術については、例えば特許文献1と特許文献2の開示を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−72763号公報
【特許文献2】特開2005−252656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記従来技術は、SFN領域の存在に対応して信号に送信信号に予め所望の遅延を与えておく方式の地上デジタル送信装置において、遅延時間の監視について配慮がされておらず、遅延時間が所望値から変化したとしても放置されてしまうというシステム上の問題があった。
OFDM方式では、遅延時間が変化し、ずれ量が限度を越えると、上記したように、SFN領域では画像が受信できなくなるという問題が生じてしまうからである。
【0016】
本発明の目的は、OFDM方式の送信装置に設定される遅延時間が変化してもSFN伝送に破綻の虞が生じないようにした地上デジタル送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的は、SFN伝送のための遅延手段を含む2系統の送信設備を備え、送信設備を現用側と待機側に切替える方式の地上デジタル送信装置において、前記送信設備の入力から出力までの信号の伝送時間を算出して遅延時間を監視する遅延時間監視手段を設け、前記遅延時間が予め設定してある判定値以上になったとき、前記送信設備の現用側と待機側の切替えが実行されるようにして達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、OFDM方式の送信装置に設定されるSFN伝送のための遅延時間が監視されるので、SFN破綻が未然に防止でき、安定した放送の維持に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る地上デジタル送信装置の一実施の形態を示すブロック構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態における遅延時間監視装置のブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施の形態における遅延調整部のブロック構成図である。
【図4】本発明の一実施の形態による遅延検出特性図である。
【図5】本発明の一実施の形態における遅延制御回路のブロック構成図である。
【図6】本発明の一実施の形態における遅延粗調器のブロック構成図である。
【図7】本発明の一実施の形態における遅延微調器のブロック構成図である。
【図8】本発明の一実施の形態においてROMに格納されるデータ(その1)の説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態においてROMに格納されるデータ(その2)の説明図である。
【図10】本発明の一実施の形態においてROMに格納されるデータ(その3)の説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態による遅延誤差収束特性図である。
【図12】本発明の一実施の形態における位相制御部のブロック構成図である。
【図13】本発明の一実施の形態における位相誤差に対する平均検出値の特性図である。
【図14】本発明の一実施の形態における位相制御回路のブロック構成図である。
【図15】本発明の一実施の形態における位相誤差に対する検出特性図である。
【図16】本発明の一実施の形態における位相誤差に対する検出特性の拡大図である。
【図17】従来技術による地上デジタル送信装置の一例を示すブロック構成図である。
【図18】SFN方式の地上デジタル放送におけるSFN領域の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による地上デジタル送信装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明による地上デジタル送信装置の一実施の形態を示したもので、この図において、20は遅延時間監視装置であり、その他の構成は、図17により説明した従来技術と同じである。
【0021】
従って、この図1の実施形態においても、切替制御器9にアラーム信号が入力されたら同軸切替器7を制御し、これにより、上側の1号系送信装置と下側の2号系送信装置の中で、そのとき現用側になっていた送信装置から待機側の送信装置に同軸切替器7を切り替えられるように構成してある点は、従来技術の場合と同じであり、このとき、1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bの各々からSHF帯の送信電力がSHF切替器11を経由してSHF用のアンテナ12に供給され、アンテナ12からSHF帯の中継用電波SHF2が輻射されるようになっている点も、従来技術の場合と同じである。
【0022】
そこで、以下、従来技術と異なっている点に重点をおいて、この図1の実施形態について説明する。
遅延時間監視装置20は、1号系と2号系の送信装置からOFDM1入力とOFDM2入力、それにRF入力1とRF入力2を夫々取り込み、これにより1号側と2号側の送信装置の各々の入力から出力までの信号の伝送時間を遅延時間として計測し、遅延時間がずれて或る設定量を越えたら遅延時間アラームを発生して切替制御器9に供給する。
このとき、局発1入力と局発2入力も取り込むようにしている。
そして、この遅延時間監視装置20は、図2に示すように、送信装置系と同様、1号系遅延時間監視装置20Aと2号系遅延時間監視装置20Bの2系統により構成され、これにより高い信頼性が保証されている。
但し、一系統でも良いことは言うまでもない。
【0023】
このとき、図1のOFDM1入力とOFDM2入力については、1号OFDM変調器2Aと2号OFDM変調器2BのIF出力を夫々取り込んで、図2に示すように、IF入力1とIF入力2とする。
そして、RF入力1とRF入力2は、1号BPF6Aと2号BPF6Bから同軸切替器7に供給されるRF出力を夫々方向性結合器を介して取り込み、図2に示すように、RF出力1とRF出力2とするのである。
また、このとき、局発1入力と局発2入力については、1号送信変換器4Aと2号送信変換器4Bの局部発振信号を夫々取り込んで各々局発1入力と局発2入力とする。
【0024】
遅延時間監視装置20A、20Bに入力されたIF入力1とIF入力2はA/D変換器21によりデジタル信号に変換され、Xif信号となる。
また、遅延時間監視装置20A、20Bに入力されたUHF帯の信号RF入力1とRF入力2はミキサ部22に入力され、ここで局発入力1と局発入力2を利用してIF信号帯の信号に周波数変換され、その後、BPF23により不要成分を除去した上でA/D変換器24によりデジタル信号に変換され、Xmn信号となる。
【0025】
そして、これらXif信号とXmn信号は、各々直交復調部25、26に入力された後、夫々遅延素子27と移相器28に入力され、各々の出力が制御回路29に供給される。
制御回路29では、遅延素子27から出力されている信号と移相器28から出力されている信号の位相が合うように移相器28による移相量を制御し、その上で位相が合わされた信号間での遅延が合うように、遅延素子27による遅延量を制御する。
【0026】
そうすると、このときの遅延素子27による遅延量が送信装置における遅延時間Dtとなる。
そこで、制御回路29は、上記した遅延時間Dtを算定し、予め設定してある判定値SDtと常時比較する。
このときの判定値SDtは、上記した或る設定量に対応するもので、遅延時間の正常値からのずれがOFDM変調方式におけるガードインターバル以内に収まる範囲の時間、例えば100ナノ秒(nsec)に設定する。
【0027】
そして、算定された遅延時間Dtが判定値SDt以上になったとき、すなわち、
Dt≧SDt
になったとき、制御回路29は、遅延時間アラームを発生して切替制御器9に入力し、送信装置を現用側から待機側に切替える。このとき並行してアラーム発生が報知されるようにしてもよい。
この結果、現用側の送信装置で遅延時間がずれ、OFDM変調方式におけるガードインターバルから外れる虞が生じた場合には、送信装置が待機側に切替えられることになり、従って、この実施形態によれば、SFN伝送に破綻が生じるのを未然に防ぐことができる。
【0028】
この結果、上記実施形態によれば、OFDM方式の送信装置に設定されるSFN伝送のための遅延時間が監視されるので、SFN破綻の虞がなく、SFN領域でも安定した放送受信が可能になる。
また、アラーム発生が報知されるようになっていた場合は、別途、原因究明が行えるので、メンテナンス面でも信頼性の向上に寄与できる。
【0029】
次に、この実施形態における遅延素子27と移相器28、それに制御回路29の詳細について説明する。
このとき遅延素子27と制御回路29は遅延調整部を構成するもので、図3〜図11は、この遅延調整部の説明用である。
また、移相器28と制御回路29は位相制御部を構成するもので、図12〜図16は、この位相制御部の説明用である。
【0030】
まず遅延調整部による遅延制御について、図3〜図11により説明する。
図3は遅延調整部の詳細で、これは、図示の通り、遅延量検出部と極性判別回路に大別され、図2の直交復調部25から供給されてくるOFDM信号、すなわちDXif信号と、図1のBPF6から供給されてくるOFDM信号、すなわちDXmn信号の遅延時間を合わせる働きをし、ここで遅延粗調器30と遅延微調器31が図2の遅延素子27に対応し、他の部分が制御回路29に対応する。
【0031】
このため図2の直交復調部25から供給されてくるOFDM信号は、遅延前の信号IFINとして遅延粗調器30に入力され、遅延微調器31を介して遅延量検出部に供給される。
また、図1のBPF6A、6Bの出力からくるOFDM信号は、遅延後の信号MNINとしてMNAGC回路32に入力され、位相制御部33を介して遅延量検出部に供給される。
【0032】
このとき詳しい説明は省くが、この遅延量検出部の遅延検出特性は、図4に示すように、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINの遅延誤差に対してSinカーブを呈する。
しかし、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINに180°の位相差があると、遅延量検出部の遅延検出特性の極性が反転し、−Sinカーブ特性になってしまう。
【0033】
そこで、図3に示した通り、遅延量検出部に極性判別回路を設け、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINの位相差を検出し、その検出結果に応じてreal/image 信号の極性を反転し、両信号の位相差に関係なくSinカーブ特性になるように制御した後、ACC回路34で平均化し、平均化されたreal/image 信号を遅延制御回路35に供給し、遅延粗調器30と遅延微調器31による遅延量を制御する。
【0034】
図5は遅延制御回路35の構成図で、これも詳しい説明は省くが、平均化されたreal/image 信号を入力し、遅延粗調器30の遅延量を制御するデータとして5ビットのデータCOAを生成し、遅延微調器31の遅延量を制御するデータとして6ビットのデータFINを生成する。
ここで、図6は遅延粗調器30の詳細で、図示の通り、19個の遅延素子の出力をセレクタSELにより選択することにより、1サンプル単位で遅延量の調整が得られるように構成してあり、遅延量が粗調された信号complex AをセレクタSELから出力する。
【0035】
次に、図7は遅延微調器31の詳細で、図示の通り、信号complex Aが入力される9タップのFIRフィルタで構成され、タップ係数B0〜B8の選択により0.03125サンプル単位で遅延量の調整を可能にしてあり、これにより遅延量が微調された信号complex Bを出力する。
このときのタップ係数B0〜B8は、予め遅延量をアドレスとしてタップ係数B0〜B8が記憶してあるFIN_ROMを用い、これをデータFINによりアドレスして読み出すようになっている。
【0036】
このときのFIN_ROMの内容は、図8〜図10に示す通りである。
ここで、図11は、この場合の上記実施形態による遅延誤差収束特性の一例で、これは初期遅延誤差0.55サンプルのときの収束特性を示したものであるが、この場合、図示のように、問題なく収束することが確認されており、従って、この実施形態によれば、安定して遅延検出動作することが判る。
【0037】
次に、位相制御部について、図12〜図16により説明する。
図12は位相制御部の詳細で、これは、図3の位相制御部33に相当するもので、図1のOFDM変調器2A、2Bから出力されるOFDM信号と、BPF6A、6Bから出力さるOFDM信号の位相を合わせる働きをする。
このため、図示の通り、まず、遅延後の信号MNINは、MNAGC回路32を介して位相制御部33に取り込まれる。
【0038】
このとき、図12の遅延器は、図3の遅延粗調器30と遅延微調器31に対応し、遅延制御回路は、図3の遅延制御回路35に対応する。
そこで、遅延前の信号IFINは、遅延器により、遅延時間差Δtに応じて遅延され、遅延後の信号MNINと遅延が合わされた上で位相制御部33に取り込まれる。
これにより、上記したように、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINの位相が合わされることになるが、ここで、回路構成については詳しい説明は省くが、この図12に示した位相制御部の動作原理について、以下に説明する。
【0039】
まず、遅延前のOFDM信号Xifを以下の(1)式で表わし、遅延後のOFDM信号Xmnを(2)式で表わす。
Xif(t)=A(t)・exp(i・θ(t)) …… ……(1)
Xmn(t)=A(t)・exp{i・θ(t)+dθ(t)} ……(2)
ここで、
・A(t):瞬時振幅値
・θ(t):瞬時位相
・dθ(t):両信号の位相差
このとき遅延とレベルは既に合わせてあるものとする。
【0040】
そこで、遅延後のOFDM信号と遅延前のOFDM信号の差errは、次の(3)式で表わせる。
err(t)=Xmn(t)−Xif(t)
=A(t)[exp{i・θ(t)+dθ(t)}−exp(iθ(t)] ……(3)
この信号errと信号Xifの共約複素数の積であるu(t)を求めると、次の(4)式となる。
u(t)=err(t)・Xif*
=A2(t){exp(i・θ(t))−1) ……(4)
そして、このu(t)のimaginary成分は、次の(5)式で表わせる。
imag(u(t))=A2(t)・sin(dθ) ……(5)
この場合、位相誤差の検出特性はSinカーブをなすことが判り、上記の(5)式で表わされるimaginary成分imag(u(t))を0に収斂させるように制御すれば位相誤差がなくせることになる。
【0041】
図13は、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNIFの位相誤差に対する平均検出値を示したもので、このときの位相誤差に対する検出特性は、
・位相誤差0°での分散値:約300
・サイン関数振幅値:4000
・位相誤差に関連する分散のサイン関数振幅値:3500
になっている。
従って、図12に示した位相制御部によれば、imaginary成分imag(u(t))を0に収斂させるための構成が具現されていることになる。
【0042】
次に、この位相制御部における位相制御回路36について、図14により説明する。
この位相制御回路36は、MNAGC回路32を介して遅延後の信号MNINを取り込み、各々のreal成分とimag成分に夫々所望のデータXと所望のデータYを乗算することにより、上記したimaginary成分imag(u(t))を0に収斂するのに必要な動作が得られるように動作するもので、詳しい説明は省くが、このときのデータXとデータYについては、図示のように、COS_ROM40とSIN_ROM41のアドレスによるデータ読み出しが適用されている。
【0043】
そして、このため、これらCOS_ROM40とSIN_ROM41には、次の計算式で表されるデータが予め格納してある。
COS_ROM=4096・cos(addr・2π/8192)
SIN_ROM=4096・sin(addr・2π/8192)
この場合、計算上は、約0.04°の位相分解能になるが、ここで位相制御の収束特性についてシミュレーションし、結果を示すと図15と図16が得られた。
【0044】
そして、これら図15と図16から明らかなように、この位相制御回路36によれば、位相誤差90°のとき、約1secの時間で収束が完了することが判る。
このとき、特に図16から明らかなように、収束後も位相が僅かに変動している。しかし、その変動幅は±0.04°程度で、これは、上記した位相分解能から想定される範囲であり、従って、この実施形態により、安定した位相制御動作が保証されることが判る。
【符号の説明】
【0045】
1A、1B:TTL受信装置
2A、2B:OFDM変調器
3A、3B:IF遅延装置
4A、4B:送信変換器
5A、5B:電力増幅器(PA)
6A、6B:BPF(バンドパスフィルタ)
7:同軸切替器
8:UHF用のアンテナ
9:切替制御器
10A、10B:TTL送信装置
11:SHF切替器
12:SHF用のアンテナ
20:遅延時間監視装置
21:A/D変換器
22:ミキサ部
23:BPF(バンドパスフィルタ)
24:A/D変換器
25、26:直交復調部
27:遅延素子27
28:移相器
29:制御回路
30:遅延粗調器
31:遅延微調器
32:MNAVC
33:位相制御部
34:ACC
35:遅延制御回路
36:位相制御回路
37:ACC
【技術分野】
【0001】
本発明は、OFDM方式のデジタル送信装置に係り、特に、2系統の送信設備を備え、現用側と待機側に切替えるようにした地上デジタル送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上波デジタル放送では、SFN(Single Frequency Network)方式と呼ばれる単一搬送波によるシステム構築が可能である。
そこで、通常、OFDM(直交周波数多重変調)方式により同一のプログラムを複数の送信所から一斉に送信し、必要とする放送エリアの設定が得られるようにしている。
ところで、この場合、放送局などのプログラム源から複数の送信所に同一のプログラムを伝送する必要があるが、このときTTL(Transmitter to Transmitter Link)と呼ばれる中継リンクが従来から用いられている。
【0003】
ここで、図17は、このTTLによるTS伝送を用いた従来技術による送信所の一例で、この場合、1号系と2号系の2系統の送信装置を用意し、必要に応じて現用側と待機側に切り替えて使用するようになっており、図では、上側が1号系の送信装置であり、下側が2号系の送信装置であって、放送局などのプログラム源から親送信所(図示してない)を介して送信された中継用の電波SHF1は、1号TTL受信装置1Aと2号TTL受信装置1Bにより夫々受信されるようになっている。
そして、この結果、1号TTL受信装置1Aと2号TTL受信装置1Bから夫々放送TS信号と同期信号(CLK)、それにフレーム同期信号が出力され、1号OFDM変調器2Aと2号OFDM変調器2Bに供給される。
なお、ここでTSとは、OFDM変調方式におけるトランスポート・ストリーム(Transport Stream)のことである。
【0004】
1号OFDM変調器2Aと2号OFDM変調器2Bでは、入力された各信号をIF信号(中間周波信号)に変換し、1号IF遅延装置3Aと2号IF遅延装置3Bに夫々供給する。
1号IF遅延装置3Aと2号IF遅延装置3Bでは、入力されたIF信号に固定値Δtの遅延を与え、それらを1号送信変換器4Aと2号送信変換器4Bに供給する。
そこで、1号送信変換器4Aと2号送信変換器4Bは、遅延されたIF信号を入力してUHF帯のテレビチャンネルの周波数に変換し、1号電力増幅器5Aと2号電力増幅器5Bに供給し、この結果、所望の電力に増幅されたUHF信号が、1号BPF(バンドパスフィルタ)6Aと2号BPF6Bに入力され、ここでスプリアス(不要輻射成分)が除去され、同軸切替器7により一方がアンテナ8に取り出される。
【0005】
この結果、UHF用のアンテナ8からUHF帯の放送電波UHF1が輻射され、地上デジタル対応の受像機による受信が可能にされるが、このとき同軸切替器7は、切替制御器9から与えられる制御信号に応じて1号系と2号系の切り替えを行い、一方を現用側の送信装置として選択し、他方を待機側として選択する。
このため、1号系と2号系の各送信装置を構成している機器は、各々が自己診断機能を備え、機能障害が発生したらアラームを発生するように構成してある。
【0006】
但し、1号BPF6Aと2号BPF6Bは、通常、受動素子だけで構成されるので、機能障害が発生する確率が極めて低いため、この従来技術では、自己診断機能は付与してない。
そして、切替制御器9は、いずれかのアラーム信号が入力されたら、そのとき現用側になっていた送信装置から待機側の送信装置に同軸切替器7を切り替えるように構成してある。
【0007】
ところで、この例の場合、1号TTL受信装置1Aと2号TTL受信装置1Bから出力される放送TS信号と同期信号(CLK)、それにフレーム同期信号は、上記した2系統の送信装置だけではなく、夫々1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bにも供給されている。
これにより、1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bの各々からSHF帯の送信電力がSHF切替器11を経由してSHF用のアンテナ12に供給されている。
【0008】
そこで、この結果、アンテナ12からSHF帯の中継用電波SHF2が輻射されるようになっている。
なお、このとき1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bの双方を設け、SHF切替器11により切り替えるようになっているのは、上記したUHF側と同じく、現用側と待機側をもったシステムとするためである。
【0009】
次に、1号系と2号系の各送信装置にIF遅延装置3A、3Bが設けられ、信号に遅延を与えている理由について、図18により説明する。
上記したように、地上波デジタル放送では、SFN方式によるシステム構築が可能である。そこで、複数の送信所、例えば図18に示すように、送信所A、送信所Bを設置し、これら双方から同じ搬送周波数で同じプログラムの放送電波UHF1を送信し、サービスエリアの拡大を図るようにしている。
【0010】
しかし、このとき、送信所AによるサービスエリアSAと送信所BによるサービスエリアSBが重複した領域、すなわちSFN領域が生じてしまうことがあり、この場合、SFN領域では、送信所Aからの電波と送信所Bからの電波の双方が同一の受信装置(受像機)で受信できるようになるが、しかし、この場合、送信所Aからの電波と送信所Bからの電波に、OFDM方式に特有の制約が生じてしまう。
【0011】
この特有の制約とは、送信所Aから電波がSFN領域内に到達するまでの時間と、送信所Bから電波がSFN領域内に到達するまでの時間の差が、OFDM変調方式におけるガードインターバル以内に収まっているようにしなければならないということである。
何故なら、2波の遅延時間差がガードインターバルを超えるとシンボル間干渉が生じてSFN伝送に破綻を来し、SFN領域内では放送プログラムが受信できなくなってしまうからである。
【0012】
ここで、図2から明らかなように、送信所Bは、SHF帯の中継用電波SHF2により放送プログラムを一旦、送信所Aから受信し、それを放送電波UHF1によりサービスエリアSBに送信しており、従って、その分、送信所BからSFN領域内に到達する電波は、送信所AからSFN領域内に到達する電波に比較して遅れてしまうので、これが遅延時間差Δtとなる。
そこで、図1に示したように、1号系と2号系の各送信装置にIF遅延装置3A、3Bを設け、送信所Aから送信される放送電波UHF1に遅延時間差Δtに相当する遅れを与え、SFN伝送に破綻が生じないようにしているのである。
【0013】
なお、本発明の先行技術については、例えば特許文献1と特許文献2の開示を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−72763号公報
【特許文献2】特開2005−252656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記従来技術は、SFN領域の存在に対応して信号に送信信号に予め所望の遅延を与えておく方式の地上デジタル送信装置において、遅延時間の監視について配慮がされておらず、遅延時間が所望値から変化したとしても放置されてしまうというシステム上の問題があった。
OFDM方式では、遅延時間が変化し、ずれ量が限度を越えると、上記したように、SFN領域では画像が受信できなくなるという問題が生じてしまうからである。
【0016】
本発明の目的は、OFDM方式の送信装置に設定される遅延時間が変化してもSFN伝送に破綻の虞が生じないようにした地上デジタル送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的は、SFN伝送のための遅延手段を含む2系統の送信設備を備え、送信設備を現用側と待機側に切替える方式の地上デジタル送信装置において、前記送信設備の入力から出力までの信号の伝送時間を算出して遅延時間を監視する遅延時間監視手段を設け、前記遅延時間が予め設定してある判定値以上になったとき、前記送信設備の現用側と待機側の切替えが実行されるようにして達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、OFDM方式の送信装置に設定されるSFN伝送のための遅延時間が監視されるので、SFN破綻が未然に防止でき、安定した放送の維持に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る地上デジタル送信装置の一実施の形態を示すブロック構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態における遅延時間監視装置のブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施の形態における遅延調整部のブロック構成図である。
【図4】本発明の一実施の形態による遅延検出特性図である。
【図5】本発明の一実施の形態における遅延制御回路のブロック構成図である。
【図6】本発明の一実施の形態における遅延粗調器のブロック構成図である。
【図7】本発明の一実施の形態における遅延微調器のブロック構成図である。
【図8】本発明の一実施の形態においてROMに格納されるデータ(その1)の説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態においてROMに格納されるデータ(その2)の説明図である。
【図10】本発明の一実施の形態においてROMに格納されるデータ(その3)の説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態による遅延誤差収束特性図である。
【図12】本発明の一実施の形態における位相制御部のブロック構成図である。
【図13】本発明の一実施の形態における位相誤差に対する平均検出値の特性図である。
【図14】本発明の一実施の形態における位相制御回路のブロック構成図である。
【図15】本発明の一実施の形態における位相誤差に対する検出特性図である。
【図16】本発明の一実施の形態における位相誤差に対する検出特性の拡大図である。
【図17】従来技術による地上デジタル送信装置の一例を示すブロック構成図である。
【図18】SFN方式の地上デジタル放送におけるSFN領域の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による地上デジタル送信装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明による地上デジタル送信装置の一実施の形態を示したもので、この図において、20は遅延時間監視装置であり、その他の構成は、図17により説明した従来技術と同じである。
【0021】
従って、この図1の実施形態においても、切替制御器9にアラーム信号が入力されたら同軸切替器7を制御し、これにより、上側の1号系送信装置と下側の2号系送信装置の中で、そのとき現用側になっていた送信装置から待機側の送信装置に同軸切替器7を切り替えられるように構成してある点は、従来技術の場合と同じであり、このとき、1号TTL送信装置10Aと2号TTL送信装置10Bの各々からSHF帯の送信電力がSHF切替器11を経由してSHF用のアンテナ12に供給され、アンテナ12からSHF帯の中継用電波SHF2が輻射されるようになっている点も、従来技術の場合と同じである。
【0022】
そこで、以下、従来技術と異なっている点に重点をおいて、この図1の実施形態について説明する。
遅延時間監視装置20は、1号系と2号系の送信装置からOFDM1入力とOFDM2入力、それにRF入力1とRF入力2を夫々取り込み、これにより1号側と2号側の送信装置の各々の入力から出力までの信号の伝送時間を遅延時間として計測し、遅延時間がずれて或る設定量を越えたら遅延時間アラームを発生して切替制御器9に供給する。
このとき、局発1入力と局発2入力も取り込むようにしている。
そして、この遅延時間監視装置20は、図2に示すように、送信装置系と同様、1号系遅延時間監視装置20Aと2号系遅延時間監視装置20Bの2系統により構成され、これにより高い信頼性が保証されている。
但し、一系統でも良いことは言うまでもない。
【0023】
このとき、図1のOFDM1入力とOFDM2入力については、1号OFDM変調器2Aと2号OFDM変調器2BのIF出力を夫々取り込んで、図2に示すように、IF入力1とIF入力2とする。
そして、RF入力1とRF入力2は、1号BPF6Aと2号BPF6Bから同軸切替器7に供給されるRF出力を夫々方向性結合器を介して取り込み、図2に示すように、RF出力1とRF出力2とするのである。
また、このとき、局発1入力と局発2入力については、1号送信変換器4Aと2号送信変換器4Bの局部発振信号を夫々取り込んで各々局発1入力と局発2入力とする。
【0024】
遅延時間監視装置20A、20Bに入力されたIF入力1とIF入力2はA/D変換器21によりデジタル信号に変換され、Xif信号となる。
また、遅延時間監視装置20A、20Bに入力されたUHF帯の信号RF入力1とRF入力2はミキサ部22に入力され、ここで局発入力1と局発入力2を利用してIF信号帯の信号に周波数変換され、その後、BPF23により不要成分を除去した上でA/D変換器24によりデジタル信号に変換され、Xmn信号となる。
【0025】
そして、これらXif信号とXmn信号は、各々直交復調部25、26に入力された後、夫々遅延素子27と移相器28に入力され、各々の出力が制御回路29に供給される。
制御回路29では、遅延素子27から出力されている信号と移相器28から出力されている信号の位相が合うように移相器28による移相量を制御し、その上で位相が合わされた信号間での遅延が合うように、遅延素子27による遅延量を制御する。
【0026】
そうすると、このときの遅延素子27による遅延量が送信装置における遅延時間Dtとなる。
そこで、制御回路29は、上記した遅延時間Dtを算定し、予め設定してある判定値SDtと常時比較する。
このときの判定値SDtは、上記した或る設定量に対応するもので、遅延時間の正常値からのずれがOFDM変調方式におけるガードインターバル以内に収まる範囲の時間、例えば100ナノ秒(nsec)に設定する。
【0027】
そして、算定された遅延時間Dtが判定値SDt以上になったとき、すなわち、
Dt≧SDt
になったとき、制御回路29は、遅延時間アラームを発生して切替制御器9に入力し、送信装置を現用側から待機側に切替える。このとき並行してアラーム発生が報知されるようにしてもよい。
この結果、現用側の送信装置で遅延時間がずれ、OFDM変調方式におけるガードインターバルから外れる虞が生じた場合には、送信装置が待機側に切替えられることになり、従って、この実施形態によれば、SFN伝送に破綻が生じるのを未然に防ぐことができる。
【0028】
この結果、上記実施形態によれば、OFDM方式の送信装置に設定されるSFN伝送のための遅延時間が監視されるので、SFN破綻の虞がなく、SFN領域でも安定した放送受信が可能になる。
また、アラーム発生が報知されるようになっていた場合は、別途、原因究明が行えるので、メンテナンス面でも信頼性の向上に寄与できる。
【0029】
次に、この実施形態における遅延素子27と移相器28、それに制御回路29の詳細について説明する。
このとき遅延素子27と制御回路29は遅延調整部を構成するもので、図3〜図11は、この遅延調整部の説明用である。
また、移相器28と制御回路29は位相制御部を構成するもので、図12〜図16は、この位相制御部の説明用である。
【0030】
まず遅延調整部による遅延制御について、図3〜図11により説明する。
図3は遅延調整部の詳細で、これは、図示の通り、遅延量検出部と極性判別回路に大別され、図2の直交復調部25から供給されてくるOFDM信号、すなわちDXif信号と、図1のBPF6から供給されてくるOFDM信号、すなわちDXmn信号の遅延時間を合わせる働きをし、ここで遅延粗調器30と遅延微調器31が図2の遅延素子27に対応し、他の部分が制御回路29に対応する。
【0031】
このため図2の直交復調部25から供給されてくるOFDM信号は、遅延前の信号IFINとして遅延粗調器30に入力され、遅延微調器31を介して遅延量検出部に供給される。
また、図1のBPF6A、6Bの出力からくるOFDM信号は、遅延後の信号MNINとしてMNAGC回路32に入力され、位相制御部33を介して遅延量検出部に供給される。
【0032】
このとき詳しい説明は省くが、この遅延量検出部の遅延検出特性は、図4に示すように、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINの遅延誤差に対してSinカーブを呈する。
しかし、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINに180°の位相差があると、遅延量検出部の遅延検出特性の極性が反転し、−Sinカーブ特性になってしまう。
【0033】
そこで、図3に示した通り、遅延量検出部に極性判別回路を設け、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINの位相差を検出し、その検出結果に応じてreal/image 信号の極性を反転し、両信号の位相差に関係なくSinカーブ特性になるように制御した後、ACC回路34で平均化し、平均化されたreal/image 信号を遅延制御回路35に供給し、遅延粗調器30と遅延微調器31による遅延量を制御する。
【0034】
図5は遅延制御回路35の構成図で、これも詳しい説明は省くが、平均化されたreal/image 信号を入力し、遅延粗調器30の遅延量を制御するデータとして5ビットのデータCOAを生成し、遅延微調器31の遅延量を制御するデータとして6ビットのデータFINを生成する。
ここで、図6は遅延粗調器30の詳細で、図示の通り、19個の遅延素子の出力をセレクタSELにより選択することにより、1サンプル単位で遅延量の調整が得られるように構成してあり、遅延量が粗調された信号complex AをセレクタSELから出力する。
【0035】
次に、図7は遅延微調器31の詳細で、図示の通り、信号complex Aが入力される9タップのFIRフィルタで構成され、タップ係数B0〜B8の選択により0.03125サンプル単位で遅延量の調整を可能にしてあり、これにより遅延量が微調された信号complex Bを出力する。
このときのタップ係数B0〜B8は、予め遅延量をアドレスとしてタップ係数B0〜B8が記憶してあるFIN_ROMを用い、これをデータFINによりアドレスして読み出すようになっている。
【0036】
このときのFIN_ROMの内容は、図8〜図10に示す通りである。
ここで、図11は、この場合の上記実施形態による遅延誤差収束特性の一例で、これは初期遅延誤差0.55サンプルのときの収束特性を示したものであるが、この場合、図示のように、問題なく収束することが確認されており、従って、この実施形態によれば、安定して遅延検出動作することが判る。
【0037】
次に、位相制御部について、図12〜図16により説明する。
図12は位相制御部の詳細で、これは、図3の位相制御部33に相当するもので、図1のOFDM変調器2A、2Bから出力されるOFDM信号と、BPF6A、6Bから出力さるOFDM信号の位相を合わせる働きをする。
このため、図示の通り、まず、遅延後の信号MNINは、MNAGC回路32を介して位相制御部33に取り込まれる。
【0038】
このとき、図12の遅延器は、図3の遅延粗調器30と遅延微調器31に対応し、遅延制御回路は、図3の遅延制御回路35に対応する。
そこで、遅延前の信号IFINは、遅延器により、遅延時間差Δtに応じて遅延され、遅延後の信号MNINと遅延が合わされた上で位相制御部33に取り込まれる。
これにより、上記したように、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNINの位相が合わされることになるが、ここで、回路構成については詳しい説明は省くが、この図12に示した位相制御部の動作原理について、以下に説明する。
【0039】
まず、遅延前のOFDM信号Xifを以下の(1)式で表わし、遅延後のOFDM信号Xmnを(2)式で表わす。
Xif(t)=A(t)・exp(i・θ(t)) …… ……(1)
Xmn(t)=A(t)・exp{i・θ(t)+dθ(t)} ……(2)
ここで、
・A(t):瞬時振幅値
・θ(t):瞬時位相
・dθ(t):両信号の位相差
このとき遅延とレベルは既に合わせてあるものとする。
【0040】
そこで、遅延後のOFDM信号と遅延前のOFDM信号の差errは、次の(3)式で表わせる。
err(t)=Xmn(t)−Xif(t)
=A(t)[exp{i・θ(t)+dθ(t)}−exp(iθ(t)] ……(3)
この信号errと信号Xifの共約複素数の積であるu(t)を求めると、次の(4)式となる。
u(t)=err(t)・Xif*
=A2(t){exp(i・θ(t))−1) ……(4)
そして、このu(t)のimaginary成分は、次の(5)式で表わせる。
imag(u(t))=A2(t)・sin(dθ) ……(5)
この場合、位相誤差の検出特性はSinカーブをなすことが判り、上記の(5)式で表わされるimaginary成分imag(u(t))を0に収斂させるように制御すれば位相誤差がなくせることになる。
【0041】
図13は、遅延前の信号IFINと遅延後の信号MNIFの位相誤差に対する平均検出値を示したもので、このときの位相誤差に対する検出特性は、
・位相誤差0°での分散値:約300
・サイン関数振幅値:4000
・位相誤差に関連する分散のサイン関数振幅値:3500
になっている。
従って、図12に示した位相制御部によれば、imaginary成分imag(u(t))を0に収斂させるための構成が具現されていることになる。
【0042】
次に、この位相制御部における位相制御回路36について、図14により説明する。
この位相制御回路36は、MNAGC回路32を介して遅延後の信号MNINを取り込み、各々のreal成分とimag成分に夫々所望のデータXと所望のデータYを乗算することにより、上記したimaginary成分imag(u(t))を0に収斂するのに必要な動作が得られるように動作するもので、詳しい説明は省くが、このときのデータXとデータYについては、図示のように、COS_ROM40とSIN_ROM41のアドレスによるデータ読み出しが適用されている。
【0043】
そして、このため、これらCOS_ROM40とSIN_ROM41には、次の計算式で表されるデータが予め格納してある。
COS_ROM=4096・cos(addr・2π/8192)
SIN_ROM=4096・sin(addr・2π/8192)
この場合、計算上は、約0.04°の位相分解能になるが、ここで位相制御の収束特性についてシミュレーションし、結果を示すと図15と図16が得られた。
【0044】
そして、これら図15と図16から明らかなように、この位相制御回路36によれば、位相誤差90°のとき、約1secの時間で収束が完了することが判る。
このとき、特に図16から明らかなように、収束後も位相が僅かに変動している。しかし、その変動幅は±0.04°程度で、これは、上記した位相分解能から想定される範囲であり、従って、この実施形態により、安定した位相制御動作が保証されることが判る。
【符号の説明】
【0045】
1A、1B:TTL受信装置
2A、2B:OFDM変調器
3A、3B:IF遅延装置
4A、4B:送信変換器
5A、5B:電力増幅器(PA)
6A、6B:BPF(バンドパスフィルタ)
7:同軸切替器
8:UHF用のアンテナ
9:切替制御器
10A、10B:TTL送信装置
11:SHF切替器
12:SHF用のアンテナ
20:遅延時間監視装置
21:A/D変換器
22:ミキサ部
23:BPF(バンドパスフィルタ)
24:A/D変換器
25、26:直交復調部
27:遅延素子27
28:移相器
29:制御回路
30:遅延粗調器
31:遅延微調器
32:MNAVC
33:位相制御部
34:ACC
35:遅延制御回路
36:位相制御回路
37:ACC
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SFN伝送のための遅延手段を含む2系統の送信設備を備え、送信設備を現用側と待機側に切替える方式の地上デジタル送信装置において、
前記送信設備の入力から出力までの信号の伝送時間を算出して遅延時間を監視する遅延時間監視手段を設け、
前記遅延時間が予め設定してある判定値以上になったとき、前記送信設備の現用側と待機側の切替えが実行されるように構成したことを特徴とする地上デジタル送信装置。
【請求項1】
SFN伝送のための遅延手段を含む2系統の送信設備を備え、送信設備を現用側と待機側に切替える方式の地上デジタル送信装置において、
前記送信設備の入力から出力までの信号の伝送時間を算出して遅延時間を監視する遅延時間監視手段を設け、
前記遅延時間が予め設定してある判定値以上になったとき、前記送信設備の現用側と待機側の切替えが実行されるように構成したことを特徴とする地上デジタル送信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−171783(P2010−171783A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12951(P2009−12951)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】
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