説明

地中レーダ装置及び画像信号処理方法

【課題】地中内に埋設された物体の検知精度を向上した信頼性の高いものでありながら、その物体を特定するための演算式を簡素化することができる地中レーダ装置地中レーダ装置及び画像信号処理方法を提供する。
【解決手段】地表面を基準とする水平面内方向とこの地表面から地中に向かう深さ方向とで3次元の行列データの各要素の数値を取得する3次元データ取得ステップと、地表面を基準とする水平面内の移動平均を求める移動平均算出ステップと、前記3次元データ取得ステップと前記移動平均算出ステップとに基づいて3次元画像を作成する画像化ステップと、隣り合った画像の相互相関からそのピーク鋭度を求めるピーク鋭度算出ステップと、そのピーク鋭度が最大の条件から地雷画像を特定する地雷画像特定ステップと、その地雷画像の最大値をとる点に基づいて地雷座標を特定する地雷座標特定ステップとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中内の埋設物を3次元の立体画像として可視化する地中レーダ装置及び画像信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平09−033194号公報
【特許文献2】特開2004−198195号公報
【0003】
従来から、対戦車地雷や対人地雷に代表される地雷は、世界中の紛争地域で使用され、現在においても、無数の地雷が埋設されたままとなっており、紛争後におけるこれらの除去には困難を極めている。
【0004】
紛争後の地雷除去、所謂、人道的地雷除去においては、地雷原となっている土地での生活を前提としていることから、その地雷原に埋設された地雷のすべてを除去しなければならないが、これらの地雷によっては、その探知及び除去が困難となっているのが実情である。
【0005】
即ち、地雷の種類として、例えば、地雷探知器の磁場に反応して起爆するものや数回の圧力付加によって起爆する種類のもの等があり、また、金属・非金属によって構成されているもの等がある。
【0006】
これにより、磁場に反応して起爆してしまう地雷の場合、金属探知器を近付けただけで起爆する可能性がある。また、数回の圧力付加によって起爆する地雷の場合、地雷処理車が通過したときには起爆せず、これに続いて通過する地雷処理車以外の車両等が通過したときに起爆してしまう可能性がある。
【0007】
しかも、地中内には、既に起爆してしまった地雷の破片や、土中の水分等の反射体、或いは、金属成分を多く含む土質といったように、レーダの種類等によっては誤認識してしまう虞が多分にあった。
【0008】
一方、このような地雷を探知する装置として、特許文献1に開示のような金属探知機を利用した装置や、特許文献2に開示のように、電磁波を地中に伝播させ、その地中からの反射波をセンサにより検出すると共に、その検出結果に基づいて画像化する装置が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の如く構成された地中レーダ装置及び画像信号処理方法にあっては、上述した地雷の種類や構成材料等の様々な要因から、特許文献1に開示のような金属探知機では、その誤認識のほうが多く、撤去作業に時間を要するうえ、埋設位置(深さを含む)の詳細な位置を特定するには熟練を要するといった問題も生じていた。
【0010】
また、特許文献2に開示の装置の場合、埋設物の3次元位置が視覚的に判り易いように、地中の状態を水平断面視及び垂直断面視で表現しているが、埋設物自体を3次元の立体画像として表示するものではないため、埋設物の形状を容易に把握することが困難で、地雷であるか否かの特定が困難であるという問題が生じていた。
【0011】
さらに、このような3次元の画像化を可能とする場合、一般的な画像解析の手法を適用した場合、埋設物の有無を特定するには信頼性が低いという問題が生じていた。
【0012】
尚、埋設物の一つとして、地雷等の特殊で且つある程度の形状が予め特定できる埋設物の場合、予めパターン化された3次元の立体画像と検出された3次元の物体画像パターンとを比較することで地雷であるか否かを特定するパターンマッチング方式なども考えられているが、これらのパターンマッチング化は、例えば、上述した金属成分等を含む土中では、地雷の周囲や地雷に付着した金属成分を含む土までも埋設物として認識してパターン化してしまい、両者間でマッチングしない虞があるなど、信頼性が低いという問題が生じていた。
【0013】
一方、地中レーダ(Ground penetrating Radar:GPR)は、アンテナから電波を地中に放射し、地中の埋設物や地層境界面などから反射を受けた電波を受信することによって地中を可視化する装置である。
【0014】
この地中レーダによって受信したGPRデータは、地表面を基準とするX方向とY方向の水平面内の2次元行列と、地表面から地中に向かうZ方向(深さ方向)とを含む3次元行列で構成されており、このGPRデータに基づいて、図1に示すように、3次元の立体画像を算出することができる。
【0015】
尚、図1においては、地中の埋設物としての地雷Jの存在並びに位置を明確に確認することができるが、多くの場合、地中に含まれる砂礫等の不均質によって不要反射となるクラッタCが発生し、単純な3次元画像では、地雷JとクラッタCとの区別をするのは困難である。
【0016】
ところで、上述したGPRデータとしての各深度毎の水平画像用データには、確実に反射体の情報が含まれていることから、地雷の位置を明確に判断することは可能である。しかしながら、これが3次元の膨大なGPRデータとなると、クラッタCを排除しながら対象物を見いだすことは非常に難しい。
【0017】
そこで、このような3次元GPRデータ中に含まれる埋設物からの反射波を効率的に検知し、埋設物の位置を正確且つ簡素に検出することができれば、地雷除去作業現場での迅速な作業並びに装置の小型化を実現することができる。
【0018】
本発明は、上記問題を解決するため、地中内に埋設された物体の検知精度を向上し得て、信頼性を向上させることができる地中レーダ装置及び画像信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
その目的を達成するため、本発明の画像信号処理方法は、地表面を基準とする水平面内方向とこの地表面から地中に向かう深さ方向とで3次元の行列データの各要素の数値を取得する3次元データ取得ステップと、地表面を基準とする水平面内の移動平均を求める移動平均算出ステップと、前記3次元データ取得ステップと前記移動平均算出ステップとに基づいて3次元画像を作成する画像化ステップと、隣り合った画像の相互相関からそのピーク鋭度を求めるピーク鋭度算出ステップと、そのピーク鋭度が最大の条件から埋設物の有無を特定する埋設物特定ステップとを備えていることを特徴とする。
【0020】
即ち、本発明の画像信号処理方法によれば、1次元或いは2次元の走査線に沿って取得された2次元(1次元位置−深度)或いは3次元(2次元位置−深度)のデータ空間において、特定の深度方向に隣接する範囲における空間相関係数を計算し、空間相関係数が大きい領域では地中レーダデータが連続したパターンを有することから、目標物からの反射波を捉えて目標物の位置を検知すると共に、その目標物からの反射波の連続性から目標物(埋設物)の検知率を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の地中レーダ装置及び画像信号処理方法によれば、埋設物の有無に関する信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の地中レーダ装置及び画像信号処理方法に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
尚、本発明の地中レーダ装置は、GPRレーダとこのGPRレーダを搭載した地雷除去車両等の作業車と、GPRレーダからの検知信号(GPRデータ)を処理するために作業車に搭載された演算部としてのパーソナルコンピュータとを備えている。尚、このパーソナルコンピュータは作業車に搭載された無線通信装置を介して遠隔地でGPRレーダからの検知信号(GPRデータ)を受信・処理するようにしても良い。
【0024】
以下、本発明における地中レーダ装置のパーソナルコンピュータ上での処理方法を説明する。
【0025】
(地雷画像抽出アルゴリズム)
〔2次元画像化〕
GPR測定データは、X方向,Y方向,Z方向の3次元行列で構成されている。その行列のX方向とY方向とで構成する平面を画像化することで、Z方向(深さ方向)における水平面画像が得られる。地雷などの埋設物画像は、深度方向に連続して現れ、いったん消えてもまた色が反転して現れる。これは地雷からの反射波の値が正から負に移り変わることに起因する。これに対し、クラッタの場合は、細かく不規則に変化する。
【0026】
地雷が存在するX−Y座標点の値の、深さZにおけるGPR波形変化を図2に示す。図2において、深さ0.2m付近の2本の二点鎖線で挟まれている部分が地雷からの反射波の値である。
【0027】
〔移動平均画像〕
図3(A),(B)は、深度を変えた場合の任意の深度毎のGPR水平面画像の例を示し、図3(A)は地雷の場合、図3(B)はクラッタの場合を示す。尚、実際の画像ではそのパワーが強いほど赤くなるサーモセンサーのようなカラー処理された画像となっている。
【0028】
図3(A)に示すように、地雷からの反射は、値の大きさは深度に対して連続的に変化するのに対し、図3(B)に示すように、クラッタからの反射は不規則に変化する。波形のパワーの移動平均をとることで地雷からの反射波は安定した変化となり、クラッタとの識別が容易になる。今、図4に示すように、水平画像の深さ方向に対する深度変化の平均幅をW、ずらし幅をDzとしてX−Y平面の移動平均を計算する。例として、図5において、W=50(4cm),Dz=25(2cm)としたときに得られる画像の一部を示す。また、この図5(C)に示した画像は地雷画像である。
【0029】
図5(C)において、地雷は移動平均をとることによってクラッタと明確に区別されていることが分かる。また、連続して現れていることが確認できる。また、図5(C)より、地雷画像において最大値をとる座標点が地雷位置であることが分かる。これらの特徴から、移動平均画像において隣り合った画像同士の類似度が高ければ、それらが地雷画像であると特定することができる。さらに、その最大値をとる座標点が地雷位置である。
【0030】
〔空間相関法を用いた類似度の評価〕
画像同士の類似度を評価するために空間的な相互相関関数を利用する。まずGPR信号を数1とする。
【0031】
【数1】

この数1のそれぞれを、2次元フーリエ変換することにより、数2に示すように、フーリエスペクトルが得られる。
【0032】
【数2】

この数2より、数3に示すクロス・パワースペクトルを求めることができる。
【0033】
【数3】

さらに、この数3を逆フーリエ変換することにより、数4に示す相互相関関数を得ることができる。
【0034】
【数4】

【0035】
隣り合う移動平均画像の相互相関を求めた例を図6及び図7に示す。図6(A),(B)に示したクラッタ同士に基づく相互相関画像(図6(C))は中心になだらかなピークを持つが、図7(A),(B)に示した地雷画像同士に基づく相互相関画像(図7(C))は中心に鋭いピークを持つことがわかる。つまり2つの画像の類似度が高いほど、この相互相関画像のピークは鋭くなる。
【0036】
こうした類似度を定量化するために、図8,図7(C)に示すように、X,Y方向についてピークの半値幅δx,δyを求め、そのピークの鋭度=δx・δyとして評価する。その値の深度毎の変化をグラフ化した例を図9に示す。
【0037】
この図9において、ピーク鋭度は深さ0.2m付近で最小値をとっている。このピーク鋭度が小さい場合、連続する反射波の連続性が強い、つまり反射体が存在する可能性が高い。この相関が得られた移動平均画像が地雷画像であり、その画像の最大値をとる座標が地雷位置である。
【0038】
〔地雷位置特定のアルゴリズムの構築〕
地雷位置を特定するアルゴリズムをまとめると、3次元行列データの各要素のパワーをとる・X−Y平面の移動平均を求めてそれぞれを画像化する・隣り合った画像の相互相関を求めてそのピーク鋭度を求める・ピーク鋭度が最大の条件から地雷画像を特定する・地雷画像において最大値をとる点を求める・地雷座標を特定する。
【0039】
〔適用例〕
ここに示したアルゴリズムにおいて、平均をとる幅Wと、それをずらす幅Dzの選択は非常に重要である。地雷画像の特徴を抽出するためには、適切な平均幅Wとずらし幅Dzを設定しなければならない。次に発明したアルゴリズムを適用した具体例を挙げる。
【0040】
ここで扱うGPRデータは、乾いた地質において測定されたものである。また、ターゲットはTYPE72型模擬地雷(直径7.6cm、厚さ4cm)である。図10,図11に示すように、地雷位置を特定することができる。この際、平均幅W=30(2.4cm),ずらし幅Dz=15(1.2cm)である。
【0041】
ところで、以上の説明では埋設物検知として地雷検知を例として使用したが、特に地雷に限定されるものではない。また、地雷のように小さく形が定常ではなく、土壌の地下水分布のような非定常形状の場合についてもGPR信号の深度方向への連続性がある場合、例えば、地中石油系汚染物質を対象とするなど、異常(異形)物体の検知も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態を示し、3次元立体画像の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、地雷位置のX−Y座標点の値の変化のグラフ図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、(A)は地雷の場合の水平面画像の深さによる変化の説明図、(B)はクラッタの場合の水平面画像の深さによる変化の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、深さ方向における移動平均の概念の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態を示し、(A)〜(E)は移動平均画像の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態を示し、(A)はクラッタの場合の移動平均画像の相互相関の一方となる画像の説明図、(B)はクラッタの場合の移動平均画像の相互相関の他方となる画像の説明図、(C)はクラッタの場合の相互相関像の説明図である。
【図7】本発明の一実施形態を示し、(A)は地雷の場合の移動平均画像の相互相関の一方となる画像の説明図、(B)は地雷の場合の移動平均画像の相互相関の他方となる画像の説明図、(C)は地雷の場合の相互相関像の説明図である。
【図8】本発明の一実施形態を示し、ピーク断面のグラフ図である。
【図9】本発明の一実施形態を示し、ピーク鋭度−深さの関係のグラフ図である。
【図10】本発明の一実施形態を示し、地雷特定の説明図である。
【図11】本発明の一実施形態を示し、地雷特定のためのピーク鋭度−深さの関係のグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面に向かってレーダ波を照射すると共に地中内で反射した反射波を受信するGPRレーダと、該GPRレーダで受信した反射波に基づいて任意の深度毎の水平画像データを求めると共にその求めた水平画像データの相互関係からピーク鋭度を求める演算部とを備えていることを特徴とする地中レーダ装置。
【請求項2】
地表面を基準とする水平面内方向とこの地表面から地中に向かう深さ方向とで3次元の行列データの各要素の数値を取得する3次元データ取得ステップと、地表面を基準とする水平面内の移動平均を求める移動平均算出ステップと、前記3次元データ取得ステップと前記移動平均算出ステップとに基づいて3次元画像を作成する画像化ステップと、隣り合った画像の相互相関からそのピーク鋭度を求めるピーク鋭度算出ステップと、そのピーク鋭度が最大の条件から埋設物の有無を特定する埋設物特定ステップとを備えていることを特徴とする画像信号処理方法。
【請求項3】
地表面を基準とする水平面内方向とこの地表面から地中に向かう深さ方向とで3次元の行列データの各要素の数値を取得する3次元データ取得ステップと、地表面を基準とする水平面内の移動平均を求める移動平均算出ステップと、前記3次元データ取得ステップと前記移動平均算出ステップとに基づいて3次元画像を作成する画像化ステップと、隣り合った画像の相互相関からそのピーク鋭度を求めるピーク鋭度算出ステップと、そのピーク鋭度が最大の条件から埋設物の有無を特定する埋設物特定ステップと、その埋設物画像の最大値をとる点に基づいて埋設物座標を特定する埋設物座標特定ステップとを備えていることを特徴とする画像信号処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−285781(P2007−285781A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111436(P2006−111436)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年10月16日〜18日 社団法人物理探査学会主催の「第113回(平成17年度秋季)学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】