説明

地熱水のシリカ除去方法、シリカ粉末の製造方法及びシリカ除去装置

【課題】シリカを含有した熱水とシードとを簡単な構造の設備内にて反応させ、高温高圧地熱水から継続的に容易かつ低コストにてシリカを除去、低減可能なシリカ除去装置及びシリカ除去方法及びシリカ粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】熱水中のシリカを除去する方法であって、ケイ酸カルシウムからなるシード18を充填したカラム12に地熱水20を供給し、シード18と地熱水20を反応させて殿物25を下方に沈殿させるとともに、シリカが除去された処理水21をカラム12の上方から排出させることを特徴とする。また、シード18は、ケイ酸カルシウムを構成するSiとCaのモル比Si/Caが0.81以上4.48以下であり、ケイ酸カルシウムを粒度分布させた場合に、粒径が200μm未満の粒子が10%以下、且つ粒径が1000μmより大きい粒子が10%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地熱水からシリカを除去し、処理後地熱水のシリカ含有量を削減するシリカ除去方法と、この方法により除去したシリカを原料としたシリカ粉末の製造方法、及びシリカ除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地熱水には大量のシリカ成分が溶存しており、例えば、地熱水を地熱発電に利用する場合、地熱水中のシリカが地熱発電プラントの配管内表面にシリカスケールとして析出し、配管断面積の減少や熱伝達率低下にともなう熱交換効率の低下を生じるため、配管内部等にシリカが付着するのを防止する必要がある。
【0003】
そこで、地熱水中のシリカの析出を抑制する第1の方法として、薬剤添加槽、反応槽、沈殿槽等を備えた装置に、例えばケイ酸カルシウム等の薬剤を添加して、地熱水からシリカ成分を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
かかる方法によれば、地熱水中のシリカを除去し、シリカ含有量を低減した後の地熱水を使用するため、大気にフラッシュさせる場合であってもシリカの析出が少なく、タービンや熱交換器の管路へのシリカ析出が抑制可能である。
一方、地熱水を利用する第2の方法として、地下から汲み上げた地熱水からシリカ成分が析出するのを抑制するために地熱水を高温高圧状態で利用し、利用後の還元熱水をそのまま地下に還元する高温還元法によって、配管内へのシリカ析出を抑制する方法がある。
【特許文献1】特開2003−117589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記第1の方法によれば、構成が複雑でかつ高価な装置への設備投資が必要となり、シリカの除去量に応じた薬剤の継続的添加や、大量に発生する殿物を別途処理する必要があり、装置の運転やメンテナンスに伴うコストが大きいという問題があった。
また、かかるシリカ除去方法及び除去装置によれば、シリカ除去に際して地熱水を大気圧下でフラッシュして約100℃以下の低温地熱水とする必要があり、高温高圧地熱水から直接シリカを除去し、高温高圧のままで地熱水を使用することは困難であった。
また、第2の方法によれば、一旦地上に汲み上げた地熱水を大量のシリカが溶存したまま再び地下に戻すことになるため、地下の地熱水還流経路でシリカが析出して還流経路が縮小又は閉塞される可能性があった。
【0005】
この発明は、かかる事情を考慮してなされたもので、シリカを含有した地熱水を簡単な構造の装置内にてシードと反応させ、大気中にフラッシュさせた後の地熱水のみならず、高温高圧地熱水から容易かつ低コストにてシリカを継続的に除去、低減可能なシリカ除去方法、その方法で除去したシリカを原料としたシリカ粉末の製造方法、及びシリカ除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載された発明は、地熱水中のシリカを除去するシリカ除去方法であって、ケイ酸カルシウムからなるシードを充填したカラムに下方から地熱水を供給し、前記シードと地熱水を反応させて殿物を下方に沈殿させるとともに、シリカが除去された処理水を該カラムの上方から排出させることを特徴とする。
【0007】
この発明に係るシリカ除去方法によれば、シリカを多く含有した地熱水をシードが充填されたカラム内で上昇させて、シードと地熱水が接触しやすい方向に相対的に移動させることで地熱水とシードとの化学反応を促進するとともにシリカを殿物として析出させることで、地熱水中のシリカを除去、低減させる。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載のシリカ除去方法であって、前記シードは、ケイ酸カルシウムを構成するSiとCaのモル比Si/Caが0.81以上4.48以下であり、ケイ酸カルシウム粒子を粒径により頻度分布させた場合に、粒径が200μm未満の範囲の粒子が10%以下であり、且つ粒径が1000μmより大きい範囲の粒子が10%以下であることを特徴とする。
【0009】
この発明に係るシリカ除去方法によれば、シードを構成するケイ酸カルシウムは、化学組成におけるSiとCaのモル比Si/Caが0.81以上4.48以下であるため、シリカが吸着されやすく、大量のシリカを吸着することができる。
また、ケイ酸カルシウム粒子を粒径により頻度分布させた場合に、粒径が200μm未満の範囲の粒子が10%以下であるため、カラム上方の排出口からシードが排出されるのが抑制され、シード量低下によるシリカの析出効率の低下が抑制される。
また、粒径が1000μmより大きい範囲の粒子が10%以下とされ、シードの90%以上が粒径1000μm以下の粒子であるため、表面積/体積が大きくシリカを析出させ易い。また、シードや殿物やカラム内で緩やかに沈降するため、長期間に亘ってカラム内に保持され、地熱水中のシリカを効率よく吸着、低減する。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2に記載のシリカ除去方法であって、前記カラム内を通過する地熱水の通過時間が、90分以上120分以下であることを特徴とする。
【0011】
この発明に係るシリカ除去方法によれば、カラム内を通過する地熱水の通過時間、すなわち滞留時間が90分以上とされるため、シードと地熱水が充分に接触してシリカが析出するとともに、停滞時間が120分以下とされることで、シリカが充分に除去され、シリカの溶解度に近づいたためにシリカが析出し難くなった地熱水をカラム内に保持しないので装置が小型化される。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリカ除去方法であって、前記カラム内を流通する地熱水の通過速度が、殿物の沈降速度より小さいことを特徴とする。
【0013】
この発明に係るシリカ除去方法によれば、カラムに供給される地熱水量を流路断面積で除して得られる通過速度が、殿物の沈降速度より小さいので殿物が処理水に混在したままカラム上方から外部に排出されることなく、カラム下方に沈降して、回収される。
【0014】
請求項5に記載された発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のシリカ除去方法であって、前記カラム内を流通する地熱水の通過速度が、5cm/分より小さいことを特徴とする。
【0015】
この発明に係るシリカ除去方法によれば、カラム内を流通する地熱水の通過速度が、5cm/分より小さくされているので、カラム内にて析出した殿物のうち約200μm以上のものは、通過地熱水によって排出口に移送されることなく、カラム下方に安定して沈殿してゆく。
【0016】
請求項6に記載された発明は、シリカ粉末の製造方法であって、請求項1から請求項5のいずれかに記載のシリカ除去方法により沈殿させられた、前記シリカからなる殿物を含む液を乾燥させるとともに造粒して、シリカ粉末を製造することを特徴とする。
【0017】
この発明に係るシリカ粉末の製造方法によれば、地熱水から除去されたシリカからなる殿物を含む液を乾燥させるとともに造粒してシリカ粉末を製造するので、簡単な工程で効率的にシリカ粉末を製造することができるとともに、製造に係るコストを大幅に削減することができる。
また、地熱水から除去されたシリカをシリカ粉末としてリサイクルさせることで、産業廃棄物の発生を抑制することができる。
【0018】
請求項7に記載された発明は、地熱水中のシリカを除去するシリカ除去装置であって、ケイ酸カルシウムからなるシードを充填したカラムと、該カラムの下方から地熱水を供給する供給口と、シリカが除去された処理水を該カラムの上方から排出させるための排出口とを備えたことを特徴とする。
【0019】
この発明に係るシリカ除去装置によれば、地熱水を供給する供給口がカラムの下方に設けられているので、供給された高温の地熱水がカラムの下方から上方に移動し、シード及び沈降中の殿物と活発に接触し、ケイ酸カルシウムに吸着し、析出が生じ易い。また、シリカが除去された処理水がカラム上方の排出口から排出されるので、析出した殿物のうち、約10μm〜約100μmまでのもののみが、排出口より排出され、約200μm以上に成長した殿物の排出口からの排出が抑制される。その結果、排出される処理水に含まれるシリカ成分の絶対量を削減できるとともに、殿物をカラム下方に集積し易い。
【0020】
請求項8に記載された発明は、請求項7に記載のシリカ除去装置であって、前記シードは、ケイ酸カルシウムを構成するSiとCaのモル比Si/Caが0.81以上4.48以下であり、ケイ酸カルシウム粒子を粒径により頻度分布させた場合に、粒径が200μm未満の範囲の粒子が10%以下であり、且つ粒径が1000μmより大きい範囲の粒子が10%以下であることを特徴とする。
【0021】
この発明に係るシリカ除去装置によれば、シードの排出によるシード量低下が抑制されるとともに、殿物が緩やかに沈降して長期間に亘ってカラム内に保持されるとともに、シリカが吸着されやすいため大量のシリカを効率よく吸着、低減することができる。
【0022】
請求項9に記載された発明は、請求項7又は請求項8に記載のシリカ除去装置であって、該カラムは鉛直方向の長さが4m以上5m以下であることを特徴とする。
【0023】
この発明に係るシリカ除去装置によれば、カラムの鉛直方向の長さが4m以上5m以下とされているため、シードの沈降時間が90分以上の滞留時間を確保して、殿物を充分に析出させるとともに、析出が充分されて析出効率が低下した地熱水を保持するためのカラムを備える必要がない。
【0024】
請求項10に記載された発明は、請求項7から請求項9のいずれかに記載のシリカ除去装置であって、該カラムは鉛直方向の温度勾配が1.25℃/m以上2.5℃/m以下となる保温手段を備えていることを特徴とする。
【0025】
この発明に係るシリカ除去装置によれば、カラムの鉛直方向の温度勾配が1.25℃/m以上とされ地熱水の供給口がある下方側の温度が高いため、地熱水はカラム内を上昇し、カラム内での滞留の発生が抑制される。また、温度勾配が2.5℃/m以下とされ、地熱水がカラム内を速い流速で上昇するのが抑制されるので、シードのオーバフローを抑制するとともに析出反応と殿物の沈降が安定して行なわれる。
【0026】
請求項11に記載された発明は、請求項7から請求項10のいずれかに記載のシリカ除去装置であって、前記地熱水及びシードを攪拌するための攪拌機を備えることを特徴とする。
【0027】
この発明に係るシリカ除去装置によれば、前記地熱水及び前記シードを攪拌するための攪拌機を備えているので、カラム内の地熱水及びシードが緩やかに攪拌され、析出反応を促進する。さらに、カラム内の温度勾配を所定の範囲内として反応を安定させることができる。
【0028】
請求項12に記載された発明は、地熱発電設備であって、請求項7から請求項11のいずれかに記載のシリカ除去装置を備えたことを特徴とする地熱発電設備。
【0029】
この発明に係る地熱発電設備によれば、シリカ除去装置を備えているので、地熱水に含まれるシリカを除去してから発電用配管に供給するので、配管内におけるシリカの析出を抑制し、地熱発電設備のタービンや配管等のメンテナンスを容易にするとともに、配管の寿命を延長することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、シリカを含有した地熱水とシードとを反応させて、大気中にフラッシュさせた後の地熱水のみならず、高温高圧地熱水から継続的に、容易かつ低コストにてシリカを除去、低減することができる。また、地熱水から除去されたシリカを原料としてシリカ粉末を製造することができるので、産業廃棄物の量を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して、この発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るシリカ除去装置を示した図であり、符号10はシリカ除去装置を、符号12はカラムを、符号18はシードを、符号20は地熱水を示している。
カラム12は、第1のカラム12aと、第2のカラム12bとを備えており、第1のカラム12aは第2のカラム12bの上流側に設けられ、第1のカラム12aの上方に配管15を介して第2のカラム12bが直列に接続されている。
また、第1のカラム12aの下方には、地熱水20をカラム12内に導入するための地熱水供給口13が設けられ、第2のカラム12bの上方にはシリカが低減された処理水21を排出するための排出口14が設けられている。
また、第1のカラム12aと第2のカラム12bの間の配管15には、オーバフローしたシード18を回収するための配管16が設けられている。
【0032】
カラム12は、内径10cm、高さ約4mの円筒体であって、下側の第1のカラム12aは高さ3m、上側の第2のカラム12bは高さ1mとされ、第1のカラム12aには、水に溶解させたケイ酸カルシウムからなるシード18が充填されている。
また、第1のカラム12aの下方端には、図示しないカラム底板がボルト等により取り付けられ、第1のカラム12aに沈殿した殿物25を第1のカラム12aの外部に取出すことができるようになっており、必要に応じて、第2のカラム12bにも同様の構造を設けることができる。
供給口13から導入されたシリカ成分を含有する地熱水20が、シードと接触してシリカが殿物25として物理的に析出し、カラム12の下方に沈殿するようになっている。
また、カラム12は、必要に応じて外周、端面等を図示しない断熱材により覆い、断熱材に代えて、または、併用してヒータを用いて保温性を向上させることによりカラムの鉛直方向の温度勾配を1.25℃/m以上2.5℃/m以下としている。
【0033】
シード15は、シリカ/カルシウムが0.81以上4.48以下、種晶平均粒径が約600μmのケイ酸カルシウムから構成され、以下に示すような方法で生成する。
まず、地熱水1Lに対して、液状CaO(予め水に溶かしたCaO)1gを添加し、ケイ酸カルシウムを生成させる。次に、生成した殿物を残して上澄み水を捨て、生成殿物に地熱水をさらに添加する。この作業を、5〜6回程度繰返して、殿物を濃縮する。
【0034】
シード15の生成工程は、
mCaO+nSiO2+XH2O→ mCaO・nSiO2・XH2
(m、n、Xは、正の整数)
という化学反応式から構成され、
例えば、生石灰と地熱水からは、以下のような反応が進む。
2CaO+SiO2 → 2CaO・SiO2または
3CaO+SiO2 → 3CaO・SiO2
また、CaOが水と反応した後は、Ca(OH)2とシリカにより、以下の反応も進行する。
2Ca(OH)2+SiO2 → 2CaO・SiO2+2H2Oまたは
3Ca(OH)2+SiO2 → 3CaO・SiO2+3H2
【0035】
いずれの場合も、シード生成工程において、CaO・SiO2が沈殿物として生成される。
また、シード15に用いるケイ酸カルシウムの粒子は、粒径が概ね180μmから1020μmの範囲で分布(200μm未満が約3%、1000μmより大が約1%)しており、好ましくは、200μmから1000μmの範囲が適しており、さらに好ましくは、300μmから900μmのものが適している。ここでいう粒径、粒度分布とは、「レーザ回折/散乱式測定法」(計測機器、堀場製作所 LA−910Wにより計測、粒径ごとの頻度分布として出力した結果)による粒径ごとの頻度分布である。
上記の方法にて生成したケイ酸カルシウム粒子は、正規分布の場合、粒径における最多頻度が約600μmにある場合、粒径が180μmから1020μmのシードは、粒径約600μmの両側に各420μm(標準偏差σのほぼ3倍に相当)の巾があるため、粒径の標準偏差σが約140μmである。
【0036】
同様に、200μmから1000μmまでの場合、平均粒径600μm、粒径の標準偏差σは約133μm、また、粒径が300μmから900μmまでの場合は、平均粒径600μm、標準偏差σは約100μmの構成とされる。
平均粒径約600μm、粒径の標準偏差σが約140μmのシードにおいて、排出口14から排出され難く、表面積/体積が大きく確保されて析出効率がよい200μmから1000μmのものは、平均粒径600μmの両側400μm(2σ)であり、粒径のバラツキによる標準偏差の変動及び平均値の移動を考慮すると、200μmから1000μmの範囲をねらいの粒径として、0μmから200μmの範囲と、1000μmから1200μmの範囲をそれぞれ約10%未満とすることが実用的である。
【0037】
次に、シリカ除去装置10の作用について説明する。
例えば、シリカを多く含有した148℃、0.46MPaの地熱水20を、カラム12下方の地熱水供給口13から供給し、カラム12の下方に設けられた地熱水供給口13から第1のカラム12a内に導入される。供給された地熱水20は、第1のカラム12aを上昇し、充填されたシード15と相互に接触する方向に相対移動する。その結果、地熱水20に含有されたシリカがシード15と化学的、物理的に反応し、地熱水20中のシリカが殿物25として析出する。その結果、地熱水20中のシリカが除去され、地熱水中のシリカ濃度が低下する。
シリカが除去されてシリカ濃度が低下した処理水21は、第2のカラム12b上方の排出口14から排出される。
また、第1のカラム12aからオーバフローしたシード18は、配管16を介して回収、第1のカラム12aに還流される。
【0038】
上記第1の実施の形態のシリカ除去装置10及びシリカ除去方法によれば、地熱水20を供給する供給口13がカラム12の下方に設けられているので、供給された高温の地熱水20がカラム12内を下方から上方に移動し、カラム12内を下降するシード18及び殿物25と活発に接触し、反応が起こり易い。
また、シリカが除去された処理水21は、カラム12上方の排出口14から排出されるので、200μm以上の大きさに成長した殿物25は排出口14からの排出が抑制される。その結果、処理水21に含まれるシリカ成分の総量を削減することができるとともに、析出後、成長した殿物をカラム12aの下方に集積し易い。
また、第1のカラム12aからオーバフローするシード18は、配管16を介して回収されるのでシード18の流出が抑制される。
【0039】
また、地熱水20の供給口13がカラム12の下方に設けられ、供給された地熱水20がカラム12の下方から上方に移動するとともに、ケイ酸カルシウムからなるシード18及び殿物はカラム12内を下方に下降し相互に接触する方向に移動するため、効率的に接触し地熱水20中のシリカを殿物25として析出し易い。
【0040】
また、シード18に用いられるケイ酸カルシウムを構成するSiとCaのモル比Si/Caが0.81以上4.48以下であるため、シリカを効率的に析出させることができる。
ケイ酸カルシウム粒子を粒径により頻度分布させた場合に、粒径が200μm未満の範囲の粒子が10%以下であるため、カラム12の上方の排出口14から排出されるシード18の排出が抑制され、シード量低下によるシリカの析出効率の低下が抑制される。
【0041】
また、シード18は、粒径が1000μmより大きい範囲の粒子が10%以下とされ、90%以上が表面積/体積が大きくシリカを析出させやすい粒径1000μm以下の粒子であるとともに、カラム12内で浮沈の均衡が保たれて緩やかに沈降するため、長期間に亘ってカラム内に保持され、地熱水中のシリカを効率よく析出させることができる。
また、カラム12の鉛直方向の温度勾配が1.25℃/m以上とされ地熱水20の供給口13がある下方側の温度が高いため、地熱水20はカラム12内を上昇し、カラム12内での滞留の発生が抑制される。また、温度勾配が2.5℃/m以下とされ、地熱水20がカラム12内を速い流速で上昇するのが抑制されるので、シード18のオーバフローを抑制するとともに析出反応と殿物の沈降が安定して行なわれる。
また、シード18を継続的に使用することができるので、シード15のコストを削減することができる。
【0042】
その結果、カラム12に導入される際に132℃ 700mg/L(132℃における非晶質シリカの溶解度は570mg/L)だった地熱水に含有されるシリカを、カラム12から排出されるまでの間に340mg/Lを析出させ、100℃における溶解度400mg/Lよりも低い、100℃、360mg/Lにまで低減させることができる。
また、熱水温度が100℃以下の場合において地熱水中のシリカは、カラム12に導入される際に700mg/L(132℃における非晶質シリカの溶解度は、400mg/L)のシリカが含有された熱水から、カラムから排出されるまでの間に450mg/Lのシリカが析出し、溶解度400mg/L(100℃)よりも低い、250mg/Lまで低減させることができる。
以上のことから、かかる装置及び方法によれば、地熱水20中からシリカを生成させることで、地熱水20中のシリカを溶解度以下まで、容易、且つ低コストにて低減することができる。
【0043】
以下、この発明の第2の実施形態について説明する。
図2は、第2の実施形態に係るシリカ除去装置を示した図であり、符号40はシリカ除去装置を、符号41はカラムを示したものである。
シリカ除去装置40は、直径7m、高さ5m、円筒の上下面に端版が設けられたタンク状のカラム41と、カラム41の下方に設けられた熱水供給口46と、カラム41の上方に配設された処理水排出口48とを備えており、カラム41の下側面は、カラム41の内側が径方向内方に向かうにつれて下方に傾斜する所謂すり鉢状になっており、沈殿した殿物25がカラム41の中央に集積、熱水供給口46から落下排出されるようになっている。
【0044】
また、カラム41には第1の実施形態と同様のシード18が充填されるとともに、3枚の翼からなる攪拌機42が設けられており、熱水供給口46から供給された地熱水(以下、熱水という)34及びシード18を緩やかに攪拌するようになっている。
また、カラム41は、必要に応じて外周等が断熱材で覆われ、又は断熱材と併用してヒータで加温することにより、保温可能とされている。
他の部分については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
また、カラム41は鉛直方向の長さが4m以上5m以下とされ、熱水34がシード内に90分以上停滞するため、シリカの析出が効率的に行なわれるとともに、停滞時間が120分以下とされているため、シリカが溶解度未満に除去されて析出効率が低下した処理水36をカラム41内に長時間に亘って保持しないため、カラム41が小型化され設備コストを低減することができる。
シリカ除去装置40によれば、熱水34及びシード18を攪拌するための攪拌機42を備えているので、カラム41内の熱水34及びシード18が緩やかに攪拌され、析出反応が促進される。また、カラム41内の温度勾配を所定の範囲内として反応を安定させることができる。
その結果、熱水34中からシリカを効率的に生成させるとともに、熱水34中のシリカを溶解度以下まで、効率的に低減することができる。
【0046】
次に、熱水により加熱された2次媒体によりタービンを駆動させるいわゆるバイナリ方式の地熱発電設備にシリカ除去装置40を適用する場合について説明する。また、この例においては、シリカ除去装置40で除去されたシリカからなる殿物を含有した液を原料としたシリカ粉末の製造にも適用されるようになっている。
図3は、バイナリ発電設備の主要部を示したものである。
バイナリ発電設備100は、セパレータ60と、シリカ除去装置40と、熱交換器65と、タービン70と、シリカ粉末製造装置80とを備えている。
セパレータ60は、地下から採取して地熱水配管50を介して供給された高温高圧地熱水32を蒸気と熱水34に分離し、蒸気は蒸気配管51を介して熱交換装置65に供給するようになっている。
シリカ粉末製造装置80は、移送配管86と、噴霧乾燥造粒装置88とを備えており、噴霧乾燥造粒装置88は、シリカ含有水37を噴霧するスプレーノズル88aと、乾燥室88bとを備えている。
【0047】
シリカ除去装置40を構成するカラム41は、熱水供給口46と、処理水排出口48とを備えており、熱水供給口46には熱水供給配管53が接続され、処理水排出口48には処理水配管54が接続されている。
また、熱水供給口46は、カラム41内に沈殿した殿物25を回収する機能を有しており、熱水供給配管53の下方には、殿物回収配管57が接続されている。
殿物回収配管57はその配管内部において、又は殿物回収配管57に備えられた図示しない沈殿槽において、シリカ除去装置40で除去されたシリカからなる殿物25を含有した液の固形分を、放置沈殿により濃縮するようになっており、固形分濃度が高められたシリカ含有水37は移送配管86に移送されるとともに、上澄み水38は還元水配管84に排出されるようになっている。
【0048】
また、殿物25の一部(1000μm以下のもの)は、シード18として、配管57、配管58及び配管59を介してカラム41の上方付近の図示しないシード18の供給口からカラム41に還流可能となっており、配管59は、ストップバルブを開放してシード18をカラム41に投入する場合にも使用される。
また、セパレータ60の下方には熱水供給配管52が接続され、セパレータ60で分離された熱水34が熱水配管52を介してカラム41に供給され、処理水36は、処理水配管54及び還元水用配管56を介して下流側の図示しない還元井に導かれ、還流されるようになっている。
【0049】
このバイナリ発電設備100においては、地熱水配管50を介してセパレータ60に導入された、例えば148℃、0.46MPa程度の高温高圧地熱水30が、蒸気と熱水32に分離され、蒸気は配管51を介して熱交換器65に導入された後、熱交換によりペンタン、アンモニア、水等の2次媒体を高温高圧の蒸気に変換する。
高温高圧の熱媒体蒸気は、タービン70に導かれてタービン翼を回転させるとともに、発電機を介して発電に用いられる。
一方、セパレータ60で分離されたシリカ分の多い熱水34は、カラム41に供給されて、シード18と反応することによりシリカが析出、低減されて、シリカ分が非晶質シリカの溶解度以下に低減させた後に還元水用配管56を介して、還元水として還元井に還流させる。
【0050】
次に、本発明に係るシリカ粉末の製造方法について説明する。
まず、上記の例のように、ケイ酸カルシウムからなるシード18を充填したカラム12、41に下方から地熱水20、34を供給し、シード18と地熱水20、34を反応させて、シリカからなる殿物25を下方に沈殿させる。
殿物25として沈殿したシリカは、殿物回収配管57を経由して、噴霧乾燥造粒装置88へと移送される。殿物回収配管57に排出された殿物25を含んだ液は、殿物回収配管57内にて、又はその後の図示しない沈殿槽にてシリカを放置沈殿させるとともに、上澄み水38を還元水配管84に排出させることで、固形分が約90%以上のシリカ含有水37とされ、移送配管86を通じて噴霧乾燥造粒装置88に移送される。
【0051】
噴霧乾燥造粒装置88のスプレーノズル88aから噴霧乾燥造粒装置88内に噴霧されたシリカ含有水37は、シリカ含有水噴霧体S1となって乾燥され、シリカ粉末S2(シリカヒューム)に造粒される。造粒されたシリカ粉末S2は、乾燥室内の傾斜面に沿って貯留箱内に貯留される。
【0052】
この実施の形態において、噴霧乾燥造粒装置88は約3mの直径と高さ約6m(うち、上部の円筒部分の高さ約3m、下部の傾斜面を有する部分の高さ約3m)とされ、噴霧乾燥造粒装置88内には、下方から上方に向かう旋回気流が形成されたサイクロン方式によって、シリカ粉末S2が回収されるようになっており、乾燥気流は、入口温度120℃、出口温度70℃、水分蒸発量50kg/時、シリカ含有液の送液流量2.5L/分とされている。
このように、シリカ粉末S2の製造方法は、シリカを含有した液内の殿物25を沈殿させて固形分の濃度を高くして、固形分濃度が高いシリカ含有水37とし、シリカ含有水37を乾燥させることによってシリカ粉末S2を生成させるものである。
【0053】
以上のように生成されたシリカ粉末S2は、直径20μm程度のものも含まれるが、概ね直径0.1〜10μm程度の球状超微粒粉末とされ、ほぼ全ての粒子径にわたって球状を呈したものとされる。
なお、このシリカ粉末は、シードのCa成分を含有していても構わない。
このシリカ粉末の製造方法によれば、地熱水20、34から除去したシリカからなる殿物25を乾燥させるので、簡単な製造工程にて効率良くシリカ粉末を製造することが可能であり、製造コストの削減と、産業廃棄物の発生を大巾に削減することができる。
【0054】
このバイナリ発電設備100によれば、シリカが溶解度未満にまで低減されているため、タービン70や配管等の発電設備100内にてシリカが析出すのが抑制され、タービンや配管等のメンテナンスを容易にするとともに、配管の寿命を長くして効率のよい発電をすることができ、処理水36を還元水として還元井に容易に還流させることができる。
【0055】
上記実施の形態においては、148℃、0.46MPaの地熱水20に適用する場合について説明したが、これ以外の温度、圧力であっても、蒸気表(1980SI日本機械学界等)において液体とされる領域について、使用可能である。
また、本実施形態においては、発明の趣旨を逸脱しない範囲で構成要素を選択することができる。例えば、カラム12、カラム41の保温に関しては、カラム12、41の形状やカラム12、41の直径をはじめとする長さ、攪拌機42や発電設備100の構成についても適宜選択可能である。
【0056】
また、上記実施の形態においては、第1の実施形態、第2の実施形態を例として、熱水20、34からシリカを除去する場合について説明したが、これ以外の形態であっても、実質的に同一の範囲内で種々の変更を加えることができる。
また、シリカ粉末の製造方法においても、シリカ除去方法、シリカの乾燥方法について、上記実施の形態に限定されないことは当然である。
【0057】
例えば、上記実施の形態においては、シリカ除去装置40およびシリカ粉末製造装置80が、バイナリ発電設備100とともに設けられたプラントについて説明したが、バイナリ発電設備100を備えずにシリカ除去装置40とシリカ粉末製造装置80とからなる構成としてもよい。
また、シリカ粉末S2の製造方法において、固形分の濃度を90%以上とした場合について説明したが、これ以下の固形分濃度であってもよいし、噴霧乾燥造粒以外の乾燥方法を用いることもできる。
また、実施の形態では、バイナリ発電設備100を例に説明したが、バイナリ発電設備に限らず、通常の発電設備にも適用可能なことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明に係るシリカ除去方法及びシリカ除去装置によれば、容易かつ低コストにて地熱水中のシリカを除去、低減し、処理水を河川や地中に安全に戻すことともに、処理した地熱水を使用して地熱発電を行なうことによって地熱発電設備等の配管表面におけるシリカの析出を抑制し、かかる設備を容易かつ低コストにて運転することができるため、産業上の利用可能性が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るシリカ除去装置の第1の実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明に係るシリカ除去装置の第2の実施形態を示す概念図である。
【図3】本発明に係るシリカ除去装置をバイナリ発電設備に適用した場合の要部を示す概念図である。
【符号の説明】
【0060】
S2 シリカ粉末
10、40 シリカ除去装置
12、41 カラム
18 シード
20、34 地熱水(熱水)
21、36 処理水
25 殿物
80 シリカ粉末製造装置
100 バイナリ発電設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱水中のシリカを除去するシリカ除去方法であって、
ケイ酸カルシウムからなるシードを充填したカラムに下方から地熱水を供給し、
前記シードと地熱水を反応させて殿物を下方に沈殿させるとともに、
シリカが除去された処理水を該カラムの上方から排出させることを特徴とするシリカ除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリカ除去方法であって、
前記シードは、ケイ酸カルシウムを構成するSiとCaのモル比Si/Caが0.81以上4.48以下であり、
ケイ酸カルシウム粒子を粒径により頻度分布させた場合に、粒径が200μm未満の範囲の粒子が10%以下であり、且つ粒径が1000μmより大きい範囲の粒子が10%以下であることを特徴とするシリカ除去方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシリカ除去方法であって、
前記カラム内を通過する地熱水の通過時間が、90分以上120分以下であることを特徴とするシリカ除去方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリカ除去方法であって、
前記カラム内を流通する地熱水の通過速度が、殿物の沈降速度より小さいことを特徴とするシリカ除去方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のシリカ除去方法であって、
前記カラム内を流通する地熱水の通過速度が、5cm/分より小さいことを特徴とするシリカ除去方法。
【請求項6】
シリカ粉末の製造方法であって、
請求項1から請求項5のいずれかに記載のシリカ除去方法により沈殿させられた、前記シリカからなる殿物を含む液を乾燥させるとともに造粒して、シリカ粉末を製造することを特徴とするシリカ粉末の製造方法。
【請求項7】
地熱水中のシリカを除去するシリカ除去装置であって、
ケイ酸カルシウムからなるシードを充填したカラムと、該カラムの下方から地熱水を供給する供給口と、シリカが除去された処理水を該カラムの上方から排出させるための排出口とを備えたことを特徴とするシリカ除去装置。
【請求項8】
請求項7に記載のシリカ除去装置であって、
前記シードは、ケイ酸カルシウムを構成するSiとCaのモル比Si/Caが0.81以上4.48以下であり、
ケイ酸カルシウム粒子を粒径により頻度分布させた場合に、粒径が200μm未満の範囲の粒子が10%以下であり、且つ粒径が1000μmより大きい範囲の粒子が10%以下であることを特徴とするシリカ除去装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のシリカ除去装置であって、
該カラムは鉛直方向の長さが4m以上5m以下であることを特徴とするシリカ除去装置。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれかに記載のシリカ除去装置であって、
該カラムは鉛直方向の温度勾配が1.25℃/m以上2.5℃/m以下となる保温手段を備えていることを特徴とするシリカ除去装置。
【請求項11】
請求項7から請求項10のいずれかに記載のシリカ除去装置であって、
前記地熱水及びシードを攪拌するための攪拌機を備えることを特徴とするシリカ除去装置。
【請求項12】
請求項7から請求項11のいずれかに記載のシリカ除去装置を備えたことを特徴とする地熱発電設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−187765(P2006−187765A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353281(P2005−353281)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】