地盤改良工法
【課題】広範囲な地盤の圧密効果が得られ、長期に渡って生石灰によるセメンテーション(化学効果)を継続することができる地盤改良工法を提供する。
【解決手段】アースオーガー5を逆回転すると共に、垂直方向の軸力である垂直荷重Wを加えることにより骨材12及び生石灰14に水平方向の力を加えて掘削孔11の周囲及び掘削孔11内を圧密すると共に、生石灰14を掘削孔11の周囲に移動せしめ、生石灰14の大きさが前記骨材より大きい。掘削孔11内の山砂などからなる砂杭15を地中に造成して圧密効果を促進させると共に、その掘削孔11周囲に移動せしめた生石灰14,間隙水及び周囲の土粒子から起こ一連の化学反応を利用して、広範囲な地盤の圧密効果が得られると共に、長期に渡ってセメンテーションを継続させることができる。
【解決手段】アースオーガー5を逆回転すると共に、垂直方向の軸力である垂直荷重Wを加えることにより骨材12及び生石灰14に水平方向の力を加えて掘削孔11の周囲及び掘削孔11内を圧密すると共に、生石灰14を掘削孔11の周囲に移動せしめ、生石灰14の大きさが前記骨材より大きい。掘削孔11内の山砂などからなる砂杭15を地中に造成して圧密効果を促進させると共に、その掘削孔11周囲に移動せしめた生石灰14,間隙水及び周囲の土粒子から起こ一連の化学反応を利用して、広範囲な地盤の圧密効果が得られると共に、長期に渡ってセメンテーションを継続させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、アースオーガーを用いた地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の地盤改良工法として、地表に直立される架構体に沿って昇降できるようにされた駆動機構を有し、下方先端部に掘削スクリューと、これに続く上方に断続した螺旋状の攪拌および破砕プレートをそれぞれ設けた中空筒状のオーガーを、前記駆動機構により可逆転できるように結合され、この提案された工法は、先端部に掘削スクリュー、これに続く部分に攪拌および破砕プレートなどを各々設けると共に、内部に生石灰又は消石灰給送スクリューコンベヤと圧縮空気通路とを、前記先端部に各々開口して構成したオーガーを用い、掘削土をできるだけ排出させることのないようにして土壌を柱状に掘削し、かつ同時に掘削土を掘削孔内で攪拌砕土させ、この砕土された掘削土中に前記スクリューコンベヤにより給送される石灰を圧縮空気によって噴出させ、掘削土および土中水とを攪拌混合して、この石灰を掘削土および土中水と反応させて、軟弱地盤中に強固な石灰と掘削土とにより柱状体を造成するもの(例えば特許文献1)があり、さらに、アースオーガーを用いて、地盤に所定深さの掘削孔を形成する工程と、前記掘削孔の先端部にて、前記アースオーガーのオーガーヘッドよりパイル先端部固定液を選択的に注入する工程と、前記パイル先端部固定液の注入後、前記オーガーヘッドよりパイル周辺部充填液の注入後、前記掘削孔にパイルを建て込む工程と、前記パイルが所定高さレベルになるように、該パイルを前記地盤に定着させる工程と、を備えるセメントミルク公報における孔壁地盤改良方法があり、この地盤改良方法では、セメントミルクは、パイル先端部固定液とパイル周辺部充填液を2種類用いるが、それぞれの場合における成分配合を好適に選定する事により、摩擦力及び支持力等を大幅に向上させることができる。特に、パイル周辺部充填液は、普通ポルトランドセメント及びセメント系固化材を主成分として、これに適量のベントナイトが添加されたもの(例えば特許文献2)である。例えば、特に砂質土に対しては普通ポルトランドセメントが、また粘性土に対しては、セメント系固化材がそれぞれ地盤改良効果を発揮し、これにより地盤強度を各段に高めることができると記載されている。
【0003】
上記従来のものは、いずれも石灰やセメント等の固化材を多量に使用して地中に柱状体を形成することにより地盤の改良を図るものであり、それらの材料費がかさむと共に、固化材などの使用により環境への影響も懸念される。また、掘削部分のみ強固な柱状部に形成するため、掘削部分の周囲における締め固め効果に劣る面があった。
【0004】
このような問題を考慮して、アースオーガーを正転しながら所定深さの掘削孔を形成し、この後、前記アースオーガーを低速で逆回転すると共に、垂直方向の軸力を加え、前記アースオーガーにより地表部から投入した骨材に水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密する地盤改良工法(例えば特許文献3)が提案され、この地盤改良工法では、生石灰を含む骨材を用い、環境への適合性に優れ、掘削孔の周囲を効果的に圧密することができる。
【0005】
また、粒度5mm以下の生石灰を含む地盤改良材(例えば特許文献4)や、15mm以下の粒径の生石灰を用いることが好ましいとする工法(例えば特許文献5)も知られている。
【特許文献1】特公昭52−606号公報
【特許文献2】特開平7−216866号公報
【特許文献3】特開平11−357898号公報
【特許文献4】特開平11−181424号公報
【特許文献5】特開2001−152149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3の地盤改良工法では、生石灰を含む骨材を用い、環境への適合性に優れ、掘削孔の周囲を効果的に圧密することができる。しかし、生石灰と山砂とを混合した後、掘削孔に投入し、アースオーガーの逆回転により、それら生石灰と山砂水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密し、掘削孔内には生石灰と山砂及び土中水が反応した砂杭が形成されるが、この砂杭の周囲では生石灰を用いた効果が十分には得られていなかった。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するもので、広範囲な地盤の圧密効果が得られ、長期に渡って生石灰によるセメンテーション(化学効果)を継続することができる地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載の地盤改良工法は、アースオーガーを正転しながら所定深さの掘削孔を形成した後、地表部から前記掘削孔に骨材と生石灰を投入し、前記アースオーガーを逆回転すると共に、垂直方向の軸力を加えることにより前記骨材及び生石灰に水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密すると共に、前記生石灰を掘削孔の周囲に移動せしめ、前記骨材より大きな前記生石灰を用いることを特徴とする地盤改良工法である。
【0009】
本発明の請求項2記載の地盤改良工法は、前記生石灰の大きさが30mm〜60mmであることを特徴とする請求項1記載の地盤改良工法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1によれば、アースオーガーを逆回転することにより、骨材と生石灰を掘削孔周囲の軟弱地盤中に押し込み、掘削孔内の骨材からなる骨材杭を地中に造成して圧密効果を促進させると共に、その掘削孔周囲に移動せしめた生石灰,間隙水及び周囲の土粒子から起こる一連の化学反応を利用して、広範囲な地盤の圧密効果が得られると共に、長期に渡ってセメンテーションを継続させることができる。
【0011】
本発明の請求項2によれば、掘削孔内で、骨材と生石灰とは、アースオーガーが逆回転すると、骨材に比べて大きな生石灰が外周側へと移動する。また、大きな生石灰を用いることにより、その生石灰は水分との反応に時間が掛かるから、外側まで移動し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な地盤改良工法を採用することにより、従来にない地盤改良工法が得られ、その地盤改良工法について記述する。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例1を添付図面を参照して説明する。図1ないし図4は、本発明の実施例1を示し、同図に示すように、レッカー車などの作業車のブーム1の先端にリーダー2を連結し、このリーダー2を地表部3に立設し、前記リーダー2に沿って減速機付き回転手段4を移動可能に設け、この回転手段4にアースオーガー5を回動可能に垂設している。このアースオーガー5は筒部6の外周に螺旋ねじ状の掘削羽根7を有し、さらに、下端には先鋭な円錐部8が設けられている。
【0014】
次に、本発明の地盤改良工法の手順について説明する。まず、地盤改良を行う地表部3において、ボーリングを行い、地中からサンプルを採取し、所定の試験を行う。これにより、後述する各種データを算出する。まず、図1及び図2に示すように、アースオーガー5を掘削方向に回転して所定深さの掘削孔11を形成する。この後、アースオーガー5を低速で逆回転し、地表部から骨材12を投入する。この場合、図3に示すようにアースオーガー5に加える垂直荷重Wである軸力は、2〜3トン程度とし、アースオーガー5は毎分25回転以下、好ましくは20回転程度とする。また、骨材12には、アースオーガー5の掘削により排出された掘削土及び砂たる山砂を用いることができ、この場合、改良地盤容積の6%程度から10%未満,好ましくは6%程度から7%程度の骨材12及び生石灰14を投入する。すなわち、改良地盤容積の6%程度から10%程度の骨材12及び生石灰14を追加し、掘削土を全て掘削孔11に戻して用いる場合は、追加する山砂13及び生石灰14は地盤改良容量の6%程度から7%程度とすることが好ましい。尚、前記改良地盤容積とは、地盤を改良する箇所の面積に掘削孔11の掘削深さをかけたものであり、具体的に図4により説明すると、周囲の丸5,丸4,丸9,丸13,丸17,丸21,丸22,丸23,丸24,丸20,丸16,丸12,丸3,丸8,丸7,丸6に示す掘削孔11の中心線により囲まれた部分(図中一点鎖線で表示)が地表部3の改良地盤面積であり、この面積に図2に示した掘削孔11の深さをかけたものが改良地盤容積となる。そして、この地盤改良容積の6%程度から10%未満,好ましくは6%程度から7%程度の骨材12及び生石灰14を追加し、各掘削孔11には、全体の追加量を掘削孔11の数で割った量にほぼ相当する量の骨材12を追加する。
【0015】
このようにアースオーガー5を逆回転し、所定量の骨材12を投入した後、図4に示すように、生石灰14を掘削孔11に投入し、その生石灰14は逆回転するアースオーガー5のスクリューコンベヤ作用により掘削孔11の下部まで送られ、掘削孔11の深さ方向全体に行き渡る。生石灰14の投入が終わった後も、アースオーガー5を逆回転することにより、投入した骨材12と生石灰14による側方応力を増大させ、掘削孔11周囲の過剰間隙水圧を発生させて排水を促すことで圧密を促進させる。尚、掘削孔11を塞ぐ程度の骨材12を投入した後、所定量の生石灰14を投入し、この後、追加で骨材12を投入するようにしてもよい。
【0016】
掘削孔11内で、骨材12と生石灰14とは、アースオーガー5が逆回転すると、主として粒径の大きな生石灰14が外周側へと移動する。これは液体中の粒子の沈降速度がその粒径が大きいほど速いのと似ており、土石流の場合に大きな粒子ほど前面に出てくるのと似た現象であり、また、粒径を大きくすることにより、水分との反応に時間が掛かるから、外側まで移動し易くなる。
【0017】
そして、通常の山砂を骨材12として用いた実験では、生石灰14の粒径が30mm未満では、生石灰14の外側への移動が十分ではなく、投入する生石灰14は、前記骨材12より粒径が大きく、例えば粒径が30mm以上、60mm以下、好ましくは40mm以上、50mm以下のものを用いる。尚、40mm以上の塊状の生石灰14と、30mm未満の生石灰14とを比較したのは、35mm程度の生石灰が入手できなかったためである。尚、50mm以下の生石灰14を用いることが好ましいのは、50mmを超えるものは市販品として入手が困難なことによる経済性の面と、50mmを超えると、アースオーガー5の掘削羽根7に加わる抵抗が大きくなり、掘削孔11の底部まで送り難くなるためである。
【0018】
尚、粒径が30mm以上、60mm以下とは、30mm篩を通過せず、かつ60mm篩を通過することをいう。
【0019】
生石灰14は、石灰石(CaCO3)を原料とし、900℃以上の高温で焼成することにより脱炭作用(脱CO)を起こして生成される。
【0020】
アースオーガー5に加える垂直荷重Wと回転数とを設定することにより、骨材12及び生石灰14が水平方向に向かう力を効果的に得ることができ、掘削孔11の周囲の地盤を効果的に圧密することができる。尚、アースオーガー5と回転手段4とを合わせた自重が2〜3トン程度であれば、この例では、別個にウエートなどを設けることなく、垂直荷重Wを得ることができる。また、垂直荷重Wを大きく設定する場合は、回転手段4にウエート(図示せず)を設けたり、該回転手段4にワイヤー(図示せず)などを連結し、このワイヤーを巻き取るなどして下向きの荷重を付加するようにすれば良い。
【0021】
ここで作用について詳述すると、粘性土を攪拌すると液状の柔らかさになり、この状態で放置すると液性の性質を失ったり、剛な状態になったりするが、この攪拌がランダムで静的に近い(静止土圧係数に近い状況)応力で加圧すると、構造配列が不完全配向構造から配向構造に近い上記に変化する。この現象をシキソトロピー現象と呼び、古くから認識されている。
【0022】
一方、高速道路などの盛土試験で実際の変位値と今までの理論値に違いが見られ、この違いは異方圧密によるせん断強度の増加と説明されている。すなわち、地盤の中の要素を検討すると、等方圧密は特殊な場合であり、普通は有効土かぶり圧と側方の拘束圧力の値は異なるわけである。そこで、地盤中のひずみは鉛直(垂直)方向のみに生じ、水平方向にはひずみは生じない。従って、このような地盤中の応力やひずみの条件に合わせた圧密試験を現在K0試験と呼んでいる。静止土圧係数K0の値は、0.95−sinΦ´に近似する(Φ´は土中の内部摩擦角)。
【0023】
そして、静止土圧係数近くの力で水平に近い応力を加えながらゆっくりと加圧することにより最低の応力の増加が地盤内にほぼ均質に起こることとなる。この加圧はアースオーガー5を逆回転させ、その重量と回転速度を制御することにより調整可能となる。
【0024】
このように地盤中に貫入したオーガーを逆回転させることによって、山砂などの骨材12を軟弱地盤中に押し込んで、砂杭たる砂杭15を地盤中に造成して圧密効果を促進させるとともにその砂杭15周辺の生石灰、間隙水および土粒子から起こる一連の化学反応を利用して、広範囲に地盤の圧密効果(物理効果)を促進させ、長期にわたってセメンテーション(化学効果)を続伸させることができる。
【0025】
物理的には、砂杭15の造成により側方応力を増大させ過剰間隙水圧を発生させて排水を促すことで圧密を促進させる。砂杭15そのものは圧密沈下がほとんどなくまた支持力も大きいので、地盤の支持力増大に寄与する。
【0026】
また、一連の化学反応とは、(1)水和反応、(2)イオン交換、(3)エトリンガイド生成、(4)ポゾラン反応、および(5)炭酸塩の生成である。
【0027】
アースオーガー5を逆回転しながら、掘削孔11内に骨材12を投入して砂杭15を形成することで、掘削孔11の側方圧密効果が促進させる。この場合、砂杭15によって粘性土中に過剰間隙水圧が発生し、それによって強制的に排水が行われる。
【0028】
以下、一連の化学反応を個別に説明する。
(1)水和反応
生石灰CaOは土中の水分と次のように反応して消石灰Ca(OH)2を生成する。
【0029】
【数1】
この反応では、生石灰10kgが消石灰になると土中の間隙水約4.3kgの水を結晶水に変える。また発生する熱は間隙水の蒸発を促す。一般に軟弱土は高含水比であるから、含水比の低下は強度発現に大きく寄与する。ただし、この反応は生石灰についてのみ起こるから、高含水比の土では生石灰が存在する箇所の付近に限られると考えられる。
【0030】
土と生石灰を混合する場合には、それぞれの量が決まっているので、含水比変化は計算可能である。
【0031】
生石灰と土を混合する場合にはその化学反応式から種々の情報が得られる。たとえば、生石灰の水和反応では生石灰の質量の32%の水が消石灰の生成に使われる。また脱水による蒸発が起こる分を加えると、生石灰質量の45%が含水量から除去される。また、上記数1の反応では反応に使われる水の分だけ質量が増えるので、生成される消石灰の質量は加えた生石灰の1.32倍となる。
【0032】
砂杭15の形成と水和反応による作用は比較的短時間で効果が得られる。それを図7を用いて説明する。
【0033】
図7は砂杭15を打設した地盤に鉛直載荷を行った場合に、地盤の支持力増加のメカニズムについて説明するものである。支持力増加はすべり破壊に対する抵抗力の増加である。もともと粘着力がcの地盤において、砂杭15内を横切るすべりに対する摩擦抵抗と比較的速い生石灰から消石灰へ反応が起こり、含水比が低下することによって粘着力の増大が起こり、すべり抵抗が増す。
【0034】
これらに対して反応が比較的ゆっくりとしたものや元素や分子の移動を必要とするものは遅延効果として現れる。以下に遅延効果について述べる。
(3)イオン交換
粘土鉱物のような細粒土はその表面に多くの電荷を有しており、そこには陽イオンが吸着される。また、粒子表面にNaイオンが吸着されている場合にはCaイオンがNaイオンにとって変わる。この作用は陽イオン交換と呼ばれ、土の陽イオン交換容量(Cation Exchangeable Capacity;CEC)が大きい土ほどこの作用が起こりやすい。一般に粒径が小さく、活性の高い粘土になるほどCECは大きい。石灰から溶け出たCaイオンは水と結合したり土粒子に吸着されて、粒子間の結合に寄与することとなる。その結果、団粒化が起こりやすくなる場合もある。
【0035】
水分子は双極性で電荷に対して配向する。また、水分子を吸着した水和イオンは粒子間にあっては、元来粒子表面の負電荷が反発するのを引力に変える働きをする。これが団粒化の原因ともなる。さらに、NaがCaイオンと交換されると、もともとの粒子表面の吸着水膜は薄くなり、圧密が起こりやすくなる。この作用はCaイオンの移動によって周辺まで起こり得る。
【0036】
Caイオンの移動は水の流れが無くとも拡散現象によって起こる。粘性土の場合には透水係数が小さいので、イオンのような溶質は拡散により起こる。ある点を移動する量はそこでの濃度勾配△C/△Lに比例し、下記の数2の関係をなす。
【0037】
【数2】
ここに、Cは濃度、Ddifは拡散係数、Lは距離である。つまり、2点間のCaイオンの移動量は2点間における濃度の差が大きいほど多い。数2はFickの法則として知られている。
(4)エトリンガイド生成
消石灰とアルミナ(Al2O3)、石膏(CaSO4)および水の反応によって針状のエトリンガイドの結晶が生成し土粒子を架橋する。その反応は図8及び下記の数3に示すとうりである。
【0038】
【数3】
(5)ポゾラン反応
ポゾラン反応はエトリンガイドと同様、消石灰とシリカおよびアルミナとの反応である。生成する物質はケイ酸カルシウム水和物やアルミン酸カルシウム水和物で土粒子間を結合させる。シリカやアルミナは無機の鉱物であるから、高有機質土以外の土で普通に起こると考えられる。ポゾラン反応は下記の数4で表される。
【0039】
【数4】
(6)炭酸塩の生成
消石灰が水に溶けた石灰水に二酸化炭素が反応すると炭酸カルシウムが生成する。そのとき粒子の膠着が起こる。この反応は、自然界で普通に起こり、セメンテーションの原因として地盤工学の分野で最近になって重要視されるようになった。基本的には石灰水中のCa2+とHCO3-が時間とともに遠くまで移動するので、広範囲に炭酸塩化が起こることが期待できる。この反応はCO2を地盤内に固定するのに役立つ。
【0040】
石灰は炭酸カルシウム(石灰岩)を焼成して得られるが、そのとき二酸化炭素を生成している。石灰水から炭酸カルシウムが生成する反応は次の数5に示すものである。
【0041】
【数5】
この場合にはCO2が必要であるので、有機物が分解されてCO2が生成しているような高有機質土、地下水面付近または地下水位が大きく変動するところで炭酸塩化が起こりやすいといえる。
【0042】
主にこれらの現象は軟弱土の強度発現効果としての役割をもつ。本工法がこれまでの生石灰を使用する地盤改良と主に異なる点は、改良したい土と生石灰との混合を目的とするのではなく、砂杭15の造成とその周辺に生石灰壁を造ることにある。すなわち砂杭周辺の軟弱地盤の脱水と消石灰の生成、およびそこからのCa2+の拡散による種々の化学反応が重要な要素となっている。
【0043】
技術の特長
特に本発明では、生石灰14の粒径を砂の粒径より大きくすることで、図8に示したように生石灰14の層を砂杭15の周囲に形成できる。これによって、軟弱地盤が生石灰14に接し、水和反応が起きて軟弱地盤中の含水比の低下と発熱による蒸発が起こる。つまり、生石灰14が水と反応することで消石灰が生成し、その過程で針状のエトリンガイドが生成し地盤の硬化が起こる。また、消石灰はポゾラン反応を起こし、粘土粒子などのセメント物質として働く。石灰から溶出するカルシウムイオンは粘土粒子に吸着されているナトリウムイオンなどと交換し、吸着水膜や電気二重層を薄くすることで密度増加(圧密促進)を起こす。さらに、消石灰が石灰水となって二酸化炭素の供給があると炭酸カルシウムが土粒子の接触部や表面に沈積する。これは土のセメンテーションとして作用する。消石灰は食品材としても使用されているように、これらの反応と生成物はほとんど無害である。
【0044】
炭酸カルシウムは大量には石灰岩として天然に存在し、また、すべての土が必ずといっていいほど少量または大量に炭酸カルシウムを含んでいる。最近、これらの炭酸カルシウムやその他の炭酸塩(炭酸マグネシウムや炭酸ナトリウムなど)が土の強度に大きく寄与していることが明らかにされてきた。また、自然地盤の間隙水中でカルシウムイオンと重炭酸イオンが結晶となり粒子表面に凝集し、強度増加の大きな要因となることは地質学の分野で続成作用としてよく知られている。本技術は、最終的にこのような現象を引き起こす条件を人工的に造る効果も奏する。
【0045】
【表1】
これまで得られた炭酸カルシウム含有率と土の強さの関係は上記表1のようになる。調査の結果、海底表層土では炭酸カルシウムが1%増えると一軸圧縮強さは約17kPa/%の割合で増大し、海底から深さが40mほどになると60〜70kPa/%増大、また水田の下部(深さ1〜2.5m)では260kPa/%の割合で一軸圧縮強さが増大した。
【0046】
水田のケースについては炭酸カルシウム以外の膠着物の影響も考えられるが、その場合炭酸カルシウムとその膠着物の含有量に相関が無ければ説明できない。また、砂の場合には65kPa/%の強度増加率が得られている。
【0047】
技術の理論的検証
上述したように本地盤改良工法に用いる装置は、アースオーガー5、アースオーガー5を回転させるためのモーターなどの回転手段4、それを吊り下げるためのバックホウなどのブーム1からなる。図9は施工途中の断面説明図であり、同図に示すように、アースオーガー5を所定の位置で所定の深さまで貫入させ、そこでアースオーガー5を逆回転させることで、地中のスクリューコンベヤーとなり、地表部3から山砂などの骨材12と生石灰14を、逆回転するアースオーガー5で地中に送り入れる。
【0048】
逆回転するアースオーガー5によって砂杭15が形成されていくが、地中に造成される砂杭15の大きさはアースオーガー5と回転手段4の重量と造成される砂杭15に作用する原地盤内の反力との釣り合いに関係する(図9)。垂直重量Wの下で、造成される砂杭15の径は原地盤が軟らかいほど大きくなる。それは、アースオーガー5先端における骨材12及び生石灰14の反力によつてアースオーガー5が浮き上がるまで砂杭15が造成されるから、そのときの釣り合い式は、(オーガーを持ち上げる先端の反力R)=(オーガーとモーターの重量W)+(オーガーが上方向に持ち上げられるときの周辺摩擦F)となり、下記の数6で表される。
【0049】
【数6】
尚、図9はアースオーガー5を杭と考えたときの力のバランスを示し、この場合、回転力は無視し、アースオーガー5によって下向きに動く骨材12はアースオーガー5と一体とみなす。周面摩擦は骨材12間で発生すると仮定する。
【0050】
ここで、rはアースオーガー5の最大回転直径、dはアースオーガー5が地中にある部分の深さ、σは側方土庄、φrは骨材12の内部摩擦角である。ここで得られた反力Rを砂杭15の先端支持力(N値から換算)式と比較することで、造成した砂杭15の支持力を推定できる。
【0051】
カルシウムイオンの浸透
消石灰(水酸化カルシウム)が生成し、それが間隙水に溶けてCaイオンとして土中を移動することが地盤全体のセメンテーションにとって重要な要素である。水酸化カルシウムが水に溶けたものは石灰水である。水酸化カルシウムが水に溶ける量は、水100gあたり、0.18g(0℃)、0.13g(50℃)、0.007g(100℃)である。
【0052】
土中のイオンの移動は、移流・拡散現象として捉えられ、吸着や分解などが無視できる場合は一般に次の数7の移流・拡散方程式によって表現される。
【0053】
【数7】
ここで、Dxはx方向の分散係数、CはCaイオン濃度、vxは移流速度、xは一次元の位置を表す座標でx=Lとし、そしてtは時間である(図10)。この一般解は次の数8のように表される。
【0054】
【数8】
ここで、Coは初期濃度、erf(β)は誤差関数、erfc(β)は補誤差関数である。
【0055】
【数9】
βとerft(β)の値を表2.1に示す。
【0056】
【表2】
粘性土の場合、透水係数が低いので移流速度を無視してvs=0とすると、数8はつぎの数10のようになる。
【0057】
【数10】
図11はいろいろな分散係数を用いて数10から計算した30日後の水酸化カルシウム濃度分布である。分散係数が大きいほど水酸化カルシウムはイオンの形で速く分散することが分かる。なお、初期濃度を水酸化カルシウムが常温で溶解する最大濃度である1500mg/Lとした。また、図12は2年後について計算したものである。この場合の、x=0において濃度が常に1600mg/Lであることが初期および境界条件である。
【0058】
実際は一次元浸透ではないし、またイオン交換による吸着反応もある。さらには、二酸化炭素が存在すれば炭酸カルシウムが生成し、粒子結合に寄与する。したがって、ここで計算した値とは大きく異なる可能性がある。また、移流があればCa2-の移動速度は速くなる。
【0059】
生石灰の粒径と土粒子径
粒子群が回転する場合、粒径が大きいものほど外側へ移動する。これは液体中の粒子の沈降速度は、その粒径が大きいほど速いのと似ている。また、土石流の場合に大きな粒子ほど前面の出てくるのと似た現象と考えられる。
【0060】
実験例
本技術による地盤改良効果を把握するため、秘密の状態で実験施工を行い、地盤調査を行った。調査地点は、2m間隔で格子状に打設した砂杭15の対角線上の中間点である。砂杭15の直径は約30cmであり、その砂杭15周辺は生石灰が水と反応して消石灰になっていると考えられる。
【0061】
実験結果について表3と表4に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
表3に示すように、砂杭打設前と後で土質定数にほとんど違いは無いといえる。打設後直ぐの調査であるので土質に変化はないと考えるほうが妥当である。時間が経るにつれて圧密が促進され含水比の低下が起こると思われる。なお、水和反応以外の化学反応による物性の変化は表3に示す物理特性には変化として現れないことが考えられ、むしろ力学特性に反映されるものと思われる。
【0064】
一軸圧縮強さをみると、打設前に比べて打設後において幾分高い値を示している。
【0065】
表3から、土粒子密度は2.6g/cm3を越えており、未分解の有機物はそれほど多くは含まれていないと思われる。
【0066】
水平載荷試験の結果(表4)をみると、打設前後で降伏圧、破壊圧、地盤係数、変形係数などにおいて増大が見られる。載荷試験は打設後短期間のうちに行った試験であるので、この結果は即時効果によるものと考えられる。表3に示したように、調査地点の含水比などはそれほど変化していないので、この増大は杭打設と即時的な水和反応の影響と思われる。なぜなら、載荷試験の結果は載荷によって破壊するであろう広範囲の地盤域の影響を受けるために、設置砂杭とその周辺の即時的な水和反応の影響を受けていると思われる。
【0067】
本技術の特徴は、生石灰と砂材料との混合杭を作製するのではなく、砂杭による周辺地盤の締固め効果と、杭周辺に生石灰を分散させ、そこから始まる水和反応、陽イオン交換、エトリンガイド生成、ポゾラン反応、炭酸塩化などの効果を複合的に利用する点である。したがって、長期的な地盤の強度増加が期待でき、セメンテーションが起こった地盤は自然地盤に近いものとなる可能性がある。
【0068】
このように、本実施例では、地盤改良を行う改良地盤の地表部3において、ボーリングを行って地中より改良地盤のサンプルを採取し、この採取したサンプルの室内土質試験により含水比を得ると共に、該サンプルの圧密試験を行って前記改良地盤に適したアースオーガー5の垂直方向の軸力と逆回転の速度を設定し、設定する垂直方向の軸力は2〜3トンであり、改良地盤の地表部3に、隣合う掘削孔11を桝目の交差位置に配置し、改良地盤容積は、周囲の掘削孔11の中心を結ぶ線に囲まれた部分の地表部3の面積に、掘削孔11の深さを掛けたものであり、改良地盤容積に対して6%〜7%の骨材12及び生石灰14を追加すると共に、この追加量を掘削孔11の数で割った量にほぼ相当する骨材12及び生石灰14を各掘削孔11に追加し、骨材12が砂であるから、掘削孔11の周囲を効果的に圧密することができる。さらに、改良地盤容積に対して、6〜7%の骨材12及び生石灰14を追加するから、地盤が崩壊することなく、適切な圧密を行うことができ、地盤破壊のない安定した施工が可能となる。
【0069】
このように本実施例では、請求項1に対応して、アースオーガー5を正転しながら所定深さの掘削孔11を形成した後、地表部3から掘削孔11に骨材12と生石灰14を投入し、アースオーガー5を逆回転すると共に、垂直方向の軸力である垂直荷重Wを加えることにより骨材12及び生石灰14に水平方向の力を加えて掘削孔11の周囲及び掘削孔11内を圧密すると共に、生石灰14を掘削孔11の周囲に移動せしめ、骨材12より大きな生石灰14を用い、生石灰14の大きさが前記骨材より大きいから、アースオーガー5を逆回転することにより、骨材12と生石灰14を掘削孔11周囲の軟弱地盤中に押し込み、掘削孔11内の骨材12からなる砂杭15を地中に造成して圧密効果を促進させると共に、その掘削孔11周囲に移動せしめた生石灰14,間隙水及び周囲の土粒子から起こ一連の化学反応を利用して、広範囲な地盤の圧密効果が得られると共に、長期に渡ってセメンテーションを継続させることができる。
【0070】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、生石灰14の粒径の大きさが30mm〜60mmであるから、掘削孔11内で、骨材12と生石灰14とは、アースオーガー5が逆回転すると、骨材12に比べて大きな生石灰14が外周側へと移動する。また、生石灰14を大きくすることにより、その生石灰14は水分との反応に時間が掛かるから、外側まで移動し易くなる。
【0071】
また、実施例では、骨材12とを混合した混合杭を構築するのではなく、骨材12と生石灰14とを別々に投入し、砂杭15による周辺地盤の締固め効果と、杭周辺に生石灰14を分散させ、そこから始まる水和反応、陽イオン交換、エトリンガイド生成、ポゾラン反応、炭酸塩化などの効果を複合的に利用することができる。
【0072】
尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。例えば、本発明の地盤改良工法は、実施例以外でも、河川堤体の補強,道路の補強,斜面安定,地すべり地域などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1を示す掘削開始初期の断面図である。
【図2】同上、掘削孔を形成した状態の断面図である。
【図3】同上、アースオーガーを逆回転して骨材を投入している状態の断面図である。
【図4】同上、アースオーガーを逆回転して生石灰を投入している状態の断面図である。
【図5】同上、アースオーガーを逆回転して圧密作業を行っている状態の断面図である。
【図6】同上、地盤改良を行う地表部の平面図である。
【図7】同上、骨材杭と生石灰の水和反応による効果を説明する断面説明図である。
【図8】同上、軟弱地盤中における生石灰から起こる反応を説明する断面説明図である。
【図9】同上、施工途中の断面説明図である。
【図10】同上、Caイオンの一次拡散を説明する説明図である。
【図11】同上、施工30日後の水酸化カルシウムの分散状態を示すグラフ図である。
【図12】同上、施工2ヶ月後の水酸化カルシウムの分散状態を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0074】
3 地表部
4 回転手段
5 アースオーガー
11 掘削孔
12 骨材
14 生石灰
15 砂杭(骨材杭)
W 垂直荷重
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、アースオーガーを用いた地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の地盤改良工法として、地表に直立される架構体に沿って昇降できるようにされた駆動機構を有し、下方先端部に掘削スクリューと、これに続く上方に断続した螺旋状の攪拌および破砕プレートをそれぞれ設けた中空筒状のオーガーを、前記駆動機構により可逆転できるように結合され、この提案された工法は、先端部に掘削スクリュー、これに続く部分に攪拌および破砕プレートなどを各々設けると共に、内部に生石灰又は消石灰給送スクリューコンベヤと圧縮空気通路とを、前記先端部に各々開口して構成したオーガーを用い、掘削土をできるだけ排出させることのないようにして土壌を柱状に掘削し、かつ同時に掘削土を掘削孔内で攪拌砕土させ、この砕土された掘削土中に前記スクリューコンベヤにより給送される石灰を圧縮空気によって噴出させ、掘削土および土中水とを攪拌混合して、この石灰を掘削土および土中水と反応させて、軟弱地盤中に強固な石灰と掘削土とにより柱状体を造成するもの(例えば特許文献1)があり、さらに、アースオーガーを用いて、地盤に所定深さの掘削孔を形成する工程と、前記掘削孔の先端部にて、前記アースオーガーのオーガーヘッドよりパイル先端部固定液を選択的に注入する工程と、前記パイル先端部固定液の注入後、前記オーガーヘッドよりパイル周辺部充填液の注入後、前記掘削孔にパイルを建て込む工程と、前記パイルが所定高さレベルになるように、該パイルを前記地盤に定着させる工程と、を備えるセメントミルク公報における孔壁地盤改良方法があり、この地盤改良方法では、セメントミルクは、パイル先端部固定液とパイル周辺部充填液を2種類用いるが、それぞれの場合における成分配合を好適に選定する事により、摩擦力及び支持力等を大幅に向上させることができる。特に、パイル周辺部充填液は、普通ポルトランドセメント及びセメント系固化材を主成分として、これに適量のベントナイトが添加されたもの(例えば特許文献2)である。例えば、特に砂質土に対しては普通ポルトランドセメントが、また粘性土に対しては、セメント系固化材がそれぞれ地盤改良効果を発揮し、これにより地盤強度を各段に高めることができると記載されている。
【0003】
上記従来のものは、いずれも石灰やセメント等の固化材を多量に使用して地中に柱状体を形成することにより地盤の改良を図るものであり、それらの材料費がかさむと共に、固化材などの使用により環境への影響も懸念される。また、掘削部分のみ強固な柱状部に形成するため、掘削部分の周囲における締め固め効果に劣る面があった。
【0004】
このような問題を考慮して、アースオーガーを正転しながら所定深さの掘削孔を形成し、この後、前記アースオーガーを低速で逆回転すると共に、垂直方向の軸力を加え、前記アースオーガーにより地表部から投入した骨材に水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密する地盤改良工法(例えば特許文献3)が提案され、この地盤改良工法では、生石灰を含む骨材を用い、環境への適合性に優れ、掘削孔の周囲を効果的に圧密することができる。
【0005】
また、粒度5mm以下の生石灰を含む地盤改良材(例えば特許文献4)や、15mm以下の粒径の生石灰を用いることが好ましいとする工法(例えば特許文献5)も知られている。
【特許文献1】特公昭52−606号公報
【特許文献2】特開平7−216866号公報
【特許文献3】特開平11−357898号公報
【特許文献4】特開平11−181424号公報
【特許文献5】特開2001−152149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3の地盤改良工法では、生石灰を含む骨材を用い、環境への適合性に優れ、掘削孔の周囲を効果的に圧密することができる。しかし、生石灰と山砂とを混合した後、掘削孔に投入し、アースオーガーの逆回転により、それら生石灰と山砂水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密し、掘削孔内には生石灰と山砂及び土中水が反応した砂杭が形成されるが、この砂杭の周囲では生石灰を用いた効果が十分には得られていなかった。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するもので、広範囲な地盤の圧密効果が得られ、長期に渡って生石灰によるセメンテーション(化学効果)を継続することができる地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載の地盤改良工法は、アースオーガーを正転しながら所定深さの掘削孔を形成した後、地表部から前記掘削孔に骨材と生石灰を投入し、前記アースオーガーを逆回転すると共に、垂直方向の軸力を加えることにより前記骨材及び生石灰に水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密すると共に、前記生石灰を掘削孔の周囲に移動せしめ、前記骨材より大きな前記生石灰を用いることを特徴とする地盤改良工法である。
【0009】
本発明の請求項2記載の地盤改良工法は、前記生石灰の大きさが30mm〜60mmであることを特徴とする請求項1記載の地盤改良工法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1によれば、アースオーガーを逆回転することにより、骨材と生石灰を掘削孔周囲の軟弱地盤中に押し込み、掘削孔内の骨材からなる骨材杭を地中に造成して圧密効果を促進させると共に、その掘削孔周囲に移動せしめた生石灰,間隙水及び周囲の土粒子から起こる一連の化学反応を利用して、広範囲な地盤の圧密効果が得られると共に、長期に渡ってセメンテーションを継続させることができる。
【0011】
本発明の請求項2によれば、掘削孔内で、骨材と生石灰とは、アースオーガーが逆回転すると、骨材に比べて大きな生石灰が外周側へと移動する。また、大きな生石灰を用いることにより、その生石灰は水分との反応に時間が掛かるから、外側まで移動し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な地盤改良工法を採用することにより、従来にない地盤改良工法が得られ、その地盤改良工法について記述する。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例1を添付図面を参照して説明する。図1ないし図4は、本発明の実施例1を示し、同図に示すように、レッカー車などの作業車のブーム1の先端にリーダー2を連結し、このリーダー2を地表部3に立設し、前記リーダー2に沿って減速機付き回転手段4を移動可能に設け、この回転手段4にアースオーガー5を回動可能に垂設している。このアースオーガー5は筒部6の外周に螺旋ねじ状の掘削羽根7を有し、さらに、下端には先鋭な円錐部8が設けられている。
【0014】
次に、本発明の地盤改良工法の手順について説明する。まず、地盤改良を行う地表部3において、ボーリングを行い、地中からサンプルを採取し、所定の試験を行う。これにより、後述する各種データを算出する。まず、図1及び図2に示すように、アースオーガー5を掘削方向に回転して所定深さの掘削孔11を形成する。この後、アースオーガー5を低速で逆回転し、地表部から骨材12を投入する。この場合、図3に示すようにアースオーガー5に加える垂直荷重Wである軸力は、2〜3トン程度とし、アースオーガー5は毎分25回転以下、好ましくは20回転程度とする。また、骨材12には、アースオーガー5の掘削により排出された掘削土及び砂たる山砂を用いることができ、この場合、改良地盤容積の6%程度から10%未満,好ましくは6%程度から7%程度の骨材12及び生石灰14を投入する。すなわち、改良地盤容積の6%程度から10%程度の骨材12及び生石灰14を追加し、掘削土を全て掘削孔11に戻して用いる場合は、追加する山砂13及び生石灰14は地盤改良容量の6%程度から7%程度とすることが好ましい。尚、前記改良地盤容積とは、地盤を改良する箇所の面積に掘削孔11の掘削深さをかけたものであり、具体的に図4により説明すると、周囲の丸5,丸4,丸9,丸13,丸17,丸21,丸22,丸23,丸24,丸20,丸16,丸12,丸3,丸8,丸7,丸6に示す掘削孔11の中心線により囲まれた部分(図中一点鎖線で表示)が地表部3の改良地盤面積であり、この面積に図2に示した掘削孔11の深さをかけたものが改良地盤容積となる。そして、この地盤改良容積の6%程度から10%未満,好ましくは6%程度から7%程度の骨材12及び生石灰14を追加し、各掘削孔11には、全体の追加量を掘削孔11の数で割った量にほぼ相当する量の骨材12を追加する。
【0015】
このようにアースオーガー5を逆回転し、所定量の骨材12を投入した後、図4に示すように、生石灰14を掘削孔11に投入し、その生石灰14は逆回転するアースオーガー5のスクリューコンベヤ作用により掘削孔11の下部まで送られ、掘削孔11の深さ方向全体に行き渡る。生石灰14の投入が終わった後も、アースオーガー5を逆回転することにより、投入した骨材12と生石灰14による側方応力を増大させ、掘削孔11周囲の過剰間隙水圧を発生させて排水を促すことで圧密を促進させる。尚、掘削孔11を塞ぐ程度の骨材12を投入した後、所定量の生石灰14を投入し、この後、追加で骨材12を投入するようにしてもよい。
【0016】
掘削孔11内で、骨材12と生石灰14とは、アースオーガー5が逆回転すると、主として粒径の大きな生石灰14が外周側へと移動する。これは液体中の粒子の沈降速度がその粒径が大きいほど速いのと似ており、土石流の場合に大きな粒子ほど前面に出てくるのと似た現象であり、また、粒径を大きくすることにより、水分との反応に時間が掛かるから、外側まで移動し易くなる。
【0017】
そして、通常の山砂を骨材12として用いた実験では、生石灰14の粒径が30mm未満では、生石灰14の外側への移動が十分ではなく、投入する生石灰14は、前記骨材12より粒径が大きく、例えば粒径が30mm以上、60mm以下、好ましくは40mm以上、50mm以下のものを用いる。尚、40mm以上の塊状の生石灰14と、30mm未満の生石灰14とを比較したのは、35mm程度の生石灰が入手できなかったためである。尚、50mm以下の生石灰14を用いることが好ましいのは、50mmを超えるものは市販品として入手が困難なことによる経済性の面と、50mmを超えると、アースオーガー5の掘削羽根7に加わる抵抗が大きくなり、掘削孔11の底部まで送り難くなるためである。
【0018】
尚、粒径が30mm以上、60mm以下とは、30mm篩を通過せず、かつ60mm篩を通過することをいう。
【0019】
生石灰14は、石灰石(CaCO3)を原料とし、900℃以上の高温で焼成することにより脱炭作用(脱CO)を起こして生成される。
【0020】
アースオーガー5に加える垂直荷重Wと回転数とを設定することにより、骨材12及び生石灰14が水平方向に向かう力を効果的に得ることができ、掘削孔11の周囲の地盤を効果的に圧密することができる。尚、アースオーガー5と回転手段4とを合わせた自重が2〜3トン程度であれば、この例では、別個にウエートなどを設けることなく、垂直荷重Wを得ることができる。また、垂直荷重Wを大きく設定する場合は、回転手段4にウエート(図示せず)を設けたり、該回転手段4にワイヤー(図示せず)などを連結し、このワイヤーを巻き取るなどして下向きの荷重を付加するようにすれば良い。
【0021】
ここで作用について詳述すると、粘性土を攪拌すると液状の柔らかさになり、この状態で放置すると液性の性質を失ったり、剛な状態になったりするが、この攪拌がランダムで静的に近い(静止土圧係数に近い状況)応力で加圧すると、構造配列が不完全配向構造から配向構造に近い上記に変化する。この現象をシキソトロピー現象と呼び、古くから認識されている。
【0022】
一方、高速道路などの盛土試験で実際の変位値と今までの理論値に違いが見られ、この違いは異方圧密によるせん断強度の増加と説明されている。すなわち、地盤の中の要素を検討すると、等方圧密は特殊な場合であり、普通は有効土かぶり圧と側方の拘束圧力の値は異なるわけである。そこで、地盤中のひずみは鉛直(垂直)方向のみに生じ、水平方向にはひずみは生じない。従って、このような地盤中の応力やひずみの条件に合わせた圧密試験を現在K0試験と呼んでいる。静止土圧係数K0の値は、0.95−sinΦ´に近似する(Φ´は土中の内部摩擦角)。
【0023】
そして、静止土圧係数近くの力で水平に近い応力を加えながらゆっくりと加圧することにより最低の応力の増加が地盤内にほぼ均質に起こることとなる。この加圧はアースオーガー5を逆回転させ、その重量と回転速度を制御することにより調整可能となる。
【0024】
このように地盤中に貫入したオーガーを逆回転させることによって、山砂などの骨材12を軟弱地盤中に押し込んで、砂杭たる砂杭15を地盤中に造成して圧密効果を促進させるとともにその砂杭15周辺の生石灰、間隙水および土粒子から起こる一連の化学反応を利用して、広範囲に地盤の圧密効果(物理効果)を促進させ、長期にわたってセメンテーション(化学効果)を続伸させることができる。
【0025】
物理的には、砂杭15の造成により側方応力を増大させ過剰間隙水圧を発生させて排水を促すことで圧密を促進させる。砂杭15そのものは圧密沈下がほとんどなくまた支持力も大きいので、地盤の支持力増大に寄与する。
【0026】
また、一連の化学反応とは、(1)水和反応、(2)イオン交換、(3)エトリンガイド生成、(4)ポゾラン反応、および(5)炭酸塩の生成である。
【0027】
アースオーガー5を逆回転しながら、掘削孔11内に骨材12を投入して砂杭15を形成することで、掘削孔11の側方圧密効果が促進させる。この場合、砂杭15によって粘性土中に過剰間隙水圧が発生し、それによって強制的に排水が行われる。
【0028】
以下、一連の化学反応を個別に説明する。
(1)水和反応
生石灰CaOは土中の水分と次のように反応して消石灰Ca(OH)2を生成する。
【0029】
【数1】
この反応では、生石灰10kgが消石灰になると土中の間隙水約4.3kgの水を結晶水に変える。また発生する熱は間隙水の蒸発を促す。一般に軟弱土は高含水比であるから、含水比の低下は強度発現に大きく寄与する。ただし、この反応は生石灰についてのみ起こるから、高含水比の土では生石灰が存在する箇所の付近に限られると考えられる。
【0030】
土と生石灰を混合する場合には、それぞれの量が決まっているので、含水比変化は計算可能である。
【0031】
生石灰と土を混合する場合にはその化学反応式から種々の情報が得られる。たとえば、生石灰の水和反応では生石灰の質量の32%の水が消石灰の生成に使われる。また脱水による蒸発が起こる分を加えると、生石灰質量の45%が含水量から除去される。また、上記数1の反応では反応に使われる水の分だけ質量が増えるので、生成される消石灰の質量は加えた生石灰の1.32倍となる。
【0032】
砂杭15の形成と水和反応による作用は比較的短時間で効果が得られる。それを図7を用いて説明する。
【0033】
図7は砂杭15を打設した地盤に鉛直載荷を行った場合に、地盤の支持力増加のメカニズムについて説明するものである。支持力増加はすべり破壊に対する抵抗力の増加である。もともと粘着力がcの地盤において、砂杭15内を横切るすべりに対する摩擦抵抗と比較的速い生石灰から消石灰へ反応が起こり、含水比が低下することによって粘着力の増大が起こり、すべり抵抗が増す。
【0034】
これらに対して反応が比較的ゆっくりとしたものや元素や分子の移動を必要とするものは遅延効果として現れる。以下に遅延効果について述べる。
(3)イオン交換
粘土鉱物のような細粒土はその表面に多くの電荷を有しており、そこには陽イオンが吸着される。また、粒子表面にNaイオンが吸着されている場合にはCaイオンがNaイオンにとって変わる。この作用は陽イオン交換と呼ばれ、土の陽イオン交換容量(Cation Exchangeable Capacity;CEC)が大きい土ほどこの作用が起こりやすい。一般に粒径が小さく、活性の高い粘土になるほどCECは大きい。石灰から溶け出たCaイオンは水と結合したり土粒子に吸着されて、粒子間の結合に寄与することとなる。その結果、団粒化が起こりやすくなる場合もある。
【0035】
水分子は双極性で電荷に対して配向する。また、水分子を吸着した水和イオンは粒子間にあっては、元来粒子表面の負電荷が反発するのを引力に変える働きをする。これが団粒化の原因ともなる。さらに、NaがCaイオンと交換されると、もともとの粒子表面の吸着水膜は薄くなり、圧密が起こりやすくなる。この作用はCaイオンの移動によって周辺まで起こり得る。
【0036】
Caイオンの移動は水の流れが無くとも拡散現象によって起こる。粘性土の場合には透水係数が小さいので、イオンのような溶質は拡散により起こる。ある点を移動する量はそこでの濃度勾配△C/△Lに比例し、下記の数2の関係をなす。
【0037】
【数2】
ここに、Cは濃度、Ddifは拡散係数、Lは距離である。つまり、2点間のCaイオンの移動量は2点間における濃度の差が大きいほど多い。数2はFickの法則として知られている。
(4)エトリンガイド生成
消石灰とアルミナ(Al2O3)、石膏(CaSO4)および水の反応によって針状のエトリンガイドの結晶が生成し土粒子を架橋する。その反応は図8及び下記の数3に示すとうりである。
【0038】
【数3】
(5)ポゾラン反応
ポゾラン反応はエトリンガイドと同様、消石灰とシリカおよびアルミナとの反応である。生成する物質はケイ酸カルシウム水和物やアルミン酸カルシウム水和物で土粒子間を結合させる。シリカやアルミナは無機の鉱物であるから、高有機質土以外の土で普通に起こると考えられる。ポゾラン反応は下記の数4で表される。
【0039】
【数4】
(6)炭酸塩の生成
消石灰が水に溶けた石灰水に二酸化炭素が反応すると炭酸カルシウムが生成する。そのとき粒子の膠着が起こる。この反応は、自然界で普通に起こり、セメンテーションの原因として地盤工学の分野で最近になって重要視されるようになった。基本的には石灰水中のCa2+とHCO3-が時間とともに遠くまで移動するので、広範囲に炭酸塩化が起こることが期待できる。この反応はCO2を地盤内に固定するのに役立つ。
【0040】
石灰は炭酸カルシウム(石灰岩)を焼成して得られるが、そのとき二酸化炭素を生成している。石灰水から炭酸カルシウムが生成する反応は次の数5に示すものである。
【0041】
【数5】
この場合にはCO2が必要であるので、有機物が分解されてCO2が生成しているような高有機質土、地下水面付近または地下水位が大きく変動するところで炭酸塩化が起こりやすいといえる。
【0042】
主にこれらの現象は軟弱土の強度発現効果としての役割をもつ。本工法がこれまでの生石灰を使用する地盤改良と主に異なる点は、改良したい土と生石灰との混合を目的とするのではなく、砂杭15の造成とその周辺に生石灰壁を造ることにある。すなわち砂杭周辺の軟弱地盤の脱水と消石灰の生成、およびそこからのCa2+の拡散による種々の化学反応が重要な要素となっている。
【0043】
技術の特長
特に本発明では、生石灰14の粒径を砂の粒径より大きくすることで、図8に示したように生石灰14の層を砂杭15の周囲に形成できる。これによって、軟弱地盤が生石灰14に接し、水和反応が起きて軟弱地盤中の含水比の低下と発熱による蒸発が起こる。つまり、生石灰14が水と反応することで消石灰が生成し、その過程で針状のエトリンガイドが生成し地盤の硬化が起こる。また、消石灰はポゾラン反応を起こし、粘土粒子などのセメント物質として働く。石灰から溶出するカルシウムイオンは粘土粒子に吸着されているナトリウムイオンなどと交換し、吸着水膜や電気二重層を薄くすることで密度増加(圧密促進)を起こす。さらに、消石灰が石灰水となって二酸化炭素の供給があると炭酸カルシウムが土粒子の接触部や表面に沈積する。これは土のセメンテーションとして作用する。消石灰は食品材としても使用されているように、これらの反応と生成物はほとんど無害である。
【0044】
炭酸カルシウムは大量には石灰岩として天然に存在し、また、すべての土が必ずといっていいほど少量または大量に炭酸カルシウムを含んでいる。最近、これらの炭酸カルシウムやその他の炭酸塩(炭酸マグネシウムや炭酸ナトリウムなど)が土の強度に大きく寄与していることが明らかにされてきた。また、自然地盤の間隙水中でカルシウムイオンと重炭酸イオンが結晶となり粒子表面に凝集し、強度増加の大きな要因となることは地質学の分野で続成作用としてよく知られている。本技術は、最終的にこのような現象を引き起こす条件を人工的に造る効果も奏する。
【0045】
【表1】
これまで得られた炭酸カルシウム含有率と土の強さの関係は上記表1のようになる。調査の結果、海底表層土では炭酸カルシウムが1%増えると一軸圧縮強さは約17kPa/%の割合で増大し、海底から深さが40mほどになると60〜70kPa/%増大、また水田の下部(深さ1〜2.5m)では260kPa/%の割合で一軸圧縮強さが増大した。
【0046】
水田のケースについては炭酸カルシウム以外の膠着物の影響も考えられるが、その場合炭酸カルシウムとその膠着物の含有量に相関が無ければ説明できない。また、砂の場合には65kPa/%の強度増加率が得られている。
【0047】
技術の理論的検証
上述したように本地盤改良工法に用いる装置は、アースオーガー5、アースオーガー5を回転させるためのモーターなどの回転手段4、それを吊り下げるためのバックホウなどのブーム1からなる。図9は施工途中の断面説明図であり、同図に示すように、アースオーガー5を所定の位置で所定の深さまで貫入させ、そこでアースオーガー5を逆回転させることで、地中のスクリューコンベヤーとなり、地表部3から山砂などの骨材12と生石灰14を、逆回転するアースオーガー5で地中に送り入れる。
【0048】
逆回転するアースオーガー5によって砂杭15が形成されていくが、地中に造成される砂杭15の大きさはアースオーガー5と回転手段4の重量と造成される砂杭15に作用する原地盤内の反力との釣り合いに関係する(図9)。垂直重量Wの下で、造成される砂杭15の径は原地盤が軟らかいほど大きくなる。それは、アースオーガー5先端における骨材12及び生石灰14の反力によつてアースオーガー5が浮き上がるまで砂杭15が造成されるから、そのときの釣り合い式は、(オーガーを持ち上げる先端の反力R)=(オーガーとモーターの重量W)+(オーガーが上方向に持ち上げられるときの周辺摩擦F)となり、下記の数6で表される。
【0049】
【数6】
尚、図9はアースオーガー5を杭と考えたときの力のバランスを示し、この場合、回転力は無視し、アースオーガー5によって下向きに動く骨材12はアースオーガー5と一体とみなす。周面摩擦は骨材12間で発生すると仮定する。
【0050】
ここで、rはアースオーガー5の最大回転直径、dはアースオーガー5が地中にある部分の深さ、σは側方土庄、φrは骨材12の内部摩擦角である。ここで得られた反力Rを砂杭15の先端支持力(N値から換算)式と比較することで、造成した砂杭15の支持力を推定できる。
【0051】
カルシウムイオンの浸透
消石灰(水酸化カルシウム)が生成し、それが間隙水に溶けてCaイオンとして土中を移動することが地盤全体のセメンテーションにとって重要な要素である。水酸化カルシウムが水に溶けたものは石灰水である。水酸化カルシウムが水に溶ける量は、水100gあたり、0.18g(0℃)、0.13g(50℃)、0.007g(100℃)である。
【0052】
土中のイオンの移動は、移流・拡散現象として捉えられ、吸着や分解などが無視できる場合は一般に次の数7の移流・拡散方程式によって表現される。
【0053】
【数7】
ここで、Dxはx方向の分散係数、CはCaイオン濃度、vxは移流速度、xは一次元の位置を表す座標でx=Lとし、そしてtは時間である(図10)。この一般解は次の数8のように表される。
【0054】
【数8】
ここで、Coは初期濃度、erf(β)は誤差関数、erfc(β)は補誤差関数である。
【0055】
【数9】
βとerft(β)の値を表2.1に示す。
【0056】
【表2】
粘性土の場合、透水係数が低いので移流速度を無視してvs=0とすると、数8はつぎの数10のようになる。
【0057】
【数10】
図11はいろいろな分散係数を用いて数10から計算した30日後の水酸化カルシウム濃度分布である。分散係数が大きいほど水酸化カルシウムはイオンの形で速く分散することが分かる。なお、初期濃度を水酸化カルシウムが常温で溶解する最大濃度である1500mg/Lとした。また、図12は2年後について計算したものである。この場合の、x=0において濃度が常に1600mg/Lであることが初期および境界条件である。
【0058】
実際は一次元浸透ではないし、またイオン交換による吸着反応もある。さらには、二酸化炭素が存在すれば炭酸カルシウムが生成し、粒子結合に寄与する。したがって、ここで計算した値とは大きく異なる可能性がある。また、移流があればCa2-の移動速度は速くなる。
【0059】
生石灰の粒径と土粒子径
粒子群が回転する場合、粒径が大きいものほど外側へ移動する。これは液体中の粒子の沈降速度は、その粒径が大きいほど速いのと似ている。また、土石流の場合に大きな粒子ほど前面の出てくるのと似た現象と考えられる。
【0060】
実験例
本技術による地盤改良効果を把握するため、秘密の状態で実験施工を行い、地盤調査を行った。調査地点は、2m間隔で格子状に打設した砂杭15の対角線上の中間点である。砂杭15の直径は約30cmであり、その砂杭15周辺は生石灰が水と反応して消石灰になっていると考えられる。
【0061】
実験結果について表3と表4に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
表3に示すように、砂杭打設前と後で土質定数にほとんど違いは無いといえる。打設後直ぐの調査であるので土質に変化はないと考えるほうが妥当である。時間が経るにつれて圧密が促進され含水比の低下が起こると思われる。なお、水和反応以外の化学反応による物性の変化は表3に示す物理特性には変化として現れないことが考えられ、むしろ力学特性に反映されるものと思われる。
【0064】
一軸圧縮強さをみると、打設前に比べて打設後において幾分高い値を示している。
【0065】
表3から、土粒子密度は2.6g/cm3を越えており、未分解の有機物はそれほど多くは含まれていないと思われる。
【0066】
水平載荷試験の結果(表4)をみると、打設前後で降伏圧、破壊圧、地盤係数、変形係数などにおいて増大が見られる。載荷試験は打設後短期間のうちに行った試験であるので、この結果は即時効果によるものと考えられる。表3に示したように、調査地点の含水比などはそれほど変化していないので、この増大は杭打設と即時的な水和反応の影響と思われる。なぜなら、載荷試験の結果は載荷によって破壊するであろう広範囲の地盤域の影響を受けるために、設置砂杭とその周辺の即時的な水和反応の影響を受けていると思われる。
【0067】
本技術の特徴は、生石灰と砂材料との混合杭を作製するのではなく、砂杭による周辺地盤の締固め効果と、杭周辺に生石灰を分散させ、そこから始まる水和反応、陽イオン交換、エトリンガイド生成、ポゾラン反応、炭酸塩化などの効果を複合的に利用する点である。したがって、長期的な地盤の強度増加が期待でき、セメンテーションが起こった地盤は自然地盤に近いものとなる可能性がある。
【0068】
このように、本実施例では、地盤改良を行う改良地盤の地表部3において、ボーリングを行って地中より改良地盤のサンプルを採取し、この採取したサンプルの室内土質試験により含水比を得ると共に、該サンプルの圧密試験を行って前記改良地盤に適したアースオーガー5の垂直方向の軸力と逆回転の速度を設定し、設定する垂直方向の軸力は2〜3トンであり、改良地盤の地表部3に、隣合う掘削孔11を桝目の交差位置に配置し、改良地盤容積は、周囲の掘削孔11の中心を結ぶ線に囲まれた部分の地表部3の面積に、掘削孔11の深さを掛けたものであり、改良地盤容積に対して6%〜7%の骨材12及び生石灰14を追加すると共に、この追加量を掘削孔11の数で割った量にほぼ相当する骨材12及び生石灰14を各掘削孔11に追加し、骨材12が砂であるから、掘削孔11の周囲を効果的に圧密することができる。さらに、改良地盤容積に対して、6〜7%の骨材12及び生石灰14を追加するから、地盤が崩壊することなく、適切な圧密を行うことができ、地盤破壊のない安定した施工が可能となる。
【0069】
このように本実施例では、請求項1に対応して、アースオーガー5を正転しながら所定深さの掘削孔11を形成した後、地表部3から掘削孔11に骨材12と生石灰14を投入し、アースオーガー5を逆回転すると共に、垂直方向の軸力である垂直荷重Wを加えることにより骨材12及び生石灰14に水平方向の力を加えて掘削孔11の周囲及び掘削孔11内を圧密すると共に、生石灰14を掘削孔11の周囲に移動せしめ、骨材12より大きな生石灰14を用い、生石灰14の大きさが前記骨材より大きいから、アースオーガー5を逆回転することにより、骨材12と生石灰14を掘削孔11周囲の軟弱地盤中に押し込み、掘削孔11内の骨材12からなる砂杭15を地中に造成して圧密効果を促進させると共に、その掘削孔11周囲に移動せしめた生石灰14,間隙水及び周囲の土粒子から起こ一連の化学反応を利用して、広範囲な地盤の圧密効果が得られると共に、長期に渡ってセメンテーションを継続させることができる。
【0070】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、生石灰14の粒径の大きさが30mm〜60mmであるから、掘削孔11内で、骨材12と生石灰14とは、アースオーガー5が逆回転すると、骨材12に比べて大きな生石灰14が外周側へと移動する。また、生石灰14を大きくすることにより、その生石灰14は水分との反応に時間が掛かるから、外側まで移動し易くなる。
【0071】
また、実施例では、骨材12とを混合した混合杭を構築するのではなく、骨材12と生石灰14とを別々に投入し、砂杭15による周辺地盤の締固め効果と、杭周辺に生石灰14を分散させ、そこから始まる水和反応、陽イオン交換、エトリンガイド生成、ポゾラン反応、炭酸塩化などの効果を複合的に利用することができる。
【0072】
尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。例えば、本発明の地盤改良工法は、実施例以外でも、河川堤体の補強,道路の補強,斜面安定,地すべり地域などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1を示す掘削開始初期の断面図である。
【図2】同上、掘削孔を形成した状態の断面図である。
【図3】同上、アースオーガーを逆回転して骨材を投入している状態の断面図である。
【図4】同上、アースオーガーを逆回転して生石灰を投入している状態の断面図である。
【図5】同上、アースオーガーを逆回転して圧密作業を行っている状態の断面図である。
【図6】同上、地盤改良を行う地表部の平面図である。
【図7】同上、骨材杭と生石灰の水和反応による効果を説明する断面説明図である。
【図8】同上、軟弱地盤中における生石灰から起こる反応を説明する断面説明図である。
【図9】同上、施工途中の断面説明図である。
【図10】同上、Caイオンの一次拡散を説明する説明図である。
【図11】同上、施工30日後の水酸化カルシウムの分散状態を示すグラフ図である。
【図12】同上、施工2ヶ月後の水酸化カルシウムの分散状態を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0074】
3 地表部
4 回転手段
5 アースオーガー
11 掘削孔
12 骨材
14 生石灰
15 砂杭(骨材杭)
W 垂直荷重
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アースオーガーを正転しながら所定深さの掘削孔を形成した後、地表部から前記掘削孔に骨材と生石灰を投入し、前記アースオーガーを逆回転すると共に、垂直方向の軸力を加えることにより前記骨材及び生石灰に水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密すると共に、前記生石灰を掘削孔の周囲に移動せしめ、前記骨材より大きな前記生石灰を用いることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
前記生石灰の大きさが30mm〜60mmであることを特徴とする請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項1】
アースオーガーを正転しながら所定深さの掘削孔を形成した後、地表部から前記掘削孔に骨材と生石灰を投入し、前記アースオーガーを逆回転すると共に、垂直方向の軸力を加えることにより前記骨材及び生石灰に水平方向の力を加えて掘削孔の周囲及び掘削孔内を圧密すると共に、前記生石灰を掘削孔の周囲に移動せしめ、前記骨材より大きな前記生石灰を用いることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
前記生石灰の大きさが30mm〜60mmであることを特徴とする請求項1記載の地盤改良工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−267016(P2008−267016A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112422(P2007−112422)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(503349327)株式会社光建設 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(503349327)株式会社光建設 (1)
【Fターム(参考)】
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