説明

地盤震動速度計測方法

【課題】 複数の測定点において同一条件による震動を付与して、複数の測定点について画一的な表面波探査結果を与えることができる地盤震動速度計測方法を提供すること。
【解決手段】 地表面から所定高さまで引き上げられた重錘が自由落下して地表面に衝突させられる。すると、その衝突に伴って発生した表面波が起振源4から全周囲方向へ放射状に地盤を伝播して行く。各測定点M1〜M4には事前にそれぞれ各一対の震動センサ11,12が設置されており、各測定点M1〜M4に到達した表面波は、各一対の震動センサ11,12によりそれぞれ検出される。そして、各測定点M1〜M4毎に、各一対の震動センサ11,12間の距離Lと、その距離Lを通過する表面波の時間差Tとの関係式(Vrm=L/T)から、伝播速度(位相速度)Vrmが計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅などの建築物やその基礎構造物を建築するための敷地で実施される地盤震動速度計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、平板載荷試験結果に相当する長期許容支持力度を表面波探査に基づいて導出する地盤強度解析方法を、特許第3497142号公報にて提案している。かかる地盤強度解析方法は、平板載荷試験による地盤解析作業に比べて極めて簡便であり、特に、低予算で信頼ある調査要請がより強い一般住宅の建築工事において、その建築用地の地盤強度を求める方法として極めて有効なものである。
【0003】
ところで、建築用地に対する地盤強度解析の目的は、主として、建築用地が建築物およびその基礎構造物を長期安定的に支持可能か否かを評価することにある。かかる評価は、地盤強度解析結果に基づいて建築用地が不同沈下を起こすか否かを予測することによってなされる。
【0004】
建築用地の不同沈下を予測する手法としては種々のものが考えられるが、例えば、基礎構造物の敷設範囲に複数の測定点を設定して、その複数の測定点でそれぞれ表面波探査を実施し、上記した地盤強度解析方法によって各測定点毎に長期許容支持力度を求める。そして、その長期許容支持力度から各測定点の即時沈下量を求め、その即時沈下量の各測定点毎の差から各測定点間の勾配を求めれば、その勾配の値の大小に基づいて不同沈下の発生の有無が予測可能となる。
【特許文献1】特許第3491742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した長期許容支持力度を求めるための表面波探査は、一般に、各測定点毎に別々に実施されている。このため、基礎構造物の敷設範囲に設定した測定点の数の分だけ表面波探査を繰り返さねばならない。従って、作業が極めて煩雑であるという問題点があった。
【0006】
また、ハンマーリングや重錘落下などによる人的な起振作業では、作業員の力のいれ具合や落下高さが一定しないため、各測定点に対して行われる表面波探査の条件にバラツキが生じて、上記不同沈下評価結果の精度低下を招く虞があるという問題点もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、複数の測定点において同一条件による再現性のある震動を付与して、複数の測定点について画一的な表面波探査結果を与えることができる地盤震動速度計測方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の地盤震動速度計測方法は、調査対象の敷地上に複数の測定点を頂点とする仮想範囲を想定し、その想定された仮想範囲の図心付近に一の起振源を設定し、その起振源から複数の測定点へ向けて放射状に延びる複数の測線を地表面上に想定し、その想定された複数の測線上であって前記複数の測定点の設定箇所にそれぞれ一対の震動センサを設置し、その各測定点に設置される一対の震動センサの一方と他方との間隔を所定幅に設定し、その複数組の震動センサの設置後に、起振源の地表面上方の一定高さから略鉛直下方へ向けて一定重量の重錘を案内しつつ落下させて起振源の地表面に衝突させて、その衝突により発生した表面波を、各測定点毎にてそれぞれ検出し、その検出結果に基づいて各測定点を通過する表面波の伝播速度を計測する。
【0009】
請求項2記載の地盤震動速度計測方法は、請求項1記載の地盤震動速度計測方法において、前記表面波の検出では、起振源で発生した表面波を、各測定点毎に設置される一対の震動センサによりそれぞれ検出し、前記表面波の伝播速度の計測では、各測定点毎に一対の震動センサによる表面波の検出時間差とその一対の震動センサ同士の間隔幅との関係から、各測定点毎に一対の震動センサ間を通過する表面波の伝播速度を計測する。
【0010】
請求項3記載の地盤震動速度計測方法は、請求項1又は2に記載の地盤震動速度計測方法において、前記複数の測定点の設定では、基礎構造物の敷設範囲を敷地上に設定し、その敷設範囲の図心、又は、基礎構造物および基礎構造物上に載設される建築物の荷重が敷設範囲に作用する場合の敷設範囲の重心を推定し、その敷設範囲の図心又は重心を起点に放射線状に延びる仮想線によって敷設範囲を2以上の小区画に分割し、その2以上の小区画毎に、基礎構造物の敷設範囲の境界線付近であって敷設範囲の図心又は重心からの距離がより大きくなる位置に測定点を設定する。
【0011】
本発明の地盤震動速度計測方法によれば、起振源の地表面へ向けて重錘が落下して起振源の地表面と衝突すると、その衝突により生じた震動が表面波となって起振源から起振源の全周囲方向へ向かって放射状に地表面を伝播していく。そして、この表面波が敷地に設定された複数の測定点にそれぞれ達すると、各測定点に達した表面波は各測定点に一対ずつ設置される震動センサによりそれぞれ検出される。
【0012】
このとき、各測定点に達した表面波は、各測定点に設置される一対の震動センサのうち起振源に近い方のものでまず検出され、その後、起振源から遠い方のもので検出される。この結果、各測定点の一対の震動センサで検出された表面波の位相差とその震動センサ同士の間隔幅との関係から、各測定点毎に、その測定点を通過した表面波の伝播速度(位相速度)が計測される。つまり、1回の起振で発生したインパルス状の震動に伴う表面波の伝播速度が敷地内の複数の測定点で一度に計測される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の地盤震動速度計測方法によれば、起振源で起きた震動は、一定重量の重錘を起振源の地表面上方の一定高さから落下させて地表面に衝突させて発生するので、起振源に加える衝撃力を画一化できる。従って、起振源で発生する震動に再現性を付与することができ、その結果、計測する度毎に計測結果が大幅に相違することのないほぼ画一的な計測結果を得ることができるという効果がある。
【0014】
また、起振源に加わる衝撃力は、自由落下する重錘の衝突によるインパルス入力であるので、定常震動を発生させる起振器などの発振機器を用いずとも表面波速度の計測を行うことができ、極めて作業上において簡便であるという効果がある。しかも、上記のような1回的なインパルス状の衝撃を加えるだけで、複数の震動センサにより敷地内の複数の測定点における表面波速度を一括して同時に計測できるので、更に、地盤調査の手間を大幅に削減できるという効果がある。
【0015】
特に、請求項2記載の地盤震動速度計測方法は、建築物及び基礎構造物の合体物を敷設範囲の図心又は重心で支持すると仮定した場合、上記のように設定された測定点では、敷設範囲の図心又は重心に対する高低差が顕著により現れるので、不同沈下の評価により適した箇所に測定点を設定できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例である地盤震動計測方法が実施される建築用地1の平面図であって、測定点M1〜M4の設定手順を説明するものである。図1に示すように、建築用地1は、建築物の土台としての基礎構造物が敷設される土地であり、その敷地内に建築物の基礎構造物の全体を包摂する領域としての敷設範囲2が設定される。ここに、敷設範囲2は、建築用地1に設けられる基礎構造物の設計内容、及び、必要な場合には建築物の設計内容に基づいてに求められるものである。
【0017】
敷設範囲2の設定後は、かかる敷設範囲2に基礎構造物および建築物の合体物の全体荷重が作用する場合の重心位置3が推定されて、敷設範囲2上に設定される。なお、敷設範囲2に重心位置3を設定するのが困難な場合、例えば、基礎構造物および建築物の設計内容が未確定の場合などには、敷設範囲2の図心を重心位置3とみなして以降の処理を行っても良い。
【0018】
この重心位置3の設定後は、その重心位置3から放射状に延びる4本の仮想線L11,L12,L21,L22(図1中の2点鎖線)が引かれ、この4本の仮想線L11,L12,L21,L22により基礎構造物の敷設範囲2が4つの小区画B1〜B4に分割される。ここで、本実施例では、仮想線L11,L12が一直線状に、仮想線L21,L22が一直線状に、そして互いに隣り合う仮想線同士が略直交するように設定される。なお、重心位置3から放射状に延びる仮想線の本数は必ずしも4本に限定されるものではない。
【0019】
敷設範囲2を4つの小区画B1〜B4に分割した後は、その各小区画にそれぞれ任意の測定点M1〜M4が設定される。この各小区画B1〜B4の測定点M1〜M4は、基礎構造物の敷設範囲2の境界線付近であって重心位置3からの距離がより大きくなる位置に決定される。このため、各小区画B1〜B4内であって重心位置3から最も離れた内角部に、各測定点M1〜M4が設定される。測定点M1〜M4が決まったら、実際の建築用地1にて各測定点M1〜M4における表面波探査を以下の方法によって実施する。
【0020】
なお、敷設範囲2に設定される測定点の数は、必ずしも4点に限定されるものではない。例えば、ある小区画について即時沈下が顕著に現出する箇所が2以上想定される場合などその他状況に応じて、1つの小区画に測定点を2以上設定するようにしても良い。
【0021】
表面波探査を行うにあたって、まず、建築用地1に起振源4が設定される。この起振源4の設定では、まず、敷設範囲2に設定された全ての測定点M1〜M4を頂点とする仮想範囲A(図1中の斜線部)が想定され、この仮想範囲Aの図心付近に起振源4が設定される。起振源4の設定後は、その起振源4から複数の測定点M1〜M4へ向けて起振源4の周囲へ放射状に延びる測線N1〜N4を想定する一方で、起振源4に起振手段となる重錘5(図2参照)が設置される。
【0022】
図2(a)は、起振源4における縦断面図であり、図2(b)は、測線N1における測定点M1の縦断面図であり、図2(c)は、測線N2における測定点M2の縦断面図であり、図2(d)は、測線N3における測定点M3の縦断面図であり、図2(e)は、測線N4における測定点M4の縦断面図である。
【0023】
図2(a)に示すよう、起振源4には、重錘5が設置される。この重錘5は一定重量(例えば、数十キログラム程度)の金属製の錘であり、筒状の案内部材6の内周部に遊嵌されている。案内部材6は、その軸方向が略鉛直上方へ向くように立設されており、案内部材6の下端面と地表面との間には重錘5の高さより小さな間隔が設けられている。重錘5の頂部にはワイヤ7の一端が取着されており、このワイヤ7は案内部材6の内周部を通じてウインチ8の胴部外周に捲着されている。
【0024】
このウインチ8によれば、その胴部が回動されることによりワイヤ7が巻き上げられ、重錘5が案内部材6の内周を上端側へ移動して、重錘5の下端面が地表面から高さH(例えば略1〜2メートル程度)の位置まで上昇させられる。また、ウインチ8によって地表面から高さHの位置まで上昇させられた重錘5は、当該位置にてストッパ装置(図示せず)により駐止される。更に、ストッパ装置は重錘5の駐止状態を解除可能にも形成されており、かかる駐止状態が解除されると、案内部材6の内周面により案内されつつ、重錘5が自重で略鉛直下方へ落下させられる。
【0025】
上記した重錘5、案内部材6及びウインチ8は無限軌道方式の走行体9に搭載されており、この走行体9上では案内部材6に処理装置10が並設されている。処理装置10は、表面波探査により得られた計測データを処理するための装置である。この処理装置10は、一対の震動センサ11,12を合計4対接続可能に形成される信号処理装置10aを備えている。この信号処理装置10aは、各震動センサ11,12からの計測信号を受信するものである。
【0026】
また、処理装置10は、信号処理装置10aを介して計測信号を受信可能に形成されるメイン処理装置10bを備えている。メイン処理装置10bは、信号処理装置10aにより受信された計測信号から各測定点M1〜M4に関する計測データを取得し、その計測データを記憶し、その計測データに基づいて表面波の伝播速度などを演算するものである。
【0027】
図2(b)から図2(e)に示すように、測定点M1〜M4には、一対の震動センサ11,12がそれぞれ設置される。震動センサ11,12は、地表面の震動(変位)を検出する圧電素子型の検出センサである。各一対の震動センサ11,12は、測定点M1〜M4にて測線N1〜N4の線分上に一定の距離L(例えば略0.5〜1.0m)程度間隔を空けて設置される(図1参照)。各一対の震動センサ11,12から導出される信号ケーブル11a,12aは、全て上記した起振源4に設置される信号処理装置10aへ配線され接続されている。
【0028】
次に、上記した各種機器5〜12を用いた表面波探査について説明する。まず、重錘5がウインチ8により地表面から高さHの位置まで引き上げられ、その当該位置でストッパ装置により駐止される。そして、表面波探査開始の準備が整うと、ストッパ装置が解除される。この駐止解除によって、重錘5は、案内部材6の内周面を介して案内されながら略鉛直下方へ自由落下して、最終的に地表面に衝突させられる。すると、この衝突に伴って表面波が起振源4から全周囲方向へ放射状に地盤を伝播して行く。その後、起振源4から伝播する表面波は、各測定点M1〜M4のそれぞれに到達する。
【0029】
各測定点M1〜M4に到達した表面波は、まず、各一対の震動センサ11,12のうちで、起振源4に近い側に設置される各震動センサ11により検出され、その後、所定の時間差Tをもって、起振源4から遠い側に設置される各震動センサ12により検出される。この各測定点M1〜M4毎の各一対の震動センサ11,12により検出された計測信号は、それぞれの信号ケーブル11a,12aを介して起振源4の近傍に設置される処理装置10の信号処理装置10aへ入力される。この結果、1回の起振で得られた各測定点M1〜M4に関する表面波の計測信号が処理装置10へ一括して入力される。
【0030】
信号処理装置10aへ入力された計測信号は、この信号処理装置10aにより増幅され、この信号処理装置10aを介してメイン処理装置10bへと出力される。4対の震動センサ11,12により計測された計測信号がメイン処理装置10bへ入力されると、その計測信号はデータ化されて、各測定点M1〜M4に設置される震動センサ11,12に対応付けて、メイン処理装置10bのメモリ装置に記憶される。
【0031】
メイン処理装置10bでは、メモリ装置に記憶された計測データが解析されて、各測定点M1〜M4毎に、各一対の震動センサ11,12間の距離Lと、その距離Lを通過する表面波の時間差Tとの関係式(Vrm=L/T)から、伝播速度(位相速度)Vrmが計算される。つまり、1回の起振で複数の測定点M1〜M4に関する表面波の伝播速度が一度にまとめて入手されるのである。
【0032】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例である地盤震動計測方法が実施される建築用地の平面図であって、複数の測定点の設定手順を説明するものである。
【図2】(a)は、起振源における縦断面図であり、(b)〜(e)は、各測線における各測定点の縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 建築用地(敷地)
2 基礎構造物の敷設範囲
3 重心位置
4 起振源
5 重錘
11,12 震動センサ
A 仮想範囲
M1〜M4 測定点
N1〜N4 測線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調査対象の敷地上に複数の測定点を頂点とする仮想範囲を想定し、
その想定された仮想範囲の図心付近に一の起振源を設定し、
その起振源から複数の測定点へ向けて放射状に延びる複数の測線を地表面上に想定し、
その想定された複数の測線上であって前記複数の測定点の設定箇所にそれぞれ一対の震動センサを設置し、
その各測定点に設置される一対の震動センサの一方と他方との間隔を所定幅に設定し、
その複数組の震動センサの設置後に、起振源の地表面上方の一定高さから略鉛直下方へ向けて一定重量の重錘を案内しつつ落下させて起振源の地表面に衝突させて、
その衝突により発生した表面波を、各測定点毎にてそれぞれ検出し、
その検出結果に基づいて各測定点を通過する表面波の伝播速度を計測することを特徴とする地盤震動速度計測方法。
【請求項2】
前記表面波の検出では、起振源で発生した表面波を、各測定点毎に設置される一対の震動センサによりそれぞれ検出し、
前記表面波の伝播速度の計測では、各測定点毎に一対の震動センサによる表面波の検出時間差とその一対の震動センサ同士の間隔幅との関係から、各測定点毎に一対の震動センサ間を通過する表面波の伝播速度を計測することを特徴とする請求項1記載の地盤震動速度計測方法。
【請求項3】
前記複数の測定点の設定では、基礎構造物の敷設範囲を敷地上に設定し、
その敷設範囲の図心、又は、基礎構造物および基礎構造物上に載設される建築物の荷重が敷設範囲に作用する場合の敷設範囲の重心を推定し、
その敷設範囲の図心又は重心を起点に放射線状に延びる仮想線によって敷設範囲を2以上の小区画に分割し、
その2以上の小区画毎に、基礎構造物の敷設範囲の境界線付近であって敷設範囲の図心又は重心からの距離がより大きくなる位置に測定点を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤震動速度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−132854(P2007−132854A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327688(P2005−327688)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(597038987)株式会社アーステクト (2)
【出願人】(597039010)
【Fターム(参考)】