説明

地磁気センサ装置

【課題】広い温度範囲において磁気センサ出力のスケールファクタ変動を補償することができる地磁気センサ装置の提供。
【解決手段】この発明による地磁気センサ装置は、磁性体コアに巻かれた励磁コイルと検出コイルとから成るフラックスゲート型の地磁気センサ装置であり、励磁コイルに励磁電流を供給する励磁部と、検出コイルと接続して共振回路を形成しフラックスゲート型の地磁気センサ部の出力する周波数信号を検出する共振回路部と、共振回路部の出力信号を同期検波する同期検波部と、交流信号のキャリア信号を生成するキャリア信号生成部と、同期検波部の出力信号とキャリア信号を積分する積分部を具備し、積分部は、積分器と積分器の利得変化を補償するフィードバック手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、環境温度変化幅の大きい環境下で使用されるフラックスゲート型の地磁気センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられているフラックスゲート型の地磁気センサ装置の動作原理を図面を参照して簡単に説明する。図6はフラックスゲート型の地磁気センサ装置のセンサ部10の概略的な構成を示す図である。パーマロイ等の高透磁率材料からなる円環形状の磁性体コア1の一部に励磁コイル2が巻かれている。また、検出コイル3Aと検出コイル3Bとが、対向してそれぞれ逆方向に同一巻き数で磁性体コア1に巻かれている。検出コイル3は、検出コイル3Aと3Bとで構成される。
【0003】
励磁コイル2には図示しない励磁部から周波数fの例えば矩形波状の励磁電流Iが供給される。励磁電流Iによって励磁コイル2に起磁力が発生し、発生した磁束φが検出コイル3Aと3Bを鎖交する。励磁電流Iの値を、磁性体コア1を磁気飽和させるのに十分な大きさに設定しておくことで、磁性体コア1は周期的に磁気飽和を繰り返す。
【0004】
図7に磁性体コア1のB−H特性を模式的に示す。横軸は磁界の強さHであり縦軸は磁束密度Bである。磁性体コア1の磁束密度は、電流値がIからIに変化する励磁電流Iによって磁束密度BとBの2値の間で変化する。
地磁気Δφがない場合のセンサ部10の波形を模式的に図8に示す。磁性体コア1の磁束密度は、磁束密度がBからBに変化する過程で、励磁電流と磁束密度とが比例関係になる非飽和状態となり、検出コイル3Aと3Bに磁束密度変化に伴う誘起電圧が生ずる。
【0005】
検出コイル3Aと3Bはそれぞれが逆方向に巻かれているので、その誘起電圧はお互いに逆の極性を示す。したがって、検出コイル3の両端電圧は、誘起電圧同士が打ち消し合ってゼロである。
地磁気Δφがある場合のセンサ部10の波形を模式的に図9に示す。図6に示した様に地磁気Δφの方向は、検出コイル3Aと3Bとに平行な向きである。励磁電流がIからIに変化する場合、検出コイル3Aでは、励磁電流Iによる磁束φと地磁気Δφの向きが同じなので、磁束密度BからBの変化は地磁気Δφがない場合より早く始まり早く磁気飽和する。地磁気がない場合の磁束密度の変化を一点鎖線で示す。
【0006】
一方、検出コイル3Bでは、励磁電流による磁束φと地磁気Δφの向きが逆方向なので、地磁気を打ち消してから磁束密度がBからBに変化する。そのため磁束密度BからBの変化は地磁気Δφがない場合より遅く始まり遅れて磁気飽和する。地磁気がない場合の磁束密度の変化を一点鎖線で示す。
【0007】
このように地磁気Δφの影響によって、検出コイル3Aと3Bに発生する誘起電圧に差が生ずる。これを検出コイル3の両端電圧で見ると、図9に示す様に励磁電流のIからIへの1回の変化に付き正負の2個のパルス波形が得られる。励磁電流の逆方向のIからIへの変化でも同様な動作によって、正負の2個のパルス波形が発生する。
したがって、このパルス波形の周波数は励磁電流の周波数fの2倍の周波数2fとなる。このパルス波形のパルス幅と振幅が地磁気の大きさで変化する。このパルス波形(以降、センサ出力信号と称する)を電圧値に変換することで、地磁気を検出することができる。
【0008】
図10は、フラックスゲート型の地磁気センサ装置200の概略的な構成を示す図である。図10に示す構成は、積分器68の出力電流を用いて地磁気Δφと絶対値が等しく、逆極性となる帰還磁界を検出コイル3に発生させる帰還手段を有する。フラックスゲート型の地磁気センサ装置200を構成する各部が温度特性を持つ。特に検出機能部60を構成する積分器68内の図示しない積分コンデンサと積分抵抗の温度変化による値の変動のうち、積分コンデンサが地磁気センサ装置のスケールファクタ温度変動に支配的な影響を与える。積分コンデンサは、例えば積層セラッミクコンデンサであり、地磁気センサ装置の動作範囲を0℃〜175℃とすると、積分コンデンサの値は約±10%程度変化する。積分抵抗の変化は積分コンデンサより十分に小さく約+0.4%(+25ppm/℃)程度であり、地磁気センサ装置のスケールファクタ温度特性への影響は小さい。
【0009】
積分器68は、上記帰還手段を構成しているため、積分器68の利得変動は帰還手段の利得変動を生じ、地磁気センサ装置200の地磁気検出出力のスケールファクタの変動となる。地磁気入力が例えば1Hz程度で変化した場合、積分器68の積分コンデンサの10%の変化が、地磁気センサ装置の出力信号のスケールファクタの変動として1%程度の大きさになる。
【0010】
従来のフラックスゲート型の磁気センサ装置の温度補償方法としては、例えば特許文献1に開示されており、出力電流を用いて被測定磁界と絶対値が等しく、被測定磁界に対して逆極性となる帰還磁界を発生させる帰還手段を有し、前記出力電流の電流経路における負荷に対して並列に接続され、前記出力電流の一部をサーミスタを介して分流することで、磁気センサ装置の温度変動によって生じる磁気出力信号スケールファクタ温度変動を補償する方法が知られている。
サーミスタは温度変化に対する抵抗値の変化の大きい抵抗体であり、一般的に負の温度係数を有する。よく知られているようにサーミスタの抵抗値Rと温度Tとの関係は、式(1)で近似される。
R=Rexp{B(1/T−1/T)} (1)
【0011】
ここでRは温度Tの時のサーミスタ抵抗、Bはサーミスタ定数である。式(1)から分かるようにサーミスタの抵抗値は、負の温度係数を有し、温度の上昇に伴って指数関数的に減少する特性を示す。このような温度特性を持つサーミスタで温度補償を行う方法は、使用方法が限定され、広い温度範囲に渡って精度よく補償するには困難を伴う。したがって、サーミスタを用いた温度補償は、比較的狭い温度範囲内であるか、あるいは、補償による精度向上がわずかでも良い用途に限られていた。
【特許文献1】特許第3516644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
油田切削機に搭載されるような地磁気センサは、地表面より地中深く掘削する関係から、地中深くにおいては例えば175℃の高温環境下で精度の高い地磁気検出性能が求められる。しかしながら従来においては、地表温度から上記したような地中温度までの広い温度範囲で精度のよい地磁気検出が求められる用途に好適な地磁気センサがなかった。
この発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、広い温度範囲で地磁気センサ出力のスケールファクタ変動を補償することができ、精度の高い地磁気検出が可能な地磁気センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明による地磁気センサ装置は、磁性体コアと、その磁性体コアに巻かれた励磁コイルと検出コイルと、励磁部と、共振回路部と、同期検波部と、キャリア信号生成部と、積分部とを具備する。励磁部は、励磁コイルに励磁電流を供給する。共振回路部は、検出コイルと接続して共振回路を構成する。同期検波部は、共振回路部の出力信号を励磁部からの出力信号を参照して同期検波する。キャリア信号生成部は、交流信号のキャリア信号を生成する。積分部は、同期検波部の出力信号とキャリア信号を積分する積分器と、積分器の出力を積分器の制御端子にフィードバックして積分器の利得の変化を補償するフィードバック手段を備え、温度変動に伴う地磁気センサ装置出力のスケールファクタの変動を抑圧する。
【発明の効果】
【0014】
この発明による地磁気センサ装置によれば、地磁気センサ出力の温度変化に伴うスケールファクタの変動を抑圧することが出来るので、広い温度範囲において地磁気検出の精度を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。複数の図面中同一のものには同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
[実施例]
この発明のフラックスゲート型の地磁気センサ装置100の機能構成例を図1に示す。フラックスゲート型の地磁気センサ装置100は、センサ部10と、励磁コイル2に交流電圧を印加する励磁部20と、検出コイル3の両端に接続される検出機能部30とで構成される。
センサ部10は、背景技術で説明した従来のフラックスゲート型の地磁気センサ装置のセンサ部と同じであるので、その説明を省略する。励磁部20は、発振回路22を具備し、周波数fの信号で、励磁コイル2に励磁電流Iを供給する。また、励磁部20は、周波数2fの交流信号を検出機能部30の同期検波部34に供給する。
【0016】
検出機能部30は、共振回路部32と同期検波部34と積分部36で構成される。この発明の要部は、積分部36に温度補償機能を持たせた点にある。
共振回路部32は、コンデンサCを具備する。共振回路32は、検出コイル3の両端に接続されて、検出コイル3のインダクタンス成分とで共振回路を形成する。共振回路部32は、センサ部10のセンサ出力信号を検出する。このセンサ出力信号の周波数は、励磁信号の周波数fの2倍である。
【0017】
フラックスゲート型の地磁気センサ部10から出力される誘起電圧は、図9を参照した説明では矩形波状の波形で示したが、この共振回路部32によって、理想的には周波数fの2倍の周波数の正弦波として検出される。同期検波部34は、共振回路部32のセンサ出力信号を同期検波する。同期検波部34の出力信号は、積分部36に入力される。地磁気の大きさは、共振回路部32の出力する周波数2fのセンサ出力信号の波形の大きさに比例するので、センサ出力信号を同期検波することで、地磁気の大きさを電圧値に変換することが可能になる。
【0018】
積分部36は、2系統の入力端子38aと38bを備える積分器38と、積分器38の出力信号を可変インピーダンス素子380の制御端子38cに帰還するフィードバック手段40とで構成される。積分器38の入力端子38aは、可変インピーダンス素子380を介して積分する入力端子である。入力端子38bは、図1では図示していない抵抗器を介して積分する入力端子である。
【0019】
積分器38の一方の入力端子38aには、同期検波部34の出力信号が入力される。他方の入力端子38bには、キャリア信号生成部50が生成する交流信号であるキャリア信号が入力される。キャリア信号は、積分器38の積分コンデンサの容量変化を検出するために積分器38に入力される信号であり、例えば、周波数は20kHz、共通電位(0V)を中心とする矩形波信号である。積分器38は、同期検波部34の出力信号とキャリア信号の両者を積分する。
【0020】
フィードバック手段40は、積分器38の出力信号より積分コンデンサの温度変化を検出し、検出した結果をフィードバック手段40の出力として可変インピーダンス素子380の制御端子38cに負帰還する。以上により、積分器38の利得の温度変動を抑圧することが出来る。積分部36の出力信号は、検出コイル3に接続されている。積分部36の出力電流を検出コイル3へ供給することは、被測定地磁気と絶対値が等しく、被測定地磁気に対して逆特性となる帰還磁界を発生させる帰還手段であり、フラックスゲート型の地磁気センサ装置100のスケールファクタ直線性を改善する。この帰還手段は、地磁気を検出した場合に積分部36の出力電流を変化させ、同期検波部34の出力を零とするように制御する。
【0021】
以降、この発明の要部である積分部36について、積分器38とフィードバック手段40の動作を図面を参照して更に詳しく説明する。図2に積分部36のより具体的な機能構成例を示す。積分器38は、同期検波部34の出力信号とキャリア信号とを積分する積分回路であり、非反転入力端子が共通電位に接続された演算増幅器382と、演算増幅器382の出力端子と反転入力端子との間に積分コンデンサC1と、演算増幅器382の反転入力端子に接続された可変インピーダンス素子380と、演算増幅器382の反転入力端子に接続された抵抗器R5とで、構成される。可変インピーダンス素子380の他端には、同期検波部34の出力信号が入力され、抵抗器R5の他端には、キャリア信号が入力される。可変インピーダンス素子380は、演算増幅器382の反転入力端子に一端が接続され、他端に同期検波部34の出力信号が接続される抵抗器R1と、抵抗器R1と並列にインピーダンス変化素子としてP型ジャンクションFET(以降、PJFET)381が接続されて構成されている。PJFET381のインピーダンスを制御する制御端子38c(ゲート電極)には、フィードバック手段40の出力信号が接続されている。可変インピーダンス素子380は、インピーダンスを制御する制御端子38cと2つの端子間にインピーダンスを持つ2つの端子とを備え、制御端子38cに入力する制御電圧で、2つの端子間のインピーダンスの大きさを制御することができる。以下、インピーダンスは、抵抗値で説明する。
【0022】
フィードバック手段40は、キャリア信号抽出手段42と基準比較手段44とで構成される。積分器38の出力端子は、フィードバック手段40のキャリア信号抽出手段42の入力端子に接続される。キャリア信号抽出手段42は、積分器38の出力信号をキャリア信号を参照して同期検波する同期検波回路421と、その同期検波出力を平滑する平滑回路422とで構成され、キャリア信号の積分値の抽出として、積分器38の出力信号を同期検波し、同期検波された信号を平滑して出力する。
【0023】
次にキャリア信号抽出手段42の動作を図面を参照して更に詳しく説明する。まず、キャリア信号と同期検波部34の出力信号の両者を積分する積分器38の出力波形を模式的に図3に示す。図3の横方向は時間であり、縦方向は振幅である。図3(a)は、積分部36の入力端子38bに入力される共通電位(0V)を中心に振幅するキャリア信号であり、例えば周波数20kHzの矩形波の交流信号である。キャリア信号は、積分器38で積分されて図3(b)に示す様に三角波となる。この三角波の大きさが、積分コンデンサC1の温度変化に追従して変化する。
【0024】
一方、入力端子38aに入力される同期検波部34の出力信号も、積分器38で積分される。積分器38の出力電流が検出コイル3に供給される帰還手段によって、同期検波部34の出力電圧が零となるように制御され、その結果、図3(c)に示す様に積分器38の出力は、地磁気の大きさに比例した電圧となる。
【0025】
積分器38の出力信号は、キャリア信号を積分した三角波と地磁気の大きさに比例する電圧とが重畳した信号となるので、図4(a)に示すように三角波が地磁気の分だけオフセットした波形となる。図4(a),(b)の横方向と縦方向は、図3と同じである。この図4(a)の波形は、キャリア信号抽出手段42の同期検波回路421を介して図4(b)に示す波形になる。同期検波回路421の出力波形である図4(b)は、キャリア信号が積分された三角波の同期検波された信号と、地磁気に比例する直流信号が同期検波されて生成される矩形波状の交流信号とが重畳された波形である。平滑回路421は、図4(b)の波形を平滑する。この平滑化によって、地磁気に比例する信号成分は交流信号のため除去される。このようにして、キャリア信号抽出手段42は、キャリア信号を積分した信号成分を抽出する。
【0026】
キャリア信号抽出手段42の出力端子は、基準比較手段44の入力端子に接続される。基準比較手段44は、基準電圧Vrefと、その基準電圧Vrefと平滑回路422の出力電圧とを加算する加算器441とで構成され、キャリア信号抽出手段42の出力信号と基準電圧Vrefとを比較して、可変インピーダンス素子380の制御信号を生成する。基準電圧Vrefは、キャリア信号抽出手段42の出力信号から温度変動分を検出するために比較する基準電圧であり、温度変動は極めて少ないとされる。また、基準電圧Vrefの極性は、キャリア信号抽出手段42の出力信号と逆極性である。
【0027】
加算器441は、演算増幅器441aを用いた反転型の加算回路である。基準電圧Vrefとキャリア信号抽出手段42の出力電圧とが逆極性のため、加算器441で基準電圧と比較して差分を取り出すことが出来る。加算器441の出力端子がフィードバック手段40の出力端子としてPJFET381の制御端子38cに接続されている。
【0028】
同期検波部34の出力信号に対する積分器38の利得は、可変インピーダンス素子380の抵抗値と積分コンデンサC1の容量値とで定まるので、可変インピーダンス素子380の制御端子38cの電圧を変化させると可変インピーダンス素子380の抵抗値が変化し、積分器38の利得が制御出来る。この発明の積分部36は、キャリア信号とフィードバック手段40を用いて、積分コンデンサC1の容量の変化を検出して、その変化分だけ可変インピーダンス素子380の抵抗値を制御することで積分器の利得の温度補償を行う。
【0029】
可変インピーダンス素子380の制御電圧が0Vの時のPJFET381の抵抗値を例えば10KΩとする。PJFET381と並列に接続されている抵抗器R1の抵抗値を例えば10KΩとすると、可変インピーダンス素子380の合成抵抗は5KΩとなる。仮に、所定温度で基準比較手段44の基準電圧Vrefが−3Vに設定されており、キャリア信号抽出手段の出力電圧は3Vであり、加算器441の出力電圧が0Vであるとする。
【0030】
次に、温度が上昇して積分コンデンサC1の容量値が、小さくなったと仮定する。なお、抵抗器R5や可変インピーダンス素子380や基準電圧Vrefなどの温度変化が、積分器38の利得変動に与える影響は十分に小さく無視できる。例えば、基準電圧Vrefの温度係数は5ppm/℃以下である。積分コンデンサC1の容量が減少すると、積分器38の利得は増大する。積分器38の利得が増大すると、平滑回路422の出力電圧も3Vから増加する。平滑回路422の出力電圧が正方向に増加すると、加算器441の出力電圧は0Vから負電圧に変る。加算器441の出力電圧が負電圧となると、可変インピーダンス素子380の制御電圧が負となって、可変インピーダンス素子380の抵抗値が増加する。可変インピーダンス素子380の抵抗値が増加すると、積分器38の利得が減少する。すなわち、積分コンデンサC1の容量値の減少で積分器の利得は増大しようとするが、フィードバック手段40を備えることによって、積分器の利得を減少させる方向にフィードバック制御されるので、積分コンデンサC1の容量値の減少があったとしても、積分器38の利得は一定に保持されることとなる。温度が下降し積分コンデンサC1の容量値が増大した場合も、フィードバック制御され、積分器38の利得が一定に保持されることは同様である。
【0031】
このように、温度変化で積分コンデンサC1の容量値に変化が生じても、積分器38の利得は一定に保持され、積分器38の利得の温度補償が行える。
この発明は、積分部36の積分コンデンサの温度変化分をフィードバック手段を用いて温度補償するので、フラックスゲート型の地磁気センサ装置100のスケールファクタ温度特性を広い温度範囲で改善する。
【0032】
なお、実施例ではキャリア信号の波形を矩形波として説明したが、キャリア信号の波形は正弦波でも三角波でも構わない。キャリア信号の周波数に特別な制約はないが、地磁気センサ装置の周波数帯域内への混入を防止する観点より、地磁気センサ装置の帯域外の周波数とすることが望ましい。また、基準電圧Vrefを−3V、可変インピーダンス素子380にPJFET381を用いた例で説明したが、これらの極性を変えても同じ機能が実現出来ることは、一般的な電子回路設計で極性が変えられるのと同様である。
【0033】
また、キャリア信号は、励磁部20とは別のキャリア信号生成部50より供給される例で説明を行ったが、キャリア信号は同期検波部34への参照信号(2f)を用いてもよい。この場合、図5に示すようにキャリア信号生成部50は励磁部20内に設けられる。このようにすることで信号源が共通化され回路規模を減らせる。積分部38の出力は、図1に示すように地磁気センサ装置100の出力である。積分部36の出力信号は、センサ出力信号を同期検波部34で同期検波した信号の積分出力の他、キャリア信号を積分した信号も含む。この信号の振幅は小さいものであるが、地磁気センサ装置100の出力ノイズとなって使い難い場合もある。このような場合、図1及び図5に破線で示すように積分部36の出力端子に平滑回路52を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明のフラックスゲート型の地磁気センサ装置100の機能構成例を示す図。
【図2】積分部36のより具体的な構成例を示す図。
【図3】積分波形を模式的に示す図であり、(a)はキャリア信号の一例を示す図、(b)はキャリア信号を積分した波形を示す図、(c)は同期検波部34の出力信号を積分した波形を示す図である。
【図4】積分器38と同期検波回路421の出力波形を模式的に示す図であり、(a)は積分器38の出力波形を示す図、(b)は同期検波回路421の出力波形を示す図である。
【図5】この発明のフラックスゲート型の地磁気センサ装置100において、キャリア信号生成部50が励磁部20内に設けられる機能構成例を示す図。
【図6】従来のフラックスゲート型のセンサ部10の概略的な構成を示す図。
【図7】磁性体コア1のB−H特性を模式的に示す図。
【図8】地磁気がない場合のフラックスゲート型のセンサ部10の各部の波形を模式的に示す図。
【図9】地磁気Δφが在る場合のフラックスゲート型のセンサ部10の各部の波形を模式的に示す図。
【図10】従来のフラックスゲート型の地磁気センサ装置200の概略的な構成を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体コアと、
上記磁性体コアに巻かれた励磁コイルと検出コイルと、
上記励磁コイルに励磁電流を供給する励磁部と、
上記検出コイルに接続されて共振回路を構成する共振回路部と、
上記励磁部からの出力信号を参照して、
上記共振回路部の出力信号を同期検波する同期検波部と、
上記検出コイルに出力電流を帰還する積分部と、
交流信号のキャリア信号を生成するキャリア信号生成部とを具備し、
上記積分部は、上記同期検波部の出力信号と上記キャリア信号を積分する積分器と、
上記積分器の出力を上記積分器の制御端子にフィードバックして上記積分器の利得変化を補償するフィードバック手段とを備えることを特徴とする地磁気センサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地磁気センサ装置において、
上記積分器は、
非反転入力端子が接地された演算増幅器と、
上記演算増幅器の反転入力端子と出力端子間に接続されるコンデンサと、
上記演算増幅器の反転入力端子に一端が接続される抵抗器と、
上記演算増幅器の反転入力端子に一端が接続される可変インピーダンス素子を具備し、
上記フィードバック手段は、
上記積分器の出力信号から上記キャリア信号の積分値を抽出するキャリア信号抽出手段と、
上記キャリア信号抽出手段の出力信号と基準電圧とを加算する基準比較手段とを具備し、
上記抵抗器の他端には上記キャリア信号が供給され、
上記可変インピーダンス素子の他端には上記同期検波部の出力信号が供給され、
上記可変インピーダンス素子の制御端子に上記基準比較手段の出力信号が接続されることを特徴とする地磁気センサ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地磁気センサ装置において、
上記キャリア信号抽出手段は、上記キャリア信号を参照して、上記積分器の出力信号を同期検波する同期検波回路と、
上記同期検波回路の出力信号を平滑する平滑回路を具備することを特徴とする地磁気センサ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の地磁気センサ装置において、
上記可変インピーダンス素子は、上記制御端子に入力される電圧値によって内部抵抗が変化するものであることを特徴とする地磁気センサ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の地磁気センサ装置において、
上記可変インピーダンス素子は、抵抗器と電界効果型トランジスタが並列接続されたものであることを特徴とする地磁気センサ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の地磁気センサ装置において、
上記キャリア信号生成部が、上記励磁部内に設けられたことを特徴とする地磁気センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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