説明

地震スクラム方法及びその装置

【課題】原子炉建屋と隣接建屋又は原子炉建屋と周辺地盤との間に発生する相対変位を計測することにより、原子炉を自動停止し、想定を超える地震に遭遇しても原子炉を安全に停止することができる地震スクラム方法及びその装置を提供する。
【解決手段】地震スクラム方法は、原子炉建屋2とこの原子炉建屋2に隣接する建屋であるタービン建屋3との相対変位又はこの原子炉建屋2に隣接する周辺地盤2aとの相対変位を計測する相対変位計測ステップと、この計測ステップにより出力された変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力ステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな地震動を観測したときに、原子炉を自動停止(スクラム)する地震スクラム方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原子力発電所では、大きな地震動を観測したときには、原子炉を自動停止(スクラム)し、安全性を確保している。現行の原子力発電所では、地震検出装置を原子炉建屋の基礎部等に設置し、この地震検出装置が所定の加速度を超えた揺れを検知したときに、スクラム信号を出力し原子炉を自動停止している。この他に、互いに直行する3方向の地震加速度を検出し、各地震加速度成分についてフーリエ変換によるスペクトル計算を行い、各周波数で定められた閾値をベクトル和が越えたときにスクラム信号を出力する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−82067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現行の原子力発電所においては、原子炉建屋、この原子炉建屋とは独立した隣接建屋、例えばタービン建屋等が設けられている。このため、配管や電力・信号ケーブル等が原子炉建屋と隣接建屋との間を連通し、また、原子炉建屋から周辺地盤へ連通する配管や電力・信号ケーブル等もある。
【0005】
地震が発生すると、原子炉建屋と隣接建屋がそれぞれ異なった地震応答を示す場合に、建屋間で大きな相対変位が発生したり、または、建屋と地盤との関係においても地盤変動も含め同様に建屋と地盤との間で大きな相対変位が発生したりする可能性がある。
【0006】
これら建屋間や建屋と地盤との間を連通する構造物である配管や電力・信号ケーブル等には、耐震安全上重要なものも含まれるために、配管の引き回しを曲げることやベローズ等の伸縮継手を用いて、これらの相対変形を吸収するような設計が行われている。
【0007】
一方、現状においては、原子炉建屋基礎部等に設けられた地震計により所定の地震動が計測されると、原子炉を自動停止させて安全性を高める方法も講じられているが、建屋間又は建屋と地盤との間に発生する相対変位を計測することにより、原子炉を自動停止する対策は講じられていないという課題があった。
【0008】
また、近年の被害地震の経験からより大きな地震動に対しても、さらなる耐震安全性が求められており、建屋間又は建屋と地盤との間を連通する構造物の耐震健全性を考慮した計測を行うことにより、所定の相対応答が計測されたときには、原子炉を自動停止し、地震時の安全性をさらに向上させる必要があるという課題があった。
【0009】
さらに、原子炉建屋を免震構造することにより、耐震安全性をより高める方法が以前から繰り返し検討されている。原子炉建屋を免震構造する場合に、地震加速度が大幅に低減するが、一方では原子炉建屋と隣接建屋又は原子炉建屋と周辺地盤との間にはより大きな相対変位が発生するという課題があった。
【0010】
このことは、免震構造を採用することによって、建屋の固有周期が数秒となり長周期の共振応答を示すことによるものである。この長周期の共振応答を示すものには、免地構造以外にも長大橋や超高層ビル、石油タンク等のスロッシング等がある。2004年の新潟県中越地震においては、長周期地震動の伝播により、震源より遠いために地震加速度の小さかった東京において、超高層ビルが長周期地震等で共振応答しエレベータが多数損傷している。
【0011】
上述のように、長周期の固有振動数をもつ免震構造においては、従来の加速度計測以外にも長周期地震応答を計測する安全対策が求められているという課題があった。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、原子炉建屋と隣接建屋又は原子炉建屋と周辺地盤との間に発生する相対変位を計測することにより、原子炉を自動停止し、想定を超える地震に遭遇しても原子炉を安全に停止することができる地震スクラム方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の地震スクラム方法においては、原子炉建屋とこの原子炉建屋に隣接する建屋との相対変位又はこの原子炉建屋に隣接する周辺地盤との相対変位を計測する相対変位計測ステップと、この計測ステップにより出力された変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力ステップと、を有することを特徴とするものである。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明の地震スクラム装置においては、原子炉建屋とこの原子炉建屋に隣接する建屋との相対変位又はこの原子炉建屋に隣接する周辺地盤との相対変位を計測する計測手段と、この計測手段により出力された変位データが予め定められた閾値を越えたときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力手段と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の地震スクラム方法及びその装置によれば、原子炉建屋とこの原子炉建屋に隣接する建屋との相対変位又はこの原子炉建屋に隣接する周辺地盤との相対変位を計測し、出力された変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力し、想定を超える地震に遭遇しても原子炉を安全に停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態の地震スクラム装置の構成を示すブロック図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の地震スクラム方法を示す工程図。
【図3】図1の原子力発電所の建屋と変位計の配置を示す概略縦断面図。
【図4】本発明の第2の実施の形態の地震スクラム装置の構成を示すブロック図。
【図5】図4の免震装置を構成する積層ゴム免震要素の変形角を示す概略縦断面図。
【図6】本発明の第4の実施の形態の地震スクラム装置の構成を示すブロック図。
【図7】長周期地震動時の概念を示す説明図で、(a)はその長周期地震計が捉えた地震動を示すグラフ、(b)はその最大変位となる時刻を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る地震スクラム方法及びその装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここで、同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態の地震スクラム装置の構成を示すブロック図であり、図2は、本発明の第1の実施の形態の地震スクラム方法を示す工程図である。
【0019】
ここでは、原子力発電所1の地震スクラム方法及び地震スクラム装置について、図1、図2を用いて説明する。
【0020】
図1、図2に示すように、地震スクラム方法は、原子炉建屋2とこの原子炉建屋2に隣接する建屋であるタービン建屋3との相対変位又はこの原子炉建屋2に隣接する周辺地盤2aとの相対変位を計測する相対変位計測ステップS1と、この計測ステップS1により出力された変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力ステップS2と、を有している。
【0021】
また、地震スクラム装置30は、原子力発電所1内に建立された原子炉建屋2とこの原子炉建屋2に隣接する建屋であるタービン建屋3との相対変位又はこの原子炉建屋2に隣接する周辺地盤2aとの相対変位を計測する計測手段を有している。そして、これらの計測手段により出力された変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力手段が設けられている。
【0022】
ここで、相対変位を計測する計測手段について説明する。原子炉建屋2とタービン建屋3との間には、渡し構造物の一種である渡り配管4が設けられている。地震発生の際に、渡り配管4が配置されている建屋間の相対変位を計測するために、センサ5が設置されている。このセンサ5で計測された信号は、計測データ取り込み装置6に収録される。計測データ取り込み装置6に収録された信号は、計算装置7に入力される。この計算装置7において、計測データはデータ処理が行われ、または解析モデルを用いて測定できない評価部位の地震応答が計算される。この計算装置7における計算結果は、スクラム判定部8に入力される。
【0023】
次に、変位データが予め定められた閾値を越えたときに原子炉を自動停止するスクラム信号8aを出力するスクラム信号出力手段について、図3を用いて説明する。
【0024】
図3は、図1の原子力発電所の建屋と変位計の配置を示す概略縦断面図である。
【0025】
本図に示すように、原子炉建屋2とタービン建屋3との間には、渡り配管4が設けられている。地震発生の際に、この渡り配管4が配置された建屋間変位を計測するために、センサ5が設置されている。地震発生のときに、センサ5により、建屋間の相対変位が計測され、この計測された変位データがスクラム判定部8に入力される。このスクラム判定部8において、変位データが予め定められた閾値を超えるときにスクラム信号8aが出力される。
【0026】
また、原子炉建屋2と原子炉建屋2に隣接する周辺地盤2aとの間には、地震発生の際に原子炉建屋2と周辺地盤2aとの変位を計測するために、変位計9が設置されている。地震発生のときに、変位計9により、原子炉建屋2と周辺地盤2aとの間の相対変位が計測され、この計測された変位データがスクラム判定部8に入力される。スクラム判定部8において、変位データが予め定められた閾値を超えるときにスクラム信号8aが出力される。
【0027】
本実施の形態によれば、建屋間に設けられた渡り配管4の変位に関係する建屋間変位を計測することにより、渡り配管4の変位をリアルタイムで検知し監視して、変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号8aをスクラム判定部8から出力し、想定を超える地震に遭遇しても原子炉を安全に停止することができる。
【0028】
また、渡り配管4の変位に関係する建屋と地盤との間の変位を計測することにより、渡り配管4の変位をリアルタイムで検知し監視して、変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力することができる。
【0029】
さらに、渡り配管以外の構造物として電力・計装ケーブルなどの渡り構造物の破損の恐れを変位データから推定することにより、変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力することができる。
【0030】
図4は、本発明の第2の実施の形態の地震スクラム装置の構成を示すブロック図であり、図1と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0031】
本図に示すように、原子炉建屋2は、免震装置14によって周辺地盤2aより支持されている。地震スクラム装置31は、原子力発電所1内に建立された原子炉建屋2とこの原子炉建屋2に隣接する建屋であるタービン建屋3との相対変位又はこの原子炉建屋2に隣接する周辺地盤2aとの相対変位を計測する計測手段として変位計9を有している。そして、この計測手段により出力された変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力手段が設けられている。
【0032】
上記の免震装置14を導入した原子炉建屋2は、上部基礎版10の上に構築され、上部構造11を形成している。この上部基礎版10の下部には積層ゴム免震要素12及びダンパー13より構成される免震装置14が設置され、免震層15を形成している。積層ゴム免震要素12は、地盤18の上に位置する下部基礎版17上に設置された免震要素ペデスタル16によって支持されている。免震層15の側面はよう壁19で囲まれており、免震要素ペデスタル16、下部基礎版17、よう壁19により下部構造20を形成している。
【0033】
タービン建屋3は、原子炉建屋2に隣接しており、渡り配管4で接続されている。また渡り配管4が設置されている建屋間に建屋間の相対変位を計測するセンサ5が設置されている。
【0034】
このように構成された本実施の形態において、免震装置14を導入した原子炉建屋2において、地震発生のときには、渡り配管4が設置されている建屋間の相対変位はセンサ5により計測される。このセンサ5で計測される信号は、図1に示す計測データ取り込み装置6に収録される。計測データ取り込み装置6に収録された信号は、計算装置7に入力される。この計算装置7において、データ処理が行われ、この計測データを入力し解析モデルを用いて測定できない評価部位の地震応答が計算される。この計算装置7における計算結果は、スクラム判定部8に入力される。このスクラム判定部8において、変位データが予め定められた閾値を超えるときにスクラム信号8aが出力される。
【0035】
また、免震装置14を導入した原子炉建屋2と原子炉建屋2の周辺地盤2aとの変位を変位計9により計測し、変位データが予め定められた閾値を超えるときにスクラム信号8aを出力することもできる。なお、変位計9は、例えば、原子炉建屋2と周辺地盤2aに梁や配管等の渡し構造物を横架させてその変位を計測する。
【0036】
本実施の形態によれば、免震装置14を導入した原子炉建屋2において、渡り配管4の変位に関係する建屋間変位又は建屋と地盤との間の変位を計測することにより、渡り配管4へ大きな力が加わって破損する恐れが生じる変位をリアルタイムで検知し監視して、変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号をスクラム判定部8から出力することができる。
【0037】
次に、本発明の第3の実施の形態について、図1、図4及び図5を用いて説明する。
【0038】
図5は、図4の免震装置14を構成する積層ゴム免震要素12の変形角21を示す概略縦断面図である。
【0039】
図4、図5に示すように、原子炉建屋2は、免震装置14によって周辺地盤2aより支持されている。この免震装置14は、積層ゴムである積層ゴム免震要素12を主たる構成要素としている。この積層ゴム免震要素12の変形角21は計測手段により計測される。この計測手段により出力された変形角データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力手段が設けられている。
【0040】
このように構成された本実施の形態において、積層ゴム免震要素12が上部基礎版10から水平方向の荷重を受けて変形したときに、積層ゴム免震要素12と免震要素ペデスタル16とが接触している平面と、積層ゴム免震要素12の中心軸の角度である変形角21が計測される。
【0041】
かくして、地震発生の際に、各々の積層ゴム免震要素12で計測される変形角21が図1のスクラム判定部8へ入力される。これらの値が、予め定められる閾値を超えるときにスクラム信号8aが出力される。この予め設定される変形角の閾値は、免震機能の許容限界を超えない範囲で安全裕度をもって決定されてもよい。
【0042】
なお、図4において、センサ5は変形角21を評価するのに適した量を計測することが可能であるが、直接的に積層ゴム免震要素12の変形角21を計測することにより、計測評価精度が向上する。積層ゴム免震要素12は、許容限界値に達すると、免震機能が著しく低下するので、この対策を講じることができる。
【0043】
本実施の形態によれば、免震装置14の積層ゴム免震要素12の変形角21を計測することにより、積層ゴム免震要素12の変形が許容範囲内にあるかを常に監視し、原子炉建屋2の免震機能が著しく低下する場合をリアルタイムで検知し監視して、変形角21に係るデータが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号8aを図1に示すスクラム判定部8から出力し、想定を超える地震に遭遇しても原子炉を安全に停止することができる。
【0044】
図6は、本発明の第4の実施の形態の地震スクラム装置32の構成を示すブロック図である。図3と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0045】
図6に示すように、原子力発電所1内の原子炉建屋2は、免震装置14によって周辺地盤2aより支持されている。原子炉建屋2と隣接する建屋であるタービン建屋3との間には渡り配管4が設けられている。地震発生の際に渡り配管4が設置されている建屋間の相対変位を計測するためのセンサ5が設置され、原子炉建屋2の地震応答を計測する建屋系地震計22が設置され、タービン建屋3の地震応答を計測する地盤系地震計23が設置されている。
【0046】
このように構成された本実施の形態において、このセンサ5、建屋系地震計22及び地盤系地震計23で計測された信号は、計測データ取り込み装置6に収録される。計測データ取り込み装置6に収録された信号は、計算装置7に入力される。この計算装置7において、計測データはデータ処理が行われ、または解析モデルを用いて測定できない評価部位の地震応答が計算される。この計算装置7における計算結果は、スクラム判定部8に入力される。このスクラム判定部8において、データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号8aが出力される。
【0047】
本実施の形態によれば、原子炉建屋2、タービン建屋3又は建屋間の渡り配管4等における複数の計測点の組み合わせにより、建屋間の渡り配管4へ影響を与える建屋間の相対変位を原子炉建屋2やタービン建屋3の計測データの相対処理演算により算出し、渡り配管4において計測された計測データと比較することにより、計測データの信頼性の向上を図り、計測不良等によるスクラム信号の出力ミスを大幅に抑制することができる。
【0048】
次に、本発明の第5の実施の形態について、図6を用いて説明する。
【0049】
図6に示すように、免震装置14に支持される原子炉建屋2の固有振動数、例えば、原子炉建屋2の水平方向2成分の一次固有振動数付近の周波数領域成分を選択的に計測する長周期地震計(図示せず)を設置し、地震動加速度又は地震動速度を計測する。
【0050】
このように構成された本実施の形態において、地震時に計測された地震動の加速度又は速度がスクラム判定部8に入力される。これらの長周期地震動振幅が、予め定められた閾値を超えるときにスクラム信号8aを出力する。
【0051】
本実施の形態によれば、原子炉建屋2の固有振動数成分を取り出して計測データを評価するために、原子炉建屋2の変位量を主体的に抽出でき、原子炉建屋2の変位に依存した配管等の損傷評価を容易に行うことができる。
【0052】
また、図7に示すように、長周期地震においては地震動の速度波形と変位波形を時間軸で比較評価することができる。図7(a)に示す地震動の速度がある閾値を超える時点から、図7(b)に示す原子炉建屋2が最大変位になるまでにある程度の時間差がある。長周期地震動に遭遇したときに、図7(a)に示す地震動の速度がある閾値を超える時点で原子炉を自動停止するスクラム信号8aが出力されると、図7(b)に示す原子炉建屋2が最大変位となる時刻以前に、原子炉を自動停止するスクラム信号をスクラム判定部8から出力することができ、安全性のさらなる向上を図ることができる。
【0053】
次に、本発明の第6の実施の形態について、図4を用いて説明する。
【0054】
図4に示すように、原子炉建屋2とタービン建屋3に渡り配管4が設けられている。ここで用いるセンサ5は、渡り配管4の配管サポート部での支持荷重を計測する荷重計とする。
【0055】
このように構成された本実施の形態において、地震発生の際に観測された渡り配管4の配管サポート部の支持荷重が、スクラム判定部8へ入力される。これらの支持荷重が、予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号8aが出力される。
【0056】
本実施の形態によれば、渡り配管4の配管サポート部に大きな荷重が作用して、配管サポートの機能が維持できなくなる状況等をリアルタイムで検知して、スクラム信号8aを出力し、想定を超える地震に遭遇しても原子炉を安全に停止することができる。
【0057】
また、センサ5は、渡り配管4の配管の変位を計測する変位計であっても同様の効果が得られ、ひずみ計により渡り配管4のひずみを計測しても同様の効果が得られる。
【0058】
なお、変位計9の計測対象を、原子炉建屋2と周辺地盤2aの間に設けられた渡し構造物のサポート部とすることも可能である。
【0059】
以上本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は、上述したような各実施の形態に何ら限定されるものではなく、各実施の形態の構成を組み合わせて、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…原子力発電所、2…原子炉建屋、2a…周辺地盤、3…タービン建屋、4…渡り配管、5…センサ、6…計測データ取り込み装置、7…計算装置、8…スクラム判定部、8a…スクラム信号、9…変位計、10…上部基礎版、11…上部構造、12…積層ゴム免震要素、13…ダンパー、14…免震装置、15…免震層、16…免震ペデスタル、17…下部基礎版、18…地盤、19…よう壁、20…下部構造、21…変形角、22…建屋系地震計、23…地盤系地震計、30,31,32…地震スクラム装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉建屋とこの原子炉建屋に隣接する建屋との相対変位又はこの原子炉建屋に隣接する周辺地盤との相対変位を計測する相対変位計測ステップと、
この計測ステップにより出力された変位データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力ステップと、
を有することを特徴とする地震スクラム方法。
【請求項2】
前記原子炉建屋が免震装置によって周辺地盤より支持されること、を特徴とする請求項1に記載の地震スクラム方法。
【請求項3】
前記免震装置を構成する積層ゴムの変形角を計測する計測ステップと、この計測ステップにより出力された変形角データが予め定められた閾値を超えるときに前記原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力ステップと、を有することを特徴とする請求項2に記載の地震スクラム方法。
【請求項4】
前記原子炉建屋に設置される建屋系地震計と、前記原子炉建屋と隣接する非免震建屋に設置される地盤系地震計又は前記原子炉建屋に隣接する前記周辺地盤の基礎構造部に設置される地盤系地震計とを設け、この建屋系地震計及び地盤系地震計により計測される地震動データより、前記原子炉建屋と前記非免震建屋との相対変位又は前記周辺地盤との相対変位を計算し、この算出される前記原子炉建屋の相対変位が予め定められた閾値を超えるときに前記原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力ステップと、を有することを特徴とする請求項2に記載の地震スクラム方法。
【請求項5】
前記スクラム信号出力ステップは、前記原子炉建屋における固有振動数成分を選択的に計測する長周期地震計を設け、この長周期地震計により計測される前記原子炉建屋の地震応答波形振幅がある閾値を超えるときに前記原子炉を自動停止するスクラム信号を出力すること、を特徴とする請求項4に記載の地震スクラム方法。
【請求項6】
前記計測ステップが、前記原子炉建屋とこれに隣接する前記建屋との間に設けられた渡し構造物又は前記原子炉建屋と前記周辺地盤との間に設けられた渡し構造物の変位、ひずみ及び支持荷重の少なくとも1種を計測する工程であること、を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の地震スクラム方法。
【請求項7】
原子炉建屋とこの原子炉建屋に隣接する建屋との相対変位又はこの原子炉建屋に隣接する周辺地盤との相対変位を計測する計測手段と、
この計測手段により出力された変位データが予め定められた閾値を越えたときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力手段と、
を有することを特徴とする地震スクラム装置。
【請求項8】
前記原子炉建屋が免震装置によって周辺地盤より支持されてなること、を特徴とする請求項7に記載の地震スクラム装置。
【請求項9】
前記免震装置を構成する積層ゴムの変形角を計測する計測手段と、この計測手段により出力された変形角データが予め定められた閾値を超えるときに原子炉を自動停止するスクラム信号を出力するスクラム信号出力手段と、をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の地震スクラム装置。
【請求項10】
前記計測手段が、前記原子炉建屋とこれに隣接する前記建屋との間に設けられた渡し構造物又は前記原子炉建屋と前記周辺地盤との間に設けられた渡し構造物の変位、ひずみ及び支持荷重の少なくとも1種を計測してなるものであること、を特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の地震スクラム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−252755(P2011−252755A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125851(P2010−125851)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】