説明

垂直型連続鋳造における鋳片の二次冷却方法

【課題】垂直型連続鋳造における鋳片の二次冷却の水量密度とエア及び水の体積比すなわち気水体積比をコントロールするための、鋼片の表面疵レベルを損なうことのない、ミスト冷却方法を提供する。
【解決手段】垂直型連続鋳造における鋳片のミスト冷却による二次冷却帯の冷却方法において、二次冷却帯における引抜き中の鋳片を冷却するために、ミストノズルから噴射するミスト冷却用のミストのエア及び水の気水体積比を、下記の式(1)及び式(2)かの条件を満たすものとし、ミスト冷却により緩冷却する垂直型連続鋳造における鋳片の緩冷却方法である。log(気水体積比)≧−1.25×log(水量密度[m3/m2・sec])−2.02……式(1)気水体積比≧17……式(2)なお、logは常用対数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鋼の連続鋳造における連続鋳造片(以下、「鋳片」という。)の二次冷却方法、特に垂直型連続鋳造におけるミスト冷却による二次冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造におけるモールド内における鋳片の表面のみを冷却する1次冷却に続くモールド下部から鋳片を引き抜く二次冷却帯において均一に冷却することは、鋳片の表面割れを防止し、ひいては鋼片表面の磁粉探傷で検知される疵の個数を低減するために重要である。このような連続鋳造における鋳片の二次冷却帯における冷却方法として、ミスト冷却が多用されてきている。しかしながら、ミスト冷却方式では、単なる水冷方式に比べて冷却効率が高いため、特に低速鋳造時に冷却過多になりがちである。
【0003】
そのため、鋳造速度が0.3〜0.6m/min程度の低速鋳造が行われる垂直型連続鋳造では、緩冷却条件とすることが望まれる。
【0004】
従来の方法として、連続鋳造機のモールドから引き抜かれた鋳片をエア及び水(すなわち気水)ミストにより二次冷却する際に、ノズル内の水とエアの混合部からノズルの先端までの長さを100〜300mmとし、モールド下端から鋳片の矯正位置までの間で、鋳片表面の温度をA3変態点未満に低下させた後、A3変態点以上に復熱させる場合には、A3変態点未満までの冷却条件を、常温常圧における水WとエアAの体積割合における混合比A/Wを5〜15、水量密度を0.03〜0.09リットル/cm2・分(すなわちSI単位で、0.03/6〜0.09/6m3/m2・sec)とし、鋳片表面の温度をA3変態点未満に低下させない場合には、常温常圧における水WとエアAの体積割合における混合比A/W(以後、「水WとエアAの体積割合における混合比A/W」を本件では「気水体積比」と称する。)を50〜200、水量密度を0.005〜0.015リットル/cm2・分(すなわちSI単位で、0.005/6〜0.015/6m3/m2・sec)とする連続鋳造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この提案の連続鋳造方法は湾曲型や垂直曲げ型連続鋳造機に関するものであり、垂直型連続鋳造機におけるものではなかった。
【0005】
垂直型連続鋳造では、曲げ戻しの矯正帯がないので、割れ感受性の高い鋼種であっても、鋳片表面の温度をA3変態点未満に低下させない方法を採ることができる。上記の特許文献1における常温常圧の常圧とは、一般に標準大気圧のことである。したがって、この観点からすると上記の特許文献1に記載の方法は、エア圧の一点制御であり、操業コントロールが難しく、連続鋳造性が良好でない。
【0006】
また、ミストノズルで構成された2次冷却帯を有する連続鋳造機は、過冷却を生じさせず、かつ均一な鋳片の2次冷却ができる。その結果、鋳片の割れの発生を抑制する方法として、ミストノズルで構成された2次冷却帯を有する連続鋳造機を用いて鋳片の連続鋳造を行う際に、ミストノズルへ供給される冷却水の温度を37℃以下、5℃以上とする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この特許文献2は実施例の記載が請求項に係る発明を裏づけるものではなく不明瞭である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−237858号公報
【特許文献2】特開2008−200704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、連続鋳造鋳片を二次冷却帯において均一に冷却することは、鋳片の表面割れを防止し、ひいては鋼片表面の磁粉探傷で検知される疵の個数を低減するために重要である。したがって、このような鋳片の冷却方法として、ミスト冷却が多用されてきている。しかし、上記したように、このミスト冷却方式では、単なる水冷方式に比べて冷却効率が高いため、特に低速鋳造時に冷却過多になりがちである。そのため、一般に鋳造速度が0.3〜0.6m/min程度の低速鋳造が行われる垂直型連続鋳造方法では、連続鋳造性を損なうことなく、緩冷却条件とすることが望まれている。そこで、本発明が解決しようとする課題は、連続鋳造性を阻害しない方法で、鋳片の表面割れ防止、ひいては鋼片表面の磁粉探傷で検知される疵の個数を低減するために、主に水量密度とエア及び水の体積比すなわち気水体積比をコントロールすることで鋳片を冷却するミスト冷却方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、垂直型連続鋳造における鋳片のミスト冷却による二次冷却帯の冷却方法における手段である。この冷却方法の手段では、二次冷却帯における引抜き中の鋳片を冷却するために、ミストノズルから噴射するミスト冷却用のミストのエア及び水(すなわち気水)の体積比を、下記の式(1)及び式(2)からなる条件を満たす気水体積比として、ミスト冷却により緩冷却することを特徴とする垂直型連続鋳造における鋳片の緩冷却方法である。
log(気水体積比)≧−1.25×log(水量密度[m3/m2・sec])−2.02……式(1)
気水体積比≧17……式(2)
なお、logは常用対数で、したがって底は10である。
【0010】
請求項2の発明では、ミストノズルから噴射するミスト冷却用のミストのエア及び水(すなわち気水)は、それらエア及び水の温度を5〜40°Cとし、さらにミストノズルから噴射するエアの圧力を標準大気圧の90〜99%とすることを特徴とする請求項1の手段の垂直型連続鋳造における鋳片の緩冷却方法である。なお、標準大気圧の90〜99%であればエア圧の実績値にゆらぎはあっても、本発明の方法は達成でき、問題はない。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、請求項1の発明の手段とすることで、垂直型連続鋳造における鋳片の二次冷却帯のミスト冷却において、鋳片に対して冷却むらの少ない均一緩冷却ができ、この結果、連続鋳造に起因する鋳片表面の割れ、ひいては鋼片表面の疵の個数を低減することができる。さらに請求項2の手段とすることで、すなわちエア及び水の温度を5℃以上とすることでミストノズルの配管内やノズル内での凍結を防止し、かつ、40℃以下とすることで二次冷却帯での鋳片の冷却過多が防止でき、さらにエアの圧力を標準大気圧の90〜99%とすることで、ノズル内における堆積物による詰まりがなく、かつ、ノズル噴射をたとえエア圧の実績値にゆらぎはあっても安定に制御できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について説明する。本実施の形態では、炭素鋼や合金鋼、軸受鋼からなるブルームを垂直型連続鋳造機により、次の事例A及び事例Bとして製造した。
【0013】
そこで、先ず、事例Aについて説明すると、垂直型連続鋳造機のモールド下端から2.0m下までの範囲を二次冷却帯とした。この二次冷却帯において引抜き中の鋳片であるブルームに対してミストノズルを鋳造方向に200mm間隔で配置した。さらに、ミストノズル先端からブルーム表面までの距離は100mmとした。この方法で、10本のブルームを製造した。
【0014】
さらに、事例Bについて説明すると、垂直型連続鋳造機のモールド下端から6m下までの範囲を二次冷却帯とした。この二次冷却帯において、モールド下端から2.0m未満の範囲では、引抜き中の鋳片であるブルームに対してミストノズルを鋳造方向に200mm間隔で配置し、モールド下端から2.0m以上5.9mまでの範囲では、引抜き中の鋳片であるブルームに対してミストノズルを300mm間隔で配置した。さらに、ミストノズル先端からブルーム表面までの距離は170mmとした。事例Aと同様に、10本のブルームを製造した。
【0015】
なお、事例Aおよび事例Bの装置条件において、それらのデータから想定される範囲でそれらの装置条件をマイナーチェンジしてもよい。さらに、ミストノズルの鋳造方向の配置のうち、1段目のノズルについては、モールド下端部と冷却部が直接に干渉しない位置関係であれば、モールドからの距離が200mm以下でもよい。また、ブルームの断面が矩形である矩形ブルームではその矩形の広面側と狭面側とで使用ノズルを代えてもよい。
【0016】
上記の事例Aおよび事例Bにおける二次冷却の各ミストの噴霧条件を、請求項1の手段の水量密度と気水体積比の条件を満足する方法で鋳片を二次冷却し、さらにより好ましくは、請求項2の手段の水温およびエア温としてミストノズルから噴射するエアの圧力を満足する方法で鋳片を二次冷却することにより、それぞれ事例Aの鋳片と、事例Bの鋳片を得た。さらに、鋳片の断面積を鋼片の断面積で除した値の圧鍛比が6〜15である丸鋼片とし、これらの丸鋼片の表面疵を磁粉探傷で検査した。深さ0.3mm以上の疵に対して感度のある磁粉探傷を行い、連続鋳造に起因すると特定される長さ15mm以上の疵を有害とした。このように有害として検知された疵のない、優れた鋼片となった鋳片を製造した本発明例と、有害として検知された疵のある、良好でない鋼片となった鋳片を製造した比較例について、それぞれ表1に示した。
【0017】
この表1では、二次冷却帯で噴霧する各ミストの噴霧条件の水量密度と気水体積比を変えた場合の磁粉探傷で検知した疵との関係を示している。表1において、表面疵は鋳片から圧鍛した丸鋼片について磁粉探傷で検知した深さ0.3mm以上の疵であり、疵の長さ15mmで区分して鋼片段階での有害疵の確認結果として示している。つまり、有害疵のかったものに○、有害疵のあったものに×を付した。事例1から10は本発明例で請求項1の式(1)および式(2)の両条件を満足するもので、事例11から15は請求項1の式(1)および式(2)の両条件を共に満足するものではなかった。
【0018】
【表1】

【0019】
請求項2の実施例として、ミストノズルから噴射するミスト冷却用のミストのエア及び水は、それらエア及び水の温度を5〜40°Cとし、さらにミストノズルから噴射するエアの圧力を標準大気圧の90〜99%とし、これらの条件を全て満足する本発明の実施例の表1の事例1と事例3と事例5について表2に示した。これらにおける有害疵の検知はいずれも○であり、有害疵はなかった。一方、上記条件のいずれかを満足しないものを表2の比較例とし、それらを事例1’、事例1”、事例3’、事例3”、事例5’および事例5”として表2に示した。これらの表2の比較例の、事例1’は水温が請求項2の範囲から外れるものであり、事例1”はエア温が請求項2の範囲から外れるものであり、事例3’は水温が請求項2の範囲から外れるものであり、事例3”はエア温が請求項2の範囲から外れるものであり、事例5’は水温が請求項2の範囲から外れるものであり、事例5”はエア温が請求項2の範囲から外れるものであった。これらにおける有害疵の検知はいずれも×であり、有害疵が認められた。
【0020】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直型連続鋳造における鋳片のミスト冷却による二次冷却帯の冷却方法において、二次冷却帯における引抜き中の鋳片を冷却するために、ミストノズルから噴射するミスト冷却用のミストのエア及び水(すなわち気水)の気水体積比を、下記の式(1)及び式(2)からなる条件を満たす気水体積比としてミスト冷却により緩冷却することを特徴とする垂直型連続鋳造における鋳片の緩冷却方法。
log(気水体積比)≧−1.25×log(水量密度[m3/m2・sec])−2.02……式(1)
気水体積比≧17……式(2)
なお、logは常用対数で、したがって底は10である。
【請求項2】
ミストノズルから噴射するミスト冷却用のミストのエア及び水(すなわち気水)はその温度を5〜40°Cとし、さらにミストノズルから噴射するエアの圧力を標準大気圧の90〜99%とすることを特徴とする請求項1に記載の垂直型連続鋳造における鋳片の緩冷却方法。