説明

垂直磁気記憶媒体および記憶装置並びに多層構造膜

【課題】多層磁性層の薄膜化に大いに寄与することができる多層構造膜を提供する。
【解決手段】多層構造膜の一具体例は、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜43a、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜43bを重ね合わせる積層体41と、この積層体41の表面に重ね合わせられ、積層体41の飽和磁化Msよりも大きい飽和磁化Msを有する強磁性膜42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はいわゆる垂直磁気記憶媒体および多層構造膜に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるビットパターンドメディアは広く知られる。ビットパターンドメディアでは記録磁性層の表面で複数列の記録トラックが同心円状に延びる。例えば個々の記録トラックでは1列または複数列に磁性ピラーが配列される。磁性ピラー同士は非磁性体の働きで相互に磁気的に分離される。垂直磁気記録の実現にあたって軟磁性の裏打ち層上に記録磁性層は積層される。書き込みヘッドから漏れ出る磁界は裏打ち層の働きで記録磁性層の表面に垂直に記録磁性層を突き抜ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−101643号公報
【特許文献2】特開2001−331919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パラジウム層およびコバルト層の多層磁性層は広く知られる。ビットパターンドメディアでは、そういった多層磁性層の利用が模索される。利用にあたって多層磁性層の薄膜化が要求される。薄膜化が実現されれば、書き込みヘッドから漏れ出る磁界は確実に裏打ち層に至る。書き込み時に確実に多層磁性層に強い磁界が作用することができる。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、多層磁性層の薄膜化に大いに寄与することができる多層構造膜を提供することを目的とする。本発明は、そういった多層構造膜を利用する垂直磁気記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、多層構造膜の一具体例は、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備える。
【0007】
こういった多層構造膜では強磁性膜の働きで全体の飽和磁化は調整されることができる。薄膜の膜厚は原子の大きさ程度の離散値すなわち増減値で設定されることができる。薄膜の膜厚は原子の大きさよりも小さいレベルで微妙に調整される必要はない。その結果、積層体が薄膜化されても、比較的に簡単に所望値の飽和磁化は確立されることができる。
【0008】
こういった多層構造膜は垂直磁気記憶媒体に用いられることができる。このとき、垂直磁気記憶媒体は、基板と、前記基板の表面に積層される軟磁性の裏打ち層と、前記裏打ち層の表面に積層される非磁性中間層と、前記非磁性中間層に重ね合わせられ、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えればよい。
【0009】
こういった垂直磁気記憶媒体は記憶装置で利用されることができる。記憶装置は、記憶媒体と、前記記憶媒体の表面に向き合わせられるヘッドスライダーとを備え、前記記憶媒体は、基板と、前記基板の表面に積層される軟磁性の裏打ち層と、前記裏打ち層の表面に積層される非磁性中間層と、前記非磁性中間層に重ね合わせられ、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えればよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように開示の構造によれば、多層磁性層の薄膜化に大いに寄与することができる多層構造膜は提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態に係る記憶装置すなわちハードディスク駆動装置(HDD)の内部構造を示す平面図である。
【図2】磁気ディスクの表面を概略的に示す拡大斜視図である。
【図3】図2の3−3線に沿った垂直断面図であって、第1実施形態に係る磁気ディスクを示す垂直断面図である。
【図4】図3の垂直断面図の部分拡大図である。
【図5】図3に対応し、積層体および強磁性膜の非磁性化の過程で強磁性膜の表面に形成されるレジスト膜を概略的に示す垂直断面図である。
【図6】強磁性膜の膜厚と、飽和磁化および一軸異方性磁界との関係をそれぞれ示すグラフである。
【図7】図3に対応し、第2実施形態に係る磁気ディスクを示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0013】
図1は一具体例に係る記憶装置すなわちハードディスク駆動装置(HDD)11の内部構造を概略的に示す。このHDD11は筐体すなわちハウジング12を備える。ハウジング12は箱形のベース13およびカバー(図示されず)から構成される。ベース13は例えば平たい直方体の内部空間すなわち収容空間を区画する。カバーはベース13の開口に結合される。カバーとベース13との間で収容空間は密閉される。
【0014】
収容空間には記憶媒体の一具体例すなわち1枚以上の磁気ディスク14が収容される。磁気ディスク14はスピンドルモーター15の回転軸に装着される。スピンドルモーター15は例えば5400rpmや7200rpm、10000rpm、15000rpmといった高速度で磁気ディスク14を回転させることができる。後述されるように、個々の磁気ディスク14はいわゆる垂直磁気記憶媒体に構成される。
【0015】
収容空間にはキャリッジ16がさらに収容される。キャリッジ16はキャリッジブロック17を備える。キャリッジブロック17は、ベース13の底板から垂直方向に立ち上がる支軸18に回転自在に連結される。キャリッジブロック17には、支軸18から水平方向に延びる複数のキャリッジアーム19が区画される。
【0016】
個々のキャリッジアーム19の先端にはヘッドサスペンション21が取り付けられる。ヘッドサスペンション21はキャリッジアーム19の先端から前方に延びる。ヘッドサスペンション21にはフレキシャが張り合わせられる。フレキシャ上には浮上ヘッドスライダー22が支持される。フレキシャに基づき浮上ヘッドスライダー22はヘッドサスペンション21に対してその姿勢を変化させることができる。浮上ヘッドスライダー22にはヘッド素子すなわち電磁変換素子(図示されず)が搭載される。
【0017】
電磁変換素子は書き込みヘッド素子と読み出しヘッド素子とを備える。書き込みヘッド素子にはいわゆる単磁極ヘッドが用いられる。単磁極ヘッドは薄膜コイルパターンの働きで磁界を生成する。磁界は主磁極および副磁極の働きで単磁極ヘッドおよび磁気ディスク14を循環する。こういった循環の働きで、磁気ディスク14の表面に直交する垂直方向に磁界は誘導される。この磁界の働きで磁気ディスク14に情報は書き込まれる。その一方で、読み出しヘッド素子には巨大磁気抵抗効果(GMR)素子やトンネル接合磁気抵抗効果(TMR)素子が用いられる。GMR素子やTMR素子では、磁気ディスク14から作用する磁界の向きに応じてスピンバルブ膜やトンネル接合膜の抵抗変化が引き起こされる。こういった抵抗変化に基づき磁気ディスク14から情報は読み出される。
【0018】
磁気ディスク14の回転に基づき磁気ディスク14の表面で気流が生成されると、気流の働きで浮上ヘッドスライダー22には正圧すなわち浮力および負圧が作用する。浮力は負圧およびヘッドサスペンション21の押し付け力に釣り合う。その結果、磁気ディスク14の回転中に比較的に高い剛性で浮上ヘッドスライダー22は浮上し続けることができる。
【0019】
キャリッジブロック17にはボイスコイルモーター(VCM)23が連結される。ボイスコイルモーター23の働きでキャリッジブロック17は支軸18回りで回転することができる。こうしたキャリッジブロック17の回転に基づきキャリッジアーム19およびヘッドサスペンション21の揺動は実現される。浮上ヘッドスライダー22の浮上中に支軸18回りでキャリッジアーム19が揺動すると、浮上ヘッドスライダー22は磁気ディスク14の半径線に沿って移動することができる。その結果、浮上ヘッドスライダー22上の電磁変換素子は最内周記録トラックと最外周記録トラックとの間でデータゾーンを横切ることができる。こうした浮上ヘッドスライダー22の移動に基づき電磁変換素子は目標記録トラックに対して位置決めされる。
【0020】
ヘッドサスペンション21の先端には、ヘッドサスペンション21の先端から前方に延びるロードタブ24が区画される。ロードタブ24はキャリッジアーム19の揺動に基づき磁気ディスク14の半径方向に移動することができる。ロードタブ24の移動経路上には磁気ディスク14の外側でランプ部材25が配置される。ランプ部材25はベース13に固定される。ロードタブ24はランプ部材25に受け止められる。
【0021】
ランプ部材25にはロードタブ24の移動経路に沿って延びるランプ25aが形成される。このランプ25aは磁気ディスク14の中心から遠ざかるにつれて磁気ディスク14の表面を含む仮想平面から遠ざかる。したがって、キャリッジアーム19が支軸18回りで磁気ディスク14の回転軸から遠ざかると、ロードタブ24はランプ25aを上っていく。こうして浮上ヘッドスライダー22は磁気ディスク14の表面から引き剥がされる。浮上ヘッドスライダー22は磁気ディスク14から外側に待避する。反対に、キャリッジアーム19が支軸18回りに磁気ディスク14の回転軸に向かって揺動すると、ロードタブ24はランプ25aを下っていく。回転中の磁気ディスク14から浮上ヘッドスライダー22には浮力が作用する。ランプ部材25およびロードタブ24は協働でいわゆるロードアンロード機構を構成する。
【0022】
図2に示されるように、磁気ディスク14の表面には同心円状に複数列の磁性ドット26が確立される。個々の磁性ドット26は、磁気ディスク14の表面に直交する中心軸を有する円柱すなわち磁性ピラーで構成される。磁性ピラーの直径は例えば20nm程度に設定される。中心軸同士の間隔は例えば22nm〜23nm程度に設定される。磁性ピラー同士は非磁性体27で分離される。ここでは、例えば3列の磁性ピラーで1記録トラック28が形成される。したがって、記録トラック28同士は非磁性体27で磁気的に分離される。しかも、個々の列中では磁性ピラーは非磁性体27で個々に分離される。
【0023】
図3は本発明の一実施形態に係る磁気ディスク14の断面構造を示す。この磁気ディスク14は基体すなわち基板31を備える。基板31は、例えば、ディスク形のSi本体31aと、Si本体31aの表裏面に広がる非晶質のSiO膜31bとで構成されればよい。ここでは、Si本体31aの表面のみが図示される。その他、基板31にはガラス基板やアルミニウム基板が用いられてもよい。
【0024】
基板31の表面には裏打ち層32が広がる。裏打ち層32は例えばFeTaC膜やNiFe膜といった軟磁性体から構成されればよい。ここでは、例えば膜厚300[nm]程度のFeTaC膜が用いられる。裏打ち層32では、基板31の表面に平行に規定される面内方向に磁化容易軸は確立される。
【0025】
裏打ち層32の表面には多層構造膜33が広がる。多層構造膜33に磁気情報は記録される。多層構造膜33の表面は、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜といった保護膜34やパーフルオロポリエーテル(PFPE)膜といった潤滑膜35で被覆される。なお、基板31の裏面には同様に裏打ち層32、多層構造膜33、保護膜34および潤滑膜35が順次積層される。
【0026】
多層構造膜33は、裏打ち層32の表面に広がるタンタル(Ta)密着層37を備える。タンタル密着層37は裏打ち層32の表面に重ね合わせられる。タンタル密着層37は非晶質構造を有する。タンタル密着層37の膜厚は例えば2.0[nm]に設定される。
【0027】
タンタル密着層37の表面にはパラジウム(Pd)下地層38が広がる。パラジウム下地層38はタンタル密着層37の表面に重ね合わせられる。パラジウム下地層38は多結晶構造を有する。隣接する結晶同士は密着する。パラジウム下地層38の膜厚は5.0[nm]未満に設定される。ここでは、パラジウム下地層38の膜厚は3.0[nm]に設定される。タンタル密着層37およびパラジウム下地層38は非磁性中間層として機能する。
【0028】
多層構造膜33は、パラジウム下地層38の表面に広がる積層体41を備える。積層体41の表面には強磁性膜42が重ね合わせられる。強磁性膜42は直接に積層体41の表面に受け止められる。積層体41および強磁性膜42に前述の磁性ピラーは形成される。
【0029】
図4は積層体41の一具体例を示す。積層体41は少なくとも1層以上の二層構造膜43を備える。個々の二層構造膜43は、第1膜厚の第1薄膜43aと、第1薄膜43aに重ね合わせられる第2膜厚の第2薄膜43bとを備える。第2薄膜43bは第1薄膜43aの表面に直接に受け止められる。第2薄膜43bは第1薄膜43aの表面に密着する。第1薄膜43aは非磁性貴金属原子から形成される。非磁性貴金属原子は例えばパラジウム(Pd)原子から構成される。したがって、第1薄膜43aはパラジウム層を形成する。磁性原子は例えばコバルト(Co)原子から構成される。したがって、第2薄膜43bはコバルト層を形成する。その他、パラジウム原子に代えて白金(Pt)原子が用いられてもよい。ここでは、積層体41は5層の二層構造膜43を備える。二層構造膜43では膜厚0.8[nm]のパラジウム層すなわち第1薄膜43aの表面に膜厚0.2[nm]のコバルト層すなわち第2薄膜43bが直接に重ね合わせられる。こういった二層構造膜43aの働きで積層体41では基板31の表面に垂直に磁化容易軸は確立される。第1薄膜43aの膜厚および第2薄膜43bの膜厚は適宜に設定されればよい。膜厚の調整に応じて積層体41の飽和磁化Msおよび一軸異方性磁界Hkは調整されることができる。
【0030】
強磁性膜42は最表面の第2薄膜43bの表面に密着する。強磁性膜42はコバルト白金基合金から形成される。すなわち、強磁性膜42はコバルト原子および白金原子を含有する。コバルト白金基合金はクロム原子を含有することが望まれる。クロム原子の添加に基づきコバルト白金基合金では結晶格子は整えられることができる。強磁性膜42の飽和磁化Msは積層体41の飽和磁化Msよりも大きく設定される。こういった設定にあたってコバルト白金基合金では白金原子(およびクロム原子)の含有量が調整されればよい。同時に、積層体41および強磁性膜42の合成の一軸異方性磁界Hkは強磁性膜42固有の一軸異方性磁界よりも大きく設定される。こういった設定にあたって、後述されるように、強磁性膜42の膜厚は調整される。
【0031】
いま、書き込みヘッド素子すなわち単磁極ヘッドが磁気ディスク14の表面に向き合わせられると、主磁極から漏れ出る磁界は磁性ドット26で積層体41および強磁性膜42に作用する。積層体41および強磁性膜42には、積層体41および強磁性膜42の表面に直交する垂直方向に磁界は誘導される。磁界は裏打ち層32から単磁極ヘッドの副磁極に循環する。こうして積層体41および強磁性膜42では複数個の磁性ピラーごとに上向き(垂直方向に外向き)の磁化または下向き(垂直方向に内向き)の磁化が確立される。情報は記録される。このとき、タンタル密着層37、パラジウム下地層38、積層体41および強磁性膜42の総膜厚は十分に縮小されることから、単磁極ヘッドおよび裏打ち層32の距離は短縮されることができる。その結果、積層体41および強磁性膜42には十分な強度の磁化が確立されることができる。積層体41および強磁性膜42では、後述されるように、的確に調整された一軸異方性磁界Hkが確保されることから、小さい強度の磁界で確実に正確な情報は書き込まれることができる。
【0032】
読み出しヘッド素子が磁気ディスク14の表面に向き合わせられると、積層体41および強磁性膜42から漏れ出る磁界はスピンバルブ膜やトンネル接合膜に作用する。スピンバルブ膜やトンネル接合膜の抵抗変化が引き起こされる。こういった抵抗変化に基づき磁気ディスク14から情報は読み出される。このとき、積層体41および強磁性膜42では、後述されるように、強磁性膜42の働きで積層体41単独の飽和磁化Msよりも大きな飽和磁化Msは確保される。したがって、漏れ出る磁界は増大することができる。しかも、的確に調整された一軸異方性磁界Hkが確保されることから、記録磁化の熱揺らぎ耐性は十分に確保されることができる。確実に正確な情報は復元されることができる。
【0033】
次に磁気ディスク14の製造方法を簡単に説明する。まず、基板31が用意される。基板31はスパッタリング装置に装着される。スパッタリング装置のチャンバー内には真空環境が確立される。チャンバー内には例えばFeTaCターゲットがセットされる。チャンバー内で基板31の表面には裏打ち層32が形成される。裏打ち層32の表面には順番に膜厚2.0[nm]のタンタル密着層37および膜厚3.0[nm]のパラジウム下地層38が形成される。形成にあたってスパッタリング装置が用いられる。スパッタリング装置には、同様に、タンタルターゲットやパラジウムターゲットがセットされる。パラジウム下地層38の形成にあたって例えばチャンバー内の圧力は0.7[Pa]程度に設定される。その結果、形成されたパラジウム下地層38では結晶粒同士は密着する。連続構造の多結晶膜が形成される。その一方で、チャンバー内の圧力が例えば7[Pa]といった高圧に設定されると、パラジウム下地層38では結晶粒同士が分離してしまう。分離構造の多結晶膜が形成される。
【0034】
その後、パラジウム下地層38の表面には積層体41が形成される。5層の二層構造膜43が積層される。膜厚0.8[nm]のパラジウム層および膜厚0.2[nm]のコバルト層が順番に形成される。形成にあたってスパッタリング装置が利用される。スパッタリング装置のチャンバー内にはパラジウムターゲットおよびコバルトターゲットがセットされる。パラジウム層の形成後にコバルト層の形成に先立って所定の待機時間が確保される。パラジウム層の積層にあたって、スパッタリングのレートは、パラジウム下地層38の積層にあたって設定されるスパッタリングのレートよりも遅いレートに設定される。
【0035】
積層体41の表面には強磁性膜42が形成される。例えば膜厚2.0[nm]のコバルトクロム白金(CoCrPt)合金が積層される。ただし、後述されるように、コバルトクロム白金合金の膜厚は0[nm]〜7.0[nm](「0(ゼロ)」含まれず)の範囲で適宜に設定されればよい。形成にあたってスパッタリング装置が利用される。スパッタリング装置のチャンバー内にはコバルトクロム白金ターゲットがセットされる。こうしてコバルト白金基合金の強磁性膜42がスパッタリングに基づきコバルトの第2薄膜43b上で積層形成されることから、強磁性膜42で結晶格子は整えられる。配向性は高められる。その結果、飽和磁化Msは高められる。
【0036】
その後、図5に示されるように、強磁性膜42の表面には所定のパターンでレジスト膜46が形成される。レジスト膜46は前述の磁性ドット26に相当する領域を覆い隠す。こういったレジスト膜46の形成にあたって例えばフォトリソグラフィー技術が利用される。レジスト膜46の形成後、強磁性膜42の表面にはイオン注入が実施される。イオン注入機では電圧の制御に基づきイオンの到達深度が調整される。その結果、レジスト膜46の周囲では強磁性膜42の表面から深さ5.0nmまで満遍なく第1および強磁性膜41、42はアモルファス化される。このアモルファス化に応じて第1および強磁性膜42の磁性は失われる。こうして変質域すなわち非磁性体27は形成される。レジスト膜46直下で磁性ピラーは確立される。磁性ピラーの確立後、レジスト膜46は除去される。
【0037】
その後、積層体41および強磁性膜42の表面には保護膜34が形成される。形成にあたって例えばCVD法(化学的気相蒸着法)が用いられる。保護膜34の表面には潤滑膜35が塗布される。塗布にあたっていわゆるディップ法が用いられる。ディップ法では基板31は例えばパーフルオロポリエーテルを含む溶液に浸される。
【0038】
本発明者は多層構造膜33の特性を検証した。検証にあたってガラス基板上で膜厚2.0[nm]のタンタル密着層37および膜厚3.0[nm]のパラジウム下地層38が形成された。パラジウム下地層38上に積層体41および強磁性膜42が形成された。二層構造膜43では膜厚0.8[nm]のパラジウム層上に膜厚0.2[nm]のコバルト層が積層された。強磁性膜42には例えば膜厚2.0[nm]のコバルトクロム白金(CoCrPt)合金が用いられた。コバルト原子の含有量は74.2[原子%]に設定された。クロム原子の含有量は3.3[原子%]に設定された。白金原子の含有量は22.5[原子%]に設定された。4種類の具体例が用意された。具体例ごとに強磁性膜42の膜厚は2.0[nm]、3.0[nm]、4.0[nm]および5.0[nm]に設定された。個々の具体例ごとに積層体41および強磁性膜42の飽和磁化Msおよび一軸異方性磁界Hkが測定された。参考例が用意された。第1参考例では強磁性膜42は省略された。その他の構造は具体例と同様に形成された。第2参考例ではルテニウム下地層上で強磁性膜42が積層された。第1参考例に基づき積層体41固有の飽和磁化Msおよび一軸異方性磁界Hkが測定された。第2参考例に基づき強磁性膜42固有の飽和磁化Msおよび一軸異方性磁界Hkが測定された。
【0039】
図6に示されるように、強磁性膜42の働きで飽和磁化Msが高まることが確認された。しかも、強磁性膜42の膜厚の増大に応じて飽和磁化Msは増大することが確認された。強磁性膜42の膜厚の設定に応じて飽和磁化Msの大きさは調整されることが裏付けられた。その一方で、強磁性膜の膜厚の増大に応じて一軸異方性磁界Hkは低下することが確認された。しかも、積層体41および強磁性膜42の一軸異方性磁界Hkは強磁性膜42単独の一軸異方性磁界Hkを下回ることはないことから、強磁性膜42の膜厚が7.0[nm]を超えると一軸異方性磁界Hkは一定値で維持されることが容易く想像される。その結果、強磁性膜42の膜厚が7.0[nm]以下で一軸異方性磁界Hkは調整されることが見出された。
【0040】
本発明者はコンピューターシミュレーションに基づき積層体41および強磁性膜42の総飽和磁化Msを算出した。算出にあたってコバルト層の飽和磁化Msは1400[emu/cm]に設定された。コバルトクロム白金送金層の飽和磁化Msは800[emu/cm]に設定された。図6に示されるように、実証値と算出値との間で相似性が見出された。その結果、コンピューターシミュレーションに基づく算出値は磁気ディスク14の設計にあたって大いに役立つことが確認された。
【0041】
図7に示されるように、前述の非磁性体27は、積層体41および強磁性膜42に強磁性膜42の表面から形成される空間48に埋められる非磁性材料で形成されてもよい。こういった空間48の形成にあたって例えばリアクティブイオンエッチング(RIE)が用いられる。リアクティブイオンエッチングの実施にあたって前述と同様に強磁性膜42の表面にはレジスト膜46が形成される。レジスト膜46の周囲でエッチング処理が施されると、レジスト膜46直下に前述の磁性ピラーが形成される。その後、レジスト膜46は除去される。磁性ピラーの周囲で空間48には非磁性材料が充填される。こういった充填にあたって例えばスパッタリングが用いられる。磁性ピラー上の非磁性材料は除去される。非磁性材料の充填後、磁性ピラーおよび非磁性材料の表面には保護膜34および潤滑膜35が形成される。
【0042】
なお、前述の二層構造膜43では、コバルトに代えてコバルトを主成分とするコバルト合金が用いられてもよく、パラジウムに代えてパラジウムを主成分とするパラジウム合金が用いられてもよい。その他、パラジウムに代えて白金(Pt)または白金を主成分とする白金合金が用いられてもよい。コバルト白金基合金には例えばボロン(B)がさらに添加されてもよい。1ビットは必ずしも複数の磁性ピラーで確立される必要はなく、1つの磁性ピラーで1ビットが確立されてもよい。
【0043】
以上の実施形態に関し出願人はさらに以下の付記を開示する。
【0044】
(付記1) 非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を繰り返し重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えることを特徴とする多層構造膜。
【0045】
(付記2) 付記1に記載の多層構造膜において、前記積層体および前記強磁性膜の一軸異方性磁界は前記強磁性膜固有の一軸異方性磁界よりも大きく設定されることを特徴とする多層構造膜。
【0046】
(付記3) 付記1または2に記載の多層構造膜において、前記磁性原子はコバルトであることを特徴とする多層構造膜。
【0047】
(付記4) 付記1〜3のいずれか1に記載の多層構造膜において、前記非磁性貴金属原子はパラジウムであることを特徴とする多層構造膜。
【0048】
(付記5) 付記4に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜は、コバルト原子および白金原子を含有する合金から形成されることを特徴とする多層構造膜。
【0049】
(付記6) 付記5に記載の多層構造膜において、前記合金はクロム原子をさらに含有することを特徴とする多層構造膜。
【0050】
(付記7) 付記6に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜の膜厚は7.0nm以下に設定されることを特徴とする多層構造膜。
【0051】
(付記8) 付記1〜7のいずれか1に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜は前記第2薄膜の表面に重ね合わせられることを特徴とする多層構造膜。
【0052】
(付記9) 基板と、前記基板の表面に積層される軟磁性の裏打ち層と、前記裏打ち層の表面に積層される非磁性中間層と、前記非磁性中間層に重ね合わせられ、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を繰り返し重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えることを特徴とする垂直磁気記憶媒体。
【0053】
(付記10) 付記9に記載の多層構造膜において、前記積層体および前記強磁性膜の一軸異方性磁界は前記強磁性膜固有の一軸異方性磁界よりも大きく設定されることを特徴とする多層構造膜。
【0054】
(付記11) 付記9または10に記載の多層構造膜において、前記磁性原子はコバルトであることを特徴とする多層構造膜。
【0055】
(付記12) 付記9〜11のいずれか1に記載の多層構造膜において、前記非磁性貴金属原子はパラジウムであることを特徴とする多層構造膜。
【0056】
(付記13) 付記12に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜は、コバルト原子および白金原子を含有する合金から形成されることを特徴とする多層構造膜。
【0057】
(付記14) 付記13に記載の多層構造膜において、前記合金はクロム原子をさらに含有することを特徴とする多層構造膜。
【0058】
(付記15) 付記14に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜の膜厚は7.0nm以下に設定されることを特徴とする多層構造膜。
【0059】
(付記16) 付記9〜15のいずれか1に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜は前記第2薄膜の表面に重ね合わせられることを特徴とする多層構造膜。
【0060】
(付記17) 付記9〜16のいずれか1に記載の垂直磁気記憶媒体において、前記積層体および前記強磁性膜には、非磁性体で分離される記録トラックごとに配列されて、個々の列ごとに非磁性体で個々に分離される複数個の磁性ピラーが形成されることを特徴とする垂直磁気記憶媒体。
【0061】
(付記18) 付記17に記載の垂直磁気記憶媒体において、前記非磁性体は、前記積層体および前記強磁性膜内に区画される空間に埋められる非磁性材料で形成されることを特徴とする垂直磁気記憶媒体。
【0062】
(付記19) 付記17に記載の垂直磁気記憶媒体において、前記非磁性体は、イオン注入に基づき前記積層体および強磁性膜内に形成される変質域であることを特徴とする垂直磁気記憶媒体。
【0063】
(付記20) 記憶媒体と、前記記憶媒体の表面に向き合わせられるヘッドスライダーとを備え、前記記憶媒体は、基板と、前記基板の表面に積層される軟磁性の裏打ち層と、前記裏打ち層の表面に積層される非磁性中間層と、前記非磁性中間層に重ね合わせられ、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を繰り返し重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えることを特徴とする記憶装置。
【符号の説明】
【0064】
11 記憶装置としてのハードディスク駆動装置、14 垂直磁気記憶媒体としての磁気ディスク、26 磁性ピラーすなわち磁性ドット、27 非磁性体、28 記録トラック、32 裏打ち層、33 多層構造膜、37 非磁性中間層(タンタル密着層)、38 非磁性中間層(パラジウム下地層)、41 積層体、42 強磁性膜、43a 第1薄膜(パラジウム層)、43b 第2薄膜(コバルト層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を繰り返し重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えることを特徴とする多層構造膜。
【請求項2】
請求項1に記載の多層構造膜において、前記積層体および前記強磁性膜の一軸異方性磁界は前記強磁性膜固有の一軸異方性磁界よりも大きく設定されることを特徴とする多層構造膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多層構造膜において、前記磁性原子はコバルトであることを特徴とする多層構造膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の多層構造膜において、前記非磁性貴金属原子はパラジウムであることを特徴とする多層構造膜。
【請求項5】
請求項4に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜は、コバルト原子および白金原子を含有する合金から形成されることを特徴とする多層構造膜。
【請求項6】
請求項5に記載の多層構造膜において、前記合金はクロム原子をさらに含有することを特徴とする多層構造膜。
【請求項7】
請求項6に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜の膜厚は7.0nm以下に設定されることを特徴とする多層構造膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載の多層構造膜において、前記強磁性膜は前記第2薄膜の表面に重ね合わせられることを特徴とする多層構造膜。
【請求項9】
基板と、前記基板の表面に積層される軟磁性の裏打ち層と、前記裏打ち層の表面に積層される非磁性中間層と、前記非磁性中間層に重ね合わせられ、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を繰り返し重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えることを特徴とする垂直磁気記憶媒体。
【請求項10】
記憶媒体と、前記記憶媒体の表面に向き合わせられるヘッドスライダーとを備え、前記記憶媒体は、基板と、前記基板の表面に積層される軟磁性の裏打ち層と、前記裏打ち層の表面に積層される非磁性中間層と、前記非磁性中間層に重ね合わせられ、非磁性貴金属原子から形成される第1薄膜、および、磁性原子または磁性合金から形成される第2薄膜を繰り返し重ね合わせる積層体と、前記積層体の表面に重ね合わせられ、前記積層体の飽和磁化よりも大きい飽和磁化を有する強磁性膜とを備えることを特徴とする記憶装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−199192(P2010−199192A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40599(P2009−40599)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】