説明

垂直磁気記録媒体

【課題】保磁力Hcと逆磁区核形成磁界Hn、およびSNRを総合的に向上することにより、さらなる高記録密度化を実現可能にする。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の代表的な構成は、軟磁性層130と、Niを主成分とし、W、Bを含有し、さらにZr、AL、SiからなるA群の元素のうち1つ以上の元素を含有する前下地層140と、RuまたはRu合金を主成分とする下地層150と、CoCrPt系の磁性粒子と非磁性の粒界部からなるグラニュラ構造を有するグラニュラ磁性層160と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の垂直磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには450GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
垂直磁気記録媒体の高記録密度化のために重要な要素としては、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnなどの静磁気特性の向上と、オーバーライト特性(OW特性)やSNR(Signal to Noise Ratio:シグナルノイズ比)などの電磁変換特性の向上、トラック幅の狭小化などの様々なものがある。その中でも保磁力Hcの向上とSNRの向上は、面積の小さな記録ビットにおいても正確に且つ高速に読み書きするために重要である。
【0004】
SNRの向上は、主に磁気記録層の磁化遷移領域ノイズの低減により行われる。ノイズ低減のために有効な要素としては、磁気記録層の結晶配向性の向上、磁性粒子の粒径の微細化、および磁性粒子の孤立化が挙げられる。中でも粒径の微細化は、記録ビットの境界の磁化遷移領域ノイズの低減に効果的である。
【0005】
また高記録密度化するためには、トラック幅を狭くする必要がある。トラック幅を狭くするためには、書きにじみを減らす必要があるため保磁力Hcを高くする必要がある。保磁力Hcを高めるためには、まず磁気記録層の膜厚を厚くすることが考えられるが、この場合はSNRおよびOW特性が低下するというトレードオフがある。保磁力Hcを向上させるための他の手段の1つとして、磁性粒子の結晶配向性を向上させることが考えられる。
【0006】
従来からも磁気記録層の結晶配向性を向上させるために、Ru等からなる下地層(中間層と言われる場合もある)を設けたり(例えば特許文献1)、さらにその下にfcc構造の前下地層(シード層と言われる場合もある)を設けたりした構成が知られている(例えば特許文献2)。特許文献2では、軟磁性膜が非晶質構造、下地膜(前下地層に相当する)をNiW合金、中間膜(下地層に相当する)をRu合金とすることにより、生産性に優れ、かつ高密度の情報の記録再生が可能な磁気記録媒体、その製造方法、および磁気記録再生装置を提供できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7?334832号公報
【特許文献2】特開2007−179598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年求められている320GByte/プラッタを超える磁気記録媒体では、従来の250GByte/プラッタの磁気記録媒体よりもさらなる高周波ノイズ対策が必要となる。すなわち、従来の記録密度であれば支障なく読み書きできていた媒体であっても、高記録密度化および高速化に伴って信号の読み書きが高周波化すると、書き込みが不十分となって信号が弱くなり、また読み出す際の信号もノイズのために判然としなくなり、結果的に読み書きができなくなってしまうという問題がある。したがって、さらに高いSNR、保磁力Hcが必要となる。
【0009】
さらに、常温では十分な保磁力を発揮する磁気記録層であっても、磁性粒子が微細化するとキュリー温度が低下し、ハードディスクの動作温度(例えば60℃)では容易に磁化反転するようになってしまう。このため、あるトラックに信号を書き込む際に隣接するトラックの信号も書き換わってしまう、いわゆる高温フリンジといわれる現象が発生してしまう。故に、トラック幅が小さくなったとしても、結局TPI(Track per Inch)を高めることができなくなってしまう。高温フリンジ耐性を高めるためには、逆磁区核形成磁界Hnをさらに高める必要がある。保磁力Hcと逆磁区核形成磁界Hnはおおむね同時に増減するため、逆磁区核形成磁界Hnは保磁力Hcと同様に結晶配向性を向上させることによって高めることができる。
【0010】
しかし、SNRを向上させるために磁性粒子の微細化を推進すると、結晶配向性が低下する傾向にある。これは、グラニュラ構造を有する磁気記録層において柱状に成長する磁性粒子があまりに細くなると、順調にエピタキシャル成長できなくなってしまうためと考えられる。したがって、SNRの向上と、保磁力Hcと逆磁区核形成磁界Hnの向上とを両立させることは難しい。
【0011】
そこで本発明は、保磁力Hcと逆磁区核形成磁界Hn、およびSNRを総合的に向上することにより、さらなる高記録密度化を実現可能にした垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の代表的な構成は、軟磁性層と、Niを主成分とし、Wと、Bとを含有し、さらにZr、AL、SiからなるA群の元素から1つ以上の元素を含有する前下地層と、RuまたはRu合金からなる下地層と、CoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部からなるグラニュラ構造を有するグラニュラ磁性層と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、前下地層において、NiW合金にBを含有させることによって微細化を図り、またA群の元素を含有させることによって結晶配向性を向上させることができる。このため、保磁力Hcと逆磁区核形成磁界Hn、およびSNRを総合的に向上することにより、さらなる高記録密度化を図ることができる。
【0014】
前下地層において、Bの含有量は3at%以下、A群の元素の含有量は合計5at%以下であることが好ましい。これらの範囲において、好適に本発明の効果を得ることができる。Bの含有量が3at%より多くなると、SNRが却って低下してしまうためである。これは、微細化が過度に進行するためと考えられる。またA群の元素が合計5at%より多くなると、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnが、含有させない場合よりも却って低下してしまうためである。これは、Niの含有量が少なくなるために結晶配向性が低下してしまうためと考えられる。
【0015】
軟磁性層と前下地層の間に、非晶質構造をなす非晶質金属層を備えていることが好ましい。これにより前下地層を成膜する際にその結晶構造が軟磁性層の微細な結晶粒から受ける影響を遮断することができ、所望の結晶を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保磁力Hcと逆磁区核形成磁界Hn、およびSNRを総合的に向上することにより、さらなる高記録密度化を実現可能にした垂直磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】含有するA群の元素の有無による比較を説明する図である。
【図3】Bの含有量による比較を説明する図である。
【図4】Zrの含有量による比較を説明する図である。
【図5】非晶質金属層の有無による比較を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
[第1実施形態]
【0019】
(垂直磁気記録媒体)
図1は、第1実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、ディスク基体110、付着層120、軟磁性層130(第1軟磁性層131、スペーサ層132、第2軟磁性層133)、非晶質金属層138、前下地層140、下地層150、グラニュラ磁性層160、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。
【0020】
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
【0021】
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成について説明する。
【0022】
付着層120はディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層130とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層120は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。付着層120の膜厚は、例えば6〜8nm程度とすることができる。
【0023】
付着層120の組成としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCrTi系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層120は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。
【0024】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式においてグラニュラ磁性層160に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層130は第1軟磁性層131と第2軟磁性層133の間に非磁性のスペーサ層132を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層130の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。軟磁性層130の膜厚は、第1軟磁性層131と第2軟磁性層133がそれぞれ15〜30nm程度、スペーサ層132が0.3〜0.9nm程度とすることができる。第1軟磁性層131、第2軟磁性層133の組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeB、CoFeTaZrなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
【0025】
非晶質金属層138は非晶質(アモルファス)の層であって、前下地層140を成膜する際にその結晶構造が軟磁性層130の微細な結晶粒から受ける影響を遮断する役割を有している。非晶質金属層138は、NiもしくはNi化合物からなり、例えばNiTaまたはNiTiから構成されるとよい。また非晶質金属層138の膜厚は、1nm〜3nmであることが好ましい。非晶質金属層138の厚みが1nmよりも薄い場合、前下地層140を成膜する際にその結晶構造が軟磁性層130の微細な結晶粒から受ける影響を遮断できなくなるおそれがある。また非晶質金属層138の厚みが3nmよりも厚い場合、不必要に磁気ヘッドから軟磁性層までの距離(磁気的スペーシング)が増大してオーバーライト特性を低下させてしまうおそれがある。
【0026】
前下地層140(シード層ともいわれる)は、非磁性の合金層であり、軟磁性層130を防護する作用と、この上に成膜される下地層150に含まれる六方最密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。
【0027】
本実施形態において前下地層140は、Niを主成分とし、W、Bを含有し、さらにZr、AL、SiからなるA群の元素のうち1つ以上の元素を含有する。具体例としては、NiWBZr、NiWBAL、NiWBSi、NiWBZrAL、NiWBZrSiなどを挙げることができる。
【0028】
上記構成によれば、NiW合金にBを含有させることによって微細化を図り、またA群の元素を含有させることによって結晶配向性を向上させることができるため、保磁力Hcと逆磁区核形成磁界Hn、およびSNRを総合的に向上させることができ、さらなる高記録密度化を図ることができる。一般的には微細化すると保磁力Hcなどは低下するところ、それでも向上させることができるのは、A群の元素を含有させることによって前下地層のNi結晶のfcc構造の(111)面が、より多くディスク基体110の主表面と平行な面に現れるためと考えられる。具体的には、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)における(200)面に対する(111)面の積分強度比が高くなるためと考えられる。fcc構造は(111)面においてhcp構造と同様の六角形の原子配置が出現するため、これを基礎としてその上の下地層150のRuの結晶が成長することができる。したがって、下地層150、ひいてはグラニュラ磁性層160の結晶配向性を向上させることができる。
【0029】
ここで、上述のように非晶質金属層138を備えていることにより、前下地層140を成膜する際にその結晶構造が軟磁性層130の結晶から受ける影響を遮断することができる。したがって前下地層140の結晶成長が阻害されることがなく、所望の結晶を自由に形成することができる。
【0030】
前下地層140において、Bの含有量は3at%以下、A群の元素の含有量は合計5at%以下であることが好ましい。これらの範囲において、好適に本発明の効果を得ることができる。Bの含有量が3at%より多くなると、SNRが却って低下してしまうためである。これは、微細化が過度に進行するためと考えられる。またA群の元素が合計5at%より多くなると、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnが、含有させない場合よりも却って低下してしまうためである。これは、Niの含有量が少なくなるために結晶配向性が低下してしまうためと考えられる。なお、Wの含有量が10at%より多くなると、前下地層が非晶質(アモルファス)になってしまうため、Wの含有量は10at%以下であることが好ましい。
【0031】
下地層150はRuまたはRu合金を主成分とするhcp構造であって、グラニュラ磁性層160のCoのhcp構造の結晶をグラニュラ構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層150の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、グラニュラ磁性層160の配向性を向上させることができる。下地層150の膜厚は、例えば20nm程度とすることができる。下地層150の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とするグラニュラ磁性層160を良好に配向させることができる。
【0032】
さらに、下地層150のRuに酸素を微少量含有させてもよい。これによりさらにRuの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、グラニュラ磁性層160のさらなる孤立化と微細化を図ることができる。なお酸素はリアクティブスパッタによって含有させてもよいが、スパッタリング成膜する際に酸素を含有するターゲットを用いることが好ましい。
【0033】
グラニュラ磁性層160はCoCrPt系の磁性粒子と非磁性の粒界部からなるグラニュラ構造を有している。本実施形態では、CoCrPtにSiO、TiO、を含有させたターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPtからなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiO、TiO(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成した。
【0034】
グラニュラ磁性層160ではSiOによって孤立微細化を図ると共にTiOによってSNRの向上を図っている。グラニュラ磁性層160の膜厚は、必要な保磁力を得られる厚さとする。特に、磁気ヘッドから軟磁性層130までの距離であるスペーシングロスを低減させる目的から、12nm以下とすると好適である。
【0035】
なお、上記に示したグラニュラ磁性層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化チタン(TiO)、酸化珪素(SiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化コバルト(CoOまたはCo)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。さらに本実施形態では、グラニュラ磁性層160において3種類の酸化物を用いているが、これに限定されるものではなく、いずれの層においても1種類の酸化物としたり、または2種類以上の酸化物を複合したりすることも可能である。
【0036】
分断層170はグラニュラ磁性層160の上かつ補助記録層180の下に設けられ、これらの層の磁性をほぼ分断する層である。分断層170は非磁性であることが好ましいが、若干であれば弱い磁性を有していてもよい。
【0037】
分断層170の磁性に対する作用としては、グラニュラ磁性層160と補助記録層180との磁性を分断し、これらの間の交換結合の強さを調整する。これによりグラニュラ磁性層160と補助記録層180の間、およびグラニュラ磁性層160の隣接する磁性粒子の間での磁気的な接続を弱め、補助記録層180に起因するノイズを低減することができる。したがって、保磁力Hcとオーバーライト特性を維持しつつ、SNRの向上、トラック幅の狭小化を図ることができる。
【0038】
また分断層170の結晶構造に対する作用としては、補助記録層180の結晶粒子の分離を促進する。補助記録層180は後述するように面内方向に磁気的に連続した磁性層であるが、結晶粒子の粒界(酸化物ではない)が明瞭となり、磁化反転の単位が小さくなり、また磁壁も狭くなる。これによりSNRを向上させることができる。良好な交換結合強度を得るために、分断層170は0.3〜0.9nmの膜厚であることが好ましい。
【0039】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、Ru合金を主成分とする層であることが好ましい。Ru合金とは、Ruに他の金属元素を添加したものであるが、さらに酸素を含んだり、酸化物を添加したりしたものもRu合金に含まれる。具体例としては、RuCo、RuWO、RuTiO、RuOなどを含有させたターゲットを用いて成膜することができる。分断層170に酸素を含ませた場合には、多量の酸化物を含むグラニュラ磁性層160と、酸素を含まない補助記録層180との間で、磁気的および構造的な橋渡しとなる。
【0040】
また分断層170は、Coを含んでいてもよい。具体例としては、RuCoを挙げることができる。特にRuCoは、Coがグラニュラ磁性層160から補助記録層180に向かって結晶配向性を継承することができ、SNRの向上に優れている。
【0041】
補助記録層180は基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180はグラニュラ磁性層160に対して磁気的相互作用を有するように、隣接または近接している必要がある。補助記録層180の膜厚は、例えば5〜7nmとすることができる。補助記録層180の材質としては、例えばCoCrPt、CoCrPtB、またはこれらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。
【0042】
補助記録層180はグラニュラ磁性層160の磁性粒子と磁気的相互作用を有する(交換結合を行う)ことによって、逆磁区核形成磁界Hnの調整、保磁力Hcの調整を行い、これにより耐熱揺らぎ特性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。この目的を達成するために、補助記録層180は垂直磁気異方性Kuおよび飽和磁化Msが高い材料であることが望ましい。また磁性粒子と接続する結晶粒子(磁気的相互作用を有する結晶粒子)が磁性粒子の断面よりも広面積となるため、磁気ヘッドから多くの磁束を受けて磁化反転しやすくなり、全体のOW特性を向上させるものと考えられる。
【0043】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が連続しており、磁性粒子が酸化物などの非磁性物質によって微細化(分離孤立化)されていないことを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体から構成される記録ビットにまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180においてCrが偏析していてもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。
【0044】
保護層190は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。保護層190の膜厚は、例えば4〜6nmとすることができる。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができる。
【0045】
潤滑層200は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、保護層190表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層200の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、保護層190の損傷や欠損を防止することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば1.3〜1.4nmとすることができる。
【0046】
(実施例)
上記構成の垂直磁気記録媒体100の有効性を確かめるために、以下の実施例と比較例を用いて説明する。
【0047】
実施例として、ディスク基体110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層132まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120はCr−50Tiを10nm成膜した。軟磁性層130は、第1軟磁性層131、第2軟磁性層133はそれぞれ92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrを20nm成膜し、スペーサ層132はRuを0.7nm成膜した。非晶質金属層138および前下地層140は、下記に示すように実施例と比較例を作成して比較した。下地層150は0.6PaでRuを10nm成膜した上に5PaでRuを10nm成膜した。グラニュラ磁性層160は、90(70Co−10Cr−20Pt)−10(Cr)を2nm成膜した上に3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO)−5(TiO)を12nm成膜した。分断層170は0.3nmのRuを成膜した。補助記録層180は6nmの62Co−18Cr−15Pt−5Bを成膜した。保護層190はCVD法によりCを用いて成膜し、表層を窒化処理した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。
【0048】
図2は含有するA群の元素の有無による比較を説明する図である。図2において比較例1は前下地層140の組成をNi−4Wとしたもの、比較例2はNi−4W−1Bとしたもの、比較例3はNi−4W−1Zrとしたものである。一方、実施例1は前下地層140の組成をNi−4W−1Zr−1Bとしたもの、実施例2はNi−4W−1AL−1Bとしたもの、実施例3はNi−4W−1Si−1Bとしたものである。なお比較例1〜3および実施例1の全てにおいて、非晶質金属層138は設けず、前下地層140の膜厚は8nmとした。なお実施例2〜3および比較例1〜3では、グラニュラ磁性層160の膜厚を調節することにより保磁力Hcを変化させ、トラック幅MWWを実施例1とほぼ同等に揃えた。
【0049】
図2において比較例1と比較例2とを比較すれば、Bを1at%含有させることにより、SNRが若干向上している。これは、Bの添加によって前下地層140の結晶が微細化された結果、グラニュラ磁性層160の磁性粒子も微細化されたためと考えられる。しかしこの程度のSNRの向上では不十分である。
【0050】
次に比較例1と比較例3とを比較すれば、Zrを1at%含有させたことにより、SNRが若干向上し、Hnが大幅に向上している。これは、Zrの添加によって前下地層140の(111)面の結晶配向性が良くなった結果、グラニュラ磁性層160の磁性粒子の結晶配向性が向上したものと考えられる。しかしこれだけでは、SNRの上げ幅が小さいため、希望する高記録密度化には不足している。
【0051】
次に比較例1と実施例1とを比較すれば、BとZrの両方を1at%ずつ含有させたことにより、SNRは最も大きく向上し、Hnも向上している。これは、Bによって磁性粒子の微細化が進行しても、Zrによって結晶配向性が大幅に向上することから、微細化と結晶配向性が両立され、結果SNRとHnの両立が可能となったものである。なお比較例2よりもSNRが高いのは、これも結晶配向性が低下せずに微細化できた効果であると考えられる。
【0052】
実施例2および実施例3では、いずれも比較例以上のSNRを実現している。したがってA群の元素としては、Zrのみではなく、AL、Siも選択可能であることが確認された。
【0053】
図3はBの含有量による比較を説明する図である。実施例1はBを1at%含有させた構成であるが、実施例4は3at%、比較例4は5at%のBを含有させている。なお、Bが増加した分は、主成分であるNiが減少している。図3においてSNRを参照すれば、Bを5at%添加すると大きく低下した。したがって、Bの含有量は3at%以下が好ましいことがわかる。
【0054】
図4はZrの含有量による比較を説明する図である。実施例1はZrを1at%含有させた構成であるが、実施例5は3at%、実施例6は5at%、比較例5は10at%のZrを含有させている。なお、Zrが増加した分は、主成分であるNiが減少している。図4においてHnを参照すれば、実施例5ではHnが若干増加しているが、実施例6では低下し始めており、比較例5では大幅に低下した。また、比較例5では、Hc及びSNRも大幅に低下した。したがって、Zrの含有量は5at%以下が好ましいことがわかる。
【0055】
図5は、実施例1及び5のそれぞれに非晶質金属層138を挿入した、実施例7及び8の結果を説明する図である。非晶質金属層138は、軟磁性層130と前下地層140との間に設けている。なお、非晶質金属層138としては、Ni−50Taを1.4nm成膜し、同時に、前下地層140の膜厚を7.5nmとした。
【0056】
図5と実施例1及び5を参照すれば、非晶質金属層138を設けることによって、Hc、Hn、およびSNRのいずれもが、さらに向上している。特にHc、Hnが向上していることから、結晶配向性が向上しているものと考えられる。このことから、非晶質金属層138の有効性を確認することができた。これは上述したように、非晶質金属層138を備えていることにより、前下地層140を成膜する際にその結晶構造が軟磁性層130の結晶から受ける影響を遮断したものと考えられる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
100 …垂直磁気記録媒体
110 …ディスク基体
120 …付着層
130 …軟磁性層
131 …第1軟磁性層
132 …スペーサ層
133 …第2軟磁性層
138 …非晶質金属層
140 …前下地層
150 …下地層
160 …グラニュラ磁性層
170 …分断層
180 …補助記録層
190 …保護層
200 …潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも、
軟磁性層と、
Niを主成分とし、Wと、Bとを含有し、さらにZr、AL、SiからなるA群の元素から1つ以上の元素を含有する前下地層と、
RuまたはRu合金からなる下地層と、
CoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部からなるグラニュラ構造を有するグラニュラ磁性層と、
を備えたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記前下地層において、Bの含有量は3at%以下、A群の元素の含有量は合計5at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記軟磁性層と前記前下地層の間に、非晶質構造をなす非晶質金属層を備えたことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−76683(P2011−76683A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229131(P2009−229131)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】