説明

基地局装置及び無線リソース割当方法

【課題】TCPを用いたアプリケーションに対する遅延要求を無線リソースの割当に反映させることを図る。
【解決手段】自基地局1に無線接続してデータを送受する端末と該端末のアプリケーション層での通信相手との間で送受されるアプリケーションデータに対する遅延要求値を取得する情報取得部11と、アプリケーションデータに対する遅延要求値に基づいて該アプリケーションデータが格納されるTCPパケットを自基地局1又は端末のうちのアプリケーションデータ送信側から無線送信すべき時刻までの残り時間を算出し、該アプリケーションデータ送信側から無線送信する送信予定時刻に対する該残り時間の余裕度に基づいて自基地局1と端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行うリソース割当部12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信ネットワークシステムの基地局装置及び無線リソース割当方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信ネットワークシステムの基地局装置において、自基地局装置に無線接続してデータを送受する端末との無線通信に使用する無線リソースを割当てる技術としては、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−502211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来の技術では、端末と該端末のアプリケーション層での通信相手との間で送受されるアプリケーションデータに対する遅延要求を無線リソースの割当に反映させることができない。このため、近年、無線端末(例えば、携帯電話機等)向けのTCP(Transmission Control Protocol)を用いたアプリケーション層のベストエフォート(Best Effort)型サービス(例えば、ウェブアクセス、楽曲や動画などのファイルのダウンロード、ネットオークション等)の処理遅延に対する利用者からの要求があるが、これに対して十分に応えることが困難である。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、TCPを用いたアプリケーションに対する遅延要求を無線リソースの割当に反映させることのできる基地局装置及び無線リソース割当方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る基地局装置は、無線通信ネットワークシステムの基地局装置において、自基地局装置に無線接続してデータを送受する端末と該端末のアプリケーション層での通信相手との間で送受されるアプリケーションデータに対する遅延要求値を取得する情報取得部と、前記アプリケーションデータに対する遅延要求値に基づいて該アプリケーションデータが格納されるTCPパケットを自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側から無線送信すべき時刻までの残り時間を算出し、該アプリケーションデータ送信側から無線送信する送信予定時刻に対する該残り時間の余裕度に基づいて自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行うリソース割当部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る基地局装置においては、前記情報取得部は、前記アプリケーションデータの送受に係るTCPウィンドウサイズ及びTCPウィンドウサイズの更新時刻を取得する手段を有し、前記リソース割当部は、TCPウィンドウサイズの単位で、前記残り時間の余裕度を算出することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る基地局装置においては、前記情報取得部は、前記アプリケーションデータに対する遅延要求値を前記TCPパケットのそれぞれに等配分することを想定したTCPパケット当たりの遅延要求値を取得する手段を有し、前記リソース割当部は、前記TCPパケット当たりの遅延要求値に基づいて、TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの送達確認が前記端末と前記通信相手の間で完了することが要求される時刻までの残り時間を表す送達確認完了残余時間を算出する手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る基地局装置においては、前記情報取得部は、前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側が前記TCPパケットの送達確認信号を送信してから該送達確認信号がアプリケーションデータ送信側に到達するまでに要すると推定される時間を表す返送時間推定値を取得する手段を有し、前記リソース割当部は、前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値を減算し、自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側がTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの無線送信を完了すべき時刻までの残り時間を表す送信遅延要求値を算出する送信遅延要求値算出手段を有する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る基地局装置においては、前記情報取得部は、前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側の遅延確認応答タイマの規定時間を取得する手段を有し、前記送信遅延要求値算出手段は、前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値と前記遅延確認応答タイマの規定時間とを減算し、前記送信遅延要求値を算出する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る基地局装置においては、前記情報取得部は、前記アプリケーションデータに係るTCPスループット実測値を取得する手段を有し、前記リソース割当部は、TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットに格納されるアプリケーションデータの総量をTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケット分のTCPパケット当たりの遅延要求値の総量で除算し、TCPスループット要求値を算出する手段と、自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側が無線送信する送信予定時刻に対する該アプリケーションデータ送信側から前記TCPパケットを無線送信すべき時刻までの残り時間の余裕度と、前記TCPスループット要求値に対する前記TCPスループット実測値の充足度とに基づいて、前記アプリケーションデータの優先度を算出する手段と、前記アプリケーションデータの優先度に基づいて、自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行う手段と、を有する、ことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る無線リソース割当方法は、無線通信ネットワークシステムの基地局装置において、自基地局装置に無線接続してデータを送受する端末との無線通信に使用する無線リソースを割当てる無線リソース割当方法であって、前記基地局装置が、前記端末と該端末のアプリケーション層での通信相手との間で送受されるアプリケーションデータに対する遅延要求値を取得するステップと、前記基地局装置が、前記アプリケーションデータに対する遅延要求値に基づいて該アプリケーションデータが格納されるTCPパケットを自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側から無線送信すべき時刻までの残り時間を算出するステップと、前記基地局装置が、該アプリケーションデータ送信側から無線送信する送信予定時刻に対する該残り時間の余裕度に基づいて、自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行うステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る無線リソース割当方法においては、前記基地局装置が、前記アプリケーションデータの送受に係るTCPウィンドウサイズ及びTCPウィンドウサイズの更新時刻を取得するステップをさらに含み、前記基地局装置は、TCPウィンドウサイズの単位で前記残り時間の余裕度を算出する、ことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る無線リソース割当方法においては、前記基地局装置が、前記アプリケーションデータに対する遅延要求値を前記TCPパケットのそれぞれに等配分することを想定したTCPパケット当たりの遅延要求値を取得するステップと、前記基地局装置が、前記TCPパケット当たりの遅延要求値に基づいて、TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの送達確認が前記端末と前記通信相手の間で完了することが要求される時刻までの残り時間を表す送達確認完了残余時間を算出するステップと、をさらに含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る無線リソース割当方法においては、前記基地局装置が、前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側が前記TCPパケットの送達確認信号を送信してから該送達確認信号がアプリケーションデータ送信側に到達するまでに要すると推定される時間を表す返送時間推定値を取得するステップと、前記基地局装置が、前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値を減算し、自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側がTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの無線送信を完了すべき時刻までの残り時間を表す送信遅延要求値を算出するステップと、をさらに含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る無線リソース割当方法においては、前記基地局装置が、前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側の遅延確認応答タイマの規定時間を取得するステップをさらに含み、前記基地局装置は、前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値と前記遅延確認応答タイマの規定時間とを減算し、前記送信遅延要求値を算出する、ことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る無線リソース割当方法においては、前記基地局装置が、前記アプリケーションデータに係るTCPスループット実測値を取得するステップと、前記基地局装置が、TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットに格納されるアプリケーションデータの総量をTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケット分のTCPパケット当たりの遅延要求値の総量で除算し、TCPスループット要求値を算出するステップと、前記基地局装置が、自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側が無線送信する送信予定時刻に対する該アプリケーションデータ送信側から前記TCPパケットを無線送信すべき時刻までの残り時間の余裕度と、前記TCPスループット要求値に対する前記TCPスループット実測値の充足度とに基づいて、前記アプリケーションデータの優先度を算出するステップと、をさらに含み、前記基地局装置は、前記アプリケーションデータの優先度に基づいて、自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、TCPを用いたアプリケーションに対する遅延要求を無線リソースの割当に反映させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線通信ネットワークシステムの構成を示す概念図である。
【図2】本発明に係る基地局装置の実施例1である。
【図3】本発明に係るリソース割当部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に係る無線リソースの割当の手順を示した概念図である。
【図5】本発明に係る基地局装置の実施例2である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信ネットワークシステムの構成を示す概念図である。図1において、無線通信ネットワークシステムは、基地局装置(以下、単に基地局と称する)1と基地局1に無線接続してデータを送受する端末2とを有する。基地局1は、IP(Internet Protocol)パケットの転送を行うIPネットワーク4に接続されている。
【0021】
アプリケーションサーバ3は、TCPを用いたアプリケーション層のサービス(以下、アプリケーションと称する)を端末2に対して提供するものであり、アプリケーションで使用されるデータ(以下、アプリケーションデータと称する)が格納されたTCPパケットを端末2との間で送受する。アプリケーションサーバ3は、端末2のアプリケーション層での通信相手となる。TCPパケットは、トランスポート層としてTCPが使用されるIPパケットのことをいう。
【0022】
以下、本実施形態に係る基地局1について、アプリケーションサーバ3から端末2へアプリケーションデータを送信する場合(実施例1)と、端末2からアプリケーションサーバ3へアプリケーションデータを送信する場合(実施例2)とに分けて説明する。
【実施例1】
【0023】
実施例1は、アプリケーションサーバ3から端末2へアプリケーションデータを送信する場合である。図2は、本実施形態に係る基地局1の実施例1である。図2には、基地局1の下り方向(基地局から端末への方向)に係る概略構成を示している。図2において、基地局1は、情報取得部11とリソース割当部12とデータバッファ13と送信部14を有する。
【0024】
情報取得部11は、無線リソースの割当に使用される情報を取得する。リソース割当部12は、情報取得部11で取得された情報を用いて、下り方向の無線通信に使用される無線リソースの割当を行う。データバッファ13は、IPネットワーク4を介して受信したIPパケットを一時的に格納する。アプリケーションサーバ3から端末2宛てに送信されたTCPパケットは、IPネットワーク4を介して基地局1に到達し、データバッファ13に格納される。送信部14は、リソース割当部12の無線リソース割当結果に従って、送信対象のIPパケットをデータバッファ13から読み出し、割当てられた無線リソースを用いて該IPパケットを無線送信する。
【0025】
図3は、図2に示すリソース割当部12の構成を示すブロック図である。図3において、リソース割当部12は、送信遅延要求値算出部21とスループット要求値算出部22と要求値記憶部23と優先度算出部24と優先度記憶部25とリソース割当決定部26を有する。
【0026】
送信遅延要求値算出部21は、アプリケーションサーバ3から端末2へ送信されるアプリケーションデータが格納されるTCPパケットに関する、送信遅延要求値(P)を算出する。送信遅延要求値(P)は、アプリケーションサーバ3から端末2へ送信されるアプリケーションデータが格納されるTCPパケットに関し、自基地局1がTCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まる全てのTCPパケットの無線送信を完了すべき時刻までの残り時間を表す。この送信遅延要求値(P)の算出方法を以下に詳細に説明する。
【0027】
送信遅延要求値算出部21は、情報取得部11から、TCPパケット当たりの遅延要求値(Y)を受け取る。
【0028】
ここで、TCPパケット当たりの遅延要求値(Y)の取得方法を説明する。情報取得部11は、端末2とアプリケーションサーバ3との間で送受されるアプリケーションデータに対する遅延要求値(X)を、該端末2から取得する。次いで、情報取得部11は、該アプリケーションデータに対する遅延要求値を、該アプリケーションデータが格納されるTCPパケットのそれぞれに等配分することを想定したTCPパケット当たりの遅延要求値(Y)を算出する。遅延要求値(Y)は、次式で算出される。
Y=ceil(X/N)
但し、ceil(x)はxの値以上の最も近い整数である。Nはアプリケーションデータが格納されるTCPパケットの総数である。ここで、Nは、アプリケーションデータのサイズをTCPパケットのサイズ(所定値)で除算することにより得られる。情報取得部11は、アプリケーションサーバ3から端末2へアプリケーションデータの送信準備段階に通知されたアプリケーションデータのサイズを該端末2から取得する。
【0029】
なお、情報取得部11が、TCPパケット当たりの遅延要求値(Y)を端末2から取得するようにしてもよい。
【0030】
また、送信遅延要求値算出部21は、情報取得部11から、アプリケーションデータの送受に係るTCPウィンドウサイズ(cwnd)及びTCPウィンドウサイズ(cwnd)の更新時刻を受け取る。情報取得部11は、アプリケーションデータの送受に係るTCPウィンドウサイズ(cwnd)及びTCPウィンドウサイズ(cwnd)の更新時刻を端末2から取得する。
【0031】
なお、アプリケーションデータの送受に係るTCPウィンドウサイズ(cwnd)及びTCPウィンドウサイズ(cwnd)の更新時刻を推定する手段を基地局1に設け、情報取得部11が該推定値を取得するようにしてもよい。
【0032】
また、送信遅延要求値算出部21は、情報取得部11から返送時間推定値(所定値:Q)を受け取る。返送時間推定値(Q)は、端末2がTCPパケットの送達確認信号を送信してから該送達確認信号がアプリケーションサーバ3に到達するまでに要すると推定される時間を表す。
【0033】
なお、返送時間推定値(Q)を推定する手段を基地局1に設け、情報取得部11が該推定値を取得するようにしてもよい。
【0034】
また、送信遅延要求値算出部21は、情報取得部11から、端末2の遅延確認応答タイマの規定時間を受け取る。遅延確認応答タイマは、TCPパケットの受信側でTCPパケットの送達確認信号のうちの確認応答信号(Ack)の送信を待機してもよい期間(規定時間)を計測するタイマである。TCPパケットの受信側は、その規定時間が経過したら直ぐに確認応答信号(Ack)を返信しなければならない。情報取得部11は、遅延確認応答タイマの規定時間を端末2から取得する。
【0035】
次いで、送信遅延要求値算出部21は、TCPパケット当たりの遅延要求値(Y)とTCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まるTCPパケットの総数を乗算し、送達確認完了残余時間(Z)を算出する。TCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まるTCPパケットの総数は、TCPウィンドウサイズ(cwnd)をTCPパケットのサイズ(所定値)で除算することにより得られる。送達確認完了残余時間(Z)は、TCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まる全てのTCPパケットの送達確認が端末2とアプリケーションサーバ3の間で完了することが要求される時刻までの残り時間を表す。送達確認完了残余時間(Z)は、次式で算出される。
Z=TCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まるTCPパケットの総数×TCPパケット当たりの遅延要求値(Y)
【0036】
次いで、送信遅延要求値算出部21は、送達確認完了残余時間(Z)から、返送時間推定値(Q)と端末2の遅延確認応答タイマの規定時間とを減算し、送信遅延要求値(P)を算出する。送信遅延要求値(P)は、自基地局1がTCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まる全てのTCPパケットの無線送信を完了すべき時刻までの残り時間を表す。送信遅延要求値(P)は、次式で算出される。
P=Z−Q−遅延確認応答タイマの規定時間
以上が送信遅延要求値(P)の算出方法の説明である。
【0037】
送信遅延要求値算出部21は、送信遅延要求値(P)を要求値記憶部23に格納する。送信遅延要求値算出部21は、TCPウィンドウサイズ(cwnd)の更新時刻に合わせて、送信遅延要求値(P)を更新する。
【0038】
スループット要求値算出部22は、TCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まる全てのTCPパケットに格納されるアプリケーションデータの総量をTCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まる全てのTCPパケット分のTCPパケット当たりの遅延要求値(Y)の総量で除算し、TCPスループット要求値を算出する。ここで、TCPパケットのサイズ(所定値)は一定であると想定しているので、TCPパケットのサイズ(所定値)をTCPパケット当たりの遅延要求値(Y)で除算することにより、TCPスループット要求値を求めてもよい。スループット要求値算出部22は、TCPスループット要求値を要求値記憶部23に格納する。
【0039】
要求値記憶部23は、各端末2に係るアプリケーションデータ毎に、送信遅延要求値(P)とTCPスループット要求値を記憶する。
【0040】
優先度算出部24は、各端末2に係るアプリケーションデータ毎に、優先度を算出する。この優先度の算出方法を以下に詳細に説明する。
【0041】
優先度算出部24は、情報取得部11から、各端末2に係るアプリケーションデータ毎にTCPスループット実測値を受け取る。情報取得部11は、端末2からアプリケーションデータ毎にTCPスループット実測値を取得し、優先度算出部24へ渡す。TCPスループット実測値は、送達が完了したTCPパケットのサイズを、その送達に要した時間で除算することにより得られる。
【0042】
優先度算出部24は、自基地局1が無線送信する送信予定時刻までの残り時間に対する送信遅延要求値(P)の余裕の度合いを表す遅延余裕度と、TCPスループット実測値とTCPスループット要求値の比較とに基づいて、優先度を算出する。具体的には、遅延余裕度を次式で算出する。
遅延余裕度=「送信予定時刻までの残り時間」−「送信遅延要求値(P)」
そして、優先度を次式で算出する。
優先度=f(遅延余裕度)×g(TCPスループット実測値/TCPスループット要求値)
但し、f(x)はxを引数とする所定の関数、g(y)はyを引数とする所定の関数である。f(x)及びg(y)の具体例としては、
f(x)=exp(−x)、g(y)=exp(−y)
が挙げられる。これにより、優先度は、遅延余裕度が小さいほど高くなる。また、優先度は、TCPスループット実測値がTCPスループット要求値よりも小さいほど高くなる。
以上が優先度の算出方法の説明である。
【0043】
優先度算出部24は、優先度を優先度記憶部25に格納する。優先度算出部24は、無線リソースの割当タイミングに合わせて、優先度をを更新する。
【0044】
優先度記憶部25は、各端末2に係るアプリケーションデータ毎に、優先度を記憶する。
【0045】
リソース割当決定部26は、各端末2の各アプリケーションデータの優先度に基づいて、自基地局1と端末2との無線通信に使用する無線リソースの割当を行う。リソース割当決定部26は、無線リソースの割当結果を送信部14へ通知する。
【0046】
図4は、本実施形態に係る無線リソースの割当の手順を示した概念図である。図4では、TCP/IPを用いた通信プロトコルの層構成に対応させている。端末2及びアプリケーションサーバ3は、物理層からアプリケーション層までを有する。基地局1は、物理層からIP層までを有する。
【0047】
図4において、時刻t0にアプリケーション層からTCP/IP層へ、アプリケーションデータに対する遅延要求値(X)を渡す。
【0048】
時刻t1にTCP/IP層では、アプリケーションデータをN個のTCPパケットに格納すべく分割し、TCPウィンドウサイズ(cwnd)に従って、アプリケーションデータを格納したTCPパケットの送信を開始する。そして、TCP/IP層からデータリンク層へ、TCPパケット当たりの遅延要求値(Y)とTCPウィンドウサイズ(cwnd)を渡す。図4の例では、TCPウィンドウサイズ(cwnd)は、TCPパケットの2個分である。
【0049】
データリンク層では、TCPウィンドウサイズ(cwnd)のデータに対する送信遅延要求値(P)を定義(算出)し、送信遅延要求値(P)に基づいて、無線リソースを割り当てる対象の候補の順位を決める。そして、この順位に従って無線リソースを割り当てる。物理層では、その無線リソースの割当に従ってTCPパケットの無線送信を行う。
【0050】
時刻t2にTCP/IP層では、TCPパケットに対する確認応答信号(Ack)を受信し、TCPウィンドウサイズ(cwnd)を更新する。そして、更新後のTCPウィンドウサイズ(cwnd)に従って、アプリケーションデータを格納したTCPパケットの送信を行う。そして、TCP/IP層からデータリンク層へ、TCPスループット実測値を渡す。これにより、データリンク層では、送信遅延要求値(P)とTCPスループット実測値に基づいて、無線リソースを割り当てる対象の候補の順位を決める。また、時刻t3では、更新後のTCPウィンドウサイズ(cwnd)に従って、送信遅延要求値(P)が定義(算出)される。
【実施例2】
【0051】
実施例2は、端末2からアプリケーションサーバ3へアプリケーションデータを送信する場合である。図5は、本実施形態に係る基地局1の実施例2である。図2には、基地局1の上り方向(端末から基地局への方向)に係る概略構成を示している。図5において、基地局1は、情報取得部11とリソース割当部12と割当通知部31とデータ転送部32を有する。情報取得部11とリソース割当部12は、図2に示される実施例1のものに対応する。以下、実施例1と異なる点を主に説明する。
【0052】
割当通知部31は、リソース割当部12の無線リソース割当結果を端末2へ通知する。これにより端末2は、該無線リソース割当結果に従い、割当てられた無線リソースを用いてアプリケーションデータが格納されたTCPパケットを無線送信する。
【0053】
データ転送部32は、端末2から受信したTCPパケットをアプリケーションサーバ3へ転送する。
【0054】
リソース割当部12は、図3に示される実施例1の構成と同様であるが、以下に図3の構成をもとにして実施例1と異なる点を主に説明する。
【0055】
送信遅延要求値算出部21は、端末2からアプリケーションサーバ3へ送信されるアプリケーションデータが格納されるTCPパケットに関する、送信遅延要求値(P)を算出する。送信遅延要求値(P)は、端末2からアプリケーションサーバ3へ送信されるアプリケーションデータが格納されるTCPパケットに関し、端末2がTCPウィンドウサイズ(cwnd)に収まる全てのTCPパケットの無線送信を完了すべき時刻までの残り時間を表す。この送信遅延要求値(P)の算出方法は実施例1と同様である。
【0056】
なお、情報取得部11は、アプリケーションデータのサイズを端末2から取得する。また、遅延確認応答タイマの規定時間については、アプリケーションサーバ3のものを取得する。
【0057】
送信遅延要求値算出部21は、送信遅延要求値(P)を要求値記憶部23に格納する。送信遅延要求値算出部21は、TCPウィンドウサイズ(cwnd)の更新時刻に合わせて、送信遅延要求値(P)を更新する。
【0058】
スループット要求値算出部22は、TCPスループット要求値を算出する。このTCPスループット要求値の算出方法は実施例1と同様である。スループット要求値算出部22は、TCPスループット要求値を要求値記憶部23に格納する。
【0059】
要求値記憶部23は、各端末2に係るアプリケーションデータ毎に、送信遅延要求値(P)とTCPスループット要求値を記憶する。
【0060】
優先度算出部24は、各端末2に係るアプリケーションデータ毎に、端末2が無線送信する送信予定時刻までの残り時間に対する送信遅延要求値(P)の余裕の度合いを表す遅延余裕度と、TCPスループット実測値とTCPスループット要求値の比較とに基づいて、優先度を算出する。この優先度の算出方法は実施例1と同様である。
【0061】
優先度算出部24は、優先度を優先度記憶部25に格納する。優先度算出部24は、無線リソースの割当タイミングに合わせて、優先度をを更新する。優先度記憶部25は、各端末2に係るアプリケーションデータ毎に、優先度を記憶する。
【0062】
リソース割当決定部26は、各端末2の各アプリケーションデータの優先度に基づいて、自基地局1と端末2との無線通信に使用する無線リソースの割当を行う。リソース割当決定部26は、無線リソースの割当結果を割当通知部31へ通知する。
【0063】
上述したように本実施形態によれば、TCPを用いたアプリケーションのアプリケーションデータに対する遅延要求値(X)が、無線リソースを割り当てる候補のの順位に反映される。これにより、無線端末(例えば、携帯電話機等)向けのTCPを用いたアプリケーション層のベストエフォート型サービス(例えば、ウェブアクセス、楽曲や動画などのファイルのダウンロード、ネットオークション等)の処理遅延に対する利用者からの要求に対して、十分に応えることに寄与することが可能となる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1…基地局装置、2…端末、3…アプリケーションサーバ、4…IPネットワーク、11…情報取得部、12…リソース割当部、13…データバッファ、14…送信部、21…送信遅延要求値算出部、22…スループット要求値算出部、23…要求値記憶部、24…優先度算出部、25…優先度記憶部、26…リソース割当決定部、31…割当通知部、32…データ転送部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信ネットワークシステムの基地局装置において、
自基地局装置に無線接続してデータを送受する端末と該端末のアプリケーション層での通信相手との間で送受されるアプリケーションデータに対する遅延要求値を取得する情報取得部と、
前記アプリケーションデータに対する遅延要求値に基づいて該アプリケーションデータが格納されるTCPパケットを自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側から無線送信すべき時刻までの残り時間を算出し、該アプリケーションデータ送信側から無線送信する送信予定時刻に対する該残り時間の余裕度に基づいて自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行うリソース割当部と、
を備えたことを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
前記情報取得部は、前記アプリケーションデータの送受に係るTCPウィンドウサイズ及びTCPウィンドウサイズの更新時刻を取得する手段を有し、
前記リソース割当部は、TCPウィンドウサイズの単位で、前記残り時間の余裕度を算出することを特徴とする請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
前記情報取得部は、前記アプリケーションデータに対する遅延要求値を前記TCPパケットのそれぞれに等配分することを想定したTCPパケット当たりの遅延要求値を取得する手段を有し、
前記リソース割当部は、
前記TCPパケット当たりの遅延要求値に基づいて、TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの送達確認が前記端末と前記通信相手の間で完了することが要求される時刻までの残り時間を表す送達確認完了残余時間を算出する手段を備えた、
ことを特徴とする請求項2に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記情報取得部は、
前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側が前記TCPパケットの送達確認信号を送信してから該送達確認信号がアプリケーションデータ送信側に到達するまでに要すると推定される時間を表す返送時間推定値を取得する手段を有し、
前記リソース割当部は、
前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値を減算し、自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側がTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの無線送信を完了すべき時刻までの残り時間を表す送信遅延要求値を算出する送信遅延要求値算出手段を有する、
ことを特徴とする請求項3に記載の基地局装置。
【請求項5】
前記情報取得部は、
前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側の遅延確認応答タイマの規定時間を取得する手段を有し、
前記送信遅延要求値算出手段は、
前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値と前記遅延確認応答タイマの規定時間とを減算し、前記送信遅延要求値を算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の基地局装置。
【請求項6】
前記情報取得部は、
前記アプリケーションデータに係るTCPスループット実測値を取得する手段を有し、
前記リソース割当部は、
TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットに格納されるアプリケーションデータの総量をTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケット分のTCPパケット当たりの遅延要求値の総量で除算し、TCPスループット要求値を算出する手段と、
自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側が無線送信する送信予定時刻に対する該アプリケーションデータ送信側から前記TCPパケットを無線送信すべき時刻までの残り時間の余裕度と、前記TCPスループット要求値に対する前記TCPスループット実測値の充足度とに基づいて、前記アプリケーションデータの優先度を算出する手段と、
前記アプリケーションデータの優先度に基づいて、自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行う手段と、を有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項7】
無線通信ネットワークシステムの基地局装置において、自基地局装置に無線接続してデータを送受する端末との無線通信に使用する無線リソースを割当てる無線リソース割当方法であって、
前記基地局装置が、前記端末と該端末のアプリケーション層での通信相手との間で送受されるアプリケーションデータに対する遅延要求値を取得するステップと、
前記基地局装置が、前記アプリケーションデータに対する遅延要求値に基づいて該アプリケーションデータが格納されるTCPパケットを自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側から無線送信すべき時刻までの残り時間を算出するステップと、
前記基地局装置が、該アプリケーションデータ送信側から無線送信する送信予定時刻に対する該残り時間の余裕度に基づいて、自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行うステップと、
を含むことを特徴とする無線リソース割当方法。
【請求項8】
前記基地局装置が、前記アプリケーションデータの送受に係るTCPウィンドウサイズ及びTCPウィンドウサイズの更新時刻を取得するステップをさらに含み、
前記基地局装置は、TCPウィンドウサイズの単位で前記残り時間の余裕度を算出する、
ことを特徴とする請求項7に記載の無線リソース割当方法。
【請求項9】
前記基地局装置が、前記アプリケーションデータに対する遅延要求値を前記TCPパケットのそれぞれに等配分することを想定したTCPパケット当たりの遅延要求値を取得するステップと、
前記基地局装置が、前記TCPパケット当たりの遅延要求値に基づいて、TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの送達確認が前記端末と前記通信相手の間で完了することが要求される時刻までの残り時間を表す送達確認完了残余時間を算出するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の無線リソース割当方法。
【請求項10】
前記基地局装置が、前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側が前記TCPパケットの送達確認信号を送信してから該送達確認信号がアプリケーションデータ送信側に到達するまでに要すると推定される時間を表す返送時間推定値を取得するステップと、
前記基地局装置が、前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値を減算し、自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側がTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットの無線送信を完了すべき時刻までの残り時間を表す送信遅延要求値を算出するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の無線リソース割当方法。
【請求項11】
前記基地局装置が、前記端末又は前記通信相手のうちのアプリケーションデータ受信側の遅延確認応答タイマの規定時間を取得するステップをさらに含み、
前記基地局装置は、前記送達確認完了残余時間から前記返送時間推定値と前記遅延確認応答タイマの規定時間とを減算し、前記送信遅延要求値を算出する、
ことを特徴とする請求項10に記載の無線リソース割当方法。
【請求項12】
前記基地局装置が、前記アプリケーションデータに係るTCPスループット実測値を取得するステップと、
前記基地局装置が、TCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケットに格納されるアプリケーションデータの総量をTCPウィンドウサイズに収まる全ての前記TCPパケット分のTCPパケット当たりの遅延要求値の総量で除算し、TCPスループット要求値を算出するステップと、
前記基地局装置が、自基地局装置又は前記端末のうちのアプリケーションデータ送信側が無線送信する送信予定時刻に対する該アプリケーションデータ送信側から前記TCPパケットを無線送信すべき時刻までの残り時間の余裕度と、前記TCPスループット要求値に対する前記TCPスループット実測値の充足度とに基づいて、前記アプリケーションデータの優先度を算出するステップと、をさらに含み、
前記基地局装置は、前記アプリケーションデータの優先度に基づいて、自基地局装置と前記端末との無線通信に使用する無線リソースの割当を行う、
ことを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の無線リソース割当方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−200096(P2010−200096A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43902(P2009−43902)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】