説明

基材の表面に親水性を付与する方法、透光性材料の曇り止め組成物、親水性材料および親水性材料の製造法

【課題】様々な基材に超親水性を付与する簡易な方法を提供する。
【解決手段】(i)遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の鋳型となる構造規制剤と、を含み、記遷移金属元素Mが、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、原料液を準備する工程と、(ii)基材の表面に前記原料液の塗膜を形成する工程と、(iii)前記塗膜にUV光を照射して前記構造規制剤を分解する工程と、を含む、基材の表面に親水性を付与する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に親水性を付与する技術に関し、特に超親水性を発現する親水層の形成に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、光触媒作用を有する親水性材料として知られている。酸化チタンの光触媒作用は、触媒活性点の周辺環境の影響を強く受ける。そこで、酸化チタンの親水性を制御することにより触媒活性を向上させる研究が行われている(特許文献1)。また、酸化チタンは、超親水性を発現することが知られている。
【0003】
材料の表面温度が低下すると、周囲の雰囲気に含まれる水分が結露し、曇りを生じる。曇りが生じると、材料の外観が損なわれたり、透光性材料の機能が損なわれたりする。一方、材料の表面に超親水性を付与すると、曇りが生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−179506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化チタンのような金属酸化物からなる材料は、親水性を有するものの、薄膜化が困難であり、その粉末は一般に白色材料である。そのため、金属酸化物を用いて材料に親水性を付与する場合、その用途が大きく限定される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材の表面に親水性を付与する方法に関し、その方法は、(i)遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の鋳型となる構造規制剤と、を含み、記遷移金属元素Mが、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、原料液を準備する工程と、(ii)基材の表面に前記原料液の塗膜を形成する工程と、(iii)前記塗膜にUV光を照射して前記構造規制剤を分解する工程と、を含む。
【0007】
前記基材は、特に限定されないが、例えば金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、木材、パルプ、織布および不織布よりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0008】
本発明は、また、透光性材料の曇り止め組成物に関し、その組成物は、遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の鋳型となる構造規制剤と、を含み、前記遷移金属元素Mは、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0009】
前記透光性材料は、特に限定されないが、例えば、ガラス、プラスチックなどであり、より具体的には、輸送機器車両のフロントガラス、眼鏡レンズ、ゴーグル、観賞魚用水槽壁などである。
【0010】
本発明は、また、有機材料からなる基材と、前記基材の表面に形成された親水層と、を含み、前記親水層は、メソ細孔を有する多孔質体からなり、前記多孔質体は、遷移金属元素MおよびSiを含む複合酸化物からなり、前記遷移金属元素Mは、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、親水性材料に関する。
【0011】
前記親水層に対する水の接触角は、10°以下であることが好ましい。接触角が10°以下である場合、親水層は十分な超親水性を発現する。
【0012】
前記複合酸化物に含まれる遷移金属元素Mのモル数のSiのモル数に対する比:M/Siは、0.001≦M/Si≦0.1を満たすことが好ましい。
【0013】
本発明は、更に、親水性材料の製造法に関し、その製造法は、(i)遷移金属元素の塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の雛形となる構造規制剤と、を含み、前記遷移金属元素Mが、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、原料液を準備もしくは調製する工程と、(ii)有機材料からなる基材の表面に前記原料液の塗膜を形成する工程と、(iii)前記塗膜にUV光を照射して前記構造規制剤を分解する工程と、を含む。
【0014】
前記有機材料は、特に限定されないが、例えば、プラスチック、木材、パルプ、織布および不織布よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0015】
上記の基材の表面に親水性を付与する方法および親水性材料の製造法における原料液、ならびに上記の透光性材料の曇り止め組成物において、遷移金属元素Mのモル数の、Siのモル数に対する比:M/Siは、0.001≦M/Si≦0.1を満たすことが好ましい。
【0016】
上記の基材の表面に親水性を付与する方法および親水性材料の製造法における原料液、ならびに上記の透光性材料の曇り止め組成物において、前記構造規制剤は、分子量250〜3000の有機界面活性剤であることが好ましい。
【0017】
上記の基材の表面に親水性を付与する方法および親水性材料の製造法において、前記塗膜にUV光を照射して前記構造規制剤を分解する工程(iii)では、前記塗膜のXRDスペクトルにおける2θ=2°付近に観測されるピークの位置が、0.3°以上、高角度側にシフトするまで、前記塗膜にUV光を照射することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易な方法で、様々な基材の表面に、メソ細孔を有する多孔質体からなる親水層を形成することができる。メソ細孔を有する多孔質体は、光透過性が高く、薄膜化が可能である。よって、メソ細孔を有する多孔質体は、コーティング材料として適している。
【0019】
また、メソ細孔を有する多孔質体には、Tiなどの光触媒活性を有する元素を容易に組み込むことができる。そのため、メソ細孔内に充填された構造規制剤は、UV光照射により容易に分解され、除去される。すなわち、高温で構造規制剤を燃焼させて除去する必要がない。そのため、耐熱性の低い有機材料からなる基材にも、容易にメソ細孔を有する多孔質体からなる親水層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】基材の表面に親水層を形成する工程を示す説明図である。
【図2】実施例1の親水層のFT−IRスペクトルと、UV光照射時間との関係を示す図である。
【図3】比較例1の塗膜のFT−IRスペクトルと、UV光照射時間との関係を示す図である。
【図4】構造規制剤を除去する前、および除去した後の親水層の透光性を示す図である。
【図5】構造規制剤を除去する前、および除去した後の親水層のXRDスペクトルである。
【図6】水と基材との接触角または水と親水層との接触角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態1
本実施形態は、基材の表面に親水性を付与する方法に関する。基材は、特に限定されないが、例えば、様々な工業製品の筐体や、壁材、床材、窓材などの建築材料、眼鏡用レンズ、サングラス、ゴーグル、観賞魚用水槽壁などの透光性材料、輸送機のボディなどが挙げられる。基材の形状も特に限定されない。
【0022】
本実施形態においては、所定の原料液を基材に塗布し、塗膜にUV光を照射して、基材の表面に親水層を形成することにより、親水性を付与する。原料液は、遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の鋳型となる構造規制剤と、を含む。
【0023】
遷移金属元素Mは、その酸化物が半導体としての性質や、光触媒作用を有する元素であり、具体的には、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を用いる。これらの中でも、Ti、VおよびWは、光触媒作
用が高く、高い親水性を発現しやすい点で特に好ましい。
【0024】
遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドとしては、エタノールなどのアルコールや水に溶解する塩またはアルコキシドが好ましい。例えば、シュウ酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、塩化物、メトキシド、エトキシド、プロポキシドなどが好ましい。遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドは1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
遷移金属元素MがTiである場合、シュウ酸チタン、テトラエトキシチタン、トリイソプロポキシチタンなどを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがWである場合、タングステン酸アンモニウム、塩化タングステンなどを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがCrである場合、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロムなどを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがFeである場合、硝酸鉄、シュウ酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄などを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがMnである場合、硝酸マンガン、シュウ酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガンなどを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがVである場合、バナジン酸アンモニウム、シュウ酸バナジル、硫酸バナジウム、塩化バナジルなどを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがZrである場合、シュウ酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウムなどを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがNbである場合、塩化ニオブなどを用いることが好ましい。
遷移金属元素MがMoである場合、モリブデン酸アンモニウム、塩化モリブデンなどを用いることが好ましい。
【0026】
Si含有アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。これらの中では、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0027】
メソ細孔の鋳型となる構造規制剤には、様々な界面活性剤を用いることができる。界面活性剤は、溶媒中でミセル集合体を形成することが知られている。多孔質体の原料を含む溶液中で、界面活性剤が規則的な配列(例えばヘキサゴナルな配列)でミセル集合体を形成することにより、溶液中での多孔質体の成長が規制され、メソ細孔を有する多孔質体(メソポーラス材料)が生成する。
【0028】
構造規制剤としては、分子量250〜3000、更には分子量300〜1200の有機界面活性剤が好ましい。有機界面活性剤には、例えば、ポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基を有する非イオン界面活性剤を用いることができる。ポリオキシアルキレン基の末端は、水素原子か、あるいはアルコールやフェノールでエーテル化されていることが好ましい。例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル(例えばポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル)や、脂肪酸ポリオキシエチレンエーテル(例えばラウリルポリオキシエチレンエーテル)などの非イオン界面活性剤などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
メソポーラス材料は、少なくとも局所的に見ると、規則的に配列した複数の筒状のメソ細孔を有する。筒状のメソ細孔は、例えばハニカム状に配列しており、ほぼ均一な大きさを有する。メソ細孔の内径は、一般に2〜50nm程度であるが、これに限定されない。メソ細孔の内径は、メソポーラス材料を合成する際に用いられる構造規制剤の種類に依存する。
【0030】
必要に応じて、原料液に溶媒を混合してもよい。溶媒には、水または水とアルコールとの混合物を用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、1〜5個程度の炭素数を有する低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノールなど)を用いることができる。溶媒には、触媒として、酸(例えばHCl)、塩基などを添加してもよい。
【0031】
原料液に含まれる遷移金属元素Mのモル数の、Siのモル数に対する比:M/Siは、0.001≦M/Si≦0.1を満たすことが好ましく、0.01≦M/Si≦0.05を満たすことが更に好ましい。M/Si比が小さすぎると、基材の表面に十分な親水性を付与することができない場合がある。一方、M/Si比が大きすぎると、多孔質体に十分なメソ細孔が形成されない場合がある。
【0032】
メソポーラス材料は、原料液の調製と同時に直ちに生成するが、10℃〜40℃、好ましくは20℃〜30℃で、1時間〜48時間、好ましくは10時間〜24時間、原料液を攪拌することが、均一な原料液を得る上で有効である。
【0033】
原料液に含まれる構造規制剤の量は、例えば水100モルあたり、0.1〜3モルもしくは0.5〜1.5モルが好適である。
原料液に含まれるSi含有アルコキシドの量は、例えば水100モルあたり、3〜40モルもしくは5〜30モルが好適である。
原料液に含まれる遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドの量は、所望のメソポーラス材料におけるM含有量と、原料液に含まれるSi含有アルコキシドの量とに応じて選択すればよい。
原料液に含まれるアルコールの量は、例えば水100モルあたり、10〜600モルもしくは15〜500モルが好適である。
原料液には、例えば水100モルあたり、0.1〜3モルもしくは0.2〜1モルのHClを触媒として添加することが好ましい。
【0034】
次に、図1を参照しながら、基材の表面にメソ細孔を有する多孔質体からなる親水層を形成する工程について説明する。
まず、原料液12を基材11の表面に塗布し、原料液12の塗膜13を形成する。このとき、塗膜13の厚さが均一になるように、スピンコートなどの方法を用いてもよい。また、基材の形状が複雑である場合には、原料液をガスとともにスプレーノズルから放出させ方法(すなわちスプレー塗布法)を行ってもよい。塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば0.5〜5.0μm程度であれば、十分な親水層を基材に形成することができる。なお、構造規制剤が界面活性剤として作用するため、どのような基材の表面であっても、原料液は比較的容易に濡れ広がり、均一な塗膜を形成する。
【0035】
塗膜13中では、構造規制剤14がミセル集合体を形成しており、ミセル集合体の周囲でSi含有アルコキシドの脱アルコール反応が進行する。Si含有アルコキシドの脱アルコール反応によりSi−O−Si結合が生成し、次第にシリカのマトリックスが形成される。その際、遷移金属元素Mはシリカのマトリックスに取り込まれる。
【0036】
シリカの骨格はミセル集合体により規制されるため、メソ細孔を有するシリカ(メソポーラスシリカ)が形成される。ただし、メソ細孔内には、構造規制剤14が充填されているため、そのままでは、十分な親水性は発現しない。遷移金属元素Mが構造規制剤により遮蔽されることなどが、親水性の低下に影響していると考えられる。そこで、メソ細孔内に充填されている構造規制剤14を除去することが必要となる。
【0037】
一般的なメソポーラスシリカの製造工程では、構造規制剤を除去するために、高温焼成が行われる。しかし、基材に形成された塗膜を高温焼成することは現実的ではない。一方、塗膜に含まれる遷移金属元素Mが光触媒作用を有する場合、塗膜にUV光を照射することにより、構造規制剤14を分解し、除去することができる。UV光の照射時間は、UV光の強度に依存するが、太陽光と同程度の強度を有するUV光を用いる場合、例えば24〜30時間で望ましい量の構造規制剤を分解し、除去できる。UV光の波長領域は、遷移金属元素Mの吸収領域に応じて選択すればよい。遷移金属元素MがTiである場合には、波長200nm〜400nmのUV光を発射するUVランプや太陽光を用いることができる。好適な光量の範囲は、例えば5000〜100000μW/cm2である。
【0038】
なお、構造規制剤の分解がすすむと、メソ細孔の孔径が減少する傾向がある。これに伴い、メソ細孔を有する多孔質体のXRDスペクトルにおける(100)面に帰属される回折ピークは高角度側にシフトする。(100)面に帰属される回折ピークは、2θ=2°付近に観測される。このピークの位置が0.3°以上シフトすることにより、構造規制剤が十分に分解していることがわかる。構造規制剤が除去されることにより、メソ細孔を有する多孔質体の親水性は高められる。より高い親水性を実現する観点から、ピークの位置が0.4°以上、高角度側にシフトするまで、塗膜にUV光を照射することが好ましい。
【0039】
光触媒作用が高いほど、UV光照射による構造規制剤の除去が容易となる。また、構造規制剤が除去された後のメソ細孔を有する多孔質体15は、構造規制剤が除去される前に比べて、飛躍的に高い親水性(超親水性)を発現する。
【0040】
親水性を付与する基材の材質は、特に限定されず、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、木材、パルプなど、上記方法によれば、どのような材質にも容易に親水層を付与でき、超親水性を発現させることができる。
【0041】
実施形態2
本実施形態は、透光性材料の曇り止め組成物に関する。透光性材料は、特に限定されないが、例えば、ガラス、プラスチックなどである。例えば、輸送機器車両のフロントガラスには、曇りが生じやすいが、本実施形態の曇り止め組成物を塗布することで、曇りの発生が抑制される。また、眼鏡レンズ、ゴーグル、観賞魚用水槽壁などにも本実施形態の曇り止め組成物が有効に作用する。
眼鏡レンズ、ゴーグル、観賞魚用水槽壁等に用いられるプラスチックとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のアクリレート単位を主成分(例えば50モル%以上)とするプラスチックが挙げられるが、これに限定されない。
【0042】
曇り止め組成物は、実施形態1で説明した原料液と同様の組成を有する。すなわち、曇り止め組成物は、遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の鋳型となる構造規制剤とを含み、遷移金属元素Mは、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む。また、曇り止め組成物の安定性を向上させる観点から、塩酸などを組成物に添加してもよい。曇り止め組成物における塩酸の濃度は、0.1〜1モル/Lが好適である。
【0043】
曇り止め組成物の安定性を向上させる観点から、組成物中に含まれる水の割合を少なく、アルコールの割合を多くすることが望ましい。また、遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドの濃度およびSi含有アルコキシドの濃度は、低めに設定することが望ましい。具体的には、組成物に含まれるSi含有アルコキシドの量は、例えば水100モルあたり、10〜30モルが好適である。組成物に含まれるアルコールの量は、例えば水100モルあたり、300〜500モルが好適である。組成物に含まれる遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドの量は、所望のメソポーラス材料におけるM含有量と、組成物に含まれるSi含有アルコキシドの量とに応じて選択すればよい。ただし、遷移金属元素Mのモル数の、Siのモル数に対する比:M/Siは、小さい方が安定な組成物が得られる。具体的には、0.001≦M/Si≦0.05を満たすことが好ましく、0.001≦M/Si≦0.02を満たすことが更に好ましく、0.001≦M/Si≦0.01を満たすことが特に好ましい。
【0044】
実施形態3
本実施形態は、有機材料からなる基材と、基材の表面に形成された親水層とを含む親水性材料に関する。親水層は、メソ細孔を有する多孔質体からなり、多孔質体は、遷移金属元素MおよびSiを含む複合酸化物からなり、遷移金属元素Mは、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む。有機材料は、高温で焼成すると燃焼し、分解してしまうが、UV光照射に対しては比較的安定である。よって、実施形態1の方法を適用すれば、メソ細孔を有する多孔質体からなり、かつメソ細孔内の構造規制剤を除去した状態の親水層を、有機材料からなる基材の表面に容易に形成することができる。
【0045】
本実施形態の親水性材料の製造法は、有機材料からなる基材を用いること以外、実施形態1の基材の表面に親水性を付与する方法と同様である。有機材料は、特に限定されないが、熱的に不安定な材料でもよく、例えば、プラスチック、木材、パルプなどである。耐熱性の低いプラスチック、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、熱可塑性ポリエステルなどにもメソポーラス材料からなる親水層を形成することができる。有機材料の熱分解温度、融点または熱変形温度(荷重たわみ温度:ASTM−D648)は、構造規制剤の熱分解温度より低くてもよい。また、有機材料の熱分解温度、融点または熱変形温度は、例えば200℃以下、150℃以下もしくは100℃以下でもよい。
【0046】
メソ細孔を有する多孔質体は、遷移金属元素MおよびSiを含む複合酸化物であるため、遷移金属元素Mの作用により、光触媒作用を有する。また、複合酸化物に含まれる遷移金属元素Mのモル数のSiのモル数に対する比:M/Siが0.001≦M/Si≦0.1を満たす範囲であれば、十分な超親水性が発現する。この場合、親水層に対する水の接触角は10°以下となる。
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
《実施例1》
(i)基材
ポリカーボネート基板(1×1cm、厚さ1mm)を基材として用いた。
【0049】
(ii)原料液
下記材料を用いた。
イオン交換水:オルガノ(株)製のカートリッジ純水器G−10C形により精製した水道水
テトラエトキシシラン(TEOS:(C25O)4Si):和光純薬工業(株)製の特級試薬(純度95%)
テトラエトキシチタン(TEOT:(C25O)4Ti):和光純薬工業(株)製の特級試薬(純度95%)
エタノール(C25OH):ナカライテスク(株)製の特級試薬(純度99.5%)
塩酸(HCl):ナカライテスク(株)製の試薬(5mol/L)
構造規制剤:H(C24O)20OC1837:シグマアルドリッチジャパン(株)製の試薬(純度98%)
【0050】
テトラフルオロエチレン製容器中で、構造規制剤、エタノール、イオン交換水および塩酸を混合した。得られた混合物に、TEOTとTEOSとを加え、20℃で20分間攪拌し、原料液を得た。原料液に含まれる材料のモル比は、H2O:(TEOS+TEOT):構造規制剤:HCl:エタノール=100:20:1:0.28:400とした。TEOS:TEOTのモル比は100:2とした。
【0051】
(iii)塗膜(親水層)の形成
原料液を、ポリカーボネート基板上に、スピンコート法で塗布した。具体的には、原料液2mlを基板上に滴下し、その後、基板を4000rpmで1分間回転させた。基板上に均一な厚さ(0.5〜2μm)の塗膜を形成した。塗膜を100℃で20時間乾燥し、親水層を形成した。
【0052】
(iv)UV光照射
乾燥後の親水層に対し、波長200nm〜360nmのUV光を5時間照射した。基板とUV光の光源との距離は10cmとした。光量は、波長360nmで40000μW/cm2であった。光源には(株)東芝製の理化学用水銀灯SHL−100UVを用いた。UV光照射中、冷却装置を用いて基板の温度を30℃に保持した。
【0053】
Si基板(1×1cm、厚さ0.7mm)上に実施例1と同様に親水層を形成した。UV光照射時間と親水層のFT−IRスペクトルとの関係を図2に示す。測定は、日本分光(株)製のFT/IR−6100を用いて行った。バックグラウンドとしてSi基板のスペクトルを測定し、親水層の試料のスペクトルから差し引いた。
【0054】
なお、測定条件を以下に示す。
分解能:4cm-1
アポダイゼーション:TR
アパーチャー径:AUTO
積算回数:50回
測定モード:ABS
【0055】
図2において、UV光照射前には、構造規制剤が有するメチル基またはメチレン基に帰属される吸収が3000cm-1付近に観測される。メチル基またはメチレン基に帰属される吸収は、UV光照射開始後1時間でほぼ消失し、2時間で完全に消失することがわかる。この結果は、Tiの光触媒作用により、構造規制剤が分解され、除去されていることを示唆している。
【0056】
《比較例1》
TEOTを用いずに原料液を調製した。原料液の材料のモル比は、H2O:TEOS:構造規制剤:HCl:エタノール=100:20:1:0.28:400とした。基板にはSi基板を用いた。上記以外、実施例1と同様に、基板上に塗膜を形成し、5時間のUV光照射を行い、親水層を形成した。
【0057】
UV光照射時間と、親水層のFT−IRスペクトルとの関係を図3に示す。図3において、5時間のUV光照射後にも、メチル基またはメチレン基に帰属される吸収が3000cm-1付近に観測され、構造規制剤のほとんどがメソ細孔内に充填されたままであることが示唆される。
【0058】
[評価]
(a)透明性
実施例1および比較例1の親水層が形成されたポリカーボネート基板を図4に示す。基板を目視で観測したところ、UV光照射の前後において、十分な透明性を有していた。
【0059】
(b)XRDスペクトル
実施例1の親水層について、UV光照射を開始する前およびUV光を5時間照射した後に、X線回折(XRD)測定を行った。ここでは、(株)リガク製の測定装置を用い、X線ビームにはCuK線(1.54056オングストローム)を用いた。測定の際、試料は測定用ガラスホルダに設置した。
【0060】
測定条件を以下に示す。
X線管球 管球:Cu
管電圧:30kV
管電流:15mA
スリット 発散スリット:0.5°
散乱スリット:4.2°
受光スリット:0.3mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
測定 ゴニオメータ:RINT2000縦型ゴニオメータ
アタッチメント:標準試料ホルダ
サンプリング幅:0.03°
計数時間:3秒
走査軸:2θ/θ
【0061】
結果を図5に示す。2θ=2°付近の低角側に、メソポーラスシリカの(100)面に帰属される1本の鋭い回折ピークが観測された。また、UV光照射を開始する前の親水層のピーク(a)に比べ、UV光照射後のピーク(b)は、高角側に約0.5°シフトした。このことは、UV光照射により、構造規制剤が分解され、メソ細孔から除去されたことを示している。すなわち、メソ細孔から構造規制剤が除去されたことで、メソ細孔の孔径が若干狭まったことを示している。
【0062】
(c)水との接触角
塗膜を形成する前のポリカーボネート基板(試料A)、UV光照射する前の実施例1の親水層(試料B)、およびUV光照射5時間後の実施例1の親水層(試料C)について、水との接触角の測定を行った。測定は、協和界面科学(株)製のDropMaster300を用いて行った。水には和光純薬工業(株)製の蒸留水(純度99.5%)を用いた。
【0063】
測定条件を以下に示す。
測定温度:20℃
滴下する水の量:3μL
【0064】
測定結果を図6に示す。試料Aの場合、水との接触角は97°であり、試料Aの表面は強い撥水性であることがわかる。一方、試料Bについては、接触角が31°に減少しており、ある程度の親水性が基板に付与されていることがわかる。更に、試料Cについては、接触角が3.5°であり、10°を大きく下回っている。このことから、試料Cの表面が超親水性を発現していることが確認できる。
【0065】
《実施例2》
原料液に含まれるTi元素のモル数の、Si元素のモル数に対する割合:Ti/Siを、0.001≦Ti/Si≦0.1の範囲で変化させたこと以外、実施例1と同様に、ポリカーボネート基板上に親水層(厚さ1〜3μm)を形成した。Ti/Si比は、TEOTとTEOSとの合計モル数を一定とし、TEOT:TEOSのモル比を変化させることにより制御した。Ti/Si比と水との接触角との関係を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
なお、構造規制剤のUV光照射による分解は、遷移金属元素がTiの場合に限らず、光触媒作用を有する元素であれば、どのような遷移金属元素でも進行すると考えられる。よって、Tiの代わりに、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbまたはMoを用いても、同様の超親水性が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えば、様々な工業製品の筐体、壁材、床材、窓材などの建築材料、眼鏡用レンズ、サングラス、ゴーグル、観賞魚用水槽壁などの透光性材料、輸送機のボディなどに超親水性を付与する方法として有用である。
【符号の説明】
【0069】
11 ポリカーボネート基板
12 原料液
13 塗膜
14 構造規制剤
15 メソ細孔を有する多孔質体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の鋳型となる構造規制剤と、を含み、記遷移金属元素Mが、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、原料液を準備する工程と、
(ii)基材の表面に前記原料液の塗膜を形成する工程と、
(iii)前記塗膜にUV光を照射して前記構造規制剤を分解する工程と、
を含む、基材の表面に親水性を付与する方法。
【請求項2】
前記工程(iii)において、前記塗膜のXRDスペクトルにおける2θ=2°付近に観測されるピークの位置が、0.3°以上高角度側にシフトするまで、前記塗膜にUV光を照射する、請求項1記載の基材の表面に親水性を付与する方法。
【請求項3】
遷移金属元素Mの塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の鋳型となる構造規制剤と、を含み、前記遷移金属元素Mが、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、透光性材料の曇り止め組成物。
【請求項4】
前記透光性材料が、輸送機器車両のフロントガラス、眼鏡レンズ、ゴーグルまたは観賞魚用水槽壁である、請求項3記載の曇り止め組成物。
【請求項5】
有機材料からなる基材と、
前記基材の表面に形成された親水層と、を含み、
前記親水層は、メソ細孔を有する多孔質体からなり、
前記多孔質体は、遷移金属元素MおよびSiを含む複合酸化物からなり、前記遷移金属元素Mが、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、親水性材料。
【請求項6】
前記親水層に対する水の接触角が、10°以下である、請求項5記載の親水性材料。
【請求項7】
前記有機材料が、プラスチック、木材、パルプ、織布および不織布よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項5または6記載の親水性材料。
【請求項8】
(i)遷移金属元素の塩またはアルコキシドと、Si含有アルコキシドと、メソ細孔の雛形となる構造規制剤と、を含み、前記遷移金属元素Mが、Ti、W、Cr、Fe、Mn、V、Zr、NbおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、原料液を準備する工程と、
(ii)有機材料からなる基材の表面に前記原料液の塗膜を形成する工程と、
(iii)前記塗膜にUV光を照射して前記構造規制剤を分解する工程と、
を含む、親水性材料の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−136284(P2011−136284A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297652(P2009−297652)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】