説明

基板保持装置および研磨装置

【課題】 リテーナリングが研磨面を押圧する圧力を周方向に沿って制御することができる基板保持装置を提供する。
【解決手段】 基板保持装置としてのトップリング20は、ウェハWを研磨面22aに押圧するトップリング本体200と、トップリング本体200の外周部に設けられ、研磨面22aを押圧するリテーナリング302とを備えている。リテーナリング302は、リテーナリング302の周方向に沿って一様でない所定の圧力分布を形成するように、リテーナリング302が研磨面22aを押圧する圧力を制御する圧力制御機構を備えている。圧力制御機構は、研磨面22aに接触するリング部材408と、独立に圧力制御された流体によりリング部材408を研磨面22に押圧する複数の圧力室410とにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨対象物である基板を保持して研磨面に押圧する基板保持装置、特に半導体ウェハなどの基板を研磨して平坦化する研磨装置において該基板を保持する基板保持装置に関するものである。また、本発明は、かかる基板保持装置を備えた研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスがますます微細化され素子構造が複雑になり、またロジック系の多層配線の層数が増えるに伴い、半導体デバイスの表面の凹凸はますます増え、段差が大きくなる傾向にある。半導体デバイスの製造では薄膜を形成し、パターンニングや開孔を行う微細加工の後、次の薄膜を形成するという工程を何回も繰り返すためである。
【0003】
半導体デバイスの表面の凹凸が増えると、薄膜形成時に段差部での膜厚が薄くなったり、配線の断線によるオープンや配線層間の絶縁不良によるショートが起こったりするため、良品が取れなかったり、歩留まりが低下したりする傾向がある。また、初期的に正常動作をするものであっても、長時間の使用に対しては信頼性の問題が生じる。さらに、リソグラフィ工程における露光時に、照射表面に凹凸があると露光系のレンズ焦点が部分的に合わなくなるため、半導体デバイスの表面の凹凸が増えると微細パターンの形成そのものが難しくなるという問題が生ずる。
【0004】
したがって、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化技術がますます重要になっている。この平坦化技術のうち、最も重要な技術は、化学的機械的研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学的機械的研磨は、研磨装置を用いて、シリカ(SiO)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッド等の研磨面上に供給しつつ半導体ウェハなどの基板を研磨面に摺接させて研磨を行うものである。
【0005】
この種の研磨装置は、研磨パッドからなる研磨面を有する研磨テーブルと、半導体ウェハを保持するための基板保持装置とを備えている。このような研磨装置を用いて半導体ウェハの研磨を行う場合には、基板保持装置により半導体ウェハを保持しつつ、この半導体ウェハを研磨テーブルに対して所定の圧力で押圧する。このとき、研磨テーブルと基板保持装置とを相対運動させることにより半導体ウェハが研磨面に摺接し、半導体ウェハの表面が平坦かつ鏡面に研磨される。
【0006】
このような研磨装置において、研磨面として使用される研磨パッドは弾性を有するため、研磨中の半導体ウェハの外周縁部に加わる押圧力が不均一になり、半導体ウェハの外周縁部のみが多く研磨される、いわゆる「縁だれ」などの不均一な研磨を起こしてしまう場合がある。このような縁だれを防止するため、半導体ウェハの側端部をリテーナリングによって保持するとともに、リテーナリングによって半導体ウェハの外周縁側に位置する研磨面を押圧する構造を備えた基板保持装置も用いられている。
【0007】
ここで、従来のリテーナリングは、周方向の全長にわたって均等に研磨面を押圧するように構成されている。しかしながら、上述したように、研磨面として使用される研磨パッドは弾性を有するため、研磨テーブルの回転方向の上流側に位置するリテーナリングの最外周において、研磨パッドの弾性変形による抵抗が極端に大きくなる。このため、リテーナリングが研磨テーブルの回転方向の下流側に押され、リテーナリングに傾きが生じる。従来の基板保持装置は、このようなリテーナリングの傾きが生じても、リテーナリングが研磨面を押圧する圧力を大きくすることで、半導体ウェハが基板保持装置から飛び出すことを防止しており、また、リテーナリングの傾きによる研磨プロファイルの不均一は、半導体ウェハの回転による平均化により解消していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来のリテーナリングでは、研磨パッドの温度と研磨プロファイルの制御性を高めることが難しい。したがって、研磨パッドの温度と研磨プロファイルの制御性をより高めるためには、リテーナリングが研磨面を押圧する圧力を周方向に沿って制御する必要が生じている。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、リテーナリングが研磨面を押圧する圧力を周方向に沿って制御することができる基板保持装置およびかかる基板保持装置を備えた研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、リテーナリングが研磨面を押圧する圧力を周方向に沿って制御することができる基板保持装置が提供される。この基板保持装置は、基板を研磨面に押圧するトップリング本体と、上記トップリング本体の外周部に設けられ、上記研磨面を押圧するリテーナリングとを備えている。上記リテーナリングは、該リテーナリングの周方向に沿って一様でない所定の圧力分布を形成するように、上記リテーナリングが上記研磨面を押圧する圧力を制御する圧力制御機構を備えている。
【0011】
ここで、上記圧力制御機構を、上記研磨面に接触するリング部材と、独立に圧力制御された流体により上記リング部材を上記研磨面に押圧する複数の圧力室とにより構成することができる。あるいは、上記圧力制御機構を、上記研磨面に接触する下面とテーパ面が形成された上面とを有する下リング部材と、上記下リング部材のテーパ面に当接可能なテーパ面が形成された下面を有し、上記テーパ面の当接により上記下リング部材に作用する径方向の力を下向きの力に変える上リング部材とにより構成することができる。また、上記圧力制御機構を、上記研磨面に接触する下面とテーパ面が形成された上面とを有する下リング部材と、上記下リング部材のテーパ面に当接可能なテーパ面が形成された下面を有し、上記テーパ面の当接により上記下リング部材に作用する径方向の力を下向きの力に変える上リング部材と、圧力制御された流体により上記上リング部材を上記研磨面側に押圧する圧力室と、上記上リング部材と接触して該上リング部材の上下方向の移動を規制する規制部材とにより構成することもできる。また、上記圧力制御機構は、上記所定の圧力分布が静止系からみて一定となるように、上記トップリング本体の回転に応じて、上記リテーナリングが上記研磨面を押圧する圧力を制御することが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、リテーナリングが研磨面を押圧する圧力を周方向に沿って制御することができる基板保持装置を備えた研磨装置が提供される。この研磨装置は、上記研磨面を有する回転可能な研磨テーブルと、上述した基板保持装置とを備えている。この場合において、上記基板保持装置の圧力制御機構は、上記研磨テーブルの回転方向の下流側に位置する部分の圧力が上流側に位置する部分の圧力よりも高くなるように、上記リテーナリングが上記研磨面を押圧する圧力を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上述した圧力制御機構によって、リテーナリングの周方向に沿って一様でない所定の圧力分布を形成することができる。例えば、研磨テーブルの回転方向の下流側に位置する部分の圧力が上流側に位置する部分よりも高くなるように、リテーナリングが研磨パッドを押圧する圧力を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る研磨装置の実施形態について図1から図9を参照して詳細に説明する。なお、図1から図9において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態における研磨装置10を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置10は、研磨テーブル12と、支軸14の上端に連結されたトップリングヘッド16と、トップリングヘッド16の自由端に取り付けられたトップリングシャフト18と、トップリングシャフト18の下端に連結された略円盤状のトップリング20とを備えている。
【0016】
研磨テーブル12は、テーブル軸12aを介してその下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、そのテーブル軸12a周りに回転可能になっている。この研磨テーブル12の上面には研磨パッド22が貼付されており、研磨パッド22の表面22aが半導体ウェハWを研磨する研磨面を構成している。
【0017】
なお、市場で入手できる研磨パッドとしては種々のものがあり、例えば、ロデール社製のSUBA800、IC−1000、IC−1000/SUBA400(二層クロス)、フジミインコーポレイテッド社製のSurfin xxx−5、Surfin 000等がある。SUBA800、Surfin xxx−5、Surfin 000は繊維をウレタン樹脂で固めた不織布であり、IC−1000は硬質の発泡ポリウレタン(単層)である。発泡ポリウレタンは、ポーラス(多孔質状)になっており、その表面に多数の微細なへこみまたは孔を有している。
【0018】
トップリングシャフト18は、図示しないモータの駆動により回転するようになっている。このトップリングシャフト18の回転により、トップリング20がトップリングシャフト18周りに回転するようになっている。また、トップリングシャフト18は、上下動機構24によりトップリングヘッド16に対して上下動するようになっており、このトップリングシャフト18の上下動によりトップリング20がトップリングヘッド16に対して上下動するようになっている。なお、トップリングシャフト18の上端にはロータリージョイント25が取り付けられている。
【0019】
トップリング20は、その下面に半導体ウェハWなどの基板を保持できるようになっている。トップリングヘッド16は支軸14を中心として旋回可能に構成されており、下面に半導体ウェハWを保持したトップリング20は、トップリングヘッド16の旋回により半導体ウェハWの受取位置から研磨テーブル12の上方に移動される。そして、トップリング20を下降させて半導体ウェハWを研磨パッド22の表面(研磨面)22aに押圧する。このとき、トップリング20および研磨テーブル12をそれぞれ回転させ、研磨テーブル12の上方に設けられた研磨液供給ノズル(図示せず)から研磨パッド22上に研磨液を供給する。このように、半導体ウェハWを研磨パッド22の研磨面22aに摺接させて半導体ウェハWの表面を研磨する。
【0020】
トップリングシャフト18およびトップリング20を上下動させる上下動機構24は、軸受26を介してトップリングシャフト18を回転可能に支持するブリッジ28と、ブリッジ28に取り付けられたボールねじ32と、支柱30により支持された支持台29と、支持台29上に設けられたACサーボモータ38とを備えている。サーボモータ38を支持する支持台29は、支柱30を介してトップリングヘッド16に固定されている。
【0021】
ボールねじ32は、サーボモータ38に連結されたねじ軸32aと、このねじ軸32aが螺合するナット32bとを備えている。トップリングシャフト18は、ブリッジ28と一体となって上下動するようになっている。したがって、サーボモータ38を駆動すると、ボールねじ32を介してブリッジ28が上下動し、これによりトップリングシャフト18およびトップリング20が上下動する。
【0022】
この研磨装置10は、研磨テーブル12の研磨面22aをドレッシングするドレッシングユニット40を備えている。このドレッシングユニット40は、研磨面22aに摺接されるドレッサ50と、ドレッサ50が連結されるドレッサシャフト51と、ドレッサシャフト51の上端に設けられたエアシリンダ53と、ドレッサシャフト51を回転自在に支持する揺動アーム55とを備えている。ドレッサ50の下部はドレッシング部材50aにより構成され、このドレッシング部材50aの下面には針状のダイヤモンド粒子が付着している。エアシリンダ53は、支柱56により支持された支持台57上に配置されており、これらの支柱56は揺動アーム55に固定されている。
【0023】
揺動アーム55は図示しないモータに駆動されて、支軸58を中心として旋回するように構成されている。ドレッサシャフト51は、図示しないモータの駆動により回転し、このドレッサシャフト51の回転により、ドレッサ50がドレッサシャフト51周りに回転するようになっている。エアシリンダ53は、ドレッサシャフト51を介してドレッサ50を上下動させ、ドレッサ50を所定の押圧力で研磨パッド22の研磨面22aに押圧する。
【0024】
研磨パッド22の研磨面22aのドレッシングは次のようにして行われる。ドレッサ50はエアシリンダ53により研磨面22aに押圧され、これと同時に図示しない純水供給ノズルから純水が研磨面22aに供給される。この状態で、ドレッサ50がドレッサシャフト51周りに回転し、ドレッシング部材50aの下面(ダイヤモンド粒子)を研磨面22aに摺接させる。このようにして、ドレッサ50により研磨パッド22が削り取られ、研磨面22aがドレッシングされる。
【0025】
次に、上述したトップリング20についてより詳細に説明する。図2から図5は、このようなトップリング20の断面図であり、複数の半径方向に沿って切断した図である。
【0026】
図2から図5に示すように、トップリング20は、半導体ウェハWを研磨面22aに対して押圧するトップリング本体200と、研磨面22aを直接押圧するリテーナリング302とから基本的に構成されている。トップリング本体200は、円盤状の上部材300と、上部材300の下面に取り付けられた中間部材304と、中間部材304の下面に取り付けられた下部材306とを備えている。
【0027】
リテーナリング302は、上部材300の外周部に取り付けられている。上部材300は、ボルト308によりトップリングシャフト18に連結されている。また、中間部材304は、ボルト(図示せず)を介して上部材300に固定されており、下部材306はボルト(図示せず)を介して上部材300に固定されている。上部材300、中間部材304、および下部材306は、例えばエンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。
【0028】
下部材306の下面には、半導体ウェハの裏面に当接する弾性膜314が取り付けられている。この弾性膜314は、外周側に配置された環状のエッジホルダ316と、エッジホルダ316の内方に配置された環状のリプルホルダ318,319とによって下部材306の下面に取り付けられている。弾性膜314は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。エッジホルダ316はリプルホルダ318により保持され、リプルホルダ318は複数のストッパ320により下部材306の下面に取り付けられている。リプルホルダ319は複数のストッパ322により下部材306の下面に取り付けられている。
【0029】
図2に示すように、弾性膜314の中央部にはセンター室360が形成されている。リプルホルダ319には、このセンター室360に連通する流路324が形成されており、下部材306には、この流路324に連通する流路325が形成されている。リプルホルダ319の流路324および下部材306の流路325は、図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体が流路325および流路324を通ってセンター室360に供給されるようになっている。
【0030】
リプルホルダ318は、弾性膜314のリプル314bおよびエッジ314cをそれぞれ爪部318b,318cで下部材306の下面に押さえつけるようになっており、リプルホルダ319は、弾性膜314のリプル314aを爪部319aで下部材306の下面に押さえつけるようになっている。
【0031】
図3に示すように、弾性膜314のリプル314aとリプル314bとの間には環状のリプル室361が形成されている。弾性膜314のリプルホルダ318とリプルホルダ319との間には隙間314fが形成されており、下部材306にはこの隙間314fに連通する流路342が形成されている。また、中間部材304には、下部材306の流路342に連通する流路344が形成されている。下部材306の流路342と中間部材304の流路344との接続部分には、環状溝347が形成されている。この下部材306の流路342は、環状溝347および中間部材304の流路344を介して図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がこれらの流路を通ってリプル室361に供給されるようになっている。また、この流路342は、図示しない真空ポンプにも切替可能に接続されており、真空ポンプの作動により弾性膜314の下面に半導体ウェハを吸着できるようになっている。
【0032】
図4に示すように、リプルホルダ318には、弾性膜314のリプル314bおよびエッジ314cによって形成される環状のアウター室362に連通する流路326が形成されている。また、下部材306には、リプルホルダ318の流路326にコネクタ327を介して連通する流路328が、中間部材304には、下部材306の流路328に連通する流路329がそれぞれ形成されている。このリプルホルダ318の流路326は、下部材306の流路328および中間部材304の流路329を介して図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がこれらの流路を通ってアウター室362に供給されるようになっている。
【0033】
図5に示すように、エッジホルダ316は、弾性膜314のエッジ314dを押さえて下部材306の下面に保持するようになっている。このエッジホルダ316には、弾性膜314のエッジ314cおよびエッジ314dによって形成される環状のエッジ室363に連通する流路334が形成されている。また、下部材306には、エッジホルダ316の流路334に連通する流路336が、中間部材304には、下部材306の流路336に連通する流路338がそれぞれ形成されている。このエッジホルダ316の流路334は、下部材306の流路336および中間部材304の流路338を介して図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がこれらの流路を通ってエッジ室363に供給されるようになっている。
【0034】
このように、本実施形態におけるトップリング20においては、弾性膜314と下部材306との間に形成される圧力室、すなわち、センター室360、リプル室361、アウター室362、およびエッジ室363に供給する流体の圧力を調整することにより、半導体ウェハを研磨パッド22に押圧する押圧力を半導体ウェハの部分ごとに調整できるようになっている。
【0035】
図6は、図2に示すリテーナリング302の拡大図である。リテーナリング302は、半導体ウェハの外周縁を保持するものであり、図6に示すように、上部が閉塞された円筒状のシリンダ400と、シリンダ400の上部に取り付けられた保持部材402と、保持部材402によりシリンダ400内に保持される弾性膜404と、弾性膜404の下端部に接続されたピストン406と、ピストン406により下方に押圧されるリング部材408とを備えている。リング部材408の外周面とシリンダ400の下端との間には上下方向に伸縮自在な接続シート420が設けられている。この接続シート420は、リング部材408とシリンダ400との間の隙間を埋めることで研磨液(スラリー)の浸入を防止する役割を持っている。
【0036】
弾性膜314のエッジ(外周縁)314dには、弾性膜314とリテーナリング302とを接続する、上方に屈曲した形状のシール部材422が形成されている。このシール部材422は弾性膜314とリング部材408との隙間を埋めるように配置されており、変形しやすい材料から形成されている。シール部材422は、トップリング本体200とリテーナリング302との相対移動を許容しつつ、弾性膜314とリテーナリング302との隙間に研磨液が浸入してしまうことを防止するために設けられている。本実施形態では、シール部材422は弾性膜314のエッジ314dに一体的に形成されており、断面U字型の形状を有している。
【0037】
ここで、接続シート420やシール部材422を設けない場合は、研磨液がトップリング20内に浸入してしまい、トップリング20を構成するトップリング本体200やリテーナリング302の正常な動作を阻害してしまう。本実施形態によれば、接続シート420やシール部材422によって研磨液のトップリング20への浸入を防止することができ、これによりトップリング20を正常に動作させることができる。なお、弾性膜404、接続シート420、およびシール部材422は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0038】
リング部材408は、ピストン406に当接する上リング部材408aと、研磨面22aに接触する下リング部材408bとに分割されている。この上リング部材408aの外周面および下リング部材408bの外周面には、周方向に延びるフランジ部がそれぞれ形成されている。これらのフランジ部はクランプ430により把持されており、これにより上リング部材408aと下リング部材408bとが締結されている。
【0039】
ここで、弾性膜404は周方向に複数の隔膜(図示せず)を有しており、弾性膜404の内部には周方向に分割された複数の圧力室410が形成されている。この圧力室410の数は3以上であることが好ましい。図6に示すように、保持部材402には、それぞれの圧力室410に連通する流路412が形成されており、シリンダ400の上部には、これらの流路412に連通する流路414が形成されている。さらに、上部材300には、シリンダ400の流路414に連通する流路416が形成されている。それぞれの圧力室410は、保持部材402の流路412、シリンダ400の流路414、および上部材300の流路416を介して図示しない流体供給源に接続されている。
【0040】
各圧力室410に連通する流路412,414,416は互いに独立しており、それぞれの圧力室410に対応して圧力コントローラ(図示せず)が設けられている。このように、各圧力コントローラによって独立に圧力制御された流体が流路412,414,416を通って各圧力室410に供給されるようになっている。したがって、各圧力コントローラにより各圧力室410に供給する流体の圧力を調整することにより、弾性膜404を伸縮させてピストン406を上下動させ、リテーナリング302のリング部材408を所望の圧力で研磨パッド22に押圧することができるようになっている。
【0041】
このように、本実施形態では、複数の圧力室410に供給する流体の圧力を独立に制御することによって、リテーナリング302の周方向に沿って一様でない所定の圧力分布を形成することができる。すなわち、本実施形態においては、リング部材408と、このリング部材を押圧する複数の圧力室410とが、リテーナリング302の周方向に沿って一様でない所定の圧力分布を形成する圧力制御機構として機能している。
【0042】
このような圧力制御機構により、例えば、研磨テーブル12の回転方向の下流側に位置する部分の圧力が上流側に位置する部分よりも高くなるように、リテーナリング302が研磨パッド22を押圧する圧力を制御することができる。この場合には、トップリング20の回転に伴って各圧力室410に供給する流体の圧力を動的に変化させる必要が生じるが、トップリング20の回転速度が高くなると、圧力制御の追従性が低下してくる。このような圧力制御の追従性の低下を防止するために、例えば、各圧力室410に対応して圧力切替弁(図示せず)を設け、圧力切替弁をトップリング20の回転に伴って切り替えることで、予め用意された圧力の流体を各圧力室410に導入するようにしてもよい。
【0043】
図示した例では、弾性膜404としてローリングダイヤフラムを用いている。ローリングダイヤフラムは、屈曲した部分を持つ弾性膜からなるもので、ローリングダイヤフラムで仕切る室の内部圧力の変化等により、その屈曲部が転動することにより室の空間を広げることができるものである。室が広がる際にダイヤフラムが外側の部材と摺動せず、ほとんど伸縮しないため、摺動摩擦が極めて少なくてすみ、ダイヤフラムを長寿命化することができ、また、リテーナリング302が研磨パッド22に与える押圧力を精度よく調整することができるという利点がある。
【0044】
このような構成により、リテーナリング302のリング部材408だけを下降させることができる。したがって、リテーナリング302のリング部材408が摩耗しても、下部材306と研磨パッド22との距離を一定に維持することが可能となる。また、研磨パッド22に接触するリング部材408とシリンダ400とは変形自在な弾性膜404で接続されているため、荷重点のオフセットによる曲げモーメントが発生しない。
【0045】
図6に示すように、上リング部材408aの内側面には縦方向に延びるV字状溝418が均等に複数形成されている。また、下部材306の外周部には、外方に突出する複数のピン349が設けられており、このピン349がリング部材408のV字状溝418に係合するようになっている。V字状溝418内でリング部材408とピン349が相対的に上下方向にスライド可能になっているとともに、このピン349により上部材300および下部材306を介してトップリング本体200の回転がリテーナリング302に伝達され、トップリング本体200とリテーナリング302は一体となって回転する。このような構成により、弾性膜(ローリングダイヤフラム)404のねじれを防止し、弾性膜の寿命を長くすることができる。
【0046】
図7は、本発明の第2の実施形態におけるトップリング1020を示す模式図である。図7に示すように、このトップリング1020のリテーナリング1302は、上リング部材1408aと下リング部材1408bとを有している。図8は、上リング部材1408aと下リング部材1408bの拡大図である。図8に示すように、下リング部材1408bは、研磨面22aに接触する下面1400と、テーパ面1401が形成された上面とを有している。また、上リング部材1408aは、下リング部材1408bのテーパ面1401に当接可能なテーパ面1402が形成された下面を有している。
【0047】
上下動可能なリテーナリング1302は、半径方向にわずかながら移動可能に構成されている。研磨中は、リテーナリング1302と研磨面22aとの間に生じる摩擦力と基板Wを保持するための半径方向の力とがリテーナリング1302に作用する。したがって、研磨中のリテーナリング1302は、研磨テーブル22の回転方向の下流側に常に偏って位置することとなる。本実施形態では、図7および図8に示すように、上リング部材1408aと下リング部材1408bとをテーパ面1402,1401で当接させることにより、リテーナリング1302に作用する半径方向の力Fを下向きの力Fに変換している。
【0048】
このように、本実施形態においては、テーパ面1402を有する上リング部材1408aと、テーパ面1401を有する下リング部材1408bとが、リテーナリング1302の周方向に沿って一様でない所定の圧力分布を形成する圧力制御機構として機能しており、特に、研磨テーブル12の回転方向の下流側に位置する部分の圧力が上流側に位置する部分よりも高くなるように、リテーナリング1302が研磨パッド22を押圧する圧力が制御される。なお、テーパ面1401とテーパ面1402との間に、例えばコロのような転動体を配置してもよい。このようにすれば、よりスムーズに下方向の力を発生させることができる。
【0049】
図9は、本発明の第3の実施形態におけるトップリングの部分拡大図である。図9に示すように、このトップリングのリテーナリング2302は、第1の実施形態におけるリテーナリング302と第2の実施形態におけるリテーナリング1302とを組み合わせたものである。すなわち、リテーナリング2302は、ピストン406に当接する上リング部材2408aと、研磨面22aに接触する下リング部材2408bとに分割されたリング部材2408を備えており、下リング部材2408bは、研磨面22aに接触する下面2400と、テーパ面1401が形成された上面とを有している。また、上リング部材2408aは、下リング部材2408bのテーパ面2401に当接可能なテーパ面2402が形成された下面を有している。
【0050】
第1の実施形態においては、複数の圧力室410が形成されている例を説明したが、本実施形態のリテーナリング1302では、上述した上リング部材2408aおよび下リング部材2408bにより圧力制御機構が構成されるので、必ずしも圧力室410を複数個設ける必要はない。
【0051】
この場合において、上リング部材2408aの上下方向の移動を規制しなければ、上リング部材2408aの上方には圧力室410があるため、上リング部材2408aおよび下リング部材2408bのテーパ面2402,2401の当接によって発生する上下方向の力が圧力室410によって吸収されてしまい、圧力室410によって与えられる以上の力がリング部材2408に働くことがない。そこで、本実施形態では、シリンダ400の内周面に、上リング部材2408aと接触して上リング部材2408aの上下方向の移動を規制する規制部材2500を設けている。例えば摩擦係数の大きなゴムなどを規制部材2500として用いることができる。
【0052】
このような規制部材2500を設けることにより、研磨テーブル22の回転方向の下流側の上リング部材2408aが浮き上がろうとするのを抑制することができる。したがって、リング部材2408aおよび下リング部材2408bのテーパ面2402,2401の当接によって発生する力を圧力室410によって発生する力よりも大きくすることができ、より積極的に研磨テーブル22の回転方向の下流側におけるリテーナリング2302の押圧力を増加させることができる。なお、第2の実施形態と同様にテーパ面2401とテーパ面2402との間に、コロのような転動体を配置してもよい。
【0053】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態における研磨装置を示す図である。
【図2】図1に示す研磨装置のトップリングの断面図である。
【図3】図1に示す研磨装置のトップリングの断面図である。
【図4】図1に示す研磨装置のトップリングの断面図である。
【図5】図1に示す研磨装置のトップリングの断面図である。
【図6】図2に示すトップリングのリテーナリング付近の拡大図である。
【図7】本発明の第2の実施形態におけるトップリングを示す模式図である。
【図8】図7に示すトップリングのリテーナリングの拡大図である。
【図9】本発明の第3の実施形態におけるトップリングの部分拡大図である。
【符号の説明】
【0055】
10 研磨装置
20,1020 トップリング
22 研磨パッド
22a 研磨面
40 ドレッシングユニット
200 トップリング本体
300 上部材
302,1302,2302 リテーナリング
304 中間部材
306 下部材
314,404 弾性膜
400 シリンダ
402 保持部材
406 ピストン
408,2408 リング部材
408a,1408a,2408a 上リング部材
408b,1408b,2408b 下リング部材
1400,2400 下面
1401,1402,2401,2402 テーパ面
2500 規制部材
W 半導体ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を研磨面に押圧するトップリング本体と、前記トップリング本体の外周部に設けられ、前記研磨面を押圧するリテーナリングとを備えた基板保持装置であって、
前記リテーナリングは、該リテーナリングの周方向に沿って一様でない所定の圧力分布を形成するように、前記リテーナリングが前記研磨面を押圧する圧力を制御する圧力制御機構を備えたことを特徴とする基板保持装置。
【請求項2】
前記圧力制御機構は、
前記研磨面に接触するリング部材と、
独立に圧力制御された流体により前記リング部材を前記研磨面に押圧する複数の圧力室と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項3】
前記圧力制御機構は、
前記研磨面に接触する下面とテーパ面が形成された上面とを有する下リング部材と、
前記下リング部材のテーパ面に当接可能なテーパ面が形成された下面を有し、前記テーパ面の当接により前記下リング部材に作用する径方向の力を下向きの力に変える上リング部材と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項4】
前記圧力制御機構は、
前記研磨面に接触する下面とテーパ面が形成された上面とを有する下リング部材と、
前記下リング部材のテーパ面に当接可能なテーパ面が形成された下面を有し、前記テーパ面の当接により前記下リング部材に作用する径方向の力を下向きの力に変える上リング部材と、
圧力制御された流体により前記上リング部材を前記研磨面側に押圧する圧力室と、
前記上リング部材と接触して該上リング部材の上下方向の移動を規制する規制部材と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項5】
前記圧力制御機構は、前記所定の圧力分布が静止系からみて一定となるように、前記トップリング本体の回転に応じて、前記リテーナリングが前記研磨面を押圧する圧力を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の基板保持装置。
【請求項6】
前記研磨面を有する回転可能な研磨テーブルと、
請求項1から5のいずれか一項に記載の基板保持装置と、
を備えたことを特徴とする研磨装置。
【請求項7】
前記基板保持装置の圧力制御機構は、前記研磨テーブルの回転方向の下流側に位置する部分の圧力が上流側に位置する部分の圧力よりも高くなるように、前記リテーナリングが前記研磨面を押圧する圧力を制御することを特徴とする請求項6に記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−324413(P2006−324413A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145566(P2005−145566)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】