説明

基板処理方法及び基板処理システム

【課題】 基板処理中の基板の温度上昇を簡素な方法で抑制する。
【解決手段】 真空容器12内で基板22に対して成膜処理を行う方法である。この方法は、基板22の上面に、熱容量を増加させるための熱容量増加シート46を載置する載置工程と、熱容量増加シート46が載置された基板22を処理領域Sに搬入する搬入工程と、処理領域Sにおいて基板22の下面に成膜処理を施す処理工程と、処理領域Sにおいて処理された基板22を処理領域から搬出する搬出工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に成膜等の処理を施すための基板処理方法及び基板処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面に成膜する方法として、物理蒸着法がある。物理蒸着法では、チャンバ内において成膜材料に加熱、プラズマ照射、或いはイオン照射を行うことによって成膜材料を飛散させ、基板の表面に該成膜材料を付着させて成膜する。このような物理蒸着を行う装置として、例えば特許文献1に、イオンプレーティング装置が開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示されたイオンプレーティング装置は、プラズマを用いて成膜材料を飛散させ、基板の表面に成膜を施すものであるが、成膜中においてはプラズマやルツボ等からの輻射、バイアス電流によるジュール熱、飛散してきた成膜材料が運んで来る潜熱等により基板の温度が上昇する。この温度上昇が著しい場合、成膜に影響を及ぼすおそれがあるため、基板の搬送経路上における成膜領域に冷却装置を設け、背面から基板を冷却している。
【特許文献1】特開2002−60929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したイオンプレーティング装置による成膜方法では、基板の冷却のために冷却装置が必要となり、構成が複雑になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、基板処理中の基板の温度上昇を簡素な方法で抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る基板処理方法は、真空容器内で対向する第1及び第2の主面を有する基板に対して処理を行う基板処理方法である。この方法は、基板の第1の主面上に、熱容量を増加させるための熱容量増加シートを載置する載置工程と、熱容量増加シートが載置された基板を処理領域に搬入する搬入工程と、処理領域において基板の第2の主面に処理を施す処理工程と、処理領域において処理された基板を処理領域から搬出する搬出工程と、を備える。
【0007】
この方法では、基板に熱容量増加シートを載置することで、基板の見かけ上の熱容量を増加させることができる。従って、このように熱容量増加シートが載置された基板を処理領域に搬入し、第2の主面に処理を施すときの、基板の温度上昇を抑制することができる。このとき、基板の第1の主面上に熱容量増加シートを載置するだけであるため、冷却装置を設ける場合に比べて簡素な方法で基板の温度上昇を抑制することができる。
【0008】
処理領域より搬出された基板上から熱容量増加シートを回収する回収工程を更に備え、載置工程において、回収された熱容量増加シートを基板の第1の主面上に載置すると好ましい。このようにすれば、熱容量増加シートの循環利用が図られる。
【0009】
熱容量増加シートはシリコーン樹脂シートであると好ましい。このようにすれば、基板との密着性を高めることができ、基板の温度上昇をより確実に抑制することができる。
【0010】
このとき、熱容量増加シートと基板との間に油分遮蔽層を設ける工程を備えると好ましい。このようにすれば、シリコーン樹脂シートからの油分を油分遮蔽層により遮蔽して、基板の汚染を防止することができる。
【0011】
処理工程における処理が、プラズマを利用した成膜処理であると好ましい。プラズマを利用した成膜処理では、基板の温度が上昇し易いため、このような処理に好適である。
【0012】
本発明に係る基板処理システムは、真空容器内で対向する第1及び第2の主面を有する基板に対して処理を行う基板処理システムである。このシステムは、基板の第1の主面上に、熱容量を増加させるための熱容量増加シートを載置する載置装置と、熱容量増加シートが載置された基板を処理領域に搬入及び搬出する搬送装置と、処理領域において基板の第2の主面に処理を施す処理装置と、処理領域より搬出された基板上から熱容量増加シートを回収する回収装置と、を備える。
【0013】
このシステムでは、載置装置により基板に熱容量増加シートを載置することで、基板の見かけ上の熱容量を増加させることができる。従って、このように熱容量増加シートが載置された基板を搬送装置により処理領域に搬入し、処理装置により第2の主面に処理を施すときの、基板の温度上昇を抑制することができる。このとき、基板の第1の主面上に熱容量増加シートを載置するだけであるため、冷却装置を設ける場合に比べて簡素な方法で基板の温度上昇を抑制することができる。また、搬送装置により処理領域から搬出された基板上から、回収装置により熱容量増加シートを回収することで、熱容量増加シートの再利用を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板処理中の基板の温度上昇を簡素な方法で抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、実施形態に係る成膜システム(基板処理システム)の構成を示す側断面図である。成膜システム10は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティングシステムである。なお、図1には、説明を容易にする為にXYZ直交座標系も示されている。
【0017】
本実施形態の成膜システム10は、真空容器12、搬送装置14、成膜装置(処理装置)16、載置装置18、及び回収装置20を備えている。真空容器12は、成膜材料Maを飛散させて基板22の表面に付着させる成膜室12aと、成膜室12aの上部にX軸方向に沿って設けられ、処理対象である基板22を搬送するための搬送室12bと、を有している。成膜室12aの側壁には、プラズマ源24から照射されるプラズマPを内部へ受け入れるプラズマ口12cと、アルゴンガス等の雰囲気ガスを内部へ導入するためのガス供給口12dと、成膜室12a内の残余ガスを排気する排気口12eとが設けられている。なお、この真空容器12は、導電性の材料からなり、接地電位に接続されている。
【0018】
搬送装置14は、基板22を成膜室12a上部の処理領域Sに搬入及び搬出させるための装置である。搬送装置14は、搬送室12b内に設置された複数の搬送ローラ26を有している。搬送ローラ26は、X軸方向に沿って等間隔で並んでおり、トレー28を介して基板22を支持しつつX軸方向に搬送することができる。なお、基板22としては、例えばガラス基板などが挙げられる。
【0019】
成膜装置16は、プラズマ源24、主陽極30、及び補助陽極32を有している。プラズマ源24は、いわゆる圧力勾配型であり、成膜室12aの側壁のプラズマ口12cに接続されている。プラズマ源24において生成されたプラズマPは、プラズマ口12cから成膜室12a内へ出射される。プラズマPは、プラズマ口12cに設けられた図示しないステアリングコイルによって出射方向が制御される。
【0020】
主陽極30は、成膜材料Maを保持する。主陽極30は、成膜室12a内の下部中央に配置されている。この主陽極30は、プラズマ源24から出射されたプラズマPを成膜材料Maへ導くハース34を有する。ハース34は、接地電位である真空容器12に対して正電位に保たれており、プラズマPを吸引する。このプラズマPが入射するハース34の中央部には、成膜材料Maを装填するための貫通孔が形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔から突出している。
【0021】
成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、ハース34にプラズマPが照射されると、プラズマPからの電流によってハース34が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発して成膜材料粒子Mbが成膜室12a内に飛散する。また、成膜材料MaがITOなどの導電性物質からなる場合、ハース34にプラズマPが照射されると、プラズマPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発し、成膜材料粒子Mbが成膜室12a内に飛散する。成膜室12a内に飛散した成膜材料粒子Mbは、プラズマPによりイオン化され、成膜室12aの上方(Z軸正方向)へ移動し、基板22の下面(第2の主面)に付着する。なお、成膜材料Maは、常に先端部分がハース34から突出するように、主陽極30の下方から押し出される。
【0022】
補助陽極32は、プラズマPを誘導するための電磁石である。補助陽極32は、ハース34の周囲に配置されており、環状の容器36、並びに該容器36内に収容されたコイル38及び永久磁石40を有する。コイル38及び永久磁石40は、コイル38に流れる電流量に応じて、ハース34に入射するプラズマPの向きを制御する。
【0023】
載置装置18は、搬入側のロードロック室44内に設けられている。ロードロック室44は、搬送室12bに接続されており、環状の枠体からなるトレー28に載置された基板22を複数収容する。載置装置18は、このロードロック室44内で、送り出される基板22の上面(第1の主面)に熱容量を増加させるための熱容量増加シート46を載置する。この載置装置18は、Z軸方向に上下動可能であり、熱容量増加シート46を吸着及び放出可能な保持部を有している。
【0024】
熱容量増加シート46は、基板22の見かけ上の熱容量を増加させるものであり、可能な限り熱容量が大きいことが好ましい。この熱容量増加シート46としては、樹脂シート、Al,In,Cuなどの金属箔シート、カーボン繊維などを用いることができる。特に、樹脂シート46は基板22に対する密着性を高めることができるので好ましい。樹脂シートを構成する樹脂としては、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。特に、シリコーン樹脂は耐熱性が高いため好ましく、熱伝導性の観点からは金属微粉末を含む熱伝導性シリコーンであると更に好ましい。熱容量増加シート46の厚さは特に限定されないが、1mm以下であると好ましい。
【0025】
ここで、熱容量増加シート46としてシリコーン樹脂シートを用いるときは、図2に示すように、シリコーン樹脂シート46と基板22との間に油分遮蔽層48を設けると好ましい。油分遮蔽層48としては、ポリイミドシートや、金属膜、SiON膜、SiO膜、Al膜、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜が挙げられる。油分遮蔽層48の厚みは、例えば0.1mm程度である。なお、油分遮蔽層48は、シリコーン樹脂シート46の基板22と接触する側の面に直接設けてもよい。
【0026】
回収装置20は、搬出側のロードロック室54内に設けられている。ロードロック室54は、搬送室12bに接続されており、成膜処理が終わった基板22を収容する。回収装置20は、このロードロック室54内で、受け入れた基板22上に載置された熱容量増加シート46を回収する。この回収装置20は、Z軸方向に上下動可能であり、熱容量増加シート46を吸着及び放出可能な保持部を有している。
【0027】
次に、上記した成膜システム10を用いた本実施形態に係る成膜方法について説明する。まず、主陽極30に配置されたハース34へ成膜材料Maを装着するとともに、ロードロック室44内に、トレー28に搭載された基板22を複数収容する。そして、真空容器12内を真空に保持する。
【0028】
続いて、接地電位にある真空容器12を挟んで、負電圧をプラズマ源24に、正電圧を主陽極30に印加して放電を生じさせ、プラズマPを生成する。プラズマPは、補助陽極32に案内されて主陽極30へ照射される。
【0029】
このようにプラズマPを主陽極30へ照射することで、プラズマPに曝された主陽極30内の成膜材料Maが徐々に加熱される。成膜材料Maが十分に加熱されると、成膜材料Maが昇華し、成膜材料粒子Mbとなって成膜室12a内に飛散する。成膜室12a内に飛散した成膜材料粒子Mbは、成膜室12a内をZ軸方向の正方向に上昇する際、プラズマPによって活性化されてイオン化され、基板22に向けて飛翔する。
【0030】
成膜材料粒子Mbの昇華が安定したら、基板22への成膜を開始する。まず、ロードロック室44内で、トレー28に搭載された基板22上に、載置装置18により熱容量増加シート46を載置する(載置工程)。
【0031】
次に、熱容量増加シート46が載置された基板22を、トレー28を介して搬送装置14により搬送して、成膜室12a上の処理領域Sに搬入する(搬入工程)。そして、この処理領域Sにおいて、飛翔してきた成膜材料粒子Mbにより基板22の下面に成膜を行う(処理工程)。このとき、基板22を搬送しながら成膜してもよく、処理領域Sで基板22の搬送を止めて成膜してもよい。
【0032】
次に、成膜された基板22を処理領域から搬出し、ロードロック室54に収容する(搬出工程)。そして、回収装置20により基板22上から熱容量増加シート46を取り外して回収する(回収工程)。なお、回収した熱容量増加シート46は、冷却後に再度ロードロック室44に搬入し、基板22上に載置して再利用を図ると好ましい。
【0033】
次に、本実施形態に係る成膜方法の作用及び効果について説明する。
【0034】
本実施形態に係る成膜方法では、基板22に熱容量増加シート46を載置することで、基板22の見かけ上の熱容量を増加させることができる。従って、このように熱容量増加シート46が載置された基板22を処理領域Sに搬入し、基板22の下面に処理を施すときの、基板22の温度上昇を抑制することができる。図3は、熱容量増加シート46を載置した場合と載置しない場合とにおける、基板22の温度上昇の様子を模式的に示すグラフである。図3においてラインRで示すように、熱容量増加シート46を載置しない場合は、基板22が処理領域に居る間に、例えば120℃〜140℃程度まで基板22の表面温度が上昇していた。これに対し、熱容量増加シート46を載置した場合は、ラインLで示すように、基板22の温度上昇を40℃程度抑制することができる。従って、成膜への悪影響を防止することができる。
【0035】
また、基板22の上面に熱容量増加シート46を載置するだけであるため、冷却装置を設ける場合に比べて簡素な方法で基板22の温度上昇を抑制することができる。
【0036】
また、処理領域Sより搬出された基板22上から熱容量増加シート46を回収し、回収された熱容量増加シート46を基板22上に載置することで、熱容量増加シート46の循環利用が図られる。
【0037】
また、熱容量増加シート46としてシリコーン樹脂シートを使用することで、基板22との密着性を高めることができ、基板22の温度上昇をより確実に抑制することができると共に、耐熱性上も問題を生じない。このとき、シリコーン樹脂シート46と基板22との間に油分遮蔽層48を設けることで、シリコーン樹脂シート46からの油分を油分遮蔽層48により遮蔽して、基板22の汚染を防止することができる。
【0038】
また、載置装置18及び回収装置20により熱容量増加シート46の載置及び回収を自動化できるため、作業効率を向上することができる。
【0039】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では基板22に対する処理として成膜処理について説明したが、基板22の温度上昇が問題になるような他の処理にも適用可能である。他の処理としては、例えば、プラズマを用いた表面処理などが挙げられる。
【0040】
また、上記実施形態では、プラズマを用いた成膜処理について説明したが、プラズマ以外にも真空蒸着などの成膜処理にも適用可能である。
【0041】
また、上記実施形態では、ガラス基板に対する処理について説明したが、ガラス基板以外の基板22の処理についても適用可能である。
【0042】
また、上記実施形態では、搬送ローラ26を用いて基板22を搬送する場合について説明したが、他の搬送機構を用いて基板22を搬送する場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態に係る成膜システムの構成を示す側断面図である。
【図2】基板と熱容量増加シートとの間に油分遮蔽層を設けた状態を示す断面図である。
【図3】熱容量増加シートを載置した場合と載置しない場合とにおける、基板の温度上昇の様子を模式的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
10…成膜処理システム、12…真空容器、12a…成膜室、12b…搬送室、14…搬送装置、16…成膜装置、18…載置装置、20…回収装置、22…基板、24…プラズマ源、28…トレー、30…主陽極、32…補助陽極、32…ハース、44,54…ロードロック室、46…熱容量増加シート、48…油分遮蔽層、Ma…成膜材料、Mb…成膜材料粒子、P…、S…処理領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で対向する第1及び第2の主面を有する基板に対して処理を行う基板処理方法であって、
前記基板の前記第1の主面上に、熱容量を増加させるための熱容量増加シートを載置する載置工程と、
前記熱容量増加シートが載置された前記基板を処理領域に搬入する搬入工程と、
前記処理領域において前記基板の前記第2の主面に処理を施す処理工程と、
前記処理領域において処理された前記基板を前記処理領域から搬出する搬出工程と、
を備える基板処理方法。
【請求項2】
前記処理領域より搬出された前記基板上から前記熱容量増加シートを回収する回収工程を更に備え、
前記載置工程において、回収された前記熱容量増加シートを前記基板の前記第1の主面上に載置する請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記熱容量増加シートはシリコーン樹脂シートである請求項1又は2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記熱容量増加シートと前記基板との間に油分遮蔽層を設ける工程を備える請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記処理工程における処理が、プラズマを利用した成膜処理である請求項1〜4のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項6】
真空容器内で対向する第1及び第2の主面を有する基板に対して処理を行う基板処理システムであって、
前記基板の前記第1の主面上に、熱容量を増加させるための熱容量増加シートを載置する載置装置と、
前記熱容量増加シートが載置された前記基板を処理領域に搬入及び搬出する搬送装置と、
前記処理領域において前記基板の前記第2の主面に処理を施す処理装置と、
前記処理領域より搬出された前記基板上から前記熱容量増加シートを回収する回収装置と、
を備える基板処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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