説明

基板収納容器

【課題】 蓋体を取り除くときの抵抗が大きくなってしまうことを避ける基板収納容器を提供する。
【解決手段】 開口を有し、基板を収納可能な容器本体と、容器本体の開口を閉鎖する蓋体と、蓋体に備えられるシール用のガスケットとを有する基板収納容器であって、容器本体に蓋体を取り付けて固定し、初期状態の蓋体の取り外し力をF0とし、72時間経過後の蓋体の取り外し力をF1とするときに、F0が20Nより小さく、かつ、(F1−F0)/F0の値が2.0以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハからなる基板等の物品を収納、保管、搬送、輸送等する際に使用される基板収納容器に用いられるシールガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
基板収納容器としては、正面に開口を有し、内部に複数の基板を一定間隔で整列させて収納する容器本体と、この開口をシール可能に閉鎖する蓋体とを有する基板収納容器が知られている。こうした基板収納容器の蓋体には、外部から操作可能な施錠機構が内蔵されていて、蓋体の内面側に基板を保持するフロントリテーナが取り付けられる。蓋体の側壁には、シール用のガスケットが設けられていて、基板収納容器本体の開口は、蓋体によって、シール可能に閉鎖されている。
蓋体は、加工装置等に設けられる蓋体開閉装置(LP装置)によって、自動で開閉されて、基板のローディングやアンローディングが行なわれる。
【0003】
基板収納容器には、天面に設けられるロボティックフランジや、底面に設けられるコンベアレールなど各種の搬送手段が取り付けられていて、天井搬送やコンベア搬送などの自動搬送が可能となっている。基板を加工や処理する工程内で搬送したり、保管したりすることに使用されている。
【0004】
基板収納容器のガスケットとしては、特許文献1にあるように、嵌合溝に嵌まり込むエンドレス部と、このエンドレス部の一方の側から斜め外方向に延びる突片が容器本体の開口内面と接触してシールを形成するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−68364号公報
【発明の概要】
【発明解決しようとする課題】
【0006】
昨今、半導体ウェーハは、直径300mmから450mmへの移行が検討され始めている。一方、半導体ウェーハに加工する電子回路は、最小線幅が90nmから40nmあるいはこれ以下へと、益々細線化してきていて、半導体ウェーハを基板収納容器に収納して搬送したり、保管したりするときに、半導体ウェーハがパーティクルや有機汚染物等によって汚染されることが無いように、より一層の配慮が必要とされる。
そのために、基板収納容器には、外部から基板収納容器内部にパーティクルや有機汚染物等が侵入しないように、長期にわたって密封できるようにすることが必要とされる。また、大きな開口を備えた容器本体の内周面を均一にシールするには、寸法誤差などから、難しかった。
【0007】
一方で、ガスケット部材のシール性能を十分に発揮させようと強く圧縮していくと、容器本体の開口部内面とガスケットとが面接触してしまうので、貼りつきやすくなってしまうこととなる。また、容器本体に蓋体を閉めたままの状態で長期間保管しておくと、ガスケットがクリープ変形して、シール形成部が線接触から面接触へと変化して接触面積が増加してしまうことで、容器本体に貼りつくこととなり、蓋体を取り除くときの抵抗が大きくなってしまうと言うことも起こる。
このように接触面積が大きくなり貼り付き力が大きくなると、LP装置を使って容器本体から蓋体を取り除くときに、ガスケットの貼り付きによる負荷のために、蓋体の開閉動作が中止されてしまうトラブルが生じることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の基板収納容器は、開口を有し、基板を収納可能な容器本体と、容器本体の開口を閉鎖する蓋体と、蓋体に備えられるシール用のガスケットとを有する基板収納容器であって、容器本体に蓋体を取り付けて固定し、初期状態の蓋体の取り外し力をF0とし、72時間経過後の蓋体の取り外し力をF1とするときに、F0が20Nより小さく、かつ、(F1−F0)/F0の値が2.0以下であることを特徴とする。
【0009】
前記ガスケットは、エンドレス部と、シールを形成する突片とを有し、エンドレス部の少なくとも一方は、蓋体に形成される嵌合溝に嵌入され、エンドレス部の嵌合溝の開口側に位置する他方側には、突片が突出形成されていて、この突片のシール形成面側には、さらに貼り付き防止手段が形成されているか、貼りつき防止策が施されていること、蓋体を閉めるときの前記ガスケットの突片の潰し代が0.6mm以下となるように規制されていること、が好ましい。
【0010】
さらに、前記貼り付き防止手段が、シール形成面と向き合うように突出形成された球状突起部であり、この球状突起部が容器本体のシール形成面と接触するものであること、前記突片が、エンドレス部から水平に伸びる水平部と、水平部の末端から湾曲形成される湾曲部とを有するものであること、も好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガスケットは、シールを形成する突片のシール形成面と向き合う部分に球状突起を貼り付き防止手段を形成しているので、シール性能を維持しながら、ガスケット部材の貼り付きを防止できるようになる。これにより、基板収納容器を長期間に渡って密封状態を維持して、基板の汚染を防止できる。さらに、蓋体開閉装置での蓋体の開閉の際に負荷が増加することがなく、基板を加工するときの生産性が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の基板収納容器を表す分解斜視図である。
【図2】本発明の基板収納容器の蓋体を表す正面図である。
【図3】本発明のガスケットを表す平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図1のB−B線の施錠機構の開錠時の部分拡大断面図である。
【図6】図1のB−B線の施錠機構の施錠時の部分拡大断面図である。
【図7a】ガスケットのシール部の潰し量を定義するためにガスケットの高さを説明する断面図であって、ガスケットがシール形成面と接触する前の高さH0を表す図である。
【図7b】ガスケットのシール部の潰し量を定義するためにガスケットの高さを説明する断面図であって、ガスケットがシール形成面と接触して、シールを形成している状態の高さH1を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、半導体ウェーハを収納する基板収納容器の斜視図であり、基板収納容器は、半導体ウェーハを収納する開口3を前面に備え、内側壁に1対の支持部4を有する容器本体1と、容器本体1の開口3を閉鎖する蓋体2と、半導体ウェーハを保持するフロントリテーナ5とを有していて、蓋体2には、容器本体1に蓋体2を固定する施錠機構6が内蔵されていて、蓋体2の側部にはシール用のガスケット7が設けられている。容器本体1の開口3は、蓋体2によって閉鎖されることで密閉される。
【0014】
容器本体1の天面には、搬送用のロボティックフランジ8が取り付けられていて、底部には、搬送用のコンベアレールを備えたボトムプレート(図示せず)が備えられている。ボトムプレートと容器本体1の底面には、図示せぬ三箇所の位置決め部材が配設されていて、装置の位置決めピンに嵌合して、装置と基板収納容器との芯出しが行われる。
【0015】
蓋体2に内蔵される一対の施錠機構6は、図2に拡大して示すように、外部からアクセス可能な操作孔10と、操作孔10によって回転操作される回転部材11と、回転部材11の動きにあわせて、図の上下方向に移動するラッチバー12と、ラッチバー12の先端に係止されて、蓋体側壁の貫通穴13から容器本体1の係止凹部14(図1)内に出没する係止部15とを有している。
【0016】
図3は、本発明の実施形態のガスケットを表す平面図であり、図4は、図3のA−A線部を切断した状態のガスケットの要部を表す拡大断面図である。ガスケット7は、略矩形をしたエンドレス部16と、エンドレス部16の外側から突出形成されるシール形成用の突片17を有している。エンドレス部16の上面には嵌合用のリブ18a、18bが2列形成されていて、内側のリブ18aの断面は先端が円弧状の柱状に形成され、外側のリブ18bは、傾斜面19を備えた、より大きくて高い断面三角形状に形成されている。
【0017】
突片17は、エンドレス部16の外側上方のコーナー部から、水平に伸びる水平部20と、水平部20の端部から上方斜めに延びる湾曲部21とを有していて、湾曲部21の先端には球状突起22が形成されている。湾曲部21の上方の面には、断面半円状をした貼り付き防止手段23となる球状突起がさらに設けられている。
【0018】
図5、図6は、蓋体に内蔵された施錠機構6の部分拡大断面図で、図5は開錠時の、図6は施錠時の状態を示す。
すなわち、図5は、係止部15が係止凹部14から離間して、蓋体2が容器本体1の開口から僅かに突出するように移動して、蓋体2と容器本体1との間のシールが解消されている状態を表している。なお、24はガスケット収納凹部、25はシール形成面である。
また、図6は、図5の状態から、施錠機構5が施錠されて、係止部15が係止凹部14に挿入されて係合し、蓋体2が容器本体1との間にシールを形成した状態を表している。
【0019】
ここで、本実施形態のガスケットには、シール形成部分となる突片17に、貼り付き防止手段23を形成していて、突片17の接触面積の増加を制限しているので、蓋体が長時間取り付けられた状態であっても、突片が過度にシール形成面と接触して、貼り付くことを防止できる。また、貼り付き防止手段23を、シール形成面25に向き合うように形成しているので、施錠機構が開錠されることで圧縮されていた貼り付き防止手段が元の形状に戻ろうとするので、シール形成面から突片を少し浮かせる状態とすることができ、蓋体を容器本体から取り除くときに、蓋体開閉装置に過度の負荷をかけることが無く、ガスケットの貼り付きによる蓋体開閉装置の停止トラブルを防止でき、基板の生産性を低下させることがない。
【0020】
ガスケット材料は、フッ素系ゴム、EPDM、NBR、ウレタン系ゴムなどのゴムや、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系などの各種の熱可塑性エラストマーなどから形成することができる。好ましくは、こうした原材料の硬度を、JIS6253タイプAの測定方法に従って測定したときの値が、60°以上で80°以下とでき、特には60°以上70°以下の範囲が好ましい。硬度が60°以上であれば、貼り付け防止手段を設けることで、ガスケット部材のシール形成部がクリープ変形によって、容器本体のシール形成面と面接触してしまい、貼り付いてしまうことを防止でき、自動機での蓋体を開閉するときに蓋体開閉動作が停止されることが無い。80°以下であれば、蓋体を容器本体に押し付けるときの反力を装置の容量を超えない110N以下とできるので、現行の蓋体開閉装置での取り扱いが可能とできる。また、60°以上70°以下の範囲とすることで蓋体を繰り返し開閉したときのパーティクルの発生も最小限の増加とできる。
【0021】
また、ガスケットのシール部の潰し量Tを規制することでも、ガスケット部材の貼り付き抵抗が経時的に増大することを防止できる。
ガスケットのシール部の潰し量Tは、H0を、ガスケットがシール形成面と接触する前の高さ、H1を、ガスケットがシール形成面と接触して、シールを形成している状態の高さとするとき、T=H0−H1で定義される。
本実施形態では、蓋体を容器本体に取り付けたときのガスケットの潰し量Tが1mm未満、好ましくは0.6mm以下となるように、ガスケットのシール形成部の突出量を小さくすることで、貼り付き抵抗の経時変化量を著しく低下させることができるようになった。
【0022】
本実施形態では、ガスケットに貼り付き防止手段を形成したが、より効果を出すために、ガスケットのシールを形成する突片や、容器本体のシール形成面に、ダイヤモンドライクカーボンコーティングやシリコン系の樹脂コーティングをしたり、シールを損なわない程度に表面にシボをかけて貼り付きを防止したりすることができる。
【実施例】
【0023】
図4のような断面形状でシール部に球状突起を有し、シール形成部の潰し量をそれぞれ0.2mm、0.3mm、0.4mmとしたものを実施例1、2、3とし、図7に示すように、シール部に球状突起を形成する代わりに、シール部の高さを低くして潰し量を0.6mmとしたものを実施例4、5とした。
これらのガスケットを、硬度が60°と70°と75°のフッ素ゴムから形成し、基板収納容器に組み込み、蓋体を容器本体に施錠した初期状態での蓋体取り外しに必要な荷重を測定し、その後、所定の時間蓋体を閉じた状態で保管した後の蓋体取り外しに必要な荷重を測定した。同様に硬度65°のフッ素ゴムから、潰し代が0.6mmとなるように形成したガスケットを実施例6とした。
また、直径300mmの半導体ウェーハを25枚収納した基板収納容器を蓋体自動開閉装置にセットして、蓋体を繰り返し100回開閉した前後の基板上のパーティクルの発生個数を市販の基板の面研機を用いて確認した。
初期状態の個数と開閉テスト後の個数との比較を行い、パーティクルの増加個数が10個以下の場合を合格とした。
【0024】
比較のため、硬度が65°と70°と85°のフッ素ゴムを材料として、シール部に球状突起を形成していないガスケットを、潰し量が1.5mmと1.0mmとなるように形成したものを比較例1,2、3として、同様に蓋体の取り外しに必要な荷重を測定した。
上記の蓋体取り外しに必要な荷重の経時変化を表1にまとめた。
なお、表1において、蓋体取り外しに必要な荷重の経時変化((F1−F0)/F0))は、2未満であることが好ましい。
【0025】
【表1】

【符号の説明】
【0026】
1 容器本体
2 蓋体
3 開口
4 支持部
5 フロントリテーナ
6 施錠機構
7 ガスケット
8 ロボティックフランジ
10 操作孔
11 回転部材
12 ラッチバー
13 貫通穴
14 係止凹部
15 係止部
16 エンドレス部
17 突片
18a、b リブ
19 傾斜面
20 水平部
21 湾曲部
22 球状突起
23 貼り付き防止手段
24 ガスケット収納凹部
25 シール形成面ガスケット当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有し、基板を収納可能な容器本体と、容器本体の開口を閉鎖する蓋体と、蓋体に備えられるシール用のガスケットとを有する基板収納容器であって、容器本体に蓋体を取り付けて固定し、初期状態の蓋体の取り外し力をF0とし、72時間経過後の蓋体の取り外し力をF1とするときに、F0が20Nより小さく、かつ、(F1−F0)/F0の値が2.0以下であることを特徴とする基板収納容器。
【請求項2】
前記ガスケットは、エンドレス部と、シールを形成する突片とを有し、エンドレス部の少なくとも一方は、蓋体に形成される嵌合溝に嵌入され、エンドレス部の嵌合溝の開口側に位置する他方側には、突片が突出形成されていて、この突片のシール形成面側には、さらに貼り付き防止手段が形成されているか、貼りつき防止策が施されている請求項1に記載の基板収納容器。
【請求項3】
前記蓋体を前記容器本体に取り付けて固定するときに、前記ガスケットの突片の潰し代が0.6mm以下となるように規制されている請求項1又は2に記載の基板収納容器。
【請求項4】
前記貼り付き防止手段が、シール形成面と向き合うように突出形成された突起部であり、この突起部が容器本体のシール形成面と接触するものである請求項1〜3の何れかに記載の基板収納容器。
【請求項5】
前記突片が、エンドレス部から水平に伸びる水平部と、水平部の末端から湾曲形成される湾曲部とを有する請求項2〜4の何れかに記載の基板収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【公開番号】特開2012−49217(P2012−49217A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188012(P2010−188012)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】