説明

基板載置システム、基板処理装置、静電チャック及び基板冷却方法

【課題】大型のガラス基板等の体積固有抵抗値が大きい基板であっても、十分な冷却効果を有し、且つ、コストに見合った基板の冷却効果を得ることができる基板載置システムを提供する。
【解決手段】基板処理装置10の基板冷却システムにおいて、サセプタ12は基板Gを載置し、静電チャック14はサセプタ12の上部に設けられて基板Gを静電吸着し、ガス流路18及び温度調整ガス供給装置19は静電吸着された基板G及び静電チャック14の間の伝熱空間Tに温度調整ガスを供給し、伝熱空間Tの厚さが50μm以下に設定され、ガス流路18及び温度調整ガス供給装置19は、温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスを3Torr(400Pa)以下で伝熱空間Tに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板載置台に載置される比較的大型の基板を冷却する基板載置システム、基板処理装置、静電チャック及び基板冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)をはじめとする比較的大型のFPD(Flat Panel Display)、例えば、第7世代以降のFPDの製造工程において、FPD用の基板に対して所定の処理、例えば、プラズマ処理を施す基板処理装置が知られている。
【0003】
この基板処理装置は、処理室(以下、「チャンバ」という。)内で基板を載置する基板載置台と、該基板載置台と処理空間を隔てて対向するように配置された上部電極とを有する。基板載置台にはプラズマ生成用の高周波電力(RF)が供給されて該基板載置台が下部電極として機能し、チャンバ内の処理空間に導入された処理ガスから高周波電力によってプラズマが生成される。生成されたプラズマは基板載置台に載置される基板に対して所定のプラズマ処理を施す。また、基板載置台の上部には静電チャックが設けられ、基板に所定のプラズマ処理が施される間、静電チャックは基板に静電吸着力を作用させて吸着する。
【0004】
所定のプラズマ処理が施された基板は、プラズマ中の陽イオンの衝突等によって受熱して温度が上昇するため、基板と基板載置台の間に温度調整ガスを流し、該温度調整ガスによって基板の熱を基板載置台へ伝えることにより、基板の温度を所定の温度に維持する。
【0005】
このような温度調整ガスを基板の裏面冷却(Back Cooling)ガス(以下、単に「BCガス」という。)と言うが、通常、BCガスとしては不活性ガスであって熱伝導率の高いヘリウム(He)ガスが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−245563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、FPD用の基板はガラスからなり、体積固有抵抗値が大きいため、当該基板に作用する静電吸着力はジョンソンラーベック力ではなくクーロン力となる。通常、クーロン力はジョンソンラーベック力よりも弱いため、基板を基板載置台(静電チャック)へ向けて強く吸着できず、基板と基板載置台の間のHeガスの圧力を高めることができない。したがって、FPD用の基板にプラズマ処理を施す基板処理装置では、基板と基板載置台の間のHeガスの圧力が約3Torr(400Pa)以下に設定される。
【0008】
Heガスの圧力が約3Torr以下に設定されると、Heガスの流れ状態が粘性流領域から分子流領域へ移行してHeガスの熱流束が大幅に低下する。また、一般にHeガスは高価であるため、FPD用の基板にプラズマ処理を施す基板処理装置において温度調整ガスとしてHeガスを用いると、コストに見合った基板の冷却効果を得ることができない。
【0009】
本発明の目的は、大型のガラス基板等の体積固有抵抗値が大きい基板であっても、十分な冷却効果を有し、且つ、コストに見合った基板の冷却効果を得ることができる基板載置システム、基板処理装置、静電チャック及び基板冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の基板冷却システムは、基板を載置する基板載置台と、該基板載置台における前記基板が載置される面に設けられて前記基板を静電吸着する静電チャックと、前記静電吸着された基板及び前記静電チャックの間の伝熱空間に温度調整ガスを供給するガス供給系とを備える基板冷却システムにおいて、前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、前記ガス供給系は、前記温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスを3Torr以下で前記伝熱空間に供給することを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の基板冷却システムは、請求項1記載の基板冷却システムにおいて、前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の基板冷却システムは、請求項1又は2記載の基板冷却システムにおいて、前記静電チャックにおける前記基板の吸着面には複数の凸部が設けられることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の基板冷却システムは、請求項1又は2記載の基板冷却システムにおいて、前記静電チャックにおける前記基板の吸着面は平滑に形成されることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項5記載の基板処理装置は、基板を収容する収容室と、該収容室内に配置されて前記基板を載置する基板載置台とを備え、前記基板載置台は、該基板載置台における前記基板が載置される面に設けられて前記基板を静電吸着する静電チャックと、前記静電吸着された基板及び前記静電チャックの間の伝熱空間に温度調整ガスを供給するガス供給系とを有する基板処理装置において、前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、前記ガス供給系は、前記温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスを3Torr以下で前記伝熱空間に供給することを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の基板処理装置は、請求項5記載の基板処理装置において、前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の基板処理装置は、請求項5又は6記載の基板処理装置において、前記静電チャックにおける前記基板の吸着面には複数の凸部が設けられることを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の基板処理装置は、請求項5又は6記載の基板処理装置において、前記静電チャックにおける前記基板の吸着面は平滑に形成されることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項9記載の静電チャックは、基板を載置する基板載置台における前記基板が載置される面に設けられて前記基板を静電吸着する静電チャックであって、前記静電吸着された基板との間に伝熱空間を形成し、前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、窒素ガス又は酸素ガスが3Torr以下で前記伝熱空間に温度調整ガスとして供給されることを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の静電チャックは、請求項9記載の静電チャックにおいて、前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする。
【0020】
請求項11記載の静電チャックは、請求項9又は10記載の静電チャックにおいて、前記基板の吸着面には複数の凸部が設けられることを特徴とする。
【0021】
請求項12記載の静電チャックは、請求項9又は10記載の静電チャックにおいて、前記基板の吸着面は平滑に形成されることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成するために、請求項13記載の基板冷却方法は、基板載置台に載置された基板を冷却する基板冷却方法であって、前記基板載置台における前記基板が載置される面に設けられた静電チャックが前記基板を静電吸着する基板吸着ステップと、該静電吸着ステップが実行される間、前記静電吸着された基板及び前記静電チャックの間の伝熱空間に温度調整ガスを供給するガス供給ステップとを有し、前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、前記ガス供給ステップでは、前記温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスが3Torr以下で前記伝熱空間に供給されることを特徴とする。
【0023】
請求項14記載の基板冷却方法は、請求項13記載の基板冷却方法において、前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、静電吸着された基板及び静電チャックの間の伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、温度調整ガスが3Torr以下で伝熱空間に供給されて温度調整ガスの状態は分子流領域へ移行するが、温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスが供給される。窒素ガス及び酸素ガスの分子流領域における熱流束は、ヘリウムガスの分子流領域における熱流束よりも大きい。したがって、窒素ガス及び酸素ガスは静電吸着された基板の熱をヘリウムガスよりも静電チャック(ひいては基板載置台)へ効率よく伝えることができる。また、窒素ガス及び酸素ガスはヘリウムガスよりも安価である。その結果、大型のガラス基板等の体積固有抵抗値が大きい基板であっても、十分な冷却効果を有し、且つ、コストに見合った基板の冷却効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る基板載置システムが適用される基板処理装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図1における静電チャックの吸着面において開口するガス流路近傍の構成を示す拡大断面図である。
【図3】図1における静電チャックの吸着面の変形例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態に係る基板載置システムが適用される基板処理装置の構成を概略的に示す断面図である。この基板処理装置は、例えば、液晶表示装置(LCD)製造用のガラス基板に所定のプラズマ処理を施す。
【0028】
図1において、基板処理装置10は、例えば1辺が数mの矩形のガラス基板(以下、単に「基板」という。)Gを収容する処理室(チャンバ)11を有する。チャンバ11の内部の図中下方には基板Gを載置する基板載置台(サセプタ)12が配置されている。サセプタ12は、例えば、表面がアルマイト処理されたアルミニウムやステンレス等からなる断面凸型の基材13と、該基材13の上部に配された静電チャック14とを有する。静電チャック14は基材13の上部をセラミックス溶射で覆うことによって形成されており、上記セラミック溶射で形成された誘電体層の内部において上部誘電体層と下部誘電体層の間に挟まれた静電電極板15を有する。
【0029】
静電チャック14の内部の静電電極板15には直流電源17が接続されており、静電電極板15に正の直流電圧が印加されると、静電電極板15によって生じた電界に起因して静電チャック14に載置された基板Gが分極する際に該基板Gに発生する電荷を中和するために、基板Gの表面に負電位が発生し、異なる極性の電位の間(基板Gの裏面及び静電電極板15の間)に生じるクーロン力により、基板Gが静電チャック14に静電吸着される。以下、本実施の形態では、静電チャック14における静電吸着された基板Gが対向する面を吸着面14aという。
【0030】
基材13の下部には、基材13及び静電チャック14に載置された基板Gの温度を調節するための冷媒流路(図示しない)が内部に設けられている冷却板36が配置される。この冷媒流路には、例えば、冷却水やガルデン(登録商標)等の冷媒が循環供給され、該冷媒によってサセプタ12が冷却される。
【0031】
また、基材13の内部には温度調整ガスが流れるガス流路18が設けられ、該ガス流路18はチャンバ11の外に設けられている温度調整ガス供給装置19に接続される一方、静電チャック14を貫通して吸着面14aの複数箇所で開口する。温度調整ガス供給装置19が供給する温度調整ガスはガス流路18(ガス供給系)を介して静電吸着された基板G及び静電チャック14の間の伝熱空間T(下記図2参照。)へ供給される。伝熱空間Tへ供給された温度調整ガスは、所定のプラズマ処理が施されて温度が上昇している基板Gの熱を冷却されているサセプタ12へ伝えることにより、基板Gの温度を所定の温度に維持する。
【0032】
図2は、図1における吸着面において開口するガス流路近傍の構成を示す拡大断面図である。
【0033】
図2において、静電チャック14の吸着面14aには複数の凸部が設けられる。具体的には、吸着面14aに複数の円柱状の突起部14bが設けられ、基板Gが静電吸着される際、各突起部14bは基板Gの裏面と当接する。各ガス流路18は各突起部14bの間に存在する非突起面14dにおいて開口する。本実施の形態では、基板Gの裏面及び非突起面14dの間の空間を伝熱空間Tという。ガス流路18の開口部18aから流れ出た温度調整ガスは伝熱空間Tを伝って拡散し、やがて基板Gの裏面全体と接触する。伝熱空間Tの図中上下方向に関する厚さtは、後述する理由により、50μm以下、好ましくは10μm以下に設定される。
【0034】
図1に戻り、基材13には、静電チャック14の周囲を囲むようにリング状シールド部材としてのシールドリング16が設けられており、シールドリング16は、例えば、アルミナ等の絶縁性セラミックスで構成された複数の長尺体を組み合わせて構成される。
【0035】
基材13の側面には、該側面を覆うようにサイドリング状シールド部材としての絶縁リング34が配置されている。絶縁リング34は絶縁性のセラミックス、例えばアルミナで構成されている。また、基材13の下方では、絶縁体35が冷却板36とチャンバ11の底面との間に介在するように配置されている。
【0036】
サセプタ12の基材13には、高周波電力を供給するための高周波電源20が整合器21を介して接続されている。高周波電源20からは高周波電力が基材13へ供給されてサセプタ12は下部電極として機能する。整合器21は、サセプタ12からの高周波電力の反射を低減して高周波電力のサセプタ12への供給効率を最大にする。
【0037】
基板処理装置10では、チャンバ11の内側壁とサセプタ12の側面とによって側方排気路22が形成される。この側方排気路22は排気管23を介して排気装置24に接続されている。排気装置24としてのTMP(Turbo Molecular Pump)、DP(Dry Pump)やMBP(Mechanical Booster Pump)はチャンバ11内を真空引きして減圧する。具体的には、DP若しくはMBPはチャンバ11内を大気圧から中真空状態(例えば、1.3×10Pa(0.1Torr)以下)まで減圧し、TMPはDP又はMBPと協働してチャンバ11内を中真空状態より低い圧力である高真空状態(例えば、1.3×10−3Pa(1.0×10−5Torr)以下)まで減圧する。なお、チャンバ11内の圧力はAPCバルブ(図示しない)によって制御される。
【0038】
チャンバ11の天井部分には、サセプタ12と対向するようにシャワーヘッド25が配置されている。シャワーヘッド25は内部空間26を有するとともに、サセプタ12との間の処理空間Sに処理ガスを吐出する複数のガス孔27を有する。シャワーヘッド25は接地されており、下部電極として機能するサセプタ12と共に一対の平行平板電極を構成する。
【0039】
また、シャワーヘッド25は、ガス供給管28を介して処理ガス供給装置29に接続されている。ガス供給管28には、開閉バルブ30及びマスフローコントローラ31が設けられている。また、チャンバ11の側壁には基板搬出入口32が設けられており、この基板搬出入口32はゲートバルブ33によって開閉自在に構成され、該ゲートバルブ33を介して基板Gが搬出入される。
【0040】
基板処理装置10では、処理ガス供給装置29からガス供給管28を介して処理ガスが供給される。供給された処理ガスは、シャワーヘッド25の内部空間26及びガス孔27を介してチャンバ11の処理空間Sへ導入され、該導入された処理ガスは、高周波電源20からサセプタ12を介して処理空間Sへ供給されるプラズマ生成用の高周波電力によって励起されてプラズマとなる。プラズマ中の陽イオンは、基板Gに向かって引きこまれ、基板Gに対して所定のプラズマ処理を施す。
【0041】
基板処理装置10の各構成部品の動作は、基板処理装置10が備える制御部(図示しない)のCPUが所定のプラズマ処理に対応するプログラムに応じて制御する。
【0042】
なお、基板処理装置10では、サセプタ12、静電チャック14及びガス流路18が基板処理システムを構成する。
【0043】
ところで、基板Gであるガラス基板は体積固有抵抗値が大きいため、基板Gに作用する静電吸着力はジョンソンラーベック力ではなくクーロン力となる。通常、クーロン力はジョンソンラーベック力よりも弱いため、基板Gを強く静電吸着できない。その結果、基板Gの静電チャック14からの浮き上がりを防止するために、図1の基板処理装置10では、伝熱空間Tに供給される温度調整ガスの圧力が比較的低く、具体的には、約3Torr以下に設定される。
【0044】
例えば、温度調整ガスとしてHeガスを用い、該Heガスの供給圧力を3Torrとした場合、圧力によって変化する平均自由行程λは、ヘリウム分子において6.08×10−5mとなり、伝熱空間Tの厚さtを50μmとすると、Heガスの流れ状態の指標である、下記式(1)で示されるクヌーセン数Kは1.216となる。なお、下記式(1)のdは伝熱空間Tの厚さtである。
K = λ / d … (1)
一般に、クヌーセン数Kが0.01よりも小さければ、ガスの流れ状態は粘性流領域にあり、クヌーセン数Kが0.3よりも大きければ、ガスの流れ状態は分子流領域、クヌーセン数Kが0.01〜0.3の領域では、ガスの流れ状態が中間流領域にあると考えられる。したがって、伝熱空間Tの厚さtが50μmであって、供給圧力が3Torrの場合、Heガスの流れ状態は分子流領域にあると考えられる。なお、上記クヌーセン数の境界値を境に明確にガスの流れ状態が分かれることはなく、ガスの流れ状態は上記境界値の近傍で粘性流領域、中間流領域、分子流領域と連続的に変化していく。したがって、ガスの流れ状態はクヌーセン数が0.3を超えると全てのガス分子が一様に同じ分子流領域にあると言う訳ではなく、クヌーセン数が大きくなるにつれ、より分子流領域としての性質が強くなっていくと言うものである。
【0045】
また、Heガス以外の不活性ガス、例えば、酸素(O)ガス、窒素(N)ガス、キセノン(Xe)ガス及びクリプトン(Kr)ガスの供給圧力が3Torrの場合における各ガス分子の平均自由行程は下記表1に示す通りである。
【0046】
【表1】

【0047】
上記式(1)に基づいて求められる伝熱空間Tの厚さtが50μmの場合における各ガスのクヌーセン数Kは下記表2に示すとおりであり、0.3よりも大きいか、ほぼ0.3近傍である。したがって、伝熱空間Tの厚さtが50μmであって、供給圧力が3Torrの場合、Oガス、Nガス、Xeガス及びKrガスのいずれも流れ状態は分子流領域の性質が強い状態にあると考えられる。
【0048】
【表2】

【0049】
ガスの流れ状態が粘性流領域から分子流領域へ移行するにつれて基板Gから静電チャック14への当該ガスによって伝えられる熱の移動量である熱流束が低下するが、分子流領域においてはガスの熱流束qは下記式(2)で示される。
q = αΛp(T−To) … (2)
ここで、αは熱的適応係数、Λは自由分子熱伝達率、pはガスの供給圧力、Tは表面温度(本実施の形態では吸着面14aの温度である。)、Toはガス分子温度(本実施の形態では基板Gによって加熱された温度調整ガスの温度である。)を示し、特に、自由分子熱伝達率Λは下記式(3)で示される。
Λ = (γ+1)/2(γ−1)×(k/2πmT’)1/2 … (3)
ここで、γは比熱比、kは気体定数、mは分子量、T’=(T+To)/2である。
【0050】
熱的適応係数αは各ガスの熱交換効率の指標であり、ガス分子及び該ガス分子が衝突する物体表面(本実施の形態では吸着面14aである。)の状態によって異なり、実験を通じて得られるが、具体的には下記表3に示す通りである(裳華房、物理学選書(11)「真空の物理と応用」、熊谷寛夫、富永五郎、辻泰、堀越源一共著より抜粋した。)。
【0051】
【表3】

【0052】
また、表面温度Tは20℃、ガス分子温度Toは60℃、ガスの供給圧力pは3Torrとすると、各ガスの比熱比γ、分子量mは下記表4に示す通りである。なお、気体定数kはガス種に依存せず一定値であり、その値は8.31[J/k・mol]である。
【0053】
【表4】

【0054】
以上より、上記式(2)及び(3)基づいて求められる伝熱空間Tの厚さtが50μmであって、供給圧力が3Torrの場合の各ガスの熱流束W/mは下記表5に示すとおりである。
【0055】
【表5】

【0056】
なお、伝熱空間Tの厚さtが10μmであって、供給圧力が3Torrの場合における各ガスのクヌーセン数Kは下記表6に示すとおりであり、全てのガスの流れ状態が分子流領域にあると考えられるが、上記式(2)及び(3)に示すように、ガスの熱流束qやガスの自由分子熱伝達率Λを求める際に、伝熱空間Tの厚さtが変数として用いられないため、供給圧力が3Torrであって、各ガスの流れ状態が分子流領域にあれば、各ガスの熱流束は上記表5に示す熱流束と同じである。
【0057】
【表6】

【0058】
上記表5に示すように、分子流領域におけるNガス及びOガスの熱流束は、分子流領域におけるHeガス、Xeガス及びKrガスの熱流束よりも大きい。供給圧力がより小さくなれば、一般にガス分子の平均自由行程λは大きくなってクヌーセン数Kも大きくなるので、ガスの流れ状態は分子流領域に移行しやすくなる。また、伝熱空間Tの厚さtが小さくなれば、クヌーセン数Kが大きくなるので、ガスの流れ状態は分子流領域に移行しやすくなる。
【0059】
したがって、伝熱空間Tの厚さtが50μm以下であって、供給圧力が3Torr以下であれば、Nガス及びOガスの熱流束は、Heガス、Xeガス及びKrガスの熱流束よりも大きいと言える。本発明は上記知見に基づくものである。
【0060】
図1の基板処理装置10において、基板Gに所定のプラズマ処理、例えば、プラズマエッチング処理を基板Gに施す場合、まず、チャンバ11内を高真空状態まで減圧し、基板Gをサセプタ12の静電チャック14へ載置するとともに、シャワーヘッド25からチャンバ11の処理空間Sへ処理ガスを供給し、APCバルブにて処理空間Sの圧力を所定の圧力へ制御し、且つ静電吸着させる(基板吸着ステップ)。このとき、伝熱空間Tへガス流路18から温度調整ガスとしてNガス又はOガスを3Torr以下で供給する(ガス供給ステップ)。伝熱空間Tの厚さtは各突起部14bによって50μm以下に設定される。
【0061】
次いで、高周波電源20からサセプタ12を介して処理空間Sへ高周波電力を供給する。これにより、処理ガスからプラズマが生成され、該プラズマ中の陽イオンやラジカルによって基板Gに所望のプラズマエッチング処理が施される。プラズマエッチング処理が施される間、伝熱空間Tに供給されたNガス又はOガスによって基板Gの熱がサセプタ12へ伝えられ、これにより、基板Gの温度が所定の温度以下に維持される。
【0062】
次いで、プラズマエッチング処理が終了した後、伝熱空間TへのNガス又はOガスの供給を停止し、且つ静電チャック14による基板Gの静電吸着を停止して本処理を終了する。
【0063】
本実施の形態に係る基板処理装置によれば、静電吸着された基板G及び静電チャック14の間の伝熱空間Tの厚さtが50μm以下に設定され、温度調整ガスが3Torr以下で伝熱空間Tに供給されて温度調整ガスの状態は分子流領域へ移行するが、温度調整ガスとしてNガス又はOガスが供給される。伝熱空間Tの厚さtが50μm以下であって、供給圧力が3Torr以下であれば、Nガス又はOガスの熱流束は、Heガスの熱流束よりも大きい。したがって、Nガス又はOガスは静電吸着された基板Gの熱を静電チャック14(ひいてはサセプタ12)へHeガスよりも効率よく伝えることができる。また、Nガス及びOガスはHeガスよりも安価である。その結果、大型のガラス基板等の体積固有抵抗値が大きい基板であっても、十分な冷却効果を有し、且つ、コストに見合った基板Gの冷却効果を得ることができる。
【0064】
また、基板処理装置10では、静電チャック14における吸着面14aには複数の突起部14bが設けられるので、Nガス又はOガスが各突起部14bの間に存在する伝熱空間Tを伝わって吸着面14aの全面に容易に拡散する。その結果、基板Gの全面を確実に均一に冷却することができる。
【0065】
上述した基板処理装置10では、伝熱空間Tの厚さtが50μm以下に設定されるが、好ましくは厚さtが10μm以下に設定されるのがよい。伝熱空間Tの厚さtが10μmの場合の基板Gに作用するクーロン力は、伝熱空間Tの厚さtが50μmの場合のクーロン力の約1.5倍となるため、静電チャック14による基板Gの吸着力を高めることができ、もって、伝熱空間Tへ供給されるNガス又はOガスの圧力によって基板Gが部分的に浮き上がって反るのを防止することができる。その結果、伝熱空間Tの厚みを基板Gの全面に亘って均一に保つことができる。伝熱空間Tへ供給するガスがHeガスの場合であっても厚さtを10μm以下にすれば同様の吸着力を得ることはできるが、表2と表6から分かるように、厚さtが10μmにおけるHeガスのクヌーセン数は他のガスのクヌーセン数よりも大きくなってHeガスでは分子流領域の性質がより顕著に強くなるため、伝熱効果が悪くなる性質もより顕著に現われることが予想される。したがって、Heガスの場合には、例え、静電チャック14による基板Gの吸着力が向上したとしても、基板Gの温度調整という観点からは好ましいとは言えない。
【0066】
なお、伝熱空間Tの厚さtは、本発明の本質に鑑みた場合、0よりも大きな数値であればよいが、現実的な装置の加工技術上の制約が存在するため、所定の数値以上にならざるを得ない。
【0067】
また、上述した基板処理装置10では、温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスを用いる場合について説明したが、微量でも漏洩した温度調整ガスが基板Gの処理に影響を与える懸念がある場合には、基板Gの処理に対してより影響の低い窒素ガスを温度調整ガスとして用いることが好ましい。
【0068】
以上、本発明について、上記実施の形態を用いて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0069】
上述した基板処理装置10における静電チャック14の吸着面14aには複数の凸部が設けられたが、図3に示すように、静電チャック14の吸着面14aを平滑に形成してもよい。この場合、吸着面14a及び基板Gの裏面の間の一部にスペーサー(例えば、厚さが50μm以下のスペーサー)等を介在させて吸着面14a及び基板Gの裏面の間に厚さtの伝熱空間Tを形成する必要があるが、静電チャック14の形成を容易に行うことができ、もって、静電チャック14の製造コストを抑制することができる。
【0070】
また、上述した基板処理装置10は基板Gへ所定のプラズマ処理を施すが、本発明を適用可能な装置はプラズマ処理装置に限られず、例えば、基板Gへ熱処理等の他の処理を施す装置であっても、基板Gを静電吸着し且つ冷却する装置であれば、本発明を適用することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0072】
まず、実施例1として、吸着面14aに複数の突起部14bを有する基板処理装置10において温度調整ガスとしてNガスを用い、伝熱空間Tの厚さtを50μm、伝熱空間TへのNガスの供給圧力を2Torr(267Pa)に設定し、処理ガスとしてOガスを処理空間Sへ導入し、処理空間Sの圧力を50mTorr(6.7Pa)に調整し、高周波電源20から4500Wの高周波電力を処理空間Sへ120秒に亘って供給して基板Gへプラズマエッチング処理を施した場合における基板Gの中心部、周縁部の温度を計測し、下記表7に示した。
【0073】
また、実施例2として、伝熱空間TへのNガスの供給圧力を3Torrに設定した以外は、実施例1と同じ条件で基板Gへプラズマエッチング処理を施した場合における基板Gの中心部、周縁部の温度を計測し、さらに、伝熱空間Tから処理空間SへのNガスの漏れ量も計測して下記表7に示した。
【0074】
さらに、比較例1として、温度調整ガスとしてHeガスを用いた以外は、実施例1と同じ条件で基板Gへプラズマエッチング処理を施した場合における基板Gの中心部、周縁部の温度を計測し、下記表7に示した。
【0075】
また、比較例2として、温度調整ガスとしてHeガスを用い、且つ伝熱空間TへのHeガスの供給圧力を3Torrに設定した以外は、実施例1と同じ条件で基板Gへプラズマエッチング処理を施した場合における基板Gの中心部、周縁部の温度を計測し、さらに、伝熱空間Tから処理空間SへのNガスの漏れ量も計測して下記表7に示した。
【0076】
【表7】

【0077】
表7に示されるように、温度調整ガスとしてNガスを用いた場合(実施例1,2)と、Heガスを用いた場合(比較例1,2)とにおいて、供給圧力が同じであれば、基板Gの温度はほぼ同じであるか、寧ろ、Nガスを用いた場合の方が低いことが分かった。特に、より分子流領域の性質が強くなる、圧力の低い場合(2Torrで実施された実施例1と比較例1)の比較においてはNガスの方が顕著に冷却効果が高いことが分かった。これにより、温度調整ガスとしてNガスを用いれば、コストに見合った基板Gの冷却効果を得ることができるのが分かった。
【0078】
また、漏れ量はHeガスよりもNガスの方が少ない。漏れ量が少ないと、伝熱空間Tにおける温度調整ガスの圧力分布が安定し、基板Gを全面に亘って均一に冷却することができる。Nガスの漏れ量が少ないのは、N分子の分子径がHe分子の分子径よりも大きく、伝熱空間Tの周囲に存在する微小な隙間からN分子が流れ出しにくいためと推察された。この点からも、温度調整ガスとしてHeガスよりもNガスを用いるのが好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0079】
G 基板
T 伝熱空間
10 基板処理装置
11 チャンバ
12 サセプタ
14 静電チャック
14a 吸着面
14b 突起部
18 ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置する基板載置台と、該基板載置台における前記基板が載置される面に設けられて前記基板を静電吸着する静電チャックと、前記静電吸着された基板及び前記静電チャックの間の伝熱空間に温度調整ガスを供給するガス供給系とを備える基板冷却システムにおいて、
前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、
前記ガス供給系は、前記温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスを3Torr(400Pa)以下で前記伝熱空間に供給することを特徴とする基板冷却システム。
【請求項2】
前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする請求項1記載の基板冷却システム。
【請求項3】
前記静電チャックにおける前記基板の吸着面には複数の凸部が設けられることを特徴とする請求項1又は2記載の基板冷却システム。
【請求項4】
前記静電チャックにおける前記基板の吸着面は平滑に形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の基板冷却システム。
【請求項5】
基板を収容する収容室と、該収容室内に配置されて前記基板を載置する基板載置台とを備え、前記基板載置台は、該基板載置台における前記基板が載置される面に設けられて前記基板を静電吸着する静電チャックと、前記静電吸着された基板及び前記静電チャックの間の伝熱空間に温度調整ガスを供給するガス供給系とを有する基板処理装置において、
前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、
前記ガス供給系は、前記温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスを3Torr以下で前記伝熱空間に供給することを特徴とする基板処理装置。
【請求項6】
前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする請求項5記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記静電チャックにおける前記基板の吸着面には複数の凸部が設けられることを特徴とする請求項5又は6記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記静電チャックにおける前記基板の吸着面は平滑に形成されることを特徴とする請求項5又は6記載の基板処理装置。
【請求項9】
基板を載置する基板載置台における前記基板が載置される面に設けられて前記基板を静電吸着する静電チャックであって、
前記静電吸着された基板との間に伝熱空間を形成し、
前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、
窒素ガス又は酸素ガスが3Torr以下で前記伝熱空間に温度調整ガスとして供給されることを特徴とする静電チャック。
【請求項10】
前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする請求項9記載の静電チャック。
【請求項11】
前記基板の吸着面には複数の凸部が設けられることを特徴とする請求項9又は10記載の静電チャック。
【請求項12】
前記基板の吸着面は平滑に形成されることを特徴とする請求項9又は10記載の静電チャック。
【請求項13】
基板載置台に載置された基板を冷却する基板冷却方法であって、
前記基板載置台における前記基板が載置される面に設けられた静電チャックが前記基板を静電吸着する基板吸着ステップと、
該静電吸着ステップが実行される間、前記静電吸着された基板及び前記静電チャックの間の伝熱空間に温度調整ガスを供給するガス供給ステップとを有し、
前記伝熱空間の厚さが50μm以下に設定され、
前記ガス供給ステップでは、前記温度調整ガスとして窒素ガス又は酸素ガスが3Torr以下で前記伝熱空間に供給されることを特徴とする基板冷却方法。
【請求項14】
前記伝熱空間の厚さが10μm以下に設定されることを特徴とする請求項13記載の基板冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−102076(P2013−102076A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245443(P2011−245443)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】