説明

場所打ち杭

【課題】地中熱の有効活用を可能とする地熱交換パイプが設けられた場所打ち杭であって、杭の断面欠損を生じさせることなく、また、鉄筋籠を杭孔に挿入する際に地熱交換パイプが欠損することを良好に防止でき、また吸熱時の冷却現象が発生した場合であっても杭を構成するコンクリートの凍結融解を良好に防止することができる、場所打ち杭を提供する。
【解決手段】地盤を掘削して形成される杭孔内に鉄筋籠2が設置され、次いで、上記杭孔内にコンクリートが打設されることによって形成される場所打ち杭において、外側面の任意の箇所に、鉄筋のコンクリート被り厚を確保するためのスペーサ3が複数設置される鉄筋籠2に、さらに、上記スペーサ3の外側面に直接または間接に接し、上記鉄筋籠2の外周を一周方向または螺旋方向に発泡樹脂盤4を被覆させ、且つ、上記発泡樹脂盤4の外側面において円筒螺旋状に地熱交換パイプ5を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱交換パイプを備える場所打ち杭に関し、より詳しくは、場所打ち杭における鉄筋籠の外周において、地熱交換パイプが取り付けられる場所打ち杭に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の重要性に関する認識が高まるとともに、地熱利用に対する関心が高まってきている。地熱利用の代表的な技術としては、熱交換媒体を流通させるパイプ(以下、「地熱交換パイプ」ともいう)を地盤に埋設し、該地熱交換パイプ中に熱交換媒体を流通させ、地中の熱と熱交換媒体とにおいて熱交換をさせて、地熱を回収する方法が挙げられる。
【0003】
上記地熱交換パイプを地盤中に埋設する方法の1つとして、場所打ち杭の杭内部(即ち、場所打ち杭における鉄筋籠の内部)に地熱交換パイプを設置する技術(以下、「従来技術1」ともいう)が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
あるいは、場所打ち杭における鉄筋籠の外側表面にスペーサを介して、U字形状の地熱交換パイプ(所謂、Uチューブ)を複数設置する技術(以下、「従来技術2」ともいう)が知られている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
以上のように、杭基礎を支持体として、地熱交換パイプを地盤中に設置することにより、別途、地熱交換パイプを設置するための地盤掘削を不要とし、地熱交換パイプの設置費用を削減することができる。また特に、杭の中でも、場所打ち杭は、中規模以上の建造物の基礎とする際にも充分な強度が発揮されるとともに、杭径を大きく設計できるため、既成杭を使用する場合に比べて本数を減らすことが可能であり、また、杭構築に使用される機械の設置場所の制約を受けにくいなどのメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−169985号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】配管技術2007.12、第30頁〜第34頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術1および従来技術2には、以下の問題点があった。即ち、従来技術1では、杭内部に地熱交換パイプが設置されるため、地熱交換パイプの断面積分について杭本体の断面欠損となる。したがって、地熱交換パイプを杭内部に設置しない場合に比べて、実質的に、杭の口径を大きくするか、杭の本数を増やさなければならず、杭構築費用や、構築期間の増大を余議なくされるという問題があった。
【0009】
さらに、地中熱と地熱交換パイプ中を流通する熱交換媒体とで熱交換が行われる場合であって、該熱交換媒体に周囲の熱が吸熱されると、周囲の温度がしばしば0℃以下に低下する。このとき、従来技術1のように、杭内部に地熱交換パイプが設置されていると、該地熱交換パイプの周囲に存在する、杭本体を構成するためのコンクリートが0℃以下に冷却される場合がある。このように冷却されたコンクリートは凍結融解して脆弱となり、その結果、杭の強度を低下させるため、問題であった。
【0010】
一方、従来技術2は、鉄筋籠の外側表面にスペーサを介して熱交換パイプであるUチューブが設置されるため、上記断面欠損の問題が生じることがない。しかしながら、杭本体を構成するコンクリートと直接に接する位置にUチューブが設置されることになるため、従来技術1同様、熱交換媒体に周囲の熱が吸熱されたときの冷却に因るコンクリートの脆弱化の問題があった。
【0011】
また、外側面にUチューブが固定された鉄筋籠を、杭孔に挿入する際に、杭孔内面とUチューブが接触し、Uチューブが破損し易いという問題があった。また、場所打ち杭を構築する場合に、該杭孔を保護する目的で、杭孔内をベントナイト液などの充填液で満たした後、鉄筋籠を挿入する場合がある。この場合、従来技術2では、鉄筋籠に複数のUチューブが備え付けられているため浮力が発生し、挿入時における該鉄筋籠の姿勢が不安定となり、Uチューブと杭孔内面とが接触し易く、Uチューブの破損を招きやすかった。
【0012】
また、地熱交換パイプとしてUチューブを使用する場合には、1本の場所打ち杭に複数のUチューブを設置し、熱交換率を上げることが一般的である。しかしながら、複数のUチューブを設置した場合には、一本の場所打ち杭において、熱交換媒体の出入り用ヘッダーを複数組必要とし、地熱交換パイプとこれに連結されるヒートポンプ装置などからなる地熱交換構造が複雑となり、コストが上がる上、メンテナンスも複雑となり問題であった。
【0013】
これに対し、Uチューブの代替として、従来技術1において使用される、一本のパイプからなる円筒螺旋状のパイプを、従来技術2で使用することも考えられる。しかしながら、この場合、鉄筋籠を杭孔に挿入する際に、当該一本のパイプのどこかに破損が生じると、破損部分から熱交換媒体が漏れ出てしまい、1本の杭において、地熱交換作用が全く発揮されなくなる虞がある。したがって、従来技術2において、Uチューブの代替として、1本のパイプからなる円筒螺旋状のパイプを使用することは実質的に困難であった。しかして、いずれかのUチューブが破損しても、他のUチューブでは熱交換がなされるよう、複数のUチューブを鉄筋籠の外側表面に設置せざるを得なかった。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、地中熱の有効活用を可能とする地熱交換パイプが設けられた場所打ち杭であって、杭の断面欠損を生じさせることなく、また、鉄筋籠を杭孔に挿入する際に地熱交換パイプが欠損することを良好に防止でき、また吸熱時の冷却現象が発生した場合であっても杭を構成するコンクリートの凍結融解を良好に防止することができる、場所打ち杭を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、地熱交換パイプを鉄筋籠の外側面に設置して構成される場所打ち杭において、鉄筋籠と地熱交換パイプの間に発泡樹脂盤を設置し、且つ、円筒螺旋状の地熱交換パイプを選択することによって、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち本発明は、
(1)地盤を掘削して形成される杭孔内に鉄筋籠が設置され、次いで、上記杭孔内にコンクリートが打設されることによって形成される場所打ち杭であって、上記鉄筋籠の外側面の任意の箇所に、鉄筋のコンクリート被り厚を確保するためのスペーサが複数設置されており、上記スペーサの外側面に直接または間接に接し、上記鉄筋籠の外周を一周方向または螺旋方向に被覆する発泡樹脂盤が、上記鉄筋籠の少なくとも一部に設けられており、且つ、上記発泡樹脂盤の外側面において円筒螺旋状に固定される地熱交換パイプが設けられていることを特徴とする場所打ち杭、
(2)上記地熱交換パイプが繋ぎ目のない一本のパイプであることを特徴とする上記(1)に記載の場所打ち杭、
(3)上記鉄筋籠の外側面であって杭孔への挿入方向略先端部において、少なくとも一端が鉄筋籠の外側表面に固定され、且つ、鉄筋籠の表面から外側方向に突出する部分を備える保護用ガイドが複数取り付けられており、鉄筋籠の上面から観察した際に、上記保護用ガイドの最突出部位置が、地熱交換パイプの表面よりも、外側にあることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の場所打ち杭、
(4)上記鉄筋籠の内側面であって杭孔への挿入方向略先端部において、充填液に満たされた杭孔に上記鉄筋籠を挿入する際の挿入方向を定めるための沈降機能を有する舵取り板が複数設けられていることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の場所打ち杭、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、場所打ち杭における鉄筋籠の外側面の任意の箇所に、鉄筋のコンクリート被り厚を確保するためのスペーサが複数設置され、その外側に地熱交換パイプが設置されるため、杭本体の断面積が設計どおり確保され、断面欠損が生じない。しかも、上記スペーサと地熱交換パイプの間には、鉄筋籠の外周を一周方向または螺旋方向に被覆する発泡樹脂盤が設置されているため、以下の2つの効果が発揮される。
【0018】
第一の効果は、地熱交換における吸熱反応で地熱交換パイプの周囲の温度が下がった場合であっても、上記発泡樹脂盤が断熱材の役目を果たし、該発泡樹脂盤に被覆される杭本体を構成するコンクリート部分が冷却され凍結融解することを良好に防止することができる。
【0019】
第二の効果は、地熱交換パイプが外側面に設置された鉄筋籠を杭孔に挿入する際に、地熱交換パイプの一部が杭孔内面に接触した場合であっても、発泡樹脂盤がクッション材の役目を果たし、接触の際の衝撃を吸収することができるため、地熱交換パイプの損傷を良好に防止することができる。したがって、本発明では、地熱交換パイプとして、一本の杭に対し複数のUチューブを設ける必要はなく、一連のパイプからなる円筒螺旋状のパイプを使用することができる。
【0020】
そして、一連のパイプからなる熱交換媒体出入り用ヘッダーは、上記円筒螺旋状のパイプの出入り口における一組のみで足りるため、Uチューブを使用する従来技術2に比べて、地熱交換構造を単純化することができる。
【0021】
以上のとおり、本発明の場所打ち杭であれば、場所打ち杭を設置する際に、同時に地熱交換パイプも埋設することができ、地熱交換パイプを独立に地盤中に設置する場合よりも、低コストで施工することができる上、杭の断面欠損や、地熱交換パイプの損傷などが防止されているため、設計どおりの建造物支持力および地熱交換効率を示すことができる。 上記本発明であれば、上記本発明の場所打ち杭における地熱交換パイプ中を流通する熱交換媒体の熱(冷熱または暖熱)を、直接または間接に、空調設備やヒートポンプなどにおいて利用することによって、地中熱を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】1Aは、本発明に用いられる、周囲に発泡樹脂盤および地熱交換パイプが設けられた鉄筋籠の一実施態様を示す側面図であり、1Bは、1Aの端面図である。
【図2】2Aは、本発明に用いられる、周囲に発泡樹脂盤および地熱交換パイプが設けられた鉄筋籠の異なる実施態様を示す側面図であり、2Bは、帯状の発泡樹脂盤に地熱交換パイプが固定される状態を示す部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。尚、発明を説明するために示す図面は、実際の部材同士のスケールとは異なるスケールで示す場合があるが、本発明を限定するものではない。
図1Aは、本発明に用いられる、地熱交換パイプ付き鉄筋籠1の側面図であり、図1Bは、地熱交換パイプ付き鉄筋籠1の端面図である。本発明の場所打ち杭は、地盤を掘削して形成された杭孔に、地熱交換パイプ付き鉄筋籠1を挿入し、次いで上記杭孔にコンクリートを打つことによって形成される。
【0024】
図1に示す地熱交換パイプ付き鉄筋籠1は、縦方向に伸長する複数の主鉄筋と、略円状に形成される複数の帯鉄筋とからなる両端開口の円筒形状の鉄筋籠2と、鉄筋籠2の外側表面の任意の箇所に設置される複数のスペーサ3と、スペーサ3の外側面に直接または間接に接して鉄筋籠2を被覆する発泡樹脂盤4と、発泡樹脂盤3の表面に円筒螺旋状に設置される地熱交換パイプ5とから構成される。
【0025】
鉄筋籠2は、場所打ち杭に利用される従来公知の鉄筋籠であれば、適宜選択して使用することができる。また、スペーサ3も、従来の場所打ち杭に用いられる鉄筋籠において、コンクリート被り厚を確保するための部材として設けられる一般的なスペーサである。尚、スペーサ3は、後述する発泡樹脂盤4を設置する際の土台となり得るため、外側面において略平坦な面を備えていることが望ましい。ここで本発明の場所打ち杭では、従来技術1のごとく地熱交換パイプが杭内部に設けられることはないので、図1Bにおける両端矢印Aで示されるスペーサの外側面間で確保された空間部分に、コンクリートが充填されて、杭本体が構成される。したがって、従来技術1のような断面欠損の問題が生じない。
【0026】
また、図1に示す鉄筋籠2の外側面には、杭孔に挿入する際の挿入方向略先端部(図1においては下端部)に、保護用ガイド6が、円周方向において均等な配置で4つ、設けられている。保護用ガイド6は、地熱交換パイプ付き鉄筋籠を杭孔に挿入する際に、地熱交換パイプ5が杭孔内面に接触することを避け、地熱交換パイプ付き鉄筋籠を正しい方向に挿入可能とするためのガイドである。したがって地熱交換パイプ付き鉄筋籠1を上面から観察した際に、保護用ガイド6の最膨出部(即ち、最突出部)位置が、地熱交換パイプ5の表面よりも、外側になるよう形成される。これによって、杭孔に地熱交換パイプ付き鉄筋籠1を挿入する際に、挿入方向が斜めに傾いても、まず保護用ガイド6が杭孔内面に接触するため、地熱交換パイプ5の損傷を防止することができる。
【0027】
本発明において保護用ガイドは、任意の構成であり、また設置個数も、特に限定されないが、鉄筋籠外側表面であって同一円周上に少なくとも2以上、好ましくは3以上を設けることにより、上記ガイドの作用を望ましく発揮する。
尚、図1では、両端が鉄筋籠2の外側表面に固定され、且つ、両端部間が鉄筋籠2の表面から外側方向に膨出する棒状または帯状板材からなる保護用ガイド6を示した。ただし、本発明において保護用ガイドの形状はこれに限定されず、鉄筋籠表面に少なくとも一側面が固定され、且つ、外側方向に伸長する板状体などであってもよい。また、地熱交換パイプ付き鉄筋籠を杭孔に挿入する際に、杭孔内面と接触して破損しない程度の強度を備えるものであればいずれの材質によって保護用ガイドを形成してもよい。さらに、杭孔の縦方向の長さが大きい場合には、鉄筋籠の中間領域の任意の箇所に、さらに保護用ガイドを設けて、保護作用を増大させてもよい。かかる場合には、中間領域における保護用ガイドの取付け位置では、発泡樹脂盤の被覆を避ければよい。
【0028】
さらにまた、図1に示す鉄筋籠2の内側面には、杭孔に挿入する際の挿入方向先端部(図1においては下端部)に、沈降機能を有する舵取り板7が、同一円周方向において均等な配置で4つ、設けられている(図1Bでは、ちょうど対面する2つの沈降機能を有する舵取り板7の断面を示している)。本発明において沈降機能を有する舵取り板の設置は、任意であるが、特に、地盤に形成された杭孔に、該杭孔を保護するためのベントナイト液などの充填液を充填させ、次いで、地熱交換パイプ付き鉄筋籠を挿入する場合には、沈降機能を有する舵取り板を設置することが好ましい。即ち、上記充填液で満たされた杭孔に鉄筋籠を挿入する場合、鉄筋籠に浮力が発生し、杭孔にまっすぐに挿入させ難い場合がある。特に、本発明では、鉄筋籠の周囲に、発泡樹脂盤および地熱交換パイプ付きが設けられているので、浮力が大きくなる場合がある。これに対し、沈降機能を有する舵取り板を、鉄筋籠の内側面に設けることによって、充填液が充填された杭孔に地熱交換パイプ付き鉄筋籠を挿入する際にも、挿入方向がぶれにくく、まっすぐ下方に挿入し易くなる上、錘の機能も発揮することができるため、地熱交換パイプが杭孔内面に接触することを防止し、スムーズに鉄筋籠を杭孔に挿入することができる。本発明における沈降機能を有する舵取り板は、上述のように鉄筋籠の挿入方向の舵をとる(補助する)ことが可能なものであれば、その形状および、設置数などは特に限定されず、適宜設計することができる。一般的には、2以上、好ましく3以上の沈降機能を有する舵取り板が、同一円周上において均等に設置される。また沈降機能を有する舵取り板の材質は、錘の機能を発揮できる程度に重量のある材質が選択され、具体的には鉄などで形成されることが望ましい。
【0029】
上述鉄筋籠2の周囲には、スペーサ3の外側面に直接に接して、発泡樹脂盤4が設けられている。発泡樹脂盤4は、鉄筋籠2の周囲であって、保護用ガイド6の取付け位置を除く略全領域を被覆するよう設けられている。ただし、本発明において発泡樹脂盤が設けられる領域は、これに限定されるものではない。本発明において、発泡樹脂盤は、後述する地熱交換パイプと鉄筋籠の間に少なくとも設けられていればよい。これによって発泡樹脂盤が、上述するとおり、地熱交換による吸熱反応により地熱交換パイプの周囲が冷却された際の断熱材としての効果(上記第一の効果)および、地熱交換パイプ付きの鉄筋籠を杭孔に挿入する際、地熱交換パイプの表面が杭孔内面に接触した場合のクッション効果(上記第二の効果)を、発揮することができるからである。
【0030】
本発明において用いられる発泡樹脂盤は、適度な圧縮強度を有し、復元力が良好であるポリプロピレン系発泡樹脂、架橋ポリエチレン系発泡樹脂、ポリカーボネート系発泡樹脂、ポリエステル系発泡樹脂などから構成することができるが、これに限定されない。圧縮強度についても特に限定はされないが、5.0〜80.0t/m程度であることが好ましい。また、発泡樹脂盤の厚みについても、特に限定されず、杭の規模、鉄筋籠表面に対する被覆面積、発泡樹脂盤に求められる断熱材としての効果およびクッション効果などを勘案して、適宜設計することができる。例えば、図1のように、鉄筋籠の表面略全体を覆う場合の発泡樹脂盤の厚みは、杭の規模などにもよるが、10mm〜50mm程度であることが好ましい。尚、発泡樹脂盤を鉄筋籠の表面に被覆させる場合に、発泡樹脂盤を湾曲させ難い場合には、適度に、発泡樹脂盤の表面にスリットを入れて、鉄筋籠の孤に沿わせやすくしてもよい。
【0031】
発泡樹脂盤4は、スペーサ3の外側表面に直接接して、鉄筋籠2の表面を覆って設けられている。この結果、地熱交換パイプ付き鉄筋籠1を杭孔に挿入し、次いで、コンクリートを充填した場合には、鉄筋籠2と発泡樹脂盤4との間にもコンクリートが充填されることによって鉄筋籠2の被り厚が確保され、設計どおりの杭径を備える杭が形成される。ここで、本発明において、図1に例示される鉄筋籠の外周を一周方向に被覆する発泡樹脂盤は、一体の発泡樹脂シートを用いて鉄筋籠を被覆させてもよいが、一般的には、適当な大きさの発泡樹脂シートを複数、準備し、これを鉄筋籠の周囲の所望の領域にそれぞれ設置して、発泡樹脂盤を形成してよい。
【0032】
尚、本発明における発泡樹脂盤は、スペーサの外側表面に直接または間接に接して設けられる。設置方法は、特に限定されず、発泡樹脂盤が固定され、地熱交換パイプを備える鉄筋籠を杭孔に安定に挿入することができ、本発明の場所打ち杭を構築することができればよい。具体的には、スペーサの外側表面に発泡樹脂盤(あるいは適当の大きさの発泡樹脂シート)を直接接し、両者を接着剤などで接着させるか、あるいは、発泡樹脂盤の適当な位置に2箇所の穴を開けて、ロープや針金を該穴に通し、スペーサなどの部材にくくりつけてもよい。また、適当な手段で発泡樹脂盤を設置した後、必要に応じて、発泡樹脂盤の外周であってスペーサと重なる位置において、針金などの締めつけ部材で締めつけてより安定に固定させることができる。
あるいは発泡樹脂盤の異なる設置方法として、スペーサ表面にさらに発泡樹脂盤の土台となるような平板を設置し、該平板に接して発泡樹脂盤を設置させてもよい。このとき、スペーサまたは上記平板の外側表面に、発泡樹脂盤の端部を受けて支持する支持部材を設けてもよい。
【0033】
次に、地熱交換パイプ5について説明する。地熱交換パイプ5は、発泡樹脂盤4およびスペーサ3を介して、鉄筋籠2の周囲に円筒螺旋状に固定して設けられている一連のパイプである。上記パイプは両端が開口し、一方側から熱交換媒体が流れ込み、他方側から熱交換後の熱交換媒体が流出する。一般的には、地熱交換パイプの両端は、熱交換媒体の出入り用ヘッダーに繋がれ、地盤の熱と交換された熱を利用可能なヒートポンプや、給湯設備に直接または間接に接続される。地熱パイプ5は、任意の長さのパイプを繋ぎ合わせて一連のパイプとしてもよいが、繋ぎ合わされるパイプの結合部分は、パイプの折り返し部分8でないことが望ましく、さらには、結合部分がなく、一本のパイプから形成されていることがより望ましい。なぜならば、従来の知見により、略直線状の2本のパイプと、U字に湾曲した繋ぎ用パイプとが、接着または溶着によって連結されて構成されているUチューブでは、連結部分が他の部分に比べ構造的に弱くなり、連結部分から熱交換媒体がもれ出る場合があることが知られている。本発明におけるパイプはU字状ではないため、直接的にUチューブと比較はできないが、少しでもパイプの構造上の欠点となり得る要素を払拭するという観点では、上述のとおり一本のパイプで形成されていることが望ましい。
【0034】
本発明における地熱交換パイプは、従来、地熱交換パイプとして知られるパイプであって、円筒螺旋状に鉄筋籠の周囲に設置することが可能であれば、材質、寸法などは任意である。例えば、地熱交換パイプを構成する材質としては、ポリエチレン系樹脂、架橋ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ナイロン系樹脂、テフロン(登録商標)などのポリフッ化エチレン系樹脂、塩ビ系樹脂などの樹脂製のパイプまたは湾曲可能な金属製のパイプなど用いることができる。特に樹脂製のパイプは錆の問題がなく、結合部分を設けずに、発泡樹脂盤上に円筒螺旋上に設置することが容易なため、望ましい。また、一本の杭に対する地熱交換パイプの長さは、求められる熱交換効率などから適宜決定してよく、図1に示すように鉄筋籠の側面略全周領域に設けられていてもよいし、任意の中間領域にのみ地熱交換パイプが設置されていてもよい。ただし、一本の杭において設置される地熱交換パイプの長さが短すぎると、望ましい地熱交換率が得られない場合があり、一方、長すぎると、一本のパイプ内を流通する熱交換媒体量が多量となり地熱交換媒体を流通させるためのランニングコストが増大する虞がある。したがって、これらの観点からは、地熱交換パイプの長さは、20m〜200m程度であることが望ましい。地熱交換パイプの内径は、特に限定されないが、7mm〜100mm程度であることが好ましく、13mm〜30mm程度であることがより好ましい。また、円筒螺旋状に設置される地熱交換パイプの螺旋ピッチについても特に限定されないが、10cm〜200cm程度であることが好ましい。
【0035】
発泡樹脂盤4の表面に、地熱交換パイプ5を固定する方法は、特に限定されず、たとえば、発泡樹脂盤4に、地熱交換パイプ5の幅方向程度の位置に2箇所の穴を開けて、樹脂製のロープや針金を該穴に通し、地熱交換パイプあるいはそれに接するスペーサにパイプをくくりつけてよい。
【0036】
次に、本発明に用いられる地熱交換パイプ付き鉄筋籠の別の態様を図2に示す。図2に示す地熱交換パイプ付き鉄筋籠11は、発泡樹脂盤14が帯状に形成されており、地熱交換パイプ15と同様に円筒螺旋状に鉄筋籠に巻きつけられていること、および、スペーサ13の設置位置が、発泡樹脂盤14および地熱交換パイプ15の螺旋ピッチにあわせて設けられていること以外は、図1に示す地熱交換パイプ付き鉄筋籠と同様に形成されている。このように、鉄筋籠12の表面に対する発泡樹脂盤15の被覆面積を小さくすることによって、発泡樹脂盤のコストを小さくし、また、地熱交換パイプ付き鉄筋籠を充填液が充填された杭孔に挿入する際の浮力を小さく抑えることができる。尚、地熱交換パイプ15は、図2Bに示すように、予め発泡樹脂盤14に、ロープや針金などの留め部材19によって固定し、その後、スペーサ13を土台として、スペーサ13の外側表面に設置して取り付けられる。
【0037】
尚、帯状の発泡樹脂盤を備える本発明では、上述のとおり、螺旋のピッチに合わせてスペーサを設置して、これを土台とすることができるが、これに限定されず、スペーサの外側表面と略面一の面を備える補助土台を適当な位置に設け、螺旋状に帯状の発泡樹脂盤を巻きつけてもよい。あるいは、スペーサの外側面に接して、鉄筋籠の縦方向に伸長するフラットバーを何本か設置し、該フラットバーに接しながら帯状の発泡樹脂盤を螺旋状に設置することもできる。
【0038】
以上に説明する地熱交換パイプ付き鉄筋籠を、地盤を掘削して形成される杭孔に挿入さし、次いで、該杭孔にコンクリートを充填して、本発明の場所打ち杭が完成される。尚、本発明における地熱交換パイプ中に流通させる熱交換媒体は、従来公知の熱交換媒体を適宜選択して使用することができ、たとえば、水、不凍液、あるいは外気などを熱交換媒体として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1、11 地熱交換パイプ付き鉄筋籠
2、12 鉄筋籠
3、13 スペーサ
4、14 発泡樹脂盤
5、15 地熱交換パイプ
6、16 保護用ガイド
7 沈降機能を有する舵取り板
8、18 折り返し部分
A 両端矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削して形成される杭孔内に鉄筋籠が設置され、次いで、上記杭孔内にコンクリートが打設されることによって形成される場所打ち杭であって、
上記鉄筋籠の外側面の任意の箇所に、鉄筋のコンクリート被り厚を確保するためのスペーサが複数設置されており、
上記スペーサの外側面に直接または間接に接し、上記鉄筋籠の外周を一周方向または螺旋方向に被覆する発泡樹脂盤が、上記鉄筋籠の少なくとも一部に設けられており、且つ、
上記発泡樹脂盤の外側面において円筒螺旋状に固定される地熱交換パイプが設けられていることを特徴とする場所打ち杭。
【請求項2】
上記地熱交換パイプが繋ぎ目のない一本のパイプであることを特徴とする請求項1に記載の場所打ち杭。
【請求項3】
上記鉄筋籠の外側面であって杭孔への挿入方向略先端部において、
少なくとも一端が鉄筋籠の外側表面に固定され、且つ、鉄筋籠の表面から外側方向に突出する部分を備える保護用ガイドが複数取り付けられており、
鉄筋籠の上面から観察した際に、上記保護用ガイドの最突出部位置が、地熱交換パイプの表面よりも、外側にあることを特徴とする請求項1または2に記載の場所打ち杭。
【請求項4】
上記鉄筋籠の内側面であって杭孔への挿入方向略先端部において、充填液に満たされた杭孔に上記鉄筋籠を挿入する際の挿入方向を定めるための沈降機能を有する舵取り板が複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の場所打ち杭。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−141093(P2011−141093A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2448(P2010−2448)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【特許番号】特許第4647709号(P4647709)
【特許公報発行日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(396002851)中村物産有限会社 (22)
【Fターム(参考)】