説明

塑性変形検出器

【課題】鉄骨部材の耐火被覆等を除去することなく、鉄骨部材の塑性変形の発生を検査者に知らせることができる塑性変形検出器を提供する。
【解決手段】耐火被覆10された鉄骨部材9に塑性変形が生じたことを、該変形に伴う発熱から検出する塑性変形検出器11である。前記発熱を伝達可能に前記鉄骨部材に密着若しくは近接配置されるとともに、前記耐火被覆の外に出力端を有する温度ヒューズを備える。前記温度ヒューズは、60〜80℃の融点の溶融材と、該溶融材の溶融によって不可逆的に開動作若しくは閉動作する一対の電気接点とを有し、前記電気接点の導通状態の変化を前記出力端へ伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨造建物の鉄骨部材に塑性変形が生じたことを検出する塑性変形検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
図12に鉄骨造建物3の側面視の概念図を示すが、一般に鉄骨造建物3は、適宜間隔を隔てて配置された鉄骨製の柱部材5,5…と梁部材7,7…とからなるラーメン構造の主架構を備えている。そして、この主架構は、柱部材5と梁部材7とを剛接合して応力を伝達させることによって、地震や強風による水平力に抵抗するようになっている。一方、大地震等により前記抵抗限界を超える水平力が作用した場合には、前記梁部材7の端部9を塑性変形させて地震エネルギーを吸収し、もって建物3の完全倒壊を防ぐようになっている。
【0003】
但し、この梁端部9は一旦塑性変形し塑性ヒンジとなってしまうと、再び地震エネルギーを吸収することはできない。このため、大きな地震発生後には、必ず梁端部9表面を検査者が目視検査して塑性変形の有無および変形の程度を調べ、許容値を超えている場合には当該梁端部9を補修若しくは交換して、建物3の構造健全性を維持している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に鉄骨製梁部材7は耐火被覆や内装材で覆われているため、前記目視検査の際には、この耐火被覆等を除去しなければならず、多大な手間やコストがかかっていた。
【0005】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、鉄骨部材の耐火被覆等を除去することなく、鉄骨部材の塑性変形の発生を検査者に認知させることができる塑性変形検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、耐火被覆された鉄骨部材に塑性変形が生じたことを、該変形に伴う発熱から検出する塑性変形検出器であって、前記発熱を伝達可能に前記鉄骨部材に密着若しくは近接配置されるとともに、前記耐火被覆の外に出力端を有する温度ヒューズを備え、該温度ヒューズは、60〜80℃の融点の溶融材と、該溶融材の溶融によって不可逆的に開動作若しくは閉動作する一対の電気接点とを有し、前記電気接点の導通状態の変化を前記出力端へ伝達することを特徴とする。
【0007】
上記請求項1に示す発明によれば、塑性変形による鉄骨部材の発熱が溶融材へ伝達されて、溶融材温度が融点に達すると溶融材は溶融する。すると、この溶融に伴い、前記電気接点が不可逆的に開き非導通状態となるか若しくは不可逆的に閉じて導通状態となる。この導通状態の変化は前記出力端へ伝達される。この時、この出力端は、耐火被覆の外に存在しているので、もって検査者は耐火被覆を剥がさずに、塑性変形の発生を知ることができる。
【0008】
また、前記電気接点は不可逆的に開動作若しくは閉動作するので、当該動作後の電気接点は動作後の状態を存置し続ける。よって、検査者は、塑性変形発生の事実を、前記動作後の何時においても知ることができる。
【0009】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の塑性変形検出器において、前記電気接点同士をつなぐ導線の一部は前記耐火被覆の外へ引き出される一方、該一部には、前記電気接点の導通状態の変化を検知するための導通検知手段が配されていることを特徴とする。
【0010】
上記請求項2に示す発明によれば、塑性変形による鉄骨部材の発熱が溶融材へ伝達されて、溶融材温度が融点に達すると溶融材は溶融する。すると、この溶融に伴い、前記電気接点が不可逆的に開き非導通状態となるか若しくは不可逆的に閉じて導通状態となる。この導通状態の変化は、この電気接点同士をつなぐ導線の一部に配された導通検知手段によって検知されて、もって検査者は塑性変形の発生を知ることができる。この時、この導通検知手段は、耐火被覆の外に引き出された導線の前記一部に配されているため、検査者は、耐火被覆を剥がさずに、前記導通状態の変化を知ることができる。
【0011】
また、前記電気接点は不可逆的に開動作若しくは閉動作するので、当該動作後の電気接点は動作後の状態を存置し、前記導通検知手段は当該状態を検知し続ける。よって、検査者は、塑性変形発生の事実を、前記動作後の何時においても知ることができる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の塑性変形検出器おいて、前記溶融材は、融点未満温度にて、閉方向に付勢された一対の電気接点間に挟まれて、該電気接点を開状態に保持することを特徴とする。
【0013】
上記請求項3に示す発明によれば、塑性変形による鉄骨部材の発熱が溶融材に伝達されて、溶融材温度が融点に達すると溶融材は溶融する。すると、この溶融材は、電気接点を非導通状態たる開状態に保持しきれずに、当該電気接点は前記付勢方向へ閉動作する結果、導通状態となる。よって、この電気接点の導通状態の変化を前記導通検知手段若しくは前記受信器にて検知して、検査者は前記塑性変形の発生を知ることができる。
【0014】
請求項4に示す発明は、請求項1又は2に記載の塑性変形検出器おいて、前記溶融材は、融点未満温度にて、開方向に付勢された一対の電気接点を閉状態に保持することを特徴とする。
【0015】
上記請求項4に示す発明によれば、塑性変形による鉄骨部材の発熱が溶融材に伝達されて、溶融材温度が融点に達すると溶融材は溶融する。すると、この溶融材は、電気接点を導通状態たる閉状態に保持しきれずに、当該電気接点は前記付勢方向へ開動作する結果、非導通状態となる。よって、この電気接点の導通状態の変化を前記導通検知手段若しくは前記受信器にて検知して、検査者は前記塑性変形の発生を知ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の塑性変形検出器によれば、検査者は、耐火被覆を剥がさずに塑性変形の発生を知ることができるので、塑性変形の検査を、手間をかけずに安価に行うことができる。また、検査者は、塑性変形発生の事実をいつでも知ることができるので、当該事実を確実に把握できて、建物の構造健全性評価の信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明の塑性変形検出器が適用される鉄骨造の建物は、図12に示すように、鉄骨製柱部材5,5…に、鉄骨製梁部材7,7…の両端を剛接合したラーメン構造からなる。この梁部材7の両端部は、梁端部材9を介して前記柱部材5に剛接合されており、地震による水平力が建物3の水平保有耐力を超える場合には、当該梁端部材9に塑性変形させて地震エネルギーを吸収し、もって建物3の完全倒壊を防ぐようになっている。
【0018】
図13に、図12中のXIII部を拡大して示すが、前記梁部材7は上下フランジ7a,7bを備えたH形鋼であり、これに突き合わされる梁端部材9も同形のH形鋼である。但し、この梁端部材9は前記梁部材7よりも早期降伏するように部材断面が設定されているのが通常である。例えば梁端部材9の上下フランジ7a,7bの長手方向の一部には、フランジ幅が狭幅の断面積減少部が設定されている。
【0019】
一方、前記柱部材5には、その外周に上下一対の平面視矩形状ダイアフラム5a,5bが形成されている。そして、この上下のダイアフラム5a,5bに前記梁端部材9の一方の小口端面の上下フランジ9a,9bが突き合わされて溶接固定されるとともに、他方の小口端面は前記梁部材7の小口端面に突き合わされて継手鋼板8により接合され、もって梁端部材9を介して柱部材5に梁部材7が剛接合されている。
【0020】
尚、これら柱梁部材5,7は、火災時の温度上昇を防ぐべく、ロックウールや珪酸カルシウム板等を原料とする耐火被覆(図示無し)により覆われている。
【0021】
本発明の塑性変形検出器は、前記梁端部材9の塑性変形を検出すべく当該梁端部材9に設置される。尚、梁端部材9が前述したようなH形鋼の場合には、その下フランジ9b下面に設置するのが望ましい。これは、前記塑性変形時には、上下フランジ9a,9bに塑性歪みが集中して温度上昇し易く塑性変形を検出し易いためであるのと、上フランジ9a上面には通常床スラブ(図示無し)が取り付けられていて前記塑性変形検出器を取り付け難いためである。
【0022】
図1に、参考例の塑性変形検出器11の縦断面図を示す。この塑性変形検出器11は、所期温度にて不可逆的に状態変化する温度ヒューズを備え、この温度ヒューズは、被検査対象の梁端部材9の下フランジ9b下面に密着配置される。そして、この温度ヒューズの出力端は、前記梁端部材9の耐火被覆10の外に取り出されており、この出力端には、温度ヒューズの前記状態変化信号が出力される。よって、耐火被覆10を剥がさずとも、前記出力端の前記信号を見れば検査者は塑性変形の発生を一見して認知することができる。
【0023】
ここで、参考例の塑性変形検出器11について具体的に説明する。この参考例の塑性変形検出器11は、以下の構成の温度ヒューズである。
【0024】
この温度ヒューズは、概ね梁端部材9とともに耐火被覆10内に埋設されるものであり、被検査対象たる前記下フランジ9b下面に密着された融点未満温度の溶融材13と、この溶融材13に、前記耐火被覆10を貫通して吊下された重錘部材15とから主に構成される。そして、前記状態変化信号としての重錘部材15の落下により、前記塑性変形の発生を報知するようになっている。
【0025】
前記溶融材13は、前記下フランジ9b下面に密着されていて、梁端部材9の塑性変形に伴う発熱が当該溶融材13へと速やかに伝達されるようになっている。また、この密着を確実なものとすべく、前記溶融材13は、下フランジ9b下面に固定された後記溶融材ケーシング17により支持されている。
【0026】
この溶融材13としては、60〜80℃で溶融する材料が望ましい。この理由は、大地震に相当する塑性変形を受けた鉄骨造柱梁仕口部は、そのフランジ9b表面において最大で約50℃の温度上昇が見られる一方、当該フランジ9b表面の平常温度は10℃〜30℃であることから、前記塑性変形時には前記フランジ9b表面温度は60〜80℃に達すると想定されるためである。
【0027】
この温度範囲で溶融する物質としては、ナフタレン(融点:80℃)・パラフィンワックス(融点:47〜75℃)・キャンデリラワックス(植物系)(融点:66〜71℃)・ナイロン(47−49℃:転移点)・ポリエチレンテレフタレート(68℃:転移点)・ポリメタクリル酸メチル(68℃:転移点)等が挙げられる。
【0028】
尚、前記溶融材13への熱伝達の観点からは、溶融材13を下フランジ9b下面に直に接触させるのが望ましいが、輻射熱伝達等により溶融材13へと伝熱する場合には必ずしも接触させる必要はない。
【0029】
また、溶融材13の分量は、その固化状態、すなわち溶融材13の融点未満温度において、後記重錘部材15を吊下できるだけの分量があれば十分であり、例えば後記重錘15aが数cm径の金属球であるならば、数グラム程度で十分である。
【0030】
前記重錘部材15は、球状の重錘15aと、この重錘15aを吊下する重錘懸架線15bとからなる。この重錘懸架線15bは、ピアノ線等の耐火性能を有する鋼線である。そして、その上端が前記溶融材13中に埋設される一方、その下端は耐火被覆10を貫通して耐火被覆10下面から下方へ突出し、当該下端に前記重錘15aが溶接等により固定されている。
【0031】
この重錘懸架線15bを前記溶融材13中に埋設する方法としては、溶融状態の溶融材13に前記懸架線15bを存置させた後、温度を下げて溶融材13を固化させて、常温(非溶融状態)において溶融材13と懸架線15bとが十分に接合されるようにすれば良い。
【0032】
そして、この温度ヒューズを設置後に、この溶融材13が温度上昇して溶融した際には、下端の重錘15aの重量にて懸架線15b上端が溶融材13中から引き抜かれ、もって重錘15aが落下するようになっている。
【0033】
尚、この落下を円滑にすべく、重錘懸架線15bは、図示のような重錘懸架線ガイドチューブ19内に挿抜自在に通されて、前記耐火被覆10を貫通するようになっているのが望ましい。このガイドチューブ19は、その上端開口を後記溶融材ケーシング17の通し孔17aに一致させつつ当該溶融材ケーシング17に溶接固定されている。また、このガイドチューブ19の素材は、耐火被覆10に要求されるのと同等の耐火性能を有するものが好ましく、例えばグラスファイバーチューブなどが適用可能である。チューブ太さは、重錘懸架線15bの通過を妨げない範囲でなるべく細いことが望ましい。
【0034】
前記溶融材ケーシング17は、前述したように下フランジ9b下面から溶融材13が脱落しないようにこれを支持するものであり、上面が開口した鉄製の箱である。そして、この上端縁には鍔状のフランジ部17bが設けられ、前記溶融材13を溶融材ケーシング17の底板17c上に支持した状態にて、前記フランジ部17bが下フランジ9b下面に溶接若しくはボルト止め固定される。また、この底板17cには、前述したように重錘懸架線15bの通し孔17aが形成されている。この溶融材ケーシング17の素材としては、前記溶融材13の溶融温度に十分耐えられる材料で、かつ被検査対象となる下フランジ9b下面に容易に取り付けられるものであれは良く、例えば前記鉄のような金属製が好ましい。
【0035】
尚、図示の如く、梁端部材9の下方に、内装材として天井板6が配される場合には、この天井板6における重錘15a直下の部分には、重錘15aの落下確認用の貫通孔6aを形成するとともに、この重錘15aを収容する有蓋筒状の重錘ケーシング18を固着するのが望ましい。この重錘ケーシング18は、落下した重錘15aが、落下後他の場所に移動しないように拘束して、確実に前記確認用貫通孔6aから目視確認可能にするものである。尚、前記重錘ケーシング18の蓋部18aには、重錘懸架線15bの通し孔が形成されているのは言うまでもない。
【0036】
また、この重錘ケーシング18を備える構成にあっては、前記重錘懸架線15bの一部をバネ定数の低い低剛性部(例えば、コイルバネ)15cに形成しておき、前記懸架線15bに過大な引張力が作用した際には柔軟に伸長して引張力を吸収できるようにしておくのが望ましい。これは、地震時において、前記梁端部材9と前記重錘ケーシング18が固定された天井板6との間に水平又は上下方向の相対変形が生じると、重錘15aが重錘ケーシング18に引っ張られて前記懸架線15bに過大な引張力が作用し、当該懸架線15bの破断若しくは溶融材13からの抜け落ちを起こす虞があるためである。
【0037】
図2は、第1実施形態の塑性変形検出器の縦断面図を示し、図3(a)は図2中のIII−III線矢視の説明図である。図3(b)は、図3(a)と同じ線矢視の説明図であって、図3(a)に示す開状態の電気接点が閉状態となった様子を示す。尚、前記参考例と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0038】
本第1実施形態の塑性変形検出器21は、一対の電気接点23a,23bを有して梁端部材9に設置される温度ヒューズと、前記電気接点23a,23bのそれぞれに一端が接続される一対の導線25a,25bと、これら一対の導線25a,25bの各他端に接続されて前記電気接点23a,23bの導通状態を検出する導通検知手段27とから構成される。
【0039】
この温度ヒューズは、前記梁端部材9の下フランジ9b下面に密着された溶融材13と、融点未満温度の前記溶融材13を挟んで開状態に保持された一対の電気接点23a,23bとからなる。そして、梁端部材9の塑性変形発熱によって溶融材13が溶けて、図3(b)に示すように前記電気接点23a,23bが閉じて導通状態になると、この導通たる状態変化信号を前記導通検知手段としての電導度テスター27が検知して、前記塑性変形の発生を検査者に報知するようになっている。
【0040】
前記溶融材13は、図2に示すように、参考例とほぼ同様の構成である。すなわち、この溶融材13は、梁端部材9の下フランジ9b下面に密着される一方、この下面からの脱落防止として前記溶融材ケーシング17により支持されており、このような状態にて耐火被覆10内に埋設されている。但し、この第1実施形態にあっては、溶融材13の電気伝導度は小さいことが必要である。これは、溶融材13を前記電気接点23a,23bに挟んで開状態にすることにより非導通状態にしているためである。また、この溶融材13の分量は、後記電気接点23a,23bの閉方向の付勢力に抗して電気接点23a,23bを開放し続けることが可能な量で十分である。
【0041】
前記電気接点23a,23bは、洗濯ばさみ状スイッチ23における開閉する一対の腕部23a,23bである。そして、これら腕部23a,23bは、互いの絶縁を保ちつつスイッチ本体23cに開閉可能に支持される一方、前記スイッチ本体23cに設けられたコイルバネ24によって閉方向に付勢されている。そして、これら腕部23a,23b先端が接離することによって、導通若しくは非導通状態に切り換えることができる。尚、塑性変形の検出前においては、これら一対の腕部23a,23bは、前記融点未満温度の溶融材13を挟んで開状態に保持されている。
【0042】
また、これら腕部23a,23bのそれぞれには、前記導線25a,25bの一端が電気的に接続され、これら一対の導線25a,25bの他端は耐火被覆10の外へと引き出されている。そして、これら導線25a,25bの各他端は、電導度テスター27に接続されており、当該電導度テスター27により前記電気接点23a,23bの導通若しくは非導通状態を遠方から監視可能となっている。尚、前記導線25a,25bの各他端を常に電導度テスター27に接続しておく必要はなく、常時はコネクターのみを設け、検査時等必要に応じてコネクターに電導度テスター27を接続して導通検査を行うようにしても良い。
【0043】
図4は、前記第1実施形態の変形例を示す、図3と同じ線矢視の説明図である。尚、前記第1実施形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0044】
前記第1実施形態では、塑性変形発熱に伴って溶融材13が溶融すると、開状態の一対の腕部23a,23bが閉じて塑性変形の発生を報知していたところ、本変形例はこれとは逆に、閉状態の腕部23a,23bが開いて報知する点で相違する。
【0045】
すなわち、一対の前記腕部23a,23bはコイルバネ24aによって開方向に付勢されている一方、前記腕部23a,23b先端を接触させたまま融点未満温度の溶融材13中に埋設されて、これにより電気接点23a,23bは閉状態に保持されている。そして、梁端部材9の塑性変形発熱に伴って溶融材13が溶融すると、前記腕部23a,23b先端が開いて非導通状態となり、この状態変化信号を前記電導度テスター27により検知して、前記塑性変形の発生を検査者に報知するようになっている。
【0046】
尚、前記第1実施形態の洗濯ばさみ状スイッチの温度ヒューズに代えて、図5の縦断面図にて示すような、導線の一部が熱にて溶断して電気回路を遮断する電気ヒューズ式を用いることもできる。
【0047】
この温度ヒューズは、図示のように、筒状のケース本体33と、このケース本体33に支持されつつ互いに所定間隔を隔てて配された一対のリード線35,36と、これらリード線35,36の各一端35a,36aに接合されて、リード線35,36を導通する線材状の可溶合金37とから構成される。そして、使用する場合には、梁端部材9の塑性変形発熱が伝わるように梁端部材9に密着させて前記温度ヒューズを配するとともに、この温度ヒューズから突出する前記両リード線の他端35b,36bに、それぞれ前記一対の導線25a,25bを介して前記電導度テスター27を接続する。
【0048】
前記発熱が温度ヒューズに伝わって前記可溶合金37が温度上昇し融点に達すると、この可溶合金37は溶融してリード線35,36は断線して非導通状態となり、もって梁端部材9の塑性変形を報知する。このような電気ヒューズ式の温度ヒューズとしては、例えば内橋エステック株式会社製の合金製温度ヒューズ等が挙げられる。
【0049】
尚、前記参考例の塑性変形検出器11は、基本的に重錘15aの落下を目視することにより塑性変形の発生を認知可能とするものであったが、これを、前記第1実施形態のように電気接点の導通により認知可能とすることもできる。例えば、前記重錘15aを導体にて形成するとともに、この重錘15aの落下地点に一対の電気接点を配置し、落下した重錘15aによって前記電気接点が接続されて導通されるようにすれば良い。
【0050】
図6は、第2実施形態の塑性変形検出器の縦断面図を示し、図7(a)は図6中のVII−VII線矢視の説明図である。図7(b)は、図7(a)と同じ線矢視の説明図であって、図7(a)に示す閉状態の電気接点が開状態となった様子を示す。尚、前記第1実施形態の変形例と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0051】
前記第1実施形態の変形例では、電気接点23a,23bと電導度テスター27とを導線25a,25bにて接続し、つまり有線により電気接点23a,23bの開閉信号を電導度テスター27へ伝達したところ、本第2実施形態の塑性変形検出器51は、前記電気接点23a,23bの開閉を電磁波信号55cに変換して耐火被覆10の外にある受信器53へと発信する点、つまり無線にて電気接点23a,23bの開閉信号を受信器53へ伝達する点で相違する。
【0052】
すなわち、前記温度ヒューズは、所期融点の溶融材13と、該溶融材13の溶融によって不可逆的に閉状態から開状態へ動作する一対の電気接点23a,23bと、前記状態変化信号たる前記電気接点23a,23bの非導通を電磁波信号55cに変換して発信する発信器55とを備える。また、前記耐火被覆10の外には、前記電磁波信号55cを受信するための前記出力端としての受信器53が配されている。
【0053】
この発信器55および受信器53には、図8に示すRFID(Radio Frequency Identification)タグシステムにおけるRFIDタグ55およびその送信器兼受信器53を適用することができる。前記RFIDタグ55は、無線コイル55aと、この無線コイル55aの両端子に一対の端子が各々結線されて一つの電気回路を形成するICチップ55bとから構成される。そして、外から特定周波数の信号53cが送信されると、その信号53cを無線コイル55aで捕らえてICチップ毎55bに個別に付与されたID(Identification)番号を電波55cで発信するようになっている。但し、前記電気回路が遮断すると、ICチップ55bは前記電波55cを発信しなくなる、つまり前記信号53cに対して応答しなくなる。
【0054】
一方、前記送信器兼受信器53は、前記無線コイル55aへと前記信号53cを送信するとともに、その返信としての、ICチップ55bからの前記電波55cを受信するものである。
【0055】
本第2実施形態の塑性変形検出器51は、図7(a)に示すように、このRFIDタグ55における、無線コイル55aとICチップ55bとを繋ぐ一対の結線の一方に、前記第1実施形態の変形例に係る温度ヒューズが接続されて構成される。つまり、無線コイル55aとICチップ55bとは一方の結線にて接続されているが、他方の結線は外されている。そして、この外された結線のうちの無線コイル55a側の端子は、温度ヒューズの一方の電気接点23aに接続される一方、ICチップ55b側の端子は、他方の電気接点23bに接続されており、もって無線コイル55a、電気接点23a,23b、およびICチップ55bにより一つの電気回路が形成されている。
【0056】
そして、図示のように、温度ヒューズの溶融材13の溶融前は、電気接点23a,23bが閉じているため前記電気回路は導通していて、もって前記送信器兼受信器53からの信号53cに応答してICチップ55bは前記ID番号の電波55cを返信する。しかし、溶融材13が溶融すると、図7(b)に示すように、前記電気接点23a,23bは開いて前記電気回路は遮断されるため、前記送信器兼受信器53からの信号53cに対してICチップ55bは応答せず、つまり前記電波55cを返信しなくなる。よって、この電波55cの返信の有無によって、電気接点23a,23bの開閉を検知できて、もって塑性変形の発生を検査者に報知することができる。
【0057】
また、温度ヒューズが複数配されている場合には、温度ヒューズ毎に個別にID番号を付与しておけば、ICチップ55bから送信されるID番号の電波55cによって、どの温度ヒューズが閉状態なのかを識別することができる。
【0058】
更には、このRFIDタグシステムを用いれば、前記第1実施形態の導線25a,25bに類する温度ヒューズからの延長物を短くできて、温度ヒューズを完全に耐火被覆13内に収めることができる。
【0059】
尚、このRFIDタグ55は、前記送信器兼受信器53の前記信号53cによって電力供給されて、その電力によりICチップ55bが動作するようになっている。つまり、前記信号53cは特定周波数の電磁波であり、これが無線コイル55aに到達すると、電磁誘導によって無線コイル55aに特定周波数の誘導電流が発生し、この誘導電流を電源としてICチップ55bが作動して電波55cを発信するようになっている。よって、RFIDタグ55内部には電池等の消耗部品を持たずに済むので、長期間に亘ってメンテナンスを要さず、もって温度ヒューズを耐火被覆13内に完全に収めた状態を長期間維持することが可能となる。
【0060】
尚、前記第2実施形態の温度ヒューズには、第1実施形態の変形例を適用したが、第1実施形態の温度ヒューズを適用できることは言うまでもない。
更には、このRFIDタグシステムを用いる第2実施形態にあっては、前記耐火被覆10には、電波55cを通す素材が用いられることは言うまでもない。
ここで、前記第1実施形態の塑性変形検出器21を用いて、建物3に設置された全ての梁端部材9,9…の状態を一箇所で集中監視可能な集中監視システムについて説明する。
【0061】
図9にその概念図を示すが、建物3の一箇所に集中監視室3aが設けられ、この集中監視室3aにまで、各梁端部材9,9…に設けられた各温度ヒューズの一対の導線25a,25bがそれぞれに引き回されている。この集中監視室3aには、各温度ヒューズに対して一対一に対応させて前記電導度テスター27が設けられており、各温度ヒューズ毎に塑性変形の発生を検出可能となっている。尚、図9にあっては、図の錯綜を避けるべく、前記一対の導線25a,25bを一本の実線にて示している。
【0062】
尚、前記例示した集中監視システムにあっては、各温度ヒューズ毎に単独で電導度テスター27に接続して各温度ヒューズ毎に塑性変形の検出を可能にしたが、図10に示すように、全て若しくは複数の温度ヒューズ22,22…を、導線25cを介して直列接続して1つの導通した電気回路を形成し、この電気回路の非導通を1つの電導度テスター27で検出するようにしても良い。この構成によれば、直列接続された温度ヒューズ22,22…のうちの1つでも非導通状態になると、この非導通を電導度テスター27にて検出することができる。また、この構成によれば、複数の温度ヒューズ22,22…を直列接続するので、導線25c,25c…のトータル長を短くすることができて、システムを安価に構築することができる。
【0063】
また、図11に示すように、建物3の各階層毎にAD変換器43を設けて、このAD変換器43に、温度ヒューズの導通状態のアナログ信号を導線25a,25bを介して取り込んでデジタル信号に変換し、このデジタル信号を、構内LAN(local area network)や構内電話回線等の通信回線45を介して、この通信回線に接続された任意の端末コンピュータ47に送信して、これら端末コンピュータ画面上にて報知可能にしても良い。更には、前記デジタル信号を、インターネット等の通信回線を介して遠方の監視所に送信して当該監視所において報知可能にしても良い。尚、前記第1実施形態の塑性変形検出器21に代えて、前記第2実施形態のRFIDタグシステムを用いた塑性変形検出器51を適用して、その送信器兼受信器53を介して前記AD変換器43に前記ID番号を取り込むようにすれば、前記導線25a,25bを省略することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0065】
(a)本実施形態においては、温度ヒューズを被検査対象としての梁端部材に設置したが、塑性変形により発熱する鉄骨部材であればこれに限るものではなく、必要に応じて鉄骨製柱梁部材における任意の部分に設置することもできる。
【0066】
(b)本実施形態においては、梁端部材につき1つの温度ヒューズを設置したが、温度ヒューズを、1つの梁端部材の所定範囲に亘って複数設置して、塑性変形の範囲を特定できるようにしても良い。その際、これら温度ヒューズに対して第2実施形態のRFIDタグシステムを適用すれば、温度ヒューズ毎に個別にID番号を付与することができるので、もってICチップから発信されるID番号によって、どの設置場所が塑性変形を起こしたのかを容易に識別することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る参考例の塑性変形検出器の縦断面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の塑性変形検出器の縦断面図である。
【図3】図3(a)は図2中のIII−III線矢視の説明図であり、図3(b)は、図3(a)と同じ線矢視の説明図であって、図3(a)に示す開状態の電気接点が閉状態となった様子を示す。
【図4】第1実施形態の変形例を示す、図3と同じ線矢視の説明図である。
【図5】第1実施形態の温度ヒューズの代わりに適用可能な電気ヒューズ式温度ヒューズの縦断面図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態の塑性変形検出器の縦断面図である。
【図7】図7(a)は図6中のVII−VII線矢視の説明図であり、図7(b)は、図7(a)と同じ線矢視の説明図であって、図7(a)に示す閉状態の電気接点が開状態となった様子を示す。
【図8】RFIDタグシステムにおけるRFIDタグおよびその送信器兼受信器を示す概念図である。
【図9】建物の梁端部材の状態を一箇所で集中監視可能な集中監視システムの概念図である。
【図10】温度ヒューズを直列接続した配線例を示す概念図である。
【図11】デジタル信号の通信回線を用いた集中監視システムの概念図である。
【図12】鉄骨造建物の側面視の概念図である。
【図13】図12中のXIII部の拡大図である。
【符号の説明】
【0068】
9 梁端部材(鉄骨部材)
9b 下フランジ(鉄骨部材)
10 耐火被覆
11 塑性変形検出器
13 溶融材
15 重錘部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火被覆された鉄骨部材に塑性変形が生じたことを、該変形に伴う発熱から検出する塑性変形検出器であって、
前記発熱を伝達可能に前記鉄骨部材に密着若しくは近接配置されるとともに、前記耐火被覆の外に出力端を有する温度ヒューズを備え、
該温度ヒューズは、60〜80℃の融点の溶融材と、該溶融材の溶融によって不可逆的に開動作若しくは閉動作する一対の電気接点とを有し、
前記電気接点の導通状態の変化を前記出力端へ伝達することを特徴とする塑性変形検出器。
【請求項2】
前記電気接点同士をつなぐ導線の一部は前記耐火被覆の外へ引き出される一方、該一部には、前記電気接点の導通状態の変化を検知するための導通検知手段が配されていることを特徴とする請求項1に記載の塑性変形検出器。
【請求項3】
前記溶融材は、前記融点未満温度にて、閉方向に付勢された一対の電気接点間に挟まれて、該電気接点を開状態に保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の塑性変形検出器。
【請求項4】
前記溶融材は、前記融点未満温度にて、開方向に付勢された一対の電気接点を閉状態に保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の塑性変形検出器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−215045(P2006−215045A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103038(P2006−103038)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【分割の表示】特願2002−6648(P2002−6648)の分割
【原出願日】平成14年1月15日(2002.1.15)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】