説明

塗布方法および塗布装置

【課題】ウェブへの塗布において、高速塗布時でも塗布部分での気泡の噛み込みを防止し、気泡起因で発生する塗布欠点の発生を抑制することが可能な塗布方法および装置を提供する。
【解決手段】容器1に塗液導入口から塗液2を供給しつつ塗液に塗工バー3を浸し、塗工バーをウェブに押し当て、塗工バーでかきあげた塗液をウェブに塗布する塗布方法及び装置であって、各上端部上面の少なくとも一部が開口部側から上流側方向および下流側方向に離れるにつれて水平方向から下方に10°以上90°以下だけ傾斜しており、かつ塗工バーとの間の各間隙のうち、上流側に位置する第1の間隙が3mm以下であり、下流側に位置する第2の間隙が2mm以下であるものを用い、容器への塗液の供給は、開口部と塗工バーとの間から各上端部の上面に塗液を漏洩させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布方法および塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱可塑性樹脂フィルム等のウェブの表面に塗液を均一に所定の厚みに塗布する方法として、ロッドコート法がある。このロッドコート法の一例を図13に示す。図13は、連続搬送するウェブに塗液を塗布する従来のロッドコート法として特許文献1に記載されている塗布装置の説明図であり、V字型の断面を有する支持体35で支持した塗液付着用バー3−1と、同じくV字型の断面を有する支持体35で支持した計量用バー3−2が連続搬送されるウェブ8に押し付けられて従動回転しており、塗液2は供給口20から供給されている。最終目的とする塗布厚みに比べて過剰量の塗液を塗液付着用バー3−1でウェブ8の下面に塗布し、次いでウェブ8の搬送方向(矢印で図示)の下流側に配置された計量用バー3−2によって余分な塗液が掻き落とされ一定の厚みとする塗布方法である。しかし、この塗布方法では、塗液付着用バー3−1および計量用バー3−2が、V字型の断面を有する支持体35との摩擦により回転不良を起こしてスジ状の欠点が生じたり、もしくは塗液付着用バー3−1および計量用バー3−2の回転により、V字型の断面を有する支持体35が磨耗し、この磨耗粉が塗液と共にウェブに塗布されて異物欠点が生じたりすることがある。そこで、回転可能な支持体で塗工バーを支持する方法が知られており、これを図14を用いて説明する。図14は、連続搬送するウェブに塗液を塗布する従来のロッドコート法として特許文献2に記載されている塗布装置の説明図である。図14において1は塗液2のはいった容器であり、最終目的とする塗布厚みに比べて過剰量の塗液をロール36で、ウェブ8に付着させている。次いで、ウェブ8の搬送方向の下流側に設置された塗工バー3で余分な塗液を掻き落とすことで一定の厚みとし、その際掻き落とされた余分な塗液は板37の上を流れ、容器1へ戻される。ここで3は回転可能な支持体であり、塗工バー3を下から支持している。回転可能な支持体4は塗工バー3によって従動回転するため、磨耗屑は発生しない。しかしながら本塗布装置の場合、本発明者らの知見によると、表面に薄く塗液が残存している状態の塗工バー3と回転可能な支持体4が接触回転することで、両者の接触部で気泡を噛み込み、この気泡が塗工バー3の表面に残った塗液と共にウェブ8へ塗布され、その後ウェブ上ではじけることで、塗布抜け状の欠点を生じることがある。これを防止する技術として、気泡発生源である塗工バーと回転可能な支持体の接触部を塗液中に沈めた状態で塗布を行う方法がある。これについて、図15を用いて説明する。図15は、連続搬送するウェブまたは基板に塗液を塗布する従来のロッドコート法として特許文献3に記載されている塗布装置の説明図である。1は塗液2が入っている容器であり、塗液2の液面付近に塗工バー3が配置され、この塗工バー3が容器内で回転可能な支持体4により支えられている。また、容器1の上側には塗工バー3と対向するように回転ローラ5が設けられ、搬送ローラ6によって搬送された基板が、回転ローラ5と塗工バー3の間に挿入され、回転ローラ5と塗工バー3で押圧されながら搬送される。これにより、塗工バー3が回転しながら塗工バー3の周面に塗液2を付着させ、その付着した塗液2が基板7に塗布される。本塗布装置では、塗工バー3と回転可能な支持体4の接触部が塗液中に位置するため、接触部で気泡をかみ込みにくい。しかし、本発明者らの知見によると、塗布速度が速い場合、塗工バー3と回転可能な支持体4の回転によって塗液内に発生した随伴流により液面が波打ち、気泡が発生することがある。発生した気泡は塗液と共に容器内を流れ、塗工バー3によって掻き上げられて基盤7に塗布され、特許文献2と同様に塗布抜け状の欠点が発生することがある。
【0003】
本発明者らの知見に基づき、この現象について、上記特許文献3の技術を用いて連続搬送するウェブへの塗布を行った場合を例に用いて詳細に説明する。図6は、特許文献3の技術を用いて連続搬送するウェブに塗工バーを用いて塗液を塗布する塗布装置の概略断面図である。図6において、容器1の中の塗液2の液面付近に塗工バー3が設置され、この塗工バー3が回転可能な支持体4で支えられている。塗工バー3は搬送されるウェブ8に押付けられることで回転し、塗工バー3の外周面に付着した塗液をウェブ8に塗布している。図7および図8は図6の装置で塗布を行った際の塗工バー付近の拡大図、図17は塗工バー表面の概略図である。図7に示すとおり、塗布時には塗工バー3と支持体4の回転により随伴流11が発生する。塗工バー3と支持体4の回転速度はウェブの搬送速度と実質的にほぼ同一であり、搬送速度が大きいほどこの随伴流11は大きくなる。従って、例えば30m/分以上の高速塗布時は発達した随伴流11によりウェブ8の搬送方向下流側の液面12が点線で示すように不安定に脈動し、塗工バー3との接点13で気泡14を噛む場合がある。これは、例えば塗工バー3が図17に示すようにロッド17にワイヤー18を巻くことで表面に溝が形成されている場合に、この溝に気泡がトラップされやすいことによる。従って図7に示すように、液面12と塗工バー3との接点13で噛んだ気泡が塗工バー3の溝にトラップされ、塗工バー3の回転によって塗布面まで到達し、塗布されることで塗布抜け状の欠点15が発生することがある。また、ウェブの搬送速度がさらに高速になると、図8に示すように液面12が塗工バー3と支持体4の接点16まで大きく降下し、塗工バー3と支持体4の回転により気泡を大量にかみ込み、同様に塗布抜け状の欠点が発生することがある。
【0004】
このような気泡による塗布抜け状の欠点は、ロッドコート法のみならず、ロールコート法においても従来から問題視されており、本欠点を解消するための技術として、例えば特許文献4に記載の技術が知られている。この技術を図16を用いて説明する。図16はウェブに塗液を塗布する従来のロールコート法として特許文献4に記載されている塗布装置の説明図である。1は塗液2の入った容器であり、液面にピックアップロール38が浸されている。ピックアップロール38を回転させることで塗液2を掻き上げるものである。39は仕切り堰であり、容器内で発生した気泡40がピックアップロール38によって塗液と共に掻き上げられることを防止するため、気泡40を一定の場所に堰き止めておくためのものである。しかしながら本技術は気泡の発生自体を防止するものではないため、時間の経過と共に仕切り堰39に溜まる気泡の量が増加し、遂には仕切り堰39から溢れ出すことがある。
【特許文献1】特開2003−275643号公報
【特許文献2】特公平6−49169号公報
【特許文献3】特開平10−5650号公報
【特許文献4】実開平4−122670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高速塗布時でも塗布部分での気泡の噛み込みを防止し、気泡起因で発生する塗布欠点の発生を抑制することが可能な塗布装置および塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、塗液導入口を有する容器と、該容器の上部に該容器の長手方向に長手方向を有する開口部を形成する上流側上端部および下流側上端部と、前記開口部に前記上流側上端部と前記下流側上端部とに挟まれるように設けられ前記開口部の長手方向に回転軸方向を向けて配置された回転可能な塗工バーと、前記塗工バーの長手方向に沿って間欠的に複数配置され、前記容器内で前記塗工バーを下方から支持する回転可能な支持体とを有する塗布装置を用いて、前記容器に前記塗液導入口から塗液を供給しつつ前記塗液に塗工バーを浸し、該塗工バーを所定の速度で前記上流側から前記下流側へ搬送されるウェブに押し当て、前記塗工バーでかきあげた前記塗液を前記ウェブに塗布する塗布方法であって、前記各上端部として、前記各上端部上面の少なくとも一部が開口部側から上流側方向および下流側方向に離れるにつれて水平方向から下方に10°以上90°以下だけ傾斜しており、かつ前記塗工バーとの間の各間隙のうち、前記塗工バーと前記ウェブとの接点から前記塗工バーの回転方向に対し上流側に位置する第1の間隙が3mm以下であり、対して下流側に位置する第2の間隙が2mm以下であるものを用い、前記容器への前記塗液の供給は、前記開口部と前記塗工バーとの間から前記各上端部の上面に前記塗液を漏洩させるように行うことを特徴とする塗布方法を提供する。
【0007】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記容器内に、前記ウェブと前記塗工バーとの接点から前記塗工バーの回転方向に対し下流側に塗液に没した状態で設けられ、前記塗工バーおよび前記支持体の回転によって発生する随伴流が前記第2の間隙へ向かって流れるのを抑制するための堰部材を用いる塗布方法が提供される。
【0008】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記堰部材として、前記塗工バーの外周面との第3の間隙が1mm以下で前記塗工バーの長手方向に伸びる端部を有し、かつ前記各上端部と前記ウェブと前記塗液のない状態で、前記塗工バーと前記堰と前記支持体を鉛直上方から見たとき、該支持体のうち前記塗工バーの回転軸を通過する鉛直面に対して前記堰側に回転軸があるものが、前記第3の間隙以外の部分からは直接見えないように設ける塗布方法が提供される。
【0009】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記支持体として、該支持体の軸方向の長さが3〜25mmのものを塗工バーの長手方向に沿って千鳥状に配置する塗布方法が提供される。
【0010】
また、本発明の別の形態によれば、塗布導入口を有する容器と、該容器の上部に前記容器の長手方向に長手方向を有する開口部を形成する上流側上端部および下流側上端部と、前記開口部に前記上流側上端部と前記下流側上端部とに挟まれるように設けられ前記開口部の長手方向に回転軸方向を向けて配置された回転可能な塗工バーと、前記塗工バーの長手方向に沿って間欠的に複数配置され、前記容器内で前記塗工バーを下方から支持する回転可能な支持体と、前記開口部と前記塗工バーとの間から前記各上端部の上面に前記塗液を漏洩させるように前記容器内に塗液を供給する塗液供給手段とを有し、前記塗工バーを所定の速度で前記上流側から前記下流側へ搬送されるウェブに押し当て、前記塗工バーでかきあげた前記塗液を前記ウェブに塗布する塗布装置であって、前記各上端部上面の少なくとも一部が開口部側から上流側方向および下流側方向に離れるにつれて水平方向から下方に10°以上90°以下だけ傾斜しており、かつ前記塗工バーとの間の各間隙のうち、前記塗工バーと前記ウェブとの接点から前記塗工バーの回転方向に対し上流側に位置する第1の間隙が3mm以下であり、対して下流側に位置する第2の間隙が2mmである塗布装置が提供される。
【0011】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記容器内に、前記ウェブと前記塗工バーとの接点から前記塗工バーの回転方向に対し下流側に塗液に没した状態で設けられ、前記塗工バーおよび前記支持体の回転によって発生する随伴流が前記第2の間隙へ向かって流れるのを抑制するための堰部材を有する塗布装置が提供される。
【0012】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記堰部材が、前記塗工バーの外周面との第3の間隙が1mm以下で前記塗工バーの長手方向に伸びる端部を有し、かつ前記各上端部と前記ウェブと前記塗液のない状態で、前記塗工バーと前記堰と前記支持体を鉛直上方から見たとき、該支持体のうち前記塗工バーの回転軸を通過する鉛直面に対して前記堰側に回転軸があるものが、前記第3の間隙以外の部分からは直接見えないように設けられた塗布装置が提供される。
【0013】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記支持体の軸方向の長さが3〜25mmであり、かつ前記塗工バーの長手方向に沿って千鳥状に配置されている塗布装置が提供される。
【0014】
本発明において、「ウェブ」とは、熱可塑性樹脂フィルム、紙、皮革、不織布、綿織物などのシート状物をいう。代表的なものとしてポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンなどを主成分とする熱可塑性樹脂フィルムが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る塗布装置および塗布方法によれば、以下に説明するとおり、ウェブへの高速塗布時でも液面の降下および脈動を防止することで塗布部分での気泡の噛み込みを防止することができ、気泡起因の塗布欠点発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良の実施形態の例を図面を参照しながら説明する。
【0017】
まず、本実施形態の装置構成について説明する。図1は、本実施形態の概略縦断面図、図2は図1をZ方向からみた上面図、図3は図1の拡大図、図4は図2をW方向から見た側面図である。
【0018】
本実施形態の塗布装置は、塗液導入口20を有する容器1と、塗液2に浸された塗工バー3と、塗工バー3を支持するための回転可能な支持体4と、ウェブ8と塗工バー3の接点aから塗工バー3の回転方向に対して下流側に塗液中に没した状態で設けられた堰21とを有している。ここで、「没した」とは、物体(ここでは堰)の全容が塗液中にある状態を言い、「浸された」とは、物体(ここでは塗工バー)の一部分が塗液中にある状態を言う。言うまでもなく、塗布中の塗工バー表面には塗液が薄く残存しているが、この部分は塗液中にある状態ではない。以下同様である。
【0019】
容器1の上部には、塗工バー3に対してウェブ8の搬送方向(図1のウェブ8の端部に矢印で図示)の上流側および下流側に位置する上流側上端部22および下流側上端部23があり、これにより容器1の長手方向(本実施形態では、図2に示した座標軸のY方向)に長手方向を有する開口部が形成されている。開口部には塗工バー3が開口部の長手方向(本実施形態では、図2に示した座標軸のY方向)に回転軸方向を向けて配置されており、上流側上端部22と下流側上端部23との間にそれぞれ塗工バー3との最短距離である第1の間隙24、第2の間隙25を形成している。
【0020】
塗工バー3は両端部で軸受け等(図示しない)により回転自在に支持されており、さらに塗工バー3の長手方向に沿って間欠的に複数配置された回転可能な支持体4により下方から外接支持されている。また、塗工バー3は所定の速度で上流側から下流側へ搬送されるウェブ8に押し当てられて従動回転し、塗工バー3を支えている支持体4も同様に従動回転する。堰21は、その端部が塗工バー3と近接しており、塗工バー3との最短距離である間隙26を形成している。
【0021】
塗工バー3は、例えばロッド、ロッドの外周面にワイヤーを巻いて溝を形成したワイヤーバー、およびロッドの外周面に転造加工で溝を形成した転造ロッドなどを用いることができる。塗工バー3の材質はステンレスが好ましく、特にSUS304またはSUS316が好ましい。塗工バー3の表面にはハードクロムメッキなどの表面処理を施してもよい。
塗工バー3の直径は、大きいとリブスジと呼ばれる搬送方向に沿ったスジ状の塗布欠点が発生しやすくなるため、10〜15mmが好ましい。また、本実施形態では、塗工バー3をウェブ8に押し当て、ウェブ8との摩擦力によって回転する、いわゆる従動回転の状態であるが、モーター等の駆動装置によって回転させてもよい。その際、ウェブに傷が入ることを防止するため、塗工バーはウェブの搬送方向に、ウェブの搬送速度と実質的にほぼ同一の速度で回転させることが好ましい。ここで、「実質的にほぼ同一の速度」とは、塗工バーの周速とウェブの搬送速度との速度差を±10%以下で回転させることを言う。ただし、製品の用途等により、ウェブの傷が問題にならない場合は塗工バーをウェブの搬送速度と異なる速度で回転させたり、あるいは、ウェブの搬送方向と逆方向に回転させても良い。また、塗工バー3とウェブ8の接点aから、ウェブ8の搬送方向に対して上流側のウェブと下流側のウェブとの成す角度である巻付け角α(図1のα)は、小さすぎるとウェブのバタツキや振動による横ダン状の塗布欠点が発生し、逆に大きすぎると泡スジ欠点を生じるため、8〜20度の範囲にすることが好ましい。
【0022】
支持体4としては、ローラやボール等、回転しながら塗工バーを支えるものであればどのようなものでも良い。また、支持体4は、塗工バー3の摩耗を軽減するため、表層に塗工バー3より硬度が低い材料を用いることが好ましく、表層の材質としては合成ゴムやエラストマを使用することが好ましい。ここで、エラストマとは、射出成形法、押出成形法、注型成型法、ブロー成形法、インフレーション成型法などにより溶融成形が可能なゴム状の弾性体樹脂をいう。エラストマとしては、ウレタンエラストマ、ポリエステルエラストマ、ポリアミドエラストマなどが好ましく、特に、耐摩耗性、機械的強度に優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマを使用することが好ましい。支持体4の表層に形成するエラストマの厚みは0.5〜6mmが好ましい。エラストマの硬度は60〜98A(1996年 JIS K6253の規格に従い測定)が好ましい。
【0023】
また、塗工バー3がウェブ8の搬送方向へ曲がることを防止するため、支持体4はウェブ8の搬送方向に対して、塗工バー3の上流側および下流側の両側に配置することが好ましく、さらに上流側と下流側の支持体を塗工バーの長手方向に交互に配置(千鳥状)すると良い。
また、ウェブの搬送方向に対して塗工バー3の上流側および下流側に配置された支持体の回転軸と、塗工バー3の回転軸とを結ぶ線が、垂直な線鉛直方向となす角度β1、β2(図1に図示)は共に10度以上であることが好ましい。角度β1、β2が小さすぎると、ウェブの振動により塗工バーが振動し、塗布欠点が発生することがある。また、支持体4の回転に振動やムラがあると、それらが塗工バーに伝わって塗布欠点が生じやすいため支持体は滑らかに回転するよう、軸受けを有する構造であることが好ましい。支持体が塗液中に没するため、軸受けの材質は塗液に対する腐食性が強い材質が好ましく、防水性のものがより好ましい。また、支持体の直径は8mm以上であることが市販の軸受けを使用できることから好ましい。また、発生する随伴流を小さくするため、および汎用の軸受けを使用できることから、支持体の軸方向の長さは3〜25mmのものが好ましい。
【0024】
支持体に大きな荷重がかかると支持体表面が磨耗したり、軸受けの寿命が短くなり頻繁に交換を要することになるため、支持体を塗工バーの長手方向に数多く設置し、支持体1個あたりにかかる荷重を小さくすることが好ましい。
【0025】
図3において、ウェブ8の搬送方向に対して塗工バー3の下流側に位置する支持体の表面と、下流側上端部23の先端の真上に位置するウェブ8との鉛直方向の距離h1は、塗工バーと支持体の直径、巻き付け角α、および角β2で決まるが、上端部と堰部材の設置スペース確保のため、塗工バーと支持体の直径、巻きつけ角α、β2を上述した好適な範囲で調整し、10mm以上にすることが好ましい。また、h1と同様に上流側の支持体表面とその真上のウェブ8との鉛直方向の距離h2も8mm以上にすることが好ましい。
【0026】
次に、本実施形態の塗液の流れについて説明する。本実施形態の塗布装置において、塗液2は塗液導入口20から塗液供給手段(図示せず)で順次供給されて容器内を満たし、一部は塗工バー3によってかきあげられることでウェブ8に塗布され、残りは容器1の上部の塗工バー3との間にそれぞれ設けられたウェブ搬送方向の間隙である第1の間隙24、および第2の間隙25、および容器側面と塗工バーとの隙間である30(図4に斜線で図示)、その他の隙間(容器自体の隙間等。図示しない)から順次容器外へ漏洩する。
【0027】
塗液供給手段としては、定量性および低脈動性を有するギヤポンプやダイヤフラムポンプ、モーノポンプが好ましい。また、ポンプから吐出した塗液をフィルター等の脱泡手段を介して容器に供給しても良い。また、容器への塗液の供給は容器内の数箇所から分散して供給してもよい。こうすることで第1の間隙24、および第2の間隙25からの漏洩量を幅方向で均一にできる。
【0028】
このように、特に第2の間隙25から塗液を漏洩させることで、第2の間隙において塗工バー3と支持体4の回転によって塗工バー3のウェブ搬送方向下流側の液面12が降下することを抑制することができるため、支持体と塗工バーの接触部での気泡かみ込みを防止できる。
【0029】
ここで、本実施形態によれば第1の間隙24は3mm以下が好ましく、第2の間隙25は2mm以下が好ましい。塗工バー3のウェブ搬送方向下流側の液面12の降下を防止するには、塗工バー3および支持体4の回転により降下しようとする液面12を、容器内の液圧で押し返す必要がある。
【0030】
容器内の液圧の大小には、塗液が漏洩する部分での圧損が大きく影響するため、漏洩部分である第1の間隙24、および第2の間隙25、図2のY方向の容器側面と塗工バーとの隙間30(図4に図示)、その他の隙間(容器自体の隙間等。図示しない)は小さい方が、また塗液の供給量は多い方が、液圧は大きくなる。液面12が降下する距離は、塗工バーと支持体の回転速度等に影響を受けるため、これらの条件に応じて、漏洩部の間隙の大きさと塗液の供給量を調整すると良い。液面12は、ウェブ8の搬送方向に対して塗工バー3の下流側に位置する支持体と液面12とが接触しないようにすることが好ましく、液面12が堰21に接触しないようにすることがより好ましい。
【0031】
ただし、液圧を上げるために供給量を大きくした結果、第2の間隙25からの漏洩量が多くなりすぎると、間隙から噴出した塗液が塗布面に付着し、塗布欠点となる場合がある。また第1の間隙24からの漏洩量が多い場合、漏洩した塗液により塗工バー下流側の液だまり32が乱れ、その結果塗布ムラが生じる場合がある。したがって、塗液の供給量が少なくても容器内の液圧が十分高くなるように、第1の間隙24、および第2の間隙25は小さいほうが良く、特に第1の間隙24は3mm以下、第2の間隙25は2mm以下が好ましい。また、図2のY方向の容器側面と塗工バーとの隙間30、その他の隙間(容器自体の隙間等。図示しない)の大きさは特に指定しないが、大きい場合は容器の液圧をあげるために塗液の供給量を増やすことになり、ポンプに負担をかけるため、これらの間隙も小さい方が好ましい。
【0032】
図3において、ウェブ8の搬送方向に対して塗工バー3の下流側に位置する支持体の表面と、下流側上端部23の先端の下端との鉛直方向の距離h3は、堰21の設置スペース確保のため7mm以上が好ましい。また、下流側上端部23の先端の上端と、その真上にあるウェブ8との距離h4は、小さすぎると下流側上端部23の先端上の塗液が塗布面と接触するため3mm以上であることが好ましい。
【0033】
また、上流側上端部22および下流側上端部23は、それぞれ少なくとも一部が開口部側から上流側方向および下流側方向に離れるにつれて水平方向から下方に10°以上90°以下だけ傾斜していることが好ましい。これにより、第1の間隙および第2の間隙から漏洩した塗液が各上端部上面に溜まってウェブに接触したり、塗工バー上流側の液だまり32を乱して塗布ムラが発生することを防止出来る。
【0034】
また、本実施形態によれば、堰21と塗工バー3の外周面との最短距離を指す第3の間隙26は1mm以下が好ましく、また、製品の用途等により、堰の磨耗屑が塗膜に混入しても問題にならない場合は、接触させるとより好ましい。このようにすることで、支持体4の回転により発生する随伴流により液面12が脈動することを防止できる。この現象を図5を用いて説明する。図5は図1の塗布装置で塗布を行った際の塗工バー付近の拡大図である。塗布時は、図5に示すように、塗工バー3と支持体4の回転により随伴流11、11−aが発生する。しかし、堰21と塗工バー3の最短距離である第3の間隙を1mm以下とすることで、随伴流のうちのひとつである随伴流11-aの流れが支配的となり、他の随伴流11が第3の間隙26を上昇できなくなるため、液面12が脈動することがなくなる。また、堰21を塗工バー3に完全に接触させた場合、随伴流11が液面12に向かって流れなくなるため、液面12が脈動しなくなる。また、堰21は、ウェブおよび塗液がない状態で、塗工バーと堰と支持体を鉛直上方から見たとき、支持体のうち塗工バーの回転軸を通過する鉛直面に対して堰側に回転軸があるものが、塗工バーの外周面との第3の間隙26以外の部分からは直接見えないように設けることが好ましく、より好ましくは支持体4の真上のみでなく、図2のように容器の全幅に渡って設けるとよい。このようにすることで、支持体により発生した随伴流がウェブの幅方向に流れ、支持体のない部分で液面が脈動することを防止できる。ここで、「直接見えない」とは、上記条件で支持体を目視した際、支持体までの視線上に堰がある状態を言う。従って、たとえば視線上に透明な材質で出来ている堰がある場合、支持体を目視できたとしてもこれは透明な堰を通して目視しているので、「直接見えない」という状態である。
【0035】
また、堰21が水平線と成す角度である傾斜角度γ(図3に図示)は特に問わない。本実施の形態図では堰の各辺は直線状であるが、曲がっていても、先端が丸みを帯びていても良い。
【0036】
また、堰21は液面12と接触しない位置であることが好ましい。堰21と液面12が接触すると、図5に示すように、随伴流11-aに引きずられて塗工バー3との最短距離である間隙26を下降し、随伴流11によって液面が乱れて気泡をかみ込む場合がある。
【0037】
製品の用途等により、堰や支持体の磨耗屑が塗膜に混入しても問題にならない場合は堰21と支持体を接触させても良い。
【0038】
また、堰21は塗工バーに対して反対側にも同様に設置してもよい。こうすることで、塗工バーや支持体の随伴流により、液だまり32が脈動することを抑制できる。
【0039】
図11は本発明の別の実施形態を示した概略断面図であるが、本図に示すように、容器1内で、随伴流の発生原因のひとつである支持体4を囲うように設けてもよい。
【0040】
また、図12は本発明の別の実施形態を示した概略断面図であるが、本図に示すように、堰21によって容器内をA、B、Cの3つに区切り塗液供給口20a、20c、20dからそれぞれの区画に塗液を供給し、塗液排出口20bから区画Cの塗液を排出するようにしても良い。また本実施例では区画A、B、Cが完全に区切られているが、堰と塗工バーの間隙を大きくする等して区画A、B、Cで塗液が行き来できるようにしても良い。
【0041】
また、上流側上端部22、下流側上端部23、および堰21の材質としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅等の金属類や、ナイロン、アクリル樹脂、塩化ビニール樹脂、四フッ化エチレン等の合成脂類、あるいはゴム等が挙げられる。このうちでより好ましい材質は、隙間の調整時や取り付け時に塗工バーと接触しても塗工バー表面を損傷させない、合成樹脂、ゴム等である。また、堰21としては、随伴流れを抑制するものであればよく、板状のものでも良いし、メッシュ状のものでも良い。
【0042】
また、塗液の粘度としては0.1Pa・s以下が好ましい。塗液の粘度が高い場合には、塗工バーによって容器内の塗液をかきあげる際に塗液がスジ状になり、ウェブの幅方向に均一に塗布できず、塗布スジが生じることがある。本実施形態において、塗液の粘度は、レオメータ(レオテック社製 RC20)を用いて、1996年 JIS Z8803の規格に従い測定する。その際、測定条件である塗液の温度は、実際の塗布部における塗液の温度を用いるのが理想ではあるが、塗布部における塗液の温度を正確に知ることは難しい。そこで、液だまり中央部の温度を放射温度計で測定して、塗布部の温度に近い温度を使用すれば良い。また、塗工バーの回転周速は、100m/分以下が好ましい。回転周速が100m/分を超えると、塗布スジが発生しやすくなる。
【0043】
また、塗液2の塗布量は、塗布直後の湿潤状態において2〜100g/mが好ましく、4〜50g/mがより好ましい。塗布量は塗工バー3に形成された溝の大きさによって調節できる。溝の大きさは、塗工バー3がワイヤーバーの場合は巻き付けるワイヤーの線径を変更し、塗工バー3が転造ロッドの場合は溝深さおよび/または溝ピッチの異なるダイスで転造加工することで変更できる。
【0044】
また、本実施形態による塗布は、製膜中のウェブにインラインで実施してもよいし、製造したウェブにオフラインで実施しても良い。
【0045】
製造中のウェブにインラインで塗布を行なう際の装置構成を図9および図10を用いて説明する。図9はウェブの製造工程の一形態を示してた概略図、図10は図9のウェブの製造工程中にインラインで塗布を行う際の工程の概略図である。ウェブの製造工程は、図9に示すように、押出機200、口金201、キャスティングドラム202、縦延伸機203、横延伸機204、巻取りロール205を有しており、先ず、押出機200によりポリマーを押し出し、口金201、キャスティングドラム202を経て、ポリマーはウェブ状に成形される。形成されたウェブは、その後、縦延伸機203、横延伸機204により縦横に延伸され、延伸されたウェブは、巻取りロール205によって、連続的に巻き取られる。製造中のウェブにインラインで塗布を行なう際は、図10に示すように、例えば縦延伸機203と横延伸機204の間に塗布装置206を設置し、縦延伸された後のウェブに塗布を行なう。ここでは、縦延伸後、横延伸する逐次2軸延伸方式の例を示したが、同時2軸延伸方式の前に本塗布装置を設置しても良い。
【実施例】
【0046】
次に、実施例に基づいて上記実施形態を具体的に説明するが、上記実施形態は必ずしも以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
極限粘度(固有粘度ともいう)0.62dl/g(1996年 JIS K7367の規格に従い、25℃のo−クロロフェノール中で測定)のポリエチレンテレフタレート(以下PETと省略する)のチップを、180℃で十分に真空乾燥した後、図10の押出機200に供給して285℃で溶融し、T字型口金201よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度23℃の鏡面キャストドラム202に巻き付けて冷却固化して未延伸フィルムとした。続いて縦延伸機203において、この未延伸フィルムを80℃に加熱したロール群で加熱し、さらに赤外線ヒータにて加熱しながら長手方向に3.2倍延伸し、50℃に調整した冷却ロールで冷却し、一軸延伸の樹脂フィルムとした。樹脂フィルムの幅は1700mmであった。続いて塗布装置206として図1の塗布装置を用い、速度40m/分で走行するこの樹脂フィルムの下面に塗液2を塗布した。続いて横延伸機204において、塗液2が塗布された樹脂フィルムを90℃のオーブン内に導いて加熱し、引き続き100℃のオーブン内で塗液2を乾燥させ、かつ樹脂フィルムを幅方向に3.7倍延伸し、さらに220℃のオーブン内で幅方向に5%弛緩処理しつつ樹脂フィルムの熱固定を行い、片面に塗液2による膜を形成した二軸延伸フィルムを得た。縦延伸機203と横延伸機204の間の張力は、樹脂フィルムの走行方向にかかる単位幅当たりの張力が8000N/mとなるようにダンサーロールで制御した。
【0047】
塗液2はポリエステル共重合体のエマルジョン(含有成分:テレフタル酸90モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸10モル%、エチレングリコール96モル%、ネオペンチルグリコール3モル%、ジエチレングリコール1モル%)100重量部に対し、メラミン系架橋剤(イミノ基型メチル化メラミンをイソプロピルアルコール10重量%と水90重量%の混合溶媒で希釈した液)を5重量部、平均粒径が0.1μmのコロイダルシリカ粒子を1重量部添加した混合液とした。この塗液2の粘度は、温度25℃において、2mPa・sであった。この塗液をダイヤフラムポンプ(株式会社タクミナ製)により17kg/分で容器1へ供給した。塗液導入口は1箇所とし、図1のように容器1の下部に設置した。塗工バー3は、直径が12.7mm、長さが1850mmのステンレス製の丸棒材に、線形が0.1mmのワイヤーを巻いたもの(加納商事株式会社製)を用いた。支持体4は、直径が22mm、軸方向の長さが14mmのローラであり、表面に硬度95Aの熱可塑性ポリウレタンエラストマーが2mmの厚みで施されたものを用いた。支持体4は、総計8個を塗工バー3の長手方向に470mmピッチで配置した。その際樹脂フィルムの搬送方向に対して塗工バーの上流側、下流側に千鳥状に配置し、図1に示した角度β1、β2は共に15度とした。また、ローラは周方向に回転自在で軸方向と上下方向に拘束されるように構成した。塗工バー3は支持体4および両端の軸受で周方向に回転自在に支持し、水平に搬送される樹脂フィルムに押付けて巻き付け角αを10度とし、樹脂フィルムの搬送方向と同じ方向に従動回転させた。
【0048】
上流側上端部22および下流側上端部23と、塗工バー表面との最短距離である第1の間隙、第2の間隙はそれぞれ3mm、2mmとした。第1の間隙、第2の間隙以外の塗液の漏洩部としては容器側面と塗工バーとの隙間30(図4に図示)のみとし、隙間30は図面で確認したところ断面積が55mmであった。上流側上端部22および下流側上端部23として厚みが1mmのアクリル板を用い、傾斜角は共に15度、図3に示すh3は6.9mm、h4は3.6mmとした。また、堰21と塗工バー3の最短距離である第3の間隙は1mmとし、傾斜角γは15度とした。堰21としては厚みが0.5mmのステンレス板を用い、図2のように一枚のアクリル板を容器の長手方向全幅に渡って設置した。この際、塗工バー3と堰と支持体4のみを鉛直上方から見たとき、支持体4のうち樹脂フィルムの搬送方向に対して塗工バー3より下流側に位置する支持体が第3の間隙以外からは直接見えなくなるように設けた。つまり、図2の距離41、42、43はそれぞれ2mm、10mm、245mm、図3のh5(下流側の支持体表面と堰21の先端との鉛直方向の距離)は3.3mmとした。
【0049】
評価方法は、塗布後に横延伸機で5735±70mmに伸ばされた樹脂フィルムを搬送方向長さ2m分を1枚採取し、このサンプルを暗室にて3波長蛍光灯をあてて目視観察により塗布抜け欠点とスジ状欠点を確認した。塗布抜け欠点は球状の気泡が塗液と共に樹脂フィルムに塗布された後はじけ、その後横延伸されるので楕円状の欠点(長径:1〜10mm、短径:0.3〜3mm)として確認できる。さらに、この部分は塗布厚みが薄いため、3波長蛍光灯下で色ムラとしても確認できる。スジ状欠点は塗布部において、図1の液だまり32が乱れた場合等に発生するもので、樹脂フィルムの搬送方向にでる太さ5〜20mm程度の線状の欠点である。この部分も塗布厚みが薄いので、3波長蛍光灯下で線状の色むらとして確認できる。上記塗布抜け欠点はサンプルにおける個数を数えて1m当たりの個数を計算し、スジ状欠点はサンプルにおいて長さ10mm以上のものの本数を数えて評価結果とした。これらの欠点のうち、塗布抜け欠点は少ないほど良いが、5個/m以下であれば製品として出荷可能である。ただし、スジ状欠点は1本でもあれば製品として出荷できない。さらに、塗布時の容器周辺の様子を目視観察した。特に、懐中電灯を容器周辺にあてて気泡発生状況を目視観察した。直径が0.1mm程度の大きさであれば懐中電灯を当てることで目視にて確認することができる。
【0050】
本装置で塗布を行った際、容器内での気泡の発生は見られなかった。また、塗布後のサンプルにスジ状欠点はなく、塗布抜け欠点も0.2個/mと少量であり、製品として出荷可能な高品質なものであった。
[実施例2]
堰21を設けないこと以外は実施例1と同じにして塗布を行ったところ、樹脂フィルムの搬送方向下流側の液面(図5における液面12に相当する部分)が脈動した。スジ状欠点はなく、目視では容器内での気泡の発生は見られなかった。塗布後のサンプルには塗布抜け欠点が4個/m発見されたが、許容範囲内であり製品として出荷可能であった。
[実施例3]
堰21の設置において、塗工バー3と堰21と支持体4のみを鉛直上方から見たとき、支持体4のうち樹脂フィルムの搬送方向に対して塗工バー3より下流側に位置する支持体が第3の間隙以外から直接見えるように設けた以外は実施例1と同様にして塗布を行った。堰21の設置状況について図18を用いて説明する。図18は本実施例における塗布装置の上面図であるが、記号41の長さを3mmとした以外は実施例1と同じとした。本実施例においては、樹脂フィルムの搬送方向下流側の液面(図5における液面12に相当する部分)が脈動した。塗布後のサンプルにスジ状欠点はなく、目視では容器内での気泡の発生は見られなかった。また、塗布抜け欠点が2.2個/m発見されたが、許容範囲内であり製品として出荷可能であった。
[実施例4]
第3の間隙を1.1mmにした以外は実施例1と同様にして塗布を行った。その結果、樹脂フィルムの搬送方向下流側の液面(図5における液面12に相当する部分)が脈動した。塗布後のサンプルにスジ状欠点はなく、目視では容器内での気泡の発生は見られなかった。また、塗布抜け欠点が1.6個/m発見されたが、許容範囲内であり製品として出荷可能であった。
[比較例1]
上流側上端部22、下流側上端部23、堰21を設けないこと以外は実施例1と同様にして塗布を行ったところ、図8のように、樹脂フィルムの搬送方向下流側の液面12が塗工バーと支持体との接触部16まで下降し、容器内に大量の気泡が発生した。ポンプの吐出量を35kg/分まで増やしたが液面12の下降を防止できなかった。塗布後のサンプルにスジ状欠点はなかったが、塗布抜け欠点は19個/m発見され、製品として出荷不可能であった。
[比較例2]
第1の間隙を4mmとした以外は実施例1と同様にして塗布を行ったところ、比較例1同様、液面12が塗工バーと支持体との接触部まで下降し、容器内で大量の気泡が発生した。しかしポンプの吐出量を20kg/分まで増やすことで液面12を下流側上端部の先端位置まで上昇させることが出来た。この時、容器内での気泡発生は見られず、塗布後のサンプルにも塗布抜け欠点は0.4個/mと少量であった。しかし、塗工バーの上流側にできる液だまり(図1に示す32の部分)が揺れることで発生したと思われるスジ状欠点が塗布後のサンプルに7本確認され、製品として出荷不可能であった。
[比較例3]
上流側上端部22の傾斜角度を8度とした以外は実施例1と同様にして塗布を行った。容器内での気泡発生は見られず、塗布後のサンプルにも塗布抜け欠点は0.5個/mと少量しかなかった。しかし第1の間隙から漏洩した塗液が上流側上端部の上面に留まって樹脂フィルムと接触し、塗布後のサンプルにスジ状欠点が8本確認されたため、製品として出荷不可であった。ポンプの吐出量を減らすことで上流側上端部の上面に留まった塗液とフィルムとの接触を避けることができたが、ポンプの吐出量を減らすと液面12が降下して容器内に大量の気泡が発生したため、ポンプの吐出量調整は断念した。
[比較例4]
第2の間隙を3mmとした以外は実施例1と同様にして塗布を行ったところ、比較例1同様、液面12が塗工バー3と支持体4との接触部まで下降し、容器内で大量の気泡が発生した。しかしポンプの吐出量を22kg/分まで増やすことで液面12を下流側上端部の先端位置まで上昇させることが出来た。この時、容器内での気泡発生は見られず、塗布後のサンプルにも塗布抜け欠点は0.6個/mと少量しかなかった。しかし、第2の間隙から漏洩した塗液が塗布面に接触し、塗布後のサンプルにスジ状欠点が8本確認ため、製品として出荷不可能であった。
[比較例5]
下流側上端部23の傾斜角度を8度とした以外は実施例1と同様にして塗布を行った。容器内での気泡発生は見られず、塗布後のサンプルにも塗布抜け欠点は0.3個/mと許容範囲内であった。しかし第1の間隙から漏洩した塗液が下流側上端部の上面に留まって塗布面と接触し、スジ状の欠点が4本発生したため、製品として出荷不可であった。ポンプの吐出量を減らすことで上流側上端部の上面に留まった塗液とフィルムとの接触を避けることができたが、ポンプの吐出量を減らすと液面12が降下して容器内に大量の気泡が発生したため、ポンプの吐出量調整は断念した。
[まとめ]
上記の実施例および比較例を表1にまとめて示す。実施例1は上流側上端部22、下流側上端部23と堰21をクレームで規定したとおりに設け、製品として出荷可能な高品質なサンプルを得ることができた。実施例2〜4は堰21を用いない、もしくは設置位置がクレームで規定した範囲から逸脱している場合のテスト結果であり、サンプルは製品として出荷可能な品質ではあるが、塗布抜け欠点の数が実施例1より多いことから、堰21をクレームで規定した位置に設置することがより好ましいといえる。比較例1は上流側上端部22、下流側上端部23、堰21を設けない場合のテスト結果である。サンプルには欠点が多く、製品として出荷不可能であったため、各上端部および堰を設置することが重要であるといえる。比較例2〜5は上流側上端部22および下流側上端部23の設置位置がクレームで規定した範囲から逸脱している場合のテスト結果であり、いずれもポンプの吐出量を調整して気泡の噛み込みを防ごうと試みたが、スジ状欠点が発生したため、上流側上端部22および下流側上端部23はクレームで規定した位置に設置することが重要であるといえる。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、ロッドコート法に限らず、ロールコート法などあらゆる塗布法に応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態の概略断面図である。
【図2】図1をZ方向から見た上面図である。
【図3】図1の拡大図である。
【図4】図2をW方向から見た側面図である。
【図5】図1の塗布装置で塗布を行った際の塗工バー付近の拡大図である。
【図6】特許文献3の技術を用いて連続搬送するウェブに塗工バーを用いて塗液を塗布する塗布装置の概略断面図である。
【図7】図6の装置で塗布を行った際の塗工バー付近の拡大図である。
【図8】図6の装置で塗布を行った際の塗工バー付近の拡大図である。
【図9】ウェブの製造工程の一形態を示した概略図である。
【図10】図9のウェブの製造工程中にインラインで塗布を行う際の工程をしめした概略図である。
【図11】本発明の別の実施形態を示した概略断面図である。
【図12】本発明の別の実施形態を示した概略断面図である。
【図13】従来の塗布技術を示した概略図である。
【図14】従来の塗布技術を示した概略図である。
【図15】従来の塗布技術を示した概略図である。
【図16】従来の塗布技術を示した概略図である。
【図17】塗工バー表面の概略図である。
【図18】比較例1における塗布装置の上面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 容器
2 塗液
3 塗工バー
4 支持体
5 回転ローラ
6 搬送ローラ
7 基板
8 ウェブ
11 随伴流
12 液面
13 液面と塗工バーの接点
14 気泡
15 塗布抜け状の欠点
16 塗工バーと支持体の接点
17 ロッド
18 ワイヤー
20、20a、20c、20d 供給口
20b 排出口
21 堰
22 上流側上端
23 下流側上端
24 第1の間隙
25 第2の間隙
26 第3の間隙
30 容器側面と塗工バーとの隙間
32 液だまり
35 V字型の断面を有する支持体
36 ロール
37 板
38 ピックアップロール
39 仕切り堰
40 気泡
41 支持体と堰との距離
42 支持体と堰との距離
43 支持体と堰との距離
3−1 塗液付着用バー
3−2 計量用バー
α 巻付け角
β 支持体の設置角度
γ 堰の傾斜角度
h1 下流側の支持体表面とウェブとの鉛直方向の距離
h2 上流側の支持体表面とウェブとの鉛直方向の距離
h3 下流側の支持体表面と下流側上端部先端との鉛直垂直方向の距離
h4 下流側上端部先端とウェブとの鉛直方向の距離
h5 下流側の支持体表面と堰21の先端との鉛直方向の距離
a ウェブと塗工バーの接点
A 区画
B 区画
C 区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗液導入口を有する容器と、該容器の上部に該容器の長手方向に長手方向を有する開口部を形成する上流側上端部および下流側上端部と、前記開口部に前記上流側上端部と前記下流側上端部とに挟まれるように設けられ前記開口部の長手方向に回転軸方向を向けて配置された回転可能な塗工バーと、前記塗工バーの長手方向に沿って間欠的に複数配置され、前記容器内で前記塗工バーを下方から支持する回転可能な支持体とを有する塗布装置を用いて、前記容器に前記塗液導入口から塗液を供給しつつ前記塗液に塗工バーを浸し、該塗工バーを所定の速度で前記上流側から前記下流側へ搬送されるウェブに押し当て、前記塗工バーでかきあげた前記塗液を前記ウェブに塗布する塗布方法であって、前記各上端部として、前記各上端部上面の少なくとも一部が開口部側から上流側方向および下流側方向に離れるにつれて水平方向から下方に10°以上90°以下だけ傾斜しており、かつ前記塗工バーとの間の各間隙のうち、前記上流側に位置する第1の間隙が3mm以下であり、前記下流側に位置する第2の間隙が2mm以下であるものを用い、前記容器への前記塗液の供給は、前記開口部と前記塗工バーとの間から前記各上端部の上面に前記塗液を漏洩させるように行うことを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記容器内に、前記塗工バーの前記下流側に塗液に没した状態で設けられ、前記塗工バーおよび前記支持体の回転によって発生する随伴流が前記第2の間隙へ向かって流れるのを抑制するための堰部材を用いることを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記堰部材として、該堰部材と前記塗工バーの外周面との隙間である第3の間隙が1mm以下で前記塗工バーの長手方向に伸びる端部を有するものを用い、かつ前記各上端部と前記ウェブと前記塗液のない状態で、前記塗工バーと前記堰と前記支持体を鉛直上方から見たとき、該支持体のうち前記塗工バーの回転軸を通過する鉛直面に対して前記堰側に回転軸があるものが、前記第3の間隙以外の部分からは直接見えないように設けることを特徴とする請求項1または2に記載の塗布方法。
【請求項4】
前記支持体として、該支持体の軸方向の長さが3〜25mmのものを塗工バーの長手方向に沿って千鳥状に配置することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塗布方法。
【請求項5】
塗布導入口を有する容器と、該容器の上部に前記容器の長手方向に長手方向を有する開口部を形成する上流側上端部および下流側上端部と、前記開口部に前記上流側上端部と前記下流側上端部とに挟まれるように設けられ前記開口部の長手方向に回転軸方向を向けて配置された回転可能な塗工バーと、前記塗工バーの長手方向に沿って間欠的に複数配置され、前記容器内で前記塗工バーを下方から支持する回転可能な支持体と、前記開口部と前記塗工バーとの間から前記各上端部の上面に前記塗液を漏洩させるように前記容器内に塗液を供給する塗液供給手段とを有し、前記塗工バーを所定の速度で前記上流側から前記下流側へ搬送されるウェブに押し当て、前記塗工バーでかきあげた前記塗液を前記ウェブに塗布する塗布装置であって、前記各上端部上面の少なくとも一部が開口部側から上流側方向および下流側方向に離れるにつれて水平方向から下方に10°以上90°以下だけ傾斜しており、かつ前記塗工バーとの間の各間隙のうち、上流側に位置する第1の間隙が3mm以下であり、対して下流側に位置する第2の間隙が2mm以下であることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
前記容器内に、前記塗工バーの前記下流側に塗液に没した状態で設けられ、前記塗工バーおよび前記支持体の回転によって発生する随伴流が前記第2の間隙へ向かって流れるのを抑制するための堰部材を有することを特徴とする請求項5に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記堰部材は、前記塗工バーの外周面との第3の間隙が1mm以下で前記塗工バーの長手方向に伸びる端部を有するものであり、かつ前記各上端部と前記ウェブと前記塗液のない状態で、前記塗工バーと前記堰と前記支持体を鉛直上方から見たとき、該支持体のうち前記塗工バーの回転軸を通過する鉛直面に対して前記堰側に回転軸があるものが、前記第3の間隙以外の部分からは直接見えないように設けられたものであることを特徴とする請求項5または6に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記支持体の軸方向の長さが3〜25mmであり、かつ前記塗工バーの長手方向に沿って千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−238082(P2008−238082A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83855(P2007−83855)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】