説明

塗布方法及び調光レンズの製造方法

調光機能を有する塗布液を、必要最小限の塗布液量で、均一に且つ塗り残しなくレンズに塗布して調光レンズを製造すること。
眼鏡レンズ1を回転させながら、調光機能を備えたコーティング液9を眼鏡レンズの塗布面2に滴下して塗布し、調光機能を備えた調光膜を塗布面に形成する調光レンズの製造方法であって、上記コーティング液の滴下は、眼鏡レンズの塗布面における外周近傍にリング状にコーティング液を滴下(リング状滴下箇所25)した後、この外周近傍から眼鏡レンズの幾何学中心または光学中心方向へ向かって螺旋状にコーティング液を滴下(螺旋状滴下箇所26)するものであり、上記塗布面が上に凸の曲面形状であり、上記コーティング液の粘度が、25℃において25〜500cpsであるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗布体に塗布液を塗布する塗布方法、及び調光機能を有する塗布液をレンズに塗布し、その塗布層を硬化させて調光レンズを製造する調光レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズに塗布液(コーティング液)を塗布する塗布装置が特許文献1に記載されている。この塗布装置では、回転駆動されるレンズホルダに眼鏡レンズを保持させ、塗布液を滴下するディスペンサを上記眼鏡レンズの直上に位置付け、この状態で眼鏡レンズを回転させながら、ディスペンサから塗布液を滴下して、遠心力の作用で眼鏡レンズの表面に塗布液を一様に塗布し、その塗布層を硬化させて機能膜を施している。
【特許文献1】特開2002‐177852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上述のようにして塗布して施される機能膜(コーティング膜)は、その膜厚が3μm程度の薄膜であり、このような薄膜の形成に関しては、上述の塗布方法が優れている。
【0004】
しかし、調光機能を有する塗布液のように粘度が高く、しかも眼鏡レンズの表面に厚く塗布しなければならない塗布液の場合には、上述の塗布方法では、眼鏡レンズの表面に均一に、且つ塗り残し無く塗布液を塗布することができない。
【0005】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、必要最小限の塗布液量で、均一に且つ塗り残しなく塗布できる塗布方法を提供することにある。また、本発明の目的は、調光機能を有する塗布液を、必要最小限の塗布液量で、均一に且つ塗り残しなくレンズに塗布して、調光膜を塗布面上に施したレンズを製造する調光レンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る塗布方法は、被塗布体を回転させながら、当該被塗布体の塗布面に塗布液を滴下して塗布する塗布方法であって、上記塗布液の滴下は、上記被塗布体の上記塗布面における外周近傍にリング状に塗布液を滴下した後、この外周近傍から上記被塗布体の幾何学中心または光学中心方向へ向かって螺旋状に塗布液を滴下することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明に係る塗布方法は、請求項1に記載の発明において、上記被塗布体の塗布面が上に凸の曲面形状であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明に係る塗布方法は、請求項1または2に記載の発明において、上記塗布液の粘度が25℃において25〜500cpsであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明に係る調光レンズの製造方法は、レンズを回転させながら、調光機能を備えた塗布液を上記レンズの塗布面に滴下して塗布し、調光機能を備えた塗布膜を上記レンズ塗布面に形成する調光レンズの製造方法であって、上記塗布液の滴下は、上記レンズの上記塗布面における外周近傍にリング状に塗布液を滴下した後、この外周近傍から上記レンズの幾何学中心または光学中心方向へ向かって螺旋状に塗布液を滴下することを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に記載の発明に係る調光レンズの製造方法は、請求項4に記載の発明において、上記レンズの塗布面が上に凸の曲面形状であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に記載の発明に係る調光レンズの製造方法は、請求項4または5に記載の発明において、上記塗布液の粘度が25℃において25〜500cpsであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1乃至3のいずれかに記載の発明によれば、被塗布体の塗布面における外周近傍に塗布液をリング状に滴下して塗布することから、この外周近傍において塗布液を均一に、且つ塗り残し無く塗布できる。しかも、被塗布体の塗布面における外周近傍から被塗布体の幾何学中心または光学中心方向へ向かって塗布液を螺旋状に滴下して塗布することから、被塗布体の塗布面が上に凸の曲面形状であり、この曲面に凸面カーブの相違や、球面または非球面の相違があっても、この被塗布体の塗布面に塗布液を均一に塗布できる。これらの結果、被塗布体の塗布面における外周近傍及びその内側に、粘度の高い(25℃において25〜500cps)塗布液であっても、数十μmの厚膜の塗布膜を均一に且つ塗り残し無く塗布できる。
【0013】
また、被塗布体の塗布面における外周近傍から被塗布体の幾何学中心または光学中心方向へ向かって塗布液を螺旋状に滴下して塗布することから、既に滴下されて遠心力により流動している塗布液上に新たに塗布液が滴下されて、この新たに滴下された塗布液が無駄に排出されることが無く、滴下される塗布液は常に、被塗布体の塗布面の未だ塗布液が存在しない箇所に塗布されるので、上述のように無駄に排出されず、必要最小限の塗布液量とすることができる。
【0014】
請求項4乃至6のいずれかに記載の発明によれば、レンズの塗布面における外周近傍に、調光機能を備えた塗布液をリング状に滴下して塗布することから、この外周近傍において塗布液を均一に、且つ塗り残し無く塗布できる。しかも、レンズの塗布面における外周近傍からレンズの幾何学中心または光学中心方向へ向かって、調光機能を備えた塗布液を螺旋状に滴下して塗布することから、レンズの塗布面が上に凸の曲面形状であり、この曲面に凸面カーブの相違や、球面または非球面の相違があっても、このレンズの塗布面に塗布液を均一に塗布できる。これらの結果、レンズの塗布面における外周近傍及びその内側に、粘度の高い(25℃において25〜500cps)塗布液であっても、数十μmの厚膜の塗布膜(調光機能を備えた塗布膜)を均一に、且つ塗り残し無く塗布できる。
【0015】
また、レンズの塗布面における外周近傍からレンズの幾何学中心または光学中心方向へ向かって、調光機能を備えた塗布液を螺旋状に滴下して塗布することから、既に滴下されて遠心力により流動している塗布液上に新たに塗布液が滴下されて、この新たに滴下された塗布液が無駄に排出されることがなく、滴下される塗布液は常に、レンズの塗布面の未だ塗布液が存在しない箇所に塗布されるので、上述のように無駄に排出されず、必要最小限の塗布液量とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る調光レンズの製造方法の一実施の形態を実施する塗布装置を概略して示す構成図である。
【0017】
この図1に示す塗布装置10は、被塗布体としての眼鏡レンズ1を吸着して保持するスピンホルダ11と、眼鏡レンズ1の塗布面2へ塗布液としてのコーティング液9(図3)を滴下する滴下装置としてのディスペンサ12と、制御用パーソナルコンピュータを備えた制御装置13とを有して構成され、この制御装置13が、眼鏡レンズ1の形状データを格納したデータ管理サーバ14に通信ケーブル24を介して接続されている。
【0018】
上記眼鏡レンズ1は、図2に示すように、塗布面2となる表面が上に凸の曲面形状(凸面形状)に、また、裏面3が凹面形状にそれぞれ形成されている。この裏面3に上記スピンホルダ11(図1)のOリング15(図2)が接触し、このスピンホルダ11は、Oリング15を用いて眼鏡レンズ1を負圧により吸着保持する。このスピンホルダ11は、眼鏡レンズ1に対応して2台設置され、それぞれがスピンモータ16により回転駆動される。
【0019】
上記ディスペンサ12も、図1に示すように、眼鏡レンズ1に対応して2台設置される。それぞれのディスペンサ12は、ディスペンサモータ17の回転により、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1に対し昇降可能に設けられる。また、これら2台のディスペンサ12は、スライドモータ18の駆動により、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1の直径方向に、同時に水平移動可能に設けられる。尚、これら2台のディスペンサ12は、図示しない昇降機構に取り付けられて、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1に対し全体として昇降可能に構成される。
【0020】
各ディスペンサ12には、それぞれのノズル20近傍にエッジへら21が、ディスペンサ12に固定して取り付けられる。また、各スピンホルダ11のそれぞれの近傍にエッジスポンジ22が、エッジスポンジシリンダ(不図示)を用いて、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1の端面4(エッジ)に対し進退可能に設置されている。
【0021】
これらのエッジへら21及びエッジスポンジ22は、眼鏡レンズ1の塗布面2にディスペンサ12からコーティング液9が滴下された後で、このコーティング液9を塗布面2に平滑化させる工程で機能するものである。つまり、エッジへら21はコーティング液9を平滑化させる間に、ディスペンサモータ17の作用により、眼鏡レンズ1の塗布面2上におけるコーティング液9に上方から下方へ向かって押し当てられて、余剰のコーティング液9を掻き取る。また、エッジスポンジ22は、同様にコーティング液9を平滑化させる間に、眼鏡レンズ1の端面4に押し当てられて、この端面4にコーティング液9を塗布すると共に、余剰のコーティング液9を吸い取って取り除く。
【0022】
前記制御装置13は、スピンモータ16、ディスペンサモータ17、スライドモータ18及びエッジスポンジシリンダ(不図示)等に通信ケーブル24を経て接続され、これらのモータおよびシリンダの作動を制御する。また、この制御装置13は、ディスペンサ12から滴下されるコーティング液9の滴下量を、コーティング液9の粘度に応じて制御する。
【0023】
ここで、コーティング液9は、紫外線を含む光の照射により変色する調光機能(フォトクロミック機能)を有する液体である。このコーティング液9は、例えばフォトクロミック化合物、ラジカル重合性単量体及びアミン化合物を含んでなり、上記ラジカル重合性単量体が、シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含むものである。
【0024】
更に、具体的には、このコーティング液9は、γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン5重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート20重量部、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン35重量部、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート10重量部、平均分子532のポリエチレングリコールジアクリレート20部、グリシジルメタクリレート10部からなる重合性単量体100重量部に、クロメン1を3重量部、N−メチルジエタノールアミンを5重量部、LS765〔ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ヒ゜ペリジル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ヒ゜ペリジル)セバケートとの混合物;以下同様〕を5重量部、重合開始剤としてCGI184〔1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;以下同様〕を0.4重量部及びCGI403〔ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド;以下同様〕を0.1重量部添加して組成されたものである。
【0025】
或いは、このコーティング液9は、γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン5重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート20重量部、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン35重量部、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート15重量部、平均分子532のポリエチレングリコールジアクリレート15部、グリシジルメタクリレート10部からなる重合性単量体100重量部に、クロメン1を3重量部、N−メチルジエタノールアミンを5重量部、LS765を5重量部、重合開始剤としてCGI184を0.4重量部及びCGI403を0.1重量部添加して組成されたものである。
【0026】
或いは、このコーティング液9は、γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン5重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート20重量部、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン35重量部、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート20重量部、平均分子532のポリエチレングリコールジアクリレート10部、グリシジルメタクリレート10部からなる重合性単量体100重量部に、クロメン1を3重量部、N−メチルジエタノールアミンを5重量部、LS765を5重量部、重合開始剤としてCGI184を0.4重量部及びCGI403を0.1重量部添加して組成されたものである。
【0027】
上述のようなコーティング液9は、一般のコーティング液に比べて粘性が高く、25℃で25〜500cpsである。そして、この粘性の高いコーティング液9が、前記塗布装置10を用いて眼鏡レンズ1の凸面形状の塗布面2(図2参照)に数10μm(例えば30μm)の膜厚でコーティングされて、調光膜(不図示)が形成される。コーティング液9をこのように厚くコーティングして調光膜を形成するのは、この調光膜を有する眼鏡レンズ1(即ち調光レンズ)に長期間調光機能を持続させるためである。この調光機能を有する調光膜の膜厚は、10〜100μm、更に好ましくは20〜50μmの範囲が好ましい。
【0028】
また、紫外線の作用で調光機能を発揮するコーティング液9を眼鏡レンズ1の凸面形状の塗布面2に塗布し、裏面3に塗布しないのは次の理由による。即ち、光は眼鏡レンズ1の塗布面2である表面から入射して裏面3から出射する。近年の眼鏡レンズ1には、紫外線吸収剤を含有しているものが多いことから、裏面3に至った光には紫外線がほとんど含まれていないことになる。従って、調光機能を有するコーティング液9を裏面3に塗布しても、このコーティング液9からなる調光膜が調光機能を発揮しないことになる。そこで、調光膜に十分な調光機能を発揮させるために、調光機能を有するコーティング液9を眼鏡レンズ1の凸面形状の塗布面2に塗布するのである。
【0029】
前記データ管理サーバ14は、眼鏡レンズ1の形状データを、眼鏡レンズ1毎に格納するものである。この形状データとしては、眼鏡レンズ1のレンズ外径D1、眼鏡レンズ1の塗布面2における凸面カーブBC、眼鏡レンズ1の裏面3における凹面カーブB2、眼鏡レンズ1の中心肉厚CT及び眼鏡レンズ1の屈折率nなどである。
【0030】
さて、上述の塗布装置10を用いて眼鏡レンズ1の凸面形状の塗布面2に塗布膜としての調光膜を塗布するには、制御装置13の制御により、スピンホルダ11に眼鏡レンズ1を保持した状態でこのスピンホルダ11を回転させながら、この眼鏡レンズ1の上方に位置するディスペンサ12のノズル20から、調光機能を有するコーティング液9を滴下させ、この間にディスペンサ12のノズル20を、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1に接触させない状態で、この眼鏡レンズ1の外周近傍に一旦静止させ、次にこの外周近傍から眼鏡レンズ1の幾何学中心または光学中心方向へ向かって、当該眼鏡レンズ1に対して非接触状態で直線移動させる。このスピンホルダ11による眼鏡レンズ1の回転とノズル20の移動動作によって、ディスペンサ12のノズル20からのコーティング液9の滴下は、図3に示すように、眼鏡レンズ1の塗布面2における外周近傍にリング状にコーティング液9を滴下した後、この外周近傍から眼鏡レンズ1の幾何学中心または光学中心方向へ向かって螺旋状にコーティング液9を滴下することになる。図3中の符号25がコーティング液9のリング状滴下箇所を示し、符号26が、コーティング液9の螺旋状滴下箇所を示す。
【0031】
ここで、上記眼鏡レンズ1の外周近傍とは、眼鏡レンズ1の外周(つまり端面4)から内方へ寸法β(例えば10mm)至った領域をいう。コーティング液9は、当該領域のうち、眼鏡レンズ1の外周(端面4)から内方へ寸法β(例えば10mm)至った位置に、リング状に例えば1周滴下される。
【0032】
スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1の上方におけるディスペンサ12のノズル20の初期位置と、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9をリング状に滴下するときのディスペンサ12のノズル20位置と、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9を螺旋状に滴下するときのディスペンサ12におけるノズル20の移動軌跡とは、データ管理サーバ14に格納された眼鏡レンズ1の形状データに基づいて制御装置13が決定する。
【0033】
つまり、図2に示すように、まず、データ管理サーバ14に格納された眼鏡レンズ1の屈折率nと、眼鏡レンズ1の裏面3の凹面カーブB2とから、次式を用いて眼鏡レンズ1の裏面3における曲率半径Rを算出する。
R=1000×(n−1)/B2
次に、上記曲率半径Rを用いて、スピンホルダ11におけるOリング15の頂点から眼鏡レンズ1における裏面3の頂点Pまでの距離Lを次式から算出する。
【数1】

次に、データ管理サーバ14に格納された眼鏡レンズ1の中心肉厚CT(即ち眼鏡レンズ1の裏面3における頂点Pと塗布面2の頂点Oとの距離)と上記距離Lとから、眼鏡レンズ1の塗布面2における上記頂点O位置を算出する。
【0034】
眼鏡レンズ1に対するディスペンサ12のノズル20の初期位置は、そのノズル20の先端が、上記眼鏡レンズ1の塗布面2における頂点Oの直上で、この頂点Oから所定距離α(例えば5〜10mm)上方の位置になるよう設定される。
【0035】
また、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9をリング状に滴下するときのディスペンサ12のノズル20位置は、データ管理サーバ14に格納された眼鏡レンズ1のレンズ外径D1及び眼鏡レンズ1の塗布面2の凸面カーブBCを用いて決定する。つまり、まず、ノズル20の初期位置の先端を通る水平線Aに対し、当該ノズル20の初期位置の先端から眼鏡レンズ1の塗布面2側に所定角度θ傾斜した動作直線Bを設定する。次に、ノズル20の先端が上記動作直線Bに沿って移動したときに、このノズル20が眼鏡レンズ1の塗布面2に接触しないように、眼鏡レンズ1の塗布面2の凸面カーブBCを考慮して上記所定角度θを設定する。そして、眼鏡レンズ1の外周から内方に寸法βの位置に引いた垂直線Cと上記動作直線Bとの交点Qがノズル20の先端位置となるように、コーティング液9をリング状に滴下するときのディスペンサ12のノズル20位置を決定する。
【0036】
更に、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9を螺旋状に滴下するときのディスペンサ12におけるノズル20の移動軌跡は、コーティング液9をリング状に滴下するときのノズル20位置を上述のように決定する際に設定した動作直線Bである。ディスペンサ12のノズル20から眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9を螺旋状に滴下する際には、ノズル20の先端が上記動作直線Bに沿って、眼鏡レンズ1の外周の上記交点Qから当該眼鏡レンズ1の幾何学中心または光学中心方向へ向かって直線移動する。
【0037】
ところで、ディスペンサ12のノズル20からコーティング液9を滴下する際においては、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1の回転状態と、ディスペンサ12の移動軌跡(動作直線B)に沿う移動状態は、制御装置13により眼鏡レンズ1の形状データ、特に眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に応じて決定される。
【0038】
本実施の形態では、ディスペンサ12のノズル20からコーティング液9を眼鏡レンズ1の塗布面2にリング状に滴下する際には、眼鏡レンズ1の回転数が一定の回転数(例えば15rpm)で、眼鏡レンズ1の回転時間が当該眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に応じて例えば3〜4秒に設定される。一例として、眼鏡レンズ1のレンズ外径D1が大きいときには、スピンホルダ11に保持された当該眼鏡レンズ1の回転時間が長く設定される。
【0039】
また、ディスペンサ12のノズル20からコーティング液9を眼鏡レンズ1の塗布面2に螺旋状に滴下する際には、眼鏡レンズ1の回転数が一定回転数(例えば60rpm)で、眼鏡レンズ1の回転時間が当該眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に応じて、例えば7〜12秒に設定される共に、ディスペンサ12の移動速度が一定速度で、ディスペンサ12の移動時間が眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に応じて設定される。一例として、眼鏡レンズ1のレンズ外径D1が大きいときには、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1の回転時間が長く、ディスペンサ12の移動時間が長く設定される。
【0040】
上述のように、眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に応じて眼鏡レンズ1の回転時間やディスペンサ12の移動時間を変更して決定するのではなく、眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に応じて、眼鏡レンズ1の回転数やディスペンサ12の移動速度を変更して決定してもよく、或いは、眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に応じて、眼鏡レンズ1の回転数および回転時間を共に変更し、ディスペンサ12の移動速度及び移動時間を共に変更してそれぞれ決定してもよい。
【0041】
このディスペンサ12のノズル20からコーティング液9を滴下する際においては、コーティング液9の温度変化によりコーティング液9の粘度が変化しても、ノズル20から滴下されるコーティング液9の滴下流量が一定となるように、ディスペンサ12の内部圧力が調整される。例えば、コーティング液9の温度が高くなってこのコーティング液9の粘度が低下したときには、ディスペンサ12の内部圧力を減少させて、ノズル20からのコーティング液9の滴下流量が一定になるよう調整される。
【0042】
また、ディスペンサ12のノズル20からコーティング液9を滴下した後においては、眼鏡レンズ1の塗布面2上のコーティング液9を平滑化させるために、回転数がそれぞれ異なって設定された複数の平滑ステップのそれぞれの回転数で、スピンホルダ11により眼鏡レンズ1を回転する。これらの各平滑ステップにおいては、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1の回転状態は、制御装置13により、眼鏡レンズ1の形状データ(特に眼鏡レンズ1の塗布面2における凸面カーブBC)及びコーティング液9の粘度に応じて決定される。
【0043】
本実施の形態では、各平滑ステップにおける眼鏡レンズ1の回転数は変更せず、眼鏡レンズ1の塗布面2の凸面カーブBCと、コーティング液9の温度変化による当該コーティング液9の粘度とに応じて、眼鏡レンズ1の塗布面2に滴下されたコーティング液9が流れ易いか否かを考慮し、各平滑ステップにおける眼鏡レンズ1の回転時間を変更して、眼鏡レンズ1の塗布面2上の調光膜を所定の膜厚に調整する。例えば、眼鏡レンズ1の凸面カーブBCが深く、且つコーティング液9の温度が高くなってこのコーティング液9の粘度が低下したときには、コーティング液9が眼鏡レンズ1の塗布面2上を流れ易くなるので、各平滑ステップにおける眼鏡レンズ1の回転時間を短くして、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティングされた調光膜が所定の膜厚となるように調整する。
【0044】
上述のように、眼鏡レンズ1の塗布面2における凸面カーブBC及びコーティング液9の粘度に応じて、各平滑ステップにおける眼鏡レンズ1の回転時間を変更して決定するのではなく、眼鏡レンズ1の塗布面2における凸面カーブBC及びコーティング液9の粘度に応じて、各平滑ステップにおける眼鏡レンズ1の回転数を変更して決定してもよく、或いは、眼鏡レンズ1の塗布面2における凸面カーブBC及びコーティング液9の粘度に応じて、各平滑ステップにおける眼鏡レンズ1の回転数と回転時間を共に変更して決定してもよい。
【0045】
次に、塗布装置10の制御装置13による眼鏡レンズ1へのコーティング液9のコーティング(塗布)動作を、図4のフローチャートを用いて説明する。
まず、移動装置(不図示)によりスピンホルダ11に移送された眼鏡レンズ1を、負圧の作用で当該スピンホルダ11に固定して保持する(ステップS1)。
【0046】
次に、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1の塗布面2における頂点O位置を、データ管理サーバ14に格納された当該眼鏡レンズ1の形状データ(レンズ外径D1)に基づいて算出し、この算出値を基準にディスペンサモータ17及びスライドモータ18を駆動してディスペンサ12を移動させ、ディスペンサ12のノズル20を眼鏡レンズ1の外周近傍、つまり眼鏡レンズ1の外周から内方へ寸法β至った位置に位置付ける(ステップS2)。
【0047】
この状態でスピンモータ16を駆動してスピンホルダ11を所定回転数(例えば15rpm)で回転させ、スピンホルダ11に保持された眼鏡レンズ1を回転させると共に、ディスペンサ12を動作させ、このディスペンサ12のノズル20からコーティング液9を眼鏡レンズ1の塗布面2における外周近傍の、当該眼鏡レンズ1の外周から内方に寸法β至った位置に、リング状に1周分滴下する(ステップS3)。
【0048】
次に、スピンモータ16を駆動してスピンホルダ11を所定回転数(例えば60rpm)で回転させると共に、ディスペンサモータ17及びスライドモータ18を駆動して、ディスペンサ12のノズル20の先端が動作直線Bに沿うように当該ノズル20を眼鏡レンズ1の中心(頂点O)へ向かって移動させ、このノズル20からコーティング液9を眼鏡レンズ1の塗布面2に螺旋状に滴下する(ステップS4)。これらのステップS3及びS4においては、眼鏡レンズ1のレンズ外径D1に基づいて、スピンホルダ11による眼鏡レンズ1の回転時間を決定する。
【0049】
その後、ディスペンサ12のノズル20からのコーティング液9の滴下を停止し、眼鏡レンズ1の回転を継続させ、または停止させた状態で所定時間待機し、滴下されたコーティング液9が眼鏡レンズ1の塗布面2に拡がって、この塗布面2に安定して塗布されるのを待つ(ステップS5)。
【0050】
次に、ディスペンサモータ17を駆動して、エッジへら21を眼鏡レンズ1の外周近傍の塗布面2上のコーティング液9に押し当て、更にエッジスポンジシリンダ(不図示)を駆動して、エッジスポンジ22を眼鏡レンズ1の端面4に押し当てる(ステップS6)。
【0051】
その後、スピンモータ16を駆動して複数、例えば6段階の平滑ステップを実行し、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティングされた調光膜を均一に平滑化する(ステップS7)。このステップS7においては、眼鏡レンズ1の塗布面2における凸面カーブBC及びコーティング液9の粘度に基づいて、各平滑ステップにおける眼鏡レンズ1の回転時間を決定する。
【0052】
尚、これらの平滑ステップは、眼鏡レンズ1の回転数が低い平滑ステップから順次高い平滑ステップへとその順序で実施され、眼鏡レンズ1の回転数が最高回転数である平滑ステップを実行した後は、眼鏡レンズ1の回転数が順次低くなる複数の平滑ステップがその順序で実施される。例えば、眼鏡レンズ1の最高回転数を600rpmとすると、眼鏡レンズ1の回転数がそれぞれ50rpm、150rpm、200rpm、600rpm、200rpm、150rpmの各平滑ステップがこの順序で実施される。
【0053】
ステップS7の各平滑ステップを実施する間に、エッジへら21が、眼鏡レンズ1の塗布面2上における余剰のコーティング液9を掻き取り、また、エッジスポンジ22が、眼鏡レンズ1の端面4にコーティング液9をコーティングすると共に、余剰のコーティング液9を吸い取って取り除く。
【0054】
この各平滑ステップを実行した後に、ディスペンサモータ17及びエッジスポンジシリンダ(不図示)を駆動して、エッジへら21及びエッジスポンジ22を眼鏡レンズ1から離反させ(ステップS8)、スピンモータ16の駆動を停止して眼鏡レンズ1の回転を停止させる。
【0055】
最後に、スピンホルダ11の負圧を解除して、スピンホルダ11による眼鏡レンズ1の吸着固定を解除する(ステップS9)。当該眼鏡レンズ1は、移送装置により乾燥工程へ移送される。尚、上記乾燥工程では、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティングされた調光膜が、窒素ガス雰囲気で、紫外線の照射により硬化されて乾燥される。
【0056】
以上のように構成されたことから、上記実施の形態によれば、次の効果(1)〜(5)を奏する。
(1)眼鏡レンズ1の塗布面2における外周近傍(外周から内方に寸法β至った位置)に、調光機能を備えたコーティング液9をリング状に滴下して塗布することから、この外周近傍においてコーティング液9を均一に、且つ塗り残し無く塗布できる。しかも、眼鏡レンズ1の塗布面2における外周近傍から眼鏡レンズ1の幾何学中心または光学中心方向へ向かって、調光機能を備えたコーティング液9を螺旋状に滴下して塗布することから、眼鏡レンズ1の塗布面2に凸面カーブBCの相違や、球面または非球面の相違があっても、この眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9を均一に塗布できる。これらの結果、眼鏡レンズ1の塗布面2における外周近傍及びその内側に、粘度の高い(25℃において25〜500cps)コーティング液9であっても、数10μm(例えば30μm)の膜厚の調光膜を均一に、且つ塗り残し無く塗布できる。
【0057】
(2)調光レンズ1の塗布面2における外周近傍(外周から内方に寸法β至った位置)から眼鏡レンズ1の幾何学中心または光学中心方向へ向かって、調光機能を備えたコーティング液9を螺旋状に滴下して塗布することから、既に滴下されて遠心力により流動しているコーティング液9上に新たにコーティング液9が滴下されて、この新たに滴下されたコーティング液が無駄に排出されることなく、滴下されるコーティング液9は常に、眼鏡レンズ1の塗布面2の未だコーティング液が存在しない箇所に塗布されるので、上述のように無駄に排出されず、必要最小限のコーティング液量とすることができる。
【0058】
(3)眼鏡レンズ1の形状データに基づき、ディスペンサ12のノズル20の位置を決定すると共に、このノズル20の移動軌跡を決定することから、これらのノズル20位置及びノズル20移動軌跡を、眼鏡レンズ1の位置を実際に測定してこの測定データに基づき決定する場合に比べ、短時間に決定できるので、塗布作業時間を全体として短縮できる。
【0059】
(4)ディスペンサ12のノズル20から眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9(調光機能を有するコーティング液9)をリング状もしくは螺旋状に滴下する際における眼鏡レンズ1の回転状態(回転時間、回転数)を、当該眼鏡レンズ1の形状データ、特に外径D1に応じて決定することから、眼鏡レンズ1の塗布面2にコーティング液9を、必要最小限の液量で塗り残し無く均一に塗布できる。
【0060】
(5)ディスペンサ12のノズル20からコーティング液9(調光機能を有するコーティング液9)を滴下した後における各平滑ステップでの眼鏡レンズ1の回転状態(回転時間、回転数)を、当該眼鏡レンズ1の塗布面2の形状データ、特に凸面カーブBC及びコーティング液9の粘度に応じて決定することから、これらの塗布面2の凸面カーブBC及びコーティング液9の粘度により、滴下されたコーティング液9が眼鏡レンズ1の塗布面2を流れ易い場合には、例えば眼鏡レンズ1の回転時間を短縮することによって、当該眼鏡レンズ1の塗布面2上のコーティング膜(調光膜)を所定の膜厚に調整することができる。
【0061】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、上記実施の形態では、被塗布体が眼鏡レンズ1の場合を述べたが、カメラや顕微鏡用などの光学機器のレンズに、調光機能を有するまたは有しないコーティング液を塗布する場合に、本発明を実施してもよい。また、被塗布体がシリコンウェハ、プリント配線基板、プレーナ型半導体素子、シャドウマスク、テレビ用反射防止板などであり、これらの被塗布体に塗布膜を塗布する場合に本発明を実施してもよい。
【0062】
また、本実施の形態では、眼鏡レンズ1において上に凸の曲面形状の塗布面2にコーティング液9を塗布するものを述べたが、平面形状または凹面形状の塗布面に塗布液を滴下して塗布する場合に、本発明を実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る調光レンズの製造方法の一実施の形態を実施する塗布装置を概略して示す構成図である。
【図2】図1のディスペンサと眼鏡レンズとの位置関係を概略して示す側面図である。
【図3】図1のディスペンサによるレンズ塗布面でのコーティング液の滴下状態を示す平面図である。
【図4】図1の塗布装置によりコーティング液をレンズ塗布面へ塗布する手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1 眼鏡レンズ(被塗布体)
2 塗布面
3 裏面
4 端面(外周)
9 コーティング液(塗布液)
10 塗布装置
11 スピンホルダ
12 ディスペンサ(滴下装置)
13 制御装置
14 データ管理サーバ
16 スピンモータ
17 ディスペンサモータ
18 スライドモータ
20 ノズル
25 リング状滴下箇所
26 螺旋状滴下箇所
D1 眼鏡レンズ1のレンズ外径
BC 眼鏡レンズの塗布面における凸面カーブ
B2 眼鏡レンズの裏面における凹面カーブ
CT 眼鏡レンズの中心肉厚
n 眼鏡レンズの屈折率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布体を回転させながら、当該被塗布体の塗布面に塗布液を滴下して塗布する塗布方法であって、
上記塗布液の滴下は、上記被塗布体の上記塗布面における外周近傍にリング状に塗布液を滴下した後、この外周近傍から上記被塗布体の幾何学中心または光学中心方向へ向かって螺旋状に塗布液を滴下することを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
上記被塗布体の塗布面が、上に凸の曲面形状であることを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
上記塗布液の粘度が、25℃において25〜500cpsであることを特徴とする請求項1または2に記載の塗布方法。
【請求項4】
レンズを回転させながら、調光機能を備えた塗布液を上記レンズの塗布面に滴下して塗布し、調光機能を備えた塗布膜を上記レンズ塗布面に形成する調光レンズの製造方法であって、
上記塗布液の滴下は、上記レンズの上記塗布面における外周近傍にリング状に塗布液を滴下した後、この外周近傍から上記レンズの幾何学中心または光学中心方向へ向かって螺旋状に塗布液を滴下することを特徴とする調光レンズの製造方法。
【請求項5】
上記レンズの塗布面が、上に凸の曲面形状であることを特徴とする請求項4に記載の調光レンズの製造方法。
【請求項6】
上記塗布液の粘度が、25℃において25〜500cpsであることを特徴とする請求項4または5に記載の調光レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/075109
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517694(P2005−517694)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001485
【国際出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】