説明

塗布液

【課題】カーボンナノチューブ(CNT)を塗料、コーティング剤、インキなどの種々の分散媒体に分散させた塗布液を提供する。
【解決手段】分散媒体中にCNTを分散させてなる塗布液において、上記CNTが、CNTを水性樹脂A中に分散させた後、水性樹脂Aを析出させて表面を樹脂Aにて処理したCNTであることを特徴とする塗布液。塗布液は、樹脂Aの水溶液または樹脂Aの水分散液(エマルジョンまたはサスペンジョン)であり、水性樹脂中には、樹脂A以外の樹脂Bが存在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下CNTと略す)を、塗料、コーティング剤、インキなどの種々の分散媒体に分散させた塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
CNTは直径0.4〜100nmで、長さが1〜数十μm程度の、平面構造のグラファイトを丸めて円筒状、すなわち、チューブ状構造の炭素の結晶である。その種類は多岐に亘り、例えば、単層のシングルウォールチューブ(以下SWNTと略す)、多層のマルチウォールチューブ(以下MWNTと略す)、DWNTの範疇に入る二層のダブルウォールチューブ(以下DWNTと略す)などがあり、また、その両端が封鎖されているものから、片末端が封鎖されているもの、両末端とも開いているものがあり、また、その丸め方の構造としてアームチェアー型などの構造にも種類がある。CNTの製造方法もアーク放電型、レーザー蒸発型、化学的気相成長法などがあり、それぞれ一長一短がある。
【0003】
また、CNTは次世代の材料として注目を浴びており、導電性があるため、導電塗料や帯電防止塗料などの今までにない用途開発が進められている。しかし、CNTは長いチューブ状であるがゆえに絡み合いが生じ、糸鞠状になっている。そこで、これらのCNTを塗布液の状態で物品に適用する際は、その糸鞠状を如何にほぐして分散させるかということ、およびその分散を如何に安定化できるかということが大きな技術課題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に前記したようにCNTはそのチューブ状の形状であるがゆえに絡み合いが生じており、CNTが1本1本に分散媒体中に分散させることが大きな課題となっている。例えば、CNTを塗料やインクに応用する場合には、CNTを液媒体に添加し、分散する必要があるが、CNTの嵩高さや吸油量の多さから、CNTはその1質量%程度以下の配合量で分散することが好ましく、従って低濃度のCNT分散液しか得られず、また、高濃度のCNT分散液を得るには、上記低濃度のCNT分散液から液媒体を留去して濃縮する必要があった。また、CNTを分散しやすくするために、特殊な界面活性剤やCNTの樹脂処理などを行い、分散させているものであるが、上記のようにCNTの嵩高さからCNTの配合量が少ないものであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水性樹脂中にCNTを分散して、その糸鞠状を解きほぐした状態で、樹脂を析出させてCNTを樹脂で処理することによって、上記の問題点を解決できることを見出した。
【0006】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、上記樹脂処理CNTに、必要に応じてさらに樹脂を追加混合して得られる樹脂処理CNTが、従来のCNT単独に比べて各種塗料、インキ、コーティング剤などの分散媒体に容易に分散できること、樹脂処理CNTは分散媒体に対して相溶性に優れ、熱安定性などの物性も優れていることを見いだした。
【0007】
すなわち、本発明は、分散媒体中にCNTを分散させてなる塗布液において、上記CNTが、CNTを水性樹脂A中に分散させた後、水性樹脂Aを析出させて表面を樹脂Aにて処理したCNTであることを特徴とする塗布液を提供する。
【0008】
上記本発明の塗布液においては、水性樹脂Aが樹脂Aの水溶液または樹脂Aの水分散液(エマルジョンまたはサスペンジョン)であること;水性樹脂A中には、樹脂A以外の樹脂Bが存在していること;樹脂Bが、水性樹脂A以外の水性樹脂、パウダー状、グラニュー状またはペレット状の樹脂であること;樹脂Aを析出させる方法が、pH変化による方法、貧溶剤による方法または温度変化による方法であること;および分散媒体が、水、有機溶剤、樹脂の溶液または光硬化性モノマーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗布液は、分散媒体中でCNTが1本1本にほぐれた状態に分散しているので、CNTの性能を十分発揮することができる。また、CNTを処理する樹脂として、塗料などのバインダーに相溶性があるものを選択でき、従って各種塗料のバインダーなどとの相溶性が良く、塗布性などの加工性や熱安定性などの物性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で用いるCNTとしては、従来公知のものが使用でき、特に限定されない。前記したSWNT、DWNT、MWNTなどの形状、末端の形状、その構造や各種製造方法で得られたのもの、それらの混合物でもすべてが使用でき、特にチューブが長く絡み合いが生じているCNTであれば、どのようなものでも使用できる。
【0011】
具体的には、SWNTのCNTとしては、外径が0.4nm〜100nm、長さは0.5μm〜500μmで、純度も50〜100%のもの、該CNTを、例えば、分子量が1,000未満のポリアミドベンゼンスルホン酸などでコーティングしてあるもの、アミノ基やポリアルキレングリコール基などの官能基を有する樹脂で処理されたものが挙げられる。また、MWNTおよびDWNTのCNTとしては、外径1〜100nm、内径0.1〜95nmであり、長さは0.5μm〜500μmのもの、同様に純度も50〜100%もの、樹脂処理してあるものなどが使用できる。また、これらの3種類のCNTが任意の割合で混合している混合CNTも使用できる。
【0012】
次にCNTを水系で分散処理するのに使用する水性樹脂Aについて説明する。水性樹脂Aとしては、樹脂Aが水または水と水溶性有機溶剤との混合溶剤中で析出することなく、均一溶解または分散しているものを使用する。該水性樹脂Aとしては、樹脂が水に溶解している樹脂水溶液、樹脂が非常に細かく微分散している樹脂水分散液、1μm程度以下までの粒子状になって乳化している樹脂エマルジョン、1μm以上の粒子となって懸濁状態である樹脂水懸濁溶液が挙げられる。
【0013】
上記水性樹脂A中に分散させるCNT量は特に限定されないが、前記したようにCNTそれ自体は、嵩高く、糸鞠状であって水性樹脂中に分散しにくいことから、水性樹脂溶液に添加するCNTの量は10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下の濃度である。CNT濃度が10質量%を超えると、分散液の初期流動性がなく、CNTの分散が困難である。
【0014】
上記樹脂Aとしては、従来公知の樹脂が使用でき、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニル脂肪酸エステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、石油系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ハロゲン化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリレート系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系重合体、キトサン系重合体など、単独または上記の2種またはそれ以上の樹脂を構成する単量体からなる共重合体或いは上記の重合体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。
【0015】
上記樹脂Aとしては、得られる樹脂処理CNTが、所望の分散媒体に溶解可能な樹脂が選択される。上記樹脂Aが該樹脂A単独で水溶性を持つものであればそのまま水溶液として使用し、樹脂Aが水溶性でない場合には、該樹脂に酸基、アミノ基、水酸基、ポリエチレングリコール基などの置換基を導入し、さらに酸基の場合は、それをアルカリ性物質にて中和さてイオン化し、アミノ基の場合は、酸性物質やハロゲン化炭化水素やアルキル硫酸にて中和または第4級アンモニウム塩にして水溶性にして使用することができる。
【0016】
また、樹脂Aが、分散液や乳化液の場合は、界面活性剤にて樹脂Aを分散または乳化させ、または前記の置換基を樹脂に少量導入することによって、樹脂Aの分散液や乳化液とすることができ、樹脂Aが、懸濁液の場合は、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンの如き水溶性樹脂や界面活性剤などによって、樹脂Aの微粒子水懸濁液とすることができる。
【0017】
上記樹脂Aは、CNT100質量部当たり0.5〜9,900質量部の範囲で使用する。樹脂Aの使用量が0.5質量部未満では十分なCNTの分散が得られず、一方、樹脂Aの使用量が9,900質量部を超えると、CNT濃度が0.1質量%未満になり、本発明の目的から外れる。また、本発明では、できるだけ少ない量の水性樹脂AでCNTを分散処理し、分散処理時に樹脂Aまたは他の樹脂Bをさらに添加してCNTと樹脂との混合物のCNT濃度を0.1〜50質量%にすることが好ましい。すなわち、CNTを水系分散媒体に分散させる時の水性樹脂Aの量(固形分)は、CNT100質量部当たり0.5〜500質量部、さらに好ましくは0.5〜300質量部である。
【0018】
また、本発明における上記の水性樹脂の水系とは、水単独または水と水溶性有機溶剤との混合物である。水溶性有機溶剤は、分散時のCNTの濡性を改善したり、糸鞠状のCNTをほぐし易くしたり、CNTの分散を助けるために使用する。水溶性有機溶剤としては、従来公知のものがいずれも使用できるが、特にグリコール系の溶剤が好ましい。グリコール系の溶剤としては、例えば、モノ、ジ、トリエチレングリコール、それらのモノ、ジアルキルエーテル、モノ、ジ、トリプロピレングリコール、それらのモノ、ジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0019】
特に水溶性有機溶剤としては、モノアルキルグリコールエーテル系溶剤が好ましく、特に炭素数4以上12以下のモノアルキルエーテルが好ましく、具体的にはブチルセロソルブエーテル、ヘキシルグリコールエーテル、ブチルジグリコールエーテル、ヘキシルジグリコールエーテル、ブチルカルビトールエーテル、へキシレンジグリコールエーテル、2−エチルヘキシルトリグリコールエーテルが挙げられる。また、上記有機溶剤は水溶性であるので、樹脂Aを析出後の樹脂処理CNTを洗浄する際に、樹脂組成物から洗い流れてしまい、また、揮発性もあるので乾燥で揮発して、組成物中に不純物として残りにくい。水溶性有機溶剤の使用量はCNTの分散時の水性分散媒体中で好ましくは0〜80質量%である。使用量が80質量%を超えると、水性樹脂Aが析出する場合がある。
【0020】
また、必要であればCNTの分散時に従来公知の界面活性剤を使用できる。界面活性剤としては、低分子量のアニオン活性剤、カチオン活性剤、ノニオン活性剤、両性活性剤、ノニオンアニオン系活性剤などが挙げられる。本発明においては、界面活性剤を使用せず、水性樹脂だけでもCNTの糸鞠状をほぐし十分に分散させることができるが、さらに界面活性剤を使用することで上記CNTの分散を促進し、また、分散中のCNTの凝集を防止することができる。界面活性剤の使用量はCNTの0.1〜50質量%がよい。使用量が50質量%を超えると、界面活性剤が樹脂処理CNTに含有されてしまう恐れがあり、組成物中に残った界面活性剤が分散媒体に含有されることとなり、得られる物品にべたつきなどの不都合が生じる場合がある。
【0021】
以上のような材料を使用してCNTを分散する。分散前のCNTは、内部が空洞であるので空気を多く保持していることから、CNTの分散に際してはCNTを脱泡処理することが好ましい。この脱泡処理は、従来公知の方法でよく特に限定されない。脱泡が容易である真空脱泡装置や超音波脱泡装置を使用することが好ましい。
【0022】
次いで脱泡処理した配合液を従来公知の方法で分散して、CNTの糸鞠状をほぐし、CNTを1本1本にする。この分散方法は特に限定されるものではない。例えば、ビーズミル分散、超音波分散、乳化装置などを使用した分散などが挙げられ、本発明において使用できる分散機としては、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスやジルコンなどを使用したサンドミルや横型メディア分散機、コロイドミル、2本または3本ロール、超音波分散機などが使用できる。非常に微小なビーズを使用するビーズ分散方法や高出力で超音波分散する方法が特に好ましい。
【0023】
CNTの分散の確認は、従来公知の方法、例えば、顕微鏡で観察する、粒度分布計にて粒子径を測定する、またはその分散液の抵抗値を測定するなどして確認することができる。分散に関する各種値はCNTの種類に依存するので、そのCNTの物性に合った値を基準とする。また、分散処理後に分散液を適当なフィルターでろ過をすることによって、若干残存している糸鞠状のCNTを除去することが高い信頼性を得るためには好ましい。
【0024】
また、以上で得られた分散液は、次いで樹脂Aの析出処理があるので長期保存性は不要である。例えば、室温で1ヶ月程度、好ましくは1週間以内でそのCNTが再度糸鞠状にならない、CNTの沈降や凝集が起こらないものであればよい。従ってCNTを高度に分散安定化するような特殊な分散剤やCNTの樹脂処理が不要であることも本発明の特徴である。
【0025】
次いで以上のようにして得られたCNTの分散液を、水にて希釈して低濃度にして攪拌する。得られたCNTの分散液のCNT濃度は前記したようにCNT濃度は10質量%以下であるが、そのまま処理すると分散系が著しく増粘してしまい、混合攪拌が困難であるので、好ましくはCNT量が0.1〜1質量%になるように希釈する。さらにその析出時の全固形分は、あまりに多いと前記したように、析出で著しく増粘して混合攪拌が困難であるので、全固形分としては0.2〜5質量%がよい。
【0026】
上記の希釈分散液に、必要に応じて水性樹脂Aまたは他の樹脂Bを添加する。該他の樹脂Bとしては、樹脂A以外の水性樹脂、パウダー状、グラニュー状またはペレット状の樹脂である。上記水性樹脂Aおよび他の樹脂Bの添加量は最終的に得られる組成物のCNT含有量が0.1〜50質量%の範囲になる量である。
【0027】
樹脂Bとしては、分散媒体に溶解または分散する樹脂、好ましくは塗布液のバインダーとなる樹脂を選択することが好ましい。また、樹脂Bとしては、必ずしも水性樹脂である必要はなく、水性樹脂Aを析出させることで、樹脂Aとともに共沈する形状の樹脂であればよい。例えば、パウダー状、グラニュー状、ペレット状の樹脂Bは水性樹脂Aが析出する際、その表面に樹脂Aが吸着されて析出する。好ましい樹脂Bは、CNTを含む水性樹脂Aを析出させた際に、樹脂Aが均一に表面に析出できるパウダー状がよい。
また、樹脂Bの種類としては、前記したような従来公知の樹脂が使用でき、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニル脂肪酸エステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、石油系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ハロゲン化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリレート系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系重合体、キトサン系重合体など、単独または上記の2種またはそれ以上の樹脂を構成する単量体からなる共重合体或いは上記の重合体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。
【0028】
また、上記水性樹脂Aを析出させる際に、得られる樹脂処理CNTに取り込まれるように、他の機能性材料を予め添加しておいてもよい。機能性材料とは、紫外線吸収剤、抗酸化剤、光安定剤などの耐久性向上剤;剥離剤または剥離性向上剤;抗菌剤、防黴剤;可塑剤、帯電防止剤、乾燥防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、遠赤外線吸収剤、熱線反射剤、難溶性無機塩、ガラス繊維、ガラス粉末などのフィラーなど;顔料、染料などが挙げられる。これらの機能性材料が樹脂処理CNTに取り込まれるので、後述の分散媒体や将来の物品に新たに機能性材料を添加する必要がなくなる。
【0029】
次に水性樹脂Aを析出させる方法としては、例えば、pH変化による方法、貧溶剤を用いる方法または温度変化による方法などが挙げられる。まず、pH変化による場合は、水性樹脂Aが酸基を有しており、該酸基が中和されている場合には、酸性物質またはその1〜10質量%水希釈液を攪拌しながら添加すると、水性樹脂Aが析出する。この場合、pHは2〜5付近まで下げて酸性領域に持っていくことが、水性樹脂Aを十分析出させるために必要である。
【0030】
また、樹脂Aがアミノ基を有し、そのアミノ基が酸性物質より中和されている場合は、アルカリ性物質またはその1〜10質量%水溶液を攪拌しながら添加することにより樹脂Aが同様に析出する。この際、pHは10〜14付近にすることで樹脂Aを十分析出させることができる。また、これらのpH変化の後、加温して樹脂の析出を完全にさせたり、細かい粒子を凝集させてろ過を容易にさせてもよい。
【0031】
貧溶剤を用いて樹脂Aを析出させる方法は、前記水性樹脂Aが水酸基やポリエチレングリコール基などの置換の導入、アミノ基の第4級アンモニウム塩、または各種活性剤やポリビニルアルコールなどを使用して水性にされている場合に有効であり、樹脂Aを溶解しない有機溶剤によって樹脂Aを析出させることができる。具体的には、CNT分散液に上記貧溶剤を添加する、またはCNT分散液を貧溶剤中に添加することによって樹脂Aが析出する。
【0032】
温度変化によって樹脂Aを析出させる方法は、前記水性樹脂Aが、水酸基やポリエチレングリコール基などのノニオン系置換基が導入されて水性にされている場合、または樹脂Aがノニオン系界面活性剤によって水性にされている場合に有用である。例えば、温度を上げることによってノニオン性基やノニオン性界面活性剤の水素結合を破壊し、樹脂Aを凝集析出させる方法である。すなわち曇点を利用した析出方法である。上記ノニオン基の曇点は、例えば、ポリエチレングリコールの場合、その分子量によって異なるので、一概に言えないが、好ましくは80℃以下である。このようにして温度変化で樹脂Aが析出凝集して樹脂処理CNTを得ることができる。
【0033】
以上のような析出方法において、糸鞠状がほぐれて分散し、CNTが1本1本に分散したCNTの分散液を、そのCNT1本1本を樹脂Aに取り込ませることとなり、CNTの糸鞠状がほぐれ、チューブ状になったままCNTが樹脂Aによって処理された樹脂処理CNTが得られる。上記のようにして得られた樹脂処理CNTは、ろ過、洗浄を行い、ペーストのまま使用でき、また、必要に応じて従来公知の方法で乾燥して固形物とし、また、必要に応じて粉砕して使用することができる。以上のようにして、CNTを0.1〜50質量%含有する樹脂処理CNTを得ることができる。
【0034】
本発明の塗布液は上記樹脂処理CNTを分散媒体中に分散させて得られる。分散媒体としては、水、有機溶剤、樹脂の溶液または光硬化性モノマーが挙げられる。有機溶剤としてはその樹脂処理したCNTの樹脂を溶解しうる溶剤であることが挙げられ、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、オクタンなどの炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテルやエチレングリコールモノアルキルエーテルおよびその脂肪酸エステルなどのグリコール系溶剤が挙げられる。
また、N−メチルピロリドン、ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル系溶剤;ヘキサフルオロプロパノール、塩化メチレンなどのハロゲン化物溶剤;ジメチルスルホキシドなどの硫黄系溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独でも混合物でもよい。これらの溶剤中における樹脂の濃度は特に限定されない。
樹脂溶液としては、塗料、コーティング剤、インキなどに使用される通常の樹脂の水、有機溶剤、または混合溶剤に溶解した溶液である。上記樹脂としては、メタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸ブチル樹脂などのアクリル系樹脂;スチレン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、HIPS、スチレンマレイン酸樹脂などのスチレン系樹脂;ビニルメチルエーテル樹脂などのビニルエーテル系樹脂;ビニルピロリドンなどのビニル系樹脂;ビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、酢酸ビニルビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0035】
また、酢酸ビニル樹脂などのビニル脂肪酸エステル系樹脂;LDPE、HDPE、LLDPE、超高分子量PEなどのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン−co−プロピレン)、ポリ(エチレン−co−プロピレン−co−α−オレフィン)などのポリオレフィン系樹脂;ポリシクロデカン、ポリシクロペンタジエンなどの環状オレフィン系樹脂;ポリメチルテルペンなどの石油系樹脂等が挙げられる。
【0036】
また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリグリコール酸などのポリエステル系樹脂;ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルジオールを使用したポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリブチレンアジペートなどのポリエステルジオールを使用したポリエステルポリウレタン樹脂、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ジオールを使用したポリカーボネートウレタン樹脂などのポリウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0037】
また、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン6T、ナイロン6Iなどのポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン化ビニル系樹脂;ポリビスフェノールAカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂;ポリ1,4−ブタジエン、ポリ1,2−ブタジエンなどのポリジエン系樹脂;ポリビスフェノールAグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAグリシジルエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのエポキシ系樹脂;ジメチルシリコーン、フェニルメチルシリコーンなどのシリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0038】
また、ポリフェニレンスルフィド、ポリジメチルフェニレンスルフィドなどのポリフェニレンスルフィド系樹脂;ポリフェニレンエーテルやポリジメチルフェニレンエーテルなどのポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリオキシメチレンであるポリアセタール系樹脂;ポリサルホン樹脂;無水ピロメリット酸とジアミノジフェニルエーテルやフェニレンジアミンなどから得られるポリイミド系樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリールエーテルケトンやポリエーテルケトン樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ビスフェノールAとテレフタル酸やイソフタル酸との縮合物であるポリアリレート系樹脂;メラミン樹脂;トリアセチル化セルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系重合体;キトサン系重合体等が挙げられる。
【0039】
上記樹脂としては、上記樹脂を構成する単量体からなる共重合体或いは上記の重合体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体、またはそれらの2種以上のポリマーアロイやポリマーブレンドが挙げられ、また、リサイクルされた樹脂も使用可能である。また、樹脂を構成する単量体は、それぞれの樹脂に対して従来公知のものすべてが挙げられ、特に限定されない。
【0040】
上記有機溶剤としては樹脂を溶解しうる有機溶剤であり、特に限定されないが、具体的には、トルエン、キシレン、ヘキサン、オクタンなどの炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテルやエチレングリコールモノアルキルエーテルおよびその脂肪酸エステルなどのグリコール系溶剤が挙げられる。
【0041】
また、N−メチルピロリドン、ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル系溶剤;ヘキサフルオロプロパノール、塩化メチレンなどのハロゲン化物溶剤;ジメチルスルホキシドなどの硫黄系溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独でも混合物でもよい。これらの溶剤中における樹脂の濃度は特に限定されない。
【0042】
次に分散媒体としての光硬化性モノマーとしては、樹脂処理CNTを溶解しうるモノマーであり、例えば、(メタ)アクリル酸モノマー、ビニル系モノマー、アリル系モノマー、エポキシ系モノマー、オキセタン系モノマーであり、具体的には、(メタ)アクリル酸系モノマーとして、(メタ)アクリル酸メチルなどのアルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの脂環エステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどのヒドロキシアルキルエステル;シクロヘキサンヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などのグリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル;ポリエステルやポリウレタンなどのジオールのモノまたはジ(メタ)アクリル酸エステル;(ポリ)グリセリンやペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールやそのアルキレンオキサイド付加物などの(メタ)アクリル酸のモノ、ジ、ポリエステルなどが挙げられる。
【0043】
また、ビニル系モノマーとして、(メタ)アクリル酸ビニル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ブタンジオール−1,4−ジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ビニルカルバゾール、ビニルピロリドン、ジビニルエチレンウレア、アジピン酸ジビニルなどが挙げられる。
【0044】
また、アリル系モノマーとして、メタクリル酸アリル、ジアリル(テレ、イソ)フタレートモノマー、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられる。エポキシ系の光カチオン性モノマーとしては、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾール−ノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。オキセタン系の光カチオン性モノマーとしては、3−エチル−3−ヒドロキシエチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼンなどが挙げられ、特に限定されない。
【0045】
次に本発明の塗布液の製造方法について説明する。以上のような分散媒体に前記樹脂処理CNTを加えて、混合機または分散機により溶解または分散させて、本発明の塗布液を得ることができる。
【0046】
従来は前記の如き分散媒体にCNTをそのまま添加して機械的分散力で分散していた。その場合、分散は非常に困難で、特徴的な強力な力やエネルギーが必要であり、また、完全にCNTの糸鞠状をほぐすことが難しかったが、前記樹脂処理CNTを分散媒体に添加し、通常の混合攪拌や分散を行い、樹脂処理CNTの樹脂を分散媒体に溶解させることで、容易に糸鞠状がほぐれ、1本1本に分散した本発明の塗布液が得られる。
【0047】
上記において分散媒体が光硬化モノマーの場合に使用する分散機器としては、従来公知の湿式方式である加熱攪拌反応槽、混合攪拌反応槽、ディゾルバー混合などの攪拌装置が挙げられ、湿式の分散方法であるミキシングロールミルやニーダー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横形媒体分散機、縦形媒体分散機、連続横形媒体分散機、連続縦形媒体分散機、超音波分散機などの分散装置が使用され、樹脂処理CNTの樹脂Aを、溶剤、水、光硬化性モノマー、それらの混合物中に溶解させ、また、必要に応じて樹脂Aが酸基やアミノ基を有する場合は、その官能基を中和イオン化して、水または水・溶剤混合溶剤に溶解させることで、分散媒体に均一にCNTを分散することができる。その結果、CNTが均一分散した樹脂の溶液または光硬化モノマーが得られる。
【0048】
また、樹脂処理CNTを分散媒体に溶解させる時に、媒体中でCNTが沈降したり、凝集する可能性がある場合には、従来公知の分散剤を使用することができる。上記分散剤としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、エステル系、エステルアミド系などの分散剤が挙げられる。また、これらの分散時に、前記の機能性材料を一緒に分散してもよい。特に顔料を同時に分散させることで、着色剤やカラーリングも兼ね備えた塗布液が得ることができる。
【0049】
上記顔料としては、従来公知のものが使用でき、通常使用されている有機顔料、無機顔料および体質顔料、および染料が使用される。具体的には、例えば、溶性アゾ系顔料、不溶性アゾ系顔料、ポリアゾ系顔料、アゾメチンアゾ系顔料、アントラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリノン−ペリレン系顔料、アゾメチン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ピロロピロール系顔料、蛍光顔料などの有機顔料、カーボンブラック顔料、酸化チタン系顔料、黄色酸化鉄、弁柄、酸化クロム、群青、複合酸化物顔料、硫化亜鉛などの無機顔料、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、硫酸バリウムなどの体質顔料、さらに分散染料、油溶性染料が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0050】
前記樹脂処理CNTはCNTを0.5〜50質量%含有する。該樹脂処理CNTを前記分散媒体で分散希釈して、所望のCNT濃度に希釈する。塗布液がCNT濃度が1〜10質量%の高濃度品の場合には、その後希釈してCNT濃度を0.1〜1質量%とすることができる。
【0051】
次いで上記塗布液を基材に塗布、含浸、印刷などの方法について説明する。上記塗布液におけるCNT濃度は0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜2.5質量%であり、かかる濃度でCNTの性能効果が十分に発揮できる。
【0052】
本発明の塗布液を使用すると、非常に容易に均一にCNTが配合された物品が得られ、CNTの性能である導電性がいかんなく発揮され、CNT由来の低い表面抵抗値や体積抵抗値が得られる。また、CNTの分散均一性から、例えば、フィルムの場合には、透明性を保持し、光透過率が高く、また、ヘイズが小さいものが得られ、表面および体積抵抗値も非常に小さいものが得られる。
【0053】
本発明の塗布液の分散媒体が、前記樹脂の溶液や光硬化モノマーの場合に、そのままで塗料、グラビアインキ、オフセットインキ、コーティング剤、文具用インキとして使用される。塗布液が高濃度品の場合は、その使用方法に合わせて希釈して使用する。
【0054】
上記塗料としては、アクリルメラミン系、アルキッドメラミン系、ポリエステルメラミン系、アクリルイソシアネート系、二液ポリウレタン系などの油性溶剤型、アクリルメラミン系、アルキッドメラミン系などの水性溶液型、アクリル樹脂エマルジョン系、フッ素樹脂エマルジョン系などの水性ディスパージョン型、アクリルイソシアネート系、ポリエステルイソシアネート系、ポリエステルエポキシ系などの粉体塗料など、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、ポリエステルアクリレート系などの紫外線硬化、電子線硬化塗料などが挙げられる。用途では、金属板用、コイルコーティング用、建材用、木工用などである。印刷インキとしては、従来公知の輪転、枚葉などのオフセットインキ、プラスチックフィルム・シート用、アルミ箔用、建材・化粧板用などのグラビヤインキ、金属板用インキなどのインキが挙げられる。
【0055】
これらの塗料などに関しても、本発明の塗布液を使用すると、非常に容易に均一にCNTを配合含有させることができ、また、CNTの性能である導電性がいかんなく発揮され、CNT由来の低い表面抵抗値や体積抵抗値が得られる。また、CNTの分散均一性から、例えば、インキの場合でも、フィルムへ塗布すると、透明性を保持し、全光線透過率が高く、また、ヘイズが小さいものが得られ、表面抵抗値も非常に小さい。
【0056】
本発明の塗布液を使用した物品として容器(食品容器、化粧品容器、医薬品容器など)、フィルム、シート、ブリスター、パイプ、ホース、チューブ、ビーズ、繊維、自動車部品(車両内装品など)、電気機器部品(電気器具のハウジングなど)、文具、おもちゃ、家具(衣装収納製品など)、日用品(台所用品、浴用製品など)などが挙げられ、さらに好ましい物品について記載すると、半導体や電子部品用包装トレー、半導体や電子部品を製造する場所などに使用する導電性マット、トレーおよび文具などの備品、導電性シューズや手袋、導電性アース線、クリーンルームなどの静電対策床材、プリント基板などの導電塗料、薄膜導電皮膜などがあり、さらに用途が広がると考えられ、塗布液は有用なものである。
【実施例】
【0057】
次に製造例および実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0058】
[製造例1]
3,000ミリリットルビーカーに、CNT(SWNT、外径1〜2nm、長さ1μm、純度90.0%)10部、アクリル樹脂の水分散液(樹脂:スチレン/メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/メタクリル酸/メタクリル酸2−ヒドロキシエチルコポリマー(共重合質量比:40/20/15/10/15、GPCによるスチレン換算の数平均分子量10,000のアンモニア中和水溶液、固形分25%)120部、ブチルカルビトール150部および水1,050部を仕込んだ。CNTは水に湿潤されたが、その形状のまま底に沈んだ状態であり、上部は水の透明層であった。
【0059】
次いで上記ビーカー中に攪拌子を入れ、マグネチックスターラーで攪拌し、超音波脱泡装置で15分間脱泡した。次いでビーカーの外側から氷で冷やしながら、1分間の間隔をおいて出力1,200Hzの超音波分散機で15分間超音波を4回照射した。その間仕込み時のCNTの沈殿が解れてきて透明な水が徐々に黒くなってきて、CNTの糸鞠状がほぐされてCNTが分散しつつあることが確認できた。上記の超音波照射後、一部をサンプリングして光学顕微鏡で観察したところ、CNTの糸鞠状はなく、すべてのCNTが分散していることが確認できた。次いでその液をフィルターでろ過して、粗大粒子や壁面について乾燥した部分を一応取り除くが、特に残るものはなかった。これを樹脂処理CNT分散液という。
【0060】
次に上記樹脂処理CNT分散液を水で2倍に希釈してCNT濃度を約0.5%とした後、前記したアクリル樹脂分散液240部を添加して、ディスパーで攪拌した。攪拌しながら、5%酢酸水溶液を徐々に添加し、液のpHを3.0とし、アクリル樹脂を析出させた。次いで系を50℃に加温し、1時間攪拌後、そのままろ過して、次いでイオン交換水で洗浄し、70℃の乾燥機で24時間乾燥して、若干白味がかった黒色の比較的硬いチップ状組成物を得た。該組成物の灰分を測定したところ、CNTとして10%含有していることがわかった。この樹脂組成物を樹脂処理CNT−1とする。
【0061】
[製造例2]
CNTとしてCNT(SWNT、外径1.2〜1.5nm、長さ2〜5μm、純度70%)と製造例1と同じアクリル樹脂分散液を使用し、製造例1と同様にして樹脂処理CNT分散液を得た。次に該分散液にパウダー状のアクリル樹脂BR−90(三菱レーヨン社製)を添加した後、製造例1と同様にしてアクリル樹脂を析出させ、製造例1と同様に処理して、灰色の硬いチップ状の樹脂組成物を得た。該樹脂組成物は製造例1と同様に10%のCNTを含有していることが確認され、これを樹脂処理CNT−2とする。
【0062】
[製造例3]
3,000ミリリットルビーカーに、CNT(DWNT、外径5nm、内径1.3〜2nm、長さ15μm、純度80%)10部、アクリル樹脂の水分散液(スチレン/メタクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル/メタクリル酸コポリマー(共重合質量比:35/25/20/20)、GPCによるスチレン換算の数平均分子量8,900のアンモニア中和水溶液、イソプロパノールを15%含有、固形分40%)75部、ブチルカルビトール150部および水1,050部を仕込んだ。
【0063】
次いでビーカー中に攪拌子を入れ、マグネチックスターラーで攪拌し、超音波脱泡機で15分間脱泡した。次いでこのCNTの水分散液を横型ビーズミルで0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてCNTを分散した。初期は粘度が高かったが、徐々に低粘度化した。分散中、一部をサンプリングして光学顕微鏡で観察しながら分散し、CNTの糸鞠状が無くなったときに分散を終了した。次いで得られた分散液をフィルターでろ過して、粗大粒子や壁面について乾燥した部分を一応取り除くが、特に残るものはなかった。
【0064】
以下、製造例1と同様にして処理したが、本製造例では乾燥させずペースト状態の組成物を得た。該組成物は若干白味がかった黒色の比較的硬い粒状であり、固形分19.3%であった。該組成物の灰分を測定したところ、CNTとして10%含有していることがわかった。この処理されたペースト状樹脂処理CNTを樹脂処理CNT−3とする。
【0065】
[実施例1:コーティング剤への応用]
製造例1で得た樹脂処理CNT1の10部を酢酸ブチル10部/シクロヘキサノン20部に添加して、ディスパーで1時間攪拌した。その結果、樹脂処理CNTの樹脂が溶解して2.5%のCNTを含有する樹脂溶液を得た。これをアクリル樹脂としてBR−90(三菱レーヨン社製)の酢酸エチル溶液(固形分15%)155.3部に添加して、透明ポリカーボネート成型板にバーコーターで厚さ1μmになるように塗布し、乾燥機で1時間乾燥したところ、若干黒味がかったコーティング成型板が得られ、その全光線透過率88.7%、ヘイズ1.63%であり、表面抵抗が1.53×108Ω/□であった。光学顕微鏡で確認したところ、CNTの糸鞠状や凝集物は見られず、良好な塗膜を得ることができた。
同様にしてCNT−2を使用して、分散樹脂及びパウダー状の樹脂を上記溶剤に溶解させて、試験したところ、同等の結果を得た。
【0066】
[実施例2:グラビアインキへの応用]
カルボキシル基含有塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体20部および製造例1で得られた樹脂処理CNT−1の1部を酢酸ブチル/メチルイソブチルケトン/キシレン混合溶媒(43:20:20)70部に溶解し、それに銅フタロシアニンブルー顔料9部を加えてボールミルに仕込み16時間分散させた。その97部にシリカ3部を添加混合し、さらにビウレット結合を有するヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートの75%溶液2.7部を加え、混合し青色インキとした。上記着色インキを半硬質塩化ビニルフィルムの表面にグラビア印刷方式でベタを印刷した。着色インキの乾燥は常温で行い、次いで30〜40℃の恒温室にてエージングし、若干黒い青の塩化ビニルシートを得た。その表面抵抗値は3.53×106Ω/□であった。
【0067】
[比較例1:グラビアインキの比較例]
実施例2と同様にして、樹脂処理CNTの代わりに、製造例1に使用したCNT0.1部を使用して同様の操作を行い、実施例2よりは黒い青の塩化ビニルシートを得た。その表面抵抗値は8.69×1011Ω/□であった。これはCNTがうまく分散していないため、導電性が出ないものと考えられる。
【0068】
[実施例3:水性コーティング剤への応用]
製造例3で得た樹脂処理CNT−3のペースト51.8部を、トリエチルアミン2.5部と水27.5部の水溶液に加え、ディスパーで2時間攪拌した。それによって黒色のCNT2.5%高濃度分散液を得ることができた。次いで、この分散液をメチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸(共重合質量比64:32:4)共重合体ラテックス(固形分40%)33部および水15部およびイソプロパノール15部の配合処方の外観灰色のエマルジョンコーティング剤を調製した。これをバーコーターにてPETフィルムにコーティングして1μmとして、黒色のコーティングPETフィルムを得た。その表面抵抗値は5.65×104Ω/□を示した。
【0069】
[実施例4:UV硬化性塗料への応用]
トリメチロールプロパントリアクリレート15部、ネオペンチルグリコールジアクリレート5部、オリゴエステルアクリレートモノマー5部、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルフェノン3部、2,2−ジエトキシアセトフェノン2部、イソプロパノール45部、トルエン45部、酢酸エチル60部および樹脂処理CNT−1の3部を攪拌混合し、樹脂組成物を溶解させた。次いでポリウレタンポリエステルジオール(テレフタル酸−セバシン酸−エチレングリコール−ネオペンチルグリコールの共縮合ポリエステルジオール、平均分子量:2,000)66.7部、ヒドロキシプロピルメタアクリレート19.2部およびイソホロンジイソシアネート22.2部を反応させて得られた紫外線硬化性ウレタン系コーティング剤70部を攪拌混合した。
【0070】
次いでポリカーボネート板に固形分塗工量3g/m2でスプレー塗装し、高圧水銀灯160w/cm×3本、50m/minで硬化させた。得られた塗装されたポリカーボネート板は黒味がかった透明のコーティングされたものであった。全光線透過率86.5%、ヘイズ1.53%であり、表面抵抗が4.44×108Ω/□であった。光学顕微鏡で確認したところ、糸鞠状や凝集物は見られず、良好な塗膜を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の塗布液は、分散媒体中でCNTが1本1本にほぐれた状態に分散しているので、CNTの性能を十分発揮することができる。また、CNTを処理する樹脂として、塗料などのバインダーに相溶性があるものを選択でき、従って各種塗料のバインダーなどとの相溶性が良く、塗布性などの加工性や熱安定性などの物性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒体中にカーボンナノチューブを分散させてなる塗布液において、上記カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブを水性樹脂A中に分散させた後、水性樹脂Aを析出させて表面を樹脂Aにて処理したカーボンナノチューブであることを特徴とする塗布液。
【請求項2】
水性樹脂Aが、樹脂Aの水溶液または樹脂Aの水分散液(エマルジョンまたはサスペンジョン)である請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
水性樹脂A中には、樹脂A以外の樹脂Bが存在している請求項1に記載の塗布液。
【請求項4】
樹脂Bが、水性樹脂A以外の水性樹脂、パウダー状、グラニュー状またはペレット状の樹脂である請求項3に記載の塗布液。
【請求項5】
樹脂Aを析出させる方法が、pH変化による方法、貧溶剤による方法または温度変化による方法である請求項1に記載の塗布液。
【請求項6】
分散媒体が、水、有機溶剤、樹脂の溶液または光硬化性モノマーである請求項1に記載の塗布液。

【公開番号】特開2008−280450(P2008−280450A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126736(P2007−126736)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】