説明

塗布装置

【課題】塗膜を基材に塗布し、機能性シートを得る製造方法に関し、間欠塗布時の始終端部の厚みを均一にし、終端直線性に優れる機能性シートが形成可能な塗布装置を提供する。
【解決手段】2つのロール2、3の間隙に、塗料6およびシート状の基材7を通過させることにより、基材に塗膜を転写し、塗布シート9を得る。塗膜を転写する前に、基材の塗膜を転写する側の面の転写させない領域にマスク8を密着させ、マスク上に塗膜を転写した後にマスクを基材から離間するマスク脱着機構13を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性シート材の塗布装置に関する。特に、連続的に走行する被塗布物の表面に間欠的に塗膜を形成する機能性シート材の塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性シート材の製造方法として、塗布ロールを用いる間欠塗工方法がある(例えば、特許文献1参照)。この機能性シート材としては、例えば、キャパシタ、燃料電池、リチウムイオン二次電池等の電極やディスプレイの光学フィルムがある。
【0003】
図5(a)および図5(b)に、特許文献1に記載された間欠塗工方法を用いた、ロール転写による機能性シートの製造方法を説明するための模式断面図を示す。
【0004】
この間欠塗工方法では、図5(a)に示すように、貯留槽105に蓄えられた塗料106を調厚ロール104と塗布ロール101との間を通過させることで、塗布ロール101表面に塗膜106aが形成される。そして、この塗膜106aが、帯状の被塗布物103表面に転写される。このとき、帯状の被塗布物103は、バックアップロール102に巻き掛けられて塗布ロール101に近接して走行している。塗布ロール101に残る塗料は、かきとりブレード110で掻き落される。
【0005】
この状態から、図5(b)に示すように、塗布ロール101と被塗布物103とが相対的に離間されることで、被塗布物103上の塗膜107に塗工部終端が形成され、それに続く無地部108が被塗布物103に構成される。
【0006】
その後、塗布ロール101と被塗布物103とを相対的に近接させて、図5(a)の状態にして、塗布ロール101上に塗膜106aを形成する。
【0007】
このようにして、塗膜106aが形成された塗布ロール101と被塗布物103との近接離間が繰り返されることで、被塗布物103にその走行方向に沿って間欠的に塗膜107が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3483072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来の間欠塗工方法では、被塗布物103上に形成される塗膜107の塗工部終端および塗工部始端の近傍において、不均一な膜厚分布になるという問題がある。また、従来の間欠塗工方法では、塗工部終端が、完全な直線状にはならないという問題もある。
【0010】
すなわち、被塗布物103上に形成する個々の塗膜107の内、塗布ロール101と被塗布物103との近接離間に伴って塗工部始端および塗工部終端が形成される場合と、塗布ロール101と被塗布物103とが一定距離で対峙した状態で塗工部始端および塗工部終端から十分に離れた定常部分が形成される場合とで、塗布ロール101と被塗布物103との近接部分での流速分布が異なる。そのため、塗工部終端および塗工部始端の近傍の塗膜107は、不均一な膜厚分布になってしまう場合がある。
【0011】
また、塗膜107が引き伸ばされるようにして破断されるため、塗工部終端が完全な直線状にはならず、尾を引いたような塗膜付着が生じてしまう場合がある。
【0012】
本発明は、上記従来の課題を考慮して、塗膜の塗工部始端から塗工部終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、且つ塗工部終端の直線性にも優れる機能性シートを作製できる塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明の塗布装置は、2つのロールの間隙に、塗膜およびシート状の基材を通過させることにより、前記基材に間欠的に前記塗膜を転写する塗布装置であって、前記塗膜を転写する前に前記基材の一部にマスクを密着させると共に、前記塗膜を転写した後に前記マスクを前記基材から離間するマスク脱着機構を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、塗膜の塗工部始端から塗工部終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、且つ塗工部終端の直線性にも優れる機能性シートを作製できる塗布装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)本発明の実施の形態の機能性シートの塗布装置を説明する模式図、(b)本発明の実施の形態の塗布装置の、第2ロールから第3ロールを見た模式側面図
【図2】本発明の実施の形態において、機能性シートの厚み評価した箇所を示す模式図
【図3】(a)本発明の実施の形態の塗布装置で塗料Aを用いて塗布を行った際の、塗膜厚みの測定結果を示す図、(b)本発明の実施の形態の塗布装置で塗料Bを用いて塗布を行った際の、塗膜厚みの測定結果を示す図、(c)本発明の実施の形態の塗布装置で塗料Cを用いて塗布を行った際の、塗膜厚みの測定結果を示す図、(d)従来の装置構成の塗布装置で塗料Aを用いて塗布を行った際の、塗膜厚みの測定結果を示す図
【図4】(a)本発明の実施の形態の塗布装置で塗料Aを用いて塗布を行った際の、塗工部終端の直線性の測定結果を示す図、(b)本発明の実施の形態の塗布装置で塗料Bを用いて塗布を行った際の、塗工部終端の直線性の測定結果を示す図、(c)本発明の実施の形態の塗布装置で塗料Cを用いて塗布を行った際の、塗工部終端の直線性の測定結果を示す図、(d)従来の装置構成の塗布装置で塗料Aを用いて塗布を行った際の、塗工部終端の直線性の測定結果を示す図
【図5】(a)、(b)従来の間欠塗工方法を用いた、ロール転写による機能性シートの製造方法を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(実施の形態)
図1(a)に、本発明の実施の形態1の機能性シートの塗布装置を説明する模式図を示す。
【0018】
本実施の形態1の塗布装置は、供給タンク5内に蓄えられた塗料4を、回転する第1ロール1と第2ロール2との間隙を通過させる事により、第2ロール2上に塗膜6を形成する。それぞれのロールの回転方向は、図1(a)中に矢印で図示している方向である。
【0019】
一方、回転する第3ロール3に基材7を抱きつかせ、第2ロール2上から基材7へ塗膜6を転写する。このとき、転写を行いながら、第3ロール3と同速度で回転する可動機構を持つマスク8を、塗膜6が第2ロール2と第3ロール3との間隙に入る前に基材7と密着させ、基材7の一部をマスキングする。その後、補助装置13によってマスク8を基材7から離間させることで、間欠状の塗膜6が形成された機能性シート9が得られる。
【0020】
なお、第2ロール2および第3ロール3が、2つのロールの一例にあたる。また、第2ロール2が、塗膜搬送ロールの一例にあたる。また、第3ロール3が、基材搬送ロールの一例にあたる。また、機能性シート9が、塗布シートの一例にあたる。また、補助装置13が、マスク脱着機構の一例にあたる。
【0021】
図1(b)は、図1(a)において、第2ロール2から第3ロール3およびマスク8の方向(X方向)を見たときの側面図である。また、図1(b)は、マスク8の動作を説明する模式図である。
【0022】
マスク8は、所望する間欠の間隔(以下、間欠ピッチとする)に応じて、可動機構の一例であるマスクホルダ11に連結されている。マスクホルダ11は、間欠ピッチに応じて、第3ロール3に同期した走行と停止を行う。
【0023】
第3ロール3と同速度で回転するマスクホルダ11を持つマスク8を、塗膜6が第2ロール2と第3ロール3との間隙に入る前に、第3ロール3および基材7に対して密着させる。具体的には、図1(b)に示すように、マスクの状態8aからマスクの状態8bに図中に矢印Dで示す方向にマスク8を移動させてマスクの状態8cにし、その後に第2ロール2上から基材7およびマスク8へ塗膜6を転写する。ここで、マスクの状態8aは、マスクホルダ11に垂直方向にマスク8を立てた状態である。また、マスクの状態8bは、マスク8と第3ロール3とが鋭角をなす状態である。また、マスクの状態8cは、第3ロール3および基材7とマスク8が密着した状態である。塗膜6を基材7およびマスク8に転写した後に、マスクの状態8dにしてマスク8を基材7から離間させることで、間欠状の塗膜6が形成された機能性シート9を、得ることができる。
【0024】
マスク8を保持するマスクホルダ11は、間欠ピッチに応じて、複数個設けても良い。その場合、マスクホルダ11に複数個設けたマスク8同士が干渉しない様に、マスク8を設ける必要がある。
【0025】
形成された機能性シート9は、塗膜6の成分に応じた方式で、乾燥もしくは硬化される。乾燥させる場合の方式としては、熱風、遠赤外、中赤外、電磁誘導加熱等が使用できる。硬化させる場合の方式としては、UV、EB、熱硬化等が使用できる。
【0026】
マスク8は、離間する際に、図中に矢印Eで示す方向に向けて、マスクの状態8dを介してマスクの状態8eまで移動する。ここで、マスクの状態8eは、第3ロール3の軸に対して90°程度の角度を成すことが望ましい。そして、マスクの状態8eに移動する慣性により、回収塗膜12がマスク8から離脱して、回収塗膜12として回収される。この時の移動速度vは、数1により算出される。
【0027】
【数1】

【0028】
数1において、vは、マスク8の移動速度[m/s]である。また、数1において、fは、単位面積当りの回収塗膜12のマスク8への付着力[N/m]である。また、数1において、Aは、マスク8と回収塗膜12との接触面積[m]である。また、数1において、mは、回収塗膜12の質量[kg]である。
【0029】
マスク8から離脱した回収塗膜12は、マスクホルダ11近傍に設けられた回収ボックス10に回収される。この回収塗膜12は、塗料の性状により、新たに溶媒を付加して再利用することで、塗膜材料の利用率を高める事ができる。
【0030】
なお、第1ロール1および第2ロール2によって形成される塗膜6の幅は、例えば基材7の走行時の蛇行制御範囲が1mmの場合、基材7の幅より1mm以上広く設定されることが望ましい。これは、基材7の蛇行によって幅方向において基材7が露出した部分が生じるのを、避けるためである。
【0031】
なお、本実施の形態1における回収ボックス10が、本発明の塗膜回収機構の一例にあたる。
【0032】
第1ロール1および第2ロール2の表面には、離型性を高めるために、例えばシリコンやフッ素に代表される離型性が高い材質を含む樹脂およびそれらの成分が含浸または含有した複合金属物を用いることが望ましい。具体例としては、SUSロールを規則的に溝加工したまたはブラストして荒らした面に、シリコンまたはフッ素に代表される離型性が高い材質をコートし、平滑な面が得られる様に円周面を加工したものを用いることが望ましい。また、その他の具体例としては、規則的もしくはランダムに、シリコンまたはフッ素に代表される離型性が高い材質を有する面を部分的に表面に出した材料や、クロムメッキした際に生じる小さなクラックにシリコンまたはフッ素に代表される離型性が高い材質を溶融させて塗布した後に表面を研磨してランダムにシリコンまたはフッ素に代表される離型性が高い材質を有する面を部分的表面に出した材料(フッ素を含有したニッケルメッキなど)を、用いることが望ましい。
【0033】
第3ロール3は、たとえば、SUS研磨仕上げ、もしくはクロムメッキ仕上げ、ニッケルメッキのものを用いる。
【0034】
基材7は、機能性シート9で得たい機能によって種々使い分ける事が望ましい。例えば、基材7を集電体として使用する電子部品の場合、基材7は、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔などが使用できる。また、例えば、光学フィルムの様に最終的に基材7から剥離して別部材に貼り合せる様なシート材の場合、基材7は、離型PET、離型PP、離型PEなどが使用できる。
【0035】
マスク8は、塗膜6および基材7と反応しない材質を用いる必要がある。マスク8として用いることができる金属としては、SUS、クロム、タングステン、モリブデン、チタン等を含む金属がある。マスク8として用いることができる樹脂としては、ジュラコン(登録商標)、テフロン(登録商標)、PE等がある。マスク8の材質としては、比較的分子量が高く、硬い材料であることが好ましい。
【0036】
マスク8の厚みは、マスク8の強度と塗膜6の膜強度によって決定される。
【0037】
マスク8の強度が弱く、かつマスク8の厚みが第2ロール2と第3ロール3との間隙が最も狭くなる部分における基材7と第2ロール2との距離の1/2未満の場合、マスク8の変形が発生しやすい。
【0038】
また、塗膜6の膜強度が強く、かつマスク8の厚みが第2ロール2と第3ロール3との間隙が最も狭くなる部分における基材7と第2ロール2との距離の1/2未満の場合、マスク8が基材7から離間する際に回収塗膜12がマスク8の幅以上になることがある。すなわち、このような場合は、設定通りの間欠形状が得られないことがある。
【0039】
したがって、マスク8の厚みは、第2ロール2と第3ロール3との間隙が最も狭くなる部分における基材7と第2ロール2との距離の1/2以上の厚みである事が好ましい。
【0040】
また、マスク8の厚み方向と幅方向で成される断面形状は、平板形状であれば第3ロール3に抱かれた基材7とマスク8の間に塗膜6が入り込んでしまう。そのため、マスク8の断面形状としては、第3ロール3の直径で成される曲率に合わせた扇状の断面形状とすることが望ましい。なお、マスク8の断面形状を第3ロール3の直径で成される曲率に合わせた扇状とすることが、本発明の、マスクが基材搬送ロールの円周面に対応して湾曲していることの一例にあたる。
【0041】
なお、補助装置13の一例として、マスク8のマスク先端部8fに磁石を埋め込んでおき、第3ロール3内に設置した電磁石の反発力を用いて離間させても良い。ここで、マスク先端部8fとは、マスクホルダ11で保持されている側とは反対側のマスク8の端部から、マスク8と塗膜6が接する部分より手前までの部分である。
【0042】
また、磁石を用いることができない場合の補助装置13の一例としては、第3ロール3において基材7と重なり合わない部分に空気穴を設け、マスク8を基材7より離間させる際に排気する手段がある。その他の補助装置13の一例としては、マスク8を第3ロール3の端部よりはみ出す長さにしておき、補助装置13によって機械的に押すもしくは引き上げる手段がある。これら補助装置13の具体手段としては、それぞれの設備の状況に応じて、適宜、選択されることが望ましい。
【0043】
また、基材7がマスク8によってマスクされている部分が第2ロール2と第3ロール3との間隙を通過する際の第3ロール3の回転速度を、基材7がマスク8によってマスクされていない部分が通過する際の回転速度よりも速くなるように制御してもよい。これは、マスク8によってマスクされている部分が第2ロール2と第3ロール3との間隙を通過する際には、マスク8の厚さ分、その間隙を通る塗膜6の量が減少することへの対策である。第3ロール3の回転速度をこのように制御することにより、第2ロール2と第3ロール3との間隙からはみ出す塗膜6の量を減少させることができる。
【0044】
なお、ここでは、ロールの回転制御を容易にするために、第3ロール3の回転速度を速くした。だが、第1ロール1の回転速度もあわせて変更するのであれば、第2ロール2の回転速度を、基材7がマスク8によってマスクされていない部分が通過する際の回転速度よりも遅くなるように制御してもよい。
【0045】
本実施の形態では、塗膜6の転写について、次のようにして試験した。
【0046】
第1ロール1、第2ロール2および第3ロール3を回転させている状態において、一定量の塗料4を転写元の第1ロール1表面に投入供給して、第1ロール1と第2ロール2との間のギャップで調厚し、第2ロール2と第3ロール3との間隙で第3ロール3上を走行する基材7に塗膜6として転写する。このとき、所定の間隔において、基材7にマスク8を密着および離間させることで、第3ロール3上を走行する基材7上に、間欠状に塗膜6が設けられた機能性シート9を形成する。そして、この後に乾燥炉を通し、極板の表面を製造した。
【0047】
第1ロール1の直径は344[mm]、幅は300[mm]である。第2ロール2の直径は344[mm]、幅は300[mm]である。第3ロール3の直径は344[mm]、幅は300[mm]である。
【0048】
第1ロール1のロール表面には、表面粗さRaが12[μm]の凹凸が設けられる様に予め表面を荒したロールにシリコン焼付け処理を行っている。第2ロール2のロール表面には、表面粗さRaを0.4[μm]に仕上げたロール上にシリコン焼付け処理を行っている。
【0049】
第1ロール1、第2ロール2および第3ロール3の回転数は、基材7の走行速度に合わせて20[m/min]に相当する回転数とした。
【0050】
第1ロール1と第2ロール2との間のギャップは150[μm]とした。第2ロール2と第3ロール3との間のギャップは175[μm](=150[μm]+基材7の厚み30[μm]−塗膜転写時の潰し代5[μm])とした。第3ロール3は、クロムメッキ仕上げのものを用いた。
【0051】
マスク8には、幅20[mm]、厚み140[μm]のチタン合金を用いた。また、ロール幅よりマスク8の幅を大きく取っている。補助装置13には、第3ロール3を挟んでマスクホルダ11と反対側にシリンダを設け、マスク8端部をロール側からマスクホルダ11側に押す方式を用いた。
【0052】
マスクホルダ11には、4枚のマスク8を、マスク間の円周方向の間欠ピッチが200[mm]となる様に設置した。
【0053】
なお、本試験では、マスクホルダの回転速度も20[m/min]に相当する回転数で第3ロール3と同期して、移動・停止をする機構を用いた。また、マスク8を基材7から離間させる速度(マスク8が矢印E方向に移動し、マスクの状態8cからマスクの状態8eとなるまでの移動速度)として、0.7[m/s]で試験を行った。
【0054】
塗料4は、活物質としての活性炭と、導電剤としてのカーボンブラック(以下、CB)と、非水溶性高分子結着材としてのスチレンブタジエンゴム(以下、SBR)と、分散溶媒としての純水とを混合してなる分極性電極材料を用いた。基材7としては、幅200[mm]、厚み30[μm]のアルミ箔にエッチング処理を施したものを用い、その基材7の上に機能性シート9を作製した。
【0055】
その際に、溶媒量を表1の様に変え、種々の塗料にて機能性シートを作製し、塗膜の厚み比較を行った。
【0056】
【表1】

【0057】
この時、塗料Aを用いて機能性シートを作った場合、前述のギャップ条件では塗料Bおよび塗料Cに比べ、塗膜厚みが1/3になった。そこで、塗料Aについては、第1ロール1と第2ロール2との間のギャップを400[μm]とし、目標とする転写塗膜の厚さを280[μm]とし、第2ロール2と第3ロール3との間のギャップを310[μm](=280[μm]+基材7の厚み30[μm])として比較を行った。なお、ここで、塗料Aの場合のみ塗膜転写時の潰し代を設けていないのは、塗料Aが他の塗料と異なって液体状の塗料であるためである。
【0058】
図2は、本実施の形態において作製した機能性シート9の厚み評価した箇所を示す模式図である。ここで、図2に示すように、極板の走行方向に対し、未塗工部から塗工部に変わる側の走行方向端部を始端(塗工部始端)と呼び、塗工部から未塗工部に変わる側の走行方向端部を終端(塗工部終端)と呼ぶ。
【0059】
厚み評価のために、1つの間欠ピッチ(塗工部200[mm]と未塗工部20[mm])の未塗工部から前後30[mm]分を裁断し、中央部(F−F´間)を2[mm]ピッチで厚みを測定した。また、終端の直線性についても、塗工部終端の右端と左端を直線(G−G´間)で結び、その直線からの塗膜終端のはみ出し量を2[mm]ピッチで測定した。
【0060】
図3(a)、(b)および(c)に、それぞれ表1に示す塗料A、塗料Bおよび塗料Cを使い、本実施の形態の塗布装置を用いて塗布を行った際の、それぞれの塗膜厚みの測定結果を示す。
【0061】
また、比較例として、塗料Aを用いて、図5に示す特許文献1に記載の装置構成で、図3(a)、(b)および(c)と同一の厚みを得られる条件に調整し、塗布を行った。そのときの塗膜厚みの測定結果を図3(d)に示す。なお、特許文献1に記載の装置構成では、塗料Bと塗料Cでも塗布を試みたが、粘度が高いため、調厚ロール104と塗布ロール101との間で塗料106が詰まってしまい、塗膜を造ることが出来なかった。なお、前述の説明で145[μm]の厚さで形成されている塗膜が、約120[μm]の厚さとなっているのは、乾燥もしくは硬化の際に、塗膜が収縮しているためである。
【0062】
図3を用いて、本実施の形態と比較例の結果について説明をする。
【0063】
本実施の形態の塗布装置を用いて塗料Aを塗布した場合、図3(a)に示すように、塗工部の始端および終端共に20[μm]程度の盛上りが生じる結果となった。
【0064】
他の2つの塗料Bおよび塗料Cに比べ流動性が高い塗料Aでは、マスク8を離間させて未塗工部を形成する際に、水あめを引伸ばす様に、離間するマスク8に追従した後に切れて、未塗工部が形成される。その結果、塗料Aの場合では、基材7側には始端と終端に盛上りが発生した塗膜が残る。また、塗料Aも粘度がある程度高いため、レべリングを十分にする前に乾燥炉に入り、この様な結果になったと考えられる。
【0065】
本実施の形態の塗布装置を用いて塗料Bを塗布した場合、図3(b)に示すように、塗工部の始端および終端共に5[μm]程度の盛上りが生じる結果となった。塗料Bは、塗料Aに比べ、流動性は低いが、離間するマスク8への追従の影響が僅かに残り、この様な結果になったと考えられる。
【0066】
本実施の形態の塗布装置を用いて塗料Cを塗布した場合、図3(c)に示すように、塗工部の始端および終端共に1[μm]程度の盛上りが生じ、ほとんど盛上りが発生しない結果となった。他の2つの塗料AおよびBに比べ、塗料Cは、流動性が圧倒的に低く、離間するマスク8への追従の影響を受けず、この様な結果になったと考えられる。
【0067】
この結果から、本実施の形態の塗布装置を用いた塗工では、塗料の粘度として200000[mPa・s]以上の流動性の無い塗料を用いる事が好ましいことが分かった。なお、本実施の形態で検証した厚み以外の場合において、厚み規格で求められる精度によっては、200000[mPa・s]未満の塗料も用いることができる。
【0068】
従来の構成の塗布装置を用いた比較例では、図5において、バックアップロール102を離間させて塗工部終端を形成する際に、塗膜の伸びが見られた。また、始端を形成する際に、基材(被塗布物103)を抱いたバックアップロール102を回転させた状態で塗布ロール101に近接させると、図3(d)に示すように始端に薄塗り部分が発生した。また、離間直後のバックアップロール102を目標とする未塗工部の距離分回転させた後、バックアップロール102を停止した状態で塗布ロール101に近接させると、始端が20[μm]以上も盛上るという結果になった。
【0069】
図4(a)、(b)および(c)に、それぞれ表1に示す塗料A、塗料Bおよび塗料Cを使い、本実施の形態の塗布装置を用いて塗布を行った際の、それぞれの終端直線性の測定結果を示す。
【0070】
また、比較例として、塗料Aを用いて、図5に示す特許文献1に記載の装置構成で、図4(a)、(b)および(c)と同一の厚みを得られる条件に調整し、塗布を行った。そのときに形成された塗膜の終端直線性の測定結果を図4(d)に示す。
【0071】
図4を用いて、本実施の形態と比較例の結果について説明をする。
【0072】
本実施の形態の塗布装置を用いて塗料Aを塗布した場合、図4(a)に示すように、終端の直線性は0〜4[mm]の間で変動する結果となった。他の2つの塗料Bおよび塗料Cに比べ流動性が高い塗料Aでは、マスク8を離間させて未塗工部を形成する際に、水あめを引伸ばす様に、離間するマスク8に追従した後に切れて、未塗工部が形成された。その結果、塗料Aでは、終端は波状の塗膜となり、この様な結果になった。
【0073】
本実施の形態で用いた装置構成で塗料Bおよび塗料Cを塗布した場合、図4(b)および図4(c)に示すように、終端直線性は0〜0.5[mm]の間で変動する結果となった。塗料Bおよび塗料Cは、塗料Aに比べ、流動性は低く、離間するマスク8への追従の影響を殆ど受けず、このように終端直線性が高く、ほぼ直線状であるという結果になった。
【0074】
比較例では、バックアップロール102を離間させ、塗工部終端を形成する際に、塗膜の伸びが見られた。その結果、図4(d)に示すように、終端の直線性は0〜4[mm]の間で変動する結果となった。
【0075】
加えて、塗料の主成分を誘電体セラミックスとガラスなどの焼結助剤より成る原料粉末、有機バインダー、可塑剤と溶剤を混合し、塗料Cと同等になるまで粘度を調整した塗料を用いて、基材7であるPETフィルム上に、本実施の形態の塗布装置にて塗布したところ、同様の結果が得られた。
【0076】
この事から、塗料に含まれる材料に関わらず、塗料を本実施の形態の塗布装置に適した粘度にすれば、塗膜の塗工部始端から塗工部終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、且つ塗工部終端の直線性にも優れる機能性シートが得られることが分かった。
【0077】
以上に説明したように、本実施の形態の塗布装置を用いると、間欠状の塗膜の塗工部始端および塗工部終端は、第3ロール3と同期して動くマスク8の離間により形成される。そのため、間欠状の塗膜の塗工部始端および塗工部終端は、流速分布の影響をほとんど受けず、塗工部始端から塗工部終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、塗工部始端および塗工部終端の破断も容易に起こるため直線性にも優れる。塗工部始端から塗工部終端に至るまで膜厚精度に優れる塗膜を形成することができ、塗工部終端においても尾を引いたような塗膜付着が生じない。
【0078】
本発明の機能性シートの塗布装置は、機能性材料をロールに付着させてその全量をフィルムあるいはシート状の集電体に転写することが可能なので、機能性材料を塗布する機能性シート製造に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る塗布装置は、機能性材料を塗布する機能性シート製造、例えば、機能性粉末を結合材樹脂、溶媒等と混合して塗料を作製し、成膜する電気二重層キャパシタ、ディスプレイ誘電体層、一次電池、二次電池等の機能性シートの製造等として有用である。
【符号の説明】
【0080】
1 第1ロール
2 第2ロール
3 第3ロール
4 塗料
5 供給タンク
6 塗膜
7 基材
8 マスク
8a、8b、8c、8d、8e マスクの状態
8f マスク先端部
9 機能性シート
10 回収ボックス
11 マスクホルダ
12 回収塗膜
13 補助装置
101 塗布ロール
102 バックアップロール
103 被塗布物
104 調厚ロール
105 貯留槽
106 塗料
106a 塗膜
107 塗膜
108 無地部
110 かきとりブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのロールの間隙に、塗膜およびシート状の基材を通過させることにより、前記基材に間欠的に前記塗膜を転写する塗布装置であって、
前記塗膜を転写する前に前記基材の一部にマスクを密着させると共に、前記塗膜を転写した後に前記マスクを前記基材から離間するマスク脱着機構を備えた、
塗布装置。
【請求項2】
前記2つのロールのうち、一方は、円周面に沿って前記基材を搬送する基材搬送ロールであり、他方は、前記塗膜を表面に付着させて搬送する塗膜搬送ロールであり、
前記マスクは、前記基材搬送ロールの回転に同期して回転する部材である、
請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記マスクは、前記基材搬送ロールの円周面に対応して湾曲した部材である、
請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記マスクの厚さは、前記塗膜搬送ロールと前記基材搬送ロール上の前記基材との最短距離の1/2以上である、
請求項2または3に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記2つのロールの間隙を前記基材が通過する際、前記間隙に前記マスクが位置する場合の前記基材搬送ロールの回転速度を、前記間隙に前記マスクが存在しない場合の前記基材搬送ロールの回転速度よりも速くするように制御する制御部を備えた、
請求項2から4いずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記マスク脱着機構により前記基材から離間した前記マスクから前記塗膜を回収する塗膜回収機構を備えた、
請求項1から5いずれか1項に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228649(P2012−228649A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98140(P2011−98140)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】