説明

塗料タンクおよびその加工方法

【課題】 従来の塗料タンクは金属部材または不透明な樹脂部材にて形成されていたので、塗料タンク内部の様子を外側から目視確認することができず、異常が発生した場合に作業が煩雑で塗料の損失も多くなっていた。
【解決手段】 塗装機2に装着され、内部に充填した塗料を押し出すことにより、塗装機へ圧送可能な塗料タンク3であって、該塗料タンク3は、塗料が充填される塗料バッグ32と、該塗料バッグ32の周囲を覆い、塗料押圧用部材が充填される外部ケース31とを備えており、該外部ケース31が、耐溶剤性を有するとともに透明な硬質プラスチックであるナイロン樹脂にて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装機に装着され、内部に充填した塗料を押し出すことにより、塗装機へ圧送可能な塗料タンクおよびその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車のボディ等といった被塗装物に対する塗装は、被塗装物側を陽極とし、塗装装置側を陰極として両極間に静電界を構成し、負側に帯電した霧化塗料を静電力により被塗装物に吸着させることで塗装を行う、静電塗装が用いられている。
このような静電塗装を行う塗装装置としては、例えば、被塗装物に対して塗料を噴霧する塗装機に備えられたベルカップを回転させて、ベルカップ内面に展延させた流体塗料を遠心力で微粒化させ、霧化頭等に印加された静電高電圧で微粒化粒子に帯電させて、接地された被塗装物との間で形成される静電電界により静電塗装を行う、回転霧化型の静電塗装装置がある。
この回転霧化型の静電塗装装置においては、塗料が充填されたカートリッジ式の塗料タンクを塗装機に着脱自在に装着し、塗料タンクから塗料を押し出して塗装機へ塗料を供給するように構成したものがある。
【0003】
前述のような静電塗装を行う塗装工程では、塗料に含まれる溶剤や洗浄用溶剤として有機溶剤を使用することが多いため、塗装機や塗料タンク等といった塗装装置の多くの部材は、アルミニウムやSUSや真鍮等の金属部材で製作されることが多い。
また、塗料タンク等は樹脂部材にて製作されることもあるが、塗料が充填・排出される塗料タンクには、0.1MP〜0.8MPの高い圧力がかかるため、かかる圧力に耐え得るだけの強度を有した硬質プラスチックを用いる必要がある。
特に、サーボモータを備えたシリンダで塗料を押し出す場合は、5MP以上の圧力がかかる場合もある。
さらに、塗料タンクは有機溶剤に直接接触するものであるため、耐溶剤性を備えたポリアセタール樹脂(POM)や、ポリ塩化ビニル(PVC)や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂部材が使用されていた。
【0004】
また、塗料を貯溜するためのタンクに関しては、例えば特許文献1に示されるように、貯溜した塗料の残留状況が目視可能なように、タンクをポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の樹脂部材にて構成したものがある。
しかし、ポリエチレンやポリプロピレンは、強度が低く(引っ張り弾性率が1000N/mm以下)、硬質プラスチックではないため、前述のような圧力がかかる容器に使用することはできない。また、ポリエチレンやポリプロピレンは、半透明もしくは不透明であって、透明な樹脂ではないため、このような樹脂で容器を構成した場合、強度を確保できるだけの厚さ(例えば5mm以上)にすると、内部を明瞭に視認することができない。
【特許文献1】実用新案登録第3073199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、カートリッジ式の塗料タンクを塗装機に装着して構成された塗装装置を用いて塗装が行われる塗装工程においては、多くの塗色が用いられており、塗装機に装着している塗料タンクの他にも多くの塗料タンクが準備されている。
各塗料タンク内へは、塗装が行われる前に塗料が充填されるが、正しい色の塗料が正常に充填されているのか否か、または異常が発生したときに塗料タンク内がどのような状態になっているかを把握することが重要である。
【0006】
しかし、塗料タンクがSUS等の金属部材にて形成されていると塗料タンク内部の様子を外側から目視確認することができないため、異常が発生した場合には、疑わしい塗料タンクに充填されている塗料を排出してしまわなければならず、作業が煩雑で塗料の損失も多くなっていた。
また、塗料タンクをポリアセタール樹脂(POM)や、ポリ塩化ビニル(PVC)や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂部材にて構成した場合も、これらの樹脂部材は不透明であったので、金属部材の場合と同様に塗料タンク内部の状態を目視で把握することはできなかった。
さらに、塗装に関して品質や設備の不具合が発生したときは、その原因が塗料タンク内で起こっていることかどうかの判断を行うことができないため、原因を探るには、塗料タンクを解体して原因が塗料タンクにあるかどうかを推定するしか方法がなかった。
このため、不具合の原因が塗料タンクではなく他の設備や材料にあったときには、品質や設備の不具合を解決するのに大変長い期間および費用が必要となっていた。
【0007】
また、塗料タンクの素材として、前述の特許文献1に示されるポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂を用いることが考えられ、さらには透明な樹脂部材である、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂を塗料タンクの素材として用いることが考えられる。
しかし、ポリエチレンやポリプロピレンは強度不足で圧力がかかる容器として使用することが困難であり、仮に厚みを厚くして強度を確保したとしても内部を視認できるだけの透明性を確保することもできない。
また、硬質プラスチックであるアクリル樹脂やポリカーボネイト樹脂を使用した場合、これらの樹脂部材は有機溶媒に接触すると、白濁やクラックが生じたり、表層からの剥離破壊が生じたりしてしまう。
このように、圧力がかかり、かつ有機溶剤を含む塗料や、塗料の押し出し材として用いられる有機溶剤に長時間接触する塗料タンクの素材として用いることは妥当ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する塗料タンクおよびその方法は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載のごとく、塗装機に装着され、内部に充填した塗料を押し出すことにより、塗装機へ圧送可能な塗料タンクであって、該塗料タンクを、耐溶剤性を有するとともに透明な硬質プラスチックであるナイロン樹脂にて構成した。
このように、塗料タンクを外部から見た場合に、塗料タンクの内部を目視することができ、塗料が正常に充填されているのか、または異常な状態にあるのか等といった内部状態を容易に把握することができる。
また、塗料タンクを構成するナイロン樹脂は耐溶剤性を備えているので、塗料に有機溶剤が含まれていたり、塗料を押し出すための作動液に有機溶剤が用いられたりしていても、塗料タンクに白濁やクラックが生じることはなく、塗料タンクの外部から内部の様子を把握する機能や、充填した塗料のケーシングとしての機能を損なうこともない。
さらに、塗料タンクを射出成形にて成形することができ、該塗料タンクを短期間で大量かつ安価に製作することが可能となる。
【0009】
また、請求項2記載のごとく、前記塗料タンクは、塗料が充填される塗料バッグと、該塗料バッグの周囲を覆い、塗料押圧用部材が充填される外部ケースとを備えており、該外部ケースが前記ナイロン樹脂にて構成される。
これにより、つまり、外部ケースの外部から、塗料タンクの内部を見ることができ、内部の塗料バッグが、塗料が充填されて膨らんだ正常な状態であるか、塗料が充填されていなくて萎んだ異常な状態であるか等といったように、塗料タンク内部の様子を把握することができる。
また、塗装品質や設備トラブルが発生したときに、その原因が、塗料タンク内で異常(例えば、塗料バッグの破損による塗料の押し出し液側への漏れや、逆に押し出し液が塗料側に浸入してき塗料が凝集する等といった不良、または塗装している最中に塗料バッグ内の塗料が空になる等の事態)が発生したによるものであるのかどうかを、瞬時に見て判断することが可能となる。
また、外部ケースは耐溶剤性を備えているので、該外部ケースに有機溶剤による白濁やクラックが生じることはなく、塗料タンクの外部から塗料バッグの様子を把握する機能、および外部ケースのケーシングとしての機能を損なうこともない。
【0010】
また、請求項3記載のごとく、前記塗料タンクは、塗料が充填される塗料バッグと、該塗料バッグの周囲を覆い、塗料押圧用部材が充填される外部ケースとを備えており、前記外部ケースが前記ナイロン樹脂にて構成され、前記塗料バッグが透明な樹脂にて構成される。
このように、塗料タンクの外部ケースを、透明で、耐圧強度があり、かつ耐溶剤性を備えたナイロン樹脂にて形成するとともに、塗料バッグを透明部材にて形成することで、外部ケースの外部から、塗料タンク内部の押し出し液の状態や塗料バッグの状態を見ることができ、内部の塗料バッグが、塗料が充填されて膨らんだ正常な状態であるか、塗料が充填されていなくて萎んだ異常な状態であるか、または塗料バッグの破損等により何らかの不具合が発生しているか等といったように、塗料タンク内部の様子を把握することができる。
また、塗料タンクの外部から、塗料バッグ内に充填されている塗料の色が正常であるか否かの確認を行うことが可能となる。
さらに、外部ケースは耐溶剤性を備えているので、該外部ケースに有機溶剤による白濁やクラックが生じることはなく、塗料タンクの外部から塗料バッグの様子を把握する機能、および外部ケースのケーシングとしての機能を損なうこともない。
【0011】
また、請求項4記載のごとく、前記ナイロン樹脂は、吸水率が5%以下である。
これにより、ナイロン樹脂により形成される塗料タンクの寸法安定性が良好となり、塗料タンクの塗装機との嵌合や螺合を精度良く行うことができて、漏れが発生することも防止できる。
【0012】
また、請求項5記載のごとく、前記塗料タンクは、前記ナイロン樹脂にて構成される外筒と、該外筒内に摺動自在に嵌装されるピストンとを備え、ピストンにより仕切られた外筒内の空間の一方に塗料を充填し、他方に塗料押圧用部材を供給することで、ピストンを摺動させて塗料を塗料タンク外部に押し出すように構成される。
これにより、塗料タンクを外部から見た場合に、塗料タンクの内部を目視することができ、塗料が正常に充填されているのか、または異常な状態にあるのか等といった内部状態を容易に把握することができる。
また、塗料タンクの外筒を構成するナイロン樹脂は耐溶剤性を備えているので、塗料に有機溶剤が含まれていたり、塗料を押し出すための作動液に有機溶剤が用いられたりしていても、外筒に白濁やクラックが生じることはなく、塗料タンクの外部から内部の様子を把握する機能や、充填した塗料のケーシングとしての機能を損なうこともない。
さらに、外筒を射出成形にて成形することができ、該塗料タンクを短期間で大量かつ安価に製作することが可能となる。
【0013】
また、請求項6記載のごとく、前記外筒は射出成形にて成形され、成形後に、成形時の抜きテーパーを機械加工により除去して、該外筒一端側の内径寸法と他端側の内径寸法とを略同じに形成した。
これにより、外筒を射出成形で成形しつつ、該外筒の内寸法を高精度で均一に仕上げることができる。
【0014】
また、請求項7記載のごとく、請求項1〜請求項6の何れかに記載の塗料タンクの加工方法であって、該塗料タンクの素材を成形加工する成形加工工程と、成形加工工程にて成形された成形品に対して吸水または前記塗料押圧用部材を含浸させる吸水工程と、吸水または前記塗料押圧用部材を含浸させた成形品に対して機械加工を施す機械加工工程と、を備える。
透明ナイロン樹脂にて形成される塗料タンクは吸水または前記塗料押圧用部材を含浸させると膨潤して寸法変化が生じるが、予め水や有機溶剤を吸水させて寸法変化が生じた状態で機械加工を施すことで、水や有機溶剤に長時間接触して吸水状態となる実際の使用状態での寸法精度を向上することができ、塗料タンクの塗装機への装着不良や、装着時の液漏れ等といった不具合の発生を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗料タンクの内部を目視することができ、該塗料タンクの内部状態を容易に把握することができる。
また、塗料タンクに白濁やクラックが生じることがなく、塗料タンクの外部から内部の様子を把握する機能や、充填した塗料のケーシングとしての機能を損なうこともない。
また、塗料タンクの内部が、つまり押し出し液の状態や塗料バッグの状態が見えることにより、塗装の品質や設備のトラブルが生じたときに、瞬時に塗料タンク内に異常の原因があるか否かを判断でき、その対策を講じることができる。
さらに、塗料タンクを射出成形にて成形することができ、該塗料タンクを短期間で大量かつ安価に製作することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0017】
まず、本発明にかかる塗料タンク3を備えた塗装装置の概略構成について説明する。
図1に示す塗装装置1は、塗装機2と該塗装機2に着脱自在に装着されるカートリッジ式の塗料タンク3を備えている。
塗装機2の本体21における一端側(図1における下端側)には、塗料の噴出口となる回転霧化頭22が回転自在に取り付けられ、該塗装機2の他端側には、塗料が充填された塗料タンク3が着脱自在に装着されており、塗装装置1は、静電塗装用のカートリッジ式塗装機に構成されている。
【0018】
塗料タンク3は、袋状に形成され塗料が充填される塗装室32aを構成する塗料バッグ32と、該塗料バッグ32の周囲を覆い、該塗料タンク3のケーシングとなる透明ナイロンから成る外部ケース31と、外部ケース31の台座部33とを備えている。外部ケース31は、台座部33に嵌合固定または螺装固定されている。図1では、外部ケース31は台座部33に螺装されているが、その他の嵌合方法により嵌合することもできる。
外部ケース31内部には、密閉された空間となる作動液室31aが塗料バッグ32との間に構成されており、該作動液室31a内には、作動液供給管35を通じて作動液が流入可能となっている。
作動液としては、例えば、水や有機溶媒等が用いられる。
静電塗装を行う場合には、通常―60kVから−90kVの高電圧が塗料および回転霧化頭に印加されるので、作動液の経路からの電流リーク値が大きくならないように、電気抵抗値の高い作動液を選定し、またはアース部からの距離を十分に確保することが好ましい。
【0019】
塗料バッグ32は可撓性部材にて形成されており、該塗料バッグ32の外部からおよび内部から押圧力がかかると、その押圧力により変形するように構成されている。
従って、塗料バッグ32内に塗料が充填されると、該塗料バッグ32は内部から外部へ向けての力を受け、その内容積が増加して膨らむ。
逆に、塗料が充填された状態の塗料バッグ32に外部から内側へ向けての力がかかると、該塗料バッグ32の内容積が減少して、充填されている塗料が塗料バッグ32に形成される吐出口32bから外部へ押し出されることとなる。
【0020】
このように、塗料タンク3においては、塗料バッグ32に外部から押圧力を加えることで、塗料バッグ32に充填された塗料を吐出口32bから押し出すことが可能となっているため、塗料が充填された状態の塗料タンク3の前記作動液室31a内に、塗料の押し出し材としての作動液を圧送することで、該作動液により塗料バッグ32に対して外側から内側へ向う押圧力をかけて、該塗料バッグ32に充填されている塗料を外部へ押し出すことができる。
塗料バッグ32の吐出口32bから押し出された塗料は、塗装機2の本体21における塗料供給通路21aを通じて回転霧化頭22まで案内され、該回転霧化頭22から噴霧される。
【0021】
このように構成される塗料タンク3における外部ケース31は、耐圧強度を有する硬質ブラスチックで、かつ透明、さらに耐溶剤性を備えた樹脂部材にて形成されている。
ここで、「透明」とは、外部ケース31内に収納される塗料バッグ32が、外部ケース31の外側から明瞭に見え、塗料バッグ32の外形形状が明確に把握でき、かつ画像解析が可能なレベルの透明度を維持していることをいう。また、無色であってもよいし、画像解析が可能なレベルの透明度を維持できれば、若干の薄い着色がなされていてもよい。
また、「耐溶剤性を備えた」とは、水や有機溶剤によって強度の低下や溶解が生じないこと、および溶剤クラックが発生したり、表面が曇ったりして透明度の低下が発生しないことをいう。
【0022】
このように、外部ケース31を耐圧強度を有する硬質ブラスチックで、かつ透明で、耐溶剤性を備えた樹脂部材にて形成することで、塗料タンク3を外部から見た場合に、外部ケース31の内部に存在する塗料バッグ32を目視することができ、該塗料バッグ32の状態を把握することができる。
つまり、塗料タンク3を外部から見ただけで、塗料バッグ32が、図2(a)に示すような、塗料が充填されて膨らんだ正常な状態であるか、図2(b)に示すような、塗料が充填されていなくて萎んだ異常な状態であるか、また充填されている塗料の量はどれくらいであるか、さらに図2(c)に示すように、塗料バッグ32が破損して漏れ塗料37が作動液中へ漏れたときに漏れ発生を即座に把握することができる。
【0023】
また、外部ケース31は耐溶剤性を備えているので、作動液室31a内に流入する作動液として有機溶剤が用いられたとしても、該外部ケース31に白濁やクラックが生じることはなく、塗料タンク3の外部から塗料バッグ32の様子を把握する機能、および外部ケース31のケーシングとしての機能を損なうこともない。
【0024】
さらに、透明で、耐溶剤性を備えた樹脂部材にて外部ケース31を形成するのに加えて、塗料バッグ32をも透明で、耐溶剤性を備えた樹脂部材にて形成することも可能である。塗料バッグ32を構成する樹脂部材は、内部に充填されている塗料の色を確認できる程度の透明性を要する。
このように、塗料バッグ32を形成することで、塗料タンク3の外部から、塗料バッグ内に充填されている塗料の色が正常であるか否かの確認を行うことが可能となる。
【0025】
前記外部ケース31および塗料バッグ32の素材として用いられる、透明で、耐溶剤性を備えた樹脂部材としては、例えば透明ナイロン樹脂を用いることができる。なお、本例においては、この透明ナイロン樹脂には、完全な透明ではなく透明樹脂よりも光の透過率が若干少ないナイロン樹脂も含まれる。
【0026】
ここで、代表的な樹脂の光特性(ランベルト・ベーアの吸光度係数)を次の表1に示す。
なお、ランベルト・ベーア式(I=I0−ε・C・L)で、Iは透過光強度を示し、I0は最初の光強度を示し、εは吸光度係数を示し、Cは濃度を示し(この場合は1である)、Lは光の透過長さを示す。
【表1】


各種樹脂を圧力のかかる塗料タンクとして使用する場合、強度確保のため、3mmから10mm程度の厚みが必要となるが、表1に示すように、このような厚みで透明性を確保できる樹脂は限られたものとなる。
本実施例では、透明性を確保できる吸光度係数を有する樹脂のうち、透明ナイロンを使用した。
【0027】
また、透明ナイロン樹脂を含む、各樹脂の耐溶剤性の評価結果を次の表2に示す。
表2によれば、多くの溶剤塗料や水性塗料、さらには洗浄シンナーに含まれている芳香族系等の代表的な溶剤に対する耐溶剤性について、透明ナイロン樹脂は、他のPC(ポリカーボネート樹脂、PMMA(アクリル樹脂)等に対して、優れた耐非極性溶媒性を備えている。
【表2】

【0028】
このように、透明ナイロン樹脂は優れた耐溶剤性を備えているので、水や有機溶剤が用いられる前記作動液が接触したとしても白濁したりクラックが発生したりすることはなく、塗料タンク3の外部ケース31に使用することができる。
なお、塗料バッグ32の素材としては、数10μm〜100μm程度の厚みの、ポリエチレンやPET(ポリエチレンテレフタレート)やPVA(ポリビニルアルコール)や軟質ナイロン等を用いることで、透明性および可撓性を確保した塗料バッグを構成することができる。
【0029】
また、外部ケース31は、接続部31bを塗装機2に対して嵌合または螺装することにより該塗装機2に装着するため、該外部ケース31を構成する透明ナイロン樹脂は、寸法安定性および耐熱性を備えていることが必要となる。
つまり、外部ケース31が吸水または作動液の含浸により膨潤して接続部31bの寸法が大きく変動すると、該接続部31bを台座部33に嵌合または螺装できなくなってしまうため、透明ナイロン樹脂は、吸水率が小さい方が好ましい。
さらに、外部ケース31は、成形後に接続部31bの螺子部等を機械加工により形成する必要があるため、機械加工時に生じる熱により劣化、変形等しないだけの耐熱性を備えていることが必要である。
【0030】
ここで、各種の透明ナイロン樹脂や他の樹脂の吸水率、ガラス転位温度、および引張降伏点等の各種特性を、次の表3に示す。表3には、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂、塗装機2に最も多用されている不透明なポリアセタール、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン12、および前記透明ナイロン、の樹脂の各特性を示している。
【表3】

【0031】
透明ナイロン樹脂の吸水率は、5%程度以下であることが好ましく、さらには2%程度以下であることが好ましいが、表3によれば、ナイロン12の吸水率が1.9%であり、透明ナイロンの吸水率が1.5〜3.5%となっており、優れている。
また、機械加工時における耐熱性は、ガラス転移点温度が150℃以上であれば満足できるが、全ての透明ナイロン樹脂においてガラス転移点温度が150℃を超えており、問題ない。しかし、透明ナイロン以外は不透明であるため、外部ケース31への適用は好ましくない。
さらに、引張降伏点についても、全ての透明ナイロン樹脂が機械加工に耐え得るだけの値を有している。
また、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)は、引張弾性率が低く、また、ガラス転移温度も低く、伸びも大きい軟質プラスチックである。透明で、必要な強度を保有し、機械加工に耐え得るものは透明ナイロンのみとなっている。
【0032】
また、塗料タンク3の素材として透明ナイロン樹脂を選択すると、塗料タンク3(外部ケース31)を射出成形にて成形することが可能となるため、該塗料タンク3を短期間で大量かつ安価に製作することが可能となる。
【0033】
そして、外部ケース31を製作する際には、該外部ケース31の素材である透明ナイロン樹脂を射出成形により、外部ケース31の形状に成形し、その後、その成形品に台座部33の螺子部等が機械加工により形成される。
この場合、機械加工前の外部ケース31の成形品に対して、作動液に使用する有機溶剤を予め吸水させておき、その後、嵌合部や螺子部等の機械加工を行うのが好ましい。
【0034】
つまり、図3に示すように、塗料タンク3の素材である透明ナイロン樹脂を成形加工する成形加工工程(S01)、成形加工工程にて成形された成形品に対して吸水、または塗料押圧用部材である作動液を含浸させる吸水工程(S02)、および吸水させた成形品に対して機械加工を施す機械加工工程(S03)を順に行い、外部ケース31を加工して、塗料タンク3を製作するのが好ましい。
【0035】
これは、透明ナイロン樹脂にて形成される外部ケース31は吸水すると膨潤して寸法変化が生じるが、予め有機溶剤を吸水させて寸法変化が生じた状態で機械加工を施すことで、有機溶剤に長時間接触して吸水状態となる実際の使用状態での寸法精度を向上することができ、塗料タンク3の台座部33への装着不良や、装着時の液漏れ等といった不具合の発生を確実に防止することができるためである。
【0036】
次に、塗料タンク3の別実施例について説明する。
図4に示すように、本実施例においては、前述のような塗料バッグ32を使用せずに、塗料タンク3を、ナイロン樹脂にて構成される外筒としての役割を果たす前記外部ケース31と、該外部ケース31内に摺動自在に嵌装されるピストン34とを備えて構成した。
外部ケース31内の空間は、ピストン34により作動液室31aと塗料室32aとの2つの空間に分割されており、一方の空間である塗料室32a内に塗料を充填した状態で、他方の空間である作動液室31a内に作動液を圧入すると、作動液の圧力によりピストン34が吐出口32b側へ移動して、塗料が回転霧化頭22から吐出される。
一方、塗料室32a内への塗料の充填は吐出口32bを通じて行うことができ、吐出口32bから塗料室32a内へ塗料を充填すると、ピストン34が作動液室31a側へ移動して、作動液が作動液室31a外部へ排出される。
このような、塗料の吐出・充填といった外部ケース31内部の状況は、該外部ケース31が透明ナイロンにて形成されているので、外部から見ることができる。
【0037】
本例では、透明ナイロンにて形成された外部ケース31内をピストン34が摺動するように構成しているため、該外部ケース31の内径等の内寸法の公差は、外部ケース31の一端側から他端側までの間で、数10μm〜100μm程度に抑える必要がある。
従って、外部ケース31を製作する場合は、透明ナイロンを射出成形した後に、その成形品に機械加工を施して、内寸法の精度を確保するようにしている。
また、外部ケース31と、該外部ケース31の内部に設けられるピストン34との間には、摺動時の抵抗を減少させつつ、塗料と作動液とが混ざらないようにするために、O−リングを設けたり、摺動方向に長い摺動子を設けたりしている。
なお、前述の外部ケース31内に塗料バッグ32を設けた例の場合は、塗料バッグ32が外部ケース31内を摺動することはないので、成形時に外部ケース31の内周面に生じる1〜3°程度の抜き勾配を、機械加工により除去する必要はなく、成形後にそのまま使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかる塗料タンクが装着された塗装装置を示す側面断面図である。
【図2】塗料タンクを示す側面図であって、(a)は内部の塗料バッグに塗料が充填された正常な状態の塗料タンクを示し、(b)は内部の塗料バッグに塗料が充填されていない異常な状態を示し、(c)は塗料バッグの一部が破れて、塗料バッグ内部の塗料が作動液室側へ漏れ出している状態を示す図である。
【図3】塗料タンクの加工フローを示す図である。
【図4】塗料タンクの別実施例を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 塗装装置
2 塗装機
3 塗料タンク
31 外部ケース
31a 作動液室
32 塗料バッグ
32a 塗料室
33 台座部
34 ピストン
35 作動液供給管
37 漏れ塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装機に装着され、内部に充填した塗料を押し出すことにより、塗装機へ圧送可能な塗料タンクであって、
該塗料タンクを、耐溶剤性を有するとともに透明な硬質プラスチックであるナイロン樹脂にて構成したことを特徴とする塗料タンク。
【請求項2】
前記塗料タンクは、塗料が充填される塗料バッグと、該塗料バッグの周囲を覆い、塗料押圧用部材が充填される外部ケースとを備えており、
該外部ケースが前記ナイロン樹脂にて構成されることを特徴とする請求項1に記載の塗料タンク。
【請求項3】
前記塗料タンクは、塗料が充填される塗料バッグと、該塗料バッグの周囲を覆い、塗料押圧用部材が充填される外部ケースとを備えており、
前記外部ケースが前記ナイロン樹脂にて構成され、前記塗料バッグが透明な樹脂にて構成されることを特徴とする請求項1に記載の塗料タンク。
【請求項4】
前記ナイロン樹脂は、吸水率が5%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の塗料タンク。
【請求項5】
前記塗料タンクは、前記ナイロン樹脂にて構成される外筒と、該外筒内に摺動自在に嵌装されるピストンとを備え、
ピストンにより仕切られた外筒内の空間の一方に塗料を充填し、他方に塗料押圧用部材を供給することで、ピストンを摺動させて塗料を塗料タンク外部に押し出すように構成されることを特徴とする請求項1に記載の塗料タンク。
【請求項6】
前記外筒は射出成形にて成形され、成形後に、成形時の抜きテーパーを機械加工により除去して、該外筒一端側の内径寸法と他端側の内径寸法とを略同じに形成したことを特徴とする請求項5に記載の塗料タンク。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載の塗料タンクの加工方法であって、
該塗料タンクの素材を成形加工する成形加工工程と、
成形加工工程にて成形された成形品に対して吸水または前記塗料押圧用部材を含浸させる吸水工程と、
吸水または前記塗料押圧用部材を含浸させた成形品に対して機械加工を施す機械加工工程と、
を備えることを特徴とする塗料タンクの加工方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−347606(P2006−347606A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178177(P2005−178177)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(593085439)ハジメ産業株式会社 (7)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】