説明

塗料用組成物、被覆物品及び被覆物品の製造方法

【課題】本発明は、取り扱い性及び保存性に優れるとともに、著しく高い架橋度を有し、かつ耐久性や柔軟性等の各種物性に優れる均一な塗膜を与えることができるうえ、通常塗膜を形成する際に必要な架橋剤の添加及び塗布後の架橋処理を必須としなくても該塗膜を形成することができる塗料用組成物、このような塗料用組成物を用いてなる被覆物品並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、液体媒体中に架橋含フッ素エラストマーが分散してなることを特徴とする塗料用組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用組成物、被覆物品及び被覆物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴム塗料等の含フッ素エラストマーを用いた塗料は、含フッ素エラストマーが有する耐熱性、耐候性、柔軟性、耐油性、耐溶剤性及び耐薬品性等を利用し、例えば、織物、繊維、金属、プラスチックその他種々の基材等に塗布又は含浸等されて、各種の工業用材料として広く用いられている。
【0003】
このような含フッ素エラストマーを用いた塗料としては、例えば、フッ素ゴムの水性ディスパージョンにアミノシラン化合物を配合してなるフッ素ゴム水性塗料(例えば、特許文献1等参照。)や、含フッ素弾性状共重合体、ポリオール加硫剤及び加硫促進剤を含んでなるフッ素ゴム加硫用組成物(例えば、特許文献2等参照。)等が提案されており、工業的に極めて有用な塗膜の形成を実現している。
【0004】
また一方、架橋された含フッ素エラストマー微粒子と合成樹脂とを含む組成物(特許文献3参照。)が提案されている。この組成物によれば、合成樹脂の成形性が向上し、低弾性率や柔軟性等の機械特性が向上する他、樹脂自体の燃料不透過性を格段に向上させることができるため、この組成物は主に成形材料として極めて有用なものである。しかしながら、特許文献2には、塗料用途に関しては何ら記載されていない。
【特許文献1】特開昭56−28249号公報
【特許文献2】特許第3381260号公報
【特許文献3】国際公開第2008/142983号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、フッ素ゴム水性塗料やフッ素ゴム加硫用組成物等の塗料用の組成物が種々開発されている。しかしながら、より幅広い分野に好適に適用できるようにするため、架橋度が更に高い塗膜の形成が望まれている。
ところで、一般に塗料用組成物から塗膜を形成する場合には、この組成物に架橋剤を添加して基材に塗布した後、熱や活性エネルギー線等により架橋処理及び乾燥処理する工程が行われている。だが、架橋剤の量や架橋条件等によっては、得られる塗膜において架橋度に偏りが生じ、均一な塗膜を得ることができないことがある。また、架橋剤を添加した後の保存状態によっては塗料内で架橋反応が開始されることがあるため、架橋剤の添加を塗布直前に行ったり、架橋剤を添加した後、塗布するまでの間、熱や活性エネルギー線等から組成物を厳重に保護したりする必要がある。しかしながら、これらの課題を充分に解決できるような技術は未だない。
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、取り扱い性及び保存性に優れるとともに、著しく高い架橋度を有し、かつ耐久性や柔軟性等の各種物性に優れる均一な塗膜を与えることができるうえ、通常塗膜を形成する際に必要な架橋剤の添加及び塗布後の架橋処理を必須としなくても該塗膜を形成することができる塗料用組成物を提供することである。また、このような塗料用組成物を用いてなる被覆物品及びその製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液体媒体中に架橋含フッ素エラストマーが分散してなる塗料用組成物である。
本発明はまた、基材と、上記塗料用組成物によって形成された該基材上の塗膜とを有する被覆物品でもある。
本発明は更に、上記被覆物品を製造する方法であって、該製造方法は、上記塗料用組成物を基材に塗布する工程と、乾燥する工程とを含む被覆物品の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の塗料用組成物は、液体媒体中に架橋含フッ素エラストマーが分散してなることを特徴とする。このように予め架橋された含フッ素エラストマーの分散体である組成物を塗料用途に用いることにより、従来の組成物によって形成される塗膜に比較して著しく架橋度が高く、かつ架橋ムラ等が低減された均一な塗膜を得ることが可能になる。また、上記塗料用組成物は、含フッ素エラストマーが予め架橋されているため、従来の組成物と比べて保存性や取り扱い性に優れ、かつ高成膜性を有する組成物であり、しかも基材等へ塗布した後の作業効率を大幅に向上させることが可能なものである。特に、上記塗料用組成物を塗膜の形成に用いる場合には、通常塗膜を形成する際に必要な架橋剤の添加及び基材へ塗布後の架橋処理を必須としなくてもよいという、従来の技術常識を覆すほどの極めて異質な作用効果が発揮されるため、これら本発明の作用効果が更に充分に発現されることになり、上述したような従来の架橋剤の添加及び塗布後の架橋処理を行う場合に生じる課題をみごとに解決することが可能になる。
本明細書中では、架橋された状態の含フッ素エラストマーを「架橋含フッ素エラストマー」と称し、架橋前の含フッ素エラストマーを、単に「含フッ素エラストマー」と称する。
【0009】
上記架橋含フッ素エラストマーの架橋度は、例えばゲル分率により表すことができ、ゲル分率が85質量%以上であることが好適である。85質量%以上であると、架橋含フッ素エラストマーにおける未架橋部分が少なく、その結果、塗料用組成物中での架橋含フッ素エラストマー同士の凝集が充分に抑制されるため、塗料用組成物の塗布作業がより容易になるとともに、より優れた美観を呈する均一な塗膜を得ることが可能になる。より好ましくは87質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。なお、上限は、100質量%(完全にゲル化した状態)である。
【0010】
上記ゲル分率とは、含フッ素エラストマーが可溶で、かつ架橋含フッ素エラストマーが不溶である溶剤に対する、架橋含フッ素エラストマーの溶剤不溶分の質量割合(%)を意味する。具体的には、例えば、含フッ素エラストマーが非パーフルオロエラストマーである場合は、アセトンに不溶部分の質量割合(%)とすることが好ましく、また、含フッ素エラストマーがパーフルオロエラストマーである場合は、パーフルオロヘキサンに不溶部分の質量割合(%)とすることが好ましい。
なお、パーフルオロエラストマーとは、それを構成する構成単位100モル%のうち、パーフルオロ系単量体由来の構成単位を90モル%以上有する含フッ素エラストマーを意味し、非パーフルオロエラストマーとは、主鎖に水素原子を含む含フッ素エラストマーを意味する。
【0011】
上記架橋含フッ素エラストマーの形態としては特に限定されず、粒子や鎖状物等が挙げられるが、粒子であることが好ましく、これにより、液体溶媒中への分散性が向上されるとともに、平面潤滑性により優れる塗膜を得ることができる。中でも微粒子であることがより好適である。これらの効果をより発現させるため、粒子の平均粒子径としては、0.01〜10μmの範囲であることが好適である。下限値としては、より好ましくは0.05μm、更に好ましくは0.1μmであり、また上限値としては、より好ましくは5μm、更に好ましくは1μm、特に好ましくは0.5μm、最も好ましくは0.2μmである。
上記平均粒子径は、液体溶媒中に架橋含フッ素エラストマーが分散された形態の分散体について、光散乱法(例えば、MICROTRAC HRA(Honeywell社製)使用。)にて求めることができる。
なお、本明細書中、「平面潤滑性に優れる」とは、塗布面の粗さが低減され、表面が滑らかであることを意味する。
【0012】
上記架橋含フッ素エラストマーとしてはまた、耐熱性や耐候性、柔軟性、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性、透明性等の物性向上の観点から、フッ素含有率が65質量%以上であることが好適である。より好ましくは70質量%以上である。
上記フッ素含有率は、NMR分析(例えば、JEOL社製のJNM−EX270を使用。)により測定することができる。
【0013】
上記架橋含フッ素エラストマーを構成する含フッ素エラストマーは、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位を有するものであることが好適である。すなわち、含フッ素エラストマーは、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるものであることが好ましい。
上記含フッ素エラストマーにおいて、フルオロオレフィンに由来する構成単位としては、含フッ素エラストマーを構成する全構成単位100モル%中、70モル%以上を占めることが好適である。より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上である。
【0014】
上記フルオロオレフィン(フッ素含有オレフィン)としては、フッ素原子を含むオレフィンであればよく、例えば、炭素数2〜10のフルオロオレフィンであることが好適である。この中でも、上記フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド及び下記一般式(1):
CF=CF−R (1)
(式中、Rは、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体であることが好ましい。
なお、上記含フッ素エラストマーとしては、その主鎖が上記フルオロオレフィンにより構成されることが好適である。
【0015】
上記一般式(1)において、Rは、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基を表すが、好ましくは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基である。より好ましくは、トリフルオロメチル基(−CF基)又は炭素数1〜5のパーフルオロアルコキシ基(−OR基;Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)である。
【0016】
上記一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)や、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、より好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0017】
上記エチレン性不飽和単量体において、フルオロオレフィン以外の単量体を含む場合、この単量体としてはフルオロオレフィンと共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではない。例えば、エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
【0018】
上記エチレン性不飽和単量体を重合して含フッ素エラストマーを得る方法としては特に限定されず、通常の含フッ素エラストマーを得る場合に採用される重合法を採用すればよい。中でも、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の通常の重合方法によって水性分散液(水性ディスパージョン)の形で製造することが好ましく、水性塗料化が容易である点で、乳化重合法を採用することがより好適である。
【0019】
上記含フッ素エラストマーの好適な例としては、非パーフルオロエラストマー及びパーフルオロエラストマーが挙げられ、中でも、非パーフルオロフッ素ゴム(A)及びパーフルオロフッ素ゴム(B)が好ましい。なお、これらのうちの1種のみを使用してもよいし、本発明の効果を損なわない範囲内で2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0020】
上記非パーフルオロフッ素ゴム(A)の具体例としては、例えば、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、フルオロホスファゼン系フッ素ゴム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム(VdF系ゴム)や、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムがより好適である。
【0021】
上記VdF系ゴムとは、VdF由来の構成単位を少なくとも含む含フッ素(共)重合体を意味する。中でも、VdF系ゴムの主鎖を構成する全構成単位を100モル%とした場合に、VdF由来の構成単位20〜90モル%と、その他の単量体由来の構成単位10〜80モル%とを含む含フッ素共重合体が好適である。VdF由来の構成単位のモル数は、下限値としては40モル%がより好ましく、更に好ましくは50モル%であり、また、上限値としては85モル%がより好ましく、更に好ましくは80モル%である。
【0022】
上記VdF系ゴムにおけるその他の単量体としては、VdFと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニル、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテル等のフッ素含有単量体;エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等のフッ素非含有単量体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、TFE、HFP、PAVEが好適である。
なお、上記PAVEとしては、上述したように、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、より好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0023】
上記VdF系ゴムとしては、例えば、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/Pr共重合体、VdF/Et/HFP共重合体等が好適である。これらの中でも、VdFと共重合可能な他の単量体として、TFE、HFP及び/又はPAVEを用いてなる共重合体が好ましく、特に、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合が好適である。
【0024】
上記VdF/HFP共重合体としては、VdF由来の構成単位とHFP由来の構成単位とのモル比(VdF/HFPの組成)が、45〜85/55〜15(モル%)であることが好ましい。より好ましくは50〜80/50〜20(モル%)であり、更に好ましくは60〜80/40〜80(モル%)である。
【0025】
上記VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF由来の構成単位とHFP由来の構成単位とTFE由来の構成単位とのモル比(VdF/HFP/TFEの組成)が、40〜80/10〜35/10〜25(モル%)であることが好ましい。
【0026】
上記VdF/PAVE共重合体としては、VdF由来の構成単位とPAVE由来の構成単位とのモル比(VdF/PAVEの組成)が、65〜90/10〜35(モル%)であることが好ましい。
【0027】
上記VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF由来の構成単位とTFE由来の構成単位とPAVE由来の構成単位とのモル比(VdF/TFE/PAVEの組成)が、40〜80/3〜40/15〜35(モル%)であることが好ましい。
【0028】
上記VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF由来の構成単位とHFP由来の構成単位とPAVE由来の構成単位とのモル比(VdF/HFP/PAVEの組成)が、65〜90/3〜25/3〜25(モル%)であることが好ましい。
【0029】
上記VdF/HFP/TFE/PAVE共重合としては、VdF由来の構成単位とHFP由来の構成単位とTFE由来の構成単位とPAVE由来の構成単位とのモル比(VdF/HFP/TFE/PAVEの組成)が、40〜90/0〜25/0〜40/3〜35(モル%)であることが好ましい。より好ましくは40〜80/3〜25/3〜40/3〜25(モル%)である。
【0030】
上記テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムとは、テトラフルオロエチレン(TFE)由来の構成単位及びプロピレン(Pr)由来の構成単位を少なくとも含む含フッ素共重合体を意味する。中でも、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムの主鎖を構成する全構成単位を100モル%とした場合に、テトラフルオロエチレン由来の構成単位45〜70モル%と、プロピレン由来の構成単位55〜30モル%とを含む含フッ素共重合体が好適である。なお、これら2成分に加えて、特定の第3成分(例えば、PAVE等)を0〜40モル%含んでいてもよい。
【0031】
上記パーフルオロフッ素ゴム(B)の具体例としては、例えば、国際公開第97/24381号パンフレット、特公昭61−57324号公報、特公平4−81608号公報、特公平5−13961号公報等に記載されているフッ素ゴム等が挙げられる。中でも、パーフルオロフッ素ゴム(B)の主鎖を構成する構成単位が、TFE由来の構成単位及びPAVE由来の構成単位からなる含フッ素共重合体等が好適である。この場合、TFE由来の構成単位とPAVE由来の構成単位とのモル比(TFE/PAVEの組成)は、50〜90/10〜50(モル%)であることが好ましい。より好ましくは、50〜80/20〜50(モル%)、更に好ましくは55〜70/30〜45(モル%)である。
なお、上記PAVEとしては、上述したように、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、より好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0032】
上記含フッ素エラストマーはまた、ヨウ素及び/又は臭素原子を含有するものであることが好適である。この場合、ヨウ素原子や臭素原子が架橋点(架橋部位)として機能することができる。より好ましくは、含フッ素含有エラストマー100質量%中に、ヨウ素及び/又は臭素原子を0.01〜10質量%含むことである。これにより、含フッ素エラストマーがパーオキサイド架橋しやすく、ゴム弾性等のゴムとしての性能をより充分に発揮することができることになる。下限値としては、より好ましくは0.05質量%であり、上限値としては、より好ましくは2質量%である。また、上記含フッ素エラストマーが少なくともヨウ素原子を含むものであることが特に好適である。
【0033】
上記ヨウ素及び/又は臭素原子を含む含フッ素エラストマーとしては、例えば、(i)上記エチレン性不飽和単量体として、更にヨウ素及び/又は臭素含有単量体を含むものを用いる方法や、(ii)後述するヨウ素(臭素)移動重合法を用いる方法等により得ることができ、これらの方法を併用することもできる。
【0034】
上記(i)の方法において、具体的な条件や反応物質等については、例えば、特開昭62−012734号公報等の記載が参照できる。
上記(i)の方法にて得られる含フッ素エラストマーの具体例としては、例えば、上述した非パーフルオロフッ素ゴム(A)やパーフルオロフッ素ゴム(B)が、更に、ヨウ素及び/又は臭素含有単量体に由来する構成単位を有するもの等が挙げられる。
なお、上記含フッ素エラストマーがヨウ素及び/又は臭素含有単量体に由来する構成単位を含む場合、その含有量は、含フッ素エラストマーを構成する全構成単位100モル%に対し、2〜10モル%であることが好適である。下限値としては、より好ましくは3モル%であり、上限値としては、より好ましくは8モル%である。
【0035】
上記ヨウ素及び/又は臭素含有単量体とは、ヨウ素原子及び臭素原子のうち少なくとも1種を有する単量体を意味し、例えば、下記一般式(2):
CY=CY−R (2)
(式中、Y及びYは、同一若しくは異なって、フッ素原子、水素原子又はアルキル基を表す。Rは、酸素原子を有していてもよい、直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基を表す。Xは、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。)で表される単量体等が好適である。このように、上記エチレン性不飽和単量体が、更に、上記一般式(2)で表される単量体を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0036】
上記一般式(2)において、Y及びYは、同一若しくは異なって、フッ素原子、水素原子又はアルキル基を表すが、アルキル基を表す場合は炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。すなわち、上記Y及びYとして好ましくは、同一若しくは異なって、フッ素原子、水素原子又はメチル基(CH)である。
また上記一般式(2)中のXは、ヨウ素原子又は臭素原子を表すが、ヨウ素原子であることが特に好ましい。すなわち、上記含フッ素エラストマーは、少なくともヨウ素原子を含むものであることが好適である。
【0037】
上記一般式(2)で表される単量体としては、例えば、下記式(2−1)〜(2−19)で表される単量体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
CY12=CY2−Rf4CHR1−X1 (2-1)
(式中、Y1、Y2及びX1は、各々上記と同様である。Rfは、直鎖若しくは分岐鎖の、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロオキシアルキレン基、パーフルオロオキシアルキレン基又はパーフルオロポリオキシアルキレン基を表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。)
【0038】
CY42=CY4(CF2n1−X1 (2-2)
(式中、Y4は水素原子又はフッ素原子を表す。n1は1〜8の整数を表す。)
CF2=CFCF2f5−X1 (2-3)
(式中、Rf5は−(OCF2n2−又は−(OCF(CF3))n2−を表す。n2は0〜5の整数を表す。
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m1
(OCH2CF2CF2n2OCH2CF2−X1 (2-4)
(式中、m1は0〜5の整数を表す。n2は0〜5の整数を表す。)
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2m1
(OCF(CF3)CF2n2OCF(CF3)−X1 (2-5)
(式中、m1は0〜5の整数を表す。n2は0〜5の整数を表す。)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m1O(CF2n1−X1 (2-6)
(式中、m1は0〜5の整数を表す。n1は1〜8の整数を表す。)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m2−X1 (2-7)
(式中、m2は1〜5の整数を表す。)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2n3CF(−X1)CF3 (2-8)
(式中、n3は1〜4の整数を表す。)
CF2=CFO(CF2n4OCF(CF3)−X1 (2-9)
(式中、n4は2〜5の整数を表す。)
CF2=CFO(CF2n5−(C64)−X1 (2-10)
(式中、n5は1〜6の整数を表す。)
【0039】
CF2=CF(OCF2CF(CF3))n6OCF2CF(CF3)−X1 (2-11)
(式中、n6は1〜2の整数を表す。)
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)n2CF(CF3)−X1 (2-12)
(式中、n2は0〜5の整数を表す。)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m1(CF2n7−X1 (2-13)
(式中、m1は0〜5の整数を表す。n7は1〜3の整数を表す。)
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)−X1 (2-14)
CH2=CFCF2OCH2CF2−X1 (2-15)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m3CF2CF(CF3)−X1 (2-16)
(式中、m3は0以上の整数を表す。)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n8−X1 (2-17)
(式中、n8は1以上の整数を表す。)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2−X1 (2-18)
CH2=CH−(CF2n91 (2-19)
(式中、n9は2〜8の整数を表す。)
なお、上記一般式(2−2)〜(2−19)中、X1は、上記と同様である。)
【0040】
上記一般式(2−1)で表される単量体として好ましくは、例えば、下記一般式(3):
【化1】

【0041】
(式中、maは1〜5の整数を表す。naは0〜3の整数を表す。)で表されるヨウ素含有含フッ素化ビニルエーテルが挙げられ、より具体的には、下記化合物等が好ましい。
【0042】
【化2】

【0043】
上記ヨウ素含有含フッ素化ビニルエーテルの中でも、
ICH2CF2CF2OCF=CF2
が好適である。
【0044】
上記一般式(2−2)で表される単量体として好ましくは、
ICF2CF2CF=CH2
I(CF2CF22CF=CH2
等が挙げられる。
【0045】
上記一般式(2−6)で表される単量体として好ましくは、
I(CF2CF22OCF=CF2
等が挙げられる。
【0046】
上記一般式(2−19)で表される単量体として好ましくは、
CH2=CHCF2CF2I、
I(CF2CF22CH=CH2
等が挙げられる。
【0047】
上記ヨウ素及び/又は臭素含有単量体としてはまた、特公平5−63482号公報や特開平7−316234号公報等に記載されているパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)等のヨウ素含有単量体等も使用することができる。
【0048】
また本発明では、上記一般式(2−1)〜(2−19)で表される化合物のX基が、シアノ基(−CN基)、カルボキシル基(−COOH基)又はアルコキシカルボニル基(−COOR基;Rは、炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基を表す。)である単量体を用いてもよい。この場合、上記含フッ素エラストマーは、シアノ基、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基を有することになり、これらの基が架橋点(架橋部位)として機能することができる。なお、このような単量体は、上述したエチレン性不飽和単量体と共に用いることが好ましい。
【0049】
上記(ii)の方法において、ヨウ素(臭素)移動重合法としては、ヨウ素化合物や臭素化合物を用いて行う通常の手法が採用され、例えば、実質的に無酸素下、水媒体中で、ヨウ素及び/又は臭素化合物の存在下に上記エチレン性不飽和単量体を加圧下で撹拌しながら、ラジカル開始剤の存在下に乳化重合を行う方法等が挙げられる。このようにして導入されるヨウ素原子や臭素原子は、パーオキサイド架橋可能な架橋点として機能することができる。
なお、重合に供するエチレン性不飽和単量体は、上述したヨウ素及び/又は臭素含有単量体を更に含むものであることが好適である。この場合、後述する1分子中に末端ヨウ素原子を少なくとも3個有する含フッ素エラストマーを容易に得ることができるため、架橋密度が更に高い架橋含フッ素エラストマーが得られることになる。
【0050】
上記ヨウ素及び/又は臭素化合物は、ヨウ素原子及び臭素原子のうち少なくとも1種以上を有する化合物であればよいが、重合反応性及び架橋反応性の観点から、ヨウ素原子及び臭素原子のうち少なくとも1種以上を合計2個有する化合物が好適である。より好ましくは、ヨウ素原子を2個有するジヨウ素化合物である。
【0051】
上記ヨウ素及び/又は臭素化合物としては、例えば、下記一般式(4):
Br (4)
(式中、x及びyは、同一又は異なって0〜2の整数を表し、かつ1≦x+y≦2を満たすものである。Rは、炭素数1〜16のフルオロ炭化水素基若しくはクロロフルオロ炭化水素基、又は、炭素数1〜3の炭化水素基を表し、酸素原子を含んでいてもよく、また、これらの炭化水素基は飽和基又は不飽和基のいずれであってもよい。)で表される化合物が好ましい。
【0052】
上記一般式(4)で表される化合物としては、例えば、1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CF2Br2、BrCF2CF2Br、CF3CFBrCF2Br、CFClBr2、BrCF2CFClBr、CFBrClCFClBr、BrCF2CF2CF2Br、BrCF2CFBrOCF3、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、(2−ヨードエチル)及び(2−ブロモエチル)置換体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性等の観点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、ジヨードメタン等を用いることが好適である。
【0053】
上記ヨウ素及び/又は臭素化合物の使用量(添加量)としては、例えば、上記含フッ素エラストマーがフッ素ゴムの場合には、フッ素ゴム全質量100質量%に対し、0.0001〜5質量%であることが好ましい。
【0054】
上記ヨウ素及び/又は臭素原子を含む含フッ素エラストマーの中でも、特に好ましくは、1分子中に末端ヨウ素原子を少なくとも3個有する含フッ素エラストマーである。このような含フッ素エラストマーにおいては、当該ヨウ素末端が架橋点(架橋部位)となり、架橋密度が更に高い架橋含フッ素エラストマーが得られる他、パーオキサイド架橋をより容易に行うことが可能になる。
【0055】
上記ヨウ素原子の結合位置は、含フッ素エラストマーの主鎖の末端でも側鎖の末端でもよく、もちろん両者であってもよい。
上記末端ヨウ素原子の個数は、ポリマー(含フッ素エラストマー)1分子あたり3個以上が好ましいが、より好ましくは4個以上である。
なお、含フッ素エラストマー中の末端ヨウ素原子の個数は、使用するヨウ素含有化合物(例えば、重合開始剤、連鎖移動剤、含フッ素エラストマーを構成する単量体等)の反応スキームと反応量(消費量)等から計算により算出することができる。また、生成エラストマーの分子量測定、元素分析、NMR測定等からも算出することができる。
【0056】
また本発明においては、上述したように架橋含フッ素エラストマーが粒子であることが好ましく、微粒子であることがより好適であるため、それを構成する含フッ素エラストマーもまた、粒子であることが好ましく、微粒子であることがより好適である。粒子の平均粒子径としては、0.01〜10μmの範囲であることが好適である。下限値としては、より好ましくは0.05μm、更に好ましくは0.1μmであり、また上限値としては、より好ましくは5μm、更に好ましくは1μm、特に好ましくは0.5μm、最も好ましくは0.2μmである。
上記平均粒子径は、上述した架橋含フッ素エラストマーと同様に測定することができる。
【0057】
上記塗料用組成物において、液体溶媒としては、水や各種有機溶媒の他、これらの2種以上を含む混合溶剤等が挙げられる。
上記有機溶媒としては、水溶性溶媒又は非水溶性溶媒のいずれであってもよいし、これらの混合溶剤であってもよい。具体的には、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、アミド類、芳香族炭化水素類、炭化水素類等が挙げられる。
上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ブタノール、ジメチルカルビトール、ブチルジカルビトール、シクロヘキサノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の多価アルコール;等が挙げられ、中でも、低級アルコールが好適である。
【0058】
上記エーテル類としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ;プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;等が挙げられ、中でも、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適である。
上記エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
上記ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
上記アミド類としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
上記芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。
上記炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。
【0059】
上記液体溶媒の中でも、少なくとも水を含むもの(以下、「水性媒体」ともいう。)が好ましく、このように上記液体溶媒が水性媒体である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。水性媒体としては、水(単独)、水と水溶性溶媒との混合溶剤、水と水溶性溶媒と非水溶性溶媒との混合溶剤、及び、水と非水溶性溶媒との混合溶媒が挙げられる。
上記水性媒体において、水の含有量としては、水性媒体の総量100質量%中、10質量%以上であることが好適である。より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。最も好ましくは100質量%、すなわち水性媒体として水のみを用いることである。
【0060】
上記塗料用組成物の製造方法としては、液体溶媒中に架橋含フッ素エラストマーが分散されてなる形態の組成物が得られるものであれば特に限定されず、例えば、(I)架橋された含フッ素エラストマーを液体溶媒中に分散する方法や、(II)含フッ素エラストマーが液体溶媒中に分散された分散液を架橋する方法等が挙げられる。中でも、塗料用組成物から形成される塗膜の架橋度、作業効率等の観点から、(II)の分散液を架橋する方法が好適である。このように、上記塗料用組成物が、含フッ素エラストマーを液体溶媒中に分散してなる分散液を架橋して得られるものである形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0061】
上記(I)の方法において、分散方法や含フッ素エラストマーを架橋する方法については、通常の手法を採用すればよい。例えば、架橋方法としては、上記(II)の方法に関して後述する種々の架橋方法が採用できる。
【0062】
上記(II)の方法において、含フッ素エラストマーを液体溶媒中に分散して分散液を調製する方法としては、例えば、(II−1)含フッ素エラストマーを液体溶媒に投入し、必要に応じて架橋剤及び架橋助剤等を追加して攪拌分散させる方法や、(II−2)ヨウ素(臭素)移動重合法による重合生成混合物である含フッ素エラストマーを含む分散液(重合上がりの分散液)に、必要に応じて架橋剤及び架橋助剤等を追加して攪拌分散させ、濃度を適宜調整する方法等により行うことができる。
【0063】
上記調製法(II−1)においては、界面活性剤を使用して分散を安定させてもよいが、架橋時の安定性の観点から、その量は、含フッ素エラストマー100質量部に対し、5質量部以下とすることが好適である。より好ましくは1質量部以下である。
上記界面活性剤としては、例えば、
715COONH4
37O(CF(CF3)CF2O)CFCF3COONH4
等が挙げられる。
【0064】
上記調製法(II−2)においては、含フッ素エラストマーの製造系をそのまま受け継ぐことができるため、有利である。なお、重合の場に界面活性剤が存在する場合であっても、そのままで使用できる。
【0065】
上記(II)の分散液において、含フッ素エラストマーの濃度(含有量)は、架橋効率が良好な点から、分散液100質量%に対し、5質量%以上、50質量%以下とすることが好適である。下限値としては、より好ましくは10質量%、更に好ましくは20質量%であり、上限値としては、より好ましくは40質量%、更に好ましくは30質量%である。
【0066】
上記分散液の架橋手法としては、パーオキサイド架橋、ポリオール架橋、アミン架橋等の他、活性エネルギー線の照射による架橋法や、重合中に2つ以上のエチレン性不飽和基をもつ単量体を加えることによって重合中に架橋を進行させる方法等を採用することができ、これらの2以上の架橋法を併用することもできる。中でも、塗料用組成物から形成される塗膜の架橋度や作業効率等の観点から、パーオキサイド架橋法を用いることが特に好適である。
【0067】
上記パーオキサイド架橋法では、架橋剤として過酸化物を用いることが好適である。また、架橋助剤として多官能不飽和化合物を用いることが好ましく、より好ましくは、過酸化物及び多官能不飽和化合物を併用することである。特に、含フッ素エラストマーが液体溶媒中に分散した分散液を、過酸化物及び多官能不飽和化合物の共存下でパーオキサイド架橋する形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0068】
上記過酸化物としては、過硫酸塩や有機過酸化物が好ましく、これらを併用してもよいが、架橋効率や成膜性が良好な観点から、有機過酸化物を用いることが好適である。
上記過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム(SPS)、過硫酸カリウム(KPS)等が挙げられる。中でも、半減期温度や架橋効率が良好なことから、過硫酸アンモニウム(APS)や過硫酸カリウム(KPS)が好ましく、より好ましくは過硫酸アンモニウム(APS)である。また、亜硫酸塩類等の還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0069】
上記有機過酸化物としては、例えば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3−ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。中でも、ジアルキルタイプの化合物が好適であり、中でも、半減期温度や架橋効率が良好なことから、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。より好ましくは、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートである。
なお、活性−O−O−の量や分解温度等を考慮して、有機過酸化物の種類や使用量を選択することが好ましい。
【0070】
上記過酸化物の使用量(配合量)は、分散液中の含フッ素エラストマー100質量部に対し、0.1〜20質量部とすることが好ましい。これにより、架橋効率をより高めることができる。下限値としては、より好ましくは1質量部であり、上限値としては、より好ましくは10質量部、更に好ましくは5質量部である。
【0071】
上記多官能不飽和化合物としては、例えば、CH=CH−、CH=CHCH−、CF=CF−、−CH=CH−等のエチレン性不飽和結合基を有する多官能性化合物が挙げられる。中でも、架橋効率が良好な点から、オキシムニトロソ化合物、ジ(メタ)アクリレート系化合物、トリエステル系化合物、トリアリルイソシアヌレート系化合物、ポリブタジエン系化合物が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
上記オキシムニトロソ化合物としては、例えばジニトロソベンゼン等が挙げられ、上記ジ(メタ)アクリレート系化合物としては、例えばNKエステル9G(新中村化学工業社製)等が挙げられ、上記トリエステル系化合物としては、例えばハイクロスM(精工化学社製)、NKエステルTMTP(新中村化学工業社製)等が挙げられ、上記トリアリルイソシアヌレート系化合物としては、例えばトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメタアリルイソシアヌレート(TMAIC)等が挙げられ、上記ポリブタジエン系化合物としては、例えばNISSO−PB(日本曹達社製)等が挙げられる。中でも、架橋効率が良好な点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)を用いることが好適である。
【0072】
上記多官能不飽和化合物の使用量(配合量)は、分散液中の含フッ素エラストマー100質量部に対し、0.1〜20質量部とすることが好ましい。これにより、架橋効率をより高めることができる。下限値としては、より好ましくは0.5質量部、更に好ましくは1質量部であり、上限値としては、より好ましくは10質量部、更に好ましくは5質量部である。
【0073】
上記パーオキサイド架橋法による架橋反応は、分散液中で過酸化物を開裂させ、パーオキシラジカルを発生させることによって開始する。過酸化物が熱分解型の化合物である場合、分散液中での反応であることから、加熱温度としては、常圧(1気圧)の場合、50〜100℃の範囲に設定することが好適である。より好ましくは、架橋効率の観点から、60〜90℃である。
また反応時間は2〜10時間とすることが好ましく、より好ましくは3〜6時間である。
【0074】
上記ポリオール架橋法としては、通常の手法を採用すればよく、架橋剤としてポリヒドロキシ化合物を用いることが好適であり、また、受酸剤やオニウム塩等を併用することが好ましい。ポリヒドロキシ化合物の中でも、耐熱性に優れる点から、ビスフェノールAF等のポリヒドロキシ芳香族化合物がより好適である。
【0075】
上記アミン架橋法としては、通常の手法を採用すればよく、架橋剤としてポリアミン化合物等のアミン系架橋剤を用いることが好適である。また、受酸剤等を併用することが好ましい。
【0076】
上記活性エネルギー線架橋法としては、紫外線や放射線等の活性エネルギー線の照射によることによって架橋を開始する方法であり、常温で照射することが好適である。この場合は、上述した多官能不飽和化合物等の架橋助剤を用いることが好ましく、例えば、上記含フッ素エラストマーと多官能不飽和化合物とを含む分散液に活性エネルギー線を常温で照射することによって、該含フッ素エラストマーを活性エネルギー線架橋する形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。また、増感剤等を共存させてもよい。
【0077】
本発明の塗料用組成物は、更に、増粘剤を含むものであることが好ましい。これにより、塗膜の製膜性や平面潤滑性等がより向上されることになる。増粘剤としては特に限定されず、例えば、SNシックナーA−812(サンノプコ社製)、アデカノールUH-140S(旭電化工業社製)、ノニオンDS−60HN(日本油脂社製)等が挙げられる。
上記増粘剤の添加量(含有量)としては、例えば、塗料用組成物100質量%中、0.1〜10質量%とすることが好適である。より好ましくは0.5〜5質量%である。
なお、増粘剤の添加時期は特に限定されず、例えば、本発明の塗料用組成物を、含フッ素エラストマーの水性分散液を架橋して製造する場合には、液体溶媒中への含フッ素エラストマーの添加前又は同時に添加してもよいし、含フッ素エラストマーの水性分散液中に添加してもよいし、水性分散液を架橋した後に添加してもよい。
【0078】
また上記塗料用組成物は、必要に応じて架橋剤を含んでもよい。本発明では、予め架橋された含フッ素エラストマーを用いているため、架橋剤を添加しなくても高架橋度を有する均一な塗膜を形成することができるが、塗膜の架橋度を更に高めるために架橋剤を用いることができる。架橋剤を用いる場合は、架橋剤を含む1液型組成物としてもよいし、架橋剤を別にした2液型組成物としてもよい。
【0079】
上記架橋剤の含有量(添加量)としては、架橋含フッ素エラストマー中に残存する架橋部位の数やその構造、架橋剤の種類等によって適宜設定すればよいが、本発明の効果をより充分に発現させるためには、塗料用組成物100質量%に対し、5質量%以下とすることが好適である。より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.8質量%以下である。
上記架橋剤としては、用いる架橋法に応じて上述した架橋剤等を用いればよい。
【0080】
上記塗料用組成物はまた、必要に応じて架橋助剤を含んでもよい。
上記架橋助剤の含有量(添加量)としては、架橋含フッ素エラストマー中に残存する架橋部位の数やその構造、架橋助剤の種類等によって適宜設定すればよいが、本発明の効果をより充分に発現させるためには、塗料用組成物100質量%に対し、10質量%以下とすることが好適である。より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以下である。
上記架橋助剤としては、上述した架橋助剤等を用いればよい。
【0081】
上記塗料用組成物は更に、必要に応じて種々の添加剤を含んでもよい。
上記添加剤としては、例えば、成膜補助剤、消泡剤、pH調整剤、凍結防止剤、顔料、充填剤、顔料湿潤分散剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジー調整剤、防腐剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、つや消し剤、潤滑剤等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
【0082】
本発明の塗料用組成物は、水性塗料等の各種塗料等に好適に適用することができ、例えば、基材に塗布することにより塗膜を形成することができる。このように、基材と、上記塗料用組成物によって形成された該基材上の塗膜とを有する被覆物品もまた、本発明の1つである。このような被覆物品は、上記塗料用組成物によって形成された塗膜を有するため、著しく架橋度が高く、かつ架橋ムラ等が低減された高強度の均一塗膜であるとともに、含フッ素エラストマーに起因する耐熱性や耐候性、柔軟性、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性、透明性等の各種物性を充分に発揮でき、各種用途に極めて有用なものである。また、このような被覆物品は、上記塗料用組成物を基材に塗布する工程と、乾燥する工程とを含む製造方法により得ることができ、このような製造方法もまた、本発明の1つである。
【0083】
上記基材としては特に限定されないが、例えば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、真鍮等の金属類;ガラス板、ガラス繊維の織布や不織布等のガラス製品;ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の汎用樹脂や耐熱性樹脂の成形品及び被覆物;SBR、ブチルゴム、NBR、EPDM等の汎用ゴムや、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性ゴムの成形品及び被覆物;天然繊維及び合成繊維の織布や不織布等を使用することができる。
上記基材(被塗物)には、上記基材と塗料用組成物との接着性を向上させるため、シラン系プライマーやシリコーン系プライマー等により、基材表面にプライマー層を有するものであってもよい。また、必要に応じて、その他の作用を有する層を更に形成してもよい。
【0084】
上記基材(又はプライマー層等)への塗料用組成物の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ハケ塗り、スプレーコーティング、浸漬塗布、フローコーティング、ディスペンサーコーティング、スクリーンコーティング等が挙げられる。
なお、基材等へ塗布する前に、上記塗料用組成物を塗布する側の表面を充分に脱脂及び洗浄しておくことが好ましい。
【0085】
なお、上記被覆物品を製造するに際しては、上述したように、予め架橋された含フッ素エラストマーの分散体である塗料用組成物を用いていることから、通常塗膜を形成する際に必要な架橋剤の添加及び基材への塗布後の架橋処理を必須としなくても、高架橋度の均一塗膜の形成が可能である。したがって、塗料用組成物を基材等に塗布した後、乾燥するだけで塗膜を形成することもできるが、更に塗膜の架橋度を高めるために、必要に応じて架橋処理を行うこともできる。
架橋処理を行う場合、上記塗料用組成物は上述したように更に架橋剤を含むことが好ましい。また、架橋方法としては特に限定されず、パーオキサイド架橋、ポリオール架橋、アミン架橋等の他、紫外線や放射線等の活性エネルギー線の照射による架橋法等を採用することができ、これらの2以上の架橋法を併用することもできる。
これらの架橋方法については、上述したとおりである。
【0086】
上記被覆物品の製造方法においては、基材に上記塗料用組成物を塗布した後に、又は、必要に応じて更に架橋工程を行った後に、乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥工程は特に限定されず、常温乾燥してもよいし、加熱乾燥してもよく、使用する液体溶媒の沸点や作業日数、得られる塗膜の物性等を適宜考慮して設定すればよい。例えば、より平面潤滑性に優れた均一塗膜を有する被覆物品を得ようとする場合は、乾燥温度を常温〜100℃の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60以下である。
【0087】
上記被覆物品の製造方法においてはまた、上記塗料用組成物から形成された塗膜により構成される被覆層の上に、更に表面層を形成してもよい。表面層は、例えば、フッ素樹脂塗料等の合成樹脂塗料等を使用して通常の手法で形成することができる。
【0088】
このようにして得られる被覆物品は、耐熱性や耐溶剤性、潤滑性、柔軟性等が要求される各種用途に好適に用いることができる。具体的な用途としては、例えば、複写機、プリンター、ファクシミリ等のOA機器用のロール(例えば、定着ロール、加圧ロール)及び搬送ベルト;フィルム、シート、スリーブ及びベルト;O−リング、ダイヤフラム、耐薬品性チューブ、燃料ホース、バルブシール、化学プラント用ガスケット、エンジンガスケット等が挙げられる。また、フッ素ゴム層を表面とする基材上に、上記塗料用組成物によって塗膜(被膜)を形成することにより、燃料キャップシールとして使用することも可能である。
【発明の効果】
【0089】
本発明の塗料用組成物は、上記構成よりなるものであるので、取り扱い性及び保存性に優れるとともに、通常塗膜を形成する際に必要とされる架橋剤の添加や基材への塗布後の架橋処理を必須としなくても、高架橋度で、かつ耐久性や柔軟性等の各種物性に優れた均一な塗膜を与えることができるものである。また、本発明の被覆物品は、このような優れた塗膜を有し、耐熱性や耐候性、柔軟性、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性、透明性等の各種性能に優れたものであるため、各種用途に極めて有用なものである。更に、本発明の被覆物品の製造方法によれば、このような本発明の被覆物品を効率よく作製することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0090】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
下記実施例及び比較例等において、各種物性等の測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
(1)フッ素含有率
NMR分析(JEOL社製のJNM−EX270)により測定したデータから算出する。
(2)平均粒子径
光散乱法(MICROTRAC HRA(Honeywell社製)使用。)にて測定したデータより算出する。
(3)塗膜のゲル分率(アセトン不溶分)
塗膜0.5gを25℃のアセトン50mL中に投入し、スターラーにより充分撹拌後、48時間25℃で静置後、濾過(桐山濾紙)し、残留分(不溶解分)を乾燥し、精密天秤で秤量して得たデータから算出する。
(4)末端ヨウ素原子の個数
含フッ素エラストマー中の末端ヨウ素原子の個数は、含フッ素エラストマーを得るために使用したヨウ素含有化合物(例えば、重合開始剤、連鎖移動剤、含フッ素エラストマーを構成する単量体等)の反応スキーム及び反応量(消費量)から計算により算出する。
【0091】
製造例1(含フッ素エラストマー水性分散液の製造)
3000mL内容量の内容積耐圧反応槽に純水1500ml、パーフルオロオクタン酸アンモニウムC15COONHを2g入れ、内部空間をVdF/HFP/TFE(18/71/11モル比)の混合ガスで充分置換後、1.57MPaG(16kg/cmG)、80℃に加圧昇温し、攪拌下に過硫酸アンモニウム(APS)0.3質量%水溶液を10ml圧入した。重合反応による圧力降下が起こるので、1.47MPaG(15kg/cmG)まで低下した時点で連鎖移動剤であるジヨウ素化合物I(CFI(1.3g)を圧入し、圧力が更に1.37MPaG(14kg/cm2G)まで低下した時点でVdF/HFP/TFE(50/20/30モル比)混合ガスで1.57MPaG(16kg/cm2G)に再加圧し、以後この方法で1.37〜1.57MPaG(14〜16kg/cm2G)の圧力範囲で重合を継続した。
重合反応の開始から圧力降下の合計が0.49MPaG(5kg/cmG)になった時点で、ヨウ素化合物であるCF=CFOCFCFCHIを1.8g注入した。同じく、1.37〜1.57MPaG(14〜16kg/cmG)の圧力範囲で重合を継続し、混合ガスボンベ重量の減少が400gになった時点で急速降温、放圧して重合を停止した。
製造された水性分散液中の含フッ素エラストマー微粒子は、濃度25質量%で、平均粒子径0.2μmであり、フッ素含有率は71質量%であった。また、末端ヨウ素原子の個数は6個であった。
【0092】
実施例1(架橋含フッ素エラストマー水性分散液の製造)
含フッ素エラストマー微粒子(平均粒子径0.2μm、フッ素含有率71質量%)の重合上がりの水性分散液(含フッ素エラストマー微粒子濃度:25質量%)が入った重合容器内を窒素ガス置換した後、80℃に加熱した。
この水性分散液(含フッ素エラストマー微粒子25質量部)にトリアリルイソシアヌレート(TAIC、日本化成株式会社製)を3質量部加え、45分間撹拌した。ついで、t-Butyl peroxy−2−ethylhexanoate(パーブチルO、日本油脂社製)を1.14質量部加えて架橋反応を開始させた。5時間撹拌下に反応を進めた後室温に冷却して反応を停止させ、架橋含フッ素エラストマー微粒子の水性分散液を得た。得られた水性分散液中の架橋含フッ素エラストマー微粒子の平均粒子径は0.2μm、フッ素含有率は71質量%であった。
【0093】
実施例2(架橋含フッ素エラストマー水性分散液の塗布)
実施例1で得られた架橋含フッ素エラストマー微粒子の水性分散液19gをキャスト法により5×5cmのガラス板に塗布し、40℃で真空乾燥を行った。24時間真空乾燥を行い、膜厚1mmの架橋含フッ素エラストマー微粒子の塗膜を得た。塗膜0.5gを用いて、上記アセトン溶解試験を行った結果、アセトン不溶分は97%であった。
【0094】
比較例1
製造例1で得られた含フッ素エラストマー水性分散液19gにトリアリルイソシアヌレート(TAIC、日本化成株式会社製)を3質量部加え、45分間撹拌した。ついで、t-Butyl peroxy−2−ethylhexanoate(パーブチルO、日本油脂社製)を1.14質量部加えて、キャスト法により5×5cmガラス板に塗布し、室温で24時間真空乾燥を行った後、80℃で5時間架橋を行い、膜厚1mmの架橋含フッ素エラストマーの塗膜を得た。塗膜0.5gを用いて、上記アセトン溶解試験を行った結果、アセトン不溶分は25%であった。
【0095】
実施例2と比較例1との対比結果より、以下のことが確認された。
すなわち、予め架橋していない含フッ素エラストマーの水性分散液に架橋剤を添加し、それを基材に塗布した後に架橋処理を行うことによって形成した塗膜(比較例1)では、架橋度の指標であるアセトン不溶分(ゲル分率)は25%であったのに対し、予め架橋した含フッ素エラストマーを含む本発明の塗料用組成物(実施例1で得た架橋含フッ素エラストマー水性分散液)を基材に塗布し、乾燥処理のみを行うことにより形成された塗膜(実施例2)は、通常必要な架橋剤の後添加及び塗布後の架橋処理を行っていないにも関わらず、アセトン不溶分(ゲル分率)が97%と架橋度が著しく高く、製品として非常に高いレベルにある被覆物品が得られた。なお、実施例2では架橋処理を行っていないため、実施例2で得た塗膜の架橋度(ゲル分率)は、実施例1で得た分散液中の架橋含フッ素エラストマーの架橋度(ゲル分率)に等しい。
また実施例1で得た塗料用組成物(架橋含フッ素エラストマー水性分散液)は、予め架橋された含フッ素エラストマーを含むものであるため、取り扱い性や保存性にも優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の塗料用組成物は、例えば、耐熱性や耐溶剤性、潤滑性、柔軟性等が要求される分野において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体媒体中に架橋含フッ素エラストマーが分散してなることを特徴とする塗料用組成物。
【請求項2】
前記液体溶媒は、水性媒体であることを特徴とする請求項1に記載の塗料用組成物。
【請求項3】
前記含フッ素エラストマーは、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料用組成物。
【請求項4】
前記フルオロオレフィンは、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド及び下記一般式(1):
CF=CF−R (1)
(式中、Rは、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体であることを特徴とする請求項3に記載の塗料用組成物。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和単量体は、更に、下記一般式(2):
CY=CY−R (2)
(式中、Y及びYは、同一若しくは異なって、フッ素原子、水素原子又はアルキル基を表す。Rは、酸素原子を有していてもよい、直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基を表す。Xは、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。)で表される単量体を含むことを特徴とする請求項3又は4記載の塗料用組成物。
【請求項6】
前記架橋含フッ素エラストマーは、微粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗料用組成物。
【請求項7】
基材と、請求項1〜6のいずれかに記載の塗料用組成物によって形成された該基材上の塗膜とを有することを特徴とする被覆物品。
【請求項8】
請求項7に記載の被覆物品を製造する方法であって、
該製造方法は、請求項1〜6のいずれかに記載の塗料用組成物を基材に塗布する工程と、乾燥する工程とを含むことを特徴とする被覆物品の製造方法。

【公開番号】特開2010−144127(P2010−144127A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325599(P2008−325599)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】