説明

塗料組成物及びそれを塗工してなる塗装物

水酸基を有した(メタ)アクリル樹脂(A)と、複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(B)とよりなる塗料組成物に関する。(メタ)アクリル樹脂(A)は、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを必須成分とする単量体混合物を共重合させてなる。水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基は1級水酸基であり、(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価は125〜145であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜に使用されたときに良好な耐汚染性を有する塗料組成物及びそれを塗工してなる塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗膜外観を長期間にわたり良好に保持することができるような高耐久化志向が強まっている。そのような高耐久化の阻害要因としては塗膜に対する擦傷が挙げられる。擦傷の問題を解決するために次のような技術が提案されている。
【0003】
特許文献1は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの一部または全部をε−カプロラクトンで変性した、カプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む単量体混合物を重合させて得られるアクリル樹脂とメラミンとを架橋させて得られた塗料組成物を開示している。また、特許文献2は、ラクトンを2連鎖以上有する単量体の割合を減少させたラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルを用いて得られる、アクリルポリオール樹脂と、ポリイソシアネート化合物とを含有する硬化性樹脂組成物を開示している。
【0004】
ところが、特許文献1では、架橋剤としてメラミンを使用していることから、塗膜が必要以上に硬くなり、塗膜の剥離しにくさを示す耐チッピング性や、耐擦傷性が不十分であった。このため、塗料組成物を被塗装物に塗工して得られた塗装物品の塗膜外観が悪いという問題があった。さらに、この刊行物では、アクリル樹脂を得るためにカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと重合させる単量体として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを開示しているが、これらはいずれも1級水酸基を備えたものではない。このような単量体から製造されたアクリル樹脂はイソシアネートとの反応性が低いため、硬化が不十分となる。従って、塗膜の耐擦傷性、耐チッピング性のほか、耐汚染性が低くなるという問題が生じた。
【0005】
特許文献2は、カプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリル樹脂とイソシアネート樹脂とを使用した塗膜を開示している。しかし、この文献の実施例で示している水酸基価は260,262,296,300(表2)といずれも高い。しかし、水酸基価が高すぎる、又は低すぎる場合、イソシアネートとの反応後に水酸基又はイソシアネート基が残存して未硬化部分が生じ、塗膜の耐汚染性が低くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、塗膜の耐汚染性を向上させることができ、塗膜外観をはじめとする塗料性能を良好に発揮することができる塗料組成物及びそれを塗工してなる塗装物を提供することにある。
【特許文献1】特開平3−160049号公報
【特許文献2】特開2002−167423号公報
【発明の開示】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の塗料組成物は、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びそれとは異なる水酸基含有(メタ)アクリレートを必須成分とする混合物を共重合させてなる、水酸基を有した(メタ)アクリル樹脂(A)と、イソシアネート基を複数有するポリイソシアネート化合物(B)とよりなる塗料組成物であって、前記水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基は1級水酸基であり、(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価は125〜145であることを特徴とするものである。尚、本明細書中において、アクリレート及びメタクリレートを含む意味として、「(メタ)アクリレート」の用語を使用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の塗料組成物の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の塗料組成物は(メタ)アクリル樹脂(A)と、イソシアネート基を複数有するポリイソシアネート化合物(B)とよりなる。(メタ)アクリル樹脂(A)は、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びそれ以外の水酸基含有(メタ)アクリレートを必須成分とする単量体混合物を共重合させて得られ、水酸基を有する。本発明の水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基は1級水酸基、即ち、この分子中の第1級炭素に結合する水酸基である。さらに、(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価は125〜145である。この塗料組成物は、通常主剤としての(メタ)アクリル樹脂(A)と、硬化剤としてのポリイソシアネート化合物(B)との2液型として使用されるが、ポリイソシアネート化合物(B)としてブロックポリイソシアネートを用いる場合には1液型として使用される。
【0009】
まず、(メタ)アクリル樹脂(A)について説明する。
この(メタ)アクリル樹脂は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートをカプロラクトンで変性した、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び、それ以外の水酸基含有(メタ)アクリレートを必須成分とする単量体混合物を共重合させることによって得られる。カプロラクトンは、ε−カプロラクトン、トリメチルカプロラクトン又はこれらの混合物をいう。ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、塗料組成物から形成される塗膜の耐擦傷性及び耐チッピング性を向上させるために配合される。ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、下記一般式(1)で表される化合物である。このポリカプロラクトン変性アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキレン基の炭素数nは、製造の容易性、入手の容易性等の観点から、1〜4が好ましく、2が最も好ましい。
【0010】
【化1】

但し、Rは水素又はメチル基であり、アルキレン基(メチレン基)の炭素数nは1〜10の整数であり、及びカプロラクトンの繰り返し単位数mは1〜25の整数である。
【0011】
前記ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、塗膜の耐擦傷性及び耐衝撃性を高め、塗膜外観及び耐汚染性を向上させるために、カプロラクトンの繰り返し単位数mの平均値が好ましくは1〜3、更に好ましくは2〜3である。カプロラクトンの繰り返し単位数mの平均値が3を越える場合、カプロラクトンの繰り返し部分が長くなって塗膜の強度が低下し、塗膜の耐擦傷性及び耐衝撃性が低くなり、塗膜外観及び耐汚染性も低下する。前記ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、耐衝撃性を高め、塗膜外観を向上させるために、好適にはポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキルアクリレートが使用される。ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキルアクリレートは、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキルメタクリレートより重合体のガラス転移温度の高いからである。
【0012】
前記水酸基含有(メタ)アクリレートは、ポリイソシアネート化合物との反応性を高めて塗膜の耐汚染性を向上させるために配合される。水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基は1級水酸基であることにより、(メタ)アクリル樹脂とポリイソシアネート化合物との反応性が高く、塗膜の耐擦傷性、耐チッピング性及び耐汚染性を向上させることができる。これに対して、水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基がヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の2級水酸基である場合には、アクリル樹脂とポリイソシアネート化合物との反応性が低く、塗膜の耐擦傷性、耐チッピング性及び耐汚染性も低い。1級水酸基を含有する(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
単量体混合物中には、上記の必須成分以外に環状骨格を有する単量体、その他の単量体、更には重合開始剤、重合溶媒等が配合される。環状骨格を有する単量体は、塗膜の耐擦傷性を高め、塗膜外観を向上させるために配合され、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン等が用いられる。環状骨格を有する単量体の配合割合は、塗膜の耐擦傷性を高め、塗膜外観を向上させるために、単量体混合物中に10質量%以下であることが好ましい。該単量体の配合割合が10質量%を越えると、塗膜の耐擦傷性が低下し、塗膜外観が損なわれやすくなる。
【0014】
その他の単量体は重合反応性を調整し、目的とする塗膜の物性を向上させるために配合され、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等が使用される。重合開始剤としては、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、アゾビス−2−メチルブチロニトリル、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が用いられる。重合溶媒としてはベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、酢酸エチル等のエステル、ジオキサン等のエーテル等が用いられる。
【0015】
そして、単量体混合物を常法に従って加熱重合することによって目的とする(メタ)アクリル樹脂(A)が得られる。得られた(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価は125〜145であり、130〜145であることが好ましい。(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価が125未満の場合には、ポリイソシアネート化合物との反応性が不足し、塗膜の耐汚染性を向上させることができない。一方、(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価が145を越える場合には、水酸基価が高過ぎることから、ポリイソシアネート化合物と反応しない水酸基が残存して、その未硬化部分によって塗膜外観が損なわれ、塗膜としての機能を果たすことができなくなる。
【0016】
また、(メタ)アクリル樹脂(A)の酸価は3mgKOH/g以下であることが好ましい。この酸価はメタクリル酸等の酸の添加量によって定まるが、酸を全く添加せず、酸価を0mgKOH/gにすることもできる。特に、同じ塗料組成物を2度塗りした場合に、両塗膜間の親和性が向上し、かつ酸が水酸基とイソシアネート基との反応等の触媒となって硬化が進行するのを抑制して両塗膜間の密着性を向上させることができる。酸価が3mgKOH/gを越えると、このような効果を得ることができなくなる。
塗料組成物では、(メタ)アクリル樹脂(A)の酸価を3mgKOH/g以下に設定することが好ましい。この場合、特に同じ塗料組成物を2度塗り(セルフリコート)したとき、被塗装物表面に塗工された塗膜中の酸基が被塗装物側に配向するため、その塗膜表面には酸基が乏しくなるものと推測される。従って、(メタ)アクリル樹脂(A)の酸価を小さくすることにより、被塗装物表面に形成された塗膜とその上に設けられる塗膜との間の親和性(なじみ)を良くすることができると共に、酸が水酸基とイソシアネート基との反応等の触媒となって硬化が進行して両塗膜間の密着性が低下するのが抑制されるものと推測される。従って、塗膜の密着性を向上させることができる。この場合、塗膜の耐久性を向上させることができる。
【0017】
続いて、ポリイソシアネート化合物(B)について説明する。
このポリイソシアネート化合物は、1分子中に複数個のイソシアネート基を有する有機化合物であり、ポリイソシアネート化合物1分子中に含まれるイソシアネート基の数は3個以上であることが好ましい。係るポリイソシアネート化合物は水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂(A)と反応して架橋構造を形成することができ、塗膜の物性を向上させることができる。
【0018】
1分子中にイソシアネート基を2個有するポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチル−2,6−ジイソシアネートヘキサノエート、ノルボルナンジイソシアネート等のジイソシアネートモノマーが挙げられる。1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物としては、ジイソシアネートモノマーをイソシアヌレート変性させた下記一般式(2)で表される化合物、ジイソシアネートモノマーをアダクト変性させた下記一般式(3)で表される化合物、ジイソシアネートモノマーをビウレット変性させた下記一般式(4)で表される化合物、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート、トリアミノノナントリイソシアネート等のイソシアネートプレポリマーが挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

更に、ポリイソシアネート化合物としてイソシアネート基をブロック化剤でブロック(封鎖)したブロックポリイソシアネートを使用することにより、塗料組成物を1液型として使用することができる。即ち、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基がブロック化剤でブロックされているため、水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂と反応することなく、1液で安定に存在することができる。そして、塗料組成物を被塗装物に塗工後に加熱することにより、ブロックポリイソシアネートが分解反応してイソシアネート基が生成し、そのイソシアネート基と(メタ)アクリル樹脂の水酸基とが反応することで塗膜が硬化する。ブロックポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートタイプのブロックイソシアネート等が挙げられる。ブロック化剤としては、フェノール系、オキシム系、アルコール系等の化合物が挙げられる。
【0022】
塗料組成物は、上記のようにして得られる(メタ)アクリル樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)とにより得られるが、更に必要に応じてラクトンポリオール(C)、紫外線吸収剤、光安定剤、溶剤等が配合される。ラクトンポリオール(C)は、塗膜の耐汚染性を損なうことなく、耐擦傷性、耐チッピング性及び耐衝撃性を高め、塗膜外観を向上させるために配合され、具体的には3個以上の水酸基を有するラクトンポリオール(C)が好ましく、4個の水酸基を有するラクトンテトラオールがより好ましい。ラクトンポリオール(C)の数平均分子量は350〜1500であることが好ましい。数平均分子量が350未満の場合には分子量当りの水酸基の数が多くなり過ぎ、数平均分子量が1500を越える場合には分子量当りの水酸基の数が少なくなり過ぎ、ポリイソシアネート化合物との反応に偏りが生じて好ましくない。
【0023】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系の化合物が用いられる。光安定剤としては、ピペリジン系、ヒンダードアミン系の化合物が用いられる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、芳香族類等の化合物が用いられる。そして、この塗料組成物を被塗装物の表面に塗工した後、常温で乾燥、硬化するか、又は加熱して乾燥、硬化することにより、被塗装物表面に塗膜が形成され、塗装物が得られる。(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基とポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基との反応は、反応温度が好ましくは常温〜100℃、反応時間が好ましくは1〜10時間である。塗工の方法は常法に従えばよく、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法、ロールコーター法、フローコーター法、スピンコート法等の方法が採用される。得られる塗膜の厚さは1〜100μm程度が好ましい。このようにして、(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基(ヒドロキシル基)とポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基とが反応してウレタン(メタ)アクリレートが生成される。
【0024】
以上説明した塗料組成物(コーティング剤)の用途としては、耐汚染性、塗膜外観をはじめとする塗料性能を要求される分野で好適に使用することができる。具体的には、携帯電話、腕時計、コンパクトディスク、光ディスク、オーディオ機器、OA機器等の電気電子機器;タッチパネル、ブラウン管の反射防止板等の電子材料部品;冷蔵庫、掃除機、電子レンジ等の家電製品;メーターパネル、ダッシュボード等の自動車の内装;プレコートメタル鋼板;自動車のボディ、バンパー、スポイラー、ドアノブ、ハンドル、ヘッドランプ、オートバイのガソリンタンク、メッキ・蒸着又はスパッタリングが施されたアルミホイールやドアミラー等の自動車部品;カーポートの屋根、採光屋根;ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ABS樹脂等のプラスチック成形品;階段、床、机、椅子、タンス、その他の家具等の木工製品;布、紙、サングラス、矯正用メガネレンズ等に塗工して使用される。
【0025】
さて、塗料組成物を調製するためには、まずポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びそれ以外の水酸基含有(メタ)アクリレートを必須成分とする単量体混合物を共重合させることによって(メタ)アクリル樹脂(A)を合成する。得られた(メタ)アクリル樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを混合することにより塗料組成物が得られる。この塗料組成物を被塗装物の表面に塗工して常温で乾燥硬化させるか、又は加熱して乾燥硬化させることにより、被塗装物表面に塗膜が形成される。
【0026】
この場合、(メタ)アクリル樹脂の水酸基は、水酸基含有(メタ)アクリレートに由来し、その水酸基は1級水酸基であることから、2級水酸基を備えた(メタ)アクリル樹脂に比べて、ポリイソシアネート化合物との反応性が高く、硬化が十分に進み、塗膜の耐擦傷性、耐チッピング性及び耐汚染性を向上させることができる。しかも、(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価は125〜145の範囲に設定されているため、(メタ)アクリル樹脂の水酸基とポリイソシアネート化合物とがほとんど過不足なく反応して硬化し、塗膜表面の汚染を抑制できる耐汚染性をはじめとする塗料性能を発揮することができ、従って塗膜外観を良好に保つことができる。
【0027】
更に、塗膜は(メタ)アクリル樹脂をベース樹脂としていることから耐候性に優れると共に、その(メタ)アクリル樹脂がポリイソシアネート化合物によって架橋硬化されていることから、塗膜の耐薬品性を向上させることもできる。
【実施例】
【0028】
(合成例1〜15、実施例1〜18及び比較例1〜6)
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。なお、以下の各例における略号は次のとおりである。また、混合割合の「部」は質量部を表し、「%」は質量%を表す。
【0029】
D170Nとは、タケネートD170N(三井武田ケミカル株式会社製、NCO含有量=20.9%、固形分=100%)を示し、ヘキサメチレンジイソシアネートをイソシアヌレートで変性した分子である。
D110Nとは、タケネートD110N(三井武田ケミカル株式会社製、NCO含有量=11.5%、固形分=75%)を示し、キシリレンジイソシアネートにトリメチロールプロパン(TMP)を反応させた分子、即ちキシリレンジイソシアネートのTMPアダクトタイプである。
D140Nとは、タケネートD140N(三井武田ケミカル株式会社製、NCO含有量=10.8%、固形分=75%)を示し、イソホロンジイソシアネートにトリメチロールプロパン(TMP)を反応させた分子、即ちイソホロンジイソシアネートのTMPアダクトタイプである。
VPLS2253とは、デスモジュールVPLS2253(住化バイエルウレタン株式会社製、NCO含有量=10.5%、固形分=75%)を示し、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートタイプのブロックイソシアネートである。
ラクトンテトラオール405とは、ラクトンテトラオール(ダイセル化学株式会社製、プラクセル405、分子量500)を示す。
ラクトンテトラオール410Dとは、ラクトンテトラオール(ダイセル化学株式会社製、プラクセル410D、分子量1000)を示す。
ラクトントリオール305とは、ラクトントリオール(ダイセル化学株式会社製、プラクセル305、分子量500)を示す。
ラクトントリオール312とは、ラクトントリオール(ダイセル化学株式会社製、プラクセル312D、分子量1250)を示す。
ラクトントリオール410Dは、ラクトントリオール(ダイセル化学株式会社製、プラクセル320、分子量2000)を示す。
BYK−110は、酸基を含むアクリル共重合物(ビックケミー株式会社製)である。
BYK−051は、シリコーンを含まない破泡剤(ビックケミー株式会社製)である。
【0030】
(合成例1、(メタ)アクリル樹脂の調製)
攪拌機、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備えた500ml容のフラスコにメチルイソブチルケトン100質量部(以下、単に部という)を仕込み、110℃まで昇温した。これとは別に、メタクリル酸メチル(MMA)26部、メタクリル酸ブチル(BMA)18部、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFA2D)35部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)20部、メタクリル酸(MAA)1部、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル(大塚化学株式会社製、ACHN)2部を混合した。この混合モノマーを2時間かけて滴下し、3時間反応させた。
【0031】
その後、メチルイソブチルケトン(MIBK)5部、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル0.1部、アゾビス−2−メチルブチロニトリル(日本ヒドラジン工業株式会社製、ABN−E)0.1部を滴下し、1時間反応させた。さらにメチルイソブチルケトン5部、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル0.1部、アゾビス−2−メチルブチロニトリル0.1部を滴下し、2時間反応させて、(メタ)アクリル樹脂A1を得た。(メタ)アクリル樹脂A1は、固形分47.6%、水酸基価68(固形分換算143)、酸価(アクリル樹脂A1の固形分当たりの酸価)6.5mgKOH/gであった。
【0032】
(メタ)アクリル樹脂の調製方法では、共通の重合開始剤及び溶剤を使用しているので、以下の合成例では単量体の配合のみについて説明する。固形分はすべて47.6%である。
(合成例2〜15)
合成例1において、単量体の種類及び水酸基価を表1及び表2に示すように変更した以外は、合成例1と同様にしてアクリル樹脂を調製した。表1及び表2中の略号を以下に示す。
【0033】
FA1は、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFA1)を示す。
FM2は、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFM2)を示す。
FA3は、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFA3)を示す。
HPMAは、1−ヒドロキシルプロピルメタクリレートを示す。
2−HPMAは、2−ヒドロキシルプロピルメタクリレートを示す。
CHMAは、シクロヘキシルメタクリレートを示す。
STYは、スチレンを示す。
【0034】
(合成例16,17)
合成例1において、単量体の種類及び水酸基価を表2に示すように変更した以外は、合成例1と同様にしてアクリル樹脂を調製した。アクリル樹脂の酸価(アクリル樹脂の固形分当たりの酸価)は、合成例16では2.6mgKOH/g、合成例17では0mgKOH/gであった。
【0035】
(比較合成例1及び2)
表1中、合成例10,11に示すように、環状骨格を有する単量体(CHMA,STY)の使用量を10%より多くなるように配合した以外は、合成例1と同様にしてアクリル樹脂を調製した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

(実施例1)
合成例1で得られた(メタ)アクリル樹脂A1を77部、ラクトンテトラオール(ダイセル化学株式会社製、プラクセル410D、水酸基価224)10部、紫外線吸収剤(チバガイギー株式会社製、チヌビン400)0.4部、光安定剤(チバガイギー株式会社製、チヌビン123)0.4部、MIBK12.2部を混合し、主剤とした。次に、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性タイプ(三井武田ケミカル株式会社製タケネートD−170N,NCO%=20.9%)53部、酢酸ブチル47部を混合し硬化剤とした。主剤と硬化剤とを質量比で2:1で調合し、試作塗料組成物aとした。固形分は47.6%であった。以下の各例においても、(メタ)アクリル樹脂の調製方法は同一であるので、固形分はすべて47.6%である。
【0038】
(実施例2〜18)
アクリル樹脂、ラクトンポリオール、ポリイソシアネート、溶剤及び光安定剤について、それらの種類及び量を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0039】
(実施例19〜22)
アクリル樹脂、ラクトンポリオール、ポリイソシアネート、溶剤及び光安定剤について、それらの種類及び量を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0040】
(比較例1)
アクリルメラミン塗料(ナトコ株式会社製、アクリストクリヤー)を比較例1とした。
(比較例2)
アクリルウレタン塗料(ナトコ株式会社製、ガメロンクリヤー)を比較例2とした。
【0041】
(比較例3〜6)
アクリル樹脂、ラクトンポリオール、ポリイソシアネート、溶剤及び光安定剤について、それらの種類及び量を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0042】
【表3】

【0043】
次に、上記の実施例及び比較例で調製された塗料組成物について、以下に示す方法で塗膜外観、耐擦傷性、耐衝撃性、耐汚染性及び耐候性を測定した。それらの試験結果を表4に示した。
<試験板作成工程>
1)ボンデ鋼板(日本テストパネル株式会社製)にアクリルメラミン塗料白(ナトコ株式会社製)をエアスプレーにて乾燥時の膜厚が20μmとなるように塗装した。
2)その塗膜を130℃で10分間乾燥させた。
3)次いで、実施例1〜実施例18並びに比較例1及び2の塗料組成物を所定量のシンナーにて希釈し、乾燥時の膜厚が15μmとなるように塗装した。
4)すべて130℃で20分間乾燥させ、テストピースとした。
【0044】
<試験項目>
塗膜外観:塗膜の表面状態を目視にて観察し、判断した(良好:○、悪い:×で判定)。
耐擦傷性:スチールウール#0000、500g荷重にて、50回及び100回擦った後の、光沢保持率(60度鏡面反射率)を測定した。ここで、「#0000」はスチールウールの等級を示し、スチールウールが超極細であることを示す。
耐衝撃性:テストピースを−10℃まで冷却し、デュポン製衝撃試験機にて直径1/4インチ、荷重500gで500cmの距離にて試験を行い、次のような基準で評価した。塗膜が割れない:○、塗膜がやや割れる:△、塗膜が割れる:×。
耐汚染性:テストピースに5mmの厚さでグリース(昭和シェル石油株式会社製、レチナックスグリースCL1)を均一に塗布した。そのテストピースを50℃で24時間放置し、その後石油ベンジンにてグリースを取り除いた。次いで、テストピースをサンシャイン・ウエザオメーター中に24時間保持した。得られたテストピースについて色差変化を測定した。
耐候性:テストピースをサンシャインウエザオメーター中に2000時間保持した後の光沢保持率(%)及び色差を測定した。
【0045】
【表4】

表4に示したように、実施例1〜18では耐汚染性をはじめ、塗膜外観、耐擦傷性、耐衝撃性及び耐候性がいずれも良好であった。具体的には、実施例1、3及び4の比較から、ラクトンポリオールについて、テトラオールの方がトリオールよりも耐汚染性が良好であった。更に、実施例3及び4の比較から、ラクトンポリオールの分子量が大きい方が、耐汚染性について悪い結果が得られた。実施例1、5、6及び7の比較から、用いた硬化剤のポリイソシアネートの種類が変わっても、性能はほぼ維持された。実施例1及び8の比較から、ラクトンポリオールを併用することにより、耐擦傷性が向上した。実施例9及び16の比較から、水酸基価の高い実施例9(水酸基価135)の方が水酸基価の低い実施例16(水酸基価126)よりも耐汚染性及び耐候性において良好であった。
【0046】
実施例1、10、11、17及び18の比較から、アクリル樹脂に環状骨格を有する単量体を10%以下で使用しても性能はほぼ維持されるが、該単量体の共重合量が10%を越えると、耐擦傷性が低下する傾向にあった。実施例1及び13の比較から、ポリカプロラクトン変性アクリレートと、ポリカプロラクトン変性メタクリレートとの差は小さいが、アクリレートの方がやや耐衝撃性に優れていた。実施例1、14、15及び16の比較から、アクリル樹脂のカプロラクトンの繰り返し単位数の平均値については、2〜3であるものが性能的に優れていた。カプロラクトンの繰り返し単位数の平均値が1であるとやや耐衝撃性が低下する傾向にあった。
【0047】
これに対し、比較例1及び2の一般的なアクリルメラミン塗料やアクリルウレタン塗料では、耐擦傷性や耐衝撃性が不十分であった。比較例3及び6では、実施例1に比べてアクリル樹脂の水酸基価が低いため、耐汚染性が悪くなった。比較例4では実施例1に比べてアクリル樹脂の水酸基価が高過ぎることから、塗膜外観が損なわれ、塗膜としての機能を果たすことができなかった。比較例5では実施例1に比べて、アクリル樹脂に2級水酸基含有単量体を使用しているため、耐汚染性及び耐擦傷性が悪化した。
【0048】
次に、実施例1、19、20、21及び22について、下記に示すセルフリコート性を評価した。
(セルフリコート性の試験方法)
1)ボンデ鋼板(エンジニアリングテストサービス社製)をシンナーで脱脂し、アクリルメラミン塗料黒(ナトコ株式会社製のアクリスト黒)をスプレーにて塗装し、140℃で20分間乾燥させた。
【0049】
2)その後、各実施例の塗料組成物をスプレーにて塗装し、それぞれ100℃で20分間、120℃で20分間、140℃で20分間、160℃で20分間乾燥させて塗膜を形成した(1コート目)。
【0050】
3)その後、同一の塗料組成物を更にスプレーにて塗装し、それぞれ100℃で20分間、120℃で20分間、140℃で20分間、160℃で20分間乾燥させて塗膜を形成し、テストピースとした(2コート目)。
【0051】
4)セルフリコート性の確認は、焼付け乾燥して1週間後、碁盤目試験(2mm角、100マス)で確認した。
そして、実施例1についての結果を表5に、実施例19についての結果を表6に、実施例20についての結果を表7に、実施例21についての結果を表8に、及び実施例22についての結果を表9に示した。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

表5〜表9に示したように、実施例1ではアクリル樹脂の酸価が6.5mgKOH/gであるため、1コート目の条件が140℃又は160℃のとき、2コート目の条件にかかわらず、密着性が非常に低い結果であった。実施例19ではアクリル樹脂の酸価が2.6mgKOH/gであるため、1コート目の条件が160℃のときには2コート目の条件にかかわらず、密着性が低い結果であったが、1コート目の条件が140℃のときには2コート目の条件を120℃以上とすることで、良好な密着性を示した。これに対し、実施例20〜22ではアクリル樹脂の酸価が0mgKOH/gであるため、どのような条件であっても、密着性は非常に良好であった。また、添加剤を加えた場合(実施例21)及び破泡剤を添加した場合(実施例22)においても、密着性は十分に維持されることが示された。
【0057】
尚、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして、カプロラクトンの繰り返し単位数の平均値が互いに異なるものを組合せて使用することもできる。
【0058】
塗料組成物には長鎖アルキルを加えるようにしてもよい。このようにすると、塗膜の表面滑性が向上し、その結果耐擦傷性も向上し、帯電防止効果も付与することができる。
【0059】
塗料組成物にシリコーン系化合物又はフッ素系化合物を加えるようにしてもよい。このようにすると、塗膜の表面滑性が向上し、その結果耐擦傷性も向上する。
塗料組成物を被塗装物の表面に塗工して乾燥硬化させる手段として、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を利用することもできる。
【0060】
塗料組成物を被塗装物の表面に3コート以上の塗工、硬化を繰り返し、3層以上の塗膜を形成することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びそれとは異なる水酸基含有(メタ)アクリレートを必須成分とする混合物を共重合させてなる、水酸基を有した(メタ)アクリル樹脂(A)と、イソシアネート基を複数有するポリイソシアネート化合物(B)とよりなる塗料組成物であって、
前記水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基は1級水酸基であり、(メタ)アクリル樹脂(A)の水酸基価は125〜145であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、カプロラクトンの繰り返し単位数の平均値が1〜3である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシアルキルアクリレートである請求項1又は請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記単量体混合物中には環状骨格を有する単量体がさらに含まれ、前記環状骨格を有する単量体は前記単量体混合物中に10質量%以下にて含有される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
3個以上の水酸基を有するラクトンポリオール(C)をさらに含有する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル樹脂(A)の酸価は3mgKOH/g以下である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の塗料組成物を被塗装物の表面に塗工し、硬化させることによって被塗装物の表面に塗膜が形成されて構成されていることを特徴とする塗装物。

【国際公開番号】WO2005/054386
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516026(P2005−516026)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018267
【国際出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(392007566)ナトコ株式会社 (42)
【Fターム(参考)】