説明

塗装板の製造方法

【課題】 塗料の吐出圧の変動を抑えることにより、塗料の吐出パターンの乱れを少なくし、所望の模様を形成しやすい塗装板の製造方法を提供する。
【解決手段】 連続的に搬送される金属板1の表面に複数色の塗料2を塗装ガン3の一つの吐出口45から切り替えながら塗装ガン3から吐出して塗膜を形成する塗装板の製造方法に関する。塗料2を塗料タンク4から塗装ガン3に供給して吐出すると共に吐出さしない塗料2は塗料タンク4へと返送して循環させる。塗装ガン3に供給された塗料2が吐出されなかった場合であっても、塗装ガン3に留まることなく流通させることができ、塗装ガン3で塗料2が蓄圧するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根材や壁材などの建材として用いられる塗装板の製造方法に関するものであり、特に、多彩で高意匠性を有する塗装板を製造する際に好適に利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、速度10m/分以上で移動する帯状被塗物に、二色以上の塗料をスプレー塗装することによって、多彩な模様の塗膜を形成することが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されている塗装方法では、少なくとも二個以上の塗料吐出ノズルから少なくとも二色以上の異なる塗色の塗料を順次切り替えて吐出させ、これにより、各塗料吐出ノズルから吐出した塗料が混在する複色スプレーパターンを形成するようにしている。
【0003】
しかし、上記の塗料はポンプで加圧されて塗料吐出ノズルに供給されているために、複数色の塗料を塗料吐出ノズルから順次切り替えて吐出させる場合、吐出させない塗料が塗料吐出ノズル内に強制的に止められて蓄圧してしまい、この後の吐出時に塗料に蓄積された圧力が一瞬で開放されることになり、この結果、塗料の吐出圧が変化して吐出パターンが乱れ、所望の模様を形成しにくいという問題があった。
【特許文献1】特開2003−135998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、塗料の吐出圧の変動を抑えることにより、塗料の吐出パターンの乱れを少なくし、所望の模様を形成しやすい塗装板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の塗装板の製造方法は、連続的に搬送される金属板1の表面に複数色の塗料2を塗装ガン3の一つの吐出口45から切り替えながら吐出して塗膜を形成する塗装板の製造方法において、塗料2を塗料タンク4から塗装ガン3に供給して吐出すると共に吐出しない塗料2は塗料タンク4へと返送することを特徴とするものである。
【0006】
本発明にあっては、塗装ガン3に供給された塗料2が吐出されなかった場合であっても、塗装ガン3に留まることなく流通させることができ、塗装ガン3で塗料2が蓄圧するのを防止することができるものであり、この結果、塗料2の吐出圧の変動を抑えることができ、塗料2の吐出パターンの乱れを少なくし、所望の模様を容易に形成することができるものである。
【0007】
本発明は、塗装ガン3から吐出させる塗料2を切り替える時に、金属板1の表面に塗料を所定時間吐出させないのが好ましい。この場合、塗装ガン3から吐出させる塗料2を他の塗料2へと切り替えるにあたって、塗料2を吐出させない所定時間を緩衝時間として設けることによって、先に吐出している塗料2に後から吐出する塗料2の圧力が影響を与えないようにすることができ、塗料2の吐出圧の変動をより抑えることができるものである。
【0008】
また、本発明は、塗装ブース5内に塗装ガン3を設置し、塗装ブース5の下方より排気しながら塗装することができる。この場合、金属板1に当たるなどして飛散している塗料2を塗装ブース5内から排気することができ、飛散した塗料2が金属板1に付着するのを防止して模様が汚れないようにすることができるものである。
【0009】
また、本発明は、複数個の塗装ガン3を金属板1の搬送方向と直交する方向に並設すると共に塗装ガン3の少なくとも一つを他の塗装ガン3に対して金属板1の搬送方向に沿って前後方向にずらして配設するのが好ましい。この場合、前後方向にずらして配設した塗装ガン3から吐出する塗料2と、他の隣接する塗装ガン3から吐出される塗料2とが干渉しないようにすることができ、塗料2の飛散を少なくして塗装ガン3の汚れを少なくすることができるものである。
【0010】
また、本発明は、塗装ガン3の周囲を覆うカバー部材60から金属板1に向かって空気を吹き出しながら塗装するのが好ましい。この場合、カバー部材60から吹き出される空気によって、金属板1に当たって飛散する塗料2が塗装ガン3の方に向かわないようにすることができると共に、塗装ガン3の周囲をカバー部材60で覆うことによって、飛散した塗料2が塗装ガン3に付着するのを防止することができ、飛散した塗料2の付着による塗装ガン3の汚れを防止することができると共に塗装ガン3に付着した塗料2の流れ落ちによる金属板1の汚れも防止することができるものである。
【0011】
また、本発明は、金属板1の表面に対して傾けた塗装ガン3から塗料2を吐出することが好ましい。この場合、金属板1の表面に対して垂直方向から供給される塗料2を少なくすることができ、金属板1の表面に対する塗料2の衝撃を緩和して金属板1に当たった塗料2が飛散するのを抑えることができるものであり、従って、塗料2の飛散による塗装ガン3の汚れを少なくすることができるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明にあっては、塗装ガンに供給された塗料が吐出されなかった場合であっても、塗装ガンに留まることなく流通させることができ、塗装ガンで塗料が蓄圧するのを防止することができるものであり、この結果、塗料の吐出圧の変動を抑えることができ、塗料の吐出パターンの乱れを少なくし、所望の模様を容易に形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
本発明の塗装板の製造方法は長尺の金属板1を長さ方向に連続的に搬送しながら塗装を行なうものである。図2は本発明で用いる塗装装置である。図において符号5は塗装ブースであって、塗装ブース5の内側の略中央には塗装ガン3が設けられている。また、塗装ブース5の上面には吸気孔20が形成されていると共に塗装ブース5内の下部には排気ダクト21が配設されている。さらに、塗装ブース5の一側面には導入口22が形成されていると共に導入口22と対向する他側面には導出口23が形成されている。
【0015】
塗装ブース5の導入口22の近傍には裏面コーター24が配設されている。裏面コーター24は金属板1の裏面に塗料を塗布するためのコーター25と、コーター25から落ちる塗料を受けるための受け皿26と、コーター25を回転駆動させるためのモーター等の駆動手段27などを備えて形成されている。また、裏面コーター24の近傍には表面コーター28が配設されている。表面コーター28は金属板1の表面に塗料を塗布するためのコーター29と、塗料を溜めておくための塗料容器30と、コーター29を回転駆動させるためのモーター等の駆動手段31などを備えて形成されている。また、コーター29と対向する位置にはバックアップロール32が設けられていると共に金属板1を搬送するための複数の搬送ロール33が配設されている。
【0016】
図3は上記塗装装置の平面図である。塗装ブース5の下部に設置された排気ダクト21は集塵機34に接続されている。また、35は操作パネルであって、これにより、塗装装置の動作等を制御するものである。そして、この塗装装置には三つの塗装ガン3が設けられている。
【0017】
図4に塗装ブース5の概略図を示す。塗装ブース5内には塗装ガン3として三つの塗装ガン3a、3b、3cが金属板1の搬送方向と直交する方向に水平に並設されているが、そのうちの真ん中に位置する塗装ガン3bは、両側の他の塗装ガン3a、3cに対して、金属板1の搬送方向に沿って前後方向(金属板1の搬送方向と平行方向)にずらして配置されている。図のものでは真ん中の塗装ガン3bを両側の他の塗装ガン3a、3cよりも上流側(金属板1の搬送方向と反対方向)に配置しているが、これに限らず、下流側(金属板1の搬送方向)に配置しても良い。このようにすると、金属板1の搬送方向に沿って前後方向にずらして配設した塗装ガン3bから吐出する塗料2と、他の隣接する塗装ガン3a、3cから吐出される塗料2とが衝突しないようにして干渉しないようにすることができる。すなわち、塗装ガン3a〜3cから吐出される塗料2は円錐状あるいは楕円錐状に広がって吐出されるために、塗装ガン3a〜3cの距離が近いと、各塗装ガン3a〜3cから吐出された塗料2同士が衝突して飛散し、飛散した塗料2が塗装ガン3に付着、蓄積した後、金属板1に落下して汚れとなる恐れがある。そこで、本発明では上記のように塗装ガン3a〜3cを配置して互いの距離を大きくすることにより、塗装ガン3a〜3cから吐出される塗料2の衝突を少なくするものであり、これにより、塗料2の飛散を少なくして塗装板に形成される模様が汚れないようにすることができるものである。尚、塗装ガン3bは塗装ガン3aと3cとを結ぶ線から100〜200mm離して配置することができるが、この距離は塗装ガン3a〜3cから吐出される塗料2の吐出範囲に応じて適宜設定可能である。また、真ん中の塗装ガン3bに対して、両側の塗装ガン3aのうちの一方を上流側に、他方を下流側に配置するようにしてもよい。さらに、塗装ガン3a〜3cから吐出される塗料2が衝突しないのであれば、塗装ガン3a〜3cをほぼ一直線上に並べても良い。また、塗料ガン3は三つに限らず、四つ以上の複数個であっても良い。
【0018】
各塗装ガン3a〜3cには塗料配管34が接続されており、塗料配管34の途中には電磁弁等で形成される塗料流量調節器38が設けられている。また、塗料配管34の一端はコネクタ36を介して塗料供給機37に接続されている。塗料供給機37は塗料タンク4として三つの塗料タンク4a〜4cと、各塗料タンク4a〜4cに対応して設けた三つのポンプ39a〜39cで構成されており、塗料供給機37は台車等の移動手段40に載せられて移動可能に形成されている。そして、塗料配管34の一端は塗料供給機37のポンプ39a〜39cに接続されている。また、各塗装ガン3a〜3cには制御用エア配管41が接続されており、制御用エア配管41は電磁弁等で形成されるエア開閉器42に接続されている。エア開閉器42はコンプレッサなどのエア発生源に接続されている。
【0019】
図1には塗料配管34の概略図を示す。塗料配管34は三本の供給管35a〜35cと三本の返送管36a〜36cとから構成されており、各供給管35a〜35cの途中には塗料流量調節器38a〜38cが設けられている。また、上記ポンプ39a〜39cは供給管35a〜35cと接続されている。そして、一つの塗装ガン3に対して三本の供給管35a〜35cと三本の返送管36a〜36cの各一端が接続されている。また、返送管36a〜36cの各他端は各塗料タンク4a〜4cに接続されている。
【0020】
図5には制御用エア配管41の概略図を示す。制御用エア配管41は一つの塗装ガン3に対して三本接続されており、各制御用エア配管41a〜41cにはエア開閉器42a〜42cが設けられている。また、各エア開閉器42a〜42cは、操作パネル35で操作されるシーケンサなどの制御手段43にて開閉制御自在に形成されている。また、各塗装ガン3には三つの色選択バルブ部44a〜44cが設けられており、一つの色選択バルブ部44aには供給管35aと返送管36aと制御用エア配管41aが一本ずつ接続され、他の色選択バルブ部44bには他の供給管35bと返送管36bと制御用エア配管41bが一本ずつ接続され、さらに他の色選択バルブ部44cには他の供給管35cと返送管36cと制御用エア配管41cが一本ずつ接続されている。
【0021】
図6、7には本発明で用いる塗装ガン3の一例を示す。塗装ガン3は正面に塗料2の吐出口45を一つ設けたガン本体46の外周に色選択バルブ部44a〜44cを突出して設けたものであり、各色選択バルブ部44a〜44cには、供給管35a〜35cが接続される供給管接続部47と、返送管36a〜36cが接続される返送管接続部48と、制御用エア配管41a〜41cが接続されるエア配管接続部49が設けられている。また、ガン本体46には霧化エアを供給するための配管が接続される配管接続部50と、塗装ガン3から吐出される塗料2のパターンを可変するパターンエアを供給するための配管が接続される配管接続部51とが設けられている。このような塗装ガン3としては旭サナック製のカラーコンビガン「T2925」などを用いることができるが、これに限定されるものではない。また、塗装ガン3には複数個の吐出口45が設けられていても良い。
【0022】
そして、上記の塗装装置を用いて塗装板を製造するにあたっては次のようにして行なう。まず、長尺の金属板1を長手方向に搬送(進行)しながら表面コーター28を通過させる。金属板1は従来から建材を形成するのに用いられているものであって、例えば、ステンレス鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛めっき鋼板(ガルバリウム鋼板)などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。尚、この金属板1はその表面に下塗り塗膜(プライマー塗膜)が形成されていても良い。
【0023】
上記のように搬送される金属板1の表面全面(下塗り塗膜がある場合はその表面全面)には、表面コーター28を通過する際にコーター29でベース塗料52が塗装される。このベース塗料52は、従来から建材等に使用されているものであって、金属板1に耐食、耐候、耐摩耗などの性能を付与するために塗装されるものである。このようなベース塗料52としてはポリエステル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、フッ化ビニリデン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、ポリオレフィン樹脂塗料などをそれぞれ単独であるいは二種類以上を混合して使用することができる。また、ベース塗料52には顔料が配合されており、これにより、ベース塗料52は所望の色に着色されている。この顔料としては各種の着色顔料、防錆顔料、体質顔料(シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリンクレータルクなど)を例示することができるが、これらに限定されるものではない。顔料は着色性や塗料中の樹脂との密着性の向上、下地の隠蔽性等を考慮して配合することができる。さらに、ベース塗料52としては、例えば、特開2002−146280号公報に開示されるような縮み塗料(縮み性のある塗料で艶消し効果がある塗料)を用いることができる。
【0024】
また、ベース塗料52には艶消し剤や傷付き防止剤としてあるいは接着(アンカー効果)を向上させる目的として骨材を配合することができる。骨材としてはガラス繊維、ガラスビーズ、樹脂ビーズ、マイカなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。さらに、ベース塗料52には合成微粉シリカ、有機ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の増粘剤、メラミン系やベンゾグアナミン系やイソシアネート系等の架橋剤、ポリアクリル酸等の分散剤などを配合しても良い。尚、本発明においてベース塗料52の粘度は、例えば、フォードカップNo.4法による測定で30〜120秒とするのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0025】
上記のようにベース塗料52を塗布した後、金属板1は裏面コーター24に搬送され、裏面コーター24を通過する際にコーター25で塗料が塗装される。この塗料は、従来から建材等に使用されているものであって、金属板1に耐食、耐候、耐摩耗などの性能を付与するために塗装されるものであって、上記ベース塗料52と同様のものを使用することができる。
【0026】
上記のように金属板1の裏面に塗料を塗布した後、この金属板1を導入口22から塗装ブース5内に導入される。そして、上記複数の塗装ガン3の下側を通過する際に、色の異なる複数の塗料2が塗布される。この仕上げ用の塗料2としてはベース塗料52と同様のものを使用することができる。すなわち、塗料2としては上記と同様に、ポリエステル樹脂塗料などの各種樹脂塗料に顔料や骨材及びその他の成分を配合したものを用いることができる。また、塗料2としては互いに色の異なる複数色の塗料2a、2b、2cを用いる。ここでは、色の異なる三種類の塗料2a〜2cを用いる場合について説明するが、これに限らず、塗料2は色の異なる二種類であっても良いし、四種類以上であっても良い。そして、色の異なる複数色の塗料2a〜2cのうち、一種類の塗料2aはベース塗料52と同色に、また、残りの他の仕上げ塗料2b、2cはベース塗料52と異色にそれぞれ調製されている。この場合、ベース塗料52と同色の塗料2aはベース塗料52と同じ顔料を使用して着色し、ベース塗料52と異色の仕上げ塗料2b、2cはベース塗料52と異なる顔料を使用して着色することができる。また、ベース塗料52と同色の仕上げ塗料2aはベース塗料52を適宜の無色の溶媒で希釈することにより調製するのが好ましく、これにより、ベース塗料52を利用してベース塗料52と同色の塗料2aを調製することができるものであり、ベース塗料52と塗料2aとを別々に調製する場合に比べて、手間を低減することができると共にベース塗料52と仕上げ塗料3aとの色違いが発生しにくくなるものである。尚、後述のようにベース塗料52はロールコータで、塗料2aはスプレーガンでそれぞれ塗装するものであるので、ベース塗料52をそのまま転用して塗料2aとするよりも希釈して粘度を低下させる方が好ましい。本発明において仕上げ塗料3の粘度は、例えば、フォードカップNo.4法(JIS K 5400)による測定で15〜45秒とするのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0027】
この後、金属板1は導出口23を通じて塗装ブース5から導出され、次に、焼き付け炉54に導入される。そして、焼き付け炉54で金属板1に塗装したベース塗料52と裏面の塗料及び塗装ガン3で塗装した仕上げ用の塗料2a〜2cを硬化して焼き付けることによって、模様を有する塗装板を製造することができる。尚、金属板1に形成されるベース塗料52や仕上げ用の塗料2の塗膜は10〜50μmとするのが好ましいが、これに限定されるものではない。また、仕上げ用の塗料2のスプレー条件は、霧化圧0.1〜0.3MPa、パターン圧0.1〜0.3MPa、吐出量100〜500ミリリットル/分、塗料2の吐出時間0.1〜2秒、塗料2の無吐出時間0.01〜0.2秒などとすることができるが、これに限定されるものではない。さらに、ラインスピード(金属板1の搬送速度)は30〜120m/分、焼き付け炉54での焼き付け温度は180〜250℃、焼き付け時間20〜100秒などとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
上記の塗装ガン3によるスプレー塗装は以下のようにして行なう。まず、塗装装置の運転中は塗装ガン3a〜3cの色選択バルブ部44a〜44cと塗料タンク4a〜4cとの間で常時塗料2a〜2cが循環している。すなわち、ポンプ39a〜39cの作用によって、塗料タンク4a〜4cから塗料2a〜2cを供給管35a〜35c通じて色選択バルブ部44a〜44cに供給すると共に色選択バルブ部44a〜44cに供給した塗料2a〜2cをそのまま通過させて返送管36a〜36cを通じて塗料タンク4a〜4cへ返送する、という動作を塗装装置の運転中に常時行なうようにしている。
【0029】
そして、一つの塗装ガン3から塗料2a〜2cのいずれか一つを吐出させるにあたっては、その吐出させる塗料2が流通している色選択バルブ部44a〜44cの一つにエアを制御用エア配管41a〜41cを通じて供給する。例えば、塗装ガン3aから塗料2aを吐出させる場合は、塗装ガン3aの色選択バルブ部44aに制御用エア配管41aを通じてエアを供給する。これにより、目的の塗料2aがガン本体46内に導入され、この後、霧化エアやパターンエアの作用により吐出口45から吐出されて金属板1(ベース塗料52の表面)に塗布される。これと同様にして制御手段43によりエアを供給する色選択バルブ部44a〜44cを順次切り替えることによって、一つの塗装ガン3から色の異なる複数の塗料2a〜2cを順次吐出させることができ、また、各塗装ガン3a〜3cに対して上記制御手段43による制御を行うことにより、同色あるいは色の異なる複数の塗料2a〜2cを同時に塗装し、塗装による塗膜で模様を形成することができる。
【0030】
本発明では、一つの塗装ガン3で複数色の塗料2を塗装することができ、塗料の色毎に塗装ガン3を設ける必要がなく、従って、塗装装置をコンパクト化することができて全体としてコストダウンを図ることができる。また、上記のように塗装ガン3の色選択バルブ部44a〜44cに供給された塗料2a〜2cが吐出されなかった場合であっても、塗装ガン3の色選択バルブ部44a〜44cに留まることなく流通させることができ、塗装ガン3の色選択バルブ部44a〜44cで塗料2a〜2cが蓄圧するのを防止することができる。従って、塗料2a〜2cの吐出圧の変動を抑えることができ、塗料2a〜2cの吐出パターンの乱れを少なくすることができる。
【0031】
また、一つの塗装ガン3から吐出させる塗料2aを別色の塗料2b、2cに切り替える時に、いずれの塗料2も塗装ガン3から吐出されない無吐出時間を設けるのが好ましい。このように塗装ガン3から吐出させる塗料2aを他の塗料2b、2cへと切り替えるにあたって、いずれの塗料2の吐出も停止させた無吐出時間を緩衝時間として設けることによって、先に吐出している塗料2aに後から吐出する塗料2b、2cの圧力が影響を与えないようにすることができる。
【0032】
また、上記の塗装装置は集塵機34を動作させて塗装ブース5から排気ダクト21を通じて排気しながら塗装ガン3により塗装している。従って、塗装ブース5内には上面の吸気孔20から空気が供給されると共に塗装ブース5内で飛散している塗料2を排気ダクト21に吸引することができ、金属板1に当たるなどして飛散している塗料(塗料ミスト)2を塗装ブース5内から排気することができ、飛散した塗料2が金属板1、塗装ガン3などに付着するのを防止することができる。特に、排気ダクト21は塗装ブース5の下部(搬送されている金属板1の下側)に設けられているので、塗装ブース5内の空気の流れは上から下となり、排気ダクト21を塗装ブース5の横(側面)に設けるよりも塗料2の飛散防止効果が高いものである。排気ダクト21による排気で生じる塗装ブース5内の風速は1〜5m/秒とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明において、塗装ガン3の汚れ防止対策として、図8に示すように、各塗装ガン3をカバー部材60で覆うことが好ましい。カバー部材60は下面が開口する筒状に形成されるものであって、その上部には空気供給部61が設けられている。また、カバー部材60の断面形状は円形や四角形などの任意の形状でよい。そして、塗装ガン3は上記カバー部材60の内側に配置されるが、塗料2の吐出口45を設けた塗装ガン3の下部はカバー部材60の下面開口から突出している。また、塗装ガン3の下部の周囲には遮蔽板63が突設されている。この遮蔽板63は不織布などの通気性のある材料で形成されるフィルターなどを用いて形成されており、この遮蔽板63により塗装ガン3の下部が覆われている。また、上記塗料配管34や制御用エア配管41などがカバー部材60の上部を貫通して内側に導入されて塗装ガン3に接続されている。
【0034】
このようにカバー部材60で周囲を覆った塗装ガン3を用いる場合も、上記と同様にして、ベース塗料を塗布した長尺の金属板1を水平に搬送しながら塗装ガン3の下方を通過させる時に、塗装ガン3の吐出口45から塗料2を(吐出)噴射して金属板1に塗装を施すが、塗装ガン3から塗料2を吐出している間にカバー部材60から金属板1に向かって空気を吹き出すようにする。すなわち、空気供給部61を通じてカバー部材60の内側に空気を供給すると共にこの空気を塗装ガン3とカバー部材60の内面との間の流路64で流通させ、この後、矢印イで示すように、カバー部材60の下面開口から空気を吹き出す(ダウンフロー)。そして、このようにカバー部材60の下面から空気を吹き出すことによって、塗装ガン3から吹き出された塗料2が金属板1の表面に当たって、矢印ロのように塗装ガン3の方に向かって跳ね返るのを防止することができ、また、塗装ガン3の周囲をカバー部材60で覆うことによって、飛散した塗料2が塗装ガン3に付着するのを防止することができるものである。従って、飛散した塗料2による塗装ガン3の汚れを防止することができると共に塗装ガン3に付着した塗料2の流れ落ち(ボタ落ち)による金属板1の汚れも防止することができるものである。また、上記のカバー部材60からの空気は遮蔽板63を通過して吹き出されて整流作用を受けることになり、これより、空気の流れが不均一にならないようにすることができるものである。また、遮蔽板63によって、飛散した塗料2が塗装ガン3の下部に付着するのを防止することができる。尚、カバー部材60からの空気の吹き出しは、風速0.5〜5m/秒、好ましくは1〜2m/秒にすることができるが、これに限定されるものではない。
【0035】
また、カバー部材60はステンレス鋼板などの金属板で形成することができるが、この金属板としてパンチングメタル(孔あき板)を使用してもよく、この場合、カバー部材60の外面(側壁)には上記と同様のフィルターを設けることができる。そして、カバー部材60をパンチングメタルを用いて形成した場合、その孔から流路64を流れる空気が漏れ出すことになるが、この漏れ出す空気によって、カバー部材60の外面に飛散した塗料2が付着するのを軽減することができ、飛散する塗料2によるカバー部材60の汚れを防止することができるものである。
【0036】
このような塗装ガン3の汚れ防止対策をした場合、対策前では塗装時間が30〜40分で塗装ガン3に汚れが生じる塗装条件であっても、対策後は120分経過しても塗装ガン3に汚れが発生しないものであった。
【0037】
図9には塗装ガン3の汚れ防止対策の他例を示す。この例では、金属板1の表面に対して傾けた塗装ガン3から塗料2を吐出している。すなわち、金属板1の表面に対する垂線L1と、塗装ガン3の中心と吐出口45とを結ぶ軸線L2とが平行とならず、垂線L1と軸線L2との間に一定の角度が形成されるように、塗装ガン3を傾けて配置するのである。
【0038】
このような塗装ガン3を用いる場合も、上記と同様にして、ベース塗料を塗布した長尺の金属板1を水平に搬送しながら塗装ガン3の下方を通過させる時に、塗装ガン3の吐出口45から塗料2を(吐出)噴射して金属板1に塗装を施す。垂線L1と軸線L2とを平行にして塗装ガン3を金属板1の表面に対して垂直に配置した場合、塗装ガン3から吐出される塗料2は金属板1の表面に対して垂直に当たる成分が多いために、塗料2が金属板1の表面に当たる衝撃は最も大きくなり、よって、塗料ミストとして飛散する塗料2の量が多くなりやすい。そこで、塗装ガン3を傾けて配置することによって、塗装ガン3から吐出される塗料2のうち、金属板1の表面に対して垂直に当たる成分を少なくして、矢印ハに示すように、金属板1の表面に沿って霧状(ミスト)の塗料2を流し、塗料2が金属板1の表面に当たる衝撃を緩和するものであり、これにより、塗料2の舞上がりを少なくして飛散する塗料2の量を少なくすることができるものである。従って、飛散する塗料2で塗装ガン3が汚れるのを低減することができる。
【0039】
塗装ガン3の傾き、すなわち、垂線L1と軸線L2との間の角度は小さすぎると、塗料2の衝撃緩和の効果が小さく、大きすぎると塗料2の吐出(噴霧)が偏って塗装の均一性が損なわれる。従って、垂線L1と軸線L2との間の適正角度αは10〜30°にするのが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0041】
図1〜5に示す塗装装置を用いて塗装板を製造した。金属板1としては幅914mm、厚み0.35mmの長尺の鋼板を用いた。
【0042】
ベース塗料52としてはポリエステル系樹脂塗料(日本油脂BASFコーティングス(株)製の「S03−G4651」)に顔料を配合してライトオレンジの色相に着色したものを用いた。また、ベース塗料52の粘度(20℃)はフォードカップNo.4を用いた粘度測定で60秒であった。
【0043】
ベース塗料52と同色の仕上げ用の塗料2aとしては、ベース塗料52をシクロヘキサノン及びソルベントナフサを主成分とする溶媒で希釈したものを用いた。この塗料2aの粘度(20℃)はフォードカップNo.4を用いた粘度測定で30秒であった。
【0044】
ベース塗料52と異色の仕上げ用の塗料2bとしては、上記と同様のポリエステル系樹脂塗料に顔料を配合してダークオレンジの色相に着色したものを用いた。また、上記と同様の溶媒を配合することによって、塗料2bの粘度(20℃)をフォードカップNo.4を用いた粘度測定で30秒にした。
【0045】
ベース塗料52と異色の仕上げ用の塗料2cとしては、上記と同様のポリエステル系樹脂塗料に顔料を配合してベージュの色相に着色したものを用いた。また、上記と同様の溶媒を配合することによって、塗料2cの粘度(20℃)をフォードカップNo.3を用いた粘度測定で30秒にした。
【0046】
そして、金属板1をラインスピード65m/分で搬送しながらベース塗料52及び仕上げ用の塗料2a〜2cの塗布を行った。ここで、スプレー条件としては、霧化圧0.20MPa、パターン圧0.17MPa、吐出量290ミリリットル/分(各色)とした。また、塗装ガン3よるスプレーパターンは、塗料2aを0.15秒間吐出→0.10秒間の無吐出→塗料2bを0.20秒間吐出→0.10秒間の無吐出→塗料2cを0.20秒間吐出→0.08秒間の無吐出→塗料2aを0.15秒間吐出→…の順で繰り返した。各塗料2a〜2cの吐出(ON)と無吐出(OFF)の繰り返しパターンを図10に示す。このようにしてベース塗料52と同色の塗料2aと異色の塗料2b、2cとが部分的(面積換算で20%)に重なるようにした。尚、塗装ガン3は図6、7に示すような旭サナック製のカラーコンビガン「T2925」を用いた。また、塗装ブース5内の風速が1m/秒となるように排気ダクト21を通じて排気した。次に、スプレー塗装の後の金属板1を焼き付け炉54に導入し、温度230℃で50秒間焼き付けすることによって、ベース塗料52の塗膜厚が18μm、仕上げ用の塗料2a〜2cの塗膜厚が5〜10μmの塗装板を得た。この後、塗装板をロール成形等により曲げ加工すると共に所定の長さに切断して横葺き屋根材を形成した。この横葺き屋根材は色調が緩やかに変化する模様を有するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】同上の概略図である。
【図3】同上の平面視の概略図である。
【図4】同上の塗料の配管の状態を示し、(a)(b)は概略図である。
【図5】同上のエアの配管の状態を示す概略図である。
【図6】同上の塗装ガンの一例を示す正面図である。
【図7】同上の塗装ガンの一例を示す断面図である。
【図8】同上の塗装ガンの汚れ防止対策の一例を示す概略図である。
【図9】同上の塗装ガンの汚れ防止対策の他例を示す概略図である。
【図10】同上のスプレーパターンを示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 金属板
2 塗料
3 塗装ガン
4 塗料タンク
5 塗装ブース
45 吐出口
60 カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される金属板の表面に複数色の塗料を塗装ガンの一つの吐出口から切り替えながら吐出して塗膜を形成する塗装板の製造方法において、塗料を塗料タンクから塗装ガンに供給して吐出すると共に吐出しない塗料は塗料タンクへと返送することを特徴とする塗装板の製造方法。
【請求項2】
塗装ガンから吐出させる塗料を切り替える時に、金属板の表面に塗料を所定時間吐出させないことを特徴とする請求項1に記載の塗装板の製造方法。
【請求項3】
塗装ブース内に塗装ガンを設置し、塗装ブースの下方より排気しながら塗装することを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装板の製造方法。
【請求項4】
複数個の塗装ガンを金属板の搬送方向と直交する方向に並設すると共に塗装ガンの少なくとも一つを他の塗装ガンに対して金属板の搬送方向に沿って前後方向にずらして配設することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗装板の製造方法。
【請求項5】
塗装ガンの周囲を覆うカバー部材から金属板に向かって空気を吹き出しながら塗装することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗装板の製造方法。
【請求項6】
金属板の表面に対して傾けた塗装ガンから塗料を吐出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塗装板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−68645(P2006−68645A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255849(P2004−255849)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000207436)日鉄鋼板株式会社 (178)
【Fターム(参考)】