説明

塩味付与製剤及びそれを用いた食品

【課題】塩味感を増強した塩味付与製剤を提供する
【解決手段】塩基性塩化マグネシウムを有効成分として含有する、塩化ナトリウムと塩化カリウムを混合した塩味付与製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味付与製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナトリウムの摂取量に関する様々な問題が生じている。たとえば、塩化ナトリウムの摂取量が高くなることによる高血圧症状の発現と高血圧による疾病率の上昇である。このため、ナトリウムの摂取量を低減化し、生活習慣病の症状の1つである、高血圧の引き金を引く可能性を下げることが求められている。そのため、ナトリウム、すなわち、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩および又はナトリウム塩を含む製剤に、塩類として呈味を持つ塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどの無機塩類を用いることが試みられている。しかしながら、そのままでの使用は、塩化カリウムでは特有の金属味と後味、塩化マグネシウムでは特有の苦み、塩化カルシウムでは苦みの後味などが問題となり、通常の方法では食用に耐えうるナトリウム低減化のための製剤化は困難である。
現在、市場で多く目にするのは、塩化カリウムで塩の一部を代替した組成物である。こうした組成物について塩化カリウムの不快な苦味や渋味を測定する方法が提案されている(非特許文献1)。ここでは塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合割合を100:0から0:100までの20刻みで6段階取り、それぞれにおける呈味質の測定を行っている。66%の寄与率となる快−不快の軸で位置づけると、塩化カリウムの配合率が40%以下の試料はいずれも快の方向に、逆に60%以上の試料は全て不快の方向に位置した。 つまり、塩化カリウムの配合を増やすことで呈味が変化し、塩化カリウムを高濃度で配合した製剤は、嗜好性が低いことが示されている。
【0003】
塩化ナトリウムと併用する塩化カリウムの味の欠点を補うために、塩の製造時にイオン交換膜にがりから得た塩化カリウムを主体とする沈殿物を200ないし500℃の温度で焼成して塩化カリウムを主成分とする塩味料を製造する方法が見出されている(特許文献1)。
この発明は、イオン交換膜にがりから得た塩化カリウムを主体とする沈殿物の中に、85%以上の塩化カリウム、10%前後の塩化ナトリウム、2%前後の塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムなどを含有することが示されている。この中に、塩化マグネシウムを200℃から500℃の温度で焼成し、塩化マグネシウムを塩基性塩化マグネシウムに変化させると記載がある。すなわち、塩化マグネシウムが減少することで塩化マグネシウムが持つ吸湿性と苦みを抑制し、さらに塩基性塩化マグネシウムの緩衝作用を利用することを特徴としてとらえている。500℃以上の焼成により酸化マグネシウムを生成させた場合、苦みはないが、緩衝能力がないことを欠点として示し、アルカリ性となる性質を回避する対応を提案している。
実施例で塩化ナトリウムを上記の焼成条件で製造した塩味料を40%まで置き換えた場合には、味の好ましさは低減し、利用できないことを示している。これは塩味料に含まれる共雑物としての硫酸カルシウム、塩化カルシウムなどによる味が影響しており、技術面での検討ができておらず、塩化ナトリウムの置換率も30%以下で、せいぜい10%までに制約されている。このことから、塩基性塩化マグネシウムの特性をそのまま、塩味料に向けた原料として利用できるとはいいがたいのが現状である。
塩基性塩化マグネシウムの生成については、塩化マグネシウムが121℃ないし110℃で塩基性塩化マグネシウムに変化することが示されている(非特許文献2,3)。乾燥塩における塩基性塩化マグネシウムの生成過程が詳細に検討され、X線回折分析による同定と酸消費量による定量が提案された(非特許文献4)。しかし食用塩においては、塩基性塩化マグネシウムは品質を低下させる難溶性物質として、生成防止対策が中心の課題であった。
また、塩基性塩化マグネシウムおよび又は酸化マグネシウムの生成を抑制するために、にがり成分を含んだ塩の乾燥及び/又は焼成を0℃〜250℃の温度範囲で行うことを特徴とし、にがり塩のべとつきを防止し、さらさらして使いやすい塩にする技術が検討されている(特許文献2)。しかしながら、食品、たとえば米飯の黄変を防止することが主目的となり、得られた製剤の味の好ましさに関する考察が少なく、食品に添加した場合に苦みが強く、味の改善に対する知見が乏しいのが現状である。
なお、マグネシウムとしては、0.10〜0.49%、0.13〜3.1%の範囲が好ましいとしているが、塩基性塩化マグネシウムとしては、製剤中の酸化マグネシウムに換算した重量割合を0.1%以下に抑制するのが好ましいとしており、塩味料としての積極的な利用は、全く検討されていない。
【0004】
また、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムから選ばれる1つもしくは2つ以上の組み合わせからなる無機化合物を用い、食用塩に0.005〜0.7%添加し、食用塩の塩味を損なわず、塩かどをとり、塩味をまろやかにする組成物の設計が試みられている(特許文献3)。
この組成物では、塩味をまろやかにすることが目的であり、塩味の増強又は付与する設計に関しては、十分な検討がなされていないのが現状である。
ここでは、イオン交換膜で製造された塩、岩塩、天日塩などの塩味の良好さを示し、塩化ナトリウム純度の高い食用塩を用いた場合、ストレートに強い塩味を感じ、飲食品のおいしさを損ない、塩味に対する嗜好性を損なうため、酸化マグネシウムなどの塩類やこれらの成分を含むドロマイトの使用を検討するものである。
さらに海水から塩を取りだす場合ににがりを残したり、あとでにがりを添加することで、塩味がまろやかになることが知られ、にがりの苦みによる塩味のマスキング効果であることを把握し、また、にがり固有のべとつきが利便性を欠く点を指摘している。
これらの知見は、ナトリウムの低減させる低ナトリウム塩、又は、塩化カリウムを含む塩味料への応用は困難であるのが現状である。また、塩味を付与する目的に適用できない点でも、技術面での困難が大きい。
【0005】
また、ナトリウムの配合量を減らし、塩化カリウムの不快な味を抑制し、塩味を味わうことができる低ナトリウム塩およびこれを用いた食品の提供が示されている(特許文献4)。
これは塩化カリウムと塩化ナトリウムの配合割合を調整し、成型した製剤の粒子又は造粒体の平均粒径を200〜1600μmの範囲に調製し、含まれる塩化カリウムの粒径を最終製剤の平均粒子径よりもより小さく設計する製造方法を示している。
粒子の大きさを調整することで、塩化カリウムが唾液に溶解する、あるいは食品の水分に溶解しやすくし、また、塩味の味をより好ましくするための方策が提案されているが、これに含まれるナトリウムやカリウム以外のミネラルの影響が考慮されておらず、この方法によって塩味の付与ができるかを判定することはできない。
粒子設計の点で、にがりを添加した微粒の食用塩が提案されている。この製剤はまろやかな塩が求められているとし、旨味、まろやかさ、甘味、くどさ、後味について評価し、嗜好性を高めた検討がなされているが、塩味を付与する設計とはいいがたいのが現状である(特許文献5)。
以上みてきたように、塩の味の出方をまろやかにしたり、後味を改善する方法は検討されているが、塩味を付与あるいは増強したり、さらに、加工食品分野では必要とされる強い塩味を与える製剤設計にはなっていないのが現状である。
【0006】
一方、食塩に由来する原料に限らず、天然物から抽出した成分を用い、減塩製品の塩味を増強させる添加物が報告されている。
これらは、1)天然物由来の抽出物(小川香料)、2)ペプチド(キリン協和フーズ)、3)酵母エキス(DSMジャパン)、4)食酢による併用(ミツカン)、5)海産物を加工したγアミノ酪酸を含む調味料(焼津水産)、6)ポリグルタミン酸を用いた調味料(味の素)、7)減塩食品のコクを向上させるための食用油(J−オイルミルズ)、8)グルコン酸ナトリウムを用いた製剤(ユングブンツラウアー)、9)藻塩を用いる調味塩(ポリホス研究所)、10)じゃがいものエキスを用いる製剤(コスモ食品)、11)発酵トマトと乳のコクを持つ素材(大洋香料)、12)粗製の塩化カリウム(エフシー化学)など減塩による味の欠点を補う検討は多くなされているが、塩味の付与又は増強ができていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58-60971号公報
【特許文献2】特開2007-306893号公報
【特許文献3】特開2010-88353号公報
【特許文献4】特開2008-228715号公報
【特許文献5】特許第2628606号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】古川秀子、「おいしさを測る」、幸書房(1994)
【非特許文献2】米井、増沢、日本専売公社 小田原製塩試験場 試験報告、13巻、66(1969)
【非特許文献3】新野、西村、有田、日本海水学会誌、46巻、150(1992)
【非特許文献4】新野、西村、有田、日本海水学会誌、47巻、74(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、塩味付与製剤は原料となる塩化ナトリウムのナトリウムを低減させる必要から、ナトリウムおよび塩化ナトリウムの塩味を低減させ、その低減化による味への影響を与えやすい。
また、塩化ナトリウムの低減化に伴い、併用されることが多い塩化カリウムは、塩味を持たず、カリウムの固有の味、あるいは独特の味を抑制させにくく、多くの課題を抱えたままである。
海水あるいは食塩に含まれる塩化マグネシウムなどのにがり成分を用いると、これらは、加熱焼成した場合にアルカリ性の素材に変化することが知られているが、空気中の水分を吸収し、潮解し、物性を変え、好ましくない形態となることが課題となる面がある。また、味の発現や好ましさから課題が多く、塩味の付与又は増強に関する課題を持っている。
したがって、このままでは、下味、調理、調味各段階で、好ましい塩味の提供をすることができない状況が続いていたといわざるをえない。
本発明は、塩味感を増強した塩味付与製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような塩化ナトリウムと塩化カリウムを混合した混合製剤に関して、塩味を付与又は増強する研究開発を行い、鋭意検討を重ねた。その結果、塩基性塩化マグネシウムを添加することによって塩味を付与又は増強することができることを知見し、改良した塩味付与製剤を提案する。
【0011】
本発明の主な構成は次のとおりである。
1.塩基性塩化マグネシウムを有効成分として含有する、塩化ナトリウムと塩化カリウムを混合した塩味付与製剤。
2.塩基性塩化マグネシウムの含有量は、塩基性塩化マグネシウムの乾燥重量に換算して、塩味付与製剤100重量部に対して0.1〜2.0重量部であることを特徴とする1.記載の塩味付与製剤。
3.塩基性塩化マグネシウムが、塩化マグネシウム又は塩化マグネシウムを含むにがりを焼成したものであることを特徴とする1.又は2.記載の塩味付与製剤。
4.塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合割合は、乾燥重量に換算して57:43〜9:91であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の塩味付与製剤。
5.1.〜4.のいずれかに記載の塩味付与製剤又はその溶液を、食品に添加するか又は食品の表面に付着させて塩味を付与することを特徴とする塩味の付与方法。
6.1.〜4.のいずれかに記載の塩味付与製剤又はその溶液を、食品に添加するか又は食品の表面に付着させて塩味を付与した塩味付き食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、塩化ナトリウムの含有量を抑えつつ塩味の食味を十分に与えることができる塩味付与製剤を提供することができる。特に、焼成によって生成した塩基性塩化マグネシウムが、塩化カリウムによって塩味の低下した製剤に先味が良く、強い塩味を付与できる塩味付与製剤を実現できた。
また、本発明によれば、カリウム塩の違いによる風味の差を生じない加工食品を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)本発明の塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合製剤
本発明は、塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合製剤から生ずる異味を改善した塩味付与製剤を提供する。詳しくは、塩基性塩化マグネシウムを有効成分として含有する塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合製剤であって、塩味付与製剤を提供する。本発明の塩味付与製剤に有効成分として含有される塩基性塩化マグネシウムは、海水から抽出して得られる天然由来の塩基性塩化マグネシウムでよく、あるいは化学合成により得られる塩基性塩化マグネシウムであってもよい。
本発明の塩味付与製剤に使用する塩基性塩化マグネシウム成分の原料としては、海水からのにがりを用いてもよく、精製した塩化マグネシウムを用いてもよい。塩基性塩化マグネシウムの含有量は、塩基性塩化マグネシウムの乾燥重量に換算して、塩味付与製剤100重量部に対して0.05重量部以上あればよい。さらに好ましくは0.1〜2.0重量部である。
焼成して塩基性塩化マグネシウムを発生させる場合の原料となるにがり又は塩化マグネシウムの配合量は、特に限定されない。しかしながら、製造適性からにがりに含まれる塩化マグネシウムの乾燥重量に換算して、混合製剤100重量部に対して0.3〜7.5重量部が好ましい。焼成して塩基性塩化マグネシウムを発生させる場合の加熱温度は、110℃以上であれば特に限定されないが、製造適性から250℃〜650℃が好ましく、350℃〜550℃が特に良好である。
【0014】
(2)本発明の塩化ナトリウムと塩化カリウム
本発明の原料となる塩の由来は、海水、天日塩、天日塩溶解後の再晶析塩、イオン交換塩、岩塩、地下鹹水晶析塩、海洋深層水塩等が好ましいが、特に種類は選ばない。塩の形態は、乾燥塩、湿塩、立方体塩、球状塩、凝集塩、フレーク塩、トレミー塩、粉砕塩、顆粒塩、成形塩、添加物塩等、特に形態を選ばない。一方、本発明の原料となる塩化カリウムは、鉱物由来、海水由来、植物由来のもの、食品添加物としての基準に合致したもの等、特に限定されるものではない。塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合割合は限定されるものではないが、塩化カリウムの不快味への改善効果を考慮すると、乾燥重量に換算して塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合割合が、57:43〜9:91がより好ましい。
【0015】
(3)本発明の塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合製剤
塩化ナトリウムと塩化カリウム以外の成分を加えて、製品に他の機能を付与してもよい。機能成分としては、結着剤、固結防止剤、栄養強化剤、調味料、スパイス、増量剤、滑沢剤、離型剤その他が挙げられる。これらの成分は、原料に加えてもよく、本発明の塩味付与と同時に加えてもよく、本発明の塩味付与後に加えてもよい。一例として、焼成後ににがりを添加する場合は、その配合量が、にがりに含まれる塩化マグネシウムの乾燥重量に換算して、混合製剤100重量部に対して0.05〜1.0重量部が好ましい。また別の例として、焼成後に炭酸マグネシウムと酸化マグネシウムを添加する場合は、その合計配合量が、混合製剤100重量部に対して0.15〜1.5重量部が好ましい。
【0016】
(4)本発明の各種食品の利用
本発明の塩味付与製剤を食品の原料の1つとして使用してもよい。食品の種類は特に限定されないが、塩あるいは塩味を利用する食品が好ましい。また、食品への使用量は特に限定されないが、食品100重量部に対して0.05〜5.0重量部の使用が好ましく、0.5〜1.5重量部の使用が良好である。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実験例および実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(実験例1)
実験例1のサンプルは、塩化ナトリウム:塩化カリウムを57:43で配合した混合物をベースとしている。塩化ナトリウムは、塩田産天日塩を溶解して再晶析させ、得られた晶析塩を乾燥して使用した。塩化カリウムは、食品添加物グレードの製品を使用した。添加するにがりは、塩化マグネシウム濃度が28.4%の塩田産にがりを使用した。このにがりには塩基性塩化マグネシウムは含まれていない。混合物ににがりを添加する場合は、表1に示す塩化マグネシウム含量のにがりを量りとって混合し、表1に示す処理方法でサンプルを作製した。表1の焼成とは、サンプル100gを蒸発皿に広げ、450℃に予備加熱した卓上型マッフル炉に設置し、温度一定で0.5時間加熱する処理である。表1の乾燥とは、サンプル100gを蒸発皿に広げ、90℃に予備加熱した順風式乾燥機に設置し、温度一定で2時間以上水分を蒸発させる処理である。実施例4、5のサンプルには表1に示すマグネシウム含量の後添加にがりを追加混合し、塩基性塩化マグネシウムが発生しない90℃で乾燥させた。
実験例で使用された原料及び/又は調製された製剤について、以下の(1)〜(3)の方法により、分析及び/又は評価した。
【0019】
(1)塩化マグネシウム含量
まず、マグネシウム含量を、塩試験法に定めるキレート滴定法で求めた(塩試験法、財団法人塩事業センター(2007))。原料にがりに含まれるマグネシウムは、ほぼ全量が塩化マグネシウムを構成すると推定され、塩試験法に定める塩類結合計算法に準じて塩化マグネシウム含量を算出した。
【0020】
(2)塩基性塩化マグネシウム含量
X線回折装置(品番:MXP3 マックサイエンス社製)で塩基性塩化マグネシウムの含有を確認した(新野、西村、有田、日本海水学会誌、47巻、74(1993))。その上で酸化マグネシウム換算でのアルカリ成分量を中和滴定法で定量し、これを塩基性塩化マグネシウム含量とした。
【0021】
(3)官能評価
10名の訓練された男女をパネラーとし、表1の試料について、製剤単独の状態で評価した。方法としてはパネラーの手のひらに各サンプル約0.3gを採り、少しずつ舌でなめて味覚評価した。味覚の評価項目は塩味、先味の2項目とした。項目の各々について最良の状態を+2点、最悪の状態を-2点とする1点間隔の5点法で判定し、全パネルの評価点の平均をサンプルの評価点とした。サンプル間の比較のために、評点法による有意差検定を実施した(古川秀子、「おいしさを測る」、幸書房(1994))。
結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
比較例1は、塩化ナトリウムと塩化カリウムを、配合比57:43で、単純に混合した基本サンプルである。前述の非特許文献1では、塩化ナトリウムの配合比が60%を下回ると呈味性が大きく低下するとしている。比較例2は比較例1をそのまま焼成したもので、焼成後に塩基性塩化マグネシウムは含まれていなかった。比較例3は比較例1ににがりを添加し、焼成しなかったサンプルで、塩基性塩化マグネシウムは含まれていなかった。実施例1〜5は、にがりを添加後に焼成し、実施例1、4、5は約0.1%、実施例2では1.1%、実施例3では2.02%相当の塩基性塩化マグネシウムが含有されていた。ここでは出発物質である塩化マグネシウムの配合量を変化させ、生成する塩基性塩化マグネシウムの量を制御した。場合によっては、前述の特許文献2に示された焼成温度条件によって、塩基性塩化マグネシウムの生成量を制御することも可能である。実施例4、5は追加のにがりを後添加したサンプルで、後添加にがりに塩基性塩化マグネシウムは含まれていない。
【0024】
製剤単独の味覚評価結果について詳述する。比較例1〜3の塩味については、評点の平均値が−0.2から0.1で、同様に低い評価だった。一方、実施例1〜5では評価点が高く、比較例と有意差があった。実施例4、5に添加した「にがり」は、一般に塩の甘さを引き出し、塩味をまろやかにすると言われているが、実施例1〜3と同様に塩味が付与された。この結果、焼成によって生成した塩基性塩化マグネシウムが、塩化カリウムによって塩味の低下した製剤に強い塩味を付与したと推定された。塩化マグネシウムを含まないサンプルを焼成した比較例2と塩化マグネシウムも添加して焼成した実施例1〜5との比較から、焼成によって生成した塩基性塩化マグネシウムの寄与が大きいことが明白である。
塩味と関連の深い先味の評価を行った。比較例1〜3の先味は、塩味と同様に低い評価だった。一方、実施例1〜5では先味の評価点が高く、比較例と有意差があった。この結果、焼成によって生成した塩基性塩化マグネシウムが、製剤に先味を付与したと考えられた。
【0025】
(実験例2)
実験例2のサンプルは、塩化ナトリウム:塩化カリウムを9:91で配合した混合物をベースとしている。塩化ナトリウム、塩化カリウム、添加するにがりは、実験例1と同じものを使用した。製剤ににがりを添加する場合は、表2に示す塩化マグネシウム含量のにがりを混合し、表2に示す処理方法でサンプルを作製した。
塩化マグネシウム含量および塩基性塩化マグネシウム含量の分析、官能評価は実験例1と同様に実施した。
結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
比較例4は、塩化ナトリウムと塩化カリウムを配合比が9:91で、単純に混合したサンプルである。製剤組成の大半を塩化カリウムがしめるため、塩味が極端に低下しているサンプルと考えられる。実施例6〜8は、同じベースを用いてにがりを添加後に焼成したもので、実施例6は0.1%、実施例7では1.02%、実施例8では1.95%相当の塩基性塩化マグネシウムが含有されていた。
製剤単独の味覚評価結果について詳述する。比較例4の塩味は、評点の平均値が−0.3と0を下回る低い評価だった。一方、実施例6〜8では評価点が高く、実施例7と8では比較例と有意差があった。また、比較例4の先味は、塩味と同様に低い評価だった。一方、実施例6〜8では先味の評価点が高かった。この結果、焼成によって生成した塩基性塩化マグネシウムが、製剤に塩味と先味を付与したと考えられた。
【0028】
(実験例3)
実験例1の実施例5に、流動性改善効果のある成分を追加で配合した。実施例9(試料13)は炭酸マグネシウム0.1重量部と酸化マグネシウム0.05重量部を添加したサンプルであり、実施例10(試料14)は炭酸マグネシウムを1.0重量部と酸化マグネシウム0.5重量部を添加した。これらの原料には、塩基性塩化マグネシウムは含まれていない。カップに取り分けた各サンプル約10gを、カップごと手で傾けて流動させ、流動性の改善を確認した。また、塩味と先味についても、実施例5と同様に良好であることを確認した。
【0029】
(実験例4)
実験例1の実施例1、3及び比較例1のサンプルを生レタスの調味に使用した。レタスを水道水で洗い、水を切った後で、約20mm四方にカットする。このレタス片にレタスの1.0重量部の各サンプルをふりかけて味覚評価した。評価は、実験例1と同様に5段階の評点法で実施した。
結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
比較例1の塩味は、評点の平均値が0.2で、低い評価だった。一方、実施例1と3では評価点が高く、実施例3では比較例1と有意差があった。
先味の評価では、比較例1は、塩味と同様に低い評価だった。実施例1と3では先味の評価点が高く、比較例1と有意差があった。焼成によって生成した塩基性塩化マグネシウムが、製剤を生レタスに使用した場合も塩味および先味を付与したと考えられた。
【0032】
(実験例5)
実験例1の実施例1、3及び比較例1のサンプルをポテトチップスの調味に使用した。ジャガイモの表面を洗い、厚さ約1mmにスライスし、さらによく水洗いする。加熱したサラダ油で泡が出なくなるまで揚げる。油を切り、熱いうちにポテトチップスの1.5重量部の各サンプルをふりかけて味覚評価した。
その結果、実施例1、3を使用したポテトチップスは比較例1に比べて塩味が強く、シャープな先味が感じられた。ジャガイモの旨味も活かされ、嗜好性に優れるものとなった。
【0033】
(実験例6)
実験例1の実施例1と同じ原料組成で、低温焼成で処理した実施例11を作成した。ここで低温焼成とは、サンプル100gを蒸発皿に広げ、250℃に予備加熱した卓上型マッフル炉に設置し、温度一定で15時間加熱する処理である。
実施例1、11及び比較例1のサンプルを卵焼きの調味に使用した。鶏卵の殻を割り、よく混ぜてほぐす。これに0.5重量部の各サンプルと5重量部の砂糖を加えて完全に溶かす。卵焼き器にサラダ油を薄くひき、中火にして半量を流し入れる。半熟になったら一方に寄せ、あいたところに残りを流し込んで焼き、巻いたもので味覚評価した。評価は、実験例1と同様に5段階の評点法で実施した。
結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
その結果、にがりを添加後に低温焼成した実施例11では0.1%相当の塩基性塩化マグネシウムが含有されていた。ここでは焼成温度条件の調整によって、塩基性塩化マグネシウムの生成量を制御した。
比較例1を使用した卵焼きの塩味は、評点の平均値が−0.4と0を下回る低い評価だった。一方、実施例1、11を使用した卵焼きは比較例1に比べて塩味がよく感じられ、比較例1と有意差があった。また比較例1の先味は、塩味と同様に低い評価の一方、実施例1、11では先味の評価点が高かった。この結果、焼成によって生成した塩基性塩化マグネシウムが、塩味と先味を卵焼きに付与したと考えられた。卵焼きの総合評価としても、卵の風味がよい、嗜好性に優れるものと評価された。
【0036】
塩化ナトリウムと塩化カリウムを組み合わせることで塩化ナトリウム単品よりも塩味がなくなり、苦みなどの異味が発生する問題にたいして、本発明によれば、強い塩味が付与され、製剤が有する苦みやえぐみの異味を効果的に抑制し、旨味や甘味が増した製剤が提供される。本発明の塩味付与製剤は様々な食品に適用可能であり、その産業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性塩化マグネシウムを有効成分として含有する、塩化ナトリウムと塩化カリウムを混合した塩味付与製剤。
【請求項2】
塩基性塩化マグネシウムの含有量は、塩基性塩化マグネシウムの乾燥重量に換算して、塩味付与製剤100重量部に対して0.1〜2.0重量部であることを特徴とする請求項1記載の塩味付与製剤。
【請求項3】
塩基性塩化マグネシウムが、塩化マグネシウム又は塩化マグネシウムを含むにがりを焼成したものであることを特徴とする請求項1又は2記載の塩味付与製剤。
【請求項4】
塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合割合は、乾燥重量に換算して57:43〜9:91であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塩味付与製剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の塩味付与製剤又はその溶液を、食品に添加するか又は食品の表面に付着させて塩味を付与することを特徴とする塩味の付与方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の塩味付与製剤又はその溶液を、食品に添加するか又は食品の表面に付着させて塩味を付与した塩味付き食品。


【公開番号】特開2012−90538(P2012−90538A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238775(P2010−238775)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(592015802)赤穂化成株式会社 (29)
【Fターム(参考)】