説明

塩素系揮発性有機化合物の浄化方法

【課題】HClの発生及び触媒の被毒を良好に抑制して、塩素系揮発性有機化合物をほぼ完全に除去する塩素系揮発性有機化合物の浄化方法を提供する。
【解決手段】塩素系揮発性有機化合物を含有する気体に、酸素の存在下、350℃未満に加熱された半導体を熱励起状態として接触させることによって前記有機化合物を酸化分解除去することを特徴とする塩素系揮発性有機化合物の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロメタン(DCM)やトリクロロエチレン(TCE)等の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compound)の排出が、光化学オキシダント、シックハウス症候群、及び、光化学スモッグ等の深刻な環境問題を引き起こしている。揮発性有機化合物の中でも、ジクロロメタン(DCM)やトリクロロエチレン(TCE)等の塩素系揮発性有機化合物が様々な分野で広く用いられている(非特許文献1)。特に、DCMは、有機化合物の抽出溶媒や、種々の酢酸セルロースの溶媒として用いられており、TCEは、ゴム、脂肪、樹脂の非引火性の良好な溶媒や、先端技術半導体分野での脱脂剤として用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】N.Bunce:Environmental Chemistry, (Wuerz Publishing Ltd., Winnipeg, 1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの化合物は、非常に毒性が高く、健康にとっても有害である。例えば、触媒燃焼は基本的に塩素系揮発性有機化合物を除去し得るが、塩化水素(HCl)やダイオキシン等を発生させる。また、HClは容易に金属触媒を劣化させる。従って、HCl等を発生させない完全な塩素系揮発性有機化合物の除去が可能な新しい技術が待ち望まれている。同様のことはクロロフルオロカーボンにも当てはまり、この場合はHF及び/又はHClが触媒を劣化させる。
【0005】
そこで、本発明は、HClの発生及び触媒の被毒を良好に抑制して、塩素系揮発性有機化合物をほぼ完全に除去する塩素系揮発性有機化合物の浄化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、既に半導体を用いた揮発性有機化合物の浄化方法を研究開発している(国際公開:WO2010/061854A1)。当該技術は、半導体の熱活性を利用して、揮発性有機化合物をほぼ完全に分解して除去するものである。この技術において、500℃で塩素系揮発性有機化合物の分解実験を行ったところ、HClが発生し、半導体触媒が被毒することがわかった。そこで、分解反応の素過程を詳細に検討すると、350℃の臨界温度でHClが発生することを突き止め、この温度未満で動作させることで、HClの発生を抑制し、触媒被毒を避けて、分解反応を持続的に行うことができることを見出した。
【0007】
以上の知見を基礎として完成した本発明は、塩素系揮発性有機化合物を含有する気体に、酸素の存在下、350℃未満に加熱された半導体を熱励起状態として接触させることによって前記有機化合物を酸化分解除去することを特徴とする塩素系揮発性有機化合物の浄化方法である。
【0008】
本発明に係る塩素系揮発性有機化合物の浄化方法は一実施形態において、前記塩素系揮発性有機化合物がジクロロメタン(DCM)又はトリクロロエチレン(TCE)である。
【0009】
本発明に係る塩素系揮発性有機化合物の浄化方法は別の一実施形態において、半導体の高温状態で生成する熱平衡キャリアーのうち、正孔酸化力を利用する。
【0010】
本発明に係る塩素系揮発性有機化合物の浄化方法は別の一実施形態において、前記半導体が高温状態及び酸素雰囲気下でも安定に存在する半導体である。
【0011】
本発明に係る塩素系揮発性有機化合物の浄化方法は更に別の一実施形態において、前記半導体が酸化物半導体である。
【0012】
本発明に係る塩素系揮発性有機化合物の浄化方法は更に別の一実施形態において、前記酸化物半導体がCr23、NiO、TiO2、又は、Fe23である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、HClの発生及び触媒の被毒を良好に抑制して、塩素系揮発性有機化合物をほぼ完全に除去する塩素系揮発性有機化合物の浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ポリカーボネート(PC)の分解メカニズムの概略説明図である。
【図2】実施例に係る試験用に設計した質量分析計を有するオートクレーブの模式図である。
【図3A】(a)は実施例に係るファンクションセパレートユニットの模式図である。
【図3B】(b)は実施例に係る触媒システムの模式図である。
【図4】(a)は実施例に係る熱交換器を備えたVOC除去システム全体の模式図である。(b)はその外観写真である。
【図5】(a)〜(d)は実施例に係る各触媒粉末を用いたサンプルのHCl暴露前後の色調変化の外観写真である。
【図6A】(a)は実施例に係る各触媒粉末を用いたサンプルのHCl暴露前後のラマンスペクトルの変化を示すグラフである。
【図6B】(b)は実施例に係る各触媒粉末を用いたサンプルのHCl暴露前後のラマンスペクトルの変化を示すグラフである。
【図6C】(c)は実施例に係る各触媒粉末を用いたサンプルのHCl暴露前後のラマンスペクトルの変化を示すグラフである。
【図6D】(d)は実施例に係る各触媒粉末を用いたサンプルのHCl暴露前後のラマンスペクトルの変化を示すグラフである。
【図7】実施例に係るDCMの分解特性を示すグラフである。
【図8】実施例に係るTCEの分解特性を示すグラフである。
【図9】実施例に係る300℃及び500℃の動作温度におけるDCMの分解特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法)
本発明は、塩素系揮発性有機化合物を含有する気体に、酸素の存在下、350℃未満に加熱された半導体を熱励起状態として接触させることによって前記有機化合物を酸化分解除去することを特徴とする塩素系揮発性有機化合物の浄化方法に係る。
【0016】
本発明の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法は、350℃未満に加熱された半導体の熱活性を利用した塩素系揮発性有機化合物の酸化分解による除去で達成される。まず、この酸化分解のメカニズムについて、以下に例を挙げて説明する。
【0017】
(本発明の浄化方法における塩素系揮発性有機化合物の酸化分解メカニズム)
半導体を熱的に励起すると、指数関数的に電子と正孔とが生成する。この正孔を塩素系揮発性有機化合物の酸化分解に応用する。例として、図1に塩素系揮発性有機化合物(CVOC)に代えて、ポリカーボネート(PC)の分解メカニズムの概略説明図を示す。図1に示すポリカーボネートの分解は、半導体として酸化チタン粉末を用い、これを粒状のポリカーボネートに加えて加熱攪拌することで行っている。ポリカーボネートは約200℃で融解し、固体の酸化チタンと“固体/液体”界面を形成する。界面における様子を図1の挿絵で見ると、まず正孔からポリカーボネートから結合電子を奪い、ポリカーボネート内にカチオンラジカルを生成する。所定の温度でラジカルはポリカーボネート内を伝播し、ラジカル開裂を誘起して、ポリカーボネートはフラグメント化される。この過程におけるラジカルの増殖ならびにポリカーボネートの分子量の低下はESR測定ならびに熱重量分析で実証されている。そして、フラグメント化された分子は酸素下で完全燃焼して水と炭酸ガスとなる。熱エネルギーの役割は単に正孔の大量生成ばかりでなく、ラジカルの伝播と開裂を誘起し、最終的には裁断化された分子を酸素下で完全燃焼させることである。さらに、分解反応が継続的に起こるためには、価電子帯では正孔による酸化反応、また伝導帯では電子による還元反応(O2+e-→O2-)が起こることが必要である。
【0018】
上記ポリカーボネートの分解メカニズムのフローについて整理すると、まず、第1段階では、ポリカーボネート鎖が分子中の極性の高いカルボニル基と酸化チタンの酸素欠陥サイトとの静電的な相互作用により酸化チタン表面に吸着する。次に、第2段階では、ポリカーボネートが熱励起により生成した正孔により酸化されてポリカーボネートの低分子化が起こる。次に、第3段階では、低分子化したポリカーボネートが酸素下で完全に燃焼し、炭酸ガスと水とに分解される。
【0019】
酸化チタン表面の電子の授受について言えば、熱励起された電子は、酸素を還元し、これが酸化チタンの表面に吸着して上向きのバンドベンディング(バンドの湾曲)を誘起する。このバンドベンディングにより、熱励起された正孔は表面に集積し、PCを酸化する。電子による酸化還元のエネルギー準位は酸化チタンの伝導帯の底よりも約0.13eV上方に位置しているから、この反応は活性化過程である。しかしこの反応は350℃の状態では十分に達成されていると考えられる。これに対して正孔の表面への移動はバリヤフリー過程である。このように、酸化チタン表面の酸化サイト(伝導帯)と還元サイト(価電子帯)で反応が起こり、PCが分解するものと考えられる
【0020】
酸化チタンを熱励起し、バンド間遷移により電子と正孔とを生成するシステムでは酸化チタンのバンドギャップが3.2eVと大きいため、バンド間遷移が立ち上がる温度が高く、その結果350〜500℃を必要とする。しかしながら、酸化チタンに限らず、高温、酸素雰囲気で安定であれば、どのような半導体でも使用できるので、バンドギャップの小さな半導体であれば基本的に動作温度が低いこととなる。このため、適した加熱温度はより幅が大きく、100℃以上であってもよい。
【0021】
塩素系揮発性有機化合物の分解実験では、350℃の臨界温度でHClが発生した。これに対し、本発明は、350℃未満に加熱された半導体の熱活性を利用した塩素系揮発性有機化合物の酸化分解による除去を行っており、これによりHClの発生を抑制し、触媒被毒を避けて、分解反応を持続的に行うことができる。
【0022】
(本発明の塩素系揮発性有機化合物を含有する気体の種類)
本発明で分解される塩素系揮発性有機化合物としては、例えば、ジクロロメタン(DCM)やトリクロロエチレン(TCE)等が挙げられる。また、これらを含有する気体としては、塩素系揮発性有機化合物のみからなる気体であっても、塩素系揮発性有機化合物と空気とで構成されてもよいが、塩素系揮発性有機化合物の除去効率の観点から、塩素系揮発性有機化合物と酸素とで構成されているものが好ましい。
【0023】
(半導体の種類)
半導体として酸化チタンをもって説明したが、使用できる半導体は、高温状態で酸素雰囲気下にあっても安定な物質であり、例えば、次の化学式で示される物質等が挙げられる。ただし、各半導体のバンドギャップが異なるため有機化合物の分解温度はそれに伴い変化する。
BeO,MgO,CaO,SrO,BaO,CeO2,ThO2,UO3,U38,TiO2,ZrO2,V25,Y23,Y22S,Nb25,Ta25,MoO3,WO3,MnO2,Fe23,MgFe24,NiFe24,ZnFe24,ZnCo24,ZnO,CdO,Al23,MgAl24,ZnAl24,Tl23,In23,SiO2,SnO2,PbO2,UO2,Cr23,MgCr24,FeCrO4,CoCrO4,ZnCr24,WO2,MnO,Mn34,Mn23,FeO,NiO,CoO,Co34,PdO,CuO,Cu2O,Ag2O,CoAl24,NiAl24,Tl2O,GeO,PbO,TiO,Ti23,VO,MoO2,IrO2,RuO2,CdS、CdSe,CdTe。
【0024】
なかでも、酸化物半導体が好ましく、特に酸化チタンや酸化亜鉛は活性が高く、無害であるため安全性が優れるので、好ましく、特に、酸化チタンの結晶形がアナターゼ型のものは活性が高いが、ルチル型のものでも良い。また、上記の半導体の中でも光伝導を示すものは活性が高い。上記半導体は、熱が加えられると活性化し、塩素系揮発性有機化合物を酸化分解する機能を有する。粒径は特に限定されないが、表面反応であるので比表面積が大きく、かつ、結晶性の高いものが好ましい。
【0025】
また、場合によっては、酸化チタンに前処理を施すのが良く、好ましくは、ポリカーボネートをトルエンに溶解し、酸化チタンを加えて攪拌し、酸化チタン表面にトルエン溶媒にてポリカーボネートを付着しておくのが良い。前処理としての良溶媒としては、トルエンが好ましいが、アセトンやクロロナフタレン等が挙げられる。
【0026】
酸化チタンにポリマーを被覆する際のポリマー調製液の最適な濃度はポリマーにより異なり、特に限定されないが、一般的には0.1〜30%程度の濃度が好適で、ポリマーにポリカーボネートを使用する場合には特に3〜5%が好適である。
【実施例】
【0027】
次に、本発明に係る実施例を以下に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(半導体、コージライトハニカム及び塩素系揮発性有機化合物の準備)
半導体粉末として、Cr23〔純度99%、被表面積3m2/g:和光純薬工業社製〕、TiO2〔ST−01:TiO2(被表面積298m2/g、アナターゼ型):石原産業社製〕、NiO〔純度99%、被表面積1m2/g:和光純薬工業社製〕、α−Fe23〔被表面積4.1m2/g:戸田工業社製〕を準備した。また、コージライトハニカム〔2MgO・2Agl23・5SiO2、100cpsi(cells per aquare inch):京セラ社製〕を準備した。また、塩素系揮発性有機化合物として、DCM(bp:40.2℃)及びTCE(bp:86.6℃)〔いずれも和光純薬工業社製〕を準備した。
【0029】
(コージライトハニカムへの半導体の担持)
コージライトハニカムへの半導体の担持として、浸漬法を用いた。懸濁液は、ケトン化合物の溶媒、分散又は活性剤としての少量のニトロセルロース、及び、金属酸化物の粉末基質で構成した。具体的なコージライトハニカムへの半導体の担持の手順は以下の通りとした。まず、30gの粉末触媒を200℃で1時間乾燥して水分を除去した。次に、粉末を3.0gのニトロセルロースを含むアセトン溶液600mlに懸濁した。次に、懸濁液をジルコニアボール(直径0.6mm)存在下、シングルアームペイントシェイカー(5410型:Red Devil Equipment社製)で30分間攪拌して調整した。
ハニカムを、200℃で24時間乾燥した。次に、ハニカムを10秒間懸濁液に浸漬した。次に、コーティングしたハニカムを200℃で30分間オーブンで乾燥した。この工程の間、ニトロセルロースは約180℃で熱的に分解した。
【0030】
(腐食試験)
HClに対する酸化物触媒の腐食試験を行った。半導体を担持したコージライトハニカム(サンプル)をHCl蒸気に室温で24時間暴露した。次に、暴露の前後におけるサンプルのラマンスペクトル及び色調変化を評価した。
【0031】
(装置及び試験条件)
当該試験用に設計した質量分析計を有するオートクレーブを準備した。その模式図を図2に示す。これは、触媒粒子とVOCガスとの衝突頻度を最大にする流動床システムである。反応容器の容積は300mlであり、これに40gの粉末サンプルを設けた。攪拌器は150rpmで回転させた。DCM又はTCEには空気を吹き込んで泡立てた。DCMの濃度は空気に対して20体積%であり、TCEの濃度は空気に対して3体積%であった。ガスの流速は、100ml/分に制御した。反応温度は100〜500℃の範囲で変化させた。分解ガスを種々の温度で採取し、四極子質量分析計〔RG−102型:ULVAC社製〕で分析した。
流動床システムは、VOC分解プロセスの詳細な調査が可能である一方、HClに起因する触媒の劣化の評価には必ずしも適しているとは限らない。このため、本発明のハニカムを用いたVOC除去システムと熱交換器を用いて、DCM又はTCEの分解特性について評価した。VOC除去システムは、「ファンクションセパレートユニット」と呼ばれる触媒を積層したアセンブリであり、発熱素子及び触媒担持ハニカムを有するステンレススチールのボックス状に形成されている(図3(a))。このボックスは、Ni−Crワイヤ(直径0.5mm:500W)による加熱チャンバー、及び、Cr23でコーティングしたハニカム(100×100mm2、厚さ30mm)で構成されている。触媒ユニットの橋桁に取り付けた立方体の絶縁体に螺旋のNi−Crワイヤを巻きつけた。一方、一体のCr23でコーティングしたハニカムを直接発熱素子上に取り付けた。これは、ユニットAで示された標準的な触媒である。ユニットA以外に、Cr23でコーティングしたハニカム2体のみで構成されたユニットB、及び、発熱素子2体のみで構成されたユニットCという、2つの別の構成要素がある。これらを積層して、図3(b)に示す触媒システムを構成する。図3(b)は、VOC分解測定装置も示している。ガスは、底からユニットCであらかじめ加熱されて導かれ、約100〜500℃で加熱されたハニカムユニットを通って分解される。しかしながら、これは、ワンパスシステムであり、排気口における排気ガス温度が高く、エネルギー的に不十分である。このため、熱回収交換器が外気へ排気する前段に設けられている。これにより、非常に熱効率が良好となる。図4(a)は熱交換器を備えたVOC除去システム全体の模式図であり、図4(b)はその外観写真である。VOCガスは熱交換器から入り、加熱されて反応容器へ移る。
この試験において、HClのCr23でコーティングしたハニカムを劣化させる効果を視認できるように、意図的に非常に高い濃度のDCM又はTCEを高流速で用いた。そのため、3000vol ppmのDCM又はTCEを2m3/分の流速で反応容器へ導入した。排気ガスをハイドロカーボンメーター〔TVA−1000B型:Thermo Fischer Scientific社製〕で分析した。
UMSP80 マイクロスコープスペクトロフォトメーター(Carl Zeiss社製)によって、Cr23でコーティングしたハニカムのリフレクションスペクトルを測定した。同様に、NRS−3100 レーザーラマンマイクロスコープスペクトロフォトメーター(JASCO社製)でラマンスペクトルを測定した。
【0032】
(評価結果)
1.腐食試験
図5及び6に、サンプルのHCl暴露前後の色調変化及びラマンスペクトルを示す。図5(a)及び図6(a)のハニカムでは、色調及びラマンスペクトルの変化がいずれも見られなかった。Cr23の顕著なラマンピークは550cm-1に出現し、小さなピークが310、350及び615cm-1に出現し、暴露後でも変化していなかった。他方、TiO2、NiO、及び、α−Fe23に係るサンプルについては、ラマンスペクトルの大きな変化が見られた。色調については、TiO2に係るサンプルは純白からわずかに黄色がかった(図5(b))。これは、ラマンスペクトル(図6(b))で示されたルチル型からアナターゼ型への変化に対応している。NiOに係るサンプルは、HClによってかなり腐食された。α−Fe23に係るサンプルは、さらに腐食の程度が大きく、完全にHClへ溶け出してしまい、ハニカム上に残らなかった。
以上により、Cr23に係るサンプルが最も良好な結果を示すことから、触媒としては、Cr23がHClに対する耐腐食性において最も優れていることがわかる。
【0033】
2.オートクレーブ内の粉末Cr23によるDCMの分解特性
図7は、空気中のDCMの分解特性を示している。O2、CO2及びHClの量は、空気中のN2の量に関連して決定されており、パーセントで示されている。DCMは約100℃で分解し始め、その後急速に分解が進み、450℃で分解が終了する。300〜450℃の範囲でO2の量は顕著に減少し、CO2の量は顕著に増加する。ここで、HClが350℃未満では発生せず、350℃以上で急に発生していることに注目すべきである。100〜340℃は、HClを発生しないDCMの分解のためには非常に重要な温度範囲である。
【0034】
3.オートクレーブ内の粉末Cr23によるTCEの分解特性
図8は、TCEの分解特性を示している。TCEの分解は約200℃で始まり、その後急速に分解が進み、約350℃で分解が終了する。O2はCO2がTCEの分解で増加する間、消費される。ここでも、DCMの場合と同様に、HClが350℃未満では発生せず、350℃以上で急に発生している。
【0035】
4.熱交換器を有するCr23でコーティングしたハニカムシステムによるDCM又はTCEの300℃及び500℃における分解試験
図9は、300℃及び500℃の動作温度におけるDCMの分解特性を示している。排気ガスはハイドロカーボンメーターで測定した。動作温度500℃では、DCMがシステムに導入されるとすぐ、分解効率が急に低下した。これは、ラマンスペクトルから明らかなように、350℃以上で生じるHClがハニカムに担持したCr23を攻撃することに起因する。これに対し、動作温度300℃では、200時間後にDCMが完全に分解した。これはDCMの分解においては非常に重要な結果である。ほぼ同様の結果がTCEに関しても得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素系揮発性有機化合物を含有する気体に、酸素の存在下、350℃未満に加熱された半導体を熱励起状態として接触させることによって前記有機化合物を酸化分解除去することを特徴とする塩素系揮発性有機化合物の浄化方法。
【請求項2】
前記塩素系揮発性有機化合物がジクロロメタン(DCM)又はトリクロロエチレン(TCE)である請求項1に記載の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法。
【請求項3】
半導体の高温状態で生成する熱平衡キャリアーのうち、正孔酸化力を利用した請求項1又は2に記載の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法。
【請求項4】
前記半導体が高温状態及び酸素雰囲気下でも安定に存在する半導体である請求項1〜3のいずれかに記載の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法。
【請求項5】
前記半導体が酸化物半導体である請求項1〜4のいずれかに記載の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法。
【請求項6】
前記酸化物半導体がCr23、NiO、TiO2、又は、Fe23である請求項5に記載の塩素系揮発性有機化合物の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−210247(P2012−210247A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76576(P2011−76576)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】