説明

増設梁及び床パネルの補強方法

【課題】既存の建物に必要最小限の手を加えることで床版を補強することができる増設梁と、この増設梁を利用した増設複合梁、補強構造、補強方法を提供する。
【解決手段】増設梁Aは、略同一軸に沿って互いに重なり部分をもって結合可能に構成された複数の梁構成部材1、2からなり、長手方向の両端に配置される梁構成部材1、2には夫々既存梁3に係止されるための係止部4が設けられ、梁構成部材1、2には他の梁構成部材1、2と結合するためのボルト穴5が設けられる。既存梁3に増設梁Aを2本平行に配置して横座屈防止部材7によって連結する。既存梁3に架け渡されたALCパネルの支持面の一部に欠き込み部6bを形成し、各欠き込み部6bに増設梁Aの係止部4を挿入して既存梁3に係止する。床パネル6に開口部21を形成して増設梁Aを床下空間24に挿入し、係止部4を既存梁3に係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の建物に於ける対峙した既存梁に架け渡すことで床版を補強し得るようにした増設梁と、この増設梁を利用したALC(軽量気泡コンクリート)床パネルの補強構造と、この増設梁を利用したALC床パネルの補強方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
利用開始から長期間が経過した既存の建物では、建物や空間に対する要求が新築時の内容から変化してゆくのが一般的であり建物は、用途や求められる構造性能が、その耐用期間中に変化してゆくことがあり、また性能の維持や向上の為に点検や保守を行うことも必要となる。例えば、収納量を増やす為に床下収納を増設したり、新築当時は想定していなかった重量物を床面に載置したりすることや、床下空間を利用して建物の点検や補修を行う為に床に点検口を増設することなどが必要となることがある。
【0003】
既存の建物に於いて、積載荷重を増加させたり、床に開口部を増設したりすることは、設計荷重に対し相対的に床版の強度,剛性を低下させることとなり、床版の補強や剛性の向上をはかることが必要となる。
【0004】
床版が鉄筋やラス網で補強されたALC床パネルからなる鉄骨造建物では、床下に水廻り設備の配管や電気配線等が配設されるなどして将来点検や補修が必要となる可能性が高い部位において、予め床に点検用の開口部を設ける為に、ALC床パネルの補強用のフレーム材を架設した上で、開口部が形成されるようにALC床パネルを敷設することが行われている(例えば特許文献1参照)。この場合、新築時に予め開口部を構成するとともに開口部まわりの分割されたALC床パネルがフレーム材にて支持される。
【0005】
また既設床版の強度,剛性の向上をはかるための技術として、例えば特許文献2に記載された技術がある。特許文献2には、梁や床スラブ等の既設水平部材の下部に補強梁を添設し、両端を柱等の既設垂直部材間に固定すると共に補強梁と既設水平部材との間に反力部材を介在させて該反力部材によって既設水平部材を押し上げるように構成した補強構造が記載されている。この補強構造では、反力部材によって既設水平部材を押し上げることで、該既設水平部材の負担する応力を低減することができる。
【0006】
また特許文献3には、既設床の上面に繊維補強固化材を打設して新規表層を形成する既設床の改修工法が記載されている。この改修方法では、老朽化した床の強度,剛性の改善をはかることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−247332号公報
【特許文献2】特開2005−188243号公報
【特許文献3】特開2002−097797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に係る技術は建物を新築する際に適用して効果が生じるものの、予めこのような構造を採用していない既存の建物においては既に敷設されているALC床パネルを剥がした上でフレーム材を架設して開口部の形状に対応したALC床パネルを敷設する必要があり、簡易に床開口部の増設や補強を行い得るものではないという問題がある。
【0009】
また特許文献2に係る技術では、補強梁は既設垂直部材間のスパンと略等しい長さを有し、アンカーボルトを利用して既設垂直部材の側面に固定されるように構成されている。従って補強が必要な梁や床スラブの下方にそのスパンに等しい障害物のない空間を確保する必要があり、補強部位における天井材をスパン全長にわたって撤去しなければならないという問題があり、さらに長大な補強梁を搬入する為の搬入路を確保しなければならないという問題もある。
【0010】
また特許文献3に係る技術では、既設床の上面に全面にわたって繊維補強固化材を打設することが必要となる。この技術を既存の住宅に於ける床版の補強に利用する場合、床版の上部に載置されている床下地材や床仕上材をはじめとしたあらゆる部材を撤去して繊維補強固化材を打設することが必要となり、大掛かりな工事とならざるを得ないという問題がある。
【0011】
上記したように、各特許文献1〜3に記載された技術を既存の建物に於ける床版の強度,剛性の向上に利用するには多くの問題がある。特に建物の用途が住宅である場合、室内には間仕切壁、内部造作材、設備配管や配線などの障害物が多いため、床面の開口部の増設工事や床版の補強工事は極めて大掛かりなものとなる。その為居住者が生活を続けながら工事を行うことが困難で、工事中は居住者の為の仮住まいの確保が必要となる。
【0012】
本発明の目的は、既存の建物に必要最小限の手を加えることで床版を補強することができる増設梁と、この増設梁を利用した増設複合梁、補強構造、補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る増設梁は、既存の建物に於ける対峙した既存梁に架設する増設梁であって、略同一軸に沿って互いに重なり部分をもって結合可能に構成された複数の梁構成部材からなり、増設梁に於ける長手方向の両端に配置される梁構成部材には夫々既存梁に対向する端部に該既存梁に係止されるための係止部が設けられると共に、複数の梁構成部材には夫々隣接する他の梁構成部材と結合するための結合手段が設けられているものである。
【0014】
上記増設梁に於いて、複数の梁構成部材は、既存梁に架設された床版の下面と接触するフランジと、他の梁構成部材と少なくとも長手方向に2点で結合し得るように結合手段としてのボルト穴を設けたウエブと、を有することが好ましい。
【0015】
また本発明に係る増設複合梁は、既存の建物に於ける対峙した既存梁に請求項1又は2に記載した2本の増設梁が互いに平行になるように架設し、該2本の増設梁を横座屈防止部材によって連結したものである。
【0016】
また本発明に係るALC床パネルの補強構造は、既存の建物に於ける対峙した既存梁に敷設されたALC床パネルの支持面の一部に欠き込み部を形成し、上記増設梁を構成する複数の梁構成部材の係止部を前記各欠き込み部分に挿入して該係止部を既存梁に係止し且つ複数の梁構成部材を互いに結合し全ての梁構成部材を一体化すると共に、前記増設梁にて前記ALC床パネルの下面を支持したものである。
【0017】
また上記ALC床パネルの補強構造に於いて、上記増設梁を2本平行に配置すると共に、該2本の増設梁を横座屈防止部材によって連結することが好ましい。
【0018】
また本発明に係るALC床パネルの補強方法は、両端部が既存の建物に於ける対峙した既存梁に敷設された後、開口部が設けられたALC床パネルの補強方法であって、ALC床パネルの辺と平行に矩形に切り欠いて形成された床開口部を通して上記増設梁を非結合状態で床下空間に挿入すると共に該床開口部の端縁のうちALC床パネルのスパン方向に平行な2つの端縁の延長線上のALC床パネルの支持面に欠き込み部を形成し、前記増設梁を構成する複数の梁構成部材の係止部を前記欠き込み部分に挿入して既存梁に係止すると共に複数の梁構成部材を互いに結合して一体化して前記床開口部の2つの端縁を支持し、更に前記床開口部の端縁のうちALC床パネルのスパン方向に直交する2つの床開口部端縁に沿って横座屈防止部材を配置して前記2本の増設梁を連結すると共に前記床開口部の他の2つの端縁を支持したことを特徴とするものである。
【0019】
また本発明に係る他のALC床パネルの補強方法は、両端部が既存の建物に於ける対峙した既存梁に敷設されたALC床パネルによって構成された床を備え、該ALC床パネルの下方に天井裏空間が形成された建物に於ける前記ALC床パネルの補強方法であって、補強すべき位置に対応した天井面を切り欠いて開口部を形成し、前記開口部を通して上記増設梁を非結合状態で天井裏空間に挿入すると共に前記ALC床パネルの支持面に欠き込み部を形成し、前記増設梁を構成する複数の梁構成部材の係止部を既存梁に係止すると共に複数の梁構成部材を互いに結合し一体化してパネルの前記ALC床パネルの下面を支持したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の増設梁は、略同一軸に沿って互いに重なり部分をもって結合可能に構成された複数の梁構成部材からなり、長手方向の両端に位置する梁構成部材には既存梁に係止される係止部が設けられ、且つ他の梁構成部材と結合するための結合手段が設けられている。このため、増設梁は梁構成部材の重なり代を調整することによって様々な間隔の既存梁に対応することができる。そして、両端を既存梁に係止すると共に係止した状態で隣接した梁構成部材どうしを結合し一体化することで、増設梁に対して床版の補強梁として必要な強度,剛性を持たせることができる。
【0021】
従って、床下空間に梁を搬入する為の搬入路が充分に確保しにくい既存の建物であっても、結合されていない梁構成部材を搬入することができる程度の開口を形成することによって、該開口を通して床下空間に増設梁を搬入し、設置すべき位置に配置し、既存梁に係止して床版を補強することができる。
【0022】
上記増設梁に於いて、梁構成部材を、床又は天井を構成する部材の下面と接触するフランジと、他の梁構成部材と少なくとも長手方向に2点で結合し得るように結合手段としてのボルト穴を設けたウエブと、によって構成しているので、フランジによって床又は天井の下面を支持するとともに梁構成部材の剛性を向上することができ、ウエブに形成されたボルト穴を利用して長手方向の2点以上で梁構成部材を結合して結合部の剛性を確保することができる。
【0023】
また本発明の増設複合梁は、既存梁に2本の増設梁を平行に配置し、これらの増設梁を横座屈防止部材によって連結することによって、増設梁の横座屈を防止して許容曲げ応力を大きくすることができるので、同一条件のもとで梁背をより小さくすることができ、狭小な床下空間での施工が容易になる。
【0024】
また本発明のALC床パネルの補強構造では、既存梁に架設されたALC床パネルの支持された面の一部に欠き込み部を形成し、この欠き込み部に増設梁の係止部を挿入することで該増設梁を既存梁に係止し、更に、梁構成部材を互いに結合し一体化することで、ALC床パネルの下面を支持して補強することができる。特に、ALC床パネルは加工が容易なため、鉄筋コンクリートや鉄骨で構成された既存梁を傷めることなくALC床パネルのみを容易に欠き込むことができ、簡単な作業で補強を実現することができる。
【0025】
また上記ALC床パネルの補強構造に於いて、2本の増設梁を既存梁に係止すると共に、これらの増設梁を横座屈防止部材によって連結することで、増設梁の横座屈を防止してALC床パネルを補強することができる。
【0026】
また本発明のALC床パネルの補強方法である開口部の設けられたALC床パネルの補強方法では、ALC床パネルを切り欠いて形成した開口部を通して非結合状態の増設梁を床下に挿入すると共に、ALC床パネルの支持面を欠き込んで梁構成部材の係止部を挿入して既存梁に係止し、梁構成部材どうしを結合して一体化した増設梁を2本配置し、さらに増設梁どうしを連結する横座屈防止部材を2本配置して、これらの増設梁及び横座屈防止部材にてALC床パネルを支持することで、既存の床パネルを撤去することなく開口部の設けられたALC床パネルを補強することができる。
【0027】
また本発明の他のALC床パネルの補強方法である下方に天井裏空間を有するALC床パネルの補強方法では、天井部材を切り欠いて形成した開口部を通して非結合状態の梁構成部材を床下に挿入すると共に、パネルの既存梁に対する載置部分を欠き込んで梁構成部材の係止部を挿入して既存梁に係止し、天井裏空間内で増設梁の梁構成部材どうしを結合し一体化して増設梁を構成することで必要最小限の大きさの天井材の加工でALC床パネルを補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の増設梁、増設複合梁、ALC床パネルの補強構造、及びALC床パネルの補強方法を実施するための最良の形態について説明する。
【0029】
本発明の増設梁は、既存の建物に於いて対峙して配置された既存梁に係止されると共に一体化することで強度を剛性を発揮し得るように構成されている。そして、既存の建物の床に床下点検口等の開口部を構成したり、床に対する積載荷重を増加させるような改造を行う場合、簡単な工事で、改造に伴って相対的に強度、剛性が低下する床を補強するものである。特に、床或いは天井に比較的小さい寸法の開口部を形成して増設梁を床下に挿入し得るようにすることで、床版を取り外すことなく、目的の床を補強する工事を行えるようにしたものである。
【0030】
本発明に於いて、床版の構造や材質は特に限定するものではなく、木材を利用して構成したもの、コンクリートスラブによって構成したもの、ALCパネルやPC(プレキャストコンクリート)パネルを敷き込んで構成したもの、等の何れの構造であっても対応することが可能である。
【0031】
本発明の増設梁は、同一の軸に沿って互いに重なりをもって結合可能に構成された複数の梁構成部材によって構成されており、長手方向の両端に配置される梁構成部材の既存梁に対向する端部には該既存梁に係止される係止部が設けられ、更に、夫々の梁構成部材には隣接する他の梁構成部材と結合するための結合手段が設けられている。
【0032】
梁構成部材を構成する材料は限定するものではなく、木材や金属材を利用することが可能である。しかし、軽量で且つ小さい断面積で効果的に床の補強を行うためには、金属材、特に、鋼材であることが好ましい。このような鋼材としては、重量形鋼や軽量形鋼等の鋼材があるが、特に鋼板を折曲成形した鋼材が好ましい。
【0033】
複数の梁構成部材は略同一軸に沿って互いに重なり部分をもって結合し得るように構成されている。複数の梁構成部材が結合する構造は特に限定するものではなく、例えば、各梁構成部材に軸に沿ってボルト穴を形成し、複数の梁構成部材をボルト穴を一致させて並列させると共にボルトを含む軸状部材を挿通して結合し得るようにしておくことで、軸状部材とボルト穴との協働によって複数の梁構成部材を同一軸に沿って結合することが可能である。尚、ボルト穴としては長穴を含む軸方向への結合位置の調整が可能な形状であることが好ましい。
【0034】
また各梁構成部材を断面を相似形として、寸法がスパンの中央に向かって順に小さくなるように構成したり、大きな寸法のものと小さな寸法のものを交互に配置して、寸法の大きい梁構成部材に寸法の小さい梁構成部材を嵌め込むようにすることで、複数の梁構成部材を略同一軸に沿って結合することが可能である。
【0035】
上記の場合、各梁構成部材の断面形状は、L字状の山型やコ字状の溝型のように、水平方向の一方が完全に開放され、重なり部分に於いて梁構成部材が水平方向及び開放方向に着脱可能なもの、即ち、水平方向の動きに制約を受けないものと、C字状のリップ溝型や四角形の鋼管のように重なり部分に於ける長手方向以外の方向への離脱が不可能なものと、が考えられる。
【0036】
前者の場合は、各梁構成部材を分離した状態で補強が必要な部位に搬入し、重なり部分どうしを横方向から近接させて結合することができる。また、バンド等で搬入時のばらつきの防止措置が取られていれば、各梁構成部材を予め所定の順序に嵌め込み、縮小した状態で補強が必要な部位に搬入し、縮小状態の梁構成部材を摺動して所定の長さに延伸した上で結合することができる。
【0037】
また後者の場合は、各梁構成部材を予め所定の順序に嵌め込み、縮小した状態で補強が必要な部位に搬入し、縮小状態の梁構成部材を摺動して所定の長さに延伸したうえで結合する、という方法のみを採用することができる。
【0038】
複数の梁構成部材を略同一軸に沿って摺動可能に構成した増設梁では、複数の梁構成部材の互いの重なり代を調整することで増設梁の全長を調整して既存梁のスパンに対応するように構成されている。また、増設梁を構成する梁構成部材の数を増減させることでも増設梁の全長を調整することが可能である。
【0039】
梁構成部材の長さや数は特に限定するものではなく、既存の建物に於ける対峙して配置された既存梁の間隔寸法や、床や天井に形成される開口部の寸法、床下空間或いは天井裏空間の高さ、等の寸法を考慮して設定することが好ましい。特に、既存の建物が工業化住宅である場合は、既存梁の間隔寸法や、床下空間の高さ,天井裏空間の高さがモジュール化あるいは規格化されている為、梁構成部材を規格化して少ない品種で多くのパターンに対応させることが可能である。
【0040】
増設梁を既存梁に係止するための係止部の構造は特に限定するものではなく、既存梁の形状や構造、及び床版の材質等の条件に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、既存梁がH形鋼である場合、係止部としてはH形鋼のフランジに引っ掛かるように係止される係止片を有する形状であることが好ましい。また既存梁が角形鋼管や木材である場合、係止部としては角形鋼管や木材の上面に引っ掛かるように係止される係止片を有する係止部であって良く、また角形鋼管や木材の側面にねじ止めされて係止される係止片を有する係止部であっても良い。
【0041】
特に、床版がALCパネルのように容易に加工し得るような材料によって構成されている場合、該床版の既存梁に載置されている部分に欠き込みを加工することは簡単であるため、係止片を挿入するための空間を容易に形成することが可能である。このため、床版が加工性の良い材料によって構成されたものである場合には、係止部は既存梁の上面に引っ掛かる係止片を有することが好ましい。
【0042】
増設梁を構成する梁構成部材を互いに結合し一体化するための結合手段は、構造を特に限定するものではなく、隣接する梁構成部材どうしを強固に一体化し力の伝達を円滑に行い得るものであれば良い。このような機能を発揮し得るものとしてボルト,ナットがあり、このボルト,ナットの組み合わせであれば、予め穿たれたボルト穴に挿通し締め込むだけで結合が可能で、既存建物の床下や天井裏などの狭小な空間においても作業がしやすく、過大な装置や火気も不要のため好ましい。
【0043】
増設梁を構成する梁構成部材としては、床版の下面と接触するフランジと結合手段としてのボルトを挿通するボルト穴を設けたウエブとを有し、隣接する梁支持構成部材どうしは、互いに断面形状が相似形で、一方の梁構成部材の外寸法を他方の梁構成部材の内寸法よりも僅かに小さく構成することが好ましい。このように構成することによって重なり部分での上下方向の遊びが小さくなって非結合状態であってもある程度安定するので作業中梁構成部材を保持し続ける必要がなく、ボルト穴の位置合わせも容易である為、結合作業が容易になる。
【0044】
隣接する梁構成部材どうしを結合する場合、少なくとも長手方向に所定の間隔を有する2本のボルトで結合することが好ましく、特に、長手方向に所定の間隔を有する2本のボルトを上下方向に2列配列した4本のボルトで結合することが好ましい。例えば1本のボルトを用いた場合では、一体化すべき2つの梁構成部材がこのボルトを支点として屈折してしまい、増設梁による床版支持を十分に行えなくなる虞がある。またボルトの数が多くなると作業が煩雑となって作業時間が延びてしまう虞がある。従って、2本〜4本のボルトによって隣接する梁構成部材を結合することで、増設梁による床版の補強を確実に行うことが可能であり、作業の煩雑さによる悪影響が生じることもない。
【0045】
上記の如くして隣接する梁構成部材どうしを結合して一体化した増設梁によって床版の下面を支持する場合、増設梁を構成する梁支持構成部材が床版の下面の全面にわたって接触することはなく、他の梁構成部材に内包される梁構成部材と床版との間には隙間が生じることとなる。この場合、平板状の或いはL字状のライナープレートを用意しておき、他の梁構成部材に内包される梁構成部材の上面に前記ライナープレートを配置することで、該ライナープレートを介して荷重の伝達が行い得るように構成することが好ましい。
【0046】
ウエブに設けるボルト穴の位置や数は予め設定しておくことが好ましい。増設梁の汎用性をはかるためには、予め対峙する既存梁の間隔寸法のパターンを想定し、想定した事例に対応し得るようにしておくことが好ましい。例えば、増設梁の両端部分を既存梁の上面に引っ掛けて係止されるものである場合、対峙する既存梁の間隔は該既存梁の内法寸法となるので、建物に設定されたモジュール寸法に対応した既存梁の芯−芯の間隔のパターンと、既存梁の幅のパターンとの組み合わせによって生じる増設梁の長さのパターンに対応し得るようにボルト穴の位置や数を設定しておくことが好ましい。
【0047】
増設梁を対峙する既存梁に架設して床版を支持したとき、該増設梁には曲げ応力が作用するため、増設梁には横座屈が発生して変形する虞がある。このため、本発明の増設複合梁では、既存梁に2本の増設梁が互いに平行になるように架設し、この2本の増設梁を横座屈防止部材によって連結することで、横座屈の発生を防止している。
【0048】
横座屈防止部材の形状や寸法は特に限定するものではなく、2本の増設梁を連結してこれらの増設梁に作用する横座屈に対抗し得るような形状や寸法に設定されることが好ましい。例えば、予め2本の増設梁の設置間隔を一定の寸法とすることで、一定の長さを持った鋼材の両端に増設梁のウエブに取り付けられる取付片を溶接或いは鋼材の両端を折り曲げて構成しておくことで横座屈防止部材を構成することが可能である。
【0049】
また、横座屈防止部材は、現場作業により設置位置にばらつきが生じやすい2本の増設梁の位置を矯正するという機能をも有している。例えば、一方の増設梁を所定の位置に正確に設置し、横座屈防止部材で他方の増設梁と連結することによって他方の増設梁を自動的に所定の位置に配置することができる。
【0050】
なお、2本の増設梁の位置を厳密に設定する必要がない場合には、横座屈防止部材を複数の部材に分割し、それらの重なり部分に長穴形状のボルト穴を形成し、2本の増設梁の離間距離に応じて重なり代を調節してボルト固定することで、ずれを吸収することも可能である。
【0051】
また横座屈防止部材の本数も特に限定するものではなく、増設梁の中央を1本の横座屈防止部材によって連結することで、増設梁の横座屈を防止することが可能である。また増設梁の長さが長い場合、2本又はそれ以上の数の横座屈防止部材を用いることも可能である。
【0052】
床版がALCパネルである場合、該ALCパネルが加工性に優れるため、ドリル等を用いて既存梁に載置されている面の一部を切削加工して増設梁に設けた係止部を差し込むための欠き込みを形成することが可能である。この欠き込み部分の加工精度は厳密なものではなく、単に係止部を差し込んで既存梁の上面に係止させることが可能であれば良い。従って、片手で操作し得る電気ドリルを用いることで、既存梁のフランジに損傷を与えることなくALCパネルに欠き込みを形成することが可能である。
【実施例1】
【0053】
次に、増設梁の構成について図を用いて説明する。図1は第1実施例に係る増設梁Aの構成を説明する図である。
【0054】
図に於いて、増設梁Aは、複数の梁構成部材1、2を有しており、該増設梁Aの長手方向の両端に配置される梁構成部材1、2の既存梁3と対向する端部に係止部4が設けられ、且つ隣接する他の梁構成部材との一体化手段となるボルト穴5が設けられている。
【0055】
各梁構成部材1、2は、床又は屋根を構成する部材を補強する増設梁として必要な強度を剛性を発揮し得る寸法に設定されると共に夫々断面形状がコ字状の溝形鋼として構成されており、夫々上フランジ1a、2a、下フランジ2b、2b、ウエブ1c、2cを有している。梁構成部材1に於ける上下フランジ1a、1bの内法寸法と、梁構成部材2に於ける上下フランジ2a、2bの外形寸法は略等しいか、該外形寸法の方が僅かに小さい値を持って構成されている。また各フランジ1a、1b、2a、2bの幅寸法は互いに等しい値に設定されている。従って、梁構成部材1、2は断面形状が互いに相似形に構成されている。
【0056】
梁構成部材2は梁構成部材1のフランジ1a、1bの間に装着されたとき、該フランジ1a、1b及びウエブ1cに包まれるようにして結合することが可能である。このように梁構成部材2及び梁構成部材1を互いに結合するに際し、互いの結合面が各フランジ1a、2aとなることから、摺動する際の軸1d、2dは各フランジ1a、1b及び2a、2bの中心となり、図1(a)の正面図では両構成部材1、2の軸1d、2dは重なることになる。しかし、梁構成部材1と梁構成部材2とではウエブ1c、2cが分重なることから、同図(b)に示すように、略ウエブ1c、2cの厚み分もしくは厚みより僅かに大きい値だけ平面的にズレることになる。
【0057】
本発明では、上記の如き増設梁の構造を持って、複数の梁構成部材が略同一軸に沿って結合可能に構成されるということとする。しかし、複数の梁構成部材が鋼管やリップ溝形鋼のような形鋼を利用して構成されている場合、各梁構成部材は同一軸に沿って結合し得るように構成されることとなる。
【0058】
本実施例に於いて、梁構成部材1の上下フランジ1a、1b間の外形寸法は、梁構成部材2の上下フランジ2a、2b間の外形寸法よりも大きい。このため、増設梁Aを既存梁3に架け渡したとき、梁構成部材1の上フランジ1aがALCからなる床パネル6の下面6aと直接接触して支持する梁構成部材としての機能を有し、梁構成部材2は床パネル6の下面6aとの隙間に挿入されるライナープレートを介して間接的に接触して梁構成部材としての機能を発揮するものである。
【0059】
本実施例に於いて、既存梁3は上フランジ3a、ウエブ3b及び下フランジを有するH形鋼によって構成されている。
【0060】
梁構成部材1、2の端部には係止部4が形成されており、既存梁3の上フランジ3aに載置されて係止されるように構成されている。このため、係止部4は、上フランジ3aに載置される係止片4aと、梁構成部材1、2の端部に固定される固定片4bと、を有するL型の鋼材によって構成されている。そして固定片4bを増設梁Aの端部に配置される梁構成部材となる梁構成部材1、2の端部に例えば溶接等の手段で固定することで、夫々取り付けられている。梁構成部材1、2の端部に形成された係止部4は、各係止片4aの下側の面4cが既存梁3の上フランジ3aに載置される面となる。
【0061】
梁構成部材1に形成された係止部4は面4cが上フランジ1aの上面と同一面に配置されており、梁構成部材2に形成された係止部4は面4cが上フランジ2aの上面よりも梁構成部材1の上フランジ1aの板厚分高くなる位置に配置されている。即ち、係止部4の面4cは、増設梁Aを構成する梁構成部材の数に関わらず、同一レベルに配置され、梁構成部材を水平に保持する。
【0062】
ボルト穴5は円形又は長穴等の穴によって構成されており、各梁構成部材1、2のウエブ1c、2cに対し軸1d、2dを中心として上下に振り分けた位置に予め設定されたピッチで複数形成されている。前述したように、ボルト穴5の位置は対称となる既存の住宅に於けるモジュール寸法や既存梁の幅寸法のバリエーションに対応して設定されており、一義的に設定されるものではない。
【実施例2】
【0063】
次に、増設梁の他の実施例について説明する。図2は増設梁の他の実施例を説明する図である。図3は増設梁の更に他の実施例を説明する図である。尚、図に於いて前述の実施例と同一の部分及び同一の機能を有する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0064】
図2(a)に示す増設梁は、床パネルを上フランジで直接支持し得る梁構成部材1、9、10と、床パネルをライナープレートを介して上フランジで間接的に支持し得る梁構成部材8と、を有しており、各梁構成部材1、8、9、8、10が交互に配置されて構成されている。
【0065】
また同図(b)に示す増設梁は、床パネルをフランジで直接支持し得る梁構成部材1、10と、床パネルをライナープレートを介してフランジで間接的に支持し得る梁構成部材8と、を有しており、各梁構成部材1、8、10の順で配置されて構成されている。
【0066】
梁構成部材8〜10は、夫々上フランジ8a〜10a、下フランジ8b〜10b、ウエブ8c〜10cを有する断面がコ字状の鋼材によって構成されており、梁構成部材1、8の寸法関係は、前述した梁構成部材1、2と同様の関係を持って構成されている。また各ウエブ8c〜10cには隣接する他の梁構成部材と結合し一体化をはかるためのボルト穴5が形成されている。
【0067】
上記各増設梁に於いて、梁構成部材1、10は何れも端部に係止部4が形成されており、既存住宅に於ける対峙した既存梁3に係止されるものである。従って、梁構成部材1、10は互いに勝手違いに構成されており、図示しない既存梁に対し係止部4を係止することで架け渡すことが可能なように構成されている。そして、梁構成部材1、10を既存梁に架け渡した後、ウエブ1c、8c〜10cに形成されたボルト穴5を利用して隣接する他の梁構成部材と結合し一体化をはかり得るように構成されている。
【0068】
尚、作業中に梁構成部材がばらつかないように重なり部分はバンド等で軸に沿った方向以外の方向への移動が拘束されている。
【0069】
上記の如く構成された各増設梁では、前述の増設梁Aと同様に複数の梁構成部材1、8、9、10を略同一軸に沿って摺動させることで延伸させ、梁構成部材1、10を既存梁に係止させると共に隣接する他の梁構成部材と結合し一体化をはかることで増設梁を構成することが可能である。特に、梁構成部材1、9、10が床パネルの下面と接触して断続的に支持し得るように構成されるため、梁構成部材8の上フランジと床パネルとの間にライナープレートを挿入しなくとも安定した支持を実現することが可能となる。
【0070】
尚、梁構成部材1、9、10の離間寸法に応じて適宜梁構成部材8の上フランジと床パネルとの間にライナープレートを挿入して接触面積を増大させ安定度を向上させることも当然可能である。
【0071】
次に、図3に示す増設梁Bは、断面がコ字状に構成された複数の梁構成部材1、8、10、11a〜11cを有して構成されており、梁構成部材11a〜11cはフランジ間の外形寸法が順に板厚に応じた所定寸法小さくなるように構成されている。即ち、梁構成部材11a〜11cは、梁構成部材1、2の関係と同様な関係を持って構成されている。従って、梁構成部材8、11a〜11cは上フランジの高さがフランジの厚さ分だけ順に低くなるように構成されている。
【0072】
上記の如く構成された増設梁Bでは、同図(a)〜(e)に示すように伸縮することが可能であり、既存梁のスパンの変化への対応力が大きい。即ち、高い汎用性を持った増設梁Bとして利用することが可能である。尚、この増設梁Bでは、床パネルの下面と直接接触し床パネルを支持し得るのは梁構成部材1、10のみである。このため、例えば同図(a)〜(c)に示すように増設梁Bの長さが長くなるのに従って床パネルの下面と接触することのない梁構成部材が増えることとなる。
【0073】
この場合も前記増設梁Aと同様に、梁構成部材8、11a〜11cの上フランジの上面から梁構成部材1、10の上フランジ1a、10aの上面までの差に応じた厚さを持ったライナープレートを用意しておき、上記増設梁Bを図示しない既存梁に架け渡した後に、床パネルと梁構成部材8、11a〜11cの上フランジとの隙間の全て或いは一部に前記隙間に対応する厚さを持ったライナープレートを挿入して梁構成部材8、11a〜11cでも床パネルを支持することができる。
【実施例3】
【0074】
次に、既存建物に於ける対峙した既存梁に増設梁を架け渡してALC床パネルを補強する際の手順について説明し、同時に補強構造の例について説明する。図4は床パネルに欠き込み部を形成して増設梁を架け渡す手順を模式的に説明する図である。図5は床パネルを補強する補強構造について説明する正面図である。図6は図5の側面図である。
【0075】
図4に示すように、対峙したH型鋼からなる既存梁3の上フランジ3aに床パネル6の両端部分が載置されている。また、床パネル6はALCパネルによって構成されている。
【0076】
先ず、床パネル6の下面6aに於ける既存梁3の上フランジ3aに載置されている部分に増設梁Aの係止部4を挿入する欠き込み部6bを形成する。欠き込み部6bの形成方法は特に限定するものではなく、のみのようなはつり工具を利用して形成することが可能であり、また電気ドリル13に取り付けたきり13aによって切削することで形成することも可能である。床パネル6はALCパネルによって構成されているので、該床パネル6の加工が容易であり、きり13aを利用した場合でも短時間で欠き込み部6bを形成することが可能である。また、ALCパネルからなる床パネル6を支持する既存梁3は一般に図4のような鉄骨梁あるいはRC造の基礎梁であり、ALCに比べ硬度が非常に大きい。従って床パネル6の欠き込み作業中に誤って既存梁3をも欠き込んでしまう可能性は極めて低く、安心して作業を行うことができる。尚、欠き込み部6bは、増設梁Aの両端部分に設けた係止部4の係止片4aを挿入して既存梁3の上フランジ3aに引っ掛けることが可能な大きさであれば良い。
【0077】
次に、床パネル6の下部に構成された床下空間、或いは天井裏空間に増設梁Aを搬入する。このとき、増設梁Aを構成する梁構成部材1、2は各梁構成部材1、2を個別に搬入しても良い。また、搬入路あるいは床や天井の開口部の大きさによっては各フランジ1a、1b、2a、2b、ウエブ1c、2cどうしを互いに重ねて収縮状態として搬入した後、増設梁Aの各梁構成部材1、2を軸1d、2dに沿って摺動させて両端に配置された梁構成部材1、2を夫々既存梁3に対向させる。
【0078】
次いで何れか一方の梁構成部材例えば梁構成部材1の端部に設けた係止部4の係止片4aを欠き込み部6bに挿入すると共に、他方の梁構成部材例えば梁構成部材2の端部に設けた係止部4の係止片4aを欠き込み部6bに挿入する。例えば、各梁構成部材1、2を別個に搬入した場合には、夫々の梁構成部材1、2の係止部4を欠き込み部6bに挿入した後、各フランジ及びウエブを重ねるようにして組み合わせる。また各梁構成部材1、2を互いに重ねて収縮状態として搬入した場合には、各梁構成部材1、2を軸1d、2dに沿って摺動させて延伸しつつ夫々の梁構成部材1、2の係止部4を欠き込み部6bに挿入する。
【0079】
次いで、各梁構成部材1、2を対向する既存梁3の方向に押し込んで係止片4aを十分に上フランジ3aに係合させ、図5に示すように、各ウエブ1c、2cに形成されたボルト穴5の中から選択した4個のボルト穴5にボルト15aを挿通してナット15bを締結することで結合し一体化することにより、増設梁Aを構成することが可能である。
【0080】
上記の如く構成された増設梁Aでは、梁構成部材1の上フランジ1aが床パネル6の下面6aと接触して支持するものの、梁構成部材2の上フランジ2aは床パネル6の下面6aと接触することがなく隙間が生じる。このため、梁構成部材2の上フランジ2aに、梁構成部材1の上フランジ1aの厚さ(梁構成部材2の上フランジ2aの厚さと等しい)と等しい厚さを持ったライナープレート16を挿入して下面6aとの間に生じている隙間を埋めることで、該ライナープレート16を介して梁構成部材2の上フランジ2aを間接的に床パネル6の下面6aに接触させ床パネル6を支持することが可能である。
【0081】
増設梁Aに配置すべきライナープレート16の数は限定されるものではなく、梁構成部材2の長さ(床パネル6の下面6aに対する非接触部分の長さ)や想定される積載荷重に応じて適宜数を設定することが好ましい。
【0082】
ライナープレート16は単に平板状であっても良いが、外部からの振動を受けた場合でも落下することがないように、梁構成部材2のウエブ2cに設けたボルト穴5を利用して該梁構成部材2に固定し得るように構成することが好ましい。このため、本実施例では、ライナープレート16をL字状に構成し、L字の一片をライナー片16aとし、他片をウエブ2cに添わせた固定片16bとして構成している。
【0083】
上記の如くして増設梁Aを構成し、床パネル6の下面6aと梁構成部材2の上フランジ2aとの間に構成された隙間にライナープレート16を挟み込むことで、床パネル6の下面を確実に支持して床の強度、剛性を向上させることが可能である。即ち、1本の増設梁AによってALCパネルからなる床パネル6を補強することが可能である。
【0084】
次に、図5、図6を用いて増設梁Aの座屈を防止し得るように構成した増設複合梁の構成と、この増設複合梁を利用したALCパネルの補強構造について説明する。
【0085】
図5、図6に示すように、2本の増設梁Aを平行に且つ各梁構成部材1、2のウエブ1c、2cが互いに対向し得るように配置して夫々対峙する既存梁3に架け渡し、これらの増設梁Aを横座屈を防止する横座屈防止部材17によって連結することで、各増設梁Aに作用する曲げ応力によって生じる虞のある横座屈を防止することが可能である。
【0086】
横座屈防止部材17は、夫々の増設梁Aを構成する梁構成部材1、2のウエブ1c、2cに固定される固定片17aと、該固定片17aから略直角に起立し所定位置に長穴17cが設けられた接続片17bと、を有するL字状の部材によって構成されている。固定片17aを2本の増設梁Aに於けるウエブ1c、2cの対向する位置に夫々ボルト15a、ナット15bによって固定すると共に互いの接続片17bを重ね合わせ、該接続片17bに設けられた長穴17cにボルト15a挿通してナット15bを締結することで、連結することが可能である。
【0087】
2本の増設梁Aを連結する横座屈防止部材17の数は限定するものではなく、増設梁Aの断面性能や該増設梁Aに作用する曲げ応力の大きさ、増設梁Aの長さ等の条件に応じて適宜数に設定することが好ましい。また横座屈防止部材17の形状も本実施例に限定するものではなく、例えば、梁構成部材と同様な溝形鋼や山形鋼或いは鋼管を利用して構成しても良いことは当然である。
【実施例4】
【0088】
次に、ALCパネルからなる既存建物の床に開口部を設けて床下の点検を行ったり、床下収納を構成するような場合の、該開口部を設けた床パネルの補強方法について図を用いて説明する。図7は床に形成した開口部を利用して増設梁を床下に搬入する際の手順を説明する図である。図8は床開口部まわりの床パネルを補強する増設梁及び部材の展開説明図である。図9は床パネルを補強する構造を説明する図である。
【0089】
ALCパネルからなる床パネル6はH形鋼からなる既存梁3とコンクリート製の基礎梁22との間に敷設されており、基礎梁22には床下換気口23(図8参照)が構成されている。
【0090】
床に形成すべき開口部21の周囲に配置されている床仕上材や壁面を養生し、該床仕上材の上面に形成すべき開口部に対応させたけがき線を描く。その後、電動ソー等をけがき線に沿って移動させることで、床仕上材、床パネル6を切断して、図7に示すように、床下空間24に貫通する開口部21を形成する。
【0091】
予め縮小した増設梁Aを開口部21を介して床下空間24に挿入する。このため、最短に縮小したときの増設梁Aの長さ及び開口部21の寸法は、床下空間24の高さ寸法等の条件に応じて設定される。従って、開口部21の大きさを小さくしたいような場合には、増設梁Aの縮小長さを短くすることが必要となる。
【0092】
特に、開口部21の大きさと床下空間24の高さとの関係によっては、増設梁Bを利用することが好ましいこともある。
【0093】
床下空間24に作業員が入り込み、床パネル6の上側から挿入される所定数(2本)の増設梁Aを受け取り、更に、必要な部材(図8に示す、支持部材25、繋ぎ材26、フレーム27、ライナー16等)を受け取って床下空間24に収容する。
【0094】
支持部材25は、基礎梁22に形成された床下換気口23に増設梁Aがかかるような場合に利用するものであり、図8に示すように、断面がコ字状に形成され、両端が基礎梁22の上面22aに係止されると共に載置面25aが基礎梁22の上面22aと同一面になるように構成されている。そして支持部材25を床下換気口23に取り付けておくことで、該床下換気口23の存在に関わらず、載置面25aを基礎梁22の上面22aと同一面として連続させることが可能である。
【0095】
繋ぎ材26は2本の増設梁Aのウエブ1c、2cを繋いでこれらの増設梁Aに外力が作用した場合でも間隔を一定に保持する機能を有するものであり、予め開口部21の寸法に対応して設定された長さを有する本体片26aと、該本体片26aの両端部に形成され対向するウエブ1c、2cに取り付けられる固定片26bと、固定片26bに設けたボルト穴26cとを有して構成されている。
【0096】
フレーム27は床に構成された開口部21の端縁に沿って配置され、床パネル6の下面6aと接触して支持すると共に開口部21の周囲に配置される図示しない開口枠を支持機能を有するものであり、予め開口部21の寸法よりも大きい寸法を持った四角枠状に構成された支持片27aと、増設梁Aのウエブ1c、2cに取り付けられる固定片27bと、を有して構成されている。
【0097】
尚、28はフレーム27の支持片27aの上面に載置される保護部材である。
【0098】
先ず、床下空間24に入り込んだ作業員は、電気ドリル等を利用して床パネル6の下面6aであって開口部21の端縁の延長線上にある既存梁3の上フランジ3aに対向する部位に欠き込み部を構成する。
【0099】
次いで、開口部21の端縁に沿って夫々増設梁Aを配置し、両端に設けた係止部4の係止片4aを欠き込み部6bに差し込んで梁構成部材1、2を既存梁3の上フランジ3a、基礎梁22の上面22a、支持部材25の載置面25aに夫々係止する。この状態で梁構成部材1、2のウエブ1c、2cに設けたボルト穴5を利用して互いに仮固定する。
【0100】
2本の増設梁Aを仮固定した状態で、梁構成部材2の上フランジ2aの上面にライナー16を配置し、開口部21に対応する位置にフレーム27を配置する。そして2本の増設梁Aの既存梁3、基礎梁22の近傍に夫々繋ぎ部材26を配置してウエブ1c、2cに固定する。このとき、増設梁Aの開口部21に対する位置を調節する。同様にしてフレーム27の位置を開口部21に対応させて調節し、個々の増設梁Aを構成する梁構成部材1、2を互いに強固に固定し、同時にライナー16、フレーム27を各増設梁27に固定する。
【0101】
上記の如くして床パネル6に構成した開口部21を2本の増設梁Aと、フレーム27とによって補強することが可能である。尚、本実施例では、フレーム27によって横座屈防止部材としての機能を発揮することが可能である。
【実施例5】
【0102】
次に、天井裏空間を利用して上階のALCパネルからなる床パネルを補強する際の方法について図を用いて説明する。図10は天井に開口部を形成して天井裏空間に増設梁を搬入して床を補強する際の手順を説明する図である。
【0103】
図に示すように、天井30に開口部31を構成する。この開口部31の寸法は、増設梁Aを挿入し、且つ作業員が脚立や足場を利用して上半身を天井裏空間に乗り出して増設梁Aを設置する作業を実施し得る程度の大きさであることが必要である。また、開口部の位置は作業員が上半身を乗り入れて既存梁に手が届く位置であることが必要である。床パネルの全長(既存梁のスパン)を約1.8mとすると、開口部は中央に1箇所設けることで充分に作業が可能である。
【0104】
先ず、天井30に形成された開口部31から上半身を乗り入れ、床パネル6の下面6aであって既存梁3の上フランジ3aに対応する部位に電気ドリル等を利用して欠き込み部6bを形成する。開口部31から増設梁Aを天井裏空間32に挿入し、該増設梁Aを構成する梁構成部材1、2に設けた係止部4の係止片4aを欠き込み部6bに挿入して既存梁3の上フランジ3aに係止する。その後、各梁構成部材1、2のウエブ1c、2cに設けたボルト穴5にボルト15aを挿通すると共にナット15bを締結して結合し一体化することで、増設梁Aによって床パネル6を補強することが可能である。
【0105】
尚、上記各実施例では、床パネル6の下面6aに於ける既存梁3の上フランジ3aと対向する部位に欠き込み部6bを形成して係止部4の係止片4aを挿入することで、該係止片4aを上フランジ3aに係止し得るように構成している。この床パネル6に形成された欠き込み部6bは、そのまま残っていても床の強度、剛性に大きな影響を与えることがないため、特別な後処理を行うことは不要である。しかし、モルタル等を充填して欠き込み部6bを塞いでも全く問題ないことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の増設梁、この増設梁を用いた補強構造は、床がALCパネルやPCパネル、コンクリートスラブ、木材等の材料を用いて構成したものに好ましく利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】第1実施例に係る増設梁の構成を説明する図である。
【図2】増設梁の他の実施例を説明する図である。
【図3】増設梁の更に他の実施例を説明する図である。
【図4】床パネルに欠き込み部を形成して増設梁を架け渡す手順を模式的に説明する図である。
【図5】床パネルを補強する補強構造について説明する正面図である。
【図6】図5の側面図である。
【図7】床に形成した開口部を利用して増設梁を床下に搬入する際の手順を説明する図である。
【図8】床開口部を補強する増設梁及び部材の展開説明図である。
【図9】床開口部を補強する構造を説明する図である。
【図10】天井に開口を形成して天井裏空間に増設梁を搬入して床を補強する際の手順を説明する図である。
【符号の説明】
【0108】
A、B 増設梁
1、2 梁構成部材
1a、2a 上フランジ
1b、2b 下フランジ
1c、2c ウエブ
1d、2d 軸
3 既存梁
3a 上フランジ
3b ウエブ
4 係止部
4a 係止片
4b 固定片
4c 面
5 ボルト穴
6 床パネル
6a 下面
6b 欠き込み部
8〜10 梁構成部材
8a〜10a 上フランジ
8b〜10b 下フランジ
8c〜10c ウエブ
11a〜11c 梁構成部材
13 電気ドリル
13a きり
15a ボルト
15b ナット
16 ライナープレート
16a ライナー片
16b 固定片
17 横座屈防止部材
17a 固定片
17b 接続片
17c 長穴
21 開口部
22 基礎梁
22a 上面
23 床下換気口
24 床下空間
25 支持部材
26 繋ぎ材
27 フレーム
25a 載置面
26a 本体片
26b 固定片
26c ボルト穴
27a 支持片
27b 固定片
28 保護部材
30 天井
31 開口部
32 天井裏空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の建物に於ける対峙した既存梁に架設する増設梁であって、略同一軸に沿って互いに重なり部分をもって結合可能に構成された複数の梁構成部材からなり、増設梁に於ける長手方向の両端に配置される梁構成部材には夫々既存梁に対向する端部に該既存梁に係止されるための係止部が設けられると共に、複数の梁構成部材には夫々隣接する他の梁構成部材と結合するための結合手段が設けられていることを特徴とする増設梁。
【請求項2】
前記複数の梁構成部材は、既存梁に架設された床版の下面と接触するフランジと、他の梁構成部材と少なくとも長手方向に2点で結合し得るように結合手段としてのボルト穴を設けたウエブと、を有することを特徴とする請求項1に記載した増設梁。
【請求項3】
既存の建物に於ける対峙した既存梁に請求項1又は2に記載した2本の増設梁が互いに平行になるように架設し、該2本の増設梁を横座屈防止部材によって連結したことを特徴とする増設複合梁。
【請求項4】
既存の建物に於ける対峙した既存梁に敷設された軽量気泡コンクリート床パネルの支持面の一部に欠き込み部を形成し、請求項1又は2に記載した増設梁を構成する複数の梁構成部材の係止部を前記各欠き込み部分に挿入して該係止部を既存梁に係止し且つ複数の梁構成部材を互いに結合し全ての梁構成部材を一体化すると共に、前記増設梁にて前記軽量気泡コンクリート床パネルの下面を支持したことを特徴とする軽量気泡コンクリート床パネルの補強構造。
【請求項5】
請求項1又は2に記載した増設梁を2本平行に配置すると共に、該2本の増設梁を横座屈防止部材によって連結したことを特徴とする請求項4に記載した軽量気泡コンクリート床パネルの補強構造。
【請求項6】
両端部が既存の建物に於ける対峙した既存梁に敷設された後、開口部が設けられた軽量気泡コンクリート床パネルの補強方法であって、軽量気泡コンクリート床パネルの辺と平行に矩形に切り欠いて形成された床開口部を通して請求項1又は2に記載した増設梁を非結合状態で床下空間に挿入すると共に該床開口部の端縁のうち軽量気泡コンクリート床パネルのスパン方向に平行な2つの端縁の延長線上の軽量気泡コンクリート床パネルの支持面に欠き込み部を形成し、前記増設梁を構成する複数の梁構成部材の係止部を前記欠き込み部分に挿入して既存梁に係止すると共に複数の梁構成部材を互いに結合して一体化して前記床開口部の2つの端縁を支持し、更に前記床開口部の端縁のうち軽量気泡コンクリート床パネルのスパン方向に直交する2つの床開口部端縁に沿って横座屈防止部材を配置して前記2本の増設梁を連結すると共に前記床開口部の他の2つの端縁を支持したことを特徴とする軽量気泡コンクリート床パネルの補強方法。
【請求項7】
両端部が既存の建物に於ける対峙した既存梁に敷設された軽量気泡コンクリート床パネルによって構成された床を備え、該軽量気泡コンクリート床パネルの下方に天井裏空間が形成された建物に於ける前記軽量気泡コンクリート床パネルの補強方法であって、補強すべき位置に対応した天井面を切り欠いて開口部を形成し、前記開口部を通して請求項1又は2に記載した増設梁を非結合状態で天井裏空間に挿入すると共に前記軽量気泡コンクリート床パネルの支持面に欠き込み部を形成し、前記増設梁を構成する複数の梁構成部材の係止部を既存梁に係止すると共に複数の梁構成部材を互いに結合し一体化して前記軽量気泡コンクリート床パネルの下面を支持したことを特徴とする軽量気泡コンクリート床パネルの補強方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−162288(P2007−162288A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358449(P2005−358449)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】